山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
黄金達の帰還
[ウマ娘]
別の世界の生き物の魂と少女とが融合し、産まれてくる存在。
それが生まれてくる時。人々からは[期待]を。神々からは[寵愛]を。その名前からは[後悔]を与えられて生まれてくる。
20XX年。夢の旅路を再び歩き始めた者達とは別の[時空]。
その時代でもう一度[夢]を追う為に、再び歩みを始める者達が居た.........
山あり谷ありウマ娘 外伝
黄金達の行方
第一話 帰還
ーーー
「.........」
時計の針だけが鳴り響く部屋。代々受け継がれてきた厳つい机を中心にしつつも、決して豪華とは言えない装飾の理事長室。
そこで私。[秋川やよい]は、四人の[問題児]達と対面する形でソファーに座っていた。
やよい「.........何か、言うことがあるのでは無いか?」
「.........そうだな。ここは一つ、穏便に。そして迅速に済ませよう。せーの」
「ごㅤめㅤん な さ い」
一人の老人が音頭を取り、同時に頭を下げる。まるで子供が謝る様なその姿に反して、心は何一つ篭っていなかった。
やよい「.........ふざけているのか?」
「ふざけてなど居ない。皆反省してるだろう?オルフェーヴル?」
オル「そうっス!!もう申し訳なさ過ぎて泣いちゃいそうっス!!ねっ!!フェスタちゃん!!」
フェスタ「ああ、昨日の夜は怖くて10時に寝ちまった位だ。緊張したぜ。そうだろ?ゴールドシップ」
ゴルシ「おう!!所でイカの焼きそばって結構あるけどタコの焼きそばってあんま見ねーよな!!なんでなんだ!!?じいちゃん!!」
「.........ほら、孫たちも反省しているしこの辺で」
やよい「何処がだッッ!!!揃いも揃ってヘラヘラとッッ!!!誠意が全く無かったぞ!!?」
怒髪天を衝く。というのはこの事だろう。私は思わず立ち上がって保護者である男の方を睨んだ。
彼の名は[桜木 玲皇]。かつてはトレセン学園に所属していたトレーナーであったが、突然退職した。
その後、とある会社の取締役にまで上り詰めたのだが、公演の帰りのバスが崖で横転し、帰らぬ人となった.........
筈なのだが、どういう訳か生きて帰ってきた挙句にもう一度トレーナーになると言い出した。この男も隠れては居たが.........その実、相当な問題児であった事をその時思い出した。
桜木「困ったな。菓子折りの一つも用意してないぞ。ひよこ饅頭でも取り寄せるべきだったか?」
やよい「.........桜木トレーナー。私は君に一番腹を立てているんだぞ?」
桜木「.........?何故だ?」
やよい「く.........ぐぎぎ.........!!!」
今までの人生で出した事も無い声を出してしまう。それほどまでにこの男の表情が私の神経を逆撫でして行った。
そんな私の姿を見てやれやれと言った様子で息を吐き、突然彼は指を弾いた。
「オヨビデショウカ。レオサマ」
やよい「うわ!!!なんだこのロボットは!!?」
桜木「[ロボ爺や]だ。かつて私の妻の執事をしていた者を象っていてな。ココアを入れてくれ。それと私の事は名前で呼ぶな」
「カシコマリマシタ。レオパンチョン」
桜木「.........ふざけてバカの思考回路をぶち込んだら複雑に絡まって取り出せなくなった」
何をやっているんだ。何を言っているんだ。突然の出来事に頭が追いついて来ない。目の前のよく出来たロボットはその見た目に反して可笑しくなった造形でココアを入れる。
人間ならば開かない方向に手首が直角に開き、その部分からココアが出される。要らないだろうその機能。飲む気も無くなるぞ。
桜木「.........ふむ。良いココアだ。腕を上げたな?修行したのか?」
ロボ爺「ウィキニノッテタ。ソレトオクサマカラショルイヲアズカッテイマス。インカンヲクダサイ」
桜木「ダメだ。どうせ貴様の給料契約書だろう?出来損ないだからクーリングオフする」
ロボ爺「.........オイボレガ」
桜木「何か言ったか?」
ロボ爺「ロボジイハデブレオデブレイノコトヲアイシテマス」
桜木「確かアグネスタキオンの電話番号は.........」
ロボ爺「ダメエエエエ!!!」
目の前で繰り広げられる老体と老人ロボットの攻防戦。視界の隅では何故か最近流行りのカードゲームなる物のボックスを開け始めるゴールドシップ達。
怒りが頭に登り詰めていくのを肌で感じて行く。これほどまでに.........かつてこれほどまでに怒りを感じた事は無い。
そして私は遂に、我慢の限界を迎えた。
「懇願ッッ!!!出てけッッッ!!!!!」
「.........はーい♪」
私のその言葉を待っていたかのように、全員が顔を見合せた後期限の良さそうな返事を私に返した。
先程までのやり取りなど無かったように全員そそくさと理事長室から退散する。最後の一人が足早に去って行き扉を閉めた後、私は崩れる様にソファーの上で横になった.........
ーーー
ゴルシ「は〜〜〜!!!やっと心置き無くトレセン学園で生活出来るぜ〜!!!」
フェスタ「んな事よりさっさとコイツ開けようぜ?トップシークレットレアが30万らしいからよ」
オル「フェスタちゃん!!転売はダメだよ!!?」
身体を伸ばしながら前を歩く孫達。意識せずとも溢れ出る活力が俺と彼女達との若さの差を知らしめている。歳を取ってしまえばそう簡単にキラキラとは出来ないものだ。
俺は彼女達の背中を見ながら溜息を吐いた。それを聞いた孫達は何かと言った表情で振り返る。
桜木「.........それで?お前達はこれからどうするんだ?」
オルフェ「え?ど、どうするって.........」
フェスタ「何が言いたいんだ?爺さん」
桜木「ゴールドシップ。お前は帰ってくる時に俺に連絡したな?[やり残し]がある。と」
彼女達が過去から帰ってくる前日。[神魔石]を使った通信メールが送られて来た。そこには端的に帰る日時と場所。そして理由を添えられていた。
桜木「お前。一体何を―――」
「シップぅぅぅぅ―――ッッッ!!!!!」
桜木「どわッッッ!!!??」
―――瞬間。背中に衝撃が走り身体が宙に舞う。重力を感じさせない一瞬が俺の魂すら肉体という檻から解脱させる程の高揚感を感じさせた。
次第に数メートル程上に飛ばされた身体は世界の絶対法則。重力によって地面へと引き寄せられて行く。
ああ.........俺の人生も最早これまで。最後に妻と一緒に最近流行ってもいない映画について語り合いたかった.........
「ダメシュジン。ワタシガキマシタ」
桜木「!ロボ爺.........お前.........」
背中から地面に激突する。そんな誰にでも出来る予測が外れる。茂みから突如颯爽と現れたロボ爺やが俺を救ってくれたのだ。
硬い金属の腕。そのボディに抱かれる言葉にし難い感触.........俺は彼の顔を見つめてしまった.........
桜木「これが、恋.........」
ロボ爺「クリーニングハキャンセルデスネ」
桜木「クーリングオフだ。キャンセル料は取られるからしっかりと送り返すぞ。あのDr.メガニ=ゴッテルに」
ロボ爺「チッ」
やはりあのバカの思考回路をぶち込んだのは行けなかった。いくら酒の勢いとは言えやっていい事と悪い事がある。
ロボ爺やの腕から降り、ゴールドシップ達の方に視線を移す。するとそこには先程俺を弾き飛ばしたであろうウマ娘がゴールドシップに抱き着いていた。
「シップっ!シップ!!シップぅぅぅ〜!!!」
ゴルシ「お、おいおいなんだよジャスっ!!生き別れたワンコみてーに抱き着いてきて!!オメーイヌ娘だったのか!!?」
彼女の言うように激しく纏わり着くウマ娘。[ジャス]という呼び名から彼女が[ジャスタウェイ]だと言うことは容易に想像ついた。
引っ付いている彼女を引き離そうとするが、次第に力を強めて行っているのか最終的に鯖折りされているも同然の状態でもがき苦しむゴールドシップ。最後には意識すらも持ってかれてしまった。
フェスタ「何やってんだアイツら.........」
オル「仕方無いよフェスタちゃん。ゴルシちゃんこっちでは半年間くらい音信不通だったから.........」
「あぁぁぁ!!!フェスタちゃんにオルルっち!!!」
ジャスタウェイに連れて行かれるゴールドシップの姿を眺めていると、背後から驚きの声が聞こえて来る。
その方向を振り返ると、赤みがかった色の髪をしたウマ娘がその場で固まっていた。
「.........グス。オルルっち〜〜〜!!!」
オル「!シオンちゃ〜〜〜んっ!!!」
二人「ズッ友ハグ!!!!!」
フェスタ「.........うわぁ」
ふむ.........どうやら彼女が孫達から良く名前が出ていた[ウインバリアシオン]という子らしい。ゴールドシップ含めた孫達の幼馴染。と言う奴だ。
シオン「オルルっち!!心配したっす!![オルフェスタ]も無期限休止って聞いて何が何やら.........」
オル「ウチもシオンちゃんに一言くらい言っておきたかったけど.........ママが.........」
シオン「じゃあ仕方ないっす!!オルルっちのママには世話になったっすから!!!」
フェスタ「良いのかよ.........」
―――ウインバリアシオン。実力や人気で言えばオルフェーヴルやナカヤマフェスタからは一歩引いた存在。世間からもそう認知されている。
だがその実。彼女こそがこのグループのゴールドシップと双璧を成す[中心]である。
何を隠そう。かつて爆走不良健康優良ウマ娘グループ[オルフェスタ]を発足させたのは彼女だ。
祖父である桜木 玲皇の訃報。その後しばらく気分を沈めていた彼女達をまとめあげ、立ち直らせたのが彼女だった。
うじうじしているくらいなら、それを吹き飛ばすくらいに走れば良い。友人を思った彼女の言葉が二人を巻き込み、周りを巻き込み、次第に全国に名を轟かせる程の不良グループになってしまった。
ナカヤマフェスタの勝負勘。オルフェーヴルの才能。ゴールドシップの料理教室。それらのお陰で負け知らずのアウトローレースグループとなり、オルフェスタはどんどん他グループから人材を吸収して行った。
だがそれを不安に思っていた者が居た。ウインバリアシオンだ。彼女は将来の事を考えれば今のこの状態は明らかに不味い。そう考えた彼女は苦肉の策として、ゴールドシップ達の母親であるキンイロリョテイに密会し、相談した。
二つ返事でそれを何とかする事を約束したその晩。酒に酔ったリョテイの襲来によりグループは壊滅。全員見事トレセン学園に叩き込まれる事になったのだった.........
シオン「あれ?オルルっち髪ちょっと傷んでる?」
オル「あ〜。美容室行く暇が無かったんスよね〜」
シオン「そっか!!じゃあ最近出来た評判の所予約して一緒に行こう!!約束っす!!」
オル「!約束されたっス〜♪」
―――久しい友人との会話に胸どころか身体を弾ませるオルフェーヴル。気が付けば俺達の存在など忘れてその背を向けて歩き去っていく。
結局聞きそびれてしまった.........まぁ良い。どうせトレーニングをするんだ。その時に聞けば良いだろう。
桜木「.........お前は良いのか?フェスタ」
フェスタ「はん。お生憎サマ、こっちじゃ仲良い奴はあんま居ねぇんだよ。皮肉な事にな」
桜木「そうか。俺が友達になろうか?」
フェスタ「それも良いな。じゃあこれでどっちがトップシークレットレアを引き当てるか勝負しようぜ?爺さん」
ロボ爺「カイセキノケッカ、ソノボックスニハトップシークレットハフウニュウサレテイマセン」
二人「.........」
フェスタが手に持ったボックスを中心にして三人の存在が居る。ロボ爺の発言によってその視線をフェスタとお互いに交差させた後。心が通じあった様にゆっくりと首を縦に振った。
「やっぱこの場で解体するか」
「賛成だ爺さん」
「ダメエエエエ!!!」
ーーー
「はぁ.........」
そよぐ風。気持ちよく差し込む日差し。手入れの行き届いた花々。落ちぶれてしまったと言えど未だ健在の名家。[メジロ家]の庭園にて、私[メジロマックイーン]は溜息を吐きました。
その様子をじっと見つめながらもテーブルのスイーツに伸ばす手を止めないウマ娘。[トウカイテイオー]は私を不思議そうな顔をして見つめました。
テイオー「どうしたのさマックイーン?幸せが逃げるよ?」
マック「どうしたもこうしたもありません。折角彼が生きて戻ってきたと言うのに、今度はトレーナー業を再開したお陰で夫婦の時間が取れないんです」
マック「今まで表面上ながらも、お互いの心情を分かち合ってきた人ですし。もう少し踏み込んだお話もしたかったですのに.........はぁ」
テイオー「ふ〜ん。あむっ!はいへんはふぇ〜」
口に物を入れてもごもごと行儀悪く喋るテイオー。しかし今は苦言を呈する程の元気はありません。
彼が帰ってきてからも夫婦の時間と呼べる物は少なく、あまり一緒に居られる事はありません。
現在メジロ家を支えていると言ってもいい唯一の企業。[アルファープラス]の経営方針についても今は私が舵を取っている状態。益々時間なんて無くなっていきます。
マック「隠居した方が良いとは思っていますが.........任せていい人材も思いつきませんし」
テイオー「会社の事?だったら[AI]に頼ればいいじゃんっ!今の日本で導入してないのマックイーンの所くらいだよ?」
マック「嫌ですわ。信用出来ませんもの。それに.........」
私が若い頃から技術の進歩は大きく進みました。今や代表取締役。という物を置く会社など珍しい程に、人類は[人工知能]によって栄華を成しています。
あまり詳しくないというのが正直な所。どう動いているのかすら分からないものに会社の命運。そして社員の方々の人生を任せてしまう気になれない。
しかし、話はそう単純ではありません。私が危惧しているのはもっと具体的な経験.........トラウマによるものです。
『なっ!!?て、蹄鉄工場が破産.........!!?』
『先日の天災によって主力工場は崩壊.........立て直す為の資金繰りも、出資を受けられず.........』
『そ、そんな.........!!!』
蘇る苦い記憶。これからはAIの時代だと息巻いたメジロ家は、世界に率先して人工知能に経営を任せた[蹄鉄事業]を新たにスタートしました。
しかし、そのAIが導き出した場所に拠点を置いた数年後。日本を襲った未曾有の危機に巻き込まれ、本工場は崩壊。支部工場はあったものの、体勢を立て直す為の出資を受ける事は出来ませんでした。
理由としてはやはり、当時としては先進的過ぎたのでしょう。[人工知能]を経営の頭に置いた会社など日本には無く、どれほど信用出来るのかは未知数。
そんな追い風も相まって、最初は融資も投資もありませんでした.........
軌道に乗ったとはいえ、世論に対して動く事をしなかった結果です。仕方ないとは思いますが、余りにも痛すぎる経験です。
マック「.........兎も角。私がすべき事は今後あの会社を引っ張る人材を見つける事ですわ」
テイオー「ふ〜ん。頑張ってねマックイーン」
心底興味が無さそうに彼女は言います。こちらの苦労も知らないで.........
.........行けないわ。こういう時こそ心を落ち着かせなければ。私ももう若く無いのですからここは一つ。用意したスイーツを食べて気持ちを.........
―――スカっ
マック「あら.........?あらっ!!?」
溜息を吐いてテーブルの真ん中に置いたアフタヌーンティースタンドに手を伸ばしました。
本来ならばそこにあるはずのケーキやクッキー。どれか一つに手が触れるはずですが、空を切るばかり。
痺れを切らした私は閉じた瞳を開いて目視で確認した所。最早既にそこには何も残ってなど居ませんでした。
テイオー「あっ、ごっめ〜ん♪ボク全部食べちゃったみたい〜♪」
マック「な、ぁ...ガ.........」
テイオー「あ〜!もうこんな時間っ!!ごめんね〜マックイーン!!患者さんの予約入ってるからボク帰るねっ!!またお茶会開いたら教えてよねっ!!♪」
軽快な足さばきで彼女はみるみるうちに遠ざかって行きました。手を伸ばしましたが、彼女はそれに気付く事無く私に背を向けて走って行ってしまいます。
.........そもそも、お茶会を開いたつもりなど一切ありません。時間に暇ができて天気も良いですし、お庭でティータイムの準備をしていた所に彼女が来ただけの話.........
わ、私の癒し.........この足のせいでまともに動けないから.........わざわざスイーツに制限を掛けて居ると言うのに.........!!!
「に、二度と参加させませんからねェェェッッッ!!!!!」
ーーー
ゴルシ「はぁぁぁ〜.........ったく、酷い目にあったぜ」
ジャスタウェイの奴に連れ去られてからずっと放課後になるまで、アタシはアイツにもみくちゃにされっぱなしだった。
やれ寂しかっただのやれ連れて行けだの。まーそりゃお熱いアベックみてーな思いの丈をぶつけられてアタシも若干引いちまったくらいだ。
アイツあー見えて優等生気取ってる癖して授業も結局サボっちまったし.........まーいいや!トレーニングの方は真面目にやりゃー!!
そんな事を思って、アタシはこの時代で所属していたチーム.........厳密に言えばちげーんだけど、[デネボラ]って言うグループに属していた。
その拠点である教室の扉をウキウキで開けたんだ。開けたんだよ.........
「あら。随分と呑気な登場ね?ゴールドシップさん?」
ゴルシ「.........すいません。教室間違えました」
あ、有り得ねー.........!なんでアタシらのチームルームに居るんだコイツ.........!!?割と犬猿の仲だったじゃねーか!!!それにチームには所属しねーって昔から堂々と宣言.........
桜木「俺に弱みを握られたからだろうな」
ゴルシ「爺ちゃん!!?[ジェンティルドンナ]の弱みだって!!?」
大分剣呑なワードが飛び出してきやがった。爺ちゃんは足を組んでレース資料に目を落としながら答える。アタシはそれに驚き、ジェンティルの奴も耳を微かに反応させた。
弱み.........ダメだ。分かんねー。[完璧超人]所か最早[完璧始祖]と言ってもいいくれーに強すぎるコイツ。付けられた異名は[貴婦人].........そんな奴が、弱みを見せるのか.........?
桜木「実は彼女は大の[ウマプロ―――むぐ」
ドンナ「それ以上余計な事を言うと口を縫い合わせるわよ?」
ゴルシ「ひぃ!!怖.........」
とんでもない速さのアイアンクロー。アタシじゃなきゃ見逃してるぜ.........奴の握力はオランウータンを超えて怪物級。頭サイズの鉄球を米粒サイズにまで圧縮できちまう力がある。
だっつーのに、爺ちゃんはそれを物ともしない所か平静だ。滅茶苦茶落ち着いていやがる.........一体どうしちまったって言うんだ.........!!!
流石のジェンティルも何も反応が無いのが心配になったんだろう。恐る恐るその手を爺ちゃんの顔から離すと、ゆっくりと爺ちゃんはその目を開いて口を開いた。
桜木「.........これも[恋]。か」
ドンナ「なっ!!?くっ、私もまだまだね.........」
ゴルシ「爺ちゃん.........性格が[おっちゃん]みたくなってるぜ.........?」
アタシがそう言うと、今までに無いくらいに不機嫌な顔を見せる爺ちゃん。そのままの表情でまた資料に目を落とし始める。
ジェンティルの奴は力に屈しない爺ちゃんに己の非力さを感じて逆立ち腕立てトレーニングを始めやがった。
.........案外、こっちの時代も悪くは無かったんだな.........
ゴルシ「.........つーかよー。フー姉ちゃんはどうしたんだよ?他のトレーナーも」
桜木「お前達が休学中だったからな。それぞれ別の所のチームでサブトレーナーをしている。フラッグは今日非番だ」
ドンナ「私のトレーナーも休暇中よ。今ここに居るのは貴方のおじ様だけ」
マジか.........姉ちゃん達のトレーナーは兎も角、ジャスやシオンのトレーナーも居ねーのか.........悪い事しちまったかなー。
アタシの行動のせいで迷惑がかかっちまったかもしんねー。それで色んな奴らを楽しませられるんだったら良いけど、今回に限っちゃ迷惑だけだ。あんまり良い気はしねー。
けれど爺ちゃんはそんなアタシを見てふっと笑った。レース資料をテーブルの上に置いてソファーから立ち上がってアタシの方へと歩いて来た。
桜木「気にするな。俺が頼んだ事だ。その点お前は俺の期待以上の成果を出してくれた。むしろ誇ってくれ」
ゴルシ「にひひ.........っ!止めろよ爺ちゃんっ!恥ずかしいって.........」
頭をわしゃわしゃと撫でられる。こうされたの、小さい頃以来だ。
それがなんだかむず痒くて、すんげー恥ずかしい。みろよジェンティルの顔。珍しーもん見れたって感じでニヤニヤしてるって。
アタシは頭に乗せられた腕を払った。爺ちゃんは少し寂しそうな顔をしたけど、アタシももうガキじゃねーんだ。そろそろ孫離れしてくれねーと困るって。
ゴルシ「ったく。フー姉ちゃんが居ねーならしゃーねー。一人でちょっと並走相手探してくるぜ」
桜木「待てゴールドシップ」
ゴルシ「なんだよ。もう頭撫でんのは良いって.........?」
呼び止められたアタシは扉に掛けた手を下ろして振り返った。そこにはさっきまでとは違う真剣な顔をした爺ちゃんが立っていた。
ジェンティルも空気の変わりようを察知したのか、腕立てトレーニングを止めて両足で立っている。
爺ちゃんは真っ直ぐとアタシの事を見つめる。まるで心を見通す様な目で、アタシの目の奥を見つめて来ていた。
桜木「お前はなんで走る?別にもう良いだろう?」
ゴルシ「.........どういうこったよ」
桜木「お前は輝かしい戦績を残した。もうトゥインクルシリーズを走るのは良いんじゃないか?」
ゴルシ「.........」
.........確かに、アタシは結構長い期間走って来た。この世界とあっちの世界のとを合わせたら、大分時間を掛けちまってる。
中等部だったアタシももう大学部だ。そろそろ進路を考えなきゃなんねー。そして大抵、トレセン学園のウマ娘の進路なんざ[ドリームトロフィー]に移籍してプロを目指すのが殆どだ。
爺ちゃんは知っている。アタシが過去の世界のURAファイナルズ。その中距離部門で優勝した事を。アタシが伝えたから知っている。
大金星だろう。なんせスペやカフェ。そしてこの世界の全盛期の先に行ったタキオンに勝ったんだ。普通だったらもう将来を考える時期なんだろう。
.........けれど。
ゴルシ「.........悪ぃな爺ちゃん。[やり残し]がまだあんだ」
桜木「やり残し.........?」
ドンナ「大方予想は付くわ。私との決着。そうでしょう?」
察したような笑みを浮かべて肯定を促すジェンティル。そういえばコイツとの決着はまだ付けてなかった。
ジェンティルドンナ。アタシとその同期達と激戦を繰り広げたウマ娘。世間でも再戦の可能性が発表されりゃ一躍ニュースに躍り出ちまう位には一大イベントだ。
考え直してみりゃ確かにそれも[やり残し]だ。コイツとの決着はいつかつけなきゃなんねー.........
でも、それじゃねぇんだ。
ゴルシ「悪ぃな。それもちげぇんだ」
ドンナ「!へぇ。私との決着以上の[やり残し].........一体何かしら?」
ゴルシ「[アタシだけ]の[やり残し]だったらそうだろうな。けどコイツぁ、アタシら[姉妹]の[やり残し]なんだ」
桜木「.........!!?まさか、お前.........!!!」
そこまで言って爺ちゃんが気付く。ジェンティルの方はまだ何の事か気付けていない。
爺ちゃんは口を半開きにさせて額から頬に冷や汗を流す。その様子からして、爺ちゃんの予想の方はアタシの思惑と合致していると感じた。
ゴールドシップの[やり残し]。
ナカヤマフェスタの[賭け残し]。
そして.........オルフェーヴルの[思い残し]。
それを一遍に精算する事の出来る[レース]がある。
どんだけ手を伸ばしても、誰の手も届かなかった[頂き]。まるで[運命]がその手を払い除ける様な形でアタシらの手は弾かれ、常に違う奴らの手に渡って行った物。
この世界に居る[神様]って奴にも操れない[定め]。遥か上の場所から見下すソイツを引きずり降ろしてやりたい.........
それが、アタシの[やりたい事]。それこそが―――
「アタシらは[挑戦]する」
「[凱旋門賞]に.........!!!」
この時代でするべき、最大の[リベンジ]だ―――!!!
......To be continued