山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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ゴールドシップ

 

 

 

 

 

「URAファイナルズマイル部門!!数々の強者が集い集ったこのレースで勝利をもぎ取ったのは[サイレンススズカ]です!!!」

 

 

 URAファイナルズのレースも佳境へ入った。ダート。短距離。マイルと終わり、これから中距離レースの準備が始まる。

 観客達に向けて手を振るスズカの姿を見ると、やはりと言うか、安心感があった。やはり彼女が勝つか.........という安心感。

 今回のレースはグラスワンダー。そしてエルコンドルパサーを筆頭に多くの強者が参加している。そこら辺のG1よりも全然豪華なメンツの中でも、俺の中では彼女の勝利が揺らぐ事は無かった。

 

 

桜木(流石沖野さんと言うべきか.........)

 

 

「最後の直線ですが、あのスピードで逃げていても後ろを気にする余裕がありましたね。迫って来る二人を意識して、どの程度スピードを出せば虚を突けるか。戦略的な末脚を見せてくれました」

 

 

桜木(.........[武]さん。とでも言うべきか)

 

 

 実況者の赤坂さんの隣に解説として座っているのは、プロトレーナーである[武 豊]さんだった。

 スズカに安定感のある走りを教えたのはあの人だ。今回の優勝もそれが要因になった部分もあるだろう。

 

 

桜木(短距離はサクラバクシンオー。マイルはスズカ.........どちらも確実だと言われていた人選だ)

 

 

桜木(.........[万全]だったら)

 

 

 不意に出てきた思考。途中まで自分の中で形成してしまったその言葉に自己嫌悪し、頭を振る。それを承知で参加したと前も言っただろう。そう自分に言い聞かせ、嫌な感情を押し殺して踵を返す。

 

 

桜木(次のレースは中距離部門。マークするべき相手は多い.........)

 

 

 うちのチームの出走者はアグネスタキオン。彼女は突出したスピードを誇り、その点は他の追随を許しはしないが、経験という点で言えば不足していると言わざるを得ない。

 スペシャルウィーク。メジロドーベル。マンハッタンカフェ.........目を向けるのならばそこだ。経験則でカバーを効かせてくる相手。そこには彼女が得意とするデータを頭の中で整理し勝利への論解を導く事が出来る。

 

 

 .........だが、逆に行ってしまえば.........

 

 

桜木(.........[ゴールドシップ]。相手に来るとなると、相当嫌なもんだな)

 

 

 何をしてくるか分からない。そんな相手にデータも経験も無い。一を引かれないような立ち回りをする他無い。確実性のあるレース。

 しかしそれをするならば、必ずその脆い点を他のウマ娘が見つけて来る。セオリーと言うのは崩せるからセオリーなのだ。

 それに徹してしまえば他の子に負ける。だがセオリーから外れればゴールドシップの土俵に立つ事になる.........生半可な行動や作戦は勝率を著しく下げる羽目になる。

 

 

桜木(.........さて。どうしたものか)

 

 

 不安と恐怖の裏側に確かに存在する未知の感覚。俺の中に存在を微かに顕にしたそれに触れる為に、心の中に手を入れて探ってみる。

 触れてしまえば簡単だった。いつか感じていた物だった。かつて俺が俺に対して抱いていた物.........[期待]。それに補強された[ワクワク]だった。

 

 

 歓声が未だ止まぬ中、大激戦の中距離レースへの期待を静かにしまい、俺はタキオン達が待つ控え室に向かって行くのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物静かな控え室。少し前までは騒がしさを感じていたが、私のレースが近付くにつれチームメイト達は口を閉じて行った。

 トレーナーくんからはアドバイスや作戦を聞いていたが、やはり確定事項は無い。あるとすれば、[ゴールドシップには気を付けろ]。これの一点張りだ。

 

 

タキオン(全く。私がマークしていない訳ないだろう。あんな規格外を.........)

 

 

 天井を見上げながら彼女について考える。

 

 

 未来から来た存在。読めない思考と言動。オンオフの激しい情緒。日常生活から得られる情報のせいで彼女がレースでどう走るのかが不明瞭になっていく。それが計算された物ならば、食えない存在極まりない。

 そんなこんなで行き詰まっていると、不意に控え室の扉にノックがされる。トレーナーくんが不思議そうな顔をしながらもその扉を開けると、そこには私にとって安心出来る顔が立っていた。

 

 

黒津木「よっ」

 

 

桜木「お前っ、関係者以外は入れない筈だぞ?」

 

 

タキオン「まぁまぁ。大方保健室医の肩書きでも使ったんだろう?」

 

 

 呆れた顔を見せるトレーナーくんと彼との間に入り擁護する。私の推測はどうやら当たっていた様で、彼は恥ずかしそうに頭をかいていた。

 

 

黒津木「実はさ。俺タキオンのレースを生で見るの初めてなんだ」

 

 

黒津木「だから.........カッコイイ所、期待してる」

 

 

タキオン「!.........ああ、悪い所は見せないよう務めるさ」

 

 

 別に彼が走る訳では無いのに、何故か緊張した表情で私に伝えて来た。それがなんだかおかしくて、つい笑いながら答えてしまった。

 そんなこんなで見つめ合っていると、不意に私達に視線が集まっている事に気が付いた。これは少し.........いや、かなり恥ずかしいな。

 

 

タキオン「ほらっ!君の出番は終わった後だ!!分かったらさっさと観客席に帰りたまえ!!」

 

 

黒津木「のわっ!!分かったよ!!分かったから押すなって!!」

 

 

タキオン「しっしっ!!」

 

 

 名残惜しそうにこちらを振り向く黒津木くんに早く行くよう手で払う。口を尖らせながら前を向き、背中を見せられて私は控え室の扉をゆっくりと閉めた。

 息を吐きながら元いた椅子に座ると、今度はトレーナーくんが近付いてきた。

 

 

桜木「緊張。ほぐれたみたいだな」

 

 

タキオン「?私のがかい?」

 

 

桜木「ああ、顔が固かったよ」

 

 

 満足そうにそう微笑む彼に対して、私は頬杖をついた。全く、面白くない。こういう役回りは普段ならマックイーンくんとトレーナーくんの筈だろう。

 

 

 .........まぁだが、嬉しかったのは事実だ。

 

 

 結局、どんなに頑張ってもにやけた表情を作ってしまう。そんな状態が改善されたのはやはり、中距離レースの発走準備が整った事を知らせる放送を聞いてからだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁURAファイナルズ決勝戦!!いよいよ佳境に入って参りました!!」

 

 

「中距離部門もまた熾烈なレースが繰り広げられるでしょう!!」

 

 

ゴルシ「うっひゃ〜!!すっげ〜人数だな〜!!」

 

 

 ターフに出てきたアタシは耳と目で観客の多さを実感して驚いた。一般の観客席の方はこんだけ広いのにぎゅうぎゅう詰め。トレーナーやおっちゃん達の所だっていつもよりスペースが無ぇ状態だ。こんなのアタシらの時代でも中々無かった。あったとすりゃ凱旋―――

 

 

「ゴールドシップさんっ!!」

 

 

 昔の記憶を振り返っていると、アタシにとっては良く知る声が背中にかけられた。振り返るとそこにはもう待ち遠しくてたまらねーって感じのスペが立っていた。

 

 

スペ「私、ゴールドシップさんと走るの。ずっと楽しみにしてました!!」

 

 

ゴルシ「お?それってどんくらい?冥王星と海王星がドッキングするって聞いたアタシと同じくらい?」

 

 

スペ「はいっ!!同じくらいです!!」

 

 

 おいマジか。そこは普通に突っ込んで良いとこだぞ。やめろよもうちょっと面倒くさそうにしてくれよ。あしらわれんの結構傷付くんだぞ?

 

 

ゴルシ「ゴホンっ。まーこう見えても、チームスピカのリーダーだかんな!!スペっ!アタシのレースを参考にしろよ!!?」ビシッ!

 

 

スペ「はいっ!!絶対に負けません!!!」

 

 

ゴルシ(アレ?もしかしてアタシの話を真に受けない様になっちまってる?)

 

 

 なんてこった。あの優しいスペがこんなになっちまうなんて.........これも全てトレーナーって奴の仕業に違いねェ.........!!!

 絶対ェに許さねェかんなァ!!!覚悟してろよおいっ!!!マジで爆弾発言かましてオメェの胃袋蜂の巣にしてやっからなァッッ!!!

 

 

 

 

 

沖野「痛っ.........」

 

 

桜木「?大丈夫っすか?」

 

 

沖野「あ、ああ.........なんか、胃に弾丸撃ち込まれたような痛みがな.........」

 

 

桜木「死にます?面倒臭いんで引き継ぎの書類書いといて下さいよ?」

 

 

沖野「お前古賀さんの伝染ってんぞ」

 

 

 

 

 

「さぁ!各ウマ娘着々とゲートインを完了させて行きます!!残るは.........」

 

 

武「.........ゴールドシップだけですね」

 

 

ゴルシ「あァ!!?何だよ!!!ゴルシちゃんのファンサービスが要らねぇってのか!!?かァーッ!!!これだから大きいタイプの人間は!!!」

 

 

ゴルシ「へいへい。ちゃんと入りますよーっと。ゴルシ様も弁えますよちゃんと」

 

 

 ったく、世の中時間に厳しいヤツらばっかりで息苦しいぜ。もっと余裕が欲しいよなぁ余裕が。そうじゃなきゃ人生楽しむなんて夢のまた夢ってもんだぜ。

 

 

「お〜〜〜いっ!!バカ女ぁぁぁ!!!俺に投げキッスしろ〜〜〜!!!」

 

 

ゴルシ「.........バカか」

 

 

 .........まぁ、アレだ。余裕ありすぎんのもダメだな。世の中には適切ってもんがあんだ。あそこまで行くともう救えねェから大人しく無視しよ。

 

 

「各バゲートイン完了しました」

 

 

「これより世紀の一戦。果たしてどのウマ娘が栄光を掴み取る事が出来るのでしょうか!!」

 

 

「第一回URAファイナルズ中距離部門決勝戦―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガコンッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――今スタートです!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遂に始まったURAファイナルズの中距離決勝。スタートは誰一人遅れる事無く好調な滑り出しを見せている。

 

 

ウララ「タキオンちゃん六番目だよ!!」

 

 

桜木「ああ、いつも通りの展開だ」

 

 

デジ「.........逆に怖いですね」

 

 

 地面を踏み抜く足音が鳴り響く。何度聞いてもとても少女達が出すような物じゃない。見た目とのギャップで頭が混乱してくるのは初めてじゃない。

 マークすべきウマ娘達は皆タキオンよりも後方を走っている。大きく突き放して走る逃げ戦法のウマ娘が居ないなら、粘り勝ちされない限りは前方に居るウマ娘達に負ける事は無いだろう。

 なんせ今前を走っている子は全員、[恐れ]を抱いている可能性が高い.........

 

 

桜木(スペの爆発力。ドーベルの切れ味。カフェの得体の知れなさ.........それと真っ向からぶつかり合うのは得策じゃない)

 

 

桜木(だが、タキオンは全く別だな.........)

 

 

 走り抜ける白衣。光すら妬く閃光の如き速さ。薬品の様な中毒性の高い匂いを熱風に乗せて人々を魅了する。

 こんな物では無い。これだけでは済まされない。未だアグネスタキオンの真骨頂を誰も、彼女自身すらも掴めていない。

 

 

桜木(さぁて.........[桜]は咲くかな?)

 

 

 最初のコーナーを回る瞬間。今まで見た事ない様な笑みを浮かべているタキオン。その狂気的と言える程のスピードへの執着を初めて顕にした彼女に釣られて、俺も顔を破顔させて行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体の前面が空気の塊にぶつかり続けている。今まで感じてきたその感触に、私は今まで以上に興奮していた。

 

 

タキオン(ウマ娘の持つ[可能性].........!一人では決して辿り着けない[到達点]!!!)

 

 

タキオン(シミュレーションは既に済ませているっ!!!だと言うのになんだこの高揚感は!!?)

 

 

 想定通りの配置。予想通りの展開。憶測通りの加速量。そのどれもが理論値の域を超えて出る事は無い。だが私の胸は今現在、人生で一番と言っていいほど高鳴っている。

 多くのG1バが走り抜けるこのレース。距離。芝状態。共にデータの範疇内。外れている事は無い。

 あるとするならばそれはやはり、[人]と言う存在だろう。

 

 

タキオン(私と言う存在を変え続けてきた[他人]の存在ッッ!!!)

 

 

タキオン(ならば私の予測を超えるにもやはりそれは[必要不可欠]だッッ!!!)

 

 

 私は[変わった]。[変えられた]のでは無い。自分の意思で変化する事を選択し、ここまで来た。

 きっかけは些細な物だが、結果は劇的な物だった。

 今の私は正に、[人]が作り出した存在とでも言えるだろう。それほどまでに以前とは基盤がまるで違う。

 

 

 常識外れの彼と出会い、チームという存在と触れ合い、自分の力で救える存在を知った今の私は.........真の意味で[人]となったのだ。

 

 

タキオン(果たしてこの理論がどこまで速度を出せるのか.........試させて貰おうじゃないか.........!!!)

 

 

 

 

 

 ―――そろそろ第1コーナーを曲がる所。前はタキオンさん。後ろはカフェさん。もっと後ろにはゴールドシップさん。位置はまだ大丈夫。このままなら捲り切れる.........

 

 

スペ(うぅ.........でも後ろの人達の圧が凄いぃ.........!)

 

 

 背中に掛かる圧。こんな大舞台でも後方に居続けるって事は、それだけ勝てる自信があるって事.........他の子達も何回か走った記憶があるけど、皆ギリギリで勝てた子達なんだよね.........

 

 

スペ(!ダメダメっ、ここでけっぱらなきゃどこでけっぱるの!!頑張れ私!!行けるぞ私!!!)

 

 

 まだまだ決着まで時間がある。今はまだ仕掛ける時じゃない。焦らず掛からず、私は深呼吸を挟んでもう一度前に意識を集中した。

 

 

 

 

 

 ―――タキオンさん。やっぱり速い.........他の人達の先行策とは違う、自信の乗ったスピード。やはり一筋縄では行かない.........

 

 

カフェ(でも、前の仕掛け方をするとまた気付かれるよね.........)

 

 

 前回の有馬記念。中距離レースと殆ど変わらない距離だったとは言え、私は彼女に負けてしまった.........敗因はやはり、私の仕掛け方。それはトレーナーさんにも指摘された。

 

 

『良いかカフェ。今度タキオンと対決するなら仕掛け方は変えた方が良い』

 

 

『.........具体的に、どうすれば.........?』

 

 

『.........正直。あまりやりたくないトレーニングではあるが.........』

 

 

カフェ(.........役に立つのかな。[アレ])

 

 

 記憶に新しいトレーニング。最早そう呼んでいいかすら怪しい日々。私と彼は肉体トレーニングを終わらせた後、トレーナー室に籠る日々が続いて行った。

 そしてそこで行った事と言えば.........

 

 

『うひっ!!?カフェ!!霊障霊障!!!』

 

 

『.........だから私と[ホラー映画]を見るのは辞めた方が良いって言ったんですよ』

 

 

 霊障が連発する薄暗い部屋の中、そんな中でも議論と検証を幾度と繰り返して彼と編み出した仕掛け策.........

 

 

カフェ(.........そろそろかな)

 

 

カフェ(周りに気付かれないようさり気なく.........そして大胆に.........)

 

 

 息を更に整わせ、まるで寝息でもたてているかの様な呼吸にしていきながらゆっくり。ゆっくりと加速をして行く。

 最高速度到達点は最終コーナー.........平常時ならばタキオンさんが仕掛ける一歩手前.........そこを彼女の横から一気に駆け抜け、一瞬の思考停止を狙う.........!!!

 

 

カフェ(データ集めと予測でレースをするなら、こっちは[オカルト]で行かせて貰うよ)

 

 

カフェ(精々.........[足首を掴まれない]様にね.........)

 

 

 

 

 

 ―――目まぐるしい位に変わっていく展開。アタシは最後方でそれを見ながら目を回しちまってた。

 

 

ゴルシ(おいおいおいおい!!!コイツらぶっつけ本番で命掛けすぎだろ!!!一体何人ネタ殺しするつもりだよ!!!)

 

 

 背中を見れば分かる。アタシの前に居る殆どの奴が今まで見せた事の無い走りをしようとしている。絶対今日の為に取っておいたり、特訓してきた奴に違ぇねェ。

 スペはいつもより落ち着いて後ろ目の差しだし、カフェの野郎に至ってはアタシが抜けようとした外側をのそりのそりと回って行こうとしてやがる.........クソっ、思った以上に前に出づれェ.........!!!

 

 

 

ゴルシ(あァクソッッ!!!考えてたって仕方ねェ!!!しゃねェ見せてやるよ!!![ゴルシちゃんワープ弍式]をなァ!!!)

 

 

『力が欲しいか』

 

 

ゴルシ(うるせェ!!!今それどころじゃねェッッ!!!.........あァ!!!??)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やべ。セリフ間違えた』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「.........んぁ!!?どこだここ!!?」

 

 

 加速する為に足に力を入れた瞬間。声が聞こえてきた。それに反応してもう一度声が聞こえた瞬間。気付けばアタシは走っていた体勢から棒立ちになって疲れも呼吸も普通の状態になっていた。

 辺りは見渡す限り白い世界。何にもねェつまんねェ場所だ。どうすんだよこれ。アタシは早く戻ってレースを―――

 

 

『おいそこの女』

 

 

ゴルシ「あァ!!?.........ヒェッ」

 

 

この世界に存在しない筈の四本足の珍獣

『俺の名前を言ってみろ』

 

 

 な、何か立ってやがる.........見た事もねぇ姿形と面した真っ白なバケモンが人の言葉を喋ってやがる.........!!?

 アタシは腰を抜かした。なんならちょっとちびった。コイツの存在を生理的に拒絶しちまってる.........なんだよコイツ.........

 

 

『あっスキン間違えた。こっちこっち』

 

 

ゴルシ「おわ!!?な、アタシが出てきやがった.........!!?」

 

 

 日静会金旅組若頭

 御尾琉怒湿布

 (ドッドン)

 

 

 うわ、なんか変なテロップと音が出てきやがった.........しかもモノクロフィルター掛かってるし.........マジでなんだよコイツ.........龍が如くから来たのかよ.........ハワイに帰れよ.........

 

 

『お前は俺。俺はお前だ』

 

 

『走りたくねェって気持ちはよ〜く分かる。けどな。人間.........あいやうまむすめ?には走らなきゃ行けねェ時がある』

 

 

『俺だってなァ?隣のトーホウジャッカルが喧嘩ふっかけて来た時ァマァジで分からせてやろうかって思ったけ「お、なんだこの×マーク?」ちょっと待てェ!!!』

 

 

 なんかさっきからアタシの視界の右上にある×マークを触ろうとした瞬間。目の前に居る奴に結構真面目に止められた。

 そして次の瞬間。奴はその×マークをむしり取って地面に叩き付けてから踏み潰しやがった。

 

 

『スキップしようとすんなよ!!!大事なムービー中だろうが!!!RTA勢か何かかテメェは!!!』

 

 

ゴルシ「はァ!!?そっちこそ何だよいきなり現れて声掛けやがって!!!こちとら大事なレースの最中だったんだぞ!!!」

 

 

『うるせェ!!!レースなんかよりそこら辺に生い茂ってる青草の方が価値あるわ!!!』

 

 

ゴルシ「はいカッチーン!!!もうアタシキレちゃいました!!!プッツンしまーす!!!」

 

 

 マジで頭に来た!!!急に現れて説教垂れてくるし!!!その説教自体は完全に的外れだし!!!もうぶん殴っちまっても良いよな!!?マックイーンも許してくれるよな!!!

 

 

 お互い睨みを効かせて数秒。合図は無くどちらともなく同時にお互いに飛び掛った。

 

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

ゴルシ「はァ、はァ、やるな.........!」

 

 

『ぜェ、ぜェ、お前こそ.........!』

 

 

 暫くの間取っ組み合って力比べをしていたが、実力は完全な五分。押されもしないし押しもしない。

 お互いが同じ実力を持っていると知り、アタシは思わず笑った。そしてそれはアタシの姿をした謎生物も同じだったみたいで、アタシとソイツは同時に腕と腕をクロスさせた。

 

 

『気に入ったぜ。このオレ様と互角たァ中々やる女だ。やっぱ[無理やり]こっち来て正解だったぜ』

 

 

ゴルシ「へへ。ったりめぇよ!!このゴールドシップ様は世界を股に掛けた後に膝掛けにしちまうスーパーアイドルキングだからな!!!」

 

 

『その度胸。やっぱ[ゴールドシップ]はそう来なくっちゃなァ!!!よーし決めた!!![種牡馬]生活でめっきり使わなくなっちまった力をテメェにくれてやる!!!有難く思えよ!!!』

 

 

ゴルシ「しゅぼ、なに?」

 

 

 聞いた事もねぇ言葉が聞こえて来てキョトンとしちまったが、アタシがそうしている内に目の前の奴は急に光を帯び始めた。

 何だ何だと思っていると、その光は徐々にアタシの片腕に移っていって、最終的に[ある形]に形成されて行った。

 

 

『俺様がこっち来れんのは[寝てる時]だけなんだよ。まァ魂は時間の制約受けねェから関係無ェんだけどな』

 

 

『俺様が完全に[そっち]に行くまで、ソイツをテメェに預ける。大事にしろよ?』

 

 

ゴルシ「!これは.........」

 

 

 巻き付いていた光が完全に消え去り、アタシの腕にはひんやりとした冷たい感触とずっしりとした重みを感じ始めた。

 目の前の奴はあくびを一つして優しい表情を見せた後、何も言わずに陽炎みてぇにゆらゆらと揺れて消えて行きやがった。

 

 

 残ったのはアタシと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――アイツの残した、[黄金の錨]だけだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「.........く、はは」

 

 

ゴルシ「面白くなって来たぜ.........ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースが佳境に入り始めた頃だった。

 

 

 その[変化]が、大きくこの戦況を覆す物だと見て分かった。

 

 

桜木(.........?ゴールドシップの奴、加速してないか?)

 

 

 普段であればもう少し様子を見て一気に仕掛けようとしている。彼女の性格から考えれば、手堅いながらも人々をあっと驚かす作戦を取るのは間違いない。

 だが彼女はここで加速を選択した。天啓か、或いは単なる思い付きか.........そこまでは分からない。

 

 

 だが俺はそれを見て、他のどのウマ娘よりもタキオンにとって脅威だと感じてしまった。

 

 

 

 

 

神威(.........えぇ!!?まだ加速し続けてるんだけどォ!!?)

 

 

 ―――度肝を抜かれた。最終コーナーの手前。なんてレベルじゃない場所でどんどんと加速を積んでいく一人の姿を見て、俺は完全に後悔していた。

 まずい。同じ土俵に立たせてしまった.........と。

 

 

 奇想天外。奇天烈な走り。そんな走りを見せる一方で、それは事細かく計算され尽くしており、見る者が見ればまるで[追い込み漁]でもしているのかと言えるくらい、展開を抑制して行く。

 しかも、意識を後ろに向けている選手は兎も角、存在感を見せつつも意識の外へ外す様な立ち回り。それを見れば彼女も、やはり[血を引いている]のだと身に染みて分かる。

 

 

神威(クソっ!!!これもアンタの作戦の内かよ沖野トレーナーさんよォ!!!)

 

 

 

 

 

沖野「.........」

 

 

 ―――一人。とんでもない走りを見せている存在が居る。ソイツは突然俺の目の前に現れて、チームに入ってやるぜと有無を言わさずに入部届けを持ってきたウマ娘だった。

 学園にこんな子は居ただろうか?しかし、肉体を見ればそこら辺のデビュー前のウマ娘とは明らかに格が違う。この子を逃す手は無い。そう思った俺は、直ぐにその書類に判子を押した。

 

 

 結局、そのウマ娘の名前は[ゴールドシップ]ということ以外は分からず終いで、多くの月日が流れて今日まで辿り着いた。

 今分かっていることは.........アイツは未来の存在で、そして桜木とマックイーンの子孫で.........俺のチームのリーダーだ。

 

 

 そんなリーダーに向けて、俺は心の底から言葉が湧いてきた。それを口にしたいと思いつつも、何とか心の中で押さえ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何やってんだアイツ.........?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「く、ふ.........!!」

 

 

 自然と笑いが溢れ出す。レースは既に終盤。最終コーナー一歩手前と来た。だと言うのに加速力は以前と落ちず、それどころか増してすら居る。そんな自分の底知れぬ可能性に、私はつい表情を崩してしまっていた。

 

 

 そんな時、不意に頭の中に浮び上がる存在が居た。[マンハッタンカフェ]だ。

 

 

 聡明な彼女の事だ。前回の反省点を活かし、プレッシャーを掛けないやり方で迫ってくるに違いない。

 だとするならば、狙いは恐らく私が最も得意とする最終コーナー終了間際。その直前に狙いを定めてくる。

 

 

タキオン(くく、もう少し冷静になって置くべきだったね?カフェ)

 

 

タキオン(それこそ、君の大好きな[コーヒー]のように、[渋い]やり方でもしない限りは.........ね!!!)

 

 

カフェ「なっ.........!!?」

 

 

 普段と比べて早い位置で仕掛けに行く。後ろからは予想通り、彼女の驚いた声が聞こえてくる。

 私が普段最終コーナーの終わりで加速していたのは、この脚の問題があったからだ。こんな脆い脚で加速をつけながらコーナリングを行えば、誰だって結末は簡単に予想出来るだろう。

 

 

 だが、今はもうそんな事は無い。この脚は既に.........私の命題は既に答えに辿り着いている。

 

 

 テイオーくんの骨折に対する対処。マックイーンくんの地面に対するアプローチ。そしてウララくんの頑丈さ。それらをデータにまとめてしまえば後は簡単。薬と走法で私の脚の耐久力は格段にアップする。

 

 

タキオン(速度の最高到達点ッ.........一体そこから見る世界はどんな景色なのか.........!!!)

 

 

 頬が歪んで行くのが分かる。それは今まで出した事ないスピードで前に行っている事で空気抵抗が強いと言うのもあるが、私には分かる。私は.........[期待]している。

 世界の果て。先端の先端。そこに立った時、一体どのような世界が目の前に広がるのか.........孤独か栄光か。どちらでも良いしどちらで無くとも良い。

 私は、ただそのままの世界を.........受け入れる覚悟がある.........!!!

 

 

タキオン(さぁ―――可能性を導こう.........!!!)

 

 

 

 地面を踏みしめる。今までに無いほど強く。強く。恐れや疑心などはもう無い。この脚は乗り越えてくれた。私の頭脳は正解を導き出してくれた。

 後は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――私が[心から信じる]だけだ.........!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 速度が上がって行く。加速が増して行く。先程まで私を抜き掛けていた彼女はもう視界の端にすら居ない。先頭は最早目の前。

 この速度で走り抜ければ、勝利は確実。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........その筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――よう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――アタシは、走ってる奴の背中を見るのが好きだ。レースの時そこを見るだけで、ソイツが何を背負って、どんな期待を背負っているのかが何となく分かった。昔から。

 それに比べちまえば、アタシの背負ってるもんなんざ軽いもんだった。婆ちゃんも好きに走れって言ってたし、母ちゃんだってアタシらの走り方にとやかく言う事はしなかった。

 

 

 .........でもそれは、裏を返せば[ありのまま]で勝って欲しいんだって気付いた。アタシはアタシのまま。姉ちゃん達も姉ちゃん達のまま、走っていて欲しい。そんな何よりも重い願いが込められているんだって.........

 

 

 だから、アタシは[好き勝手]に走る。気分がブチ上がって、出るレースを滅茶苦茶にしてやる。

 それがアタシのやり方だ。そしてそのやり方で.........!!!

 

 

 

 

 

「最終コーナーを内側から捲って来たのはやはり[ゴールドシップ]!!!すごいパワーで先頭を捉え始めました!!!」

 

 

デジ「な、何ですかあの爆発力!!?」

 

 

ウララ「タキオンちゃーん!!!頑張ってー!!!」

 

 

 目の前のレースは完全にゴールドシップに持ってかれた。カフェの対策の対策もバッチリと決まり、彼女も勝ちを確信したのだろう。それが行けなかった。

 その慢心の隙を突き、今まで息を潜めていたゴールドシップを内側に通すと言う失態を犯した結果。彼女の思考は一瞬のインターバルを生んでしまった。

 もしこのまま巻き返せないのなら.........確実に[敗因]はそれになる.........

 

 

桜木(.........いや)

 

 

桜木([まだ].........っ?)

 

 

 .........なんだ?俺は一体、今何を[信じよう]とした.........?こんな絶望的な中で、既にゴールドシップに引き離されつつあるタキオンが、何故まだ[勝てる]と思い込んだ.........?

 

 

 自分の胸倉を掴む。本来だったらそこにあるネックレス。今は[彼女]のポケットに入っている。力強くシャツを握り締め、一体何を信じたのか心を探る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は.........何を[信じられる].........?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「URAファイナルズ中距離決勝戦!!!この激闘を制したのはゴールドシップ!!!」

 

 

「最後方から駆け抜けた脅威的なパワーで!!!確かな勝利を勝ち取りました!!!」

 

 

「―――ッッッ!!!!!」

 

 

 歓声が聞こえる。絶え間なく流れ出る汗と掲示板の一番上に映る数字を見て、アタシが勝ったんだとようやく実感出来た。

 

 

タキオン「.........おめでとう。ゴールドシップくん」

 

 

ゴルシ「!へへ、どうよ?ゴールドシップ様のレースはよ」

 

 

タキオン「完全に意識から外されたよ。やはり君は面白いレースをする」

 

 

ゴルシ「!.........へへへ」

 

 

 アタシ以上に汗にまみれた顔と濡れた頭でタキオンはそう言った。その表情からは悔しさを感じるけど、でもどこか嬉しそうだった。

 アタシも楽しいレースが出来た。それが出来たのは、タキオンや他のスゲェ奴らが一緒に走ってくれたからだ。

 

 

 .........未来の世界じゃ、ほとんどが教科書やテレビに出てる連中ばかり。そんな奴らの全盛期と走り競り合って、そして勝った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これ以上の[舞台]はねェ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「すぅぅぅぅぅぅ―――」

 

 

 大きく息を吸い込んだ。深呼吸よりも深く。強く。肺に空気が溜まって行く。

 

 

 出しちまえばきっと言葉にしちまう。そんなプレッシャーが空気に混ざったのか、途端に今まで感じたことないくらい、肺が重く感じた。

 

 

 関係ねェ。それをするためにアタシは勝った。今日のアタシは.........[アタシ自身の為に勝った]んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白銀ェェェェェ―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの日受け取ったもんッッッ!!!!!返しに来たァァァァァッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタシも好きだァァァァァ!!!!!結婚でも何でもしてやっからッッッ!!!!!ゴルシちゃんを一生楽しませろォォォォォ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「な、ぁ.........」

 

 

フェスタ「やりやがった!アイツ本当にやりやがった!!!」ボカボカ!

 

 

オルフェ「痛っ!フェスタちゃん痛い!!!良い歳なんだから耐性つけて!!!」

 

 

 選手控え室にて、私達はモニターで中距離決勝の様子を静かに見ていました。ライスさんとブルボンさんも口をあんぐりと開けており、私達を気にして来たナカヤマフェスタさんとオルフェーヴルさんも半狂乱でした。

 

 

ライス「も、もしかしてゴールドシップさん.........元々このつもりだったのかな.........?」

 

 

ブルボン「分かりません。しかし、可能性はあります」

 

 

マック「こ、これは沖野トレーナーが倒れそうな.........あぁ!!?白銀さんがターフに飛び降りて!!!」

 

 

 無茶苦茶です。実況席ですら驚きの声を上げ、客席スタンドでは何故か紙吹雪が舞っていながらも、白銀さんとそれを抱き抱えたゴールドシップさんが幸せそうな表情を見せています。

 

 

 .........そんな顔を見ていると、私もつい嬉しくなってしまいます。貴女もかなり、長い事思い続けていた筈ですから。

 

 

マック(.........次は、私の番ね)

 

 

マック(.........?ポケットに何か.........)

 

 

 息を整えてから椅子から立ち上がった時、不意に上着の揺れ方に違和感を覚えました。その違和感を頼りにして右ポケットに手を入れると、ひんやりとした冷たい感触が手に触れました。

 

 

マック(!これは.........彼のネックレス)

 

 

 取り出してみると、それはいつも彼が身に付けているチームの証。王冠のアクセサリーのネックレスでした。

 

 

 .........はぁ。と溜息を誰にも聞かれないように吐きました。一体、何を迷い、恐れているというのでしょう?

 

 

 こうなる事は承知だったはずです。だと言うのに私は未だ、過去の自分を求め、そして今の自分を卑下している.........そんなもの、誰も求めてはいません。

 

 

 ゴールドシップさんの取った行動と、彼の託してくれたネックレスが、私をようやくマイナスから0の状態に戻してくれました。

 

 

マック(答えは.........[レース]の中に.........)

 

 

 以前、お母様から教えて貰った言葉を頼りに心を落ち着かせ、そのネックレスを首に掛けました。

 その答えがなんなのか。どこにあるものなのか。本当に存在して居るのか.........そんな確証も保証も無い中で、私はそれを期待しました。

 

 

マック(.........URAファイナルズ。私は、勝てるのかしら.........)

 

 

 そんな思いを胸にモニターに視線を移すと、レース場は既に長距離部門決勝戦に向けて着々と準備を推し進めていました。

 

 

 .........あともう少しで、始まってしまう。

 

 

 私の人生で一番、[大きなレース]が.........

 

 

 恐怖では無い。高揚感でも無い。思考を張り巡らせるほど冷静でも無ければ、興奮しているという程身体に熱は篭っていませんでした。

 ただ分かる事と言えば.........[何か]が起こるという事.........

 

 

 完全に予感と言ってしまえるその感覚に戸惑いながらも、私はただ、その時を待っていました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、第六部[夢駆け人編]

 

 

 

 

 

最終話 [山あり谷ありウマ娘]

 

 

 

 

 

4月13日。投稿予定.........

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