山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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お待たせ致しました。実は先週スマホが故障しまして、投稿が遅れてしまいました…


奇跡を越えろ!URAファイナルズ開催!!!

 

 

 

 

 

 まだまだ真冬真っ只中の二月。寒空の下に多くの人々はその時を今か今かと待ち侘びている。

 場所は山を切り開いた巨大なレース場。[URAファイナルズ]のキャッチコピーは全距離全コースを網羅する前代未聞の大レース。その名に恥じない規模の会場だが.........観客席には多くの人が集まっている。

 

 

桐生院「す、凄いですね。会場も人も.........」

 

 

沖野「ああ、てっきり日本にあるレース場を借りるもんだと思ってたが.........」

 

 

東條「まさかレース会場そのものを作るだなんて.........」

 

 

 呆れ果てている者も居るが、ここに居るトレーナーや多くの人々は俺を含めて理事長には感服するしか無かった。

 なんせ、こんな大規模な開発をしていたにも関わらず、その情報が外部所か、俺達にすら回って来なかった。開催日の今日、急に全員バスに乗せられてここに連れてこられたのだ。

 

 

 .........だが俺自身、何故そんなことが出来たのか。その目星は付いている。

 

 

桜木(ったく、何が白銀コーポレーションだ。こんな事出来るんならもっとまともな社名にしとけ。仕事減ってんぞ)

 

 

 この会場のどこかに一般客として来ているであろう間抜けの顔を思い浮かべる。世間一般で言う白銀翔也という男はバカで通っている。

 それが計算である事を知らずに、アイツらは踊る白銀のミニチュアを手に乗せて笑いながら本物のアイツの手のひらに居るのだ。

 

 

 ざわめきと言うにはデカすぎる喧騒。小さな囁きも会場中で行われればオーケストラにすら引けを取らない。そんな事を強く実感させてくる。

 

 

 しかし、それはやがてレース場に現れた一人の少女によって意図も容易く視線を奪われ、そして静かになった。

 その少女は当然、この場に居る誰もが知る人物。[秋川やよい]理事長であった。

 手には拡声器を持ち、そのスイッチを入れてからそれを口元に近付けた。

 

 

やよい「.........これから、開会宣言を行う前に一つ。今日この場に居る者達、並びに中継を見てくれている視聴者達に、言いたい言葉がある」

 

 

やよい「すぅ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――感謝ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........肉声だった。彼女の声以外の要素が何も乗っていない言葉が、この会場中に響き渡った。

 理事長はそれを言い、辺り一面を見渡してからその言葉の真意を、その感謝の理由を口にし始めた。

 

 

やよい「此度のイベント開催。多くの困難があり、その開催を中止するべきと考えた事が幾度もあった」

 

 

やよい「会場の候補。運営の費用。新レース設立による他レース出資者への配慮。そして何より.........開催決定から、多くの有力ウマ娘達が怪我をしてしまった」

 

 

やよい「多くの事が起きた。だがそれでも、私は今日。この場に立つ事が出来ている.........!!!」

 

 

やよい「私だけでは無いッッ!!!この会場を作り上げた者達ッッ、それに協力してくれた者達ッッ!!!」

 

 

やよい「ウマ娘を育てて来たトレーナー達ッッ!!!怪我をしても決してその膝を折らなかったウマ娘達ッッ!!!」

 

 

やよい「そして何よりッッ!!!今日という日を待ち望んで居てくれた者達のお陰でッッ!!!私は今日この場に立つ事が出来ているッッッ!!!!!」

 

 

やよい「本当にッッッ!!!ありがとうッッッ!!!!!」

 

 

 心のこもった言葉。結局拡声器を使ったのは最初だけであり、後半は少し声がガラガラしていた。

 無理も無いだろう。いくら声が大きい理事長とはいえ、この会場中に自分の声を響かせるなんてのは無理な話だ。けれど彼女はそれをしようとした。

 そしてそれは現に、この会場に居る人達に伝わっている。

 

 

東「理事長.........!一生、付いて行きます.........!!!」

 

 

黒沼「東、まだ泣く時じゃないだろう。気持ちは分かるが」

 

 

南坂「そうですね。まだレースも始まっていないのに、心が震わされた気がします」

 

 

 見知った顔の人達も数人涙を浮かべている。彼女の心の熱が伝わって、皆熱くなっている。

 だが、そうならない者ももちろん要る。

 

 

神威「おー。流石理事長だなぁ」

 

 

桜木「泣いてもいいんだぞ?創」

 

 

神威「バーカ。俺が泣く時は[推し]が勝った時だけだっつーの」

 

 

 愛想の無い顔でわざとらしい身振りを付ける。変な奴だと思われるが、俺らはこれがコイツの自然体だと言うのを良く理解している。

 つまり、今この状況に浮かれていない。と言っても良い。

 

 

桜木(.........始まっちまうんだな。遂に)

 

 

 心待ちにしていた自分が居る。その一方で、今日という日は永遠に来ないんじゃ無いかとさえ思っていた自分も居た。

 今日この日、この場所にたどり着くまでの距離が長すぎて、本当にこんな場所があるのかなんてすら、思ってしまった。

 それでも俺は、この場に立っている。今までの経験と挫折をしっかりと味わい、そして心の傷となっていても.........この足で、この場所に立つ事が出来ている。

 

 

 そして何より、[全員居る]。誰一人欠けることなく、この大きな舞台に連れてこれている。そう思うと、既に満足感は限界近くまで高まってしまっていた。

 

 

デジ「これから始まるんですね!世紀の大レースが.........!!!」

 

 

桜木(.........まぁ一人だけベンチみたいなもんだけど)

 

 

桜木(来年は、君もあそこに立つんだぞ?デジタル)

 

 

 青々と広がる広大なターフと、その内側にあるダートが見える。彼女が果たしてどちらを選ぶのかはまだ分からない。

 可能性は無限大。狭める事は絶対にしたくない。彼女の選択で、彼女の思いであの場に立たせてあげたい。

 

 

 そんな事を思っている内に、理事長の言葉は終わり、そして遂に、選手達の入場が始まった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は着々と進んで行きました。理事長の言葉。生徒会長の選手宣誓。そしてそこから始まる予選レース.........

 日を跨ぎながらも、ダート。短距離。マイル。中距離の予選が終わりを告げ、遂に私が出る長距離レースが始まりました。

 

 

 距離は3000m。病に陥る前は私の実力が発揮しやすいレース距離だと自負していましたし、正直レースに出走する前は不安なんてありませんでした。

 

 

 しかし.........

 

 

マック「はぁっ.........はぁっ.........」

 

 

 息の戻りが遅い。身体がまだ目覚めた直後の様な感覚で、思うように回復してくれません。

 両膝に手を着きながら、新鮮な空気を吸い込む為に落ち着いて息を吐き出します。

 そして、その息を吸い込む傍ら、一体どのような形で一着を取ったのかを確認しました。

 

 

マック「―――っっっ」

 

 

 .........息を呑みました。目を見開き、そして実感しました。やはり、私の身体は戻っていない.........病を克服しているだけで、あの時までの[メジロマックイーン]には程遠い事を、実感したのです。

 

 

 着差は[1/4バ身]。予選レース。全力の走りを見せてのこの結果。勿論、一着には変わりありません。

 しかし、同じ距離で違うブロックにて先に勝利を果たしたブルボンさん。ライスさんは共に[三バ身以上]の着差を見せています。そして走破したタイムも.........私よりも早いです。

 

 

マック(どう、しましょう.........)

 

 

マック(このまま、じゃ.........)

 

 

 苦しい思いを胸に、顔を上げてターフから離れる時。いつも感じる視線はありませんでした。

 羨望。畏怖。憧憬。今にして思えば、あの頃の私はそんな目を向けられていたのだと分かります。しかし、現在はそれを感じる事はなく、あるのはただ.........

 

 

「メジロマックイーン、あんな走り方だったっけ?」

 

 

「もっと圧倒的だったよな.........」

 

 

「やっぱり、繋靭帯炎のせいで.........」

 

 

マック「っ.........」

 

 

 そんな言葉が耳に入ってくる。この時だけはウマ娘の聴力が強い事を恨みました。しかし、その言葉は結局自分が感じている物。彼等彼女等はそれを代弁してくれているに過ぎません。

 観客に向かって平然を装いつつ、私は頭を下げました。

 

 

 次はこうならない。

 

 

 次こそは完全な[復活]を。

 

 

 次は。

 

 

 次は.........

 

 

 .........[次]、こそは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [メジロ]の名に相応しい、[ウマ娘]に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 URAファイナルズが始まった。俺達のチームは既に予選を終えて、次は準決勝。それに備えてのトレーニングをする期間へと入っている。

 朝方のチームルーム。いくら大規模なレースがあったとしても学園生。今の時期はまだ春休みでは無い為、皆教室で勉学に励んでいる。

 しかしそんな中、一人だけ俺のチームルームに顔を出してきた存在が居た。

 

 

『失礼するわ』

 

 

桜木「?あぁ、どうぞご自由に」

 

 

 やってきたのはマックイーンのウマソウルである。名前は彼女と同じみたいでややこしい為、本人からはミスターM。俺達は親しみを込めてMさんと呼んでいる。

 最近はこうした行動は珍しくない。特に面白みも無い時間をマックイーンが過ごしていると、彼女は退屈して外に出てきてしまう。

 無論、姿が見れるのは俺とマックイーンしか居ないので、暇を潰すとなったなら大抵俺の所に来る。

 

 

 しかし、今日はそんな暇潰しでは無かった。それを彼女の憂いた表情が何よりも物語っていた。

 

 

『一つ、聞いて良いかしら?』

 

 

桜木「ちょっと待ってね。おっけ。いつでもいいよ」

 

 

 長丁場になりそうなので俺は携帯をポケットから取りだし、傍から見ればあたかも電話している様に見せかける。

 これは最近Mさんが考えた会話法で、とても役に立っている。ぼーっとしている人に話しかける人は沢山居るが、電話している相手に話しかける人はそう居ない。

 実際、これのお陰で彼女との会話を邪魔されずに済んでいる。

 

 

『あの子の事よ。貴方も何となく気付いてるんじゃない?』

 

 

桜木「.........そりゃ、まぁ。トレーナーですから」

 

 

『焦っているわ。本来の実力を出せなくて苦しんでいる。このままだと、復活所かまたあの日の二の舞になるわよ?』

 

 

 深刻な表情でそれを告げる彼女に、俺は背を向けた。窓の外には雲に覆われた空とターフが広がっている。雪ん子一つ無い二月には未だ慣れていなかった。

 彼女の言う[あの日]とは、きっとマックイーンが[繋靱帯炎]を発症して初めて俺と出会った時の事だろう。あの時のマックイーンは確かにその足に強い痛みを抱きながらも、練習場に居た。

 心の中で先程の問いについて自分なりに答え合わせをしてみる。以前決めた事だが、もしかしたら今なら違うかも知れない。そう思い思考を張り巡らせたが、出てくる言葉は前と同じ。

 [そんなもの、重々承知している]。一年のブランク。それも日常生活ですら激痛を伴う不治の病。骨折とは違う日々の痛みが、彼女の本能に刷り込まれている。

 その上、最初は[折れていた]。テイオーとは違い、その心は完全に折れ切っていたんだ。身体は急速にレースに使うその感覚を外に出して行くに決まっている。

 

 

 だが、それ込みで承知したのだ。俺も彼女も。厳しい期間になると知って尚挑んだレースなんだ。今更見当違いだったはガキでも通らない持論だ。

 

 

『.........どうするの?何か、策は練っているの?』

 

 

桜木「こればっかりは気付いて貰うしかないよ」

 

 

桜木「何が彼女の力に、[鍵]を掛けているのか.........」

 

 

 思い込みか、それとも自己暗示か。もしかしたら無意識かもしれない。彼女の身体は既に、全盛期のそれとほとんど変わらない所まで戻って来ている。

 それでもあんなレースをしてしまっているのは、[心の問題]以外には考えられない。それを乗り越えられるのは、彼女自身しか居ない。

 

 

桜木「何かが変わらなきゃ行けないんだ。今までの心の有り様じゃ多分、力を発揮出来ない」

 

 

『.........だとするならば、彼女の走る根幹にある物に[答え]を見つけなくちゃ行けないわね』

 

 

 窓から振り返り、Mさんの方に身体を向ける。その表情はその根幹。彼女が走る[理由]についてはどうやら察しは付いているようだった。

 俺もある程度は目星は付いている。恐らく彼女が走る理由は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[誇り]だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [メジロ]としての[誇り]。それが彼女をあの日まで走らせて来た。疑った時もあっただろう。一度外に追いやった事もあるだろう。

 それでもそんな大きい物は手放そうとすればするほど、自分の中で強く輝きを見せる。ある場所に置いてきてもそれが強い光源となり、自分の進むべき道を照らす光となっているだろう。

 決して捨てる事は出来ない。けれど、その[誇り]がなんなのか。どんな形をしていて、どんな意味を持っているのかは光が強すぎてはっきりとしない。

 一つだけ言える事は.........その光を持ってしても、進めなくなってしまった時期があった事だ。

 

 

桜木「大事なのは根幹を[捨てたり]、[変えたり]する事じゃない」

 

 

桜木「それがどんな[力]を持っていて、どう扱えば自分の[力]を最大限まで引き出せるのか.........それが、このURAファイナルズを勝ち抜く唯一の方法になる」

 

 

『.........流石、[夢]を一度諦めただけの事はあるわね?』

 

 

桜木「はいバッドコミュニケーション。今ので玲皇ちゃんの好感度が1下がりました〜」

 

 

『どうせ桁名称も分からないくらいあるんでしょ?1くらい良いわよ。すぐ上がるもの』

 

 

 おやおや。バレてしまいましたか。さてはギャルゲープレイヤーだな?

 .........なんてバカな事を考えていても、結局時間が経てばあの子の事ばかり考えてしまう。他のチームメンバー。ウララですら予選のダートレースは不安点が無かったんだ。今は彼女を心配しても許してくれるだろう。

 

 

 彼女の様子を見ると、取り敢えずは納得したようだった。俺も息を吐いてスマホをポケットにしまい、棚からマグカップとココアの粉末を取り出した。

 

 

桜木「あ、飲む?」

 

 

『気にしないでいいわ。繋がってるもの』

 

 

 そう言われて俺も気負うことなく、一人分のココアを作り始めた。暫くすると甘い香りがチームルーム内にたちまち充満してくる。

 粉末と少量のお湯。十分かき混ぜてから冷蔵庫にある牛乳を取り出して入れる。母から教えてもらった作り方。ひと手間掛けるだけでとても美味しい。

 

 

桜木(URAファイナルズ.........思っていた以上に、荒れそうなレースだな)

 

 

 外は相変わらずの曇り。窓は風でキリキリと鳴いている。一筋の不安を大きくするようなそれに、俺は覚悟を決める事を余儀なくされたのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐生院「予選は難なく突破出来ましたが、準決勝ではそれ以上の強敵が沢山居ます。気を引き締めて行きましょう。ミーク」

 

 

ミーク「はい......がんばります」

 

 

 勉強の時間が終わり、ターフには多くのウマ娘とトレーナーが集まっていました。URAファイナルズ。最大規模のレースという事もあり、練習に熱を入れる人達も普段より沢山居ます。

 今回、ミークはダートレースにエントリーしています。初戦は上々。しかし油断は出来ません。

 

 

 今日は予選で得た課題の提示と、それの克服の為にトレーニングを組もうと思っていました。

 けれど.........

 

 

「あっ!!ミークちゃん!!」

 

 

桐生院「!ウララさん。こんにちは」

 

 

ウララ「この前の予選凄かったねー!!ビューンって感じだった!!」

 

 

 現れたのは同じダートレースにエントリーしているハルウララさん。私の同期である桜木さんのチームの一人です。

 ミークと会話している間、私は彼女の鍛えられた身体に注目しました。先日出場した有馬記念。そこを走り切る為にこなしたトレーニングの影響で筋肉の充実度が以前とは比べ物にならなくなっていました。

 

 

ミーク「ウララちゃんも......凄かった......です」

 

 

ウララ「ほんとっ!!?えへへ!!ありがとー!!」

 

 

桐生院(有馬記念は勝ち切れませんでしたが.........それの経験はしっかりと生きている)

 

 

桐生院(スマートファルコンさんやシンコウウインディさんも優勝候補ですが、やはり気を付けるべきは.........)

 

 

 ひたむきさ。実直さで勝負するなら恐らく、ミークとは良い勝負。しかしミークと違い、彼女は適正の無い距離とコースを走り切れるまで成長した実績もあります。

 油断は出来ない.........特に、[彼]が見ているなら.........

 

 

ウララ「桐生院さんっ!!」

 

 

桐生院「!なんでしょう!!」

 

 

ウララ「あのねあのね!!ウララ、ミークちゃんと一緒にトレーニングしたいっ!!」

 

 

桐生院「.........え!!?」

 

 

 予想外の言葉が彼女から出てきた。普通ならばそんな事、口が裂けても言えない事だから。

 けれど[彼]の見るウマ娘だから、そういう常識は通用しない。勝ち負けを根幹とせず、己の成長を軸とした指導をしている彼の元に集まる子は、そう言った利害や利益を損得勘定したりしない。

 どう応えるべきか。私はキラキラとしたハルウララさんの瞳から逃げる様にミークを横目で見ると、彼女も同じような目で私を見ていた。

 

 

ミーク「トレーナー......ミークも、ウララちゃんとトレーニング......したい。です」

 

 

桐生院「.........分かりました。ハルウララさん。桜木トレーナーにちゃんと言うんですよ?」

 

 

ウララ「大丈夫だよ!!トレーナーに言ったらね!!てきじょうしさつ?して来てねって!!」

 

 

桐生院(.........鬼ですね。あの人)

 

 

 これが他の方だったら私もその言葉を聞いて共同トレーニングを取り消していたけど、寄りにもよってハルウララさんを仕掛けて来るなんて.........質の悪い人だ。

 もう既に二人はやる気満々。あの人の事だからこれを逆手に取って情報を盗む事は無いと思いけれど.........それでもやっぱり、他のトレーナーとは違うと思わされてしまいます。

 

 

桐生院「.........ではとりあえず、坂路から始めましょう!!」

 

 

二人「はーい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「127、128、129.........130!!!」

 

 

フェスタ「記録更新。やるなゴルシ」

 

 

オルフェ「流石ゴルシちゃん!!アタシ達の妹なだけあるよね!!」

 

 

 学園内の筋力トレーニングルーム。アタシはそこで姉ちゃん達と一緒にバーベル上げをしていた。

 URAファイナルズ.........アタシらの世界じゃもう常識っつーか恒例行事みたいになってちまってるが、ここじゃーまだ1回目。ファン達の熱狂もすげーもんだって肌で感じちまった。

 

 

フェスタ「それにしても、まさか中距離に鞍替えすっとはな。なんか理由でもあんのか?」

 

 

ゴルシ「テイオーに譲ったっていやー聞こえは良いけどよ。実の所アタシ、長距離より中距離の方が得意なんだよな〜」

 

 

フェスタ「そうだよね〜。ばあばに教えて貰ったりしたけど、そんな上手くは行かないよ〜」

 

 

 ここに居るアタシら。そして未来に居る一番上の姉ちゃん含めて長距離は言うほど得意じゃねー。母ちゃんは根性あっから結構走れっけど.........やっぱ婆ちゃん。マックイーンみたくは行かねーんだ。

 

 

ゴルシ「それによ!!アタシ宝塚二連覇したからっ!!すげー快挙だろ!!?あと一勝で三連覇だったんだぜ!!?」

 

 

フェスタ「ゲートの中で無くした五百円玉ポケットから見つけて飛び上がらなきゃ勝てたのにな」

 

 

オルフェ「ゴルシちゃん。おバカだよね」

 

 

ゴルシ「はいバッドコミュニケーション。今のでゴルシちゃんの好感度が1下がりました〜」

 

 

 全く。油断も隙もありゃしねーぜ姉貴達はよー。別に良いじゃねーか。あの五百円で焼きそばが買えるか買えないかの瀬戸際だったんだぜ?喜ぶだろ普通。

 

 

 .........でも本当の所言うと、マックイーンのレースをちゃんと見たかったんだ。本来だったら有り得ない歴史。ぶっ壊された運命の先に、どんなドラマがあんのか.........アタシはそれを純粋に見たくなっちまった。

 

 

ゴルシ(.........まぁでも、長距離だろうが中距離だろうがアタシのやる事は変わんねー)

 

 

ゴルシ(あの日受けた物.........きっちり舞台整えて返してやっからよ.........!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(待ってろよ.........!白銀.........!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テイオー「はぁっ.........はぁっ.........はぁぁぁ〜.........もうヘトヘトだよ〜」

 

 

 地面にお尻と両手をつきながらボクは空を見上げた。少し天気は悪いけれど、運動と体温で出てきた汗を乾かすには丁度良い天気だった。

 そんなボクにトレーナーが近付いてきて、給水用のドリンクを渡して来てくれた。ボクはそれを貰ってとにかく一口付けて口の中を湿した。

 

 

テイオー「ぷはっ、助かった〜!ありがとっ、トレーナー!」

 

 

沖野「大分体力が着いてきたな。実感はどうだ?」

 

 

テイオー「うんっ!大きい兎跳びで長距離コース一周!!目標タイムもしっかり切れたから順調だよ!!」

 

 

 口元を拭ってから、ボクは後ろを振り返った。そこにはさっきまでボクが一周していたコースがある。

 長距離レース.........今までのボクがつまづいていた難関。何とか技術や能力差で勝てていた時もあったけど、やっぱり得意なウマ娘とやり合うと勝ち目は殆ど無い。菊花賞のアレだって、本当に運が良かっただけなんだ。

 

 

 けれどここに来て、ボクは成長を実感している。今のボクだったらきっと、あの天皇賞の時のマックイーンにだって.........

 

 

「随分と精を出しているな。テイオー」

 

 

沖野「!その声は.........」

 

 

 トレーナーの後ろから声が聞こえて来た。ボクのよく知っている声。現実でもテレビでも、何度も聞いたその声をボクが間違えるはずが無い。

 トレーナーの身体から顔を出して見てみると、そこにはやっぱり思った通りの人が立っていた。

 

 

テイオー「カイチョー!!!」

 

 

ルドルフ「身体は万全そうだな」

 

 

テイオー「うん!!あのね!!骨折してからタキオンの特性アイジングスプレー使わなくなったらさ!!治りは遅いけど、前より丈夫になった気がするんだー!!」

 

 

沖野「テイオー。嬉しいのは分かるが、それだと語弊があるぞ.........」

 

 

 そう言われてボクはハっ、としたんだけど、カイチョーがクスリと笑ってくれたから誤解なく伝わってるんだと感じた。

 タキオンの作ってくれたアイジングスプレーは[菊花賞前の骨折用]。つまり、急速的に骨を元の状態に戻す効果を持っている。これと安心沢先生のお陰でボクは菊花賞に出る事が出来た。

 でも、それを骨折の度に使うと、身体の筋力は成長していくけれど骨は元のまま。骨折した事も忘れた様になるから、実質折れた後の丈夫さも無くて、前より骨折の危険性が高まっちゃうんだ。

 

 

ルドルフ「やはり彼女は凄いな。私もあのような頭脳があったならば、違う形で君達を支えられただろう.........」

 

 

沖野「.........生徒会長。それってつまり?」

 

 

ルドルフ「ふふっ、私も。[URAファイナルズ]に出たかった」

 

 

テイオー「!」

 

 

 ボクの背後。その遠くに走る誰かを見ながら、カイチョーはそう言った。その顔に恥ずかしさは無くて、それがなんだかとてもカッコよく思えた。

 そしてボクはそのカイチョーが見る視線の先を見ると、そこには.........

 

 

沖野「.........[あの二人]。ですか?」

 

 

 遠くには、苦しそうな表情を見せながらタイヤ引きをしているマックイーンと、それを指示しているサブトレーナーが居た。

 カイチョーはその言葉にただ黙って頷いて、直ぐに口を開いた。

 

 

ルドルフ「彼女の長距離スキルは、明らかに私を[超えている]」

 

 

テイオー「えぇ!!?」

 

 

ルドルフ「いくら安定する先行策と言えど、セオリーは皆が知っている。基本中の基本だからね」

 

 

ルドルフ「そして、そんな搦手など多用できない作戦で勝ち続けている.........」

 

 

ルドルフ「[つまらない]と言われるレースをする者同士。一体どっちが勝つのか.........ふふ」

 

 

 頭の中できっと、マックイーンとのレースを想像しているカイチョー。ボクにもその気持ちはとても良く分かる。

 マックイーンは凄い。ボクも先行で走るのは得意だけど、やっぱり他の子がどんな動きをするかで色々変わってきちゃう。

 でもマックイーンは違う。例えどんな相手でも、どんな環境でもやる事は変えずに、ただ勝って行く.........見る人が見ればつまらないレースかも知れないけれど、ボクにとっては.........

 

 

テイオー(.........[憧れ]なんだ)

 

 

テイオー(そんな[絶対的]な強さを持つ君が。今のボクにとっての、[目標]なんだ)

 

 

テイオー(だから―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――絶対、[復活させる]。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この、URAファイナルズで.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 厚い雲に覆われた太陽。それでも日没間際にはその明るさで雲を染め、茜色を広げて居ました。

 

 

桜木「お疲れ様。マックイーン」

 

 

マック「.........ありがとう、ございます」

 

 

 彼から渡されたスポーツ飲料。それを受け取りながらも、何故かそれを開ける気が起きませんでした。

 そんな私を見て、トレーナーさんは心配そうな表情をしましたが、それも一瞬でした。

 

 

桜木「.........焦ってる?」

 

 

マック「それは!.........もう」

 

 

桜木「.........そっか」

 

 

 それだけ。それだけ言って彼は、私から背を向けて歩いて行きました。もう少し、言葉が欲しい.........誰のでもない。貴方の声で.........そう思ってしまうのはきっと、私が [弱い]からなのでしょう。

 そんな彼の後を追わずに居ると、彼はおもむろにベンチに座り、その隣をトントンと叩きました。

 

 

 その仕草を見ただけで心を動かしてしまう。そんな自分に違和感を覚えながらも、私は彼の隣に座りました。

 

 

桜木「マックイーンはさ、何で焦ってるのか自分で分かる?」

 

 

マック「.........このままでは、勝てないからです」

 

 

桜木「勝てないと、なんで焦っちゃう?」

 

 

マック「それは.........応援してくださる方が、居るから」

 

 

マック「応えたい期待も、叶えたい想いも.........沢山.........!!!」

 

 

 ボトルを掴む手に自然と力が入ってしまいます。今の自分の不甲斐なさ、無力さを外に出してしまっている.........その行為自体に、私は自分の[弱さ]を感じて更に自己嫌悪に陥って行きます。

 そんな私の手を彼は上から触れ、そして包み込んでくれました。その手に驚きながらも彼の顔を見ると、その表情は優しく柔らかい物でした。

 

 

桜木「マックイーン。今回のレースはあの[黒い勝負服]を着てくれただろ?」

 

 

マック「.........はい」

 

 

桜木「.........アレはさ。言っちゃえば俺達の[始まり]なんだ」

 

 

桜木「[チーム]としての始まり。俺の[トレーナー]としての始まり。そして、君の[レース人生]としての始まりだった」

 

 

 優しい声で彼は言いながら、遠くの空を眺めていました。その方を見ると、先程まで雲に隠れていた太陽が顔を出し、世界を照らす姿があります。

 .........私も、そう思っていたんです。あの[勝負服]が全ての始まりだと思ったから、URAファイナルズの発表ステージで着て、そしてその姿で走ってきたのです。

 

 

桜木「だからさ。ここからまた始めればいいんだよ。急に元に戻す必要は無い」

 

 

桜木「それに、マックイーンの事だから直ぐに完璧に戻る所か、その完璧すら[超える]だろうしね!!」

 

 

マック「!.........もう」

 

 

 先程とは違う満面の力強い笑み。それを全て彼は私に向けて下さる物ですから、つい私も頬を緩めてしまいます。

 

 

 .........そうです。ここからまた始めれば良いんです。焦らずとも、またトレーナーさんとチームの皆さんで歩めば自ずと元の場所に戻れるはずです.........

 

 

 .........そう―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [メジロ]に相応しき[ウマ娘]に、また.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........何さその顔」

 

 

桜木「.........はァ!!?別に良いだろ好きなんだから!!!」

 

 

マック「.........?」

 

 

桜木「はんっ、良いもん別に見られたって!!!理事長にはバレてるし?逆に見せつけて「あの.........」.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どなたと話されているのですか.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........ぇ」

 

 

 一人で勝手に喋り始めたトレーナーさん。まるで今そこに誰かが立っているかの様に振舞っている姿を見て、私は恐怖しました。

 しかし、そのあとの彼の反応。まるで私にも見えているという前提が覆されたかのような表情と声で、その恐怖は別の物へと変わって行きました。

 

 

桜木「.........まさか、マックイーン」

 

 

マック(っ、違う.........そんな訳ない。お願い.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[Mさん]が見えないの.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――URAファイナルズが開幕した。

 

 

 おびただしい程の物語が渦巻く大レース。

 

 

 一人一冊の物語が出来上がってしまう程、このレースに向けられた思いは重く、強大である。

 

 

 しかし、そんな一冊などではまとめきれない[物語]が今、ここにある。

 

 

 そしてそれは確かに.........[最終巻]の最初に、インクを走らせるのであった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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