山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

179 / 235
有馬記念の[夢]から覚めて

 

 

 

 

 

「一人も出遅れること無く縦長の展開となった有馬記念。果たして誰が栄光を手にするのか!」

 

 

 実況の声が響くレース会場。私は腕を組みながら後方を走るウララさんの姿をただじっと見つめていた。

 驚き、戸惑い、そして期待.........こんなレベルの高いレースで、あのウララさんが喰らいついている.........それだけで、会場に居る人達は私と同じ様な感覚に陥っているに違いない。

 

 

「.........流石、桜木トレーナーね」

 

 

「.........あの」

 

 

「?」

 

 

 彼女をここまで育て上げたトレーナーを賞賛していると、一緒に見ていた沖野トレーナーとそのチームが不思議そうな顔でこっちを見てきた。

 

 

ダスカ「なんでここに居んのよキング」

 

 

キング「あら、居ちゃいけない?」

 

 

ウオッカ「そ、そういう訳じゃ.........」

 

 

沖野「.........ウララのチームならあっちだぞ。俺達は今日スペの応援に来てんだからな」

 

 

キング「分かってるわよそんな事」

 

 

テイオー「じゃあなんでここに居るのさー!!」

 

 

 全く、このキングを何だと思っているのかしら。こう見えても一流のレーサー。このチームがスペシャルウィークさんの応援をしているだなんて一目で分かる。

 では何故私がわざわざここに居るのか。その理由はただ一つ.........

 

 

スズカ「ここ、丁度カーブだから走るウマ娘の状態を確認しやすいのよ」

 

 

キング「ふふ、そう。直線に走る姿だけじゃ分からないけれど、コースを曲がる際の身体の使い方でその日のコンディションは分かる」

 

 

キング「つまりこのキングはっ、一流の観戦者でもあるのよっ!おーっほっほ!」

 

 

ゴルシ「流石キングだぜっ!!高笑い全世界ジュニアコンテスト三連覇の実力は間違いねーなっ!!」

 

 

全員「そんなのある訳ないでしょ(だろ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コースの1/4を走り終えた展開。レースの様子は未だに縦長の状態をキープしていると思うが、気掛かりな事が幾つかある。

 

 

タキオン(やはり最初からマークしていた通り、スペくんやグラスくん。それにスカイくんもやはり侮れない)

 

 

タキオン(.........だが一番の強敵はやはり)

 

 

 先行の集団。その先頭を走る私が最も危惧する相手。ステイヤー適正の高い差し戦法を得意とする好敵手。マンハッタンカフェが居るであろう場所に視線を送る。

 首を動かさなければ見えはしないが、確かにそこに居ることは分かる。科学者たるものしっかりとした根拠を持って理由を説明しなければならないが、こればっかりは[オーラ]としか言い様がない。

 スタミナは十分。脚も動かせる。事前の耐久力を向上させるスプレーも掛けている。それでも彼女を恐れる理由は恐らく.........

 

 

タキオン(.........[リミッター]か)

 

 

 全力を出せば忽ち自壊してしまうであろうその両脚。かつてはそうならぬようセーブをして走っていた物だ。

 そのお陰で無意識下で力をセーブするという事をしてしまっている節はあるかもしれない。

 

 

 しかしここは[有馬記念]。クラシックを走り終え、シニアを走るウマ娘にとっては一番大きなレースと言っても過言では無い。

 実力差のあったクラシック期とは違い、身体の本格化を迎えたシニア期。そんな状態で力を抑えながら勝つなどととても甘い考えだ。

 

 

 ではどうするか?決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [自分の常識(限界)]を[超える]。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただそれだけだ.........!

 

 

タキオン(ククク.........その為にはカフェ.........君の存在が必要不可欠なのだよ.........ッ!!!)

 

 

カフェ「.........っ」

 

 

 

 

 

 ―――苛烈なレースの中、16人のウマ娘がしのぎを削る。そんな中で一人、明らかに私に向けて異質な期待を向けている存在が居る。

 アグネスタキオン。超光速のプリンセスの異名で呼ばれる彼女の実力は、私どころか彼女にすら未だ分かり得ない。

 

 

カフェ(残念ですが、助演賞は頂きませんよ.........っ!!)

 

 

 今はまだその時じゃない。けれどそれは必ず訪れる。一瞬の判断。状況の変化を見極めて一気に抜け出す.........長距離という長丁場。変化の乏しいレースでそれを掴み取るにはトレーニングだけでは無い、実際の経験から来る勘と洞察力が必要になる。

 彼女にそれは無い.........勝機があるとするならば、そこを突くしか無い。逆にそこさえ突く事さえ出来れば.........ッッ!!!

 

 

 有馬記念の半分。それが終わろうとしている最中、私は後方の[追い込み]に徹する人達の方を確認した.........

 

 

ウララ「はぁっ、はぁっ.........!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルボン「.........順調に走っていますね。タキオンさん」

 

 

ライス「うんっ、このまま行けばもしかしたら.........」

 

 

 長距離を走り抜けていくタキオンさん。適正外の距離であるにもかかわらず、その表情にはまだ余裕さが感じられます。

 確かにこのまま走り抜ける事が出来れば、勝利する事も不可能ではありません。

 ですが.........

 

 

デジ「.........それはどうでしょうか?」

 

 

二人「え?」

 

 

デジ「今回出走しているグラスさん。それにスペさんも一瞬の切れ味が鋭いです。その上どちらも先行作戦にも慣れています。タキオンさんの仕掛け所にはしっかり喰らいつくでしょう.........」

 

 

マック「それに付け加えるならば、タキオンさんには[脚]の事があります。怪我の心配は無くとも、そうして走ってきた経験が枷になる場合も有り得ます.........」

 

 

 自分の左足に手を添えながら、私は先団の先頭を走る彼女を見ます。ウマ娘にとって脚は命と同等。それを守りながら走ってきた彼女にとって、突然それを辞めると言うのは無理な話です。

 そしてそれに至る経験.........つまり、[痛み]と戦って来た記憶もある。それを意識して居なくとも、本能的に身体を庇う走り方になっている筈です。

 それに追い打ちを掛ける様に、現在出走しているメンバーは先行策に対しての知見があります。先程言われたお二人以外にも、セイウンスカイさんも先行のウマ娘を交わしながら皐月賞、菊花賞を勝ち切った逃げの名手です。

 

 

 しかし、それは本人にも分かっている事。あのタキオンさんがそれを考慮していない訳がありません。きっと何らかの作戦があるのなら、今はただ見守る事です。

 .........それに今、気にするべきなのは.........

 

 

「後方で走るハルウララっ!この位置から先頭に出る瞬間を伺っていますっ!!」

 

 

マック(正直驚きました。長距離の、しかも芝コースのG1ウマ娘が走るこのレースでここまで喰らい付けるだなんて.........)

 

 

 目の前のレースで繰り広げられる光景、きっとここに居る殆どの皆さんが予想だにしていなかった展開。

 ウララさんが喰らいついている。長距離の芝コースで、普段のダートコース同様追い込み戦法を見せている。それだけで会場は盛り上がっていました。

 

 

 しかし.........

 

 

ライス「ウララちゃん、何だか辛そう.........」

 

 

デジ「表情が焦ってますね.........!」

 

 

マック「この変化が吉と出るか凶と出るか.........」

 

 

 レースとして成り立っては居るものの、ウララさんの今の実力ではこれ以上は限界を超えて行かなければなりません.........そうなればいくら丈夫な彼女と言えど、怪我の危険性は大きく跳ね上がるでしょう.........

 

 

 そんな心配を置き去りにするように、有馬記念は既に最終コーナーの佳境を迎えていました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウララ(どうしよう.........!!)

 

 

 皆がわたしの前を凄い速さで走ってく。何とか後ろに居れるけど、皆きっと、最後はもっと速くなる.........スペちゃんもグラスちゃんも、ここから速くなるのを何度もトレーナーと一緒に見てきたから分かる。

 でも、わたし忘れちゃった.........トレーナーに言われてきた事全部、頭が急に真っ白になっちゃって、忘れちゃったんだ。今までそんな事一度も無かったのに.........

 

 

ウララ(.........やだ)

 

 

 このままじゃ終わっちゃう。

 

 

ウララ([勝ちたい].........)

 

 

 せっかくの有馬記念が.........

 

 

ウララ([勝ちたい]よ―――ッッ!!!)

 

 

 終わっちゃう.........!!!

 

 

 頭が真っ白になって、走り方も忘れちゃったけど、そう思った。今まで何度も思ってきたけど、それより何だか.........とても強く.........

 

 

 ここで速く走らなきゃ行けない。そう思って、もうめいいっぱい走ってるけど.........もっと走れるように踏み込んだ時に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんで走るの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウララ「.........あれ?ここどこ!!?」

 

 

 さっきまで皆とレースで走ってたのに、気が付いたら見た事ないお花畑の上に立ってた。息もぜぇぜぇしてないし、脚も疲れてない.........皆どこに行っちゃったんだろう?

 

 

『なんで走るの?』

 

 

ウララ「!だ、だれ!!?」

 

 

 後ろからどこかで聞いた事のある声がしたの。誰も居ないと思ったからびっくりして振り返ってみたら、そこには.........

 

 

ウララ「!わわわっ!!ウララとそっくりっ!!」

 

 

『.........』

 

 

 良く鏡とか写真とかで見るウララと同じ顔の人が立ってた。でも、背丈や身体付きは一緒なのに、何だかとても大人みたいな感じがする.........

 眠たそうな目でウララのことを見るそっくりさん。何を話そうかなって考えてると、またさっきと同じ言葉がそっくりさんから出てきた。貴女が言ってたんだねっ!

 

 

ウララ「なんでって.........う〜ん。なんでだろう?楽しいからかな!!」

 

 

『.........楽しい?』

 

 

ウララ「うんっ!皆と走って!沢山レースに出るの!!そしたらねっ!皆喜んでくれるしっ、ウララも楽しいんだー!!」

 

 

『.........そっか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私には分かんない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とっても暗い声で、ウララのそっくりさんはそう言ったの。見た目が同じだから、きっと気持ちもウララと一緒だと思って、びっくりしちゃった。

 

 

『走るのは楽しい。でもレースは嫌い』

 

 

『色んな人が私に期待してる。負ける事しか出来なかったのに』

 

 

『.........私は何処にでもいる、普通の存在なのに、特別扱いされて.........同じ様な仲間も、沢山居たのに』

 

 

『結局私は、利用されてただけなの』

 

 

 .........よく分かんない。ウララ、特別扱いなんてされてるのかな?いっぱい頑張って、いっぱい走って.........そしたらきっと、色んな人がウララの事を応援してくれるよってトレーナーも言ってくれた。

 でもきっと、ウララのそっくりさんはそれが嫌だったのかも。走るのって楽しいけど疲れちゃうし、レースも楽しいけど、やっぱり勝った方が嬉しいし.........

 

 

『.........ごめん。私じゃ貴女の力になれない』

 

 

ウララ「?うん.........分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあそっくりさんが楽しくなるまで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウララっ、もっと沢山走るねっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.........え?』

 

 

 わたし、あんまり難しい事は分からないけど、でもレースは楽しいって思うんだ!!

 だから、それを楽しめないそっくりさんの為に、ウララが沢山楽しくレースを走るのっ!そしたらきっと、そっくりさんも楽しくなると思うっ!!

 

 

ウララ「ウララもねっ、最初は勝てなかったの!」

 

 

ウララ「でも、トレーナーが来てくれて、ライスちゃん達と一緒に走ってるとね!ちょっとずつだけど速くなれたのっ!!」

 

 

ウララ「そしたら走るのも!レースするのももっと楽しくなったの!!だからそっくりさんが楽しくなるまで、ウララ頑張るよっ!!」フンス!

 

 

 そうだよっ!商店街の皆が言ってたもんっ、ウララがとても楽しそうに走るから、ウマ娘になってみたかったってっ!!

 だからきっとウララが沢山走ったら、そっくりさんも楽しくなるに決まってるもんっ!!

 

 

『.........そうだね。そうなるかもしれない』

 

 

『そうなったら、また会いに来てあげる』

 

 

ウララ「!うんっ!約束だよ!!」

 

 

 わたしのそっくりさんは笑ってくれた。でもやっぱり、ウララの笑顔とちょっぴり違う.........なんて言えばいいんだろう、お母さんみたいな感じ!!

 ウララとそっくりさんの約束。絶対忘れない為に小指を出したの。でもそっくりさんはよく分かんないって顔してたから、ウララが手を引っ張って同じ形にしたの!!

 

 

ウララ「ゆーびきーりげーんまんうっそついたーらロイヤルビタージュースのーますっ!!」

 

 

ウララ「ゆーびきった!!えへへっ、破ってもちゃんと会いに来てねっ!!」

 

 

『.........ふふっ、変な子』

 

 

 そっくりさんはクスクス笑ってウララの頭を撫でてくれた。それが何だか気持ち良くて、何だか眠くなってきちゃった。

 色々もっとお話したい事とか、聞きたい事とかあったんだけど.........身体がどんどん疲れてきて、汗がぶわーって溢れて来て変な感じになっちゃった。

 

 

 それで気が付いたら.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........始まった」

 

 

シエル「え?」

 

 

 有馬記念は佳境に入った。ラストの4コーナーカーブ。そこで大体の勝負が着いてしまう。どんでん返しはそう起こらない。

 先陣を切るのはやはりセイウンスカイ。しかし後続との差はさほど開いては居ない。起こるならばこの場面。タキオンの奴が何も策を練っていない訳が無い。

 

 

 

 

 

タキオン(っ、このタイミングか、些か早い気もするがまぁいい。想定内だ.........)

 

 

タキオン(果たして、上手く行くだろうか.........ッ!!!)

 

 

 ―――背中にプレッシャーが重く伸し掛る。それはカフェと走る際に必ず発生する一種の合図だ。

 まるで[呪い]が発動したかのような禍々しいプレッシャーだが、一つ欠点が有る。それは[仕掛け所]を全員に[知らせている]という事だ。

 

 

 恐らく、他の者には対処不可能だろう。なんせカフェと走るのは今回が初めて。仮にそう出なかったとしても、二回や三回程度でこれを打破する戦略や対策など思い付けない。そしてそれは机上の空論の事が多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが[私]は違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン(クク、[プランB]に手を付ける事は結果的には無かったが、それでも君は私にとっては[特別]なのだよ.........)

 

 

タキオン(その[脚]には、私とは違う[可能性]が大きく秘められているのだからね.........ッッ!!!)

 

 

 何度も頭の中で思い描いた。長距離を走る彼女の姿を。マックイーンくんやライスくんとは違う差しという先行策と比べればリスクのある戦略。

 しかしその中で彼女は長距離を勝ってきた。私のそれではスピードはあろうともパワーが足りない。

 

 

 だが、だからと言って勝てない訳では無い。限られた条件。提示された前提。それらを行使すれば勝率は上げられる。

 

 

 .........そして先程、[机上の空論]と言ったが、私の場合は当てはまらない。何故ならば.........

 

 

タキオン(この[脚]には定数所か、公式すら未だ存在しない。そんな物を頭の中でしたためる等、研究者としては愚の骨頂)

 

 

タキオン(問題が解決出来たのならば論文は提出するべきだ。よって私はこの場に示そう.........!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

([フェルマーの最終定理(タキオンの最高速度)]を導き解いたのは、この[アグネスタキオン]だと.........ッッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スペ(ッ!!?タキオンさんが仕掛けて来たっ、ここで速度を上げなくちゃ.........)

 

 

グラス(行けないのに.........!!!)

 

 

カフェ「―――ッッ!!!」

 

 

二人(っ!!?しまっ―――)

 

 

 ―――禍々しいプレッシャーに重ねられる様に、アグネスタキオンの最高速度に達するレベルの抜け出しが、他のウマ娘へ大きな焦りを生ませる。

 この現象自体は彼女が予期したものでは無かったが、結果的にこの場で万全のラストスパートを踏めたのは数少ない存在だ。

 

 

 そしてそれと同時に、プレッシャーと焦りによる二重苦で実力を引き出せなくなったウマ娘は、ある錯覚に陥り始めていた。

 

 

スカイ(っ、さっきまで先頭で走ってもう少しだと思ったんだけどなぁ.........!!!)

 

 

スカイ(急に[有馬記念]じゃ無くなったみたいに、ゴールが遠く感じる.........!!!)

 

 

 最終コーナーを回った全員がそう考え始める。中山の直線は短いと言われているが、そんな物など関係無いと言わんばかりに脚が重くなっている。

 確かに有馬記念は長距離レース。しかし、2500mという数字は厳密に言えば中長距離に分類される。中距離レースとの距離差は300mしか存在しない。

 

 

 しかしそれでも、今この場で走っている殆どのウマ娘達の認識は完全にそうでは無くなっていた。

 

 

スペ(急に脚と.........息が.........っ!!)

 

 

グラス(これじゃまるで.........)

 

 

スカイ([3000m]と大差無い.........ッ!!!)

 

 

 大きなプレッシャー。迫り来る焦り。その二つが作用した結果、精神的レース距離が500m分伸びた。

 傍から見れば大きな変化は無いように思える。しかし、それぞれのレースを見慣れている者からすれば何かが起きている事は理解出来ていた。

 そしてその一部では、どうしてそれが起きているのかも.........

 

 

 

 

 

沖野「おいおいおいおいっ.........!なんつう事やってのけてんだアイツら!!?」

 

 

ダスカ「い、一体何が起きてるのよ!!?」

 

 

テイオー「こんなレース、ボク初めて見たよ.........!!?」

 

 

 

 

 

神威「マジか!!!マジかよあの二人っ!!!たった二人だけでレースの展開を歪めちまったぞ!!?」

 

 

 

 

 

デジ「っ!タキオンさんが抜け出しましたッ!!」

 

 

マック「この速度っ、今までのタキオンさんと比較になりませんっ!!」

 

 

ブルボン「しかし、直線は短いかも知れませんがこの距離は.........!!!」

 

 

ライス「頑張ってタキオンさんっ、ウララちゃんっ!!後もうちょっとだよ!!」

 

 

 

 

 

シエル「す、凄い.........」

 

 

ルビィ「タキオンお姉さんとカフェお姉さんが抜け出してきたよ!!!どっちが勝つかな!!」

 

 

 ―――唖然として口を開けるエメロードシエル。それとは対照的に興奮して俺に抱えられながらジタバタと脚をはためかせるルビィちゃん。それについての回答はしない。時間が解決してくれる事だ。

 それにしても、初対面の時からその不思議な存在感を感じてはいたが、本気のレースになるとこうなってくるのか.........あんまりやりたくは無いが、対個人用の対策を考えた方がいいだろう。タキオンのやり方も良いが、今の所あれを出来そうなのはあの子だけだ。

 

 

桜木(.........さぁて、どうする?)

 

 

桜木(レースはまだ終わってないぞ。ウララ?)

 

 

 先頭を抜け出し始めた二人から視線を後方に移すと、そこには懸命に走り抜けるウララの姿があった。疲れや疲労は見て取れるものの、あの子はカフェの異質なプレッシャーやタキオンの高速抜け駆けによる焦りを気にしていない数少ない出走者だ。

 一筋縄では行かない。敗北の最下位覚悟で挑んだ有馬記念だったが、蓋を開けて見れば後もう少しで着順一桁に届きそうな予感がする。

 

 

 そんな中、今年の有馬記念を制したのは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[アグネスタキオン]ッッ!!!今年最後のG1を制したのは復帰したばかりのアグネスタキオンです―――ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルビィ「すごいすごいっ!!タキオンお姉さんっ、ビューンって感じだったよ!!」

 

 

シエル「う、うん.........あっ!!ウララちゃんは!!?」

 

 

桜木「.........十着。思ったより早くゴールしたよ。ポツンと一人。とはならなくて良かった」

 

 

 ほっ、と一息つきながら走り終えた二人の様子を見る。タキオンの方は歩く力を残せないくらい全力を出せたのか、困惑した表情を浮かべて仰向けになり必死に呼吸をしていた。初めての経験だ。慣れない多大な疲労感はさぞ苦しいだろう。これを機に疲れに慣れる為のトレーニングも受けてくれる事を願う。

 もう一方のウララはと言えば、掲示板を見つめた後、走り終えた仲間達を見つめてから観客の方へといつものように手を振ってくれた。

 

 

ルビィ「.........ウララお姉さん、何だかちょっと悲しそう.........?」

 

 

シエル「!.........悲しいよ。誰だって」

 

 

シエル「勝ちたいって、出たいって思ったレースで勝てなかった時は.........本当に辛い.........」

 

 

桜木「.........」

 

 

 握りしめた片手を胸元に当てるウマ娘。それを横目で見て、もう一度ウララの方に視線を送る。

 仰向けに倒れたタキオンを心配そうに覗き込んで、その手を引いて肩を担ぐ。気が付けば会場からは盛大な拍手が彼女に送られていた。

 恥ずかしそうに頬を染め笑いながらも、タキオンに何か賛辞の言葉を送っている。それを聞いたタキオンも、疲れた表情で受け取りながらウララに対して労いの言葉を送る。

 

 

 健全な関係。誰が勝っても負けても、お互いを称え合う存在。それがスポーツマンであり、皆平等の精神の元で成り立っている。

 けれどそれは相手が居ればの話だ。ひとたび[ひとり]になってしまえば、どんな人間でも後悔してしまう。

 あの時こうしていれば、これが出来ていれば、そもそも自分が.........と、終わりの無い自問自答が始まって、最悪の場合後戻り出来ない道を知らないまま進む事になってしまうかもしれない。

 

 

 .........だからこそ、[俺達]が居るんだ。

 

 

桜木「さてと、レースも終わった事だし。ちゃちゃっと会見に向かいますか」

 

 

シエル「え!!?あの、ウララちゃんのフォローとかは.........?」

 

 

桜木「安心しなさいな。桜木さんこう見えてもそこら辺上手なんだから、なんせ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子達が居るチーム[スピカ:レグルス]の[トレーナー]なんだからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャッター音が鳴り響く記者会見。一人一人が手を挙げてから立ち上がり、まずはタキオンへの祝辞とウララへの労りを言ってから質問をくれていた。

 .........数年前とはえらい違いだ。たった一度の記者会見で、人はここまで変わる事が出来る。皆ようやく[仮面]を外して、優しい[素顔]を見せてくれるようになった。

 だったら、俺の役割も変えなくちゃ行けない。[寄り添う者]は世間に溢れ返った。ならばそれを辞めて、今度は.........

 

 

乙名史「月間トゥインクルの乙名史悦子です」

 

 

乙名史「この度はアグネスタキオンさんの優勝。そして共にハルウララさんの有馬記念出場、心よりお祝い申し上げます」

 

 

 質問を幾つか回答していると、見知った顔が手を挙げて質問をしてきた。乙名史さん。俺達のチームと唯一親交のある雑誌の取材記者だ。

 

 

乙名史「有馬記念という大舞台を終えてすぐですが、お二人の今後の方針はどうなっていますでしょうか?」

 

 

桜木「そうですね。兎に角今はURAファイナルズがありますので、そこに向けてのトレーニングですが、まずはしっかりと身体を休めさせてあげたいですね」

 

 

桜木「その後の事についてはまだ考えていません」

 

 

 彼女から来た質問に当たり障りなく答える。特に変わった回答は無く若干面白味に欠けるかとも思ったが、それでも乙名史さん良い事が聞けたという表情で手に持ったメモにペンを走らせる。

 そしてそのまま、彼女は次の質問へと移って行った。

 

 

乙名史「今回、ダート短距離。マイルを専攻するハルウララさんが有馬記念に出走しました。この出来事をトレーナーである桜木さんはどうお考えになられますか?」

 

 

桜木「沢山あります。芝を走った事で得られた事。長距離を走って感じた事。ウララの口から直接聞いて、それをフィードバックしてこれからのトレーニングに生かそうと考えています」

 

 

乙名史「なるほど.........今回の事で[後悔]や[失敗]は特になかったと、そう捉えてよろしいですか?」

 

 

ウララ「.........っ」

 

 

 その言葉を聞いて、ウララの表情が若干強ばった。地下バ道で彼女を出迎えた時ですら、気丈に笑って振舞ってくれてはいたが、やはり悔しさはあるのだろう。

 そして、彼女にとってはこのレースは[後悔]の連続であり、[失敗]そのものであったに違いない。もっと力を付けて挑めていれば、作戦を具体的に練っておけば.........考え出したらキリが無い。

 

 

 それでも俺は、[今で良かった]と思っている。今じゃなくても気付ける事、実感する事が沢山ある中で、今じゃなければ[感じられなかった事]が確かにある。

 そしてそれが.........ウララが[後悔]と感じ、[失敗]だと思っているという事に繋がってくれている。

 

 

桜木「ウララがどうかは兎も角、自分の個人的な考えで言えば良い経験になりましたよ」

 

 

桜木「ダートで短距離マイルを走るウマ娘が、芝長距離を走ればどうなるのか.........誰もやった事無いんで、頭の中で考えても実際は分かりません」

 

 

桜木「だから、ウララが有馬記念を走りたいって思ってくれて本当に助かりましたよ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――また挑戦できる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

ウララ「え.........?」

 

 

 取材記者達が驚いた表情を見せる。奥に居るチームメンバーも、袖に居るこの後会見を受ける人達。果てにはウララですら驚いた顔を見せて、笑っているのは俺と疲労困憊のタキオンだけであった。

 

 

桜木「これがもし日本ダービーだとか、皐月賞だとかになったら、俺は冷静さを失って危ないトレーニングもしたでしょう。ダート主戦がいきなり芝を走って勝つなんてデータ、殆どありませんから」

 

 

桜木「でもデータは今回取れました。課題だって本人が見つけた筈です。後は.........ウララが来年また走りたいかだけです」

 

 

 隣に座るウララの方を見る。そこには驚きの表情のまま固まっている彼女が居たが、徐々にその見開いた目に涙を貯め始めていた。

 

 

ウララ「.........また、走っても良いの?」

 

 

桜木「ああ、ウララがまた有馬記念に出たいって言うんなら、俺は連れて行くよ」

 

 

桜木「今度は出るだけじゃない。[勝つ為に]出よう」

 

 

ウララ「!とれっ、なぁ.........!!!」

 

 

 今までだったら絶対に見せなかった顔。顔をくしゃくしゃにして我慢して、それでも涙は溢れ出てしまう。そのウララの姿が最早、彼女が変わった事を決定的にしてくれた。

 泣きたい時に泣く。笑いたい時に笑う。そんな子供の純粋さを体現したような存在だったウララが、泣くのを我慢した。それは俺に迷惑が掛かるとか、タキオンを困らせるからとかじゃない。

 [悔しい]から。出たいと思ったレースに負けて、勝ちたいと思ったレースで負けて悔しい。けれどそれを表に出すのは恥ずかしい。そんな誰しもが通る成長で得る感情を、ウララはようやく手にする事が出来た。

 

 

ウララ「とれぇぇなぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

桜木「おーよしよしっ」

 

 

ウララ「がえっだらだぐさんはじるぅぅぅ〜!!!」

 

 

タキオン「その前にまずは休もうウララくん。私も君もURAファイナルズに出るんだから」

 

 

ウララ「ズビ、うんっ!!」

 

 

 涙で濡れた目元を腕で拭い、垂れた鼻水をすすって笑顔を見せるウララ。会見に来た記者の中にはその姿を見て涙を見せる人も居た。

 数年前とは全く違う、優しい光景。結局人は余裕があるとその本質である優しさが見えてくる。この人達は人に伝えようとする余り、どこか焦っていた部分もあったのかもしれない。

 [寄り添う人]が沢山増えた。それは俺達の行動範囲だけじゃない。俺達が知らない、俺達を一方的に知っている顔も分からない人達も含めて、寄り添ってくれる。そんな世界に変わった気がする。

 

 

 だから、俺はもう[寄り添う人]を引退する。

 

 

 これからは.........[隣で歩く人]として.........この子達を支えて行こうと思っている.........

 

 

 そんな静かな決意を語る事は無く、タキオンの優勝とウララの出走を兼ねた記者会見は、大団円で終わったのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........」

 

 

 素晴らしいレースでした。始まりから終わりまで、驚きと発見の連続。私自身、これからの成長に役立つヒントを貰えたと思える有馬記念でした。

 帳が降り切った学園ターフの上。星空を見上げながら、これからの自分の事を考えていました。

 

 

『.........眠れないの?』

 

 

マック「!ええ、ちょっと」

 

 

 有馬記念が終わり、多くの人々が興奮冷めやらぬ状態でその場から帰って行きました。

 

 

 そしてその際、私の耳に入ってきてしまったのです.........

 

 

『凄かったよなぁ、今年の有馬記念』

 

 

『だな。来年はどうなるんだろう?』

 

 

『そりゃお前っ、俺の大本命の[メジロマックイーン]が戻って来て大活躍よっ!!』

 

 

マック「.........っ」

 

 

 期待している。私の復帰を、私の復活を、多くの人々が.........その期待に応える事は、苦しい事ではなく、寧ろ喜ばしい事です。

 しかし、その言葉から私は考えてしまった。皆さんが望んでいるのは、[あの日]の[メジロマックイーン]なのでは無いか?あの現役最強と言われた、[仮面]を付けた私なのでは無いか?と.........

 

 

マック(.........そうだとしたら)

 

 

マック(今の腑抜けた状態は、終わらせないと行けないわね.........)

 

 

 [強さ]とは。未だに見果てぬ道の先に、朧気にある概念。まだその正体にすら気付けていないのに、何故か今より以前までの自分の方が、強かったと感じれてしまう.........

 

 

 誰もがそんな私を求めるのなら.........

 

 

 私は、覚悟を決めなければ行けない.........

 

 

 冬の星空を見上げ、自らが出走する大レース。URAファイナルズへの決心を夜空に私は誓いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 握り締めた拳の理由に、気付かないまま.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......To be continued

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。