山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
冬の寒さがようやく少し和らいできた二月の下旬。本来であるならば春の訪れに期待して心にも余裕が出てくる季節だが、今年から.........いや、今回だけはそうも言っていられない。
マックイーンが自分のウマソウルの姿を見る事が出来なくなった。それが本来の形だと言うのならそれも仕方ない事だろう。彼女がそう言うのなら俺も受け入れるだけだ。
しかし、その肝心のウマソウル本人は今も俺の隣に居る。アレから何度も彼女の心に戻ろうとしたらしいが、残念な事に成功した試しが無い。
桜木(.........どうするの?)
『.........どうしたもこうしたもないわよ。今はこうするしかないわ』
「順調に決勝出場者が決定してきています。URAファイナルズ長距離準決勝。Dブロックのレースが今開始されます」
落ち着いた実況の声を聞き流しながら、ゲートに入るマックイーンの姿を目で追う。そこにはいつもの様に落ち着きを払い、静かに精神を統一する為に手を合わせる彼女の姿がそこにあった。
流石.........と言いたい所だが、そんな姿は仮初の物だと俺でも分かる。彼女は今、とんでもない混乱と苦境の中に立たされている。
隣を浮遊霊のように漂う彼女のウマソウルに目を向けるが、彼女も苛立ちを抑えながらマックイーンの事をただひたすらに見守っていた。
デジ「お願いしますお願いします.........!勝って下さい勝って下さい.........!!!」
桜木「.........[奇跡]頼りはやめとけデジタル。いざと言う時実力が出せなくなるぞ」
両の手を合わせて擦り合わせるデジタル。何かに懇願するその姿を見て、危機感を覚えてしまう。
走るのは彼女だ。それに目を向けずに居てどうする。頼むのなら[奇跡]ではなく、走る本人に願いを送るべきだ。
そんな俺の言葉を聞き入れた彼女は不安そうな表情を見せながらも、俯いていた顔を上げてしっかりとマックイーンの方を見ていた。
桜木(長距離ブロック準決勝は3600m.........春の天皇賞を二度も勝っているとは言え、流石に未知の領域すぎる.........)
桜木(しかも、同じ出走メンバーには発表ステージの上に居た[ブライト]も居る)
一筋縄では行かない。浮かない表情に険しさを上塗りした顔のまま、彼女はゲートインを果たした。心做しか、手を合わせるその仕草。ルーティンですらぎこちなく目に映る。
『.........行ってくるわ。一人で走らせるのは、まだちょっと怖いから』
桜木(!.........うん。そうだね。二人はいつも、一緒だったもんね)
ふわりと浮遊して彼女は俺の傍から離れ、ゲートの中に居るマックイーンの傍に着いた。そんな彼女を、マックイーンは感じ取ることすら出来ていない。
理由は分からない。何故今、この時にマックイーンが彼女の姿を見れなくなってしまったのか.........流石の俺も超展開過ぎて理解を拒んでいる。
桜木(.........俺も、[見失っている]点で言えば同じ様なもんか.........)
桜木(何を信じるのか.........見つけなきゃ行けない)
桜木(繋がり続ける為には.........勝利じゃない、何かを)
パズルのピースは埋められている。あと本当に少しなんだ。あと何個か当てはめるだけで、大きな絵画が完成する。その数ピースを、俺はどこかで無くしてしまっている。
拳を握りしめながら、武さんや能面に言われた言葉を思い出しながら、俺はただ、レースが始まるのを黙って見ていた.........
ーーー
「準決勝長距離レースDブロック!!勝利したのはメジロマックイーンっ!!!」
「決勝への切符をその手に確かに掴み、[名優]の名に恥じない勝利を見せつけましたッッ!!!」
マック「はァ.........はァ.........ぐっ」
.........何が名優の名に恥じない。ですか。一着は取れたものの、着差はクビ差。どちらが勝ってもおかしく無い勝負でした。
前回と同じ様に両膝に手を着き、額から流れ出る汗すら脱ぐう事もできない程消耗した体力に目を向ける事無く、ただ息を吐くだけ。
.........意識を集中させれば、周りの声は聞こえなくなる。そう、今はただ、自分の身体を心配すれば良い。人々の期待や、願いを叶える余裕は.........今はまだ無いのですから.........
―――さま、マックイーンさま」
マック「っ!ブライト.........」
ブライト「良いレースでした。マックイーンさまと一緒に走れて、とても光栄でしたわ」
いつもの様な柔和な笑顔を見せながら、ブライトは手を伸ばしてくれました。それに応えるように、私は手を伸ばして行きます。
マック(.........この手を握る資格が、私にあるの?)
伸ばしていた手が、魔の差した思考で瞬時に静止しました。どうしてそんな事を考えたのか。何故そう思ったのかは自分でも分かりません。
ただ.........この握手を、本当に観客が求めている物なのか分からなかった。
[名優]に成り切れない私が、皆さんの求める物を提供出来るのか.........
.........結局、彼女との握手はぎこちなさを残したまま、終わりを迎えるのでした.........
ーーー
タキオン「.........」
ブルボン「タキオンさん。集中力が平常時の70%程まで落ちています。何かありましたか?」
タキオン「あぁいや。大した事ではあるが.........今の私がするには過ぎた考え事だよ」
URAファイナルズが始まり、準決勝も終わりを迎えようとしている。私達の所属しているレグルスもスピカも参加者は皆、そのレースを無事勝利で終わらせる事が出来た。
残るは決勝。そんな大きなレースの前。トレーニングをしつつも私はついついその効果の事より、どうしても気になってしまう事があった。
ライス「タキオンさんっ、ら、ライス達にも話して欲しいな.........!」
ブルボン「解決出来ない可能性は大きいですが、少なくとも気分は晴れるはずです」
タキオン「.........マックイーンくんの事だよ」
その名を出すと、二人の表情は一層憂いた物となった。こうなる事が予想出来たから、私は極力話したくはなかったんだ。
だが気が付いたら、口にしてしまっていた。彼の分かりやすさもどうやら私に移ってしまっているらしい。
タキオン「.........君達も分かるだろう?今の彼女の[異常さ]に」
ライス「うん.........マックイーンさん。何だか苦しそうに走ってる.........」
ブルボン「疲れによる確率は10%未満。恐らく他の要因でマックイーンさんは実力を発揮出来ていない物と思います」
タキオン「それが一体何なのか.........こんな事ならもっと、人の心に関連した研究をしておくべきだったね」
歯痒い感覚だ。チームでありながら、何かによって力を発揮出来ない彼女を、私は助ける事が出来ない。
.........彼と出会う前の私なら、きっと切り離していただろう。だがチームでの生活を通して、テイオーくんの事を通して私は、[誰かが助かる]という道を模索するようになってしまった。
タキオン(.........恨みなんてないさ、もしあるとするならば―――)
タキオン(―――君が、彼女を[諦めた時]だ)
タキオン([信じている]よ。トレーナーくん)
科学者らしくない。今の自分でもそう自己評価を下せてしまうくらいの思考。科学に基づく者ならば、実証と再現性を担保してから物を考えるべきだ。
.........だが私は[アグネスタキオン]だ。[機械]や[AI]などでは無い。生きている存在だ。神様なんて物は今更信じる事は出来やしないが、それでも、信じる事しか出来ない.........
あの二人が、[奇跡]を[超える]事を.........
ーーー
「メジロマックイーンさんだ!」
「凄いっ!本物初めて見ました!」
「ファンなんです!握手して下さいっ!」
私の周りにおびただしい人が集まっている。しっかりと私の目を見て話をしてきてくれているはずなのに、何故かその顔がハッキリと見えてはくれない。
あぁ.........夢だわ.........こんな夢を見るなんて.........なんて俗物的なのかしら.........
多くの人がそれぞれ自分の話したい事を話しながら私を推し潰そうとする勢いで迫ってくる。息苦しいと感じ、夢だと知りつつも、私はその人達を無下に扱う事は出来なかった。
そんな時.........視界の端に、少し離れた場所で背を向ける人が居るのが見えた.........
マック「っ、トレーナーさん!!!」
私は叫んだ。お腹に力を込め、人々の声で自分のそれが掻き消されない様、彼に届かせる為に.........
けれど彼は振り向いてはくれない。それどころか、私から遠ざかって行くようにその足を進めて行く。
私は思わず、人々を押し退けて彼を追い掛けた。
マック「待って!!!行かないで!!!」
「うわ、なんだよアレ」
マック「お願い!!置いて行かないで!!」
「メジロマックイーンってあんな感じなんだ.........」
マック「連れて行って.........!
「ありゃダメだな。ファンやめよっと」
マック「.........ひとりに.........しないで.........」
悲しみ。苦しみ。焦り。そんな感情が胸の内で一緒くたにされ、大きくかき混ぜられてしまった様な感覚。それがどんな言葉で言い表せるのかなんて到底思い付かない程、酷い気分になった。
彼に追いつこうとすれども、その差は縮まらない。背中から聞こえてくるのは、失望と落胆の声.........
その二つに板挟みにされた私は、最終的に何も出来ずにその場に留まるのでした.........
―――夜は明けていない。ぼんやりとした頭と視界で捉えたのは、窓一面の暗闇。夢の時間はいつの間にか、終わりを告げていた.........
マック(.........酷い夢だったわ)
マック(なんで、あんな夢.........)
思い出しただけでも苦しい。まるで触れられたくない部分を逆撫でされる様な嫌悪感と憎悪が湧き上がるものの、窓から背を向け、掛け布団を手で引き寄せてもう一度眠りにつく為に目を閉じた。
(―――私は[どっち]を取るの?)
時計の針が動く音。世界の音はそれだけで時間が進んでいる事を知らせている。心に浮かんだ疑問とその音が、もう一度私の目を開かせた。
普通はそんな事を考えない。
考えるまでも無い。
じゃあどうしてそんな事を.........?
.........[弱い]から。
心が弱いから。
身体が弱いから。
理想が弱いから。
気持ちが弱いから。
誇りが弱いから.........
理由はいくらでも挙げられた。それを否定出来るものは何も出てこなかった。
マック(っ、行けないわ。いつまでもあんな夢の事を引き摺って.........もう寝なきゃ)
寒さは感じない。感じないはずなのに、何故か身体が震えてしまう。身体の末端がまるで雪に触れているかのように冷たく、そして硬い.........
あと数日も経てば、URAファイナルズの決勝戦が始まってしまう.........だと言うのに、私は未だに、得体の知れない恐怖を克服できずに居た.........
ーーー
桜木「.........」
夕暮れが空を染める時間。外を見ればまだトレーニングに精を出すウマ娘達とそれを見守るトレーナーが疎らに居る。
彼ら彼女らはまだデビュー前からシニア期の最初に居る子達だ。これからの未来がどうなるか。それを自分で選び、掴み取るために日々鍛錬を積んでいる。
俺は今、スピカの方のチームルームに居る。URAファイナルズの決勝戦は遂に明日.........出場する子達はもう、トレーニングを切り上げて備えている。
未知への期待と微かな不安を明確にする為に思考に探りを入れていると、不意にチームルームの扉が開けられた。
沖野「桜木。そろそろ皆来るぞ?」
桜木「はい。心の準備は出来ています」
入ってきたのは沖野さんだった。URAファイナルズの決勝を控えているという事もあり、お互いの表情には緊張が走っている。
当たり前だ。同じチームでトレーナーとサブトレーナーの関係性ではあるが、俺とこの人は対戦相手。つまり敵同士なんだ。
そして.........もし、俺のチームの内の誰かが優勝した時には.........
[スピカ:レグルス]は、[レグルス]になる。
沖野「.........なんつうか。実感が湧かねぇな」
沖野「お前に頼んのはもう辞めなきゃ行けないのによ。気が付けば終わった後に頼みたい事が出てきちまう」
桜木「.........良いっすよそんくらい。同じ古賀さんの弟子なんすから」
頭を掻きながら沖野さんは俺の隣に立って同じ空を見上げた。こうして二人で居るのは、今にして思えば結構珍しいかもしれない。
この人はウマ娘が関われば真面目な人だ。俺がトレーナーとして、一人でチームを運用出来るのか心配してくれている。
きっと、頼れる兄貴が居る人ってのはこんな気持ちなんだろう。俺だって沖野さんみたいに、もし優勝してからも心のどこかで頼ろうとしている。
それくらい.........チーム[スピカ]は居心地が良すぎたんだ。
沖野「まっ、お前の担当達が出るレースはスピカメンバーも出るし、他の強豪も出る。安心して雑用リストの更新でもして置こうか」
桜木「あっ、酷い人っすね。そういう嫌味な所まで古賀さんに教えて貰ったんですか?」
沖野「そりゃトレセン入る前に寝食共にしてれば嫌でも伝染るだろ」
違いない。そう言って俺は笑い、沖野さんも釣られるように笑った。
そんな笑いが、最後になると思った。ただの直感だ。出来れば.........そんな物感じたく無かった。
しばらくの間、沈黙が続いた。それでもお互いがお互いの存在を認識し合っている。今までの日々を振り返りながら、確かに二人でこのチームを引き連れてきたんだと思い出している。
とても静かな時間だった。だから微かな足音も良く聞こえてきた。数からして複数。かいた汗を綺麗にしたウマ娘達が来ている。それを知った俺達はその目を閉じ、時を待っていた。
ゴルシ「おーっす!!呼ばれてやったから来てやったぜトレーナー!!」
沖野「.........おう」
ゴルシ「あ?んだよ湿気たツラしてよー!!ま、まさか三年前に放流したサケが帰り道分かんなくて海で迷子になったって連絡が来ちまったのか!!?」
桜木「はは、そいつは確かに大変だ。迎えに行かねぇとな」
ふざけた事を真面目な顔で真剣に取り乱すゴールドシップ。その後ろからスピカメンバーとレグルスメンバーがぞろぞろとチームルームへと入って来る。
そんな中でもまだやり取りを続けようとする彼女に、白銀に連絡して助けて貰うからと言うと直ぐに大人しくなった。心做しか顔が若干赤くなった様な気がする。
テイオー「話って何なの?URAファイナルズに関係すること?」
スペ「はっ!もしかして私が今日のお昼沢山食べちゃったのバレちゃいました.........!!?」
スズカ「スペちゃん。多分バレてないけど後で怒られるわよ」
ウオッカ「スペ先輩相変わらずっすね.........」
ダスカ「あんなにトレーナーから言われてたのに.........」
しまった。と言うように両手で口を押さえるスペ。それを呆れながら見るスピカとレグルスメンバー。
因みに沖野さんは怒りたい気持ちを抑えつつ、咳払いをしてその事については触れなかった。しっかりとこめかみに血管が浮き出ていたが.........強く生きろよ。スペ。
沖野「まぁなんだ。話があるのは桜木なんだ」
桜木「その、今まで皆に言わなきゃな〜って思ってたんだけど.........タイミングが無くて、さ?」
タキオン「おいおい.........勘弁してくれたまえよ?君はいつも得体の知れないトラブルを引き起こすんだから.........」
ウララ「トレーナー!!何やったの!!」
ライス「ちゃんと言ってくれればライス。許してあげるよ.........?」
ブルボン「チームメンバーの怒りのパーセントはまだ20%未満です。今の内に言えば丸く収まります」
デジ「許しません」
桜木「俺そんなに信用無い.........?」
本当に俺の担当なのだろうか?みんな揃って不機嫌さを表したようなジト目とその表情を俺に向けてくる。一言も発してないマックイーンも同様、疑いの目を差し向けてくる。
背中を真っ直ぐにする気も起きないが、その種をまいたのは他でもない俺自身だ。今まで頼りなく、そして勝手な行動をする子供のような俺のせいで、自分への信頼を湯水のように消費していた。
それももう、終わらせなくちゃ行けない。
[大人]をやるんだ。
今まで成りたいと思っていた[存在]に.........
「.........もし、レグルスの内の誰かがURAファイナルズを優勝したら」
「優勝したら.........俺達は―――」
ーーー
「URAファイナルズダート部門決勝ッッ!!!一着に輝いたのはハッピーミークです!!!」
歓声と熱の入った実況の声が聞こえて来る。掲示板を見れば勝負の決着は明白。ダートに出ていたウララは4着と掲示板に入る健闘はしていたが、ミークを含めた三人からは分かりやすい位に離されてしまっていた。
桐生院「やりました.........!!!やりましたねミーク!!!」
沖野「まさかここに来てハッピーミークか.........晩成型の成長曲線だとは思ってたが、ここまで爆発するとはな.........」
桜木(う〜ん.........流石に有馬の後すぐダートは厳しかったかぁ.........まぁでも)
膝に手を着いて息を整えた後、ウララは観客に向けて両手を振った。その姿は有馬記念以前から変わっては居ない。
だがその後、掲示板を見つめて奮い立つ自分の心を落ち着かせるように胸の前で拳を作った後、彼女はこのレースで勝利したミークへと近寄り、言葉を交わして握手をした。
桜木(.........成長したな。ウララ)
誰よりも一着から遠かった少女は、その手を確かに届かせた。勝負というのは人を変える。良い様にも、悪い様にも.........素晴らしい物であると同時に、恐ろしい側面も持ち合わせている。
しかし、彼女の根っこは変わっていない。諦める事無く、そして腐る事無く、楽しむ事を忘れずに強くなろうとしている。無限の可能性を.........彼女は秘めている。
デジ「惜しかったですね.........」
桜木「そうだね。何回かやれば勝てるレースだった.........って言うのは流石に野暮だけど、言えるくらいには強くなったよ。ウララは」
次に始まるのは短距離のレース。その次はマイル。どちらも激戦区ではあるが、割と勝利者の予想は固まってしまっている。
見る意味は無い.........と言う訳では無いが、俺としては控えに居る中距離。長距離レースに出走するメンバーの方が気がかりだ。出走するウマ娘達には申し訳ないが、今回はそちらを優先させてもらおう。
ーーー
マック「すぅぅぅ.........ふぅぅぅ.........」
勝負服に身を包み、化粧台の椅子に座って精神を落ち着かせます。まだ長距離の部門が始まるまで時間はありますが、こうして身体を服に慣らせて置かないと落ち着かなかったのです。
閉じていた瞳を開け、目の前にある鏡に写る自分の姿を見つめます。
.........大丈夫。まだ[メジロマックイーン]。
誰が見ても、[名優]だと認めくれる姿のまま.........
マック(.........っ、何を考えているのかしら)
そんな歪に歪んだ思考が生まれ、自己嫌悪が拳を作りあげます。膝の上にそれを力強く押し付け、その心を何とか鎮めようとします。
.........怖い。レースに出るのが怖い。走るのが怖い。勝てなかったらどうなってしまうのだろう。失望されたらどうなるのだろう.........そんな考えばかりが先行して、自分の首を締めてきます。
マック(ダメよ、マックイーン.........負けちゃダメ)
マック([メジロ]の為にも、[期待]の為にも.........それに)
『優勝したら.........俺達は―――』
『[レグルス]は[スピカ]から、独立する』
その言葉が聞こえた時。チームの雰囲気が変わりました。真剣な彼の顔から、それが冗談や嘘では無いと直ぐに分かり、私達は息を呑みました。
.........前々から決まっていた事だったんです。元々チーム[スピカ]へはトレーナーさんが新人だった為、二人以上の担当が出来ない中で私とタキオンさんを見たいが為に行った言わば強行策。
彼がベテラントレーナーになった今、チーム[スピカ]に所属している理由も無く、そして多くの困難が去り、最終的にチームの誰かがURAファイナルズで優勝する.........
何ら疑問点はありません。ありはしませんが.........
マック(.........なんでこんなに、不安なのかしら)
マック(まるで彼を、信じ切れてないみたい.........)
信じたい。けれど、信じ切れない.........正反対の方向に向かう心。このままでは引き裂かれてしまうのでは無いか?そう思う程に胸が苦しく、耐えきれずにその手を胸に置きました。
ここまで苦楽を共にしたんです。
ここまで一緒に歩いて来たんです。
.........だと言うのに、まだ信じられないの?
私は一体、彼の何を見てきたの.........?
マック(.........本当。何が[メジロマックイーン]よ)
マック(自分が一番.........それがどういう物なのか、分かってないじゃない.........)
この名の持つ意味。[メジロ]としての誇り。[エース]としての使命感.........どれもこれも、今になって不安定な土台の上に置いてしまった歪な目標だった。そう思わざるを得ません。
けれど今更、他に何があると言うの?私に、何が残っていると言うの.........?
マック(.........彼の事、言えないじゃない)
マック(だって、一番おバカなのは.........!!!)
バカです。大バカです。少し考えれば気付くくらい、それがどれほど脆く、そしてぐらついて居た物なのか分かったはずです。
それに持ち前のバランス力で難なく上に立ち続けて来ただけの事。脚を怪我した今では、その力すら持っていない.........
私はもう.........
[誇り]と[使命]では―――
―――[走れない]
マック「.........」
マ??「.........っ」
???「.........私は」
「
ーーー
ウララ「あのねあのね!!ミークちゃんがね!!あそこでビューンって前に行ってね!!」
桜木「あ〜あれ凄かったよなー。でもウララも絶対あれくらい速くなれるからな」
ウララ「ホント!!?」
ダートレースが終わった後、俺はウララを地下バ道で迎え入れた。有馬記念の時の様な苦しさは感じず、むしろ以前に近しい状態で彼女は俺の方へと駆け寄ってきてくれた。
勿論、あの日から変わった内心もあるはずだ。それでも未だにウララはレースを楽しむ事が出来ている。勝ちに貪欲になりながらも、負けを引きずる事無く、既に次へ顔を向けている。
そんな姿に嬉しくなっていると、彼女は不意に不思議そうな顔で俺の顔を見てきた。
ウララ「あれ?トレーナー!!」
桜木「?」
ウララ「[首のやつ]どこやっちゃったの!!?無くしちゃった?」
桜木「ああ.........ううん。[渡して来た]んだ。気付いてくれるかは、分かんないけど」
いつも首に下げている[王冠のネックレス]。チームとの繋がりを象徴とするそれを、今俺はして居ない。
以前の様な投げやりな渡し方はして居ない。かと言って、分かるように渡していない。
[あの子]が自分で気付いてくれなきゃ意味が無い。視野がそこまで狭まってしまったら.........きっと、俺の言葉だけじゃどうにもならない。
桜木(ほんと、こういう時こそ。[仲間の力]が必要なんだろうな.........)
同じ立場の存在。同じ年齢。同じ性。同じ思想。同じ目標.........どれだけ対等であろうとしても、相違点と言うのは人と人を離れさせる。男女と言うだけで距離と言うのは果てしなく遠く感じてしまう時がある。
そういう時、俺の出る幕は無い。言葉で響かせるには、同じ土俵に立ってくれる存在か、それを無視して強引に手を引いてくれる存在かだ。
俺はまだ.........彼女を[大人]にする勇気は無い.........
そんな事を考えていると、目の前に誰かが立っているのに気が付いた。さっきまでは居なかったが、どうやら中々深い所まで意識をもぐらせてしまっていたらしい。
ウララも俺の顔を見るのを止めてそっちに顔を向けると、光の少ない道の上に立つシルエットだけで、誰かを判別してくれた。
ウララ「あっ!!ゴルシちゃん!!」
ゴルシ「よっ、見てたぜウララのレース!!バッチバチだったなー!!」
桜木「ああ。今後に期待出来る良いレースだった。これからが楽しみだ」
俺達の目の前まで近付いてきた事で、黒く濃いシルエットは薄くなり、ようやく彼女の表情を見る事が出来た。
しかし、いつもの様に見えていつもと違う。それを感じ取った俺はウララに先に戻る様に伝えてこの場から離れさせた。
桜木「.........んで?わざわざそんな感想を伝えに来た訳じゃねぇんだろ?ゴールドシップ」
ゴルシ「にひひ.........流石おっちゃん。ゴルシちゃんの事は丸丸裸の丸わかりってか?」
桜木「当然。心理は俺の得意分野だからな」
俺の知っている中でもトップクラスで分かりにくい存在のゴールドシップ。しかし、彼女のしたい事、やりたい事、言いたい事は何故か以前から何となく分かっている。血の繋がりというのは恐ろしい物だとつくづく思わされる。
お互いに笑ってはいたが、次第に彼女の表情から笑みは消えて真剣さだけが残る。それに動揺すること無く、俺は俺でその顔を保っていた。
ゴルシ「.........URAファイナルズの中距離は、アタシが勝つ」
ゴルシ「勝ってアタシは―――」
「―――白銀に[告白]する」
.........本当。律儀な所まで似てやがる。俺もこういう時、言わなきゃ気が済まない性分だ。だから何となく、勘づいては居た。
思えば、俺の始まりは彼女の仕業だ。ゴールドシップという存在がいなければきっと、俺はこの場に立つ所か、知り合う事すら出来なかった人達も居る。
それほどゴールドシップは俺にとって、とても大きな存在だ。そんな彼女の幸せを願わないのは.........相当な捻くれ者だ。
それでも、言わなければ行けない事がある。俺も一人のトレーナーとして通さなければ行けない信念がある。
桜木「.........うちのタキオンは、相当強いぞ?」
ゴルシ「っ、ぜってェ勝つ.........!!!」
彼女は俺を睨みつけながら拳を突き出した。宣戦布告。まさにその言葉に相応しい仕草と表情を俺に見せてきた。
その後、ゴールドシップは何も言わずに控え室へと戻って行った。地下バ道に残されたのは奇妙な事に、人間の俺だけであった。
桜木(.........URAファイナルズ。本当、とんでもないレースだ)
光が差し込む場所。ウマ娘達が勝負する舞台へ向かう出口の方を見ながら俺は静かにそう思う。
残るレースは後四つ.........これから始まる激戦に心を落ち着かせながらも、静かな興奮は確かに生まれて行ったのであった.........
......To be continued