山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
十月の始まり。俺にとっては一歳分の歳を取る季節。その日は珍しく自分の顔を鏡でしっかり確認し、白髪が増えたか、小じわが増えたかを確認し、喜びを得る。
俺の誕生日はゆるゆると過ぎて行き、気が付けば一週間余りの時間が経過したある日の昼休み。彼女はチームルームにやってきてこう言った。
桜木「来週のバトルキングダムに参加する?」
フェスタ「ああ、アタシの[相棒]と一緒にな」
首から下げた[一眼レフカメラ]。この時代の物か、はたまた未来で作られた物か。それは定かでは無い。俺はあまりカメラに詳しい人間では無いからだ。
そのカメラに優しく触り、持ち上げて俺達に見せるその仕草から、彼女がそれを一番大切にしている事が良く分かった。
マック「これは.........高級品ですわね」
桜木「え?分かるの?」
タキオン「ああ、ボディのデザインが[エコー]だ。相当な値打ち物だろう」
フェスタ「ククク、アンタらには分かるか。コイツの優秀さが」
桜木「へー.........」
その後気持ち良くなってカメラの事を語り始めるフェスタ。やれ持ち手の手触りがとかファクトリーなんちゃらーとか、素人の俺にはさっぱり理解が出来ない。
しかし、意外だな。ギャンブル的なヒリヒリ感が好きな彼女の趣味がカメラだったなんて.........
フェスタ「.........コイツは爺さんがアタシにくれた最後の誕生日プレゼントだった」
フェスタ「一瞬で決まる勝負をするのが人なら、それを一生残すのも人.........」
フェスタ「そしてそれを一番上手く残せるのは、本当の勝負をした者だけ.........ってな」
全員「.........」
お、重い.........実際に爺さんは死んでいなかったが、それでも彼女はその当時を思い出して語っている.........俺達にはとても重すぎる.........
こ、ここは話題を変えよう!うんうん!俺達の手にはとても負えない!
桜木「そ、それにしても写真コンテストって難しくない?判定とかさ」
タキオン「ふぅン.........確かに、言っては悪いが学園の生徒は殆どズブの素人だ。公正な判定基準すら設けられないだろう」
マック「.........あの、私一人だけ心当たりが.........」
二人「え?」
[バトルキングダム]。かつてトレセン学園の生徒会長であるシンボリルドルフがトウカイテイオーの為に一肌脱ぎ、アグネスタキオンの薬を飲んだ際に起こした感情の暴走。勝利への渇望を鎮めるために俺達がやった勝負.........それを始まりとした物。
今となっては最早トレセンの名物イベント化している。
そしてそこには必ず勝敗の優劣を決める為に公正な第三者。その勝負事に詳しい人を審査員に置くというシステムで進んで来ている。
そしてその第三者にマックイーンは心当たりがあるという.........俺は少し、嫌な予感がした。
桜木「.........まさか」
フェスタ「クク.........アンタも勘づいたか」
マック「[ラモーヌ]お姉様.........そうでしょう?」
[メジロラモーヌ]。トレセン学園卒業後、プロレーサーとしてその存在感を遺憾無く発揮するウマ娘だ。生活。思考。その全てをレースに捧げていると言っても過言では無い。
だがそんな彼女にも[趣味]はある。それが[芸術]だ。絵画という永遠に残る作品が好きならば、きっと写真についても造詣が深いに違いない.........
フェスタ「アタシのセンスがどれだけあの人に通じるのか、それを知りたいんだ」
フェスタ「勿論、協力してくれるだろう?」
タキオン「.........どうするんだい?」
桜木「うーん.........まぁ俺には芸術的センスは殆ど無いから無理かもだけど、やれる事のことはやってあげるさ」
タキオン「ククク、君は身内に甘いね」
桜木「そこには当然。お前も居る」
別にフェスタが実質俺の孫であるとかは余り関係ない。俺は等しく身内に対して甘い人間だ。例外三名を除いてはだが。
とにかく、断る理由は特には無い。放課後はトレーニングがあるから無理だが、昼休みくらいなら手伝える。内容次第ではトレーニングの撮影も許すつもりだ。
フェスタ「よし。それじゃあ早速借りてくぜ」
桜木「え!!?あの、ちょっとぉ!!?」
マック「!ま、待ってください!!私も!!私も連れて行ってくださいまし!!」
しめしめ。そんな感じの表情で悪い笑顔を浮かべた彼女は俺の首根っこを掴んでズルズルと引き摺っていく。マックイーンが慌てて俺達を追い掛けてくる。
タキオン「ふむ。暫くはウララくん達に昼休みは君が不在だと伝えて置くよ」
桜木「ごめ〜〜〜んタキオン〜〜〜!!!お願いね〜〜〜!!!」
ソファーに座り紅茶を嗜むタキオン。引き摺られていく俺に向けて優雅に手を振る彼女とは対照的に、俺は両手を大きく振って感謝を伝えながら、チームルームを後にしたのだった.........
ーーー
パシャリ。パシャリ。
如何にもなカメラのシャッター音が聞こえて来る。フェスタは目に映った自分に感性に触れる物全てにレンズを向け、ただ黙ってシャッターを切っていた。
マック「色々撮るのですね」
フェスタ「ああ、野鳥に植物。蝶に人。後は雨の上がった後の風景とかな。暇があった時は四六時中撮ってた時もあった」
桜木「へー。ちょっと見てもいい?」
フェスタ「壊すなよ?」
桜木「.........気を付けます」
念を押されてカメラを受け取ったが、俺はあまり機械類が好きでは無い。いや別に何もしてないのにパソコンが壊れた。とまでは言わないが、兎に角俺の不運が精密機械類に良く作用するのだ。悲しい事に。
とりあえず細心の注意を払いつつ、カメラの中にあるデータを見てみる。そこには彼女の言う通り野鳥や植物。綺麗な虫やなにかに没頭している人。そして風景写真が収められていた。
あまりそういうのに触れては来なかったが、とても綺麗な写真だ。それくらいは俺にだって分かる。
暫くその写真を見ていると、不意に一緒に見ていたマックイーンがなにかに気付いた。
マック「?ここ数年撮って無かったのですね.........」
フェスタ「ああ、爺さんが死んでからグレて暴れ回ってたからな」
二人「あ、暴れ.........!!?」
フェスタ「[オルフェスタ]って名前。聞くヤツが聞けば震え上がるくらいにはしっちゃかめっちゃかしてたぜ?ただの悪ガキの集まりだけどな」
お、恐ろしい事を聞いてしまった.........俺達が知ってる[オルフェスタ]と言えば、彼女とその妹であるオルフェーヴルがやっていたデリバリーの名前だ。
それがまさか、不良グループの名前.........しかも察するに、彼女達を中心にした物の名前だったなんて.........
フェスタ「あっ、暴れ回ってたっつっても野良レースしてただけだぜ?構成員はウマ娘だけだからな」
桜木「そ、それ結局どうなったの.........?」
フェスタ「.........母さんが応援してたサッカーの日本チームが世界大会でボロ負けした腹いせに壊滅させられて全員トレセンにぶち込まれた」
マック「刑務所かなにかですか.........」
酷い話もあったものだ。そんな札付きの悪を押し付けられるトレセン学園も大変だったろうに.........
だがまぁ、そのあとの話を聞けば全員真っ当に更生できたらしく、公式レースで割と活躍でき、中にはG1レースに出走して勝ったりした子も居たらしい。一応オチとしてはいい話枠として使えるだろう。
だがまさか、ウチの孫が不良になるだなんて.........やっぱり、[血]なのだろうか.........?
そんな複雑な考えが生まれつつも、俺はカメラを彼女に返した。それを受けとった後はまたモードを切り替えて写真撮影を再開し始める。
だがそんな俺達に、声を掛ける存在が居た。
「よう」
マック「!シリウスさん」
シリウス「アンタらも参加するのか?今度の催しに」
桜木「フェスタがね。シンちゃんも?」
シリウス「シンちゃん言うな。第一それだとルドルフもクリスエスの奴も当てはまるだろうが」
クリスエス.........そんなシンボリもいるのか.........
なんてくだらない事を考えてみるが、それが顔に出ていたのかシリウスは訝しげに俺の方を見てくる。流石に辞めよう。ウマ娘を弄ると大変な事になる。
シリウス「まっ、今回は私の連れが参加しててな。その手伝い.........だけだったんだが」
シリウス「インフルエンザに罹ったんだ。だから取り敢えずデジカメ買って代わりに出てやるって感じでな。案外面白いもんだ」
フェスタ「クク、アンタも分かるか?コイツの魅力が.........」
その手に持ったデジカメを彼女は俺達に見せてくれた。フェスタのとは違い、よく見るようなデジタルカメラそのものだったが、どうやら彼女は形から入るタイプでは無いようだ。俺と違って。
彼女は義理堅い。参加した友人が出れないからわざわざ代理を請け負うなんてそう出来たもんじゃない。俺ならサボっている所だ。やはり彼女は友人思いのいい子だ。
桜木「.........」
シリウス「.........入らねぇぞ。アンタのチームには」
桜木「っえぇ!!?お、俺今顔に出てた!!?」
マック「ええ。とても物欲しそうな顔をしてました」
フェスタ「アンタまだ大変な時期だろ.........」
目の前に居るシリウスからはため息を吐かれ、マックイーンとフェスタはじとっとした目で俺を見てくる。こうも顔に出やすくなると[仮面]が欲しくなってくるものだ。自ら捨てた物だけど、無くして始めて気付く大切さもある。
桜木「ポーカーフェイス.........マーダーフェイス.........」
マック「はぁ、また一人の世界に.........この人は.........」
―――ぶつぶつと独り言を呟くトレーナーさん。恋人になってから二人で過ごす時間が増えたお陰で彼が思っていた以上にメンタルが弱いと言うことは直ぐに分かりました。
いつもの様に背中をさすってあげると、彼はびっくりしながらも安心した様で、直ぐに気を取り直して顔を上げました。
桜木「いやー、桜木さんこれでも分かりにくいで生きてきた人間だから、そう言われるとショック受けちゃうのよねー」
シリウス「.........そりゃ、まぁ、悪かったな」
二人「?」
フェスタ「?.........あー、察したか」
まるで何か隠していた事がバレたとでも言うように、フェスタさんは居心地が悪そうに頭を掻きました。一体、何がバレてしまったのでしょう.........?
そう思ったのも束の間、直ぐにシリウスさんは私の方へと近付き、口元を隠しながら私の耳へと静かに話しました。
シリウス(お前らあんまそういうの人前でやるなよ?私くらい察しが良かったらすぐバレるぞ)
マック(な!ぁ.........///」
桜木「え?なになに?何の話?」
マック「な、ななな!何でもありませんっ!なんでもありませんから!!!」
シリウス「.........おい。もしかしてアイツの分かり易さって.........」
フェスタ「ああ、多分マックイーン譲りだ」
こ、これでもしっかり隠し通しているつもりなのに.........!なんでこう私はいつもボロを出してしまうんですか!!?し、信じられません.........自分の事だと言うのに.........!
そうやってわなわなと身体を震わせている内に、フェスタさんはシリウスさんのカメラの中を見せて貰っていました。今の内に私もトレーナーさんと作戦会議です。
マック(トレーナーさん?しばらくは距離感を大切にしませんか?)
桜木(えぇー!?い、今更〜?)
マック(こ、この距離をこの頻度で保っているとバレないものもバレてしまいます!それは貴方も困るでしょう?)
桜木(う〜ん、バレようがバレまいが俺のやる事は変わらないけどね)
マック(?やる事って.........!!!)
彼の耳から顔を離すと、直ぐに彼はこちらを向いて満面の笑みを向けてきます。その姿だけで彼のやる事。その内容がそのまま言葉として蘇ってきます。
それは.........うぅ、お、思い出すだけでも顔が.........
私は思い切り彼の背中を叩きました。
桜木「あっでぇ!!?ちょっと急になに!!?」
マック「それはこちらのセリフです!!!なんでいきなりそんな事言うんですかぁ!!!」
桜木「お、俺だってたまにはカッコ付けたいもん!!!」
マック「いっつも格好良いんですから辞めてください!!!」
そう、この人が言った事は私が[繋靭帯炎]を発症していた時、雨の降る夜。屋敷に現れて言った言葉です。
それをわざわざここで意識させるだなんて.........!どれだけずるい人なんですか!!!
恥ずかしさと嬉しさと怒りでどうにかなりそうになりそうです。私は結局頭の中がぐちゃぐちゃにされたまま彼の事をポカポカ叩くしかありません。
しかし、それをしようとした瞬間フェスタさんが間に割って入りました。
フェスタ「夫婦喧嘩するなら家でやりな。見るに堪えねーよ」
マック「ふ!!?ま、まだそんな関係では.........あら?シリウスさんは?」
フェスタ「さっき帰ったよ.........犬も食わねーもんを出されたら帰るしかねーってさ」
桜木「あ、はは.........お見苦しい物を見せちゃったな.........」
わ、私とした事が.........周りにすら気を向けられないだなんて.........これではメジロ家として失格です.........
そんなショックを受けていると、今度は彼の方から頭をポンポンとされてしまいます。恥ずかしさを感じつつも、次第に私は落ち着きを取り戻す事が出来ました。
桜木「それで、シリウスはどう?良い写真撮ってた?」
フェスタ「ああ.........悔しいが、さっきまで撮ってたのじゃあお話にならないな」
マック「ど、どうするんですの.........?」
フェスタ「クク、だが良い方向性を得た。放課後のトレーニングにまた顔を出す。その時はよろしく頼むぜ?」
不敵な笑みを浮かび上げ、彼女は私達に背を向けながら手を振った。つまり、今回はこれで解散と言ったところでしょう。
私と彼は顔を見合せながらも、今この時はどうする事も出来ないと悟り、一旦チームルームへと戻りました
ーーー
フェスタ「クク、それじゃあよろしく頼むぜ?[先輩]?」
迎えた放課後練習。アタシの目の前に居る二人。その顔はどうも乗り気じゃなさそうに見える。
これじゃあいい写真は取れねー。ここはどうにかしてその気にさせねーと.........
フェスタ「アンタらトレーナーだろ?その気にさせんのは朝飯前だろ?」
沖野「.........つったってなぁ?」
桜木「マックイーンは兎も角、テイオーは上手く乗せられるかどうか.........」
マック「ちょっと!!それでは私がまるで軽いウマ娘みたいな言い方ではありませんか!!!」
耳としっぽを天に張りながら怒りを露わにするマックイーン。それに恐れているのはおっさんただ一人だけだ。
懐かしいな。[あっち]でもアタシらに贅沢させた事をバレた時の爺さんの慌てようは面白かったもんだ。無論その後婆さんにはこってり叱られたが.........
テイオー「も〜、ボクURAファイナルズまで楽しみは取って置きたかったんだけどなぁ〜」
フェスタ「まーそう言うなって。後輩の為に一肌脱ぐのも先輩の特権だ。精々良い所を見せてくれよ?」
テイオー「!フフン♪そう言われちゃったら仕方ないな〜♪」
全員(あっチョロ.........)
気分屋のトウカイテイオー。コイツを乗せるのはかなり難しいとは思っていたが、まさか一発で乗せ切れるとは.........案外おだててしまえばあっさり行くのかもしれない。
問題はマックイーンだ。一見素直で柔軟な優等生の様には振舞っているが、中身は完全に頑固者。婆さんがそうだったんだ。若い頃は違ったなんて、体の良いホラ話だ。
桜木「あー.........デート一回っ!てのは?」
マック「!し、仕方ありませんわね.........」
全員「.........」
今しがたこの場にいる殆どが面倒くさそうな表情をしている。そこには勿論アタシも含まれて居るが、おっさんだけはどこか嬉しそうな表情をしている。
その表情のまま沖野トレーナーを肘でつついているが、それが癪に触ったらしく思い切り頭をぶっ叩かれた。複雑な物を感じるが、まーいい気味だ。
フェスタ「それじゃあ走ってもらおうか。中距離芝。天候バ場状態共に良好のコースをな」
桜木(.........大丈夫だろうか)
―――フェスタの言葉を素直に聞き、彼女達はターフの上のスタートラインに並んで立った。その姿にはまだ、違和感を感じる事は無い。
.........マックイーンはまだ調整中だ。URAファイナルズまでに仕上げようとは思っているが、[繋靭帯炎]の痛みを経験し、前人未到の手術を受け、そして半年近いブランクがある。
それがいきなりトウカイテイオーと併走させられるとは.........
桜木(.........頼む。気付かないでくれ.........!)
組んだ腕を掴む手に自然と力が入る。袖に強いシワを作りながらも、俺は彼女がどうか、自分の状態に気付かない様に祈っていた。
沖野「よーいっ」
マック「っ.........」
テイオー「.........♪」
「始めッ!!!」
ーーー
バク「さぁやって参りました!!最早何回目かすらも忘れてしまったバトルキングダム!!」
バク「今回は写真コンテストとなります!!」
マックイーンとテイオーとの併走から数日。遂にフェスタ念願のバトルキングダムが始まった。
ステージの上には相変わらず司会のサクラバクシンオー。そしてその隣の椅子には私服姿のラモーヌさんが優雅に座っていた。
桜木「うへぇ。相変わらずの熱気だな.........」
フェスタ「ああ、たかだか写真のコンテストだってのにここまで盛り上がるなんて、他じゃ考えられねーな」
このイベントの熱狂ぶりはハッキリ言って異常だ。まるでレースに掛ける情熱を他のもので消化しようとしている。ここに居るウマ娘達の大半は菖蒲をする訳では無いのに、その熱に浮かされている。
知っていたはずの事実を再確認しながらも、俺は進行していくコンテストの中身をもう一度見直した。
バク「ではまず!ラモーヌさんのお言葉からお願い致します!!」
ラモーヌ「今回はこんな素敵なショーに招待してくれて、どうもありがとう」
ラモーヌ「本当は一つ一つに言葉を送りたいのだけれど、時間も無いから特に気になった物だけにしておくわ」
おぉ、流石プロ。こんな舞台でも普段と変わらず平静を装っている.........この場慣れした雰囲気。審査ミスなどある筈もない。公正な審査が下されているはずだ。
そう思っていると、ステージ上部からスクリーンが降りてきて、そこにプロジェクターが投影される。そこには参加賞(一部)と書かれていた。
そのスクリーンはゆっくりと暗転し、やがて映し出されたのはスマートファルコンがアイドル衣装を来てハートマークを撮っているポーズだった。
エフェクトや撮影角度。光の入り方やぼやかし方全てに至って高クオリティ。これがまさか参加賞なのか?
ラモーヌ「これはエイシンフラッシュの作品ね。とても良い出来だと思うわ」
ラモーヌ「.........プロモーション写真としては、ね?」
ぞわり。と騒がしさが一瞬広まったが直ぐに落ち着いた。それもそうだ。この人を知らない人から見たらメジロの人。マックイーンやライアンと言った人達から、まさかこんなピシャリと物事を言う人が連想されるとは到底思えない。
彼女は眉一つ。身体の一部すら動かさずに批評を続けた。
ラモーヌ「テーマは[芸術]。見た目の美しさや派手やかさは必要ないわ。確かに良い物ではあるけれど、これは結局[本物]には敵わない」
ラモーヌ「ライブを直接見たいという欲は刺激出来ても、この一枚で満足する事は決して無いわ。精進する様に」
なんとも痛ましい光景だ。本人は登壇しては居ないものの、この会場のどこかでガックリ項垂れている事は間違いない。正直参加していなくて良かった。多分俺の心が持たないだろう。
隣に居るフェスタを横目で見ると、彼女も緊張しているのか少し手が震えている。当たり前だ。自分が自信のある分野でボロクソに言われればメンタル。アイデンティティ。そしてプライドが傷付く。平静で居られる方がおかしい。
そしてまた一枚の写真がプロジェクターで映し出される。今度は何の事は無い。大きなオシャレパフェだった。
ラモーヌ「次はカレンチャン。よく撮れていると思うわ。けれど」
ラモーヌ「.........こういう食べ物を撮る人の心境。分からない」
いきなり否定から始まった。今度はあからさまに観客達からのザワザワとした反応が見える。俺も冷や汗をかかざるを得なかった。
ラモーヌ「確かに素晴らしい写真よ。でも、これを見たら思う事は一つじゃない」
ラモーヌ「そう思ったらこの写真ではなく、この写っている物に思考が引っ張られるわ。後で私にこのパフェの事を教えなさい?」
至極真剣な顔で会場のどこかに居るカレンチャンにそう投げ掛ける。静かな会場から可愛らしい返事が響いてきたが、どうやら彼女はあまり傷付いて居ないらしい。それならば良かった。
幾つかの写真が映し出され、やがて参加賞の組は終わりを迎えた。次は[優秀賞]一つ。そして最後に[最優秀賞]の一つだけだ。
またもやプロジェクターが暗転し、優秀賞の文字が浮び上がる。そして徐々にその写真がフェードインを果たして行き.........
フェスタ「なっ.........!!?」
桜木「あちゃ〜.........」
写真が映し出される。それはマックイーンとテイオーがスパートを掛ける瞬間。横並びではなく、テイオーを手前に置き、顔がアップでよく見える構図となっている。普通のレース写真だったらこんな物は撮れない。
だがフェスタは今回、スパートを掛けそうな場所で張ってコーナーからカメラを構え、そのまま少し前を走る形でこのシーンを撮影した。迫力ならば誰にも負けないだろう。
ラモーヌ「ナカヤマフェスタ。素晴らしいわ。今後の写真にも期待大ね」
ラモーヌ「勝負と言うのは一瞬。レースは勝負が決まる場所からは明確になるけれど、この写真はその一瞬を上手く捉えている」
ラモーヌ「これは撮影者がレースを熟知し、そして自分のカメラを信頼していなければ出来ない事よ。技術と構図はズバ抜けている」
褒め言葉しか出て来ていない。あのラモーヌさんが苦言を呈さないという事はやはり、それほどまでに写真のレベルが高かったという事だ。
だと言うのに、それが[優秀賞]止まり.........つまり、これ以上の作品が一つあるという事だ。
この勝負の一瞬を捉えた写真。それ以上に素晴らしい写真がある.........そういう事なのか.........?
フェスタ「.........」
桜木「おーい。孫ぉ、昇天してるぞー」
フェスタ「.........はっ!あ、アタシは今まで何を.........!」
意識を手放して放心していたフェスタの肩を叩き、現世へと連れ戻す。震える自分の手を見ながら先程起きた現実を受け入れ、何とか心を落ち着かせようとする彼女。
やはり勝負師なのだろう。今回の事を真正面から受け止め、既に自分の上に行った写真を見る体勢へと入っている。
俺も楽しみにしながら、暗くなったプロジェクターを見ていた。
見ていたのだが.........そこに映し出されていたのはなんと.........
「なっ.........え.........?」
カメラを構え、走りながら撮影をするナカヤマフェスタの写真が映し出されていた。それはつまり、彼女がテイオーとマックイーンの写真を撮る為に走り出した所を激写された。という事である。
ラモーヌ「最優秀賞はシリウスシンボリ。おめでとう。文句無しよ」
ラモーヌ「写真を撮る者を撮る。中々無い発想ね。正に芸術的な観点だわ」
ラモーヌ「一瞬の瞬間の為に全力を捧げる。写真には決して映らない労力。その姿を見せられて惹かれない人は居ない」
ラモーヌ「この写真一枚で、きっと多くの人がカメラを手に持つ事もあるでしょうね」
百点満点。そう言っても過言では無い。ラモーヌさんがこれ程褒めるという事はそういう事なのだ。お世辞も皮肉も存在しない彼女の言葉は正に彼女にとっての正しさそのものだった。
俺はふと隣に居るフェスタの事が気になり、横目で彼女の方を見ると、その顔は真っ赤っかに染まっており、頭からは湯気まで出てしまっている。まさか自分が撮られて、その姿が最優秀賞になるだなんて思っても見なかったのだろう。
桜木(これは.........引き上げた方が良いのかな?)
桜木「.........フェスタ。帰ろう?」
フェスタ「.........」
ああ、もう俺の声が届いてないくらいショックを受けてしまっている。これはもう仕方が無い。
俺はそう思い、彼女に謝りながらその腕を優しく掴み、おんぶをする形でその会場を後にしたのだった.........
ーーー
マック「.........」
放課後のトレーニングを終え、私は自身の寮部屋に戻っていました。きっと今頃、トレーナーさんとフェスタさんはカフェテリアの地下のイベントに足を運んでいる頃でしょう。
ベッドに腰掛ける形で、私は天井を見上げながら目を閉じました。思い浮かべる情景は、あの[瞬間].........
(ここでスパートを掛ければ.........!!!)
(.........っ?)
あの日。テイオーと併走をした時。本来であるならば勝利は私の物だったはずです。彼女も手の内を明かすつもりは無い。そうならば、本来の力を出せば中距離だったとしても、3馬身も差を付けられる筈はありませんでした。
でも、私はスパートを掛けられなかった。
マック(.........恐れ。なのかしら)
目を開き、視線を自分の左足に向けます。もう既に痛みは無いと言うのに、私の心はそれでも、躊躇してしまっています。
大きな溜息を吐きながら、もう一度あの時の事を思い返します。
『トレーナーさん、これでは本番まで.........』
『.........いや。このペースで行く。トレーニングを増やしても、苦しいだけだ』
たまたま調子が悪かった。そう思え、それを言えたのならどれほど気持ちが楽になれたでしょう。けれどあの時の走りは、今までに無いほど重く、苦しいものでした。
そしてそれを打開する策は無い。彼はそう言ったのです。トレーニングでは決してこれを乗り越える事は出来ないと。
出来るとするならば.........
マック(.........心の問題。なのよね)
耳に着けた[王冠のアクセサリー]。それに触れながらも、URAファイナルズへの不安は一層増すばかり。
勝つ事は出来るのか。そればかりか、私に走り切る事は出来るのか.........?そんな不安が、この日から渦巻くことになるのでした.........
......To be continued