山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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どうも。作者です。
今日のこの時間。三年前の4月13日の0:16。ちょうど一話目が投稿された日です。
ここに来るまで多くの月日が流れました。学生だった私は今や社会の歯車としてあくせくと働いております。
今日という日を迎えられたのも読んで下さる皆さんのお陰であり、そしてここまで辿り着きたいと書き続けた今までの作者自身のお陰です。
その全てに感謝を込め、この言葉を送ります。

今日の最強カードは!
[超融合]ッ!!!
手札を一枚捨てる事で相手と自分の場のモンスターで融合召喚が出来るぞっ!
このカードに対して相手は効果を使う事は出来ないっ!正に[最強]の融合魔法カードだっ!!!

じゃ、俺これ投稿して引退するから…


山あり谷ありウマ娘

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

 レース場の一角。外の盛り上がりを遮断するかの様な作りをしている部屋。本来ならば何も用事もなく入る事は無いガラス張りのその中で、俺は静かに目を閉じていた。

 これから長距離レースが始まる.........始まってしまえば、否が応でも現実と向き合う事になる。それが良いものか悪いものかは分からない。

 だが、覚悟をしなければならない。覚悟を決めて、俺はその現実をしっかりと受け止めなければならない.........

 

 

 そんな風に自分の心と向き合いながら、部屋の中心に備え付けられている物をボーッと見ている。昔の俺だったらきっと、これを使う事になっていたかもしれないが.........

 

 

桜木(.........生憎、タバコもライターも手持ちに無いんでね)

 

 

 誰にも邪魔されず、一人になれる場所。そう考えて思い付いたのはここだけだった。ソワソワとした様子を見せれば折角の精神の安定を揺らがせてしまうかもしれない。

 彼女達は今、戦っている。そして戦いを終えた者も居る。これから戦場に赴き、そして帰ってきた者達に俺の事を考えさせたくは無い。

 

 

 .........俺は、一体何を信じれば良いのだろう?

 

 

 俺はどちらかと言えば信じるのは得意な方だ。疑うのより難しいかも知れないが、信じた方が楽しい事が沢山ある。何度それで裏切られても、俺のその根本は決して変わりはしない。

 でも、それ自体を見つけられていない状態だ。果たして自分は何を信じてきたのか?

 

 

 [勝利]か?[次]か?それとも[力]?

 

 

 .........それでも良かった。今までは。

 

 

 けれどもう違う。俺はギャンブラーじゃない。分の悪い賭けに乗れる程手持ちは無い。それを賭けてしまえば.........きっと俺は立ち上がるのは困難だろう。

 

 

 今まで散々、[折れてきた]。

 

 

 折れて、折れて、折れ尽くして.........手の内にあるのは、刃の根元からポッキリ折れた剣。柄だけだ。

 そんな握る場所さえ無くしたら、俺は何を掴む?支柱を無くし、彷徨い倦ねる俺の手を、一体誰が掴んでくれる.........?

 

 

 今までは.........[強い思い]があった。そして今日の結果次第で、それすらも失う可能性がある.........

 

 

桜木(俺、は.........っ)

 

 

 今の自分が信じるもの。それは人か、或いはその外にあるものか。答えがあるのかすら怪しい自問自答。それを中断させたのは、ここを使いに来た喫煙者だった。

 

 

 .........いや、ただの喫煙者では無かった。

 

 

古賀「おう、お疲れさん」

 

 

桜木「!古賀、さん.........」

 

 

 アロハシャツの上に軽めのジャケットを羽織った男性。顔のシワは初老の年季を感じさせる。

 [古賀 聡]。俺にこのトレーナーという道を示したその人であり、有名トレセントレーナーと言えば彼の名をあげる人が多い程、長い間活躍している人だ。

 

 

桜木「禁煙は良いんですか?」

 

 

古賀「ああ、辞めっからな」

 

 

桜木「.........禁煙を?」

 

 

古賀「[トレーナー]を」

 

 

桜木「―――.........」

 

 

 胸ポケットからタバコとライターを取り出し、ソフトタイプのパッケージから一本咥える。そんな仕草をしながら俺の質問に何でも無いように彼は答えた。

 .........不思議と驚きは無かった。この人も良い歳だ。いくらサポート職と言っても70手前の人が出来る仕事じゃない。一人のウマ娘なら兎も角、チームを見ると来れば尚更だ。

 

 

 いつかは来ると思っていた。そのいつかが今日知らされた。ただそれだけだ。

 それでも、胸の内には寂しさが広がる。その感情に従うように顔を俯かせると、視界の端から1本のタバコとライターが出て来た。

 

 

古賀「おめえさんも吸え」

 

 

桜木「.........俺は辞めませんよ」

 

 

古賀「禁煙を?」

 

 

桜木「.........」

 

 

 返事は返さず、一応差し出された物を受け取った。口にタバコを咥え、ライターの火を付ける。熱源を近付けながら息を吸い込むとタバコ特有の煩わしさが胸の中に広がって行った。

 

 

古賀「.........まっ、アレだ。オグリ達を育て上げた時点で俺の職務は全うし終えたんだよ」

 

 

古賀「その後担当を取るでもなく、チームの後継を育てるでも無い。ただの置物爺さんだわな」

 

 

 ケラケラと笑い、口から煙を出しながらそう言った。この人のジョークはいつも黒いが、キレが聞いててつい笑ってしまう。

 けれど、普段だったらいつまでも続く筈のその笑いが急に止んだ。何かと思って彼の方を見ると、少し考え悩み、最終的に後頭部を激しくかいた。

 

 

 .........今まで見た事ない姿だった。いつもだったらもう少し、違う事を話したのなら照れくさそうに本当の事を言っていた。

 その姿は.........本当に言いたくない事を、それでも伝えなきゃ行けない事を.........伝えようとしている感じだった。

 

 

古賀「.........嘘だよ。ホントはもっとやるつもりだった」

 

 

桜木「やりゃ良いじゃないっすか」

 

 

古賀「無理だ」

 

 

古賀「.........俺はもう、[トレーナー]をどうやりゃ良いのか.........分かんなくなってきちまった」

 

 

桜木「―――っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........[認知症]。って奴だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一番聞きたくない言葉が聞こえて来た。人にとって最も残酷で、まるで天から与えられた罰の様な不治の病。その病名が、俺の頭の中を支配した。

 その病はこの人から.........生きた経験も、証も、その道に着けた轍すらもまるで吹雪の様な勢いで埋めつくして行く。この人自身からそれを.........奪って行く。

 

 

 そしていつか、俺達の事も.........

 

 

古賀「あっ、他の奴には言うなよ?今ん所沖野とやよいちゃん達しか知らねぇからな」

 

 

桜木「.........いつ伝えたんですか」

 

 

古賀「今日」

 

 

桜木「.........今日ッッ!!?」

 

 

 あっ、ダメだ。一気に可哀想感が消え失せた。

 そんな事しちゃダメだろ。常識を考えてくれよ良い歳なんだから。理事長も絶対困ったでしょそれ。今言う?URAファイナルズの決勝戦だってのに、それ言っちゃう?せめて終わってからにしなさいよ.........

 

 

 .........とまぁ、良い感じに悲しい気持ちも無くなった。そんな俺の様子を見て古賀さんはまた笑い、根元まで吸ったタバコの火を灰皿ですり潰していた。

 

 

桜木「じゃ、退職祝いに何かあげますよ。ゲームとかどうです?認知症の予防に効くらしいっすよ」

 

 

古賀「要らねぇよ。んなもんよりもっと記憶に残るもんがある」

 

 

桜木「?なんすかそれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめえさんの[優勝]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........っ」

 

 

 俺の隣でニカりと満面の笑みを浮かべる古賀さん。その言葉と表情に一切の疑念は無い。俺の優勝を信じ、そしてそれを喜ぶと彼は言ってくれた。

 

 

 .........意味が分からない。俺はまだ若造だ。確かに担当達は強くて才のある子ばっかりだ。普通にやっていれば勝てていた。という事も沢山ある。

 けれど俺は、トレーナーとしてはまだまだ未熟だ。ここに来てから今の今まで.........レースに関しては沖野さんと担当達に助けられてばっかりだ。

 

 

桜木「.........何で、そう言えるんですか」

 

 

桜木「負けるかも、しれないじゃないですか.........!!!」

 

 

古賀「負けねぇよ」

 

 

桜木「!」

 

 

 拳を握り締め、奥歯を噛み締めた。身体に力が自然と入り、視線はまた地面を向いた。それを解いたのはまた古賀さんだった。

 変わらない自信に満ちた答え。もう一度その顔を見ると、先程とは違う真剣な真顔が俺に向けられていた。

 

 

古賀「桜木。言わなきゃ分かんねぇ事は確かにある。けどな、大人っつうのは暗黙の了解を口に出さずに察するもんだ」

 

 

古賀「子供にゃ分からん。そん時は口で伝える。だが俺から見たおめえさんはもう―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――立派な[トレーナー(大人)]だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 肩に置かれた手。もう歳を取って皮だけになり、それでもその生きた年数を感じさせる皺と冷たさがあった。

 

 

 .........ダメだろ。まだその時じゃないだろ。頑張って堪えろ。鼻水をすすって平然としろ.........男だろ.........

 

 

古賀「俺ぁもうなぁんも悔いはねぇよ。全部渡してやったからな」

 

 

桜木「はい.........はい.........っっっ」

 

 

古賀「ったく、泣き虫だなぁ〜。沖野はもうちょい我慢してたぞ〜?」

 

 

 肩に置かれていた手が俺の頭を抱き寄せ、胸の方にデコを擦り付けられる。乱暴な力加減が、今は何だかとても悲しかった。

 

 

古賀「.........俺の[トレーナー]の[全部]。お前と沖野に託したからな」

 

 

桜木「はいぃぃぃ.........っっ!!!」

 

 

古賀「カッカッカッ!!手のかかる弟子だぜっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........まっ、[だから渡した]んだがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきまで乱暴な手だったのに、最後は優しく頭を叩かれた。そして力強く、そして優しく天辺を撫でられた。

 そして骨の髄まで実感する。これが最後なんだと。この人と[トレーナー同士]で居れるのは、これで終わりなんだと.........

 

 

 涙を袖で拭って鼻をすする。格好悪い姿は見せたくない。俺は胸を張ってこの人の前に立ち続けたい。

 そう思い、俺は身体を離して背筋を伸ばした。

 

 

桜木「.........俺、勝ちます」

 

 

桜木「まだ未熟で、勝ち以外の何を信じれば良いのか分からないけれど.........それでも、やってみます」

 

 

古賀「?なんだおめえさん。まだ[そこ]か?」

 

 

桜木「.........え?」

 

 

 彼から出て来た言葉に俺は困惑した。この人はどうやら、俺はもうそこをとっ越していると思っていた様だ。

 あからさまに困惑する俺の顔を見て、古賀さんはまたケラケラと笑った。そして何も言う事なく、この喫煙所から出て行こうとしていた。

 

 

桜木「ちょ!待ってください!!俺は何を信じればいいのか分かってるって事ですか!!?」

 

 

古賀「あぁ。痛え位にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[無限の可能性]。自分と担当のそれを、目一杯信じてやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り返る素振りを見せることなく、彼は俺に背中を向けながらその言葉だけ言って喫煙室から出て行った。

 無限の可能性。言葉を聞けば何を青臭い。そう鼻で笑えてしまうくらい漠然としていて具体性はどこにも無い。

 けれど、それくらいでいいのかもしれない。若いあの子達と肩を並べる為には、その位暑苦しく、そして大きい思いを抱えるべきなのかもしれない。

 

 

 .........結局、俺はどこまでも手のかかる弟子だったらしい。トレーナーとして二人きりで話せる機会はもう最後かもしれないと言うのに、結局泣いてしまいそれを笑われてしまった。

 

 

桜木(全く、泣き虫は治らねぇなぁ)

 

 

桜木(せめて次は、最後まで泣かないようにしねぇと.........!!!)

 

 

 もう一度目元を袖で強く拭った。もう泣かない。たとえ何があろうとも、最後まで俺は自分を保って見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが.........古賀さんへの退職祝いに相応しい.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ、と息を吐き切り、新鮮な空気を取り込む。一口しか吸えていないタバコの火をすり消し、俺も古賀さんと同じように振り返ること無く喫煙室を後にした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........」

 

 

 長距離戦が始まる直前の控え室。普段であるならばもう少し明るい雰囲気が漂っていますが、今は皆さんも重苦しい雰囲気を出しています。

 .........無理もありません。この勝負の結果でチームの行く末が決まる。そう考えてしまえば、出走者もそうでない者も自然と緊張してしまいます。

 

 

 胸に掛けた[王冠のネックレス]。彼のくれたお守り.........それに片手を伸ばし、そっと包み込みます。それだけで心は休まり、暖かさを感じる事が出来ました。

 

 

 そんな静かな中、不意に控え室の扉が空けられます。皆さんがその方を見ると、そこには私達のトレーナーさんが立っていました。

 

 

沖野「桜木。どこ行ってた?」

 

 

桜木「ちょっと一人になりに。古賀さんに会いましたよ」

 

 

沖野「!そうか.........何て言ってた?」

 

 

桜木「沖野さんが聞いた事と同じ事を」

 

 

沖野「.........」

 

 

 それだけ言って彼は壁に背を持たれ掛けさせました。内容はハッキリと分かりませんが、沖野トレーナーの反応を見るに楽しい話では無かったようです。

 気になる所ではありますが.........いつレース入場のアナウンスが入るか分からない状況。ここで聞けば返って精神を乱してしまう可能性があります。

 

 

「お知らせ致します。長距離決勝の準備が整いました。選手の皆様はターフに集合するよう.........」

 

 

テイオー「.........始まるね」

 

 

タキオン「.........ああ」

 

 

 重苦しい物がより一層強さを増し、身体に乗っかってきます。私は息を吐き切り、意識を切り替えるのと同じ様に肺の中の空気を新鮮な物へと取り替えました。

 立ち上がろうと閉じた瞳を開けると、私に影が掛かっている事に気付きました。その方向を見ると、白い勝負服を来たテイオーが立っていました。

 

 

マック「テイオー.........」

 

 

テイオー「.........やっとまた、走れるね」

 

 

マック「はい。期待に添えるかは分かりませんが、全力でお相手致しますわ」

 

 

 彼女から目を離さずに立ち上がると、不意に目の前に手を差し出されました。お互い全力を尽くそうという意思が感じられ、自然と頬を緩ませながらもその手を取りました。

 

 

 握った最初は.........普通の握手だと思いました。しかし、私の手を握る彼女の手は、強い力を込められています。力が入り過ぎて、震えるくらいに.........

 そこにどう言った意図があるのか。彼女が何を考えているのかを汲み取ろうとしていると、今度はその横から声を掛けられました。

 

 

ライス「マックイーンさん!ライスと走るのも久しぶりだよね?」

 

 

マック「!ええ、天皇賞の時以来です。ですが今度は、あの時の様には行かせません」

 

 

ブルボン「私は初めてです。マックイーンさんとも、テイオーさんとも」

 

 

ブルボン「自分の走りがどこまで通用するか.........とても楽しみです」

 

 

マック「ふふ、あまりレース前に気負うと実力は出せませんわよ?肩の力を抜きましょう?」

 

 

 お二人の表情。視線。どちらもまだ形を定めきれていない熱された鉄のように熱い物を宿しています。

 ライスさんもブルボンさんも、私がリハビリをしている間に頭角を現して来ました。想像以上のスピード。そして力で.........

 

 

 通用するのかどうか?その台詞を言うのは私の方です。一年のブランク。挑戦した事も無いような長距離。そして.........最大のライバル達。

 打破すべきは自分の心。そう思いつつも、その高すぎる壁に気圧されてしまいます。

 

 

 .........行けません。あまり長居をし過ぎるとまた彼に頼ってしまう.........私はチームの[エース]。言うなれば支柱となるべき存在。

 今まではスピカの中という事で曖昧にされてきましたが、独立してしまえばそれも明白になってしまいます。そんな時、エースが頼りないのはチームが立ちません。

 

 

マック「.........では、私は先に失礼させて頂きますわ」

 

 

全員「え!!?」

 

 

マック「?何か.........?」

 

 

 私の言葉に大きな驚きを見せる皆さん。思わず振り返りましたが、特にこれと言って何かがある。という訳では無いようです。

 しかし、全員の目線が次第にトレーナーさんに集まり、最終的には沖野トレーナーが彼の背中を叩いて私の前へと出してきました。

 

 

マック「!そ、その.........トレーナーさん.........?」

 

 

桜木「え、と.........その」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........が、頑張って.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........っ、はい」

 

 

 自信のなさそうに言葉を紡ぐ彼の姿を見て.........やはり、自分がしっかりしなければ行けないと気が引き締まりました。

 何を期待していたのでしょう?しっかり自分を保てさえすれば、彼の言葉も必要なんてありませんのに.........

 

 

 自分の弱さに奥歯を噛み締め、それを悟られないように私は控え室を出て、扉を閉めました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

ゴルシ「.........何やってんだよっっっ!!!」

 

 

桜木「いっっっっっ!!!??」

 

 

 ―――マックイーンは俺の言葉を不服そうに受け取った後、その機嫌を表すようにその扉を乱暴に閉めた。その様子を見て、俺は彼女の期待に応えられなかった事を悟った。

 そんな彼女の背中が目に焼き付いて呆然としていると、ゴールドシップから背中に蹴りを喰らわされる。多分、蹄鉄跡とかくっきり残ってると思う。

 

 

ゴルシ「いつもの調子で言やァ良かったじゃねェか!!!一着で待ってるとかさァ!!!」

 

 

タキオン「そうだぞトレーナーくん!!!君の存在が彼女にとってどれほど大きいかもう分かっている筈だろう!!?」

 

 

桜木「し、仕方ないだろ!!?アレだっていつも結構心の準備して言ってんだよ!!!素面で言える訳ねぇだろ!!!」

 

 

ウオッカ「.........結構言ってるよな?」

 

 

ダスカ「結構言ってるわね」

 

 

 あ、アレ?結構皆さん俺の事をそんなキャラだと思ってらっしゃる.........?

 

 

 ウオッカとスカーレットに賛同する様に首を縦に振るウマ娘達。そこにはウララですら同意を見せている。

 沖野さんに至ってはため息すらして.........とても不甲斐ない.........

 

 

『.........っ!良い感じだったのに.........』

 

 

桜木(っ、もしかして.........)

 

 

『ええ。[繋がり掛けた]わ。貴方のせいでまた切れたけど』

 

 

桜木(.........ごめん)

 

 

 隣に突然現れた存在。いつもと違い、まるで魂から身体が形成されるような形で姿を見せた彼女。

 彼女の言った言葉の答えを求めると予想通りであり、俺がもっといい言葉を掛けていたら全てが上手く行っていたかもしれない。彼女は蔑むような目で俺を睨んだ。

 

 

桜木(.........仕方無いだろ。ガキになり切れねぇんだよ。昔っから)

 

 

桜木([無限の可能性]なんて.........今更だよ)

 

 

 [無限の可能性]。言葉を聞いてときめいては居た。だが人間の本質なんざそう直ぐには変わらない。俺は昔からそう言った物は信じてこなかった。

 目の前にある物。その人が見ている物を信じる。それしか出来ない単細胞だ。いくら遠くても見れてさえ居れば辿り着くことは出来る。導く事は出来る。

 けれど俺は優柔不断だ。たくさんの結果があって、そのどれもが綺麗に彩られてしまえば.........呆気なく俺は迷う事になる。ここに居るのも、きっとそういう事なんだろう。

 

 

桜木(.........ホントは、言いたかったよ)

 

 

桜木(けれどその言葉すら.........思い付かなかったんだ.........)

 

 

 痛みが滲む背中。それを罰だと思い甘んじて受け入れる。今はその痛みが酷く有難く、そして何よりも辛かった。

 入場のアナウンスが再度鳴り響く。それを聞いた他の子達も控え室を後にして行く。彼女達に掛ける言葉も.........思い浮かぶ事は無かった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エディ「.........静かだな」

 

 

ルビィ「え?騒がしいよ?」

 

 

ジミー「あ、ああ。僕にも盛り上がっている様に聞こえるよ?」

 

 

 長距離レースが始まる直前。先程までダートから中距離の決勝戦が行われていた。

 会場の盛り上がりは最高潮。普通の一般人ならばそう思うだろう。

 

 

パール「いいえ。確かに静かだわ」

 

 

パール「まるで、怯えてみるみたい.........」

 

 

 娘であるパールの言葉を聞き、二人は改めて周りに意識を向けている。そしてその言葉の真意を心で察し、二人も少しその顔を曇らせた。

 皆怯えている。これから突きつけられるであろう現実に、恐怖している.........

 

 

エディ(.........無理もない。[繋靭帯炎]は不治の病。治ったとしても、今後一生付き合う事になる)

 

 

エディ(革新的な治療法は確立されたが、それだけはどうにもならん.........あの痛みと恐怖は.........計り知れん物だ)

 

 

 いつまで経っても付きまとう悪魔の単語。[繋靭帯炎]。亡き妻の姿を夢想し、奥歯を噛み締める。

 この国のレース文化は、世界で最も進んでいると言っても良い。そんな国の国民が、その病の本質を知らない訳が無い。

 

 

 [繋靭帯炎]は治らぬ。たとえ一時その顔を見せなくなったとしても、必ずどこかで顔を覗かせる。

 治療は完璧。だが、本人にその知識があるのならば.........克服したとは言い難い。知れば知るほど、その病に足を掴まれ引き寄せられる。

 

 

エディ(.........[奇跡]を超える。だったかな?)

 

 

エディ(.........そんな大層な言葉を、果たして君は実現出来るのか?)

 

 

エディ(何者でも無い。ただの[トレーナー]の一人である君が.........)

 

 

 私の元に訪れた青年。その目は希望に縋り付いていた。絶望の渦中で垂らされた天からの糸。まるで昔話の様な細い糸を暗闇から見つけ出し、それを掴んで見せた。

 だが、まだ[掴んだだけ]。これからその頼りない糸を登って行かなければ行けない.........それが出来ないのならば、天から降ろされた糸を見つけたという[奇跡]しか起こっていない。

 

 

 このレース。この一戦こそが、私のこれまでの行いの答え合わせになる。出来ることならば私は.........不正解でありたい。

 そんな思いを胸に、まだ誰も居ないターフを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろURA.Fsの長距離が始まるぞ!」

 

 

「ジャパニーズのデータが取れる良い機会だったわ!研究し尽くして来年は私の担当が大暴れするんだから!!」

 

 

 ―――うるさい位に騒がしいパブリックビューイングの会場。厳密に言えば、トレセン学園デトロイト支部の体育館。

 既に時刻は深夜を回る所か過ぎている。にも関わらずここまでトレーナー達が集まっているのはやはり、日本のみならず世界でも初めての試みであるURAファイナルズのその規模と影響力だろう。

 

 

「誰が勝つと思う?」

 

 

「[15番]のメジロパーマーはどうだ?中々面白い走りをするらしいぞ」

 

 

「[5番]のライスシャワーじゃないか?今の長距離ステイヤーと言ったらあの子一択だろ」

 

 

「ライバルの[8番]ミホノブルボンも侮れないわ!同じ逃げのメジロパーマーも!」

 

 

「やっぱ[7番]トウカイテイオーだろ!クラシック三冠だからな!」

 

 

ニコロ「.........[12番]。[メジロマックイーン]」

 

 

 知っている名前が多く挙がってくる。当たり前だ。この決勝戦に出てくるウマ娘には殆ど顔を合わせている。

 だがその中で出てこなかった名前があった。いつも通り沈黙を貫くつもりだったが、思わずそれが口から出て行ってしまった。

 平時だったら何も言う事の無い俺に驚いたのだろう。先程まで盛り上がっていたのが嘘かのように全員口を閉じ、俺の方を凝視していた。

 そして.........

 

 

「「「「.........ははは!!!」」」」

 

 

「無い無い!!お前今までのレース見てなかったのか?ボロボロだったじゃないか!!」

 

 

「まっ、確かに二年前までは最強だったらしいけど?G1も4勝してるし」

 

 

「繋靭帯炎になったんだろ?リハビリも随分かかってアレだったし。ありゃレースセンスを完全に失っちまってるな」

 

 

「可哀想なのは分かるけど、あまり弱いウマ娘に気を入れ過ぎると道ずれにされるぞ?リッティン」

 

 

ニコロ(.........言っていろ)

 

 

 バカにする様に笑い声を上げた群衆。それは俺に向けた物か、それとも彼女に向けた物かは判別が付かない。

 だが、俺は肌で知っている。[メジロマックイーン]というウマ娘の強さを。あの[男]の貫き通す意志を.........肌で感じ、そして実感している。

 研修に行ったのが俺で良かったと心底今になって思う。もしあの中の誰が行っていたとしても、表面上の結果だけを見て自国の強さをひけらかす為のデータにしかしない。自分の身にしない。ただ見ただけの物を嘲笑うか、盗むかしかしない。

 

 

 俺が.........日本で感じた物は相手を尊重し、敬いながらもそれを足枷にせず、むしろ[誇り]として誠心誠意相手にぶつける事。

 あの男は二度の天皇賞で、それをして見せた。人にとって、恐らく最も難しいであろう行為を.........

 

 

ニコロ(.........信じるさ。俺も)

 

 

 どこまで行っても突き抜ける様な発想力。そしてそれを相手に施す指導力。どれを取っても一級品。奴にも分かっているはずだ。今の彼女がどの様な状態なのか.........

 何かを起こす筈だ。ビルからビルへ飛んだあの時の様に、突拍子も無い[奇跡]を.........俺達の想像もつかない方法で、[超える]筈だ。

 

 

 その時は必ず来る。そんな確信めいた何かを抱きながら、俺は組んだ腕の二の腕を強く握り締めていた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タマモ「あっぶな!!あともうちょいで長距離レース始まるやん!!!」

 

 

イナリ「おいタマモっ!!急に走ったら危ねぇだろうが!!」

 

 

タマモ「うっさいわ!!ダートから中距離まで端から端ぜ〜んぶ見て長距離だけ途中からなんてウチは嫌やで!!!」

 

 

 ―――危ない所やった。入口通路から抜けて観客席に着いた頃にはもう選手入場が始まっていた。

 本当は最初から見てたんや。本当やで?でもオグリが小腹すいたっちゅうからほんならコンビニでなんか買おかー言うてちょこ〜っとだけレース場から出たんや。場内で買おうすると店員の顔が青ざめるからな。オグリの顔みて。

 

 

オグリ「はんははは、はふひほいひうへんはは(なんだタマ、さっきより真剣だな)」

 

 

クリーク「オグリちゃん。ゴックンしてから喋りましょうね〜」

 

 

タマモ「あったりまえやん!!マックちゃん達には世話なったからなっ!!気合い入れて応援するで〜!!」

 

 

 ウチは貰った恩は百倍にして返さな気が済まん質なんや。受け取ったままは性に合わん。もうドリームトロフィーリーグに行ってもうて会う機会もそんなあらへんし、責めてレースの時くらい全力で応援したいんや。

 それに.........

 

 

タマモ(.........ああ、やっぱ緊張の顔しとるわ)

 

 

 今までの予選を見て、自分でレースを走るウマ娘なら分かる。マックちゃんは今かなりジリ貧や。そんな中で大舞台。緊張せん訳無い。

 こういう時、頑張り屋に必要なんは[伝える]事。応援しとるで〜。期待しとるで〜が一番心に響くんや。

 

 

 .........けどまぁ、あの様子を見るに。

 

 

タマモ(おっちゃん。またトンチンカンな事したなぁ)

 

 

 それが上手く伝わっとらん。女の子っちゅうんは難しいんや。これがどこぞの関西生まれ関西育ちならいざ知らず、シティに揉まれ育った若い女子にド直球は悪手や。

 きっとあの様子じゃ、ただ[頑張って]って言っただけやろ?アカンでおっちゃん。そんなん関西生まれ関西育ちのウマ娘にしか.........って。

 

 

タマモ「どっからどう考えてもウチの事やないかいっ!!!」

 

 

三人「え?」

 

 

タマモ「ハっ!アカンっ!!ウチにも緊張が移っとる!!あ〜〜〜もうっ!!!」

 

 

 自分の頭をわしゃわしゃと掻きむしってから鉄柵を握り締める。まだゲートインはして居らへん。時間は十分にある。

 けれどそれがマックちゃんにとっては悪い事かもしれへん。緊張ってのは時間が解決してくれる事は無い。返って逆にそれを強くしてまう時すらある。こういう時の待ち時間っちゅうんはホンマに辛いんや。

 

 

タマモ(安心してなマックちゃん。ウチらはどんな事あっても、マックちゃん達の味方や)

 

 

タマモ(無事に.........走り切るんやで.........?)

 

 

 怪我明け後のレース。ドでかいもんになると掛かりやすくなる。マックちゃんは賢いからそうはならへん思うけど、念を送っとく。一回二回大丈夫だったがダメなんやで?

 そんな不安と戦いながら、ウチらはレースが始まるのを黙って見ていた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサマ「.........」

 

 

 ―――熱気。興奮。期待。ここに来ると、自分の身体が忘れていた物を皆帯びている様に感じてしまう。そしてそれにあてられて、私自身もはしたないと思いながらも身体を少し震わせてしまう。

 レース場にこうして足を踏み入れたのは本当に久しぶりだった。仕事の予定や体調面の不調。諸々が重なってしまい、大きいレースは特に.........

 

 

ラモーヌ「お祖母様。もう少しでレースが始まります」

 

 

アサマ「!そうですね。浮かれている場合ではありません」

 

 

ティタ「あら、ちょっと位良いじゃないですかお母さん」

 

 

アサマ「そういう訳には行きません。マックイーンもパーマーも気合いが入っているのです。当主とあろう者が気を抜くなど.........」

 

 

ティタ「はいは〜い。ホットドッグいる人〜」

 

 

 .........全く。我が娘ながら、何とも軽い物腰を.........夫も困っているではありませんか。

 しかし、肩の荷が少し下りたのも事実。その部分は感謝し、私もラモーヌも娘婿が持ってきてくれた食事に口を付けた。

 

 

ティタ「.........それに、大丈夫よ。二人なら」

 

 

アサマ「え?」

 

 

財前「パーマーちゃんは聡明ですし、大舞台も経験しています。緊張との付き合い方は誰よりも上手です」

 

 

財前「そしてマックイーンは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――マックイーンは私の娘で、お母さんの孫なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサマ「―――!」

 

 

 儚げな微笑みを見せるティターン。生まれて初めて見る彼女のその表情を見て、自分の子供だと思っていたのが急に遠のいてしまった感覚があった。

 

 

 .........[メジロティターン]。私とあの人の、たった一人の娘。天皇賞という大きな宿命に気圧されながらも、たゆまぬ努力をしてその[貴顕の使命]を成し遂げた。

 

 

 大切な存在。だからこそ、確実に幸せを手にして欲しかった。その思いは恐らく正しく、その思いに準じた行動は、完璧に間違っていた.........

 彼女の思いを知らず、半ば強制的に婚姻を結ぼうとしてしまった。それが彼女の逆鱗に触れ、一時は修復不可能なまでに関係は壊れてしまった。

 

 

 しかし、私の夫。彼女の父親とは交流が続いていた。手紙を出し、時には顔を見せていた。

 私は.........会わせる顔が無かった。彼女が出て行ったその瞬間から、自分の行いが間違っていたと気付いた。

 

 

 それでも、大きくなった[誇り]が。身の丈に合わない[メジロのプライド]が.........何よりも邪魔だった。

 

 

 親として、ただ一人の母親としての立ち方を.........私はとっくの昔に忘れてしまっていた。

 

 

 そんな中、夫が亡くなった。老衰だった。

 

 

 もう既に70年以上の時を生きていた。覚悟は決まっていた。

 けれど彼の遺言が.........私を悩ませた。

 

 

 娘と、もう一度仲良くして欲しい.........

 

 

 最初は、お互い顔を背け、すれ違う時は挨拶すら出来なかった。そんな日が何日。何週間も続いた.........

 

 

 そんなある日だった.........

 

 

『ぬいぐるみ.........マックイーンの物ね』

 

 

『私めがお届けしましょうか?』

 

 

『構いません。これくらいは自分で出来ます』

 

 

 メジロの家に彼女達。ティターンとその夫。そしてマックイーンがやってきてから時折起こる事だった。

 寂しがり屋でいつもウサギのぬいぐるみを抱いて行動している幼いあの子は、同い年のメジロのウマ娘達を見つけると喜んでその背中を追っていた。

 そんな時に良くぬいぐるみを落とし、後から無い無いと言って.........私に泣きついてきた事もあった。

 

 

 そうなってしまえば、また家中を探す羽目になってしまう。幸いあの子の部屋はここから近い。時間もある事だし、自分の足で届けよう。

 

 

 そう思い、部屋の前まで来た.........

 

 

『おかあさん!はしりかたおしえて!』

 

 

『あら、どうして?マックちゃん今でも充分速いわよ?』

 

 

『だーめー!!もっとはやくなるのー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もっとはやくなって![てんのうしょう]にでてかつの!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.........そう。だったら、ママより[おばあちゃん]に教えて貰った方が良いわよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ママよりず〜っと.........凄いんだから♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.........ぬいぐるみは、明日で良いわね』

 

 

 また背負わせてしまう。また苦しめてしまう。憧れという免罪符で無限に広がる可能性の殆どを狭めてしまう.........

 そう思いつつも、嬉しくなってしまった。幼い孫が私達の青春に憧れを抱いてくれたのが。

 

 

 そして、涙を流してしまった。

 

 

 あの時の娘が私を.........まだそんな風に見てくれたのが.........全世界の一瞬を束ねた物よりも、心に響いてしまった。

 

 

アサマ「.........大人になりましたね。ティターン」

 

 

ティタ「んもう、昔みたく[ティタちゃん]って呼んでも良いのに〜」

 

 

アサマ「あら。だったら貴女も昔みたいに[〜ですわ]って言ってくれるのなら考えますよ?」

 

 

ティタ「.........そんなの覚えてないわ」

 

 

アサマ「嘘おっしゃい」

 

 

 まるで子供のように口を尖らせてへそを曲げる。やはり私の前ではまだまだ子供.........

 

 

 私はきっと、また背負わせてしまった。自分の娘と同じ物を、今度は孫達に.........その重荷を背中に乗せてしまった。

 それでも彼女達は走り抜ける。若き日の私と同じように。それを自分の使命と[同等]として.........

 

 

アサマ(.........私はずっと。自分と言う存在を世間に、そして[メジロ家]に示す為に走って来た)

 

 

アサマ(マックイーン。貴女はまだその[使命]を見つけていない.........)

 

 

アサマ([メジロの悲願]は[メジロ家全体]の物.........決して貴女が[ひとり]で背負う物で無いわ)

 

 

アサマ(それを見つけない限りは.........)

 

 

 かつて一度だけ。私が辿り着いた[極地]。天皇賞に出走した時、身体の奥底に眠った[スイッチ]を押した様に、自分の全てが変わった。

 私はあの時だけ。娘は何回かそれを経験した.........あの子も、マックイーンにもそれが存在する可能性は十分ある。

 

 

アサマ(自信を持ちなさい。貴女がその気になれば―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――全世界で一番強いウマ娘なのですから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コウキ「.........」

 

 

リョテイ「.........なんだコウ。ビビってんのか?」

 

 

 ―――興奮を帯びた民衆。レースとなったらコイツら人間はアタシらウマ娘と同様。もしくはそれ以上にその熱を、ボルテージを上げて行く。

 そんな中で一人、静かにレース場を見る存在が居た。それはアタシの夫であり、メジロマックイーンと桜木 玲皇の息子であった。と言っても、アタシら共々未来の存在なんだが。

 

 

 そんな中で軽く小突いてやると、普段の様な大袈裟な反応は見せず、優しくアタシの手を包んでこの手を降ろさせた。どうやら今はそういう気分じゃないらしい。

 

 

コウキ「.........僕さ。こっちに来て初めて見たんだ。母さんの走ってる姿」

 

 

コウキ「生まれた時にはもう車椅子で、見れたとしてもぎこち無く歩く姿。僕達の手を引くのはいつも父さんで.........今まではずっと、守るべき存在だと思っていた」

 

 

リョテイ「.........コウ」

 

 

 静かにターフに立つウマ娘を見ている。その目はただ真っ直ぐ、自分の母親のかつての姿を見つめている。

 悲しい感情も、哀れみも抱いている様子は無い。ただただあるがままを見つめる子供のように、その姿をその目に焼き付けていた。

 

 

リョテイ「.........帰ったら[絵]でも描くか?」

 

 

コウキ「はは、いくら[アーティスト]でも自分の親の絵でお金は稼ぎたくないかな」

 

 

リョテイ「フっ、それもそうだな」

 

 

 降ろされた手を動かして、コイツの指に自分の指を絡めて行く。1本1本。決して解けない様に.........

 

 

 これから、始まる。泣いても笑っても、URAファイナルズの最後のレース。どんな結果が出てもアタシは受け止める覚悟がある。そもそも関係者なんてそう居ない。ショックのデカさはたかが知れている。

 .........けれど、もし万が一が起きた時、その時。母親の顔が崩れてしまったら、きっとコイツは苦しんで、きっと悲しむだろう。

 少しでも泣いてしまわないよう、アタシはとりあえず、コイツの喜ぶ夕飯を考えておく事にした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ざわつきの広がりを見せるレース場。これから一人ずつゲートインが始まろうとしている。

 一人。また一人ゲートへとその身を投じていく。その瞬間をただ、固唾を呑んで見守る事しか出来ない.........それがとても、歯痒かった。

 

 

 ファンファーレは鳴り終わった。これからURAファイナルズの全てが終わるレースが始まる。俺の身体はまるで息をするのを忘れたかのように冷たく、血の気を感じさせなくなった。

 

 

タキオン「.........手でも握ろうか?トレーナーくん?」

 

 

桜木「っ、ありがたい申し出だけど。宗也に悪いから」

 

 

 からかわれた。とは思えなかった。彼女の声の抑揚が、何よりその表情が、俺の事を完全に心配した物だったからだ。

 情けない。これじゃあ本当に何も変わってないじゃないか.........

 

 

 奥歯を噛み締めながら鉄柵を握る手に力を込める。自分の不甲斐なさが、今この現状を引き起こしているのだと実感し、怒りが芽生える。

 

 

 .........昔からそうだった。[期待]を裏切るのはいつも[俺自身]だった。周りがどんなにサポートしてくれても、結局俺の不出来さが足を引っ張った。

 それは[自分の夢]を追う事から、[誰かの夢]を支える今になっても、変わっていない.........いつまで経っても、あの頃のまんまだった。

 

 

『.........ならそうやって一生うじうじしてなさい』

 

 

桜木(!.........良いのか?マックイーンの傍に居なくても.........)

 

 

 不意に聞こえて来る聞き慣れた声。彼女の根幹でありながら、彼女から弾き出されてしまった存在。[ウマソウル]そのものの[メジロマックイーン]が傍に浮かんでいた。

 彼女はいつにも増して不機嫌そうな顔で俺を睨み付けている。今までに無いくらい怒りを顕にして、それを俺に向けている。

 

 

『あの時分かったわ。あの子ともう一度繋がるには貴方が必要なの』

 

 

『そんな貴方がその調子なら、別の方法をここから探すわ』

 

 

桜木(.........ごめん)

 

 

 周りは既にこれから始まる激闘を察し、その熱を高めている。その中心に居るはずなのに、俺は苦しんでいた。

 周りの人達は真剣にレースを見ようとしている。タキオン達も、沖野さんも、いつも騒がしい筈のゴールドシップ達ですら、それが始まるのを今か今かと待ち望んでいる.........

 

 

 URAファイナルズ長距離決勝。距離は準決勝3600mの時より延びるかと思っていたが、意外に短い2500m。条件で言ってしまえば[有馬記念]と同じ物。

 それが余計に俺の不安を増幅させる。決勝には彼女のライバルである[トウカイテイオー]も居る.........[奇跡]を起こしたと言っても良いレースと同じ距離。そこでブランクを背負いながら、走らなければならない.........

 

 

桜木(.........今まで散々言ってきたけど)

 

 

桜木([奇跡]を超えるってのは.........相当怖いんだな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「曇り空の元、中山レース場」

 

 

「芝2500mURAファイナルズ決勝。16人のウマ娘達が挑みます」

 

 

「各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「泣いても笑ってもこれで決着。URAファイナルズ長距離決勝―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガコンッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――今スタートですっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースと言うのは、[群像劇]だ。

 

 

 誰しもが自分の物語に始まりを告げる為に。或いは彩りを付ける為に。或いは.........[ピリオド]を付ける為に、その身を投じて行く。

 

 

 始まりは平凡な出遅れ無しの滑り出し。大逃げが一人居る事からやや縦長の状況にはなっているが、ここまで残って来ている長距離強者が乱される訳もなく、皆虎視眈々と自分の仕掛け所を見定めて行く.........

 

 

 

 

 

パーマー(最初っから最後まで先頭に立つッッ!!!それが私のやり方ッッ!!!)

 

 

 ―――距離は2500m。十分スタミナが持つ距離。コースの特徴も[有馬記念]と同じ。最後の坂と短い直線が特徴的。

 大丈夫。走り切れる。あの時を思い出せば、絶対誰にも負けずに走り切れる.........!!!

 

 

パーマー(っ、でもちょっと後ろが近いなぁ.........!この感じだと相手は―――)

 

 

 

 

 

ブルボン(パーマーさん。やはり大逃げで来ましたね.........ですが、データベースに狂いはありません)

 

 

 ―――目の前を走る背中に惑わされないよう、自分のペースを保ちつつ、ラップタイムを自分の時間で測っていく。

 この距離のままなら、最終コーナーを回る時に溜めたスタミナを全部使って先頭に立つ事が出来る.........

 けれど.........

 

 

ブルボン(.........やはり、準決勝よりも食らいついて来ますね)

 

 

 第一コーナーを回る瞬間。視線だけ動かしてコーナーの始まる部分を見た。思っていた通り目に映る人数は少ない。

 2500m。長距離と言って良いのか分からない半端な距離。このペースで勝てるのかと自分に問い掛けたくなる。けれどそれをしてしまえば、確実に潰れてしまう。

 

 

ブルボン(.........どうやら、パーマーさんの方が私より、一枚上手の様ですね)

 

 

 背中に感じる微かな[威圧]。明らかに狙われている自分の背中を見て見ぬふりをしながら、私はもう一度意識を前へと向け直した。

 

 

 

 

 

ライス(.........思わずマックイーンさんの背中に張り付いちゃったなぁ)

 

 

 ―――レースが始まってすぐ、誰をマークすべきかをライスはずっと考えてた。でも、結局答えは出なかった。

 どうしようかって悩む暇を作る前に、咄嗟に目の前の背中を追っちゃった。それが.........マックイーンさんだった。

 

 

 凄く、安心する.........前はずっと、マックイーンさんの背中を追い掛けて練習してたから、反射で張り付いちゃったのかな.........?でも.........

 

 

ライス(多分。このままだと[負けちゃう])

 

 

 安心感はある。けれど、今のマックイーンさんから[覇気]が感じられない。ライスと天皇賞で走った時みたいな気迫が.........無くなっちゃってる。

 もしこのまま着いて行っても、ダメかもしれない。マックイーンさんに着いて行くより、テイオーさんに着いて行った方がもしかしたら.........

 

 

ライス(.........うん。そうしよう)

 

 

ライス([第三コーナー]。それまではマックイーンさん。そこからはテイオーさんで、最終的にブルボンさんになる。かな.........)

 

 

 追うべき背中は決まった。もし第三コーナーまでマックイーンさんが調子を取り戻せなかったら.........その時はテイオーさんをマークする。

 そう心に決めて、ライスはもう一度マックイーンさんの背中を見つめながら静かに息を潜めた.........

 

 

 

 

 

 ―――速度。スタミナ。展開。どれを取っても申し分無い。このままの状態が続くのならば、シミュレーション通りに事が運ぶだろう。

 そうした時には、[有馬記念]の様に早仕掛けをする事になるが.........

 

 

ビワ(.........それは恐らく、[彼女]に警戒されているだろう)

 

 

 私の前を走る小さい背中。かつての有馬記念で早仕掛けをした私を、ブランクとリハビリ明けの身体で多くの予想を覆したウマ娘。トウカイテイオーの背中を見る。

 既に作戦は割れてしまっている。一度行ってしまった手前、仕掛けるのは悪手。ここは一旦様子見で行くしか無い。

 

 

ビワ(全く、やりずらいな.........トウカイテイオーと言い、[もう一人]と言い.........)

 

 

 自分の背中の後ろに居る。かつての[最強]。早仕掛けという生易しい物では無いハイペースな先行策。常にスパートを掛けていると錯覚する程のスピードを持ち前のスタミナで出し続ける[怪物]。

 

 

 彼女。メジロマックイーンは[レース]をしていない。彼女はただ、ゴールを一番最初に駆け抜けることをし続けた存在だ。

 それを徹底し、そして破壊する.........そんな考えで走っては居ないだろうが、生半可な力量で競り合えば潰され、例えそのハイペースに着いて行けたとしても最後のスパートで 引き離される。

 

 

 .........だが幸か不幸か、今の時点で私の後ろに居るという事はそうはなり得ない。いくら[最強]と言えども、[奇跡]はそう起こり得ない物だ。

 

 

ビワ(恐らく勝負は[第三コーナー]。それまでに足を溜めて―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースが始まった。中距離の時とはまた違う異様さが、私の頭を強く悩ませる。

 展開はやや縦長。大逃げ一人が居るだけでレースの緊張感は計り知れない物となる。

 

 

タキオン(中距離戦であの走りをするウマ娘が居たとしたら.........考えたくないね)

 

 

 自分の欠点は克服した。私はそう胸を張って宣言する事が出来る。

 だがしかし、もしあの場であのような走り方をする者が先頭に立ったとしたら.........結末はまた別の物であり、私はそう低くない確率でこの場で悠長に立つ事は出来なかっただろう。

 

 

ウララ「ブルボンちゃんもライスちゃんも調子良さそうだね!」

 

 

デジ「そうですね!このまま行けばもしかしたら.........」

 

 

 周りの熱気と興奮に充てられた二人は額にうっすら汗を浮かばせながら語り合っている。確かに、二人の調子は良さそうだ。このまま行けば.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ダメだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人「.........え?」

 

 

 潰れた様な。捻り出された声。その主は紛れも無くトレーナーくんの物だった。

 レースを見るその目は見開かれて血走っている。そして奥歯を噛み潰すような表情でただ、走り行くウマ娘達の[中心]を見据えて居た。

 

 

桜木「.........そろそろ、テイオーが仕掛けてくる」

 

 

沖野「っ、何言ってんだ桜木。そんな事する訳が「分かるんですよッッ!!!」.........桜木?」

 

 

桜木「アイツの表情を見れば分かるッッ!!!もうとっくのとうにそうするって決めちまってる!!!」

 

 

 取り乱して声を荒らげる彼に、落ち着かせようと宥める者は居なかった。何故ならば、その言葉には説得力があった。

 全体を見れば分からない。だが、一点を絞って見てしまえば彼の言う通り、テイオーくんは既にスパートに入る為に体勢を整えている。

 

 

 沖野くんの様子を見るに、そんな作戦は立てていなかったのだろう。彼の表情はそれを察すると見る見るうちに唖然した物へと変わって行く。周りのチームメンバー達も同様。誰も彼女の思惑に気付かないで居た。

 

 

ゴルシ「け、けどよ!!大丈夫だろ!!ブルボンもライスも強ぇし!!何よりマックイーンも.........」

 

 

桜木「.........テイオーは[天才]だ」

 

 

桜木「傍で見てきたから分かる。身体の柔らかさ。重心移動の軽やかさ。どれを取っても一級品。その中でも特筆すべきなのは―――」

 

 

 

 

 

 ―――レースと言うのは[映画]見たいな物だ。起承転結がハッキリとしていて、一つ一つにドラマが存在して、そこにファンが生まれて行く。

 もし、今がどんな場面かと言われれば俺は答えよう。[物語の黒幕]の正体。それが顕になった瞬間だと.........

 

 

 第三コーナー。その遙か前。逃げを打つブルボンがそこに足を踏み入れた瞬間。会場がどよめき出した。

 

 

「おっと!!どうした事か!!!トウカイテイオーがここでスパートを掛けてきたぞッッ!!?」

 

 

 掛かってなんか居ない。彼女の表情は酷く冷静で冷たさすら感じる。普段のレースであるならば、適正の無い長距離ならば、普通はこんな事はしない。

 

 

 .........だが、俺達は与えてしまった。[天才]と言われる存在に、[時間]と言う何にも変えられない[資源]を.........

 

 

 トウカイテイオーは天才だ。身体の動き。レース展開の速さ。現状把握能力。臨機応変に対応する柔軟性。どれを取っても一級品。

 けれど、今ここで一番特筆すべきなのは.........

 

 

 今出走している、俺のチームが持っていない―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[鋭いキレ]だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースの展開が変わった。

 

 

 [ボク]が変えたんだ。このままじゃきっと、[何も変わらない]から。

 

 

 こんな所でスパートを掛けるのは練習でもした事ない。けれど大丈夫。3600mをいつもの調子で走り切るくらいまで特訓したんだ。あと1200mくらい何とか持つはずだ。

 

 

テイオー(さぁどうするの!![マックイーン]!!!)

 

 

テイオー(このままじゃ[負けちゃう]よ!!!)

 

 

テイオー(ボクに勝ちたいなら.........!!!早く[戻ってこないと].........!!!)

 

 

 ボクには分かる。マックイーンはもう[元通り]に走れるって事を。何度も骨折して、何度も折れてきたボクだから、よく分かる。

 辛いよね。苦しいよね。思った通りにレースが運ばなくて、自分の身体が思った様に動かせなくて.........

 

 

 でもそこを乗り越えなくちゃ行けないんだ。そこを乗り越えないと.........キミはボクの[ライバル]に戻る事は出来ない.........!!!

 

 

 

 

 

 ―――一人のウマ娘が突然、[スイッチ]が入ったかのようにスピードを上げました。それを見た者は私を含めて全員、その思考を停止させました。

 

 

 しかし、そうは言ってられません。いくら想定外だったとしても今はレース中。直ぐに切りかえて冷静に状況を分析するべきです。

 

 

 .........ですが。

 

 

マック([追い付けない].........!!!)

 

 

 異常なスピードの伸び方。この位置からそれをするという事は彼女にはそれで勝てるという算段が着いているという事。[無敗の三冠バ]である彼女が意味もなくそうするとは思えません。

 そして.........そのスピードに追い付く事は不可能。現在の私はもちろん.........[かつてのメジロマックイーン]でさえ.........

 

 

 遠のいて行く背中。それをずっと見続けている。苦虫を噛み潰す様に奥歯を噛み締め、ギチギチと音を立てたとしても身体は速くはなってくれない.........

 あまりにも早すぎるスパート。しかしそれは私に対しては最も有効と言える手段。スタミナが保つのならば、キレの鈍い私の末脚で捲れない程の距離を開いてしまえば良い。

 

 

マック(嫌.........嫌.........!!!)

 

 

 終わってしまう。無駄になってしまう。そんな負の感情が胸の内で渦巻き、濁流を作り出して行く。

 

 

 ここまで来たんです。

 

 

 戻って来れたんです。

 

 

 それをこんな形で.........終わらせてしまうなんて.........

 

 

 皆さんの期待に.........応えられぬままレースが終わってしまうなんて.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [奇跡]が遠のいて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [勝利]が逃げて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [テイオー(ライバル)]が、見えなくなって行く.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 引き離されて行く。トウカイテイオーがどんどん後続を引き離して、やがて先頭に躍り出る。

 予想なんてしていなかった。まさかこんな姿を見せ付けられるなんて.........誰も、彼女の勝利を疑って居なかった。

 

 

 どよめきはやがて[応援]となった。トウカイテイオーの一人勝ち。それを確信した人々は大いに盛り上がりを見せ、他の誰にも目を向けはしなかった。

 

 

桜木「...........................っ」

 

 

 言葉が出て来ない。たった一言も、[彼女]の名前すらも、出すことが出来ない。それは、ここに居る誰しもがそうであった。誰ももう.........彼女の勝ちを予想する事すら出来なかった.........

 

 

『.........待ちなさいよ』

 

 

『ここまで来たのよ.........?』

 

 

『呼びなさいよ.........応援しなさいよ!!!』

 

 

 鋭く尖った針のように、隣に漂う彼女の言葉が心に突き刺さる。分かっている。こんなの、諦めたのと同じだ。信じきれない弱さ俺のが、彼女の名前を呼ぶ事を拒んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........多くの奇跡が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそれは、結局の所[奇跡]止まりの物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウララ「頑張って.........頑張って.........!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その先に到達するのは、人の手では無理なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神が起こす[奇蹟]には、遠く及ばない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを酷く痛感した。[奇跡を起こした]。それを大勢の目の前で成し遂げたテイオーは伊達じゃなかった。

 結局、俺は弱くてみっともない[桜木 玲皇]のままだった.........信じられる物すら見つける事が出来ずに.........ここに立っている.........

 

 

 .........それでも

 

 

桜木(呼ぶんだ.........!!俺が叫ばなくてッッ、誰があの子の名前をここで呼ぶんだ.........!!!)

 

 

 諦めきれなかった。どんなに自分が弱くても、彼女は違う。俺の知っているあの子はこんなものじゃない。ここで終わるような存在じゃない。

 そう、心に言い聞かせても.........言葉は何一つ口から出てはくれない。

 

 

 ただの空気だけが通り、入ってくる。呼吸を繰り返して窒息しそうになる。息苦しさから、虚しさになって、俺は目の前の現実から目を覆いたくなった。

 

 

 .........涙すら出て来た。もうダメだって実感し始めた。ここで、声を上げて泣く事が出来たらどんなに楽な物か.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、誰も彼女の名前を呼ぶ者は居ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう誰も、彼女の勝ちを信じる者は居ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう。これが俺達の―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックイィィィ―――ンくぅぅぅんッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――悲痛な叫び声が耳に入って来た。その大きな声が鼓膜を大きく震わせ、俺の涙も、周りのトウカイテイオー一色の声援も、一瞬にして止めてしまった。

 

 

桜木「.........タキ、オン.........?」

 

 

タキオン「.........っ」

 

 

桜木「お前.........泣いてるのか.........?」

 

 

 隣を見れば、両手で鉄柵を強く握り締め、顔を俯かせているタキオンが居た。その俯いた顔から地面にかけて雫が三つほど落ちて行くのを見て思わず呟いた。

 

 

 そして彼女は俺の言葉から間を置かずに、こちらに顔を見せるように身体を真っ直ぐと起こした。

 その顔には涙はもちろん、鼻水も垂れ流しになっていた。

 

 

 それをすすって、彼女は静かに口を開いた.........

 

 

タキオン「.........私はね。[研究者]なんだよ」

 

 

タキオン「科学に基く者として、神様は信じたりはしない」

 

 

タキオン「.........だが、今の[彼女]を信じないのは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――今までの自分を[背く]事になる.........ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の彼女を信じられなかったらッッ!!!私は明日から何を信じれば良いんだッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強い断言が、心の奥底に突き刺さる。先程の物とは違う、刺さった場所から暖かい感触が広がって行く.........

 彼女はそれを言い終えて、もう一度レースの方へ視線を移した。そしてまた、彼女の名前を全力で呼んだ。

 

 

「.........頑張れー!!!マックイーン!!!」

 

 

「こんな所で負けるなァァァ!!!」

 

 

「マ゛ッグイ゛ーン゛ざん゛!!!勝゛っで下゛ざい゛ッッッ!!!!!」

 

 

 流れが変わった。タキオンの声が聞こえた人達から徐々に、広がりを見せ始めた名前を呼ぶ声。応援する声。

 その中には.........身を乗り出して半べそで応援するダイヤちゃんの姿もあった.........

 

 

デジ「トレーナーさん!!!」

 

 

桜木「っ、デジタル.........」

 

 

デジ「あたしも[信じます]!!!」

 

 

 それだけだった。それだけ言ってデジタルも、声を上げて彼女の名前を呼び始めた。

 

 

 .........俺だけだった。この場に居て、彼女の名前を呼んでいないのは.........

 

 

ゴルシ「マックイーンッッ!!!負けんじゃね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ッッ!!!」

 

 

ダスカ「アンタの走りはこんなもんじゃ無かった筈よッッッ!!!!!」

 

 

ウオッカ「お前がこっから出ねェとマジで勝てねぇぞッッッ!!!!!」

 

 

スペ「マックイーンさんッッッ!!!!!ド根性ですッッッ!!!!!」

 

 

スズカ「お願い.........!!!帰ってきて.........!!!」

 

 

フェスタ「今のアンタなら大丈夫な筈だろッッッ!!!!!底力見せてくれよッッッ!!!!!」

 

 

オルフェ「絶対勝てるって自分を信じてッッッ!!!!!」

 

 

白銀「お嬢ッッ!!!負けたくないなんて思うなッッッ!!!!!勝ちたいって思えェェェェッッッ!!!!!」

 

 

黒津木「お前が勝たないと俺達も安心して玲皇のチームに入り浸れねぇんだッッッ!!!!!」

 

 

神威「頼むよ.........ッッ!!!せめてコイツを.........!!!コイツに[夢]を見させてくれよッッッ!!!!!」

 

 

 .........なんでなんだ。一体どうして、皆は信じられるんだ.........?俺に、俺にもその方法を教えてくれよ.........!!!

 

 

 ただ呆然と立ち尽くしていた。マックイーンはどんどんバ群に飲み込まれて行っている。テイオーは一人差を付け始めている。そんな状況でどうして.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いい加減にしなさいッッッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 知っている声が背中に当てられる。それに驚いて振り返ると、涙で瞳を潤ませた少女が立っていた。

 いつもの姿とは違う。力強く、自信のこもった覇気はどこにも無い。そこに居るのはただの.........一人の少女だった。

 

 

『何を信じれば良いとかッッ!!!何を見つければ勝てるだとかッッ!!!そんな下らない事でうじうじ悩むなッッッ!!!!!』

 

 

『貴方には自分の手で[行先]を決める力があるッッ!!!私には無かった[力]がッッ!!!』

 

 

『こんな所で.........こんな所で[立ち止まる]なんて!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『絶対、許さないんだから.........ッッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「―――.........」

 

 

 その瞳から涙が零れ落ちて行く。頬を伝って、重力に従って地面へと。まるで宝石の様な雫が涙となって落ちて行く。

 

 

 それを見て、静かに気が付いた。

 

 

 そしてもう一度。俺はレースを走る彼女の姿を見た。

 

 

桜木(.........臆病になってた。俺)

 

 

 少し考えれば分かる事だったじゃないか。

 

 

 [言い換えれば]、直ぐに気が付けたじゃないか。

 

 

 俺は今までずっと.........[無限の可能性]を[信じて]ここまで来たじゃないか.........!!!

 

 

 [過去]は変えられぬ程悲劇的だった。

 

 

 [未来]は目を背ける程悲惨的だった。

 

 

 それでも俺は.........それを[追ってきた]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方にはありますか?私と共に、メジロ家の使命を共に背負い、[一心同体]になる覚悟が』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも俺は.........[守ってきた]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今度は二人でちゃんと、[一心同体]になろう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも俺は.........[探して来た]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勝って.........三連覇を、皆さんにあげたかった.........!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えそれが[壊れた]としても.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺と君は、[一心同体]だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えその[夢が覚めて]しまっても.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私と貴方は.........[一心同体]ですわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、同じ[光]を見つけてしまっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺はッッ!!!あの子達の隣に立ちたいんですッッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かに[過去]は変えられない。[未来]の悲劇は起こってしまった。それはもうどうしようも無い事実だ。

 けれど俺は、俺達は今を生きている。どうしようも無いスピード感の中、目まぐるしく回る時計の針にすら気を向けられない程、忙しなく[現在]を生きている。

 

 

 それに置いてかれないように。立ち止まらないようにするにはどうした良い?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――簡単だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[走っちゃえば良い]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........胸の内に語り掛けてくる声。初めて聞いたその声の正体は.........何となく分かった。

 

 

桜木(.........そうだよな)

 

 

桜木(そら歩いて[追ってたら]、立ち止まるのは楽だわ)

 

 

 自分の胸の前で拳を握る。本来であるならばそこにある物。けれど今は、彼女の胸にあるそれに触れるように優しく握り締めた。

 

 

 俺達の[チームの証]。

 

 

 俺達が[作り上げた意味]。

 

 

 俺達と共に、[夢を目指した]。

 

 

 分からない筈がない。知らない訳がない。それを目指してきた俺が、俺達が。それを核とした存在に気が付かない事などない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――さぁ、声を出して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そうすれば[咲く]んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――君が大事に育てて来た、[桜の木]が.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........すぅぅぅ―――」

 

 

 大きく息を吸い込む。この場に広がる[勇気]を取り込むように肺に入れて行く。臆病さは身を潜め、今はただ、あるがままの心で行動してみる。

 それに合わせて、背中に手が添えられる。それは先程、俺に喝を入れて気付かせてくれた彼女の物だった。

 

 

 それでも、声はまだ出てくれない。

 

 

 なんだよ。まだ怖気付いているのか?

 

 

 お前は、今まで沢山乗り越えて来ただろ?

 

 

桜木(.........あぁ、そうか)

 

 

桜木([背中]。見えなくなるもんな)

 

 

 今までの俺は、誰かの背中を見ていた。その後ろからそれを追って、それを支えて来た。

 でもそれももう終わりだ。後ろに居るだけじゃ、前に転んだ子を助ける事は出来ない。それを助けるには.........隣に居るしかない。

 

 

 [背中を追う]のはもう終わり。

 

 

 これから、その隣で―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックイィィィ―――ンッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――皆を、支えてみせる.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [夢駆け人]になった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........っ、この感覚.........それに、この場所.........」

 

 

 目を覚ました様な感覚に意識を手繰り寄せられる。気が付けば世界は一面の星空になっていて、地面が無い。上も下も分からない場所になっていた。

 

 

桜木(.........綺麗だな。それに身体がふわふわしてる)

 

 

桜木(凄く、不安定だ)

 

 

 宝石を散りばめた様な光。星降る夜の中心に身体が置かれて頭がおかしくなりそうな感覚。

 傍には彼女が居ない。今の俺はつまり、一人という事だ。

 

 

 けれど、ここは確かに[あの子]の精神世界だ。彼女の力を使って来たんだから間違いでは無い。

 

 

桜木「.........弱ったなぁ」

 

 

 元々、捜し物には縁の無い人生を送ってきた。無くした物や人に探して欲しい物は見つからない人間だ。ここに来てそれを課されると言うのはなんという無理難題だろう。俺を試して何になるって言うんだ。

 そんな事を思い、頭をかいていた。

 

 

桜木「.........?」

 

 

 何をすべきか。何を探すべきかを視線を泳がさながら考えていると一つの[星]に意識が向いた。

 理由は分からなかった。どこにでもある星。それよりも明るい物なんて沢山あるのに、何故かそれに心が惹かれた。

 

 

 優しくて暖かい。そんな光を感じる。突き放す事はなく、身体を焼くことも無い。そんな優しさを持ちながら、自分はここに居ると示せる程の力強さ。

 気付けばそれに、手を伸ばして居た。

 

 

 身体がその星へ近付いていく。光の暖かさが身体に浴びせられて気持ち良さを感じる。それは、どこかで知っている感覚だった。

 

 

 .........[繋がる感覚]。そうだ。人と分かり合えた時に感じる物だ。今まで何度も経験して、感じる事も無くなる程に経験している感触。それを今、肌で、心で直接受け取っている.........

 

 

 その星がどのくらい離れているのかは分からない。何千、何万、何億光年離れているのか.........文字だけで表されて人間にはとても体感出来ない距離単位。

 それでも、こんなに近くに感じられる。重力とか引力なんかじゃない。もっと受動的で自発的な接近.........俺から近付いているんだってハッキリ思える。

 

 

 満点の星空の中。地面の無い世界。行先も身体を真っ直ぐにする事もままならない世界で、唯一自分を保てる物。それは[目標]であり、その先にある[夢]だ。

 俺はその星を[夢]にし、それを[追い駆ける]。

 

 

 そしてその夢に触れた瞬間―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――世界は、まっ更な[草原]へと移り変わった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が吹いた。春風の様な寒さと暖かさが織り交ざった始まりを告げる風。それを頬を撫でて、俺は[正解]を引き当てた事を悟った。

 

 

 目の前には[彼女]が居た。黒い勝負服に身を包み、厳かに瞼を閉じ、凛として佇んでいる彼女が、そこに居た。

 

 

マック「.........どうして、見つけられたのですか?」

 

 

桜木「.........見つけるよ。君がどんなに隠れても、離れても」

 

 

桜木「例え70億人の中に放り込まれたとしても、絶対見つける」

 

 

桜木「[今度]は.........この手で」

 

 

マック「.........っ」

 

 

 彼女は俺を睨んだ。恐ろしさは無い。ただ今は、ちょっと分からない事が沢山あるだけ。そう思うと、今の彼女に恐怖なんて抱かなかった。

 .........何年走っていようと、メジロ家という名門。貴族の様な生まれだとしても、彼女はまだ[子供]だ。俺の方が知っている物も多い。

 だったら[大人]として、彼女がその足で立ち上がれる為に色んな事を教えて上げるのが筋ってもんだ。じゃなきゃ、取った魚に餌をやらないのと同じ事だ。

 

 

 

 

 

 ―――彼は笑っていた。私の言葉に、圧に、まるで相手をしないかのように。ただ微笑んで私を見ていた。

 向かい合って対照的な表情を見せ合う。誰かがこれを見ても、とても[一心同体]とは言い表せないでしょう。

 

 

マック「.........今回ばかりは、私に期待しないで下さい」

 

 

マック「無理を承知で出走しましたが、思っていた以上のこの体たらくぶり.........自分事ではありますが、酷く残念な気持ちです」

 

 

マック「だから「待ってよ」.........っ」

 

 

桜木「もしかして.........負ける気なのか.........?」

 

 

 彼はその疑念を表情に乗せて問い掛けてきました。その表情からは、まだ私が勝てるという信念がある事を知らせていました。

 .........その顔を見ていると、胸がざわついてきます。これではまるで、私だけが勝てないと思っている様ではありませんか.........!!!

 

 

マック「.........私はただ、皆さんに恩を返したかっただけです」

 

 

マック「そこに勝ち負けは無く、ただ支えて下さった人達に.........私の姿を見て安心して欲しかった」

 

 

マック「それだけなんです。URAファイナルズに参加したのは.........」

 

 

 最初から勝てる勝負だとは思っていませんでした。一年のブランク。[繋靱帯炎]のトラウマ。そのどれもがまだ克服し切れていません。そんな中で勝とうとするなんて、笑われてしまうのがオチです。

 私が焦っているのは.........もっと別の部分。自分の今の姿が、人々の求める[メジロマックイーン]なのか。辛勝を重ねるより、もしかしたら今回はあっさりと負けて置いて、次のレースの為に身体を調整した方が良かったのでは.........そんな考えもあったのです。

 

 

 今回は多くの人に、ファンの方々に不甲斐ない姿を見せてしまいました。しかし、次こそは皆さんの知っている[メジロマックイーン]に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にそうか.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「っ.........だから―――」

 

 

 まるで私の心を見透かした様な言葉に憤りを感じた私は、彼の事を睨み付けました。そしてその顔を見て、その憤りは一瞬にして霧散していったのです。

 

 

 彼は泣いていました。真っ直ぐとした目で私を見て、凛とした表情をしながらも、その目からは涙を溢れさせていました。

 そしてそれを見て、悟ったのです。彼はまだこの後に及んで、私の事を.........私の勝利を未だに信じているのだと.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『断言出来るよ。君は大化けする。人々の視線を持っていくレベルまで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........どうして.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マックイーンはさ、ユタカなんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしていつも.........ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『[君の夢]になる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の事を信じるのですか.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 与えられた選択。考えても見れば蹴ることも出来た。けれど彼はその全てを、茨の道を進む事を受け入れて今ここに居る。それが既に、不可解でした。

 今の私には到底理解出来ない。あの時は分かることが出来たはずなのに、本当の自分はそれを理解出来ていない。分かった風でいてそのままにしていた.........自分の弱さから逃げる様に。

 

 

 握りしめた拳、噛み締めた奥歯。口元が横に大きく広がる。分からない事への苛立ち。自分の不甲斐なさへの苛立ち。そして、彼への苛立ち.........その全てが渦巻いて、全ての矛先が彼に向いた。

 

 

マック「どうしてっ私に期待するのですか.........!!!こんな姿を晒しているのにっ!!!貴方はどうして.........」

 

 

マック「.........どうして、そんな目で.........わたしを.........!!!」

 

 

 涙で濡れた顔。どんなに拭っても、その上に上書きする様に流される。

 そんな私の顔を静かに見つめながら、彼もその目から涙を流していた。

 

 

 

 

 

  ―――彼女のその目が俺を射抜くように睨み付けている。けれどそれに、恐れや怒りが湧いてくることは無い。

 言葉は偉大だ。自分の気持ちや状況を伝えるのにとても優れている。だと言うのに俺達はそれをせずとも、勝手に伝わるものだと思っていた。

 

 

 そんなことをして何になる?

 

 

 黙って気持ちが伝わるんだったら、別にロボットでも良いじゃないか。

 

 

 俺達は隣に居る。言葉を交わさない方が、不自然じゃないか.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方にはありますか?私と共に、メジロ家の使命を共に背負い、[一心同体]になる覚悟が.........?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........好きだからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もうおしまいにしましょう?こんな勝てなくなった私など抱えていても、迷惑しか掛けられませんわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の事が、何よりも好きだから.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っっっ.........淋しかったぁぁぁああぁぁぁあああぁぁ.........!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っっっ.........!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[ひとりじゃねぇ]っつってんだッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――強い感情を露わにして、彼は私にその言葉を紡ぎました。

 それは以前に聞いた回答とは違う物。[トレーナー]だからという立場による物では無い。一人の人間として、彼の個としての答えでした。

 

 

桜木「.........マックイーン。[君の夢]はなんだい?」

 

 

 先程の激しさから一転し、落ち着いた口調で彼は突然そんな事を言いました。胸のざわつきも苛立ちも無く、私はただ純粋に心の内側を探り始めます。

 

 

 .........けれど。

 

 

マック「.........[私の夢]はもう叶いました。春の天皇賞。それに勝つ事です」

 

 

 そう。私の夢は随分前に叶えてしまいました。それも二度も。決して忘れる事の無い瞬間です。

 今も昔も、私の夢と聞かれればそう答えます。けれど彼はその答えがどこか分かっていたかのように悲しげに笑い、そして首を振りました。

 

 

桜木「マックイーン。それは多分。[メジロ家]皆の夢じゃないかな?」

 

 

マック「.........!」

 

 

桜木「君一人が背負うべき物でも、背負って良い物でも無い。[皆の夢]であって、[君だけの夢]じゃない」

 

 

 真剣な眼差しでそう言われて、私はハッとしました。そしてここに来てようやく、初めて気が付けたのです。確かにそれは、ライアンやパーマー。他のメジロのウマ娘やおばあ様達の夢でもある、と.........

 気が付いてしまえば、私はもう狼狽えるしかありませんでした。今までそれを[誇り]とし、[自信]として来ました。自分一人で成し遂げたと言う。自分だけが目指していたという錯覚に陥っていた事に気が付き、残っていたのはただの独りよがりだった.........

 

 

 それでも彼は、そんな私に優しく微笑みかけ寄り添ってくれました。そう思い込んでいた私を、慰める様に.........

 

 

桜木「.........実はさ。[もう一人]来てるはずなんだ」

 

 

マック「え.........?」

 

 

桜木「ここに居ないって事は多分.........もっと深い。君の奥底に入り込んだのかもしれない」

 

 

 辺りを見渡し、その存在が居ない事を確認しながら言うトレーナーさん。彼に釣られて私も周りを見ましたが、彼の言うもう一人は確かにこの場には居ませんでした。

 もしかして.........本当に.........?

 

 

 そう思い、自分の心に触れるように深く意識を集中させると、確かに自分の中に[彼女]が居る事を.........その存在を、感じさせました。

 

 

桜木「.........どうやら見つけたみたいだね」

 

 

マック「トレーナーさん.........」

 

 

桜木「大丈夫。俺はここで[待ってる]」

 

 

 優しい顔で、けれど力強い表情で彼は私を安心させてくれる。

 そんな彼に背中を押される様に、私はもう一度。[彼女]と会う為に意識を深く、深く集中させて行きました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暖かな風が消え、肌が裂かれる程の冷たい空気を感じ取り、私は目を開きました。

 そこは先程の彼と居た草原ではなく、豪華絢爛な装飾を施され、目が痛い程に赤赤とした床の彩色が特徴的な小さな部屋でした。

 

 

マック「ここ、は.........?」

 

 

『ククク.........フフフフフ』

 

 

マック「っ!」

 

 

 響き渡る笑い声。冷たい空気よりも冷えたその声に驚きながらも、私は既に頭の中でその声の正体についてある程度目星がついてしまっていました。

 

 

『貴女は所詮外様。故に[誇り]そのものを目標にした』

 

 

『誇り無き者は[メジロ]にあらず.........』

 

 

『その凡庸な手で一体、どれほどの数の[理想]がすり抜けて行ったのかしら?』

 

 

 傲慢な少女がクラシカルな私服に身を包んでいる。私よりも白く、まるで吸血鬼の様な血の気の無い肌と冷たい表情が私を追い詰める。

 冷徹な目とその声が、私の心を酷くざわつかせました。

 

 

マック「っ、貴女は.........まさか」

 

 

『貴女には[誇り]が必要』

 

 

『栄光と名誉をあるがままに求めなさい.........』

 

 

『[名家の血統]だけが生きる道よ』

 

 

 [誇り]。[名誉]。[血統]。まるで取り憑かれたかのように生まれや在り方に対して執着を見せる少女。

 彼女は私の顔を見て薄ら笑いを浮かべながら、部屋に大きく飾られた[盾]の前へと立ちました。

 

 

マック「.........そう。貴女は、かつての私の[理想像]なのね.........」

 

 

マック「それも、[トレセン入学前]の.........」

 

 

 .........かつての私。今とは違い、[メジロ]という大きな家の小さな世界しか知らなかった頃の自分は、とても褒められた様な存在ではありませんでした。

 家族である母や父と違い家に溶け込めず、同じ子供であったライアンやドーベル達とも根本的な物が違う.........

 そんな中で生活する内に生まれでた[コンプレックス]が.........いつしか私を[完璧]でいさせようとし始めた.........

 

 

 それが崩れたのは他でも無い。[彼]との出会いがきっかけだった。

 

 

 当時の私から見ても失礼ながら、未熟であったトレーナーさん。しかし未熟でありながらも、私達を導こうとしてくれた姿勢を見続けている内に.........気が付けば私の[理想]は、頭の隅からも消えてしまっていたのです。

 

 

マック「ウマ娘にとって、[血]の力は強大。ご先祖様から受け継いだ力の集結が、今を生きる私達の力になる。そしてそれは、未来に紡がれる.........」

 

 

マック「否定したい時もあった。けれど、今の私が居るのは間違いなく[血]のお陰」

 

 

マック「.........貴女からの助言は聞かないわ。けれど―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[名家の使命感(あなた)]には、感謝している」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.........そう』

 

 

 先程まで冷徹な笑みを浮かべ、暖かみの無い声を出していた少女は私の言葉に満足したのか、最終的にその頬を緩ませ、満足そうな声を聞かせてくれました。

 彼女の身体から光が溢れ出し、やがてこの空間を包む様な霧へと変化して行きます。

 

 

 その様子を見守りながら、私はその光に包まれました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光に包まれて見えてきたのは、どこまでも続く夜のターフでした。そこに誰の姿も無く辺りを見渡して居ると、不意に自分の影が突然前に伸びている事に気が付きました。

 

 

マック「.........[ライブステージ]」

 

 

 その光の出処。背後の方を振り返ると、そこにはいつもレースで勝った後に踊る大きな舞台が立っており、その中央には大きな[玉座]が鎮座していました。

 

 

『貴女が強さを求める余りに、多くの人に迷惑を掛けた』

 

 

マック「!」

 

 

 どこからともなく聞こえてくる声。先程の冷たさは無いものの、それが同じ声だとハッキリ分かります。

 自分の耳を頼りにその声の方向。遥か上空に目を向けると、そこには[白い勝負服]に身を包み、純白の羽を広げる少女が舞い降りて来ていました。

 

 

『天皇の盾に固執し、盲進した貴女は.........まるで役を与えられた[演者]』

 

 

マック「.........っ」

 

 

 彼女の言葉に、苦い日々の記憶が蘇る。その言葉の通り、かつての私は[強さ]を求め、自分の限界を超え続けて.........多くの人々に迷惑を掛けてしまいました。

 今目の前に居るのは、そんな力を渇望していた私自身.........[最強]であることを自分のアイデンティティとし、自分に比する力を持つウマ娘を恐れた。自分自身.........

 

 

『[名優]で在り続けなさい。[孤独]に[最強]を求め続ける事こそ[贖罪]になる』

 

 

 ステージ上の玉座に足を組んで頬杖を着いて座る少女。その言葉の節々からは今の私には無い[自信]が強く溢れ出している。

 

 

 .........確かに、そう考える時期もありました。[最強]で在り続ける。それだけが今まで支えて来て下さった人達に対する恩返しになるのだと、そう思い込んでいた.........

 

 

 だけど.........

 

 

マック「.........メジロの[誇り]と[使命]が、私を成長させてくれた。けれど」

 

 

マック「[最強]で居続ける事は、[贖罪]じゃない」

 

 

 強さに固執し、最強を自負し、その先で得た物はただ一つ。[恐怖]でした。

 それを打ち砕いてくれたのは、私の前に立ちはだかった[ライバル]。そして共にレースを走ってくれた[チームメイト]でした。

 

 

 もし自分一人だったら、チームじゃなかったら.........きっと今でもそうだったかも知れません。[最強]で居続ける。それに事実以上の[意味]を持たせて.........

 

 

マック「私は多くの人と出会い、多くの考え方を学んだ。今言える事は、貴女の言う[贖罪]なんて単なる[独りよがり]に過ぎない」

 

 

マック「.........それでも、私は[過去]それを求めてきた時もあった。だから―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――私は.........この[過去]と共に生きます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.........それが、貴女の[恩返し]なのね』

 

 

 過去は決して変えられない。それが例え人から見えない内側の物でも、それを求めて生きてきたという事実は存在します。

 誰にも見られていないから。知られていないからで無かった事にするには.........この思いを抱いて歩いてきた道のりが長く、そしてその道中で見てきた景色が素敵すぎました。

 

 

 彼女はそんな私の答えに対して感心した表情を見せ、ゆっくりとその玉座から立ち上がりました。

 そしてその身体からは先程の少女の様に光を帯び始め、やがてそれが霧の様に広がって行く.........

 

 

 それに包まれる瞬間。私の目には一枚の羽が舞って行きました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が晴れた視界に広がるのは、最初に立っていた草原。違う事と言えば、彼が居ない事だけ。

 その場所は暖かい春風に木々が揺れ、鳥が囀り歌う楽園の様な場所。

 そんな場所で私は一人、立ち尽くして居ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何故、走っているのかしら?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬きを一つした間に、目の前には白いワンピースに身を包んだ私が立っていました。そして、どこかで聞いた様な言葉を私に投げ掛けてきます。

 

 

『.........私と貴女との関係は、この言葉から始まったわ』

 

 

『あの時は彼に横入りされたけど、今度はそうは行かない』

 

 

『聞かせてちょうだい?どうして走るの?』

 

 

 私の心に触れるような声色で彼女は言いました。最初の時とは違い、私の全てを受け入れる様な優しさを感じられました。

 

 

 .........何故走るのか。思えばそれは、全てのウマ娘が最初に持つべき疑問。それを解消して初めて、皆がレースに臨んでいる。当然の事。

 しかし私は違った。その[何故]も[どうして]も、全てを[誇り]と[使命]に丸投げしてしまっていた。まるで、自分の弱さから目を逸らすように.........自分を省みる事無く、偽りの姿のまま走ってしまっていた。

 

 

マック「.........[誇り]と[使命]が、(わたし)をここまで強く育て、そして導いてくれた」

 

 

マック「だからこれからも.........そう思っていた」

 

 

マック「けれどもう、[この身体]はそれ以外の物を知ってしまった。それだけではもう、動いてはくれない」

 

 

マック「.........でも、ここに来ても、まだ私はそれ以外を見つけられない.........!!」

 

 

 苦しい言葉だった。この言葉を言うのに、私は一体どれだけの時間を掛けてしまったのか.........最初に解くべき勘違いを、最後の最後まで取っておいてしまったツケが回ってきている。

 自分の根幹は分かった。[誇り]と[使命]。それが自分を縛り付け、身動きを出来なくさせている。だけど、それ以外が全く分からないでいる。

 

 

 私の心はぽっかりと穴が空いてしまっていた。埋まっていた物を掘り返したのだから当然そうなってしまう。けれどそうしなければ、もう身体は動いてはくれない。

 そんな私を見ながら、彼女は優しい表情のまま口を開いた。

 

 

『.........本当。そんな所まで似なくて良いのに』

 

 

マック「え?」

 

 

『人の期待。人の願い。それを背中に乗せて走るのが私達の存在理由だった』

 

 

『私はそう生きてきた。それしか知らなかったし、それを求められたから』

 

 

 あっけらかんとした様子で彼女は言いました。けれどそれは、今の私と殆ど同じような物。与えられた使命を自分の、自分だけのものだと思い込み生きて来た。

 けれど彼女はそれを良しとして走って来た。それが.........私には出来なくなってしまった。

 

 

マック「私は.........どうしたらいいのでしょう.........?」

 

 

『.........そんな思い詰めなくて良いのよ。簡単な事でいい』

 

 

『貴女はもう[分かってる]はず。答えを[見つけ出した]はず』

 

 

『.........さぁ、貴女の[望み]はなに?』

 

 

 優しい微笑みを向けられる。戸惑いながらも、胸の中に存在を見せ始めた[渇望]。彼女の言葉によって活性化したそれの正体に触れようとしました。

 

 

 私の望み.........かつては、メジロの為に。その名誉と誇りを多くの方々に知ってもらう為に走って来た。私自身でなくても、実の所は良かったかもしれない。

 例えパーマーでも、例えライアンでも.........あの場でメジロのウマ娘が勝つのなら、それで良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もし、本当に[メジロ]の[誇り]の為に走っていたのなら.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実際は違ったのでしょう。結果勝ててしまったから有耶無耶になってしまった心の奥底。本当の気持ち。それを分からないまま今まで走ってきてしまった。

 けれど今、答えを出さなければいけない。何故走るのか。何故[天皇賞]を勝ちたかったのか.........メジロとしてでは無く、私自身として何故.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――大丈夫。

 

 

 ―――怖がらないで。

 

 

 ―――[自分]を、[あの人]を信じて.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........そうだ。ずっとそうだった。あの時勝ちたかったのは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は、出来ない約束はしないようにしてる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だから、覚悟を決める』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 応えたかった。恩に報いたかった。自分を信じ、そして支えてくれた[あの人]に.........私と同じ景色を見て欲しかった.........

 

 

 簡単な事だったではありませんか。

 

 

 それを今の今まで見つけられなかったなんて.........

 

 

 本当に.........なんておバカなのでしょう。

 

 

『.........答えは出たようね』

 

 

マック「.........はい」

 

 

 目を開けば目の前には表情を変えずに待っていた彼女が居ました。

 

 

 答えは出ました。後はそれを言葉にするだけ.........そう思い口を開いた瞬間。何故か彼女はそれを止めるように自分の口元に人差し指を添えました。

 

 

『ダメよ。こういうのはロマンチックに行きましょう?』

 

 

マック「え?」

 

 

『それは貴女が[一番伝えたい人]に最初に伝える。私は繋がってるから、もうなんの事かは分かっているわ』

 

 

『ここから先は、[私の仕事]』

 

 

 彼女は私の言葉を遮り、そしてその脚で私に近付いてきました。目の前まで来て、その両手を私の肩に置きました。

 これから何が起こるのか.........不安を感じながら彼女の顔を見ると、それを察した様に彼女は笑みを浮かべました。

 

 

『安心しなさい。もう一人には[戻れない]のは分かってる』

 

 

『けれど[力]を使う事は出来る。貴女の心の隣には、私も居る.........』

 

 

マック「!.........」

 

 

 私と同じ姿。しかし、その身長と体付きは私の物より良い物。自分より大きい彼女は私をその手で抱き寄せ、額と額を付けました。

 誰かがそばに居る.........現実ではそれを彼が。精神世界では彼女がそれを教えてくれる。何度も忘れてしまうような愚かな私でも、忘れかけてしまう度にそれを思い出させてくれる。

 

 

 そんな中、彼女の身体から[青い光]がほのかに発せられる。その光は集まってやがて球状になり、私の身体へと宿っていきました.........

 

 

『.........さっ、これで準備はおしまい。後は[彼]に思いの丈をぶつけなさい?』

 

 

マック「.........ありがとう、ございます」

 

 

『良いのよ。私は私のやりたい様にやってるだけ。こっちでは、それが出来るから』

 

 

 そう言って微笑みを向けられると、私は恥ずかしくなって顔を背けてしまいました。そんな素振りを見ても彼女は怒ることなく、むしろ嬉しそうに私の身体を抱き寄せてくれました。

 

 

『.........これから先、貴女がどんな道。結末を選んだとしても、私は貴女を尊重するわ』

 

 

『尊重して、その上で―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――胸を張って、貴女が[メジロマックイーン]だって.........貴女に伝え続ける』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........風が吹きました。春風のように暖かく、それでいて私達を包み込むような優しさのある風。

 

 

マック(.........そう。だったのね)

 

 

マック([貴女達]はずっと.........私を守っていてくれて.........)

 

 

マック(ありがとう.........今までも、そして.........[これから]も.........)

 

 

 まるで眠気に誘われる様な形で世界に包まれながら、私は目を閉じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「おかえり」

 

 

マック「.........ただいま戻りました」

 

 

 暖かさは身体に残したまま、私を包んでいた風が消えたのと同時に目を開きました。

 最初に視界に入ったのは、彼の後ろ姿。そこから時間を置かずに彼は振り返り、私の顔を見つめながら[おかえり]と言ってくれたのです。

 

 

桜木「[君の夢]。見つけられた?」

 

 

マック「はい。私の[夢]は―――」

 

 

マック「.........私の、夢.........は.........」

 

 

 言葉はもうそこまで出ている。けれど、それを口にする勇気が出てきません。せっかく彼女があそこまで支えてくれたのにこんな有様で.........私は心の中で酷く自分を罵りました。

 顔を俯かせ、歯を食いしばって拳を握り締めていると、不意に彼が私の肩に手を置きました。それに驚いて顔を見上げると、彼は優しい表情で私の顔を見ていました。

 

 

桜木「[怖い]?」

 

 

マック「!.........はい。情けないかも知れませんが」

 

 

桜木「そか。じゃあ[俺から]良いかな?」

 

 

マック「え?」

 

 

 彼はそう言って、私から背を向けて空を見上げました。晴れ渡る空。綺麗な白い雲と光を降り注ぐ太陽を浴びて、彼は大きく深呼吸をしてみせました。

 彼が何を言うのか.........検討もつかないそれに少々恐ろしさを感じながらも、私は彼の言葉を待っていました。

 

 

桜木「.........君の姿を初めて見た時、[ほっとけない]って思ったんだ」

 

 

桜木「自分の身体よりも大きな思いを[背負って]、だけど結果は振るわない。そんな姿を見て、声を掛けた」

 

 

桜木「自分でも最初はさ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[同情]。なんじゃないかって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲しげな彼の声。その[同情]という言葉からは、それに対する彼の思いが篭っていました。

 きっと、それは[独りよがり]に過ぎないんだと感じているんです。相手の言葉も聞かず、本心も知らずに起きた出来事をただ見て、自分の感じた事を勝手に相手もそうだと決めつける.........

 辛さや苦しみがあるのは当然です。けれど、それだけじゃない.........私自身あの時は確かにそうでしたが、その奥にある物。[貴顕の使命]を思えば、乗り越える思いの強さがあったんです。

 

 

桜木「.........けどさっ、やっぱ[違った]!!」

 

 

マック「!」

 

 

 先程の声から一転して、彼は明るい声で先の言葉を否定しました。そして振り返って、ニカっとした笑顔を私に向けてくれたんです。

 

 

桜木「君達と触れ合って、君達と過ごして、俺が思っていたのは[同情]なんかじゃない。[情け]なんかじゃない」

 

 

桜木「本気で[夢]を追い掛けて、それでもって日々努力を続ける姿を見て、初めて見た時から感じた物は変わらずに、それどころか強くて大きな物になってった」

 

 

桜木「今日やっと分かったよ。俺、君の選抜レースを見てからずっと―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[君と勝ちたい]。って、ずっと思ってたんだ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........あぁ。

 

 

 そうだったんですね.........

 

 

 だからこの人は.........ずっと.........

 

 

 自分の中で彼のこれまでの姿が思い起こされます。今まではずっと、彼がトレーナーだから。私達が担当だからだと、特別でもなんでもない当たり前の関係性が生んできたものだと思っていました。

 けれど違いました。彼はずっと、私達と[同じ目線]で居てくれたんです。だから悩んでいたり、壁に当たっていると親身になって助けてくれる.........

 

 

 [同情]ではありません。

 

 

 ただずっと、私達と同じ気持ちを持っていてくれていたんです。

 

 

 [勝ちたい].........と。

 

 

 それがどんなに難しい事か.........どんなに辛く、険しい道なのか。[諦める]という選択肢が常に背中にある状態で前に歩くのが、どんなに大変なのか.........私には分かります。

 

 

 それでも、彼は.........!

 

 

マック「っ、っ.........!!!」

 

 

 声を殺し、拳を握り、それでも溢れ出す物を止める事は出来ずにただ流してしまう。心の奥底にあった暖かな気持ちは更に熱を帯びて全身を熱くさせました。

 それを必死に我慢しながら、私は顔を上げました。

 

 

桜木「.........君はどうかな。マックイーン」

 

 

マック「わた、し.........は.........」

 

 

桜木「.........うん」

 

 

 息が詰まる様な感覚。嗚咽を混じらせながら言葉を詰まらせる私の事を待つ彼の優しい表情が、今までの彼に重なって見えてきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、伝えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あげるよ。元々君の為に作ったんだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今回の件。責任はトレーナーである俺にあります』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――勝ちたい.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、応えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『[メジロマックイーン]が[君]だから、[メジロマックイーン]を好きになったんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――勝ちたい.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから.........[勝ちたい]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勝って来い。マックイーン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[貴方と勝ちたい]ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声を荒げて、涙を溢れさせてしまう。けれどそんな自分の状態なんて気にする事は無く、今はただ、この思いを彼に伝えたいという気持ちでいっぱいでした。

 

 

 やっと見つけられた.........やっと、伝えられた.........自分の心の奥底にあった本心。願いとも言えるそれを、彼に伝える事が出来た。

  普通であるならば笑われるでしょう。一年のブランク。治るはずも無い不治の病。それを経験しても尚、勝ちに行こうとする姿は、見る人が見れば滑稽に映るかもしれません。

 

 

 しかし、彼は違った。今までも.........例えどんな無茶な願いや[夢]を抱いたとしても、本気で私達が追うのならば、それを支えてくれる。助けてくれる。彼はそんな人なんです。

 そしてそれを.........今までずっと、続けて来てくれた.........

 

 

 今私がレースを走れるのも、彼が居てくれたから。そんな彼だから.........伝えたかった.......

 

 

 絶え間なく溢れる涙を拭っても、次から次へと溢れて来てしまう。これでは格好がつきません。

 そんなどうしようもない状態でどうしたものかと悩むと、気が付けば彼は私の目の前に来て、その人差し指で目の端の涙を拭ってくださいました。

 

 

桜木「大丈夫?」

 

 

マック「ご、ごめんなさい.........涙が止まらなくて.........」

 

 

桜木「.........じゃあ、[止めてあげよっか]」

 

 

マック「え―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――顔を上げた瞬間。唇に柔らかい感触を感じました。

 

 

 永遠の様な一瞬。一瞬の様な永遠。矛盾しているそんな状態が始まり、気が付けば私はそれを受け入れ、この手を彼の背中へと回していました。

 

 

 息が止まる。けれど、苦しくない.........鳥のさえずりも、風で揺れる木々の枝が擦れる音も置き去りにして、私はただ、彼が与えてくれる優しさを受け取っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「!.........トレーナーさん.........」

 

 

桜木「.........ほら、止まった」

 

 

 照れ臭そうに笑う彼の顔を見て、私もつい頬を緩めてしまいます。さっきまで昂っていた感情も気が付けば身を潜め、穏やかな感情が心を満たしていました。

 そんな私の頭を優しく撫でた後、彼はそのまま膝を少し曲げて目線を同じにして、その両手を肩に置きました。

 

 

桜木「マックイーン。レースが始まる前、俺が言いたかったのは本当は違う事なんだ」

 

 

桜木「変わらないなって思うかもしれないけれど、でも、それでも聞いて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[勝って来い。マックイーン]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝って、[運命(奇跡)]を超えてこい。メジロマックイーン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の一着を、俺はいつまでも待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック(―――ああ)

 

 

マック(そう.........私は今日、ずっと.........)

 

 

マック(この[言葉]が、欲しかったのね.........)

 

 

 また溢れ出す涙。けれどそれは一筋頬に伝っただけで、それ以上は出てきませんでした。

 彼の身体を優しく抱き締め、その胸に顔を埋めました。

 

 

 私には待ってくれている人が居る。帰る場所がある。そう思えるだけでこんなにも.........こんなにも[強く在れる]のですね.........

 

 

 次第に彼の身体の感触が段々と消えて行き、遂に触れていた手はやがて空を掴んでしまいました。

 けれど、寂しくない。彼は私の傍に居てくれる。

 

 

 そう.........心の傍に.........

 

 

マック「.........はぁっ」

 

 

 空を見上げて、アンニュイな空気を肺から吐き出しました。

 

 

 もう、[負ける]つもりは根元からありません。

 

 

 私はもう一度、[自らの夢]を追うだけ.........

 

 

 その思いを胸に、私は自分の腕を強く目元に押し当てました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [アナタと勝ちたい]を獲得した―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 URAファイナルズの長距離戦。やっぱり皆とっても強い.........分かっていた事だけど、普段のレースとは全然違う.........!

 

 

ライス([第三コーナー]までって思ったけど、そろそろ行かないとテイオーさんに追い付けない.........!)

 

 

 いつまでもマックイーンさんの後ろには居れない。そろそろ前に出ないと。そう思って視線の先を前の方からマックイーンさんの背中に移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライス(!マックイーンさん.........?)

 

 

 走っているマックイーンさんはその速度のまま、片方の腕を上げて、まるで涙を脱ぐうようにしていた。

 その様子を見て一瞬、心配になっちゃったけど―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――バサッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勢い良くその腕で目元を拭った。そしてライスの頬に雫が飛んで来た。

 その瞬間から.........ライスは悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [帰ってきた]んだ.........って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーマー(くぅ.........!やっぱ強いねぇ!トウカイテイオー!!)

 

 

 ―――あっさりと背中にまで来られてしまった。この様子じゃ第四コーナーまで持ちそうには無い。

 それにミホノブルボンだって居る。もう横に居るテイオーに動揺する事無くペース配分をきっちり守って走ってる.........私と違って.........

 

 

パーマー(完っっっ全に焦りすぎた!!マジヤバなんだけ―――)

 

 

 その瞬間。息を呑んだ。背後から膨れ上がる圧倒的な気配に驚き、私は尽きかけていたスタミナの事さえ忘れて無意識にスピードを上げようとしてしまった。

 

 

 来る.........何かが、[知っている]けれど、どこか違う物が.........

 

 

 

 

 

 ―――全員、心に火が付いたように緊張感を増した。それはボクも一緒だ。後ろに感じる圧。かつて感じた[ライバル]のそれを.........たった一度だけの対決だろうと、忘れる訳が無い。

 

 

テイオー(帰ってきたんだね.........!!!マックイーン!!!)

 

 

テイオー(だったら勝負はここから!!!だよねッッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鼻を進むのはトウカイテイオー!!!その後ろからスピードを上げているのは.........!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「め、[メジロマックイーン]ッッ!!!メジロマックイーンですッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――実況の声が驚き一色の言葉を響かせる。辺りはざわめき混乱しているが.........俺はその中で一人、いつぶりかも分からない[バイオリンの音色]が耳に入って来ていた。

 それでも、今までの物とはまるで違う。雄々しく厳かなそれが、今はまるで時間を急かすようなテンポと他の楽器の入り乱れを強く強調させている。

 

 

 地点は[第四コーナー]の手前の前。普段であるならばもっと後の方にスピードを上げる彼女だが.........それでは勝てない事を悟ったのだろう。

 

 

桜木「.........マックイーン」

 

 

 耳を傾ければ人々の声が聞こえてくる。彼女の名前を呼ぶ声が.........

 

 

 

 

 

 ―――走ってる。マックイーンさんが、今.........走ってる.........

 

 

 予選、準決勝の時とは違うその走りを見て、私はもう涙が溢れて止まりませんでした。

 

 

「ダイヤちゃんっっ!!!」

 

 

ダイヤ「!キタちゃん.........」

 

 

キタ「まだ泣いちゃダメだよ!!まだ終わってないからね!!」

 

 

 しっかりレースを見るように私の事を叱ってくれるキタちゃん。けれどその目には私と同じように涙を浮かべていて、それを我慢するように鼻水をすすって居ました。

 

 

「.........でも、ここからマックイーンが勝てると思うか?」

 

 

ダイヤ「!なんでそんな事言うんですか!!!」

 

 

キタ「そうですよ!!!レースは何が起こるか分からないんですから!!!」

 

 

 険しい表情をしながら呟いたのは、いつも一緒にレースを見ている二人組のお兄さんの一人。パーカーを来ている方のお兄さんでした。

 私達の言葉に申し訳なさそうに顔を俯かせたけど、メガネの方のお兄さんはそれでも、信じきれない理由を言葉にし始めました。

 

 

「メジロマックイーンはどちらかと言えば、レースの序盤で勝敗を分ける走り方をする」

 

 

「今までこんな明確に差を開かれて勝ったレースは一度もない.........」

 

 

「それこそ、[奇跡]でも起きない限り.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[違う]ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!」」

 

 

 声を上げたのは、キタちゃんだった。

 

 

 強い表情で、真っ直ぐな目でお兄さん達を見つめて、二人を圧倒していました。

 

 

キタ「私、知ってる。テイオーさんが[奇跡]を起こしたのは、お兄さん。マックイーンさんのトレーナーさんのお陰なんだって」

 

 

キタ「テイオーさんが教えてくれた.........!お兄さんは言ったの!!![奇跡]って起こす物じゃないっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[超える]物だって.........ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強い口調でそう言った後、キタちゃんはまたレースの方に目を向けた。私も、お兄さん達も、またレースに夢中になり始めた。

 

 

 [奇跡を超える]。ただの言葉なのに、なんでか勇気が湧いてくる。そんなこと、聞いた事もないのに.........何だかとっても、納得している自分が居る。

 

 

 レースを走るのも、夢に向かうのも[自分]。それなのに[奇跡]に頼るのは、何だか違う。けれど絶対、どこかのタイミングできっとそれは起きてしまう。

 けれど、それじゃあ納得出来ない。必死に追い求めた物がそんな物で叶っちゃったら.........きっと私は、ガッカリする。

 

 

 だから私も.........![奇跡]に頼ったりなんかしない.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [奇跡]は!超えられるんだから.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック(っ、やはりまだ遠いわね.........!)

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv1

 

 

 ―――分かってはいました。今から加速をつけた所で、彼女の隣に立つには時間が掛かりすぎてしまう。

 それでもやり切るしかない。そう思った私は、身体の動きを[最適解]に近付けて行く事にしたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、[以前]の様に.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ずは、前のめりになった姿勢を少しだけ上げます。上半身を地面と平行にし過ぎるとスピードは出ますが、[呼吸]がしづらい状態になってしまいます。

 

 

 そうした時、不意に私の名前を呼ぶ声が聞こえて来ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックイィィィ―――ンくぅぅぅんッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段の姿からは想像も出来ない程に大きな声。なりふり構って居られない彼女のその声ですが.........しかし、彼女らしい一面もしっかりと感じ取れました。

 絶対に[諦めない]。[可能性]という存在が目の前にある限り、彼女は決して、歩みを止めるということをしないのです。

 

 

 だから、私も.........[追いかけ]ます。

 

 

マック(私はもう、[可能性を求める]事を恐れたりはしない.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv1→2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に変えたのは、重心の置き場所。前のめりになり過ぎていた状態を解消する為に意識を少し腹部の方へと持って行きました。

 こうすることで、コースの状態に左右される事無く常に安定したスピードを保つ事が出来ます。

 

 

 そしてまた、私の耳には声が聞こえて来ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックイーーーンちゃーーん!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも全力な彼女。時にはそう在れる彼女が羨ましくも思えました。何に対しても全身全霊。それが、彼女が人を惹き付ける魅力の理由.........

 でもそれは、きっと誰もが持っている物なのです。大人になるに連れてそれを恥じる様になり、そして自制する様になるだけの事.........

 

 

 だから、私は.........[守り続け]ます。

 

 

マック(私はもう、[全力で楽しむ]事を恐れたりはしない.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv2→3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体の動きがスムーズになるに連れて、今度は意識するまでも無く腕の振りの回転率が上がり、そこに掛けられる力が抜かれて行きます。

 

 

 そして今度は、耳ではなく[心]に直接響いてきました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(マックイーンさんッッッ!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めてお会いした時は、年下の私が心配になってしまう程に臆病だった彼女。気付けばいつの間にかそんな姿は鳴りを潜め、頼もしい長距離選手へと育っていました。

 それは、彼女の心の底からの願い。[変わりたい]という気持ちがあったからだと思います。

 

 

 だから、私も.........[探し続け]ます。

 

 

マック(私はもう、[変わって行く]事を恐れたりはしない.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv3→4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腕に入っていた力が抜ければやがて、脚の回転率は安定して行きます。無駄にスピードを上げて体力を削ぐことなく、かと言って減速する訳でも無い。

 常に安定している状態を保ち、直線の加速とコーナリングの為の減速を瞬時に切り替える事の出来る足捌きへと変わって行きます。

 

 

 そしてまた、心に声が響いてきました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(マックイーンさん.........!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かだけど、熱が伝わる声が聞こえて来ます。そう.........彼女はいつだって物静かな表情でも、心の内は誰よりも熱い思いを持っていました。

 例え自分の[夢]が[壊れても]、決して挫ける事無く、新たな夢を追う事を選んだ。そしてかつての[夢]を無謀な物だったと自ら卑下する事無く、今もその延長線上だと言い切る自信がある.........

 

 

 だから、私も.........[諦めません]。

 

 

マック(私はもう、[夢を抱く]事を恐れたりはしない.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv4→5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ての動作がここに来て、[完璧]に戻りました。そしてその動きに合わせる様に[呼吸]が整って行きます。

 [無尽蔵のスタミナ]。その原点となるのは言うまでもなく、息をすること。行動の始まりは息を吸い、そして吐くことにあるのです。

 心臓の鼓動が落ち着く様にゆっくりと。しかし身体に酸素を行き渡らせる為に大きく吸い込み、一気に出て行って肺が縮まらないよう鼻から肺の空気を出して行きます。

 

 

 そして、振り絞る様な声が聞こえて来ました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックイィィィ―――ンさぁぁぁぁんッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰よりも力強い声が、誰よりも小さい身体から出されている。彼女が勇気あるウマ娘なのは、チームでの生活を通して自然と理解して来ました。

 誰かの為に。自分の恐怖や危険を顧みずに立ち向かう勇気.........簡単に真似出来るものではありません。それでも彼女は、大切な[居場所]。[チーム]という帰るべき場所を守る為に、その[勇気]を出せる方なのです。

 

 

 だから、私も.........[目覚め]なければなりません。

 

 

マック(私はもう、[立ち上がる]事を恐れたりはしない.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [貴顕の使命を果たすべく]

 Lv5→6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック(加速も速度も戻す事は出来たわ.........けど.........!)

 

 

 第四コーナーは最早目前。決着を着けるまでの道のりは着々と短くなって行く。それでもまだ、先頭を抜きさるには心許ない状態でした。

 .........認めましょう。テイオーが速いという事実を.........彼女はずっと、長距離レースに出る為にトレーニングを続けてきました。

 もしこれが春の天皇賞だったとして、仮に私が元の状態だったとしても.........勝つ事は叶わなかったでしょう.........

 

 

 .........ですが

 

 

マック(何かっ、何かあるはずなのよ.........!!!)

 

 

マック(この[先]が.........!)

 

 

 こんな物では無かった.........あの時、そう。[繋靭帯炎]が発覚する前に走った最後のレース。[京都大賞典]で走った時は、もっと身体が前に行っていたんです。

 

 

 でも.........あの時は無我夢中で、自分がどう走ったのかも.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックちゃんッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック(っ.........!!!)

 

 

 聞こえて来たのは.........母の声でした。その声で弱気になっていた自分に気付き、もう一度意識を[勝ち]へと向かわせます。

 体力はあるのです。まだ勝負は決まっていません。

 

 

 ならば.........[見つける]までです。

 

 

 以前、母は言いました。[スイッチ]となる物が存在すると。今までのレース人生でそれを見つける事は出来ませんでしたが、それでもそれを探す価値は十分にあります。何故なら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[答え]は、[レースの中]にあるのですから.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血眼になりながら、歯を食いしばりながら試行錯誤を刹那の間に繰り返します。何かを試す。なんて甘い事は許されません。ぶっつけ本番。失敗してしまえば、それで終わりです。

 身体の姿勢。重心の場所。腕を振る感覚。脚の回転率.........それらに意識を向けては、今が最高の状態だと理解して行きます。ここから崩してしまえば、例え一度並べたとしても減速してしまう結果になるでしょう。

 そしてきっと、[彼女]はそれを見逃さない。一瞬の隙を突いて加速を掛けられる。それが出来るから[トウカイテイオー]なのです。

 

 

 それを[超える]。その為にはどこかにある[スイッチ]を見つけなければ行けない.........こんな短い刹那の中、第四コーナーという勝負を決すべき瞬間が訪れる前に.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その時でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前に右足を踏み込んだ瞬間。視界の下から現れた[煌めき]。今まで私達と共にレースを走り、そして支えてきた存在.........[王冠のアクセサリー]がまるで、その存在を誇示するように目の前に現れたのです。

 

 

 そして、やるべきことが今、決まりました.........いえ、きっと最初からそれしか無かったんです。

 [本来の歴史]では、私はもう引退していなければなりません。このURAファイナルズを走る事なんて有り得なかったんです。

 そしてきっと、そのレース人生の中で[スイッチ]などは無く、私と同様の走りで他を圧倒してきたのでしょう。

 

 

 だから.........[私のスイッチ]など、最初から無かったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう。無かったのなら.........[創れば良い]。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで幾度の[奇跡]を目の当たりにしてきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのどれもが[物語]に驚きと感動を与えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを今度は.........[偶然の産物]で起こさない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう。正真正銘、[自分達の力]で.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体勢。重心。腕の振り。脚の回転率。それらを変える事は一切しません。私がする事は.........[呼吸]を変える事。

 走行速度を維持しつつ、大きく息を吸い込みました。肺はまるで炎で熱された様に熱さを帯びていますが、関係ありません。

 

 

マック(見ていて下さい.........トレーナーさん)

 

 

マック(今から私は―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――[奇跡]を超えます.........!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――あの子に初めて会った時。俺は何かを感じた。[才能]や[天性]の力じゃない。レースで見た時に、その本質を垣間見た。

 彼女は確かに[自分]を持っている。けれどその根幹を見せないレベルに力を使いこなしている。己の武器として.........

 

 

 けれど、もうそんな物は必要ない。彼女は手に入れたんだ。最も強い.........[自分]という、何にも変えられない[個性]を.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまらないレースをすると言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――行け」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼女が今、多くの人の目を引いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝て、マックイーン.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆の目が、君に向けられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っっっ.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........でも俺は、君に出会ったその時から―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「走れェェェェェェェェッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メジロマックイィィィ―――ンッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――君の事が、好きだったんだ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガチン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段のレースでは聞こえない音が鳴り響きました。それは[スイッチ]を押す音であり、[合図]でもありました。

 大きく息を吸い込み、全力を出すべき場所で力を出すために編み出した[荒業]。

 

 

 そう、私は大きく口を開けた所から、力強く歯を閉じたのです。

 

 

 身体の動きは最適解。消耗されるスタミナは最小限。そこは変わっていません。変わったのは二つ。走る際の[呼吸法]と.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今、足に力入んないでしょ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼とのファーストコンタクト。その言われた言葉を思い出した私は、力一杯にターフを踏み抜きました。

 

 

 彼と出会った事で、多くの事が変わりました.........[夢]とは何か。それを追うとはどういう事なのか。それを先に知り、そして挫折を知っている彼の背中を見て私は確かに変わって行ったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........でも、本当の事を言うと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私は.........っっ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、不甲斐ない結果を出してしまった私に声を掛けてくれたあの時から.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(わたし)はもう―――ッッッ!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴方の事が、ずっとずっと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

([私自身]を否定する事は決してしないッッッ!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――きっと、好きだったんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Lv6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Lv[7]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [貴顕の使命を超えた想い(アナタと勝ちたい)]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [共生リンク]が発動している.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第四コーナーを最初に回ってきたのはトウカイテイオーッッ!!!その隣にはメジロマックイーンが居ますッッッ!!!!!」

 

 

武(.........凄いなぁ、見た事ない走りや)

 

 

 険しい表情で走り抜ける少女。そこに、[重なる影]は見当たらない。こんな事、[こっち]に来てから初めての事だった。

 名前の知ってる子は皆、俺の知ってる姿を見せてくれる。姿形は違えど、その名に見合った走り方を見せてくれる。

 

 

「トウカイテイオーかッッッ!!!!!」

 

 

武(.........まぁ、当たり前やなぁ)

 

 

武([あそこ]で、終わりやもんなぁ.........)

 

 

 記憶の中に眠る感覚。何十年の中の[三年間]。見るだけじゃない。実際に背中に乗って感じたのは.........良い[乗り心地]だった。

 癖が無かった。気性が特別大人しい訳じゃない。でも基本、レースが始まってしまえば俺の言う事を聞いて走ってくれる。

 それが.........俺の知ってる[メジロマックイーン]だった。

 

 

 でも、今走ってるのはもう.........俺の知っている[メジロマックイーン]じゃない。

 

 

「メジロマックイーンかッッッ!!!!!」

 

 

武(頭、良かったもんなぁ.........)

 

 

武(.........続けてたらもしかしたら、[重なっていた]んかもなぁ)

 

 

 馬と言うのは人間の都合で作られた存在だ。言葉だけで言ってしまえばとても悲しい物だが、俺達は確かに時には言葉の無い中で心を通わせていた。

 自分で自分の身体を労れて、その上で勝つ。そんな馬は中々居ない。本当に賢くて、責任感が無いとやり切れる事じゃない。

 

 

 .........もし、君達が俺達と同じ言葉を喋れて居たなら.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [君の走り]を、見れたのかもなぁ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう言葉はッッッ!!!!!要らないのかッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースと言うのは何が起こるか分からない。幼い頃から今に至るまで、多くの人の口から、姿勢から、そして私自身の心から強く感じていた。

 

 

 けれど今.........今になってようやく、その意味が本当に理解出来た気がした。

 

 

ライアン「マックイーン!!!」

 

 

ドーベル「そのまま走り切るのよッッ!!!」

 

 

アルダン「貴女なら勝てますッッ!!!」

 

 

ブライト「お願いします.........!!!勝ってください.........!!!」

 

 

 身を乗り出して。声を枯らして。喉を振り絞って.........普段の彼女達なら見る事は決して無い姿を見せている。

 そこにはもう、[メジロ]という名家の肩書きは無かった。あるのはただ.........[家族]を応援するという気持ちだけ.........

 

 

ラモーヌ(.........やっぱり。私の見立て通り。いえ、想像以上)

 

 

ラモーヌ(貴女の走りは、観客を[引き込む力]があるわ。でも、それだけじゃない.........)

 

 

 先頭を走ろうとする二人。どちらが先に行くかを競っている箇所ではなく、私はその後方に走るウマ娘達の姿を見る。

 そこに一人.........同じ[メジロ]の名を冠する彼女の表情を注目する。

 

 

 悔しいでしょう。苦しいでしょう。2500m。長距離の中でも短い距離とは言え、序盤で飛ばした代償を払う形でスタミナを失いつつも、それでも前へ出ようとする彼女。

 けれどその表情は.........いつもよりどこか楽しそうだった.........

 

 

ラモーヌ(貴女には.........競争相手をも[楽しませる力]がある。[最強]であるが故に、それを指標にして今の自分がどれくらい通用するのか.........それを知りたくなってしまう)

 

 

ラモーヌ([つまらない]。と言うのは貴女と走った事が無い人だけよ。マックイーン)

 

 

ラモーヌ(.........それを、今ここで証明して見せなさい?)

 

 

 レースは、誰かがゴールを踏み切るまでは結果が分からない。誰が最初に駆け抜けるか.........ただそれだけの。シンプルで在り来りな決着方法。

 そんな分かりやすい勝負で勝ち続けるのは難しい。勝ち方が一つだけなのだから、紛れやまぐれは絶対に起きる事は無い。

 

 

 そんな中で勝ち続けた彼女は.........誰からどう見ても[最強]と言われても過言では無い。

 

 

 だからこそ.........貴女と走る[彼女達]は.........心の赴くままに、走れるのよ.........

 

 

 

 

 

 ―――私の目の前で、凄いレースが繰り広げられている。治らないって言われてる怪我も治して、一年間の走れない状況を脱して.........皆に注目されて、走ってる.........

 

 

ルビィ「.........っ」

 

 

 鳥肌が立った。今すぐにでも走りたいって気持ちが湧いてきて、でもレースを見届けたいって思いも捨てきれなくて.........心が、掻き乱された。

 [繋靭帯炎]は治らない。幼い私でも知っている世界の[常識]。それを覆す様に、マックイーンお姉さんは必死に、[勝つ為]に走ってる。

 

 

 心が震えた。まるで[炎]が揺らいで、私の心に火移りしたみたいに.........熱さがメラメラと胸の内に燃えたぎった。

 

 

ルビィ(.........大きくなったら)

 

 

ルビィ(私が大きくなったら絶対.........一緒に走りたい.........!!!)

 

 

 鉄柵を握る力が強くなる。世界には.........日本にはこんなに強い[ウマ娘]が居るんだって知って、心が震えた。

 

 

 私はきっと、今日の事を忘れる事は無いだろう。

 

 

 どんなに大きくなっても、強くなっても.........日本に[メジロマックイーン]という[ウマ娘]が居た事を.........一生。忘れないだろう.........

 

 

 そんな願いにも似た事実を胸に刻みながら、第四コーナーを回るお姉さん達を.........私はじっと見つめていた.........

 

 

 

 

 

 ―――アレから、ボクは強くなった。長距離を走り切れる位にはスタミナを付けたし、走り方だってあまり足に負担を掛けない方法も編み出した。

 

 

 でも.........ボクは.........隣に並ばれている。

 

 

テイオー(やっぱり強いね.........!!!)

 

 

 初めて君と公式レースで走った時。余りの力の差に絶望した。背中が遠くなって、追っても追っても、突き放されて.........悔しかった。

 君はボクの目標だった。最初っから。一緒に走ってからは、ボクの競争人生で絶対達成する物になった。

 

 

 そんな君に、並ばれている。

 

 

 ボクはこんなに努力して、苦しい思いして.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........ああ、やっぱりダメだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どう頑張っても、[嬉しく]なっちゃう.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝ちたいって思いたかった。それさえ思えれば、レースに集中できるから。でもどうしても嬉しくなっちゃうから、今だけは君を憎みたかった。

 でもそれ以上に.........隣で君が走ってくれるのが.........何よりも嬉しかったんだ.........!!!

 

 

 

 

 

 ―――口の中がカラカラと乾いていく。肺の中に貯めた空気がとてつもないスピードで酸素が消費されて二酸化炭素にされていく。それを補う為に空気を吐き切り、一瞬で肺を満たさなければ行けません。

 そうでもしなければ.........[一着]は難しいでしょう。

 

 

 第四コーナーは回り終えました。目の前にはゴール。後はそこに辿り着くだけ.........今まで感じた事の無い速度を保ちつつ、前に行かなければ勝利は無い。

 

 

マック(.........だと言うのに、どうしてでしょうね)

 

 

マック(こんなにも、[心が踊ってしまう]のは.........)

 

 

 感じた事の無い高揚感。今までレースでそんな気持ちを抱いた事はありませんでした。公式の物は勿論。模擬レースであったとしても.........

 そんな。人生で感じた事の無い物を感じながら、私はただゴールへと向かって行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い[絶望]が私の心を満たしていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも今は、強い[光]が差し込んできている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [ゴール]に近付くに連れて、その[光]はやがて大きくなって行って―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックイーンくんッッッ!!!!!」

「マックイーンちゃんッッッ!!!!!」

「((マックイーンさんッッッ!!!!!))」

「マックイーンッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っっっけェェェェェ―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「ッ!!!はァァァァァァァァ―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そして、その[光]にこの手が触れたのでした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トウカイテイオー!!!メジロマックイーン!!! ほぼ同着のゴールですッッッ!!!!!」

 

 

武「写真での判定となりますね」

 

 

 .........長いレースが終わった。アタシの今までの人生の中で、一番長かったレースが.........

 誰も彼もがまだ、喜びの声をあげない。誰が勝ったかも分からないからじゃねぇ。今まで見た事もねぇ様なレース見せられて、声もあげられねぇんだ。

 

 

ゴルシ(マックイーン.........)

 

 

 判定が出るまでは分からない。アタシから見てもテイオーとマックイーンは同時にゴールを踏んだ。同着っつう可能性もある。

 

 

 でもそんな中、アタシの隣で[泣いている奴]が一人居た

 

 

桜木「.........ぐっ、ぅぁ」

 

 

ゴルシ「!な、泣くなよおっちゃん!!!まだ勝負が決まった訳じゃ―――」

 

 

桜木「分かるよ.........!ちゃんと、みてたんだから.........!!!」

 

 

 振り絞る様な声で、ポロポロと涙を零しながらおっちゃんは言った。鉄柵に額を押し付けて、立てない身体を踏ん張って立たせていた。

 

 

 そして.........その言葉を聞いて分かっちまった。おっちゃんにはもう、このレースの勝敗が分かっちまってるんだって.........

 

 

 アタシはいたたまれなくなって、泣き続けるおっちゃんの背中を慰めるようにさすった。何の気休めにもなんねぇかもしれねぇけど、アタシ自身、何かしてねぇと泣いちまいそうだった。

 

 

桜木「なぁ.........ゴールドシップ.........」

 

 

桜木「なんでかなぁ.........?」

 

 

ゴルシ「.........」

 

 

桜木「俺、信じてたのに.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でか涙が止まらねぇんだ.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「―――っ」

 

 

 .........おっちゃんの背中をさすっていた手が止まった。その言葉に違和感を覚えたからだ。

 普通こういう時に何かを言うんだとしたら、居るかもどうかも分かんねぇ神様への憎まれ口だ。だって言うのにおっちゃんは、泣いちまう自分に対する言葉だった.........

 

 

 .........だから、分かっちまった。おっちゃんが何を見たのか。その一瞬を.........記憶したのか.........

 

 

 さすっていた手は次に、アタシの目元へと移っていた。もうおっちゃんを慰めている場合じゃなかった。下手したらアタシの方が、泣いちまいそうだった.........

 

 

ゴルシ「っ、当たり前だろ.........!!!」

 

 

ゴルシ「人間っ、本当に[叶えたい夢]が叶った時はっっ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[泣く]か[笑う]かしか、出来ねぇもんだろ.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........っ!!!」

 

 

沖野「っ!!?おいッ!!!まだ勝負は「沖野」!」

 

 

 ―――突然、レースの舞台から背を向けて走り出した桜木。まだ掲示板には着差を表す部分に[写真]と表示されている。誰もまだ、レースの結果を知ることは出来ない。

 そんな桜木を追いかけようとする俺の肩を掴んだのは同期の黒沼だった。俺はその行動に不可解さを感じたが、口下手なコイツが何かを言うという事はしなかった。

 

 

沖野「なんで止めるんだ。まだ決着は着いてないだろ?」

 

 

神威「.........着きましたよ」

 

 

沖野「.........は?」

 

 

 その黒沼の背後で、まだ結果が出されていない掲示板を見上げながら神威が呟いた。その目からは一筋の涙を頬へ伝わせていた。

 その横からひょっこりと現れる白に染められた頭。白銀の奴が嬉しそうに現れた。

 

 

白銀「アイツさっ、ああ見えて勝負事にはうるせぇんだよ」

 

 

白銀「自分が負けるのが確定してる時もしっかり受け止める為に負け切る。そういう奴なんだ」

 

 

黒津木「そうそう。だから玲皇の奴が走り出したって事は.........」

 

 

 爽やかな笑顔。しかしその目元は赤く跡が残っている。その意味を察する前に黒津木は掲示板の方を指さした。

 

 

 そこには―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   確定

 12

  <ハナ

 7

  <2

 5

  <1/2

 8

  <2/3

 15

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖野「.........!!!」

 

 

東「.........はは、ここに来て、この[着差]か.........」

 

 

 黒津木の指の先に視線を移した数瞬後、掲示板は数字と文字を浮かび上がらせた。

 

 

 結果は[ハナ差]によるマックイーンの勝利.........それが何を意味をするのか。トレーナーである俺達にとって桜木のその行動はやはり、異常なものだった。

 

 

 ハナ差と言うのは[タイム差]が存在していない。写真判定によって初めてどちらが先にゴールしたのかが分かるほどの僅差だ。それを、その一瞬を肉眼で捉え切ることなど不可能なはずだ。

 

 

 それでもアイツは.........自分の目を信じて、マックイーンの勝利を信じ抜いて走り出した。

 

 

 春の天皇賞に続いて.........完全に桜木の奴とマックイーンに負けたんだと、心の底から思わされた.........

 

 

沖野(.........ああ、くそ。悔しいなぁ)

 

 

沖野(負けたのに.........なんでか[嬉しく]思っちまうのが.........)

 

 

 

 

 

「.........嘘だろ」

 

 

「ほ、本当に勝っちゃった.........」

 

 

「なんだよ.........あの強さ.........」

 

 

 ―――会場は騒然としていた。現地のそれとは全く対照的な様子を見せる群衆。それの後方に居た俺はつい、鼻で笑ってしまった。

 

 

「っ、おいリットっ!!!お前、日本に研修に言ってたよなッッ!!!」

 

 

ニコロ「ああ」

 

 

「だったら知ってんだろ!!!どうやったらあんなに強いウマ娘が育てられるッッ!!!あの日本人に聞いたんだろ!!!」

 

 

 一人の男が俺に迫ってくる。その表情は言うなれば[怒り]というのが正しいと言えるだろう。それ程までに目の前の人間はつい先程見ていた現実を受け入れる事が出来ずに居た。

 .........いや。それはこの場にいる殆どがそうだろう。その表現方法は違えど、皆同様のショックを受けている。

 

 

 いつまでもただ笑うだけの俺を見て男は更に近付こうとするが、それを手のひらを見せて止める。

 

 

ニコロ「俺は日本にいる間奴と共に過ごした。あの男の事は大体わかる」

 

 

ニコロ「何が聞きたい?何を知りたい?」

 

 

「決まってるだろう!!あの日本人が使っているトレーニング方法とその思想だ!!!」

 

 

ニコロ「本人が目の前に居ても貴様はそういうつもりか?」

 

 

「当たり前だ!!!」

 

 

 ほう。これは困った事になった。この男があまりにも怒鳴り声を撒き散らすせいでギャラリーが出来上がってしまっている。決着の着いたレースより今はこっちの行く末の方が気になっているらしい。

 

 

 仕方が無い。もう少しへりくだった態度を見せるなら俺も考えたが.........こんな物を見せられたら答える気にはならん。

 

 

 .........最も、あの男もそうだろう。

 

 

ニコロ「.........だったらあの男が今の貴様の発言を聞いたと言う体で俺が変わりに答えよう―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――I'm not the name Japanese(俺はジャパニーズなんて名前じゃない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

My name is Reo Sakuragi. and(俺の名前は桜木 玲皇だ。それと)―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――That's Mr.Sakuragi to you, punk(さんをつけろよデコ助野郎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――っ、ふざけ」

 

 

ニコロ「止めておけ」

 

 

 振り上げられた拳。スタイルも何も無い素人の攻撃。痛くも痒くも無いが食らってやる義理もない。俺はがら空きになった脇腹に手刀を突き立て脅す。

 ここから少しでも力を入れれば激痛が走る。それを察したのか、男は顔を赤くしながらもやり場のない怒りを抱き、この会場を後にした。

 

 

ニコロ(.........日本だったなら、俺ももう少しはしゃげたのだがな.........)

 

 

 腕を組み、もう一度URA.Fsの中継に注目する。あちらではこちらと違い、彼女の勝利を称える声が聞こえている。

 [自由の国]。そう呼び呼ばれる国である筈だが、トップであるというプライドか、それともそうであり続けたいという小心さか、ここで自分をさらけ出せる人間は数少ない。

 

 

ニコロ「.........ククク、クハハハハ.........!」

 

 

 次にあの国に行けるのはいつになるだろう。もし行けたなら.........そんな想像を膨らませて不意に笑い声を漏らしてしまう。

 息を小さく吐いた後、人が少なくなる会議室の中で俺は、中継が終わり切るまでここで過ごしていたのであった.........

 

 

 

 

 

 ―――白熱した勝負。どちらが勝ったのか、走っていた私ですら分からなかった。同着という結果すら有り得たレースの行く末は.........掲示板が教えてくれました。

 

 

 [ハナ差]。予選では[1/4バ身]。準決勝では[クビ差]。今までのURAファイナルズのレースを通して見れば、順当な着差でしょう。

 しかし、この勝利は今までのそれとは違う.........

 

 

マック(.........私は今日、殻を破った)

 

 

マック(誇りや使命に甘える事無く、自分の意思で走り切る事が出来た.........)

 

 

 胸に下げた[王冠のアクセサリー]を手に取り、優しく握り締めました。今までの私を支え、見守ってきてくれた感謝を思いながら.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――おめでとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その[誇り]はもう、[君の物]だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........今まで沢山、走って来ました。誇りの為に。使命の為に。それを疑うこと無く。自分の中にあると信じる事無く。前に進み続けていました。

 そんな過程で生まれたのは.........やはり[誇り]でした。自分には無い物。それを欲して走っていた。気が付けばそれは、自分の中で形成されていたんです。

 

 

 それは.........[足跡の数]。

 

 

 寄り道や回り道をして付けてきた足跡が、私に自信を与え、強さを教え、弱さを見せて来てくれた。

 今まで散々求めてきた物が自分の中に既にあると知り、それが原動力となった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [反転]したのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [誇りの為に走ってきた]私は、今日.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [走る為に誇りを糧とした].........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目に見えた変化でした。自分から見ても有り得なかった事。それが再びこの身体を呼び起こす力となり、勝つ事が出来たのです.........

 

 

「マックイーン」

 

 

マック「!テイオー.........」

 

 

テイオー「.........えへへ、おめでとう」

 

 

 恥ずかしそうに微笑む[ライバル]の姿を見て、私はようやく心の底から実感する事が出来ました。自分がレースに、勝ったのだと.........

 込み上げる感情が天井を突き抜けようとした瞬間。私の身体は突然倒れました。横から衝撃を受けて.........

 

 

マック「な、何が「マックイーンさんっっ」.........!」

 

 

ライス「マックイーンさん.........!マックイーンさんっ.........!!!」

 

 

 衝撃の正体は、ライスさんでした。私に抱き着いて身体を震わせながら、瞳からは大粒の涙を流していました。

 そんな様子に驚きながらも、次第に彼女の気持ちが伝わり、私はライスさんの頭を優しく撫でました。

 

 

マック「.........私はここに居ますわ」

 

 

ライス「うん.........うん.........っ!!!」

 

 

 暫く彼女を撫でていると落ち着いたのか、ライスさんは目尻の涙を拭いながら顔を上げました。

 ふと隣を見ると、ブルボンさんが優しく私達を見つめており、差し出された手を取ってその場から立ち上がりました。

 

 

「わ、私達は今日ッッ!!!一つの伝説が生まれた瞬間を目撃しましたッッッ!!!!!」

 

 

「復活は望まれないと思われた[メジロマックイーン]ッッ!!!URAファイナルズ予選、準決勝でもその感覚は拭いきれなかった!!!」

 

 

「しかしッッ!!!最後の最後で勝利を勝ち取ったのは他でもありませんッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[メジロマックイーン]が今―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[私達の最強]が今日この日を持って―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰って来たのです―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「ら、ライスさん?心配してくださるのは有難いのですが、少々歩きにくいですわ.........」

 

 

ライス「ご、ごめんね!ライス、まだ不安で.........」

 

 

 拍手と歓声で満たされたレース場を離れ、私達は地下バ道に戻って来ていました。ライスさんはまだ安心出来ないのか、私の身体にピッタリと張り付いたままでした。

 そんな彼女に言った言葉とは裏腹に、私の気持ちは嬉しい思いでいっぱいです。こんなにも帰りを待っていてくれる仲間が居る.........そう思うと、何だか胸が暖かくなりました。

 

 

 そんな彼女から目を離し歩く先に視線を移すと、そこには.........息を切らしたトレーナーさんが立っていました。

 

 

マック「!.........トレーナーさん」

 

 

桜木「マックイーン.........」

 

 

 .........暫しの沈黙。お互いの名前を呼んで立ち往生します。彼も私も、そこから一歩も動く事はありませんでした。

 どうするべきか。どんな言葉を言えばいいのか.........今日この日を夢見て来たのに、いざとなれば言葉も出てきません。

 

 

 そんな私の背中を押すように、ライスさんは私の傍から離れ、優しく微笑んでくれました。ブルボンさんも、テイオーも、パーマーも.........他の皆さんも、同じように.........

 

 

 その表情に後押しされて、彼の顔を見た瞬間.........

 

 

マック「トレーナーさん.........っ!!!」

 

 

桜木「マックイーン.........っ!!!」

 

 

 お互いに一歩。前へと踏み出しました。その勢いに流されるままに足は軽く、速度を持って前へと進んで行きます。

 彼との距離が無くなった瞬間。お互いの身体を。存在を。心を確かめ合うように.........その身体を抱き締め、そして抱き締められました.........

 

 

マック「勝ちました.........!勝ってまいりました.........!!!」

 

 

桜木「見てたよ.........!!!みんな見てた.........!!!」

 

 

 苦しいくらいに抱き締められて。苦しいと思わせてしまうくらいに腕に力を込めてしまう。けれどお互いそれを承知で力を緩めることなく、まるで[一つになる]様な勢いで抱き締め合いました。

 

 

 

 

 

 

 ―――うわぁ、マックイーンとサブトレーナーがっつり抱き合っちゃってる.........大丈夫かな?他の子達も居るのに.........

 

 

パーマー(ね、ねぇテイオー?もしかしてマックイーンと桜木トレーナーって.........)

 

 

テイオー(あー.........ボクが言うとアレだから今度直接聞いてみて?)

 

 

パーマー(ありがとう。それで分かったかも)

 

 

「.........マジー?」

 

 

 あちゃ〜.........受け答え間違えちゃったかな〜?多分バレちゃったよね?二人がそういう関係だって.........パーマーちょっと顔赤くしてるし.........うんっ!ボクしーらない!

 

 

 .........っていうかいつまで抱き合ってるんだろう?もしかして声掛けないとずっとこのまま?でもこの雰囲気を邪魔するのも.........

 

 

「.........何やってんだお前ら」

 

 

二人「!!?」バッ!!!

 

 

 

 

 

 ―――突然、声を掛けられて私達は反射的にお互いの身体を離してそちらの方を見ました。

 そこには呆れた表情をした沖野さんとレースを見ていたチームの皆さんが立っていました。

 

 

桜木「あいやっ、これは、その.........」

 

 

マック「えっと、あの.........ですね.........」

 

 

二人「おほほ(あはは).........」

 

 

ビワ「.........おめでとう。とでも言っておくべきか」

 

 

 周りの状況を確認し終えた私達は揃って笑いました。もう弁明も言い訳も思いつかなくなってしまった為、笑うしか無かったんです。

 

 

タキオン「全く。これではこの先思いやられるねぇ」

 

 

桜木「え?ど、どゆこと?」

 

 

デジ「何言ってるんですか!言ってたじゃないですかトレーナーさん!![独立]するって!!!」

 

 

 [独立]。その言葉を聞いて少し彼は考え込みました。そして直ぐに何の事かを察しました。

 そう。彼はURAファイナルズが始まる前に宣言したのです。チームメイトの誰かが優勝した時、スピカからは離れると.........

 それを思い出した彼は申し訳なさそうに笑って頭を掻きました。

 

 

桜木「いや〜そういやそうだった!もう目の前の事に夢中で.........」

 

 

ウララ「これから頑張ろうねっ!トレーナー!!」

 

 

マック「ふふ、これから大変ですわね?トレーナーさん」

 

 

桜木「ああ、でも楽しくなりそうな気がするな!!」

 

 

 これから始まる。私達の新しい[物語]。その期待に胸を膨らませ、私達は笑顔を見せ合いました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――嫌だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「.........え?」

 

 

 そんな私達の事を否定する言葉が冷たい声に乗って聞こえて来ました。一体誰がそんな事を.........

 この場にいる方達を見ると、その目は全員。ある人物に向けられていました。その人物とは.........

 

 

マック「て、[テイオー].........?」

 

 

 俯き、拳を握りしめている彼女。明らかにその言葉を出したのが彼女なのだと分かってしまいました。

 誰も、何も言いません。言えません。彼女の張り詰めた思いを感じ取って、その言葉の意図を聞き出そうとする人は誰も居なかったのです。

 

 

テイオー「嫌だ。嫌だ.........」

 

 

テイオー「嫌だ嫌だイヤだイヤだいやだいやだ.........!!!」

 

 

沖野「お、おい。テイ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「えぇぇっっ!!!??」

 

 

 彼女が取った最終的な行動は、[駄々こね]でした。背中を地面に付け、じたばたと手足を叩き付けてグルグルと回転する様は正に子供の物でした。

 

 

ゴルシ「おいおいテイオー!!そりゃ無いだろ!!」

 

 

スズカ「そ、そうよテイオー?負けちゃったんだから仕方ないわ.........」

 

 

テイオー「負けてないもんっっ!!!」

 

 

 頬をまるで風船のように膨らませてその場から素早く立ち上がるテイオー。そのままずんずんとトレーナーさんの目の前まで近付いて行きます。

 

 

テイオー「ボクライスとブルボンには勝ったもん!!!」

 

 

テイオー「マックイーンは優勝したけど、ボクレグルスの二人には勝ったもん―――!!!」

 

 

ウオッカ「そんな無茶苦茶な!!?」

 

 

ダスカ「良い加減にしなさいよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「.........ゑ?」

 

 

 納得した様な声。それは他の誰でもない、私達のトレーナーさんから発せられた物でした。

 

 

スペ「い、良いんですかサブトレーナーさん!!?」

 

 

桜木「う〜ん、ああ言われちゃうと俺も弱いからさぁ.........」

 

 

 腕を組み、眉間に皺を寄せながら長考を始めるトレーナーさん。その様子を静かに見守る私達。

 暫くその状態が続いた後、彼は決心した様に口を開きました.........

 

 

桜木「よし決めた!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はチーム[レグルス]を発足させる!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んでもって[スピカ]のサブトレーナーを続けるっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「これで文句ないだろ?テイオー」

 

 

 まるで良い事を思い付いたと言わんばかりの表情を見せるトレーナーさん。しかし、その言葉に私達は困惑していました。

 チームのトレーナーをしながら他チームのサブトレーナーをする.........そんな話今まで聞いた事がありません。本当にそんな事が実現出来るのでしょうか.........

 

 

ビワ「.........無理では無いな」

 

 

マック「え?」

 

 

ビワ「以前一度目を通した限りだが、トレーナーの決まりにはチームトレーナーと他チームのサブトレーナーを兼ねる事は出来ないとは書かれていなかった」

 

 

沖野「そりゃ誰もやろうとは思わないからで.........」

 

 

ブルボン「しかし、マスターはやる気みたいです」

 

 

 淡々と事実を告げながら指を指すブルボンさん。その先には気付かぬ内に少し離れた場所に移動し、やる気を滾らせる彼の姿がありました。

 

 

桜木「くぅあ〜っ!こっから忙しくなっぞ〜!!!」

 

 

全員「.........はぁ」

 

 

 全く.........ここまで脳天気な姿を見せられると心配を通り越して呆れ果ててしまいます。そんな呆れを表した私達のため息を聞き、彼は不思議そうな顔を振り向かせました。

 でも、まぁ.........そういう所がトレーナーさんらしいです。今までどんな困難も逆境も乗り越えてきました。チームトレーナーをしながらサブトレーナーをやると言うのも、きっとやり切ってしまうでしょう。今まで傍で見てきたから分かります。

 

 

マック(.........ありがとうございます。トレーナーさん)

 

 

マック(今度は私が[叶える番]です)

 

 

マック(いつか聞けなかった[貴方の夢].........きっと叶えて見せます)

 

 

 不思議そうな顔でこちらを見てくる彼。結局、乗り越えてしまえば後はケロッとしてしまうんです。そんな彼が.........私は好きなんです。

 大変だったこと。辛かったこと。苦しかったこと全部。自分の経験として受け入れられる。だからこそ夢破れながらも、夢を追うことを恐れない。

 そんな彼の[強さ]に.........ずっと助けられて来たのです。

 

 

 だから今度は.........今度こそは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が、[彼の夢]に.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――お知らせ致します。これよりURAファイナルズウイニングライブの開催が予定されております。ステージに出演する方は控え室まで.........」

 

 

 地下バ道に響くアナウンスの声。どうやら思っていた以上に私達はこの場に留まってしまっていたようです。

 

 

桜木「あっ、そういえばあったね。ライブ」

 

 

沖野「レースが熱すぎてすっかり忘れてた」

 

 

ウマ娘(全く.........)

 

 

 キョトンとした顔でそう言うトレーナーさん達。ウマ娘にとってライブはレースと同じくらい大事な物ですのに.........それを忘れるだなんて酷いです。

 ため息を吐く私達でしたが、そんな物に気を使う様子は見せず、彼は笑顔で振り返りました。

 

 

桜木「ライブっ、楽しみにしてるね!!」

 

 

マック「!はい」

 

 

 まるで純粋な子供のような笑顔を見せるトレーナーさん。彼のその表情に愛おしさを感じながら私は返事を返しました。

 そして、URAファイナルズの最後を締め括るウイニングライブを行うべく、私達はその会場へと移動して行くのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立ち位置完了!音響とセットの準備はどうですか?」

 

 

 ああ、遂に始まってしまう.........一世一代を賭けたウイニングライブ。私のこれまでの集大成.........

 

 

ハロー「.........」

 

 

 慌ただしい舞台裏。何度経験していてもその雰囲気に飲み込まれそうになってしまう.........ここに立つと自分が踊る訳では無いのに、心が震えてしまう.........

 このライブには、[全てのウマ娘]の思いが込められている。比喩なんかじゃない。今日に至るまで、沢山の子達が協力してくれた.........

 

 

『お願いします!URAファイナルズのライブ楽曲の振り付けも私達に任せて下さいませんか!!?』

 

 

『えぇ!!?い、良いんですか.........?』

 

 

『はいっ!私達、戦績良くなくて、レースには出られないんですけど.........でもっ、どうしても残したいんですっ!!自分達が頑張った証をっ!!!』

 

 

 

 

 

『お願いです。この歌の作曲。私達にやらせてくれませんか?』

 

 

『え?』

 

 

『私達。怪我しちゃって.........でも、それでも何か、こんな凄いレースで何もしない自分が嫌で.........!!!』

 

 

 

 

 

 .........情熱。苦悶。希望。辛酸。羨望。学生の全てが詰まっているのが、この曲.........今日に至るまで、多くの学生達によって洗練され、そして彼女達の思いだけで構成された純曲。

 

 

 誰かが聞けばいつかのあの日を思い出す。

 

 

 誰かが聞けばいつかの未来を志す。

 

 

 トレセン学園で過ごすとはどういう事なのか。

 

 

 レースをするというのはどういう物なのか。

 

 

 鍛錬というのはどれほど険しい物なのか。

 

 

 [トレーナー]とはどういう存在なのか。

 

 

 そして.........[ウマ娘]とは、なんなのか。

 

 

 そんな全てに対し、彼女達がどう思っているのか.........普段であれば聞けないくらい真っ直ぐで、とても気恥しい疑問。もちろん答える方も、恥ずかしい気持ちになってしまうかもしれない。

 

 

 けれど[歌]なら.........心を込めた歌でなら、恥ずかしがること無く[彼女達の全て]を伝えられる。

 

 

 そう。この曲こそ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [GIRLS' LEGEND U(彼女達の物語)]なんだ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東「締めはうまぴょい伝説か.........」

 

 

東條「相応しいかどうかは考えものだけど、大団円には持ってこいの曲よね」

 

 

白銀「早く見てぇ〜な〜!!ぴょんぴょん飛んで見せてくれよ〜!!」

 

 

桜木「殺すぞ」

 

 

 場内は多くの囁きでざわついている。ライブモニターにはこれから披露される楽曲の名称。[うまぴょい伝説]という文字が映し出されている。

 隣に居るいつもの奴らの内の一人。白銀はダンスを見たがっているが、言葉から分かる通り.........その、たわわに実った物が揺れる様を見たがっているだけに過ぎない。本当に殺してやろうか?

 

 

 そんなふざけた奴をどうするか。そんな事を考えている内に不意に会場が暗さに包まれる。

 ライブモニターも同時に暗転し、そしてこれまで行われたURAファイナルズのレース。その内容の一部始終を見せ始める。

 

 

黒津木「お、予選からだ」

 

 

神威「いや〜。激戦だったよなぁ.........」

 

 

黒沼「そうだな」

 

 

桐生院「正に手に汗握るレースでしたね!」

 

 

南坂「来年も出たいですね」

 

 

沖野「おいおい。気が早いって.........ん?」

 

 

 聞き慣れたファンファーレ。課題曲でもあるうまぴょい伝説のイントロが聞こえて来る。何度も練習に付き合い、俺自身もダンスをマスターしている分、聞き馴染みがある。

 

 

 しかし、最後の映像。マックイーンがゴールを切った瞬間にその音と映像はブツリと途切れ、ゆっくりと文字を浮かび上がらせた。

 

 

桜木「[ガールズレジェンド、ユー].........!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――Wow wow wow wow

 

 

 Wow wow wow wow.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっとみんな会えたねー!!!♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と同時に、ステージの幕が上がった。聞いた事も無いイントロ。演出。歌詞。それは今行われるライブが、完全新曲であると言うことを俺達に知らしめていた。

 ステージの上には決勝戦に出てきたウマ娘達。そしてモニターに映るのは、先程のレース場。そこには予選から準決勝まで出場した選手がターフの上。そして観客席を埋め尽くすレベルでダンスしている姿が映っていた。

 

 

 圧巻だった。今まで見た事も無い光景だった。そんな光景を見せられて、俺は.........レースと同じくらいの熱を、感動を感じていた。

 

 

沖野「.........凄いな」

 

 

桜木「.........はい」

 

 

「たかたった 全力走りたい♪」

「芝と♪砂と♪君の♪追い切りメニュー♪」

「Turn up!(Turn up♪)声出せ叫べ!(wo oh oh♪)」

「トレセーン!!!ファイ! (おー!)ファイ!(おー!)」

 

 

 センターで踊っているのは五人。各部門の優勝者が歌を歌いながらダンスを披露している。

 その歌詞は、レースの為に日々努力をしているウマ娘を表している物だった。

 

 

「たかたった 全力上がりタイム♪」

「ゆずれない夢の途中!(wow wow♪)」

「始めよう!ここから最高story!」

「Wow wow wow.........」

 

 

 そして語られる[夢]へ向かう姿勢。彼女達が何を思い、そして何を願いながら日々走り込んでいるのか。それを教えてくれた。

 譲れない夢。それに向かって突き進むその背中を、俺は追いかけ始めた。だからここに居る。だからここで立っている。

 

 

 そして曲のメロディーは突然、軽快で軽やかな物から壮大な物へと変わって行った。

 

 

「憧れの地へ―――(勇気少し借りて)」

「語り合ったmemory―――(二度と来ない今を)」

 

 

「もうドキドキもトキメキもっ♪」

 

 

「抑えられない止まんないッッ」

 

 

「熱いハラハラが止まらない―――ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[キミ]と―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「走り競いゴール目指しっ!」

「遥か響け届けmusicッ!」

「ずっとずっとずっとずっと想い♪夢がきっと叶うなら!!」

「あの日キミに感じた♪[何か]を信じてっ!!!」

「春も夏も秋も冬も超え 願い焦がれ走れ―――!」

 

 

「Ah 勝利へ―――」

 

 

 目まぐるしい程の曲の展開。息をつく暇なんて感じさせてくれない。Bメロからサビへの音のラインの緩急の付け方が有り得ない。

 やりたいこと、したいことを全部詰め込んだ様なこの曲に、学生らしい青春を感じさせられる。

 そして何より.........

 

 

桜木(はは、凄いな.........)

 

 

桜木(これじゃまるで、[レース]じゃないか.........)

 

 

 急かすようなリズム。軽やかな言葉の繋ぎ。まるで彼女達の速さを体現したかのような曲に、俺は彼女達の走りを見た時と同じ様に魅入られている。

 

 

 一番の歌詞が終わった。普段のライブならこれで終わりだろう。だが今日は.........[URAファイナルズ]のライブなんだ。これで終わらせる訳には行かない。

 そう言わんばかりに、彼女達は間髪入れずにCメロの展開へと移行して行った。

 

 

「揺るぎない覚悟決して」

「1つ2つ共に綴る記録」

「背中に迫る迷い振り払え」

「今の自分追い越すだけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ちたい.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ちたい.........!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ちたいっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キミと勝ちたいッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力強い声と言葉が、俺の心に突き刺さる。その思いは.........俺が今日、ようやく見つけ出した言葉だった。

 ここまで来たのも、チームを無理して結成したのも、彼女達と勝ちたいと思ったからだ。言葉に出来なくとも、俺の心はそう願っていた。

 

 

デジ「.........トレーナーさん。まだ終わってないですよ?」

 

 

桜木「ごめ、んっ.........ちょっ、と。辛い.........」

 

 

デジ「もう、デジたんが支えてあげますよっ」

 

 

 涙で濡れた顔。体力はとっくのとうに尽きている。それでもライブは続いている。そんな俺を気遣って、デジタルは俺と同じくらい涙を流しながらも、袖で目元を拭って俺の肩を担いでくれた。

 

 

 激しい光の演出がやがて落ち着いた様に明るさを落としていく。ステージの中央には.........マックイーンが居る。

 それだけで俺は.........俺はなんだか、救われた気がしたんだ.........

 

 

「未来描きゴール目指し」

「狙え挑め掴め winning」

「ずっとずっとずっとずっと想い」

「夢はきっと叶うから」

 

 

 彼女の歌声が聞こえて来る。その言葉の重みが、直に伝わってくる。

 他の人には分からないかもしれない。最初から強さを見せてくれた彼女の苦悩と、挫折。勝利の裏側にあった日々の努力を.........

 

 

 俺達には分かる。今日、ここに立つ彼女が一体、どれほどの困難を乗り越えて来たのか。共にどれほどの道程を歩んできたのか。俺は.........知っている。

 

 

 そんな彼女が今、[中心に立って踊っている]。

 

 

 その事実だけが.........俺の心を、脳を焦がして行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの日キミが流した」

「[涙]も信じて―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そうだ。

 

 

 ―――俺はずっと。

 

 

 この景色を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――春も夏も秋も冬も超え」

「雨も風も超え」

「雲も闇も超え」

「勝利へ―――!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[信じて来た]んだなぁ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[キミ]と―――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「走り競いゴール目指しっ!」

「遥か響け届けmusicッ!」

「ずっとずっとずっとずっと想い♪夢がきっと叶うなら!!」

「あの日キミに感じた♪[何か]を信じてっ!!!」

「春も夏も秋も冬も超え 願い焦がれ走れ―――!」

 

 

「Ah 勝利へ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――Don't stop!No,don't stop'til finish―――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言葉では言い表せない程の大きな感情。激しく揺さぶられた心で感じれた事はただ一つ。[喜び]だった。

 救われた。ここまで来れた事。ここまで連れて来てくれた人達に感謝の言葉を送りながら、俺は彼女のライブを見終えたのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乙名史「.........ありがとうございます。以上で弊社のインタビューは終わりになります。お疲れのところをわざわざ答えて下さりありがとうございました」

 

 

桜木「いえいえ。乙名史さんにはお世話になってますから。これくらい良いですよ」

 

 

 ライブが終わった後、本来ならばある記者会見。しかし時刻は既に夕暮れ。ウマ娘達もレースとライブによって体力を奪われている事もあり、それは後日に持ち越しとなった。

 .........のだが、乙名史さんの姿が目に止まった俺は彼女を呼び止め、もう誰も残っていないレース場にてインタビューを全員で受けていた。

 

 

乙名史「それにしても、皆さん普段からこの場所でレースをしているんですね.........」

 

 

ウララ「うんっ!!とっても走りやすくて気持ちいいんだよ!!」

 

 

 普段一般の人がその足で踏むことは無いであろうレース場のターフ。かく言う俺もあまり経験は無い。

 彼女も俺もトレセン学園の練習場の芝を歩く事は多々あるが、やはり実際のレース場となると感触が違って感じてしまう。

 

 

 こんな所でインタビューを受ける日が来るなんて.........そんな事思っても居なかった。だがこうして、自分の足でこの場に立つと感慨深くなってしまう。

 

 

桜木(.........皆、ここで走ってるんだな)

 

 

 足の裏で感触を確かめつつ、余韻に浸る。今日のレース。これまでのレース。そして.........これからのレース。

 [次]がいつになるのかはまだ白紙のままだ。春のG1を狙うのか。少しばかり暇を設けるか.........考え出せばキリがない。

 だが一つ、確かな事があるとするならば.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達には、[次]が生まれたという事だ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デジ「うぅ〜、デジたん走ってないんですけど、この服を着るとこう、高揚感が.........」

 

 

タキオン「一人だけ学生服と言うのも疎外感を感じさせると思ってね。こうなる事を見越して持ってきていたのさ」

 

 

マック「ふふっ、チーム[レグルス]。全員集合ですわね」

 

 

 嬉しそうに微笑む彼女。そんな表情を見て俺達も少し頬を緩ませる。

 だが、そんな俺達の中にもまだぎこちなさがある。彼女が優勝したレースの余韻がまだ、抜け切れていない。

 

 

 そんな俺達に対して、乙名史さんは下げたバッグからカメラを一台取り出した。

 

 

乙名史「実は今回。皆さんを雑誌の表紙にしようと思っているんです。よろしいでしょうか?」

 

 

「!はいっ!」

 

 

乙名史「ありがとうございます!では一枚.........」

 

 

「.........」

 

 

 カメラを覗き込む乙名史さん。俺達は写真の為に表情を作る。しかしいつまで経ってもシャッターは切られない。

 どうしたのだろう?そう思っていると彼女は申し訳なさそうに一度カメラから顔を離した。

 

 

乙名史「少し、表情が固いですね」

 

 

ライス「えっ!ご、ごめんなさい!!ライスのせいで.........」

 

 

ブルボン「ライスさん。恐らくこの場に居る全員がそうだと思いますよ」

 

 

 申し訳なさそうに謝るライスだが、ブルボンの言っていることが正しい。俺達はまだ、先の事を終わった物だと思えずに居る。そんな状態で100点満点の笑顔なんてそう出来るはずは無い。

 どうしたものか。そう思っていると不意にマックイーンが肘で俺の事を押してきた。

 

 

マック「こういう時こそ、チームトレーナーである貴方の出番ですのよ?」

 

 

桜木「えぇ、俺ぇ?」

 

 

タキオン「精々気の利いた言葉を頼むよ?トレーナーくん。私達の表情を解す為にね」

 

 

 意地の悪い表情を浮かべるタキオン。今そんな顔ができるならお前には必要無いだろう。

 だが他の皆には必要そうだ。マックイーンもまだ上手く笑えて居ない。それを解す為に必要な言葉.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........ああ、ダメだな。これを言ったら多分怒られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木(.........でも、これしか思い浮かばないや)

 

 

乙名史「では、撮りますね」

 

 

 頷いて見せる事で準備が出来た事を乙名史さんに伝える。それを見た彼女はもう一度、カメラを構えて覗き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無理をして笑顔になる必要なんてどこにもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自然体で居る。それが大事なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから[仮面]はもう、付けなくて良いんだ。皆.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[おかえり。マックイーン]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「―――!.........っ」

 

 

 ―――唐突に掛けられた言葉。その言葉一つで抑え込んでいた感情が一気に溢れ出しそうになります。

 それを堪えて、必死に口を結びながらカメラのシャッターが切られるのを待ちました。

 

 

乙名史「.........良い写真ですね」

 

 

乙名史「チーム[レグルス]。[小さき王]の名前の通り、ここに写っている皆さんは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[等身大]の、今を生きるウマ娘だと思わせてくれます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言われて私はチームの皆さんに視線を移しました。

 そこには.........涙を流し、けれどそれを必死に堪える皆さんが立っていました。

 

 

ウララ「.........ズビ」

 

 

 ウララさんも。

 

 

ライス「.........グス」

 

 

 ライスさんも。

 

 

ブルボン「.........っ」

 

 

 ブルボンさんも。

 

 

デジ「.........うぅ」

 

 

 デジタルさんも。

 

 

タキオン「.........はぁ」

 

 

 タキオンさんでさえも.........

 

 

 今この場に共に立ち、そして私と同じ思いを抱いて居る。

 

 

 そんな姿を見せられてしまったら、私はもう.........自分の心を抑える事なんて出来ませんでした。

 

 

マック「ぅうう.........ああぁぁぁ.........!!!」

 

 

 声を出して、心の赴くままに皆さんを抱き締め、恥も外聞も捨てて.........ターフの上で泣きじゃくったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして.........第一回[URAファイナルズ]は.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チームの、そして[メジロマックイーン]と言う名の[復活]で、幕を閉じたのでした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――春風が窓を叩く。新たな始まりの訪れを告げる為に、世界は今日も時計の針を回している。

 [URAファイナルズ]という大きなレースは終わりを告げた。だが、それで全てが終わる訳では無い。また今日を生きる人々の手によって、世界は形成されて行く。

 

 

 私の手には[月刊トゥインクル]の特別号。表紙には、涙で顔を濡らす乙女達の姿が映し出されている。

 表紙の言葉には.........[メジロマックイーン。奇跡を超えて今帰還]。文句の付け所など何処にも無い宣伝文句だ。

 

 

 私は表紙を見つめ、その内容を見ようとページをめくろうとしたが、机に設置している内線電話が私を呼び始めた。

 中身は見たかったが、仕方無い。楽しみを邪魔された不快感を拭い捨てながら、その電話を手に取った。

 

 

「応答ッ!!どうかしたか?」

 

 

『どうしたもこうしたもねぇよやよいちゃん!!この記者達を何とかしてくれぇ〜!!』

 

 

「.........古賀トレーナーか」

 

 電話を掛けてきたのは我がトレセン学園の古株。古賀 聡であった。電話の向こうからは質問がどんどん飛んできている。その苦労は私も良く知っているので想像に難くはない。

 だがしかし、可哀想とは思わん.........何故ならば.........

 

 

「古賀トレーナーよ。私は言ったぞ?[嘘はダメだ]と」

 

 

『嘘じゃね〜よ〜!!前病院行った時そうかもしれね〜って言われたし!!俺ぁもう辞める気満々だったんだって〜!!』

 

 

「.........で?」

 

 

『でもよ〜?脳みそ検査したらな〜んも異常ねぇってんで。それどころか脳細胞が実年齢より10若いって.........たはは』

 

 

「.........桜木トレーナー達が言っていた事、もう一度言おうか?」

 

 

 私のその言葉を聞いた彼が一瞬、言葉を詰まらせる。あの時の彼の気迫というか、怒りの凄まじさには身が震えた物だ。

 

 

 URAファイナルズから一週間経った。だがそれでも世間は未だにその話題で持ちきり。嬉しい限りだ。

 だがその裏で、ウマ娘がレースを走る裏で何が行われていたのか知っている者は数少ない。

 

 

 この男。古賀 聡はその盛り上がりに貢献した。

 

 

 そう。[若いトレーナー]が優勝すれば、この業界は更に活性化する.........と。

 

 

 聞こえは良いが、その内容を聞いた時私は即座に反対した。そんな酷い話があるか。と。

 

 

 案の定、後日沖野トレーナーと桜木トレーナーに彼と共にそれを話したら.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一生トレーナーやってろッッッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウマ娘に蹴られて地獄に落ちろォォォォ―――ッッッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........と、取り押さえるのが大変な程に怒りが沸騰していた。

 そんな彼らの怒りを鎮める為に課した罰が、この記者達の対応だ。今まで散々こういう事から逃げてきた分を考えればまだ足りないレベルだ。

 

 

『頼むよ〜やよいちゃんっ!俺ぁ苦手なんだよインタビュー系が〜!!』

 

 

「熟知ッ!!だから罰なのだっ!!」

 

 

『責めてほら!アイツら連れて来てくれねぇか!!沖野はURAファイナルズのMVPトレーナーだし!!桜木もすげぇ活躍しただろォ!!?』

 

 

 わたわたとして器用に質問に答えながらも尚、古賀トレーナーは私に講義を寄越してくる。

 確かに普通に考えれば、活躍した者をメディアに出すと言うのは当たり前の考えだ。

 

 

 沖野トレーナーは担当が[マイル部門]。[中距離部門]の優勝を果たした事で、URAファイナルズで最も成績を残したトレーナー。[MVP]に選出された。

 桜木トレーナーは.........言わなくてもわかるだろう。[繋靭帯炎]という克服不可の病。症状は軽くなるだけであり、完治することは無い。出来たとしても、その痛みを知ったウマ娘は二度と全力で走れなくなる

 そんな中で.........見事[長距離部門]。[最も強いウマ娘]が勝つとされる部門で勝利を納めたのだ。

 

 

 そんな二人を出さないわけには行かない。

 

 

 .........行かないのではあるが。

 

 

「.........実は、有給を取っていてな」

 

 

『かァ〜!!まぁ仕方無ぇ!ずっと激務だったからなぁ!!じゃあ、スズカとかっ!それこそマックイーンとか呼んできてくれないか!!?』

 

 

「居ない」

 

 

『へ?』

 

 

 素っ頓狂な声を上げる古賀トレーナー。その後ろからは私のその言葉が聞こえたのだろう。多くの記者がその事に関しての事実確認を求めている。

 これ以上は私の時間も取られてしまう。普段であるならば丁寧に答えた所ではあるが、今回は古賀トレーナーへの罰。URAファイナルズについてはまた後日、私が記者達に答えることにしよう.........

 

 

「.........そろそろ、[桜]が咲く頃だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「うわぁ.........!!!」

 

 

 目の前に広がる広大な世界。まるで御伽噺の国が絵本の中からそのまま出てきたかのような錯覚に陥ってしまう。

 人生で初めての場所。初めての匂い。初めての高揚感.........こんな場所がまさか、現世に有っただなんて.........!!!

 

 

沖野「流石にはしゃぎすぎじゃないか?」

 

 

桜木「むっ、[夢]が無いっスね〜沖野さんは」

 

 

スズカ「そうですよトレーナーさん。折角ですから、楽しまないと」

 

 

 この世界観にうっとりしてしまっている俺とは対照的に、沖野さんはゲンナリとした様子でもう帰りたそうにしている。

 そんな彼を引っ張るようにスズカが先導し、それを逃げないようスピカのメンバー達が包囲して連行して行く。

 

 

ウオッカ「最初どっから行く?」

 

 

ダスカ「バスが走ってるわ!!」

 

 

スペ「汽車も走ってますよー!!」

 

 

オル「皆の分も買ってきたよー!!フェスタちゃん付けて付けて!!」

 

 

フェスタ「サンキュー。それにしても、この時代も大人気だな」

 

 

ゴルシ「うおおおお!!!この時代でも全アトラクションコンプリートしてやるぜ〜!!RTA勢を舐めんなよー!!!」

 

 

テイオー「トレーナートレーナー!!どこから乗るのー!!」

 

 

沖野「ええいっ!!いっぺんに喋るな!!行くって!!お前らの行きたいところ全部!!!」

 

 

スピカ「やったー!!!♪」

 

 

 騒がしさが遠のいて行く。そんな中沖野さんは俺の事を恨めしそうな目で睨んできたが、仕方無いんだ。無理矢理でもしないとアンタ有給消化しそうにないから.........

 そう思って居ると、不意に俺の腕を引っ張る存在が居る。ウララとライスが特徴的なカチューシャを頭に付けて耳が四つになっていた。

 

 

ウララ「トレーナー!!これ、オルフェちゃんから!!」

 

 

ライス「パンフレットも貰ったよ!!」

 

 

桜木「おー!!ありがとうっ、俺優柔不断だから何処から行くか.........」

 

 

ブルボン「.........」モグモグ

 

 

 広い場所の中央でパンフレットを開く。そこに先程二人と、お店でおやつを沢山買ったブルボンが覗き込んで一緒に見ている状態。

 

 

 色んなアトラクション。そしてコーナー。イベント.........子供の頃行きたい行きたいと思っていて終ぞ行けずにいた場所。俺にとっての、いや.........全日本人にとっての[夢の国]に今、俺は居る。

 

 

桜木「最初に行くのは〜」

 

 

マック「もちろん、ここですわ」

 

 

桜木「.........え゜」

 

 

 突然、横から場所を指定される。その指の先には.........[ホーンテッドマンション]と記されていた.........

 

 

桜木「い、いや.........俺怖いのはちょっと.........」

 

 

タキオン「おや、[今までの行い]をこれで許してあげようと思っていたんだけどね〜?」

 

 

デジ「デジたん考案です。これが一番効果的かと」

 

 

 更に横から現れるアグネスコンビ。その表情はどちらも悪い笑顔を浮かべている。

 この時、俺は嫌な予感がした。まさか.........まさか、俺を懲らしめる為に、行きたいと思っていた夢の国に連れて来て、天の園に来たと言わんばかりにテンションが爆上がった後に、お化け屋敷に連れて行く.........なんてことを画策していたんじゃ.........

 

 

桜木「ま、マックイーンさん?流石にですよね?恋人ですよね?俺達.........」

 

 

マック「ええ♪当たり前ではありませんか♪」

 

 

桜木「.........ほっ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――だからこれで許して上げます♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........違う。手心を加えてこれなんだ。俺が今までしてきた自分勝手や、彼女達を振り回してきた事。その全部を、これで許してくれるんだ。

 彼女の優しさが身に染みる。なんて可愛い顔で、そして優しい声なんだろう。俺は.........今までこんな子達を振り回していたのか.........

 

 

桜木「.........ごめん」

 

 

ウマ娘「.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「許してくださぁぁぁぁぁいッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウマ娘「あっ!!?」

 

 

 ―――するりと。まるで流れる水のようなしなやかさで私達の隙間から抜け出るトレーナーさん。そしてそのまま彼は走り始めました。

 逃がす訳ないじゃ無いですか。折角彼を懲らしめるチャンスなんです!!ここで逃がす訳には.........!!!

 

 

デジ「いやいや、人間がウマ娘に勝てるわけないじゃ無いですか。古事記にもそう書いてますよ」ヤレヤレ

 

 

桜木「それはどうかな!!!」

 

 

デジ「ひょっ?」

 

 

桜木「速攻魔法発動ッッ!!![超融合]ッッッ!!!!!」

 

 

ウマ娘「え」

 

 

桜木「俺は俺とこのタキオンの薬を素材にして融合召喚するぜッッッ!!!!!」

 

 

タキオン「ホいつの間に!!?」

 

 

 彼は走りながら懐から水筒を取りだして飲み干しました。

 すると見る見るうちに身体は代謝の急上昇による発汗とその汗による水蒸気で包まれました。

 

 

桜木「ハッハー!!超融合にはチェーン出来ないんだぜッッ!!!禁止にしろこんなカードッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――許しません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「.........え?」

 

 

マック「終わったら.........普通にデートを楽しもうと思っていましたのに.........!!!」

 

 

 身体に溢れる[怒り]。決勝の時以上のパワーが身体に巡るのを感じました。

 折角終わったら、全部水に流して、一泊二日のこの旅行を楽しもうと思っていましたのに.........!!!

 

 

ブルボン「!!?こ、この[オーラ]は.........!!!」

 

 

タキオン「おいおいおいおいっ!!!落ち着きたまえマックイーンくん!!![ヘル化]が!!!ヘル化が始まっている!!!」

 

 

マック「絶対.........絶対.........っっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「許さないんだからァァァァ―――!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――迫り来る一人のウマ娘。

 

 

 そして、それに追い付かれないようにする一人の男。

 

 

 傍から見れば、こんな二人が心を通わせ、[奇跡を超えた]と言われたとしても、誰も信じはしないだろう。

 

 

 だが、それでも二人は見出した。[一人]では辿り着けない場所。[独り]では抜け出せない孤独。

 

 

 [心]を一つにするのではなく、自身の[心]の隣に他者の[心]を置く。それこそが、[一心同体]なのだと.........

 

 

桜木「わっわっわっ、ご、ごごご.........!」

 

 

 でこぼこ道はまだ続く。

 

 

 例え、それが[山]となり、[谷]になったとしても。

 

 

 それでも、誰かが隣に居る。誰かの[心]が、傍に居る。

 

 

 それだけで、[ひとりじゃない]。そう思える。

 

 

 そしてそうやって.........その苦難の道でさえも、[日常]だと思わせてくれる.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさぁぁぁぁいっっっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな道を乗り越えた先。その場所にはいつも.........[キミ]が居る。

 

 

 そう思えるだけで、人は、人間は.........どんな苦難も乗り越える力を得る事が出来る。

 

 

 そう、それこそが.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [山あり谷ありウマ娘]。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――Fin―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.........Fin。ねぇ』

 

 

『まぁ、良いんじゃないかしら?長いこと続いた物語なんだし、ここで終わっても』

 

 

『でもまだ、あるわよね?[忘れている事]』

 

 

『[アレ]。どうするのかしら?』

 

 

『.........まっ、私には関係無いのだけれど』

 

 

『.........はぁ、暇ねぇ。話の分かる話し相手くらい出来て欲しいのだけれど』

 

 

『.........今度あの[坊や]に会いに行こうかしら、ね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [夢追い人]

 

 

 

 

 

 進化条件

 [異界の者]に触れる 1/1

 [奇跡]を超える   1/1

 

 

 

 

 

 [スキル]の進化は[トレーナー活動終了時]に行えます.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山あり谷ありウマ娘

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ......To be continued

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