山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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有馬記念は[夢]の中

 

 

 

 

 

 冬の暮れ。あと数日経てば今年も終わる12月の末。寒空の下でも、人々は一つの行事に対してその熱心な心一つである場所に集まっている。

 一年に一度。その年のウマ娘スターが集う[有馬記念]。全国からこのレースを見るためだけにここに来た。なんて人も居るだろう。

 

 

 .........そんなレースに。今日うちのチームメンバーは二人出る。

 

 

桜木「調子はどう?体調とか、何か口に入れときたいものはある?」

 

 

ウララ「バッチリだよ!!」

 

 

タキオン「状態は悪くないよ。事前に薬も脚部に使用したから君が何か準備する必要も無い。安心して見ていてくれ」

 

 

 選手の控え室で会話を交わす。二人とも心配は無さそうだ。俺も少しだけ安心する。

 だが、レースというのは何が起こるか分からない。前回のライスの件もある。何かが起こるかもしれないと心構えはしておくに越したことは無い。

 

 

ウララ「楽しみだなー!!タキオンちゃんとカフェさん!!スペちゃん達とも走れるんだもん!!」

 

 

タキオン「私はちゃん付けなのかい?」

 

 

桜木「良いじゃんか。タキオン[ちゃん]?」

 

 

タキオン「ふんっ」

 

 

 困惑気味なタキオンをからかうと、躊躇うことなく彼女は光速の裏拳で俺のみぞおちを射抜いてきた。もちろんそれに反応できる訳もなく、俺は声も無くその場にうずくまった。

 そんな俺をウララは不思議そうに見て心配してくれている。裏拳の場面はちょうどタキオンの身体に隠れていたせいで急にお腹を痛くしたように見えている筈だ。そういう所、抜かりない。

 

 

 倒れ付した俺を蔑む様な目で見るタキオン。周りの反応は最早慣れたもので、俺の心配をしてくれるのは殆ど居なかった。

 

 

マック「有馬記念.........間に合えば私も参加したかったです」

 

 

桜木「それは仕方無いよ.........んしょ、ただでさえブランクが長い上に、脚のダメージが大きかったんだ。痛みが刷り込まれている内は無理しない方がいい」

 

 

デジ「そうですよ!来年頑張りましょう!!」

 

 

桜木「デジタルも、来年はバ車ウマ娘みたいに走らせまくっからな〜?」

 

 

デジ「!ど、どんとこいですっ」

 

 

 残念そうな顔を見せるマックイーンだったけど、俺とデジタルのやり取りを見てその顔を少し微笑ませた。そう、その顔が出来るんだったら心配する事は無い。

 [奇跡]に時間の概念は存在しない。例えそれまでにどんな道を歩み、どれだけ歩いていても突然発生する。そしてそれは、短期間では絶対に発生しない。

 それを超える為には、時間を掛けなければ行けない。生きる者に与えられたタイムリミットを使って、もがき足掻くしかない。

 

 

 それを教えてくれたのは他でも無い。周りに居る必死に生きてる人達だ。

 

 

 冷や汗を流しながらも胸を張っているデジタルだって、自分の時間を使うという約束をしてまで俺の事を引き止めてくれた。

 それを無駄にしない為にも、俺は[奇跡]を超えたい。そしてその先で―――

 

 

 

 

 

 

 そこまで考えていた思考が、控え室の扉を叩かれる音で止められる。こんな時に訪ねてくると言えば、沖野さんか他の出走者しか居ない。

 俺は他の皆にどうすべきかの視線を送った。その返答の目は友好的で、俺はそれを受け取ってノックの主に入っていい事を伝える。

 

 

 そして入ってきたのは、今回出走するマンハッタンカフェのトレーナーである神威だった。

 

 

神威「よっ、顔出しに来たぜ」

 

 

桜木「お前.........敵同士だぞ」

 

 

神威「そのチームに親友が居る。俺もカフェもな。来てもいいだろ?」

 

 

カフェ「親友.........?」

 

 

タキオン「.........なんだいその目は!!?」

 

 

 連れてこられた猫のように神威の後ろに居たカフェが訝しげな目でタキオンを見つめた。それを少しの間黙って見守っていたタキオンだったが、遂にいたたまれずに声を上げた。

 彼女は存外、周りの人間を大切にするタイプだ。元々そうだったのか、それとも変わったのか、それは定かでは無いが少なくとも今はそうだ。俺を含めたチームメイトは何かあった時彼女に頼る事が良くある。

 きっとカフェはトレーナーの俺よりも長い付き合いだし、良い友人関係を築けていると思ったのだろう。当の本人にその自覚が無かったのはとても悲しい事ではあるが.........

 

 

神威「それにしても、人気者だなぁウララ」

 

 

桜木「まっ、沢山走ったから知名度も上がった。この愛嬌さえあれば誰だってファンになるさ」

 

 

ウララ「えっへん!!」

 

 

 腰に手を当てて嬉しそうな姿を見せるウララ。そこに嫌な感情は全く呼び起こされることはない。それは俺だけでなく、この場にいる全員も同じ気持ちだった。

 しかし、大変だった事もある。商店街の人達で結成されたファンクラブ。通称[ハルウララ応援団]。それが一瞬だけ暴走しかけた時期があった。

 幸い俺が良く出入りしている場所であり、懇意にしてる魚屋や精肉店。駄菓子屋の人がそういう計画に誘ってくれた事で事態を未然に防ぐ事が出来た。そういうやり方でやると、帰って夢を壊しかねないと。

 

 

 応援する気持ちは有難いが、ウララも一人の今を生きる少女。担がれた神輿に乗せるにはまだ歩き盛りであり、その楽しさを存分に味わう事が出来る。近道は後からでも出来るから、今はその足であの場所に辿り着かせて欲しい。

 

 

 その時に見た表情は少し悲しげなものだったが、俺の言っている事に気が付いてその暴走は表に出る事無く終わった。

 もしこれが行われていたら.........世間から見るウララの評価は今とは違っていただろう。

 少なくとも、元気に走るウマ娘。という純粋な物ではなく、人の力を借りて有馬記念に出たウマ娘。という考えを持つ人は出てきた筈だ。そうなるのは俺としても、絶対に避けたかった。

 

 

神威「まぁ、お互い頑張ろうぜ?年の暮れの最後のレースだし、悔いのないようにな」

 

 

桜木「.........そうだな。出来れば、そうあって欲しいもんだ」

 

 

 そうなれば良い。心の底からそう思いつつも、心のどこかではそうはならないだろうという思いもある。矛盾の思考。それを認めつつも、それでも俺は綺麗事を信じたい。

 相反する心。それを抱きながら流れる有馬記念開催準備の場内アナウンスを聞いた俺達は、これからのレースの為に控え室を後にした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未来を感じさせる外の光が差し込む地下バ道。いつもここからレースは始まり、そしてここに帰ってくる。

 今日、俺のチームで走るのは二人。アグネスタキオンとハルウララ。同じ時期にデビューした者同士だが、同じレースを走るのはこれが初めてだ。

 

 

タキオン「期待していてくれ。今日の私は[全力]で走るよ」

 

 

ウララ「わたしも頑張るよ!!」

 

 

 それぞれ対照的にレースへの自信を見せる。タキオンは余裕そうな笑みを浮かべて、ウララは鼻息を荒くして己の実力に対する信頼を表現してくれている。

 だったら俺も応えなければ行けない。トレーナーとして、二人をここまで連れてきた者として、やるべき事をやる。その為に、俺は一歩。彼女達に近付いた。

 

 

桜木「[有馬記念]。デカいレースだ。しかも年の暮れ。魔物が潜んでる可能性もある」

 

 

桜木「.........って言っても、俺が出来ることは一つだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全力で行ってこい。二人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全力で走って、その先を俺達に教えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 片や脚の脆さ故に、たったの一度も全力を出した事が無いウマ娘。

 片や心の豊かさ故に、自分の全力を知らないウマ娘。

 

 

 距離適性やコース適性なんてものは存在しない。あるのはただ一つ。[全力]を尽くすだけ。その心が、人々を奮い立たせる姿になる。

 

 

 返事は単純。二人とも頷くだけ。それだけでも、真剣さは俺達に伝わった。対照的な二人の背中はどこか、似た物を感じさせてくれながら外の光に包まれて行った。

 

 

マック「.........遂に始まりますわね」

 

 

デジ「一年に一度の大レース.........今年は少し、デジたんの鳥肌が凄いです.........!」

 

 

ライス「うぅ、ど、どっちを応援した方が良いのかな?ブルボンさん.........」

 

 

ブルボン「これまでのデータから両方応援するというのが最適です。どちらも応援しましょう、ライスさん」

 

 

 今年の有馬記念は一味違う。去年の[奇跡]が起きた有馬記念とはまた違う、何かが[変わる]と言う予感を感じさせてくれる。

 ターフに繋がる出口を見ながら、俺達は反対方向の観客席へと繋がる方へと足を向けたのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........来ちゃった」

 

 

 歓声鳴り響くレース場。色んな人がこのレースを見る為に集まってきている。そんな事は分かっていた。有馬記念というレースの存在を知ったその日から、ずっと.........

 けれど、実際に来てみて想像以上の多さに、私は戸惑った。初めてのG1は自分のレースが良いって変なわがままを通していたけれど、居ても経っても居られなかった私の目に映るのは、会場を埋め尽くす凄い人の集まりだった。

 

 

「.........」

 

 

 なんでここに居るんだろう。そんな漠然とした問い。その対象が自分なのか.........それとも、[あの子]なのか、それすら分からない。

 一つだけ分かるのは、私はただ[背中を押された]という事だけだった。

 

 

『そんなに気になるなら見に行けば良いじゃない。友達なんでしょ?』

 

 

「.........まだ、そうなのかな」

 

 

 字だけを見れば投げやりな言葉。けれどそこに篭っていたのは、私に対する思いやりだったのは間違いない。

 それでも、[友達]という言葉にあの時も今も、ずっと引っかかり続けている。私の勝手なこだわりのせいで、あの子が居ない裏であんな事をしてしまった。今更そんなの、口が裂けても言えない.........

 

 

「んっしょ、んっしょ.........」

 

 

「.........?」

 

 

「えへへ!やっぱりここが一番見やすい!思った通り〜!」

 

 

 人の間を押し通る小さいウマ娘。あの子は確か.........トレセン学園に滞在している子だった。

 メジロマックイーンさんの[繋靭帯炎]を治したエディ先生のお孫さんで、理事長の計らいで寮部屋を借りて家族で住んでるって事は知ってる。

 けれど、周りを見ても親御さんは居ない。一人で来たのかな.........

 

 

 .........ちょっと心配だから、声を掛けよう。

 

 

「え、と。ルビィちゃん?だよね?」

 

 

ルビィ「!うんっ!!お姉さんは?」

 

 

「私。エメロードシエル。親御さんは?」

 

 

ルビィ「今日はね!!パパとママ用事があるの!!ごしんじゅつ?の体験会なんだって!!お仕事で使うんだよ!!」

 

 

 両親の事を聞かれて嬉しそうに答える。そんな姿を見せられて私も幸せを感じるけど、やっぱりこんな所に一人って言うのは心配してしまう。

 そんな私の気持ちを察したのか、ルビィちゃんは首から下げていた子供用の携帯電話の電源を付けて慣れない手つきで番号を入力し始めた。

 

 

ルビィ「えっと、0...8...0...の.........」

 

 

 [もしもし〜。どうしたの〜?]

 

 

ルビィ「えっとねえっとね!!有馬記念?一緒に見たいの!!お兄さんもこっち来て〜!!」

 

 

 [良いよ〜。すぐ行くからね〜。は〜い]

 

 

ルビィ「やったー!お兄さんと見れるー!!」

 

 

 ピョンピョンと飛び跳ねながら喜んでいる。携帯から聞こえてきた声は優しい声の人で、少なくとも心配するような人じゃなかった。

 安心は出来たけど、そのお兄さんが来るまでは一緒に居た方が良いかもしれない。私はそう思ってその場で待っていたんだけど.........

 

 

「ルビィちゃ〜んおまたせ〜.........およ?」

 

 

シエル「っ!!桜木トレーナー.........」

 

 

ルビィ「お兄さんー!!」

 

 

 やってきたのはあの子の担当トレーナーである、桜木トレーナーだった。一瞬私を見て不思議そうな顔をしたけれど、走って抱き着いてきたルビィちゃんを持ち上げ始めた。

 .........だったら私はもうここに居る必要は無い。そう思って黙ってこの場を後にしようとした。

 

 

桜木「まぁ待ちなよ」

 

 

シエル「っ!」

 

 

 バレないように気配を消して、なるべく人混みの中に最短で行けるように足を動かした。けれどこの人は私に視線を向けること無くその行動を見破り、それを止めて来た。

 

 

桜木「せっかく最前席が沢山ある場所に来たんだ。ここで見ればいいじゃない」

 

 

シエル「私はっ.........」

 

 

桜木「良いから良いから」

 

 

 

 

 

 ―――張り詰めた表情で何かを言いかける少女。それを遮ってその場に留まらせる。

 何を言おうとしたのか、それは俺には分からない。きっと彼女もそう。つい言葉が勝手に口から出たけど、その先を考えていない。本当だったら、そのまま繋げていたはずだ。

 

 

 静かな時間が過ぎて行く。レース場に設置された巨大モニターには今、この歴代の有馬記念を誰が制したのかが華々しく映し出されている。

 シンボリルドルフ。オグリキャップ。メジロパーマー。そしてトウカイテイオー。名だたる強豪がその画面に大きく映り、過去の記憶を思い出させてくれる。

 

 

 それを黙って見ていると、彼女が不意に話しかけて来た。

 

 

シエル「.........なんでウララちゃんを、有馬記念に出そうって思ったんですか」

 

 

桜木「?何でって、前に言ってた通りだよ。あの子が出たいって言ったレースに出しただけだ」

 

 

シエル「それが、絶対に勝てない勝負でもですか.........!!!」

 

 

 語気を強めながら歯を食いしばり、拳を作る。どうやら最初に感じた印象は俺の偏見だったようだ。

 [気に入らない]。それはウララに対してじゃなくて、俺に対してだろう。普通なら勝てる勝負に挑み続け、その勝利の先にあるのが[有馬記念]だ。

 けれどウララは違う。今までのレースは言わば、このレースに出る為のもの。本来ならばここに居るべきなのは、もっと別の子だ。長距離の芝が走れる誰かが.........走るべきだった。

 

 

 そんな誰かの[チャンス]を奪い、ウララの[勝利]を度外視する俺は、彼女から見れば素晴らしく悪い奴に映っただろう。

 

 

 でも、それは表面上だ。本質なんかじゃない。

 

 

桜木「.........夢って、何だと思う?」

 

 

シエル「っ.........自分の叶えたい、目標のような物です」

 

 

桜木「そう。本来ならそうなんだ。誰もが身の丈にあった夢を見て、叶えようとする」

 

 

桜木「けれど世の中には、それが[叶えられる夢]なのか、[寝て見る夢]なのか、しっかり判別付かない奴も居るんだ」

 

 

 夢は残酷だ。現実以上に、世界以上に酷く残酷で、それでいて何よりも綺麗なんだ。それに気付いてる奴は極小数で、仮に気付いて居たとしてもそうだと分かりつつも夢に囚われる奴も居る。

 この世に居るのは、いつも死んだように生きる人間といつ死んでも良い様に生きる人間しか居ない。その二つを唯一選べるのは、夢の残酷さを知っている奴だけなんだ。

 

 

シエル「.........じゃあ貴方は、あの子の夢を覚まさせたいんですか?」

 

 

桜木「それはあの子次第だ。俺はただ連れて行くだけ」

 

 

シエル「.........分からないです。桜木さんの事」

 

 

 彼女は声に感情を乗せずにターフの方を見ながらそう言った。俺自身はそう言われた事に懐かしさを感じて同じ方向を見た。

 [分からない]。それが世間一般で言う俺の評価。勿論、そこには俺自身も含まれているし、アイツらだって居る。俺自身が何なのか、自分でも未だに良く分かっていない。ただ分かる事は、とんでもなく気分屋だと言うことだ。

 けれど[彼女達]はそうは言わない。分かりやすい、顔に出やすいと俺の事をよく言う。なんでそう見えるのかなんて言うのは聞いた事すら無い。だけど聞いた所で帰ってくる答えはハッキリとしている。

 

 

 [何となく]、分かる。自然に、空気的に、展開的に、性格的に。そんな傾向論。けれど強ち間違っても居ない。あの子達と居る間だけは、俺はきっと分かりやすい人間に分類されるんだろう。

 

 

桜木「.........全部は分からないよ」

 

 

桜木「分かっちゃったら、歩く必要なんか無い。分からないから歩くんだ」

 

 

桜木「一歩踏み出せば、次の一歩も踏み出せる。隣を見れば、同じ一歩を踏む仲間が居る」

 

 

桜木「チームってそういう物でしょ?」

 

 

 俺の問いかけに彼女は返事をしない。返事をしない代わりに、鉄柵を握る手に力を込める。

 舵取りはしない。主導権は全てあの子達の物だ。俺はその先にある障害物やトラブルを全て退けるだけ。

 

 

 [プロ]のウマ娘がどうなのかは知らない。彼女達はまだ学生で、俺が大人。ただそれだけでその役割を請け負っている。

 あの子達の可能性は無限大でどこにでも行ける。その手を掴んだ者として、俺はその責務を全うしなければ行けない。

 

 

シエル「桜木さんの言いたい事は分かりました。でもまだ、納得できません」

 

 

シエル「もっと力をつけてからでも良かったはずです。ウララちゃんが絶対、勝てる様になるまで.........」

 

 

桜木「.........そこが難しい所でさ。俺も悩んだよ」

 

 

 実際、あの子が有馬記念に挑む時期を見直していた時期もあった。今で良いのか。確かな実力を付けた後でも良いんじゃないか。そう思っていた事も、確かに.........

 けれどそんな事をして負けてしまえば、諦めてしまうんじゃないか。俺達も、そして彼女自身もちゃんとした力を身に付けた上で負ければ、もしかしたらもう良いと思ってしまうんじゃないか。

 

 

 ウララは単純だ。単純だからこそ、扱いずらい部分もある。勝てるかもしれない勝負で負けた時、それが大一番の大レースだったらどんな反応を見せるのか、想像すら出来ない。

 自分はダートに専念しよう。ちゃんと距離適性を考えよう。そんな事を考え始めてしまうのでは無いか。いくら底抜けた明るさを持っていても、そんな道を辿った友人や知り合いを俺は何人も見てきた。

 

 

 だからこそ今なんだ。まだ天井が何色で、何で出来ているのかすら分からない今だからこそ、考えられる物があるんじゃないか。自分もそこに行けるって、信じられるんじゃないか.........

 

 

桜木「.........そんな事言っても、結局答えって言うのは自分の頭の中にも、誰かの頭にも無い」

 

 

桜木「レースの答えはレースでしか見つけられない。俺達はそうやってやってきたんだ」

 

 

桜木「[走りの中に答えはある]。それだけがきっと、確かな事なんだ」

 

 

 いつの間にか見つけた答え。それが誰の受け売りで、誰が発した物かなんてのも分からない。けれど不思議とそれしっくり来る。それくらいこの答えは、ウマ娘にとって、レースを走る者にとっての唯一の公式なんだと思わせてくれる。

 抱き抱えているルビィちゃんがパタパタと耳をはためかせる。その反応を見てようやく、有馬記念が始まるのだと察する。

 ターフの上には、俺の良く知るメンバーが揃い踏み始めていた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウララ(.........なんだろう。ドキドキする)

 

 

 皆がゲートに入って行ってる。わたしはその前で、なんでか分からないけど胸がドキドキしてきて、その中に入る事が出来なくなっちゃった。

 どうしよう。今までこんなことなかったのに.........もしかして、有馬記念だからかな.........?

 

 

 スペちゃんもグラスちゃんも、セイちゃんにタキオンちゃんだってもう準備万端なのに、わたしだけ置いてけぼりにされちゃってる。レースはまだ始まってないのに.........

 

 

ウララ(!ダメだよっ、まだ始まってないもん!!ずっと楽しみにしてたんだからっ!!)

 

 

 ドキドキする胸を押さえ付けて、わたしはゲートの中に何とか入れた。多分、あともう少しでレースがはじまっちゃう.........

 こういう時は.........そうだ。トレーナーに教えてもらったことを思い出すんだった。

 

 

 えっと。ゲートが開いたら.........

 

 

 えっと、曲がる時になったら.........

 

 

 えっと.........他の子が周りに居る時は.........

 

 

 

 

 

 えっと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えっと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えっと.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウララ(.........あれ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「年末の大一番。ここ中山競バ場で今年のレースを賑わせたウマ娘16人がゲート入りを果たし、観客の期待を背負っています」

 

 

マック「.........遂に始まりますわね」

 

 

デジ「うぅ.........緊張しますね.........」

 

 

 レースが始まる寸前の状態。既に選手の皆さんはゲートにその身を入れ、後はそれが開くだけで有馬記念が始まってしまいます。

 いつもながらに豪華な出走者ではありますが、とりわけ注目を集めているのはやはり、ウララさんでしょう。普段の実力から結果は予想出来そうなものですが、それでももしかしたら.........そう思わせる何かを、彼女は持っています。

 

 

ライス「.........っ!ウララちゃん、何だか様子が変.........?」

 

 

ブルボン「!ライスさんの言う通り.........あれは.........」

 

 

マック「[深呼吸].........!!?」

 

 

 普段のウララさんならば絶対にしないであろう行動。その行動は言わば[緊張]をほぐす為に行われている動作に他なりません。

 それを無意識に実践している。という事はつまり、今ウララさんは人生で初めて、レースという舞台で緊張を体験しているという事なのです。

 既に変わり始めている意識。彼の思惑通りと言った所だとは思いますが、些かそれが早すぎる気もあります.........ここで一体、どう言ったレース展開にして行くのか.........

 

 

「今年最後の大レースっ、有馬記念―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガコンッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今スタートです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――なっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どよめきを見せる会場。小さい驚きの声が重なり、一人の大声よりも大きくなった物が会場中に響き渡ります。

 それもそのはずです。なんせ今ウララさんはこの錚々たるメンバーと不慣れな芝コースの中で.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [追い込み]と言っても良い程に喰らいついて居たのですから.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......To be continued

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