山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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マック「トレーナーさんと温泉旅行ですわ」T「その前にご飯食べよう」

 

 

 

 

 

 春の始まり。桜が咲き、そろそろ散る予感を知らせてくれる4月。

 

 

 私、メジロマックイーンは今。自分のトレーナーさんの車の助手席に座っていました。

 

 

 流れる景色の中、変わらずに居る晴れ渡る空。そんな空と少し開けられた窓から入ってくる涼し気な風に髪を揺らしながら、胸のトキメキを感じていました。

 

 

桜木「マックイーンさんや。そろそろ右折する所ですかい?」

 

 

マック「はい。そこからまた真っ直ぐです」

 

 

桜木「りょーかーいっ!」

 

 

 これから行く目的地にワクワクを隠さずに返事をするトレーナーさん。その姿を見て私は酷く安心しました。

 

 

マック(.........良かった)

 

 

 数日前。未来から来た自分によって気付かされた[温泉旅行券]の存在.........それを思い出して改めて確認した際、有効期限は[4月末]までと明記されていました。

 今回はURAファイナルズに出場していたお陰で特別春休み期間の対象者になれましたが.........もし出ていなかったら.........きっとアレはただの紙切れになっていたことでしょう.........

 

 

 その旅行券の存在を思い出した私はもう一度考えましたが、結局。彼と行く以外の選択肢は頭に浮かぶことは無く、断られるかもしれないと思いながらそれとなく誘ったのです.........

 

 

『その、実はトレーナーさんが海外に行っている間に.........福引で当てまして.........』

 

 

『えー!!すんごい運いいねっ!!』

 

 

『も、もし宜しければ、一緒に.........』

 

 

『い、良いの?俺で良ければ.........ううん。俺も行きたいな』

 

 

 言葉を選びながら、私が遠慮する事がないように気を遣いながら彼は答えてくれました。

 それから話はトントン拍子で進み、今日こうして二人で向かっているというわけです。

 

 

桜木「温泉.........しかも旅館か〜。楽しみだな〜」

 

 

マック「?.........もしかして、初めてですか?」

 

 

桜木「うんっ。プライベートで泊まるのは初めてだよ。学校とか社員旅行で行った気もするけど.........あんま記憶に無いかな」

 

 

 嬉しそうな顔をしながら運転する彼。どうやら思わぬ形で彼にプレゼントを送れたみたいです。

 彼からは沢山の物を貰いましたから.........そのお返しをやっと、一つだけですが出来ました。

 

 

 これからの旅行に思いを馳せていると、今度は彼の方から声を掛けてきました。

 

 

桜木「そう言えば今回の旅館。マックイーンが決めてたけど行った事ある場所なの?」

 

 

マック「え?あぁ.........まぁ、[行った事]はありますわ.........」

 

 

桜木「え〜?なんか含みのある言い方〜」

 

 

マック「.........うぅ、わ、笑わないって約束してくれますか.........?」

 

 

 幼い頃の記憶。今の私とは掛け離れた自分を思い出してしまい、恥ずかしい気持ちが湧いてきてしまいます。

 彼はそんな私を横目で見て、運転に意識を向けながらもこの手に左手を添えてくださいました。

 

 

 そんな心遣いに嬉しく、そして胸を高鳴らせながらも、私は過去の思い出を話す事にしました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは.........そう。私がまだメジロ家に来て一年も経っていない頃でした。

 

 

 おばあ様からの提案で、家族全員を連れてこの地へ旅行に来たのです。

 元々ここはメジロ家が保有する観光地でしたから、私とお父様以外は皆、どこに何があるのかを随分と把握していました。

 

 

『身体を動かしたいわね』

 

 

 長い車旅でしたから、ラモーヌお姉様は降りて早々そんな言葉を言いました。

 しかしそれに対して反対意見は無く、私を含めた子供のウマ娘は賛同し、お母様達も快く了承してくれました。

 

 

『ウマ娘用のレジャー施設があります。そこへ行きましょう』

 

 

 おばあ様の提案に乗り、座り疲れた身体の為に徒歩でそこまで向かいました。お父様は爺や達と共に車で移動してしまいましたが、その道中私達は色々な話をしたのを覚えています。

 

 

 走ると言うのはどうしてこんなに楽しいのか。

 

 

 楽しいと何故時間を忘れてしまうのか。

 

 

 本当のレースはどんな感じなのか。

 

 

 何故トレーナーが居ないとレースに参加出来ないのか.........

 

 

 疑問は解決する事無く、増えて行く一方。それでも会話をする事が楽しかった記憶があります。

 そうしている内に目的の場所に着き、私達はそこで.........

 

 

『[鬼ごっこ]しよー!!』

 

 

 初めて見る広大なターフ。その広さに心を踊らせ、私はつい何も考えずにそう声に出してしまったのです。

 そんな私の言葉に皆さんは乗ってくれました。

 

 

 鬼は私でした。正確には覚えていませんが.........かなりの時間遊んでいた事は覚えています。

 

 

 ですが.........

 

 

『.........あれ?そういえばラモーヌお姉さんだけ捕まってない?』

 

 

 何度も繰り返される鬼ごっこ。そんな中で一度も鬼になって居ない方が居ました。ラモーヌお姉様です。

 気が付けば私はお姉様の事を追い始めました。他の皆さんが気を使って私の前に現れたり、視線を誘導しようとしましたが、幼い日の私はお姉様を捕まえようと躍起になってしまったのです。

 

 

『ま、マックイーン。無理だよ。ラモーヌさんを捕まえようだなんて.........』

 

 

『無理じゃないもんっ!!』

 

 

『で、でもこのままじゃ日が暮れちゃうよ?』

 

 

『.........うぅ〜!!!』

 

 

 力の差は歴然。当時の私はまだ三歳の子供。お姉様は既に脚の不安を克服し、トレセン学園入学の為のトレーニングをしている時期。実力は大きく離れていました。

 けれどあの時の私はそれでも諦めるという事をしたく無かったのです。

 

 

『.........じゃあ皆で作戦タイムね!!』

 

 

『え!!?』

 

 

『お姉さんは耳ペタってしててね!!聞いちゃだめだよ!!』

 

 

『.........ふふ、良くってよ』

 

 

『.........』

 

 

『アルダン。貴女も見てないで参加しなさい?』

 

 

『!はいっ』

 

 

 気が付けばいつの間にか、お姉様対他のメジロのウマ娘という構図が出来上がりました。

 皆それぞれの作戦を出し合い、それを参考にしてただひたすらにお姉様を追い掛ける。今思えば、子供らしい子供だったかもしれません。

 

 

 ですが結局、お姉様に追いつく事は終ぞ叶わずに.........

 

 

『.........スー.........スー.........』

 

 

『マックイーン?温泉に着いたよ?』

 

 

『ふふ、寝かせてあげましょう?ライアン』

 

 

『あんなに私に[勝とうとした]んですもの。疲れるのも無理は無いわ』

 

 

 私は鬼ごっこで体力を使い果たして、お姉様の背中で寝てしまったのです。

 そして、眠気眼で食事を終え、温泉に入った.........のだと思います。正直疲れ過ぎて、良く覚えていないんです.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........ですから正直、殆ど観光も何もしていないも同然ですわ」

 

 

桜木「そうだったんだ.........でも凄いねマックイーン。ガッツあるよ」

 

 

 トレーナーさんは笑うこと無く、むしろ嬉しそうな顔で私の話を聞いてくださいました。うぅ.........こんな近くでその顔を見せられると.........心臓に悪いです.........

 それに、ガッツがあるだなんて買い被りすぎです。あの頃の私はただお姉様を捕まえたかっただけ。実力の差も分からないままに、ただ[勝ちたかった]だけ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マックイーン、貴女の[全盛期]はいつか、自分で分かる?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「―――あ」

 

 

 不意に思い起こされる言葉。それは去年の夏合宿。トレーナーさんと夏祭りに行く為に浴衣の着付けをお姉様に手伝って貰った際に言われた言葉でした。

 あの時にはまだ分かりませんでした。自分の[誇り]。そして[使命]を都合良く解釈していた私には.........

 

 

 けれど今なら.........[山]も[谷]も、乗り越える事の出来た今ならハッキリと言えます。

 

 

 お姉様はきっと.........あの頃の私の心を感じてくれたのでしょう.........

 

 

桜木「.........良い思い出だったみたいだね」

 

 

マック「はい.........どうやら、そうだったみたいです」

 

 

 勝ちたかっただけ。それがどれほど難しい事なのか.........今なら分かります。

 負けたくない。では無く、[勝ちたい]。その言葉の違いだけで心は多くの可能性に触れる事が出来る。

 ですが勝ちを重ね続ける事に、次第に敗北という物に恐怖が付き纏う。それが勝負を続ける者の鎖であり、とても難儀な物。

 それを克服するのは.........容易な物ではありません。

 

 

マック(.........トレーナーさん)

 

 

マック(貴方のお陰で、私はここに居ます)

 

 

マック(だから、これからもずっと―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐぅぅぅぅ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........ごめん、マックイーン」

 

 

 突然響いた大きな音。その出処はどうやら彼のお腹からで、それに気付いた彼は顔を恥ずかしそうに赤くして申し訳なさそうに謝りました。

 それを聞いた私はつい、笑い声を上げてしまいます。彼はますます顔を赤くしてしまって可哀想に思えてしまいましたが.........でもそんな彼が本当に可愛かったんですもの。

 

 

マック「少し早いですけどお昼にしましょう?」

 

 

桜木「くぅ.........朝ご飯食べれないなんて思ってる場合じゃなかったのん.........」

 

 

 彼はそう言いながら周りを確認し、車を止められる場所を見つけてそこに駐車しました。

 完全に車が止まったのを確認し、ポケットからスマートフォンを取り出しましたが.........

 

 

桜木「えっと、マックイーンここら辺で食べたい物ある?」

 

 

マック「た、食べたい物。ですか.........」

 

 

桜木「うん。何でもいいよー」

 

 

マック「で、でしたら.........」

 

 

 必死にスマートフォンを覗き込み、画面のマップに注視するトレーナーさん。そんな彼の袖を優しく掴み、私は外の方へ指を指しました。

 

 

桜木「.........本当?気を使わなくたっていいのよ?」

 

 

マック「わ、私が食べたいんですっ!今までその.........一度も行った事が無くて.........」

 

 

桜木「えー!!じゃあ行かなきゃじゃんねー!!」

 

 

 私の言葉を聞いた彼は慌てた様に逆立った髪を下ろし始めました。それを見た私も急いで準備してきたウィッグ付きの帽子を頭に被り、伊達メガネを付けました。

 こんな事をする必要があるのかと思われますが、URAファイナルズを優勝した事で私達のチーム全員の認知度が上がり、日本の方々所か、外国の旅行者の方からも声を掛けられます。

 それに.........普段ならばいざ知らず、これは完全なプライベートのデートですから、おめかしもしてますし.........恋人関係も隠していますし.........

 

 

 も、もしバレる様な事があったら.........彼が何を言われるか.........!!!

 

 

桜木「マックイーン?どしたの悶々として?」

 

 

マック「!な、なんでもありませんっ」

 

 

 気付けば先に車の外に出ていたトレーナーさんがコンコンと窓ガラスを叩いて居ました。

 うぅ.........決して彼は悪くないんです.........縁が無くなる事を恐れて焦ってしまった私が悪いんです.........

 だから決して、こんな変装なんかせずにデートを楽しみたいだなんて.........

 

 

 そんな気持ちで外に出てため息を思わず吐いてしまいましたが、私の姿をじっと見つめる彼に気付きました。

 

 

マック「と、トレーナーさん?何か私の顔に付いていますか?」

 

 

桜木「いや、黒髪メガネのマックイーンも可愛いなって」

 

 

マック「なっ!かわ.........っ!!?///」

 

 

桜木「.........正直こんな事言ったら嫌われちゃうかもだけど、顔が良すぎる.........」

 

 

マック「っ.........〜〜〜///」

 

 

 こ、この人はまたそうやって.........!!!一体その口からどれほど私を褒め殺す言葉が出てくるんですか!!?

 いつもそうです.........私達の事はそうやって褒めちぎって、自分の番になったらそんな事ないってひらりと返して照れもしない.........不公平極まりないです!!!

 

 

桜木「じゃ、行こっか」

 

 

マック「な!!?こ、今度は私が貴方を褒める番ですのよ!!?」

 

 

桜木「へっへ〜ん!!カードゲームじゃないんだぜ〜マックイーン!!」

 

 

マック「あっちょ、お待ちなさい!!」

 

 

 私の心の内を察したのか、彼は早々に店へと移動して行きます。待つように呼びかけましたが、それに応えることはせずに走り出して行きます。

 またこの人はそうやって.........!もう許して上げません!!旅館に着いたら絶対に貴方の事を褒めちぎってあげますから!!覚悟してください!!!

 

 

 そんな変な憤りを感じつつも、私もお店の方へと向かって行きました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティロリ♪ティロリ♪ティロリ♪ティロリ♪

 

 

「いらっしゃいませ〜!」

 

 

 彼の背中を追うようにお店の中に入ると、いきなり鼻をくすぐるような香ばしい匂いを感じました。それだけでとてもお腹が空いて来てしまいます。

 何を頼めば良いのでしょう.........?テイオーやゴールドシップさんは期間限定の物が美味しいと言っていましたが、看板や宣伝モニターには今のところそう言ったものは写っていません。

 

 

桜木「いや〜、久々だな〜マック」

 

 

マック「あら、トレーナーさんも来ていたんですのね。マクドナルド」

 

 

桜木「そりゃ私一般庶民ですから。学生時代はマックの回し者かって言われるくらい食ってましたよ」

 

 

マック「ふふっ、なんですのそれ.........」

 

 

 胸を張ってそう宣言する彼に思わず笑ってしまいます。二人で看板の商品を見ながらどれを選ぼうかを吟味しますが.........私の方は結局決まりませんでした。

 彼を待たせるのも申し訳ないので、ここは一つ、彼と同じ物を頼む事を伝えると、彼は少し恥ずかしそうに笑って注文の列へと並びました。

 

 

「いらっしゃいませっ、どちらでお召し上がりになりますか?」

 

 

桜木「店内でお願いします。侍マックの炙り醤油とチキンチーズバーガー。それとベーコンレタスとスパイシービーフバーガーを全部二個ずつで」

 

 

「かしこまりました。セットはどうされます?」

 

 

桜木「セットも二つで。ポテトMと、飲み物は.........」

 

 

マック「と.........玲皇さんと一緒でお願いします」

 

 

桜木「.........じゃあメロンソーダのMでお願いします」

 

 

 危うくトレーナーさんと呼びそうになり、咄嗟に彼の名前を出してしまいました。未だに呼び慣れて居ないせいか、それだけでとってもドキドキしてしまいます.........

 

 

「ではこちらの立て札を持ってお好きな席へお座りくださいっ!次の方どうぞー!」

 

 

桜木「ありがとうございます。んじゃ行こっか。[まくちゃん]」

 

 

マック「え、ええ」

 

 

 本名では無い偽名。酷く安直な物ですが、変装の見た目と相まって誰も私がメジロマックイーンであるとは見抜けません。

 しかし、本名では無い呼び名で呼ばれるという経験。分かりやすく言えばあだ名を付けられるという事は私の人生では無かった事です。

 以前までの私だったら想像の域を超える事の出来ない体験を今している.........そう思うと何だか、心がふわりとしてきてしまいます。

 

 

桜木「ここでいいかな。じゃあ来るまで待とうか」

 

 

マック「は、はい.........あの」

 

 

桜木「?どしたの?」

 

 

マック「お、お名前で呼んでもよろしかったでしょうか.........?咄嗟の事でつい呼んでしまったのですが.........」

 

 

 つい、玲皇さんと呼んでしまった事を思い出しながら私は恥ずかしくなってしまいました。以前からそう呼んでみようとチャレンジしましたが.........いつも肝心な時にその勇気が無くなってしまうんです。

 しかし今回、流れる様な形で呼んでしまいました。あの時は感じなかった頬の熱さが今になって燃え上がる程に昂っています。

 そしてそれは、どうやら彼も同じだったようで.........

 

 

桜木「その、マックイーンがそう呼びたいんだったら構わないけど.........」

 

 

マック「けど.........?」

 

 

桜木「.........そう呼ばれたら、ちょっと固まる。かも」

 

 

マック「!」

 

 

 口元を手で覆いながら顔を背ける彼。その顔は私と同じくらい赤く染まっていました。

 そんな彼の一瞬。その表情一つだけで私は嬉しくなってしまいます。言葉一つで、想い一つで好きな人が照れてくれる。そんなの楽しくなってしまうに決まっています。

 

 

マック「.........玲皇さん♡」ヒソ

 

 

桜木「っ!」

 

 

マック「玲皇さ〜ん♡」ヒソヒソ

 

 

桜木「ぅ、あ.........やめてぇ.........」

 

 

 彼の名前を呼ぶ毎に胸の高鳴りは激しさを増し、しかしそれ以上に悶える彼の姿が何よりも可愛くてつい虐めてしまいます。

 今までの仕返しです。散々褒めちぎって私を恥ずかしくさせたんですから。これくらいは受けて貰いませんとっ!

 

 

「お待たせいたしましたーっ。ごゆっくりお召し上がりくださいっ」

 

 

マック「っ!ありがとうございます。さぁ玲皇さん♪食べましょう?」

 

 

桜木「お、覚えてろよ〜.........///」

 

 

 俯かせていた顔を上げて恨めしそうに私を睨むトレーナーさん。けれどちっとも怖くなんかありません。何かされそうになったら名前を呼べばいいんです。私以上に恥ずかしがるんですから。

 さて。そんなことより食事です。トレーの上に置かれた四つのハンバーガーと香ばしい匂いがするポテト。そしてメロンソーダ.........

 

 

 こ、これがジャンクフード.........!映画の中でしか見た事ない食べ物が今、私の目の前に.........!!!

 

 

マック「い、いただきます.........!」

 

 

 どれから食べるべきか。考えれば迷ってしまいますから、まずは一番手前にある物からにしました。

 包みを丁寧に広げて行くと、紙に包まれていた美味しそうな匂いが鼻をくすぐり始めました。

 あぁ.........!これが、これがハンバーガーという物なのですね.........!!!

 

 

 私は我慢できずそのままかぶりついてしまいました。初めてこの食事シーンを見た時はなんと落ち着きのない.........なんて思ってもいましたが、こうして目の前に出されると抗えない物を感じます。

 

 

マック「!.........〜〜〜♪」

 

 

 口いっぱいに広がるマスタードの味とカリッとしたベーコン。まだまだ活力のあるレタスにチーズとパティのジューシーさがミックスされてたまりません.........♪

 気が付けば私はペロリと一個目のハンバーガーを食べ終えてしまいました.........

 

 

マック「ふぅ.........?」

 

 

桜木「.........」

 

 

マック「な、なんですか?もしかして私の顔になにか着いて」

 

 

桜木「いや、本当に初めてなんだなーって」

 

 

 食べ終えて一息ついた私の顔をじっと見つめる彼。最初は口周りにソースでも着いているのかと思いましたが、思ってもいない答えが返ってきました。

 全く、心外です。本当の本当に初めて来ましたのに、私そんな嘘はつきません。一体何を疑っていたのかしら.........

 

 

桜木「.........いやだって、友達に誘われたりしなかったの?どこにでもあるじゃん。マックなんて」

 

 

マック「それはそうですけど、貴方の居ないところで食べてしまったら取り返しのつかない所まで行きそうで.........」

 

 

桜木「だったら取り返すだけだよ。今までそうしてきたじゃない?」

 

 

 頬杖を突いて微笑みながら彼はそう言い切りました。他の方が聞けば屁理屈にしか聞こえないそれも、私にとっては信頼のある言葉でした。

 

 

桜木「食べた分だけ動けば良い。休んだ分だけ働けば良い。人間の動力は栄養と英気。義務と責任は質の良い関節の油にしかならない」

 

 

桜木「.........まっ、誇りで飯を食える奴だけが一流だってんなら、俺にとっちゃ君は雲の上の存在だね」

 

 

マック「.........ふふ、それこそ私にとっては貴方の事になってしまいますわ」

 

 

 彼は私の言葉にキョトンとした顔を見せました。どうやら彼自身は気付いて居ない様子です。

 

 

 [誇り]や[使命]。それらが原動力だった時期も私にはありました。天皇賞を制覇する。チームとしてのエースとして走る。どちらも私が課せられ、そして自分で課した目標。

 そんな私を、私達を支えてきた彼もまた同じ様に栄養と英気では無い[意志の力]を原動力にして来たのです。

 [夢]という、[使命]よりもどこまでも果てしなく続き、[誇り]という確固たる物よりも儚いそれで.........今の今まで.........

 

 

桜木「な、何さ.........?」

 

 

マック「いえ♪なんでもありません♪」

 

 

桜木「そこまでニヤニヤされたら気になるじゃん!!!」

 

 

 もどかしさを表すように顔を赤くするトレーナーさん。最近カッコイイ姿しか見れていませんから懐かしくも新鮮な気持ちになってしまいます。

 

 

マック「秘密です♪さっ、早く食べないと冷めますわよ?」

 

 

桜木「ぐぎぐぬぬ.........この感覚、新人時代を思い出す.........!」

 

 

 悔しそうな表情を見せつつも、ようやくその手にハンバーガーを手にした彼を見ながら私は残りのハンバーガーを口にし始めました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「はぁ.........お腹いっぱいになりました♡」

 

 

桜木「そりゃ良かった。こういう所で良いならいつでも連れて行けるよ?」

 

 

マック「あら、だったら私まだまだ行きたいお店が沢山あるんです」

 

 

 ハンバーガーを食べ終えた私達は車に戻り、また目的地へと向かう為に運転を再開させました。

 お腹いっぱいに食べた食事。そして安心してしまう彼の隣。普段ならば寝てしまう所ですが.........なんだか今日はワクワクが止まらず寝ないで済みました。

 

 

桜木「次だったらどこがいいかな〜。ファミレスとか?」

 

 

マック「良くテレビのコマーシャルで見ますけど、そこも行った事が無いんです。包み焼きハンバーグ、チーズバーグディッシュ、チーズINハンバーグ.........♡」

 

 

桜木「いいねいいね〜!さっき食べたばっかなのに俺もうお腹すいて来ちゃった」

 

 

 あぁ.........世の中にはまだ私が食べた事の無い。言った事の無いお店が沢山ある。そう思うだけで満たされる様な気分になってしまいます。

 そしてそれを彼と巡る.........それだけで幸せになってしまうのは我ながら分かりやすい女だと思ってしまいます。

 

 

 しかしここは抑えておきましょう。いくら彼の前ではつい素が出てしまうとはいえ、これ以上は食いしん坊で食い意地の張っているウマ娘だと思われてしまいます。

 

 

マック「コホン。玲皇さん。旅館に着いたら何をしますか?」

 

 

桜木「え、何って.........何!!?なんかしなきゃ行けないマナーとかあるの!!?」

 

 

マック「ふふ、そうではありません。観光とかお土産を買うとかありますでしょう?」

 

 

桜木「あっ、は〜ビビった〜.........そこはマックイーンに任せたいな。俺方向音痴だから」

 

 

 苦笑いを浮かべつつも、この先に待ち受ける極楽を楽しみにしている。そんな心情が読み取れてしまう。それくらい、私は彼と長い時間共に過ごしてきました。

 [六年間]。今年でもう[七年目]に入ってしまった彼との関係。

 気が付けば新入生だったウマ娘と新人トレーナーは世間では凸凹コンビとして認知され、時間が経てば自他共に認める相棒同士になり、挫折と困難を乗り越える[一心同体]となり、そして.........苦楽を共にする、[お互いの唯一無二]へとなりました。

 

 

桜木「.........!どうしたの?」

 

 

マック「.........いえ、ただこうしたかったんです」

 

 

マック「お疲れ様です.........[トレーナーさん]」

 

 

桜木「!あはは、参ったな〜」

 

 

 運転する彼の腕に手を添えると、恥ずかしそうに笑いました。こうしているだけで彼の気持ちが伝わって、私の心が彼に触れている感覚が生まれます。

 

 

 今までチームで、二人で、そしてそれぞれで頑張ってきました。春休みの最後を彼と過ごす。それが私にとって一番の疲れを癒す行動です。

 

 

 車の中では今までの事を笑いながら振り返りました。辛かった事や苦しかった事は勿論、楽しかった事。面白かった事も全てひっくるめて笑って話します。

 私達の間に禁句の話題はありません。全てを[乗り越えた]事のご褒美がこうして彼との会話に現れます。

 

 

 天皇賞の事も。三連覇を逃した事も。

 

 

 [繋靭帯炎]になった事も。そこから復活した事も全て.........

 

 

桜木「.........俺はさ、そんなに強い人間じゃないと思ってたんだよ」

 

 

桜木「でも君が.........君達が居てくれるから。[強がる]事が出来るんだ」

 

 

桜木「まだちょっと頼りないかもだけど、これからも傍に居てくれると嬉しい」

 

 

マック「!.........ええ、勿論ですわ」

 

 

 私の心が温まるのが手に取る様に分かる。こうして彼に微笑まれるだけでこうなってしまう。自分は簡単な女では無いと思っていましたが、こうして好きな人が出来てしまうだけで脆くなってしまうのは恋愛の面白い部分だと思います。

 

 

 そんな心に生まれた[弱さ]を楽しみながら、私達は温泉旅館へと到着したのです.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「や〜っと着いた〜」

 

 

マック「運転お疲れ様です。玲皇さん」

 

 

 彼女が降りたのを確認して車の鍵を閉める。身体を伸ばしていると彼女が労る様な手つきで俺の背中をさすってくれる。ついでにしっぽも足に巻き付けてくれる。多分無意識だけどとても嬉しい。

 

 

 それにしても.........メジロ家が観光地として開発した割にはガランとしている。車も俺の含めて数えるくらいしかないし.........

 

 

桜木「.........なんか、人居ないね」

 

 

マック「?当たり前です。[貸し切り]なんですから」

 

 

桜木「あ〜なるほど。貸し切り.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貸し切りィッッッ!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キョトンとした表情で俺を見つめるマックイーン。彼女は何を当たり前の事をと思っているのだろう。やはり俺とはスケールが違う。

 だが.........俺が声を上げたのはそういう事じゃない。観光地を貸し切りも勿論凄いことではあるが、一番の思いは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅館でほぼ、マックイーンと二人きりになる。という事実であった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木(.........理性持ってくれよ。三倍鋼の意思だ.........!!!)

 

 

 遙か以前に苦しい修行の末に習得した技。桐生院さん直伝の[鋼の意思]。それを意味も無く三倍という言葉を付け加えて自分を律する。

 ただでさえ魅力的で、誰かが居たとしてもイチャついてしまいたい衝動に駆られる。そんな彼女と二人きりになってしまう.........

 

 

 マックイーンはもう高等部。とはいえまだ学生。絶対に間違いを起こしては行けない。そう自分に言い聞かせながら、俺達はチェックインへと向かって行ったのだった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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