山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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トレーナー「サイボーグは流れ星では居られない」

 

 

 

 

 

 

桜木「おう、わーってるよ。もう帰るから。そんなに腹減ってんなら自分でコンビニ行けばいいべや!!タコライスがァッ!!」

 

 

 ピッと電話を切り、ウマ娘寮の門から遠ざかる。流石に外も暗いので、ライスを一人で返すのもなーと思い、ここまで送ったのだ。

 電話の要件は簡単で、白銀が腹を空かせて待っているというものだ。もういい大人でプロの競技者なんだから、そこら辺は自分で何とかして欲しい。少なくとも俺はお前のコーチでもトレーナーでも無い。

 そう思いながら今度こそ帰ろうと思っていると、トレーニングコースの近くを通った時だった。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

 

 

桜木(お、熱心な奴が居るなぁ.........って)

 

 

 思わず足を止めた。その理由はただ一つ。もっと走っている姿を見てみたいと思っていた、選抜レースに参加していたミホノブルボンだったからだ。

 行けない行けない。彼女にはもうトレーナーが着いてるんだ。これじゃまるで俗に言うNTRしようとしてる見たいじゃないか。俺はどちらかと言えば純愛系が好きだ。

 そう思っていると、静かな空気のせいで彼女の言葉が伝わってくる。

 

 

ブルボン「はぁっ、はぁっ、1800m通過。残り1200m、タイム2分04秒っ.........目標速度より大幅に低下.........!」

 

 

桜木「.........?」

 

 

 彼女は今、1800mを走りきったのか?スプリンターなら普通は1600m未満のレースを走るはずだ。一体なんの為に.........?

 決してやましい気持ちは無い。ワンチャンあれば行けるか?とかいう格ゲーマー特有のノリはもちあわせて居ないが、それでも興味が湧いたのも事実だ。幸い、俺がここに留まって困る奴は世界8位のアイツしか居ない。

 そう思った俺は、その足をターフへと踏み入れた。

 

 

桜木「うお.........」

 

 

 間近で見るとやはり、走りに関しては凄まじいものを感じる。それが才能によるものなのか、努力によるものなのかは分からないが、凄いと言うことだけはわかった。

 

 

桜木「?.........不味くないか?」

 

 

 どうやら走り終わったらしい彼女は、その手を膝に着いた。その様子が以前のマックイーンと重なり、少しだけ小走りで近くへと向かう。

 

 

桜木「ッ!?まじぃ!!」

 

 

 ふらっと揺れるその仕草までマックイーンとほぼ同じ。こりゃ倒れるなと予測した俺は全速力でその場を駆けた。

 タキオンのおかげで少しは足が早くなったらしく、スライディングをかまして、なんとか地面への激突を防ぐ事が出来た。

 

 

桜木「ウマ娘っつうのは、どいつもこいつもここまで頑張んなきゃ死んじまう生き物なんかな.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルボン「適量の水分チャージ。休息により、脈拍、血圧ともに正常値に推移。メンテナンス完了」

 

 

桜木「お、おう」

 

 

 コース外のターフへとミホノブルボンを運び、仰向けにさせた後、自販機で急いで買ってきた水を手渡した。

 目の前の少女と話すのは初めて.........いや、もう口調からして機械的だ。もしかしたら本当にサイボーグなのかもしれない。

 

 

ブルボン「ありがとうございました。それでは、失礼します」

 

 

桜木「ちょちょちょい!!さっき倒れたばっかしなんだから、無茶しちゃ行けねえぜ!」

 

 

 口調が少々タマモクロス味を帯びてしまったが、仕方ないだろう。目の前のこの子はまた走り出そうとしてるんだから。

 そんな俺の気も知らずに、サイボーグと呼ばれているミホノブルボンはキョトンとした顔で見てくる。

 

 

ブルボン「激しいスタミナ消費に一時的な疲労と判断。現在、順調に回復中。つまり、『大丈夫』です」

 

 

ブルボン「残り7分28秒で走行可能範囲内まで回復と解析。呼吸を整えつつ、回復を待ちます」

 

 

桜木「えっと、因みに回復したら?」

 

 

ブルボン「回復後、2000mの走行を予定しています」

 

 

桜木「ダメダメダメダメ!」

 

 

ブルボン「なぜ?」

 

 

 この子やっぱりサイボーグじゃない。限界を超えようとする意思力は正に人のものだ。正規のプログラミングが施されていないか、サイボーグのフリをした普通のウマ娘だ。

 どうしたものかと考えながらも、息を吐いた。これは早々に帰れる問題ではないなとも感じた。

 マックイーンの時とは違うのだ。生粋のステイヤーとして期待され、その期待通りに仕上げられたフォームと肉体とは訳が違う。

 彼女はスプリンターだ。誰がどう見たって、彼女の脅威の走りを見れば、トレーナーなら誰だってそう感じる。とても2000mを走らせられはしない。

 

 

桜木「あー.........あのな?君の身体はまだ、そう走るように作られていない。このまま無茶な練習を続けるなら、本当に身体を壊しちまうぞ」

 

 

 半分、脅しの意味を込めて語気を強めた。しかし、目の前のミホノブルボンはたじろぐ様子すら見せずに、その片手で拳を作り、胸へと掲げた。

 

 

ブルボン「.........しかし、私には到達すべき目標があります」

 

 

桜木「目標?」

 

 

ブルボン「クラシック三冠達成です」

 

 

桜木「ああ、三冠ね」

 

 

ブルボン「.........?」

 

 

 そうかそうか.........三冠か.........確かに、それを目指すのなら、長距離や中距離の克服は不可欠だ。けれど、今の状態のままじゃ、スタミナをつける所か、帰って身体を壊しかねない。

 そう言って唸っていると、ミホノブルボンは少し不思議そうな顔をしていた。

 

 

桜木「ん?なに?」

 

 

ブルボン「いえ、いつもこの話をすると、笑われるか諦めろと言われるので」

 

 

桜木「なんで?」

 

 

ブルボン「スプリンターが三冠どころか、そのどのレースにも勝利した事がないからです」

 

 

桜木「へー」

 

 

 そうだったのか。情熱さえあれば何とかしそうだと思ったんだけどな、ウマ娘って。まぁ、世の中そんなに甘くないし、大体は身の程を弁えて走ってるのか。

 けれど、それが実に惜しい。自分の戦績に傷を付けるのが嫌なのか、勝てないと分かりきってるから挑まないのか.........やってみれば案外、良い線いって何かに目覚めるかもしれないというのに。

 

 

ブルボン「貴方は、何も言わないのですか?」

 

 

桜木「言わん。もし君が勝った時に、君を笑った事を恥ずかしく思って生きていかなきゃ行けんし、君が俺の言葉で勝つ勝負を諦めてしまったら、俺は墓に君への懺悔を切り刻まなければならん」

 

 

桜木「それにな。俺の尊敬する人の言葉には今の君にぴったしのものがある」

 

 

ブルボン「その言葉とは?」

 

 

 目の前に居る少女。愚かしくも、スプリンターとしての才能を持ちながら、その道を捨てようとしている。その道を捨て、自身には無い才能が跋扈(ばっこ)しているステイヤーの道を歩もうとする。

 言葉を借りるならあの言葉だ。絶対的強者、圧倒的エリート、身の程知らずを嘲笑い、バカにする者へと送られた言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『落ちこぼれだって、必死に努力すりゃ、エリートを越えることがあっかもよ』ってヤツだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルボン「!!!」

 

 

桜木「勝つか負けるかなんて分からない。レースってそういうものだろ?」

 

 

桜木「それでも、もしウマ娘のレースでお金を賭けられたら君に賭けよう。それくらいして良いほど、君からは熱意を感じる」

 

 

ブルボン「.........それは賭博罪に当たります」

 

 

桜木「知ってるよ。例えばだよ、例えば」

 

 

 ジョークだよジョーク。俺も流石に捕まりたくないからね。

 古賀さんから口を酸っぱく言われたのは金と女関係だ。もう頭が痛くなるくらい言われたし、それをした奴の末路はよく分かっている。しかし、金の方は救いは無いが、女の方は正当な手順を踏めば許されるらしい。まぁそこら辺は色々抽象的でよく分からなかったが

 

 

桜木「とりあえず、君はトレーナーが着いてるんだから、ちゃんと見てもらえ。話は通してるんだろ?」

 

 

ブルボン「.........」

 

 

桜木「.........嘘でしょ?」

 

 

 ここで何も言わない。という事は、つまり今無断で、トレーニングを行っているという事だ。あまりに緊急事態すぎる。

 恐らく、彼女のトレーナーもまた、彼女の目標を笑ったか、諦めろと促した側の人間だろう。トレーナーとしての目線を持つならば、気持ちも分かる。

 え?どうするの?この子の夢を叶える為にまさか本当にNTRするの!?いやいや、ここはしっかりとジャパニーズオハナシ神拳の伝道者としてしっかりと話し合いの大切さをだな

 

 

ブルボン「7分半が経過。体力、走行可能範囲内まで回復」

 

 

桜木「え」

 

 

ブルボン「それでは失礼します」

 

 

 しっかり話し合いしなさいと言う前に、コースを走って行ってしまった。あの子、話聞かないタイプの人間か?

 仕方ない。こういうのはしっかり伝えるのが大人としての責務。そう思い、必死に空鳴る腹の音を意識しないよう、彼女の2000mを見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルボン「はぁ、はぁ.........っ!」

 

 

桜木「ラップタイムとか意識してみるか?」

 

 

 2000メートルを走り切ったミホノブルボンに、アドバイスを投げかけた.........あれ?俺、何言ってるんだ?お前は何してるんだ!?お腹減ってるんだよね!?

 どうやら、ミホノブルボンの2000mを見ている過程で、アドバイスを送りたくなったらしい。仕方ないね、お腹も空いて思考力も鈍ってるし。

 

 

ブルボン「ラップタイム.........ですか?」

 

 

桜木「そう、常に一定の速度を保ち続けながら走る為には、波を作って走るスピード変えるより、到達地点に対する秒数でアプローチした方が良いかもな」

 

 

 ここまで来たなら仕方あるまい。指導はせん。だが言ってしまったからには責任もって最後までやろう。

 

 

ブルボン「了解しました。情報をインプットしました。体力回復次第、測定を開始」

 

 

桜木(どちらかと言えばウォーズマンっぽいな)

 

 

 ふぅーっと息を吐きながら、身体を満遍なく脱力させるミホノブルボン。力の抜き方もまた的確だ。

 そんなことに感心していたが、先より大切なアドバイスがあった。それを伝えなければ。

 そう思い、ターフにどっしりと腰を下ろしながらアドバイスを送った。

 

 

桜木「それと、まずはマイル距離からだ」

 

 

ブルボン「しかし」

 

 

桜木「千里の道も一歩からだ。焦ると逆効果。回り道もまた道だ。景色でもゆっくり見ていこうぜ」

 

 

 ポケットに入れていたココアシガレットを、空腹を紛れさせる為に一本咥える。

 

 

ブルボン「了解しました。ステータスを『おおらか』に変更。『焦らず、ゆっくり』トレーニングを開始します」

 

 

 しっかりと自分に言い聞かせるように、ミホノブルボンはそう言った。案外、話の分かるやつなのかもしれないな。

 次に備えてストレッチを始める彼女の身体を見ると、まだデビュー前とは言え、やはりスプリンターとしてならば大きな活躍をし、その名を十年先にも残せる戦績を上げられると思った。

 けれど、出来ることと、やりたい事は違う。光の線を残す流れ星は、端からそうなりたいとは願っていないのだ。

 

 

桜木「.........よし、これで今日は最後にしよう」

 

 

ブルボン「了解しました。バイタル状態を『平常』から『高揚』へ変更確認。いつでも行けます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走り始めたミホノブルボンのペースは、悪くは無いものだった。まだ若干、スプリンターの走り方ではあるが、先程のような無茶している様子はあまりなく、順調にマイル距離を制覇して行った。

 

 

桜木(アドバイスしてみるもんだな.........)

 

 

 ゴールの地面を踏み抜いた彼女の様子に、あまり疲れは見られない。呼吸の状態も、良好そうだ。

 口に咥えたココアシガレットを噛み砕きながら、ゆっくりと彼女に近付くと、キビっとした動きでこちらに振り向いた。

 

 

ブルボン「.........自己ベスト。更新しました」

 

 

桜木「おー、やるじゃんか。日々の努力の成果だな」

 

 

 ただ立っている彼女に拍手を送る。どうやら、指摘した箇所は的確だったらしい。それでも、難なくそれが出来たのは、日々努力を続けてきた彼女の功績だろう。

 それでも、彼女はその顔を変えることはしなかった。

 

 

桜木「嬉しくないのか?」

 

 

ブルボン「.........」

 

 

ブルボン「ステータス『喜び』への推移を確認」

 

 

桜木「へ?」

 

 

ブルボン「効果的なアドバイスにより、三冠達成へと1歩近づきました。感謝しています」

 

 

 やはりどこか機械的だ。そのうち本当に友情パワーとかインプットしだしそうな勢いだ。ウォーズマンより機械超人しているぞ君は。

 しかし、無表情だった彼女の顔には、彼女の言う通り、小さな微笑みから喜びを感じられた。

 

 

桜木(これもまた、恋.........)

 

 

 一人心の中でふざけながらも、家で腹を空かせたアイツの事を思い出し、俺達はそのまま解散したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「って言うことがあったんだよ」

 

 

マック「そうですか、そんなことが.........」

 

 

 彼が用意してくださった紅茶を一口のみ、ティーカップをテーブルへと静かに起きました。

 チームルームには、いつも通りアグネスタキオンさんとハルウララさん。そして、チームに加わったライスシャワーさんがそれぞれ思い思いに過ごしておりました。

 

 

マック「トレーナーさんはどうしてそんなに手が出るのですか?」

 

 

桜木「え?」

 

 

 ゆっくりとトレーナーさんに近づいてみると、彼はたじろぎながら、私より大きい身体の上半身を、逃げるように後ろへ傾けました。

 正直、我慢の限界です。私という担当が居ながら、チームを作り、あの手この手でメンバーを増やす彼を、このまま見過ごせはしません。

 

 

桜木「マ、マックイーン?顔が怖いよ?」

 

 

マック「ええ、怖くしてるんです。トレーナーさんが真面目に答えてくれるように」

 

 

タキオン「トレーナー君。素直に答えてあげるといい。僕は走るウマ娘が何よりも好きな変人ですってね」

 

 

 いつの間にか置かれていた炊飯器に色々と投入しながら、タキオンさんは茶々を入れてきました。何をしてるのでしょうか?

 ですが、今はそんなことどうでも良いのです。今大切なのは、トレーナーさんが何を思って、色々なウマ娘にちょっかいをかけているのかを知ることです。

 

 

桜木「え、えっと」

 

 

マック「早く言ってくださいますか?トレーナーさん」

 

 

桜木「.........その、やっぱり走ってる姿を見ると、いても立っても居られなくなっちゃうというか、困ってたら助けたいと思っちゃって.........」

 

 

マック「そうですか」

 

 

桜木「はい」

 

 

マック「走りを見てどう思いましたか?」

 

 

桜木「.........素敵だと思いました」

 

 

マック「そうですか.........」

 

 

桜木「マックイーンさん.........?」

 

 

 圧を出しすぎてしまったのでしょうか、彼を横切る私に対して、さん付けしてしまう彼は、とても小さく見えました。

 私は彼の両腕の手首を取りました。後ろから、優しく、ひたりと。傍から見れば、恋人に見えてしまうかも知れません。

 

 

ライス「あわわ.........!マックイーンさん大胆.........!!」

 

 

ウララ「トレーナーとマックイーンちゃんが仲良ししてるー!!!」

 

 

桜木「.........マックイーン.........」

 

 

マック「トレーナーさん.........」

 

 

タキオン「.........いや、待ちたまえ、あれは仲良しなんかではなく.........」

 

 

マック「今日という今日は許しませんわーーーっっ!!!」

 

 

桜木「うげぇぇぇぇ!!!?????」

 

 

 触れていた両手首をがっしりと掴みあげながら、彼の背中に乗り上げました。メジロ家に代々伝わる護身術の一つですが、色々なウマ娘に手を出す今の彼にはぴったりな制裁でした。

 

 

桜木「パロスペシャルッッ!!!??昨日のは伏線だったのかよォォォォッッ!!!」

 

 

マック「この手ですの!!!?他のウマ娘に手を出してしまう悪いお手はっっ!!!!!」

 

 

タキオン「さぁ二人とも。今日は図書室にでも行こう。犬も食わない喧嘩を見るより、本を読んでいた方がずっと有意義だよ」

 

 

ウララ「はーい!!」

 

 

ライス「し、失礼します.........」

 

 

桜木「えー!?助けt」

 

 

タキオン「それじゃあゆっくりと楽しんでくれたまえよ。モルモット君、マックイーン君」

 

 

 手を振りながら、タキオンさんはチームルームの扉を閉めていかれました。これは実に、好都合です。

 

 

マック「さあトレーナーさん?まだまだ悪いお手を矯正する秘伝技は沢山あるのです。反省するまでフルコースで堪能させてさしあげますわ.........!」

 

 

桜木「こうなったら覚悟を決めるっきゃねぇ.........ッッ!!!」

 

 

 トレーナーさんは覚悟を決めたようです。もっと大事な場面でかっこよくなってほしいものですわ。

 

 

マック「では、行きますわよ!!!」

 

 

 その日、とあるチームルームにて、昼休みの間、阿鼻叫喚が響き渡ったそうです。

 

 

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ......To be continued

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