山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
桜木「.........?」
目を覚ましたのは朝日が照りこみ、眩しさを反射する白のベッドの上。鳴り響く時計の音はいつも不快に感じるが、何故だか今日は、助かった気がした。
桜木(俺、なんで泣いてんだ?)
頬が風に対して敏感に反応する。触ってみると、部分的に乾燥しているのがわかった。
思い出せる事はただ一つ。夢の中では、雨が降っていたという事だけだった。
桜木「雨が降ってたな.........」
白銀「あ.........?雨なんざ降ってねえだろ.........」
床下から聞こえてくる親友の声。こいつの事だ。きっと俺の事をバカにしてくるに違いない。
桜木「いや.........雨だよ」
白銀「あっそ.........」
そう言うと、やつはこの暑さにもかかわらず、タオルを上からかぶり、そのまま二度寝し始めたのだった。
ーーー
タキオン「〜♪」
時間は大体、二時間目の授業の後半辺りだろうか。最近では手詰まりかけていた研究が協力者によって急展開を起こし、目まぐるしい急速な発展を遂げ始めている。自然と鼻歌を歌ってしまうのも無理は無いだろう。私だって生物だ。そういう気分の日もある。
そんなまだ他の生徒が授業を受けている廊下でふと、聞き覚えのある声がチームルームから聞こえてきたんだ。
タキオン(この声はトレーナー君か。誰と話してるんだ?)
桜木「うん。うん、ハイハイ。だから元気だって。心配しなくたっていいよ」
相手は一体誰なのだろう?彼がこんなにも優しい声で対応しているという事は、親密な関係者に違いない。
そう思い、扉にピタリと耳を当て、彼の声が聞こえやすいよう、微調整を繰り返した。
桜木「いつも助かるよ。うん、ありがとう」
タキオン(ここだけ聞いていれば、普通の会話だねぇ.........何か彼の弱みとかを握ることが出来れば、多少は扱いやすくなるとは思うんだが.........)
ここ最近の彼の行動は割と大人しめだが、またいつ、以前のように私の調合薬を躊躇なく飲むような凶行に走るか分からない。
そう思って耳を立て続けていると、彼は驚愕な一言を放った。
「またね、『あおちゃん』」
タキオン「え」
タキオン(ー!?)
あまりに衝撃が強すぎて、ついつい文字の頭が顔を出してしまったが、両手で口を抑えて何とか危機を脱した。
あまりの急展開に思考が停止してしまっていたが、彼の足音が近付いてくる。
タキオン(まずい、直ぐにここから離れなくては!)
いや、別にやましいことなどは無いんだが、人の通話を盗み聞きしたという事実を知られるのはやはり、どこかバツが悪い。
私は目の前の階段を、あたかも今チームルームの前を通りましたと言うように登っていく。
桜木「お?おーいタキオン。まーたサボリンピックかー?」
タキオン「あ、ああ。トレーナー君。元気そうだねぇ」
桜木「どうしたんだお前?」
まずい、私ともあろう者が、変にテンパってしまっている。何か切り抜けるいいアイデアは.........
タキオン「実は、新薬の実験を行ってね。し、思考能力低下の副作用があまりにも大きいんだ。失礼させてもらうよ」
桜木「そうか、あんまし無理すんなよ。お前も大切なチームメイトなんだからな」
なんで君はこのタイミングでそんな笑顔を見せるんだ。本当に間の悪い男だな。
しかし、どうやら上手く言い訳が通ったみたいだ。そのまま彼は私を気にしながらも廊下を通っていく。
タキオン「さて、これは徹底的に調べた方が良さそうだねぇ.........」
ーーー
桜木「.........ぁ......?」
タキオン「おはようモルモット君。目が覚めたかい?」
混濁した意識と目に差し込んでくる光による視界のぼやけによって、世界は俺の認識をずらさせる。
ここはどこだ?チームルームだ。
今は何時だ?おそらく昼休みだ。マックイーン達も居る。
俺はどうなっている?上半身を縛られ、動きの自由は許されない。
桜木「タキオン.........お前と関わると俺は意識を失うらしい」
タキオン「あぁそういえば、今回は薬で眠らせたが、最初の出会いも、半ば気絶に近い状態だったねぇ」
ククク、と笑いながら目の前のこの少女は、その濁った目で俺を見ながら目の前にある椅子に座った。
一体どうなってるんだ?ウララはワクワクした様子で見ているが、他の二人は心配そうに俺を見ている。
桜木「どうなってるんだ?君達、何か知ってる?」
マック「いえ、私達が部屋に入った頃にはもう既に縛り上げられてましたわ」
ライス「う、うん.........ライス達がタキオンさんに聞いても、面白い事が起こるってしか.........」
ウララ「早く!!早く!!ウララ面白い事したーーーい!!!」
タキオン「さて、ギャラリーも催促している事だし、早速聞こうじゃないか。モルモット君?」
タキオン「君が二時間目の授業の途中。電話していた相手は誰だい?」
唐突すぎる。というか、あれを見られていたのか。結構恥ずかしいな.........
仕方ない。ここは大人しくゲロるとするか.........
桜木「.........母ちゃんだよ。母ちゃん。言わせんなよ恥ずかしい」
タキオン「確かに、君の話し方は家族に対するそれと同じものだった.........が、君は確かに、『あおちゃん』と呼んでいただろう?」
そこまで聞かれていたのか、うーん。結構恥ずかしいな.........ママと言うのは飽きたし、母さんと呼ぶのも照れくさいしな.........
そんな、いつも通り的はずれな思考をしていると、タキオンから特大爆弾が投下された。
タキオン「ズバリ、恋人だろ?」
マック「え!!??」
桜木「?」
なんでマックイーンがびっくりしてるんだ?おかげでタキオンの勘違いにびっくり出来なかった。
立ち上がったマックイーンは、皆の視線を集中させたことに気が付き、顔を赤らめながら着席した。
桜木「はぁ.........本当に母親だよ。信じてもらうしかないけれど」
タキオン「いや、証明してみせる。証人も呼んで居るんだ」
桜木「証人?」
誰のことだ?全く分からない。アイツらが来てくれるなら誤解は解けるかもしれないが、天才アグネスタキオンがそんなヘマをするはずがない。自分にとって優位な証言をする奴を連れてくるはずだ。なんだこれ?いつから逆転裁判になったんだ?
そう思っていると、タキオンはその手を肩の位置まで上げ、二回、大きい拍手を鳴らした。すると、待っていましたと言わんばかりに扉が大きく開かれる。
ゴルシ「お邪魔するぜー!!」
タキオン「やぁゴールドシップ君。例のアレは?」
ゴルシ「おら、コイツらだろ?」
登場したのはゴールドシップ。両肩に人を担いで登場した。見たところ、片方はウマ娘。そしてもう片方は人間だ。
桜木「おい.........その人、桐生院さんじゃね?」
桐生院「んー!んーん!」
ご丁寧にガムテープで口を塞がれている。もう言い逃れ出来ないぞ、アグネスタキオン。
タキオン「君と同年代の女性で、葵と名のつく人物はその桐生院君しか居なくてね。でも安心してくれたまえ。君達が付き合っているという事をしっかりと証明してみせるさ」
桜木「.........アグネスタキオン。流石の君でも、何の論理武装していない俺達に議論させようとするほど鬼では無いだろう?」
絶えず分泌される唾が、乾いた口内を潤し始める。アグネスタキオンは理論派だ。酷く自分勝手に見えるかもしれないが、その実、結構なフェアプレイを求めてくる。
隣の桐生院さんをみると、こちらも何が何だか分からないと言ったように、目に涙を溜めていた。誰だってそうなる。俺だってそうなる。
タキオン「分かったよ。君の言い分も一理ある。じゃあ君達、一旦廊下に出よう。トレーナー君。準備が出来たら呼んでくれ」
桜木「ああ」
終始ニヤニヤとした表情で、ウララ達を連れて行くアグネスタキオン。さっきあった時とは雰囲気がまるで違う。
そんな中で、振り返るマックイーンの顔が目に入ってくる。目にはやはり、桐生院さんと同じく、目に涙を溜めていた。
マック「トレーナーさん.........」
桜木「大丈夫。俺は潔白だ」
ゴルシ「よし、アタシが解いてやるよ」
動きを封じていた縄をゴールドシップに解かれる。まあ多分、なにか取引をしてアグネスタキオンの言う事を聞いていたのだろう。ゴールドシップは約束を守るウマ娘だ。
桐生院さんの縄も一緒に解いてから、二人は教室を出ていった。
桐生院「あの、これは一体.........」
桜木「ああ、作戦会議も兼ねて、一から説明しようか.........」
できるかな.........俺もなにがなんだかわからないんだけど.........
そうは言ってても、やるしかない。こうなったら、とことん徹底抗戦するしかないのだ。
桐生院「あの、業務が残ってるので、出来れば早めに解放されたいんですけど.........」
ーーー
4月〇日 午前12時20分
トレセン学園1階チームルーム
ガヤガヤガヤガヤ
コンッ!
BGM:逆転裁判・開廷
ゴルシ「これより、桐生院 葵の法廷を開廷します」
タキオン「検察側、準備完了しているよ」
桜木「弁護側。準備完了しております」
残っている業務のため、被告人不在の中で裁判が始まろうとしている。
いやいや、どういう世界観なんだ。先程までキリッと準備完了と言っていたが、どっと汗が流れ出す。
いくらアグネスタキオンの独断場にしたくないからって、ゴールドシップに裁判長を任せるのはいささか無理があったか?
いや、一番任せやすかったのはゴールドシップだ。間違いない。なんせモンスタースタンプ三日分で了承してくれたからな。安い審判だぜ。
ゴルシ「検察側。冒頭弁論をお願いします」
タキオン「被告人、桐生院 葵は、事件当時、人気の無い踊り場にいた」
タキオン「検察側は、彼と通話したという証拠と、通話を目撃したという証人を用意している」
タキオン「被告人並びに、桜木玲皇の有罪に1点の疑う余地もないだろう」
なかなか様になってるぞ、アグネスタキオン。俺がこの公開処刑じみた何かの対象でなければ、お前のそのかっこよさに惚れていた所だが、俺は無実だ。
桜木(どうしよう.........)ダラダラ
マック「こちらを見ないでくださいまし.........」
隣で一緒に弁護人席に居てくれているマックイーンに視線を向ける。確かに、話も分からない彼女に助けを求めても仕方ない。
でもしょうがないじゃないか。彼女が隣に居てくれるのが一番落ち着くんだから。
タキオン「夫婦仲が良いのは喜ばしい所だが、恋人がいると言うのにそれをやるというのは度胸があるね」ヤレヤレ
桜木「こいつ.........」ダラダラ
タキオン「茶番に付き合ってる暇はない。証人、ハッピーミークに入廷させていただこう!」
検察側がそう言うと、ウララ達の居る傍聴席から、一人の白毛のウマ娘が入ってくる。
真ん中の机の前にその子が立つと、いよいよ裁判が始まる。
タキオン「証人の名前を伺いたい」
ミーク「.........ハッピーミークです.........」
物静かなウマ娘だ。名前も聞いた事がある。たしか、桐生院さんが担当していたウマ娘だった筈だ。
タキオン「証人は事件当時、被告人に会おうと探していたようだね?」
ミーク「はい.........トイレをした後に.........階段に登る姿が見えたので.........はい」
ゴルシ「ではハッピーミーク。«証言»をして頂きましょう」
ついに始まってしまうのか、この逆転裁判じみた狂気の茶番が.........
だが、真面目にやらなければいけない。誤解を解かなければ、桐生院さんはもちろん。色々な人に迷惑をかけてしまう。
桜木(少しの隙も見せず、自分の無実を立証する.........やるしかない)フムフム
桜木(やれやれ、ここに来てから本当に騒がしい毎日だな)ダラダラ
マック「トレーナーさん!頑張りましょう!」
証言開始
〜事件発生時、目撃したこと〜
BGM:尋問 〜モデラート
ミーク「あれは二時間目の授業が始まって、少し経った頃でした」
ミーク「お腹が痛くて、トイレに行こうとしたんです」
ミーク「しばらくトイレに居て、出てみると、トレーナーが居たんです」
ミーク「少し話そうと思って、後をつけてみたんです」
ミーク「トレーナーは階段を上がると、踊り場でお電話していました」
ミーク「とても、楽しそうな雰囲気で、話しかけずに教室に戻りました」
ミーク「多分、恋人だと思います.........はい」
.........
ゴルシ「結論が出たな」
タキオン「だろう?」
コンッ!
有 罪 !
桜木「ちょ!待ってください!!尋問も何もしてないじゃないですか!!」ダンッ!
タキオン「ええいうるさい!!大体尋問などとのたまっているが、証拠も手元に無いのに、証言を崩せる訳がないじゃないか!!」ダンッ!
桜木「そんなの今すぐ証明してみせますよ」フフン
こっちにはそれを打破する切り札がある。そう、俺の携帯電話だ。電話さえかけられればこちらのもの。そう思い、連絡先を検索し、母親へと電話をかける
トゥルルルルル
トゥルルルルル
トゥルルルルル
トゥルルルルル
桜木「.........」
タキオン「.........」
ゴルシ「.........」
マック「.........」
桜木「.........」ダラダラ
有 罪 !
桜木「待って!!せめて尋問!!尋問だけでも!!」
ゴルシ「と、申されていますが?タキオン検事」
タキオン「仕方あるまい」ヤレヤレ
尋問開始
〜事件発生時、目撃したこと〜
BGM:尋問 〜モデラート
ミーク「あれは二時間目の授業が始まって、少し経った頃でした」
「待った!!」
桜木「少し、とは具体的にどれくらいですか?」
ミーク「えっと......時計は見てないですけど......先生は遅れてきて、点呼が終わった辺りの時間帯.........です」
桜木(先生が遅れてきた.........時計を見てないとしても、そう思える程には遅れたのか?)
とは言っても、ここに関して追求しても意味は無さそうだ。時間が惜しい。ここは突き詰めなくても良いだろう。
タキオン「少し経ったあと、どうしたんだい?」
.........
ミーク「お腹が痛くて、トイレに行こうとしたんです」
「待った!!」
桜木「トイレに行った時間は分かりますか?」
ミーク「えっと.........」
「異議あり!!」
タキオン「おいおい、いくら健康管理をするのもトレーナーの役目だと言っても、今のはいささかセクハラじみてるんじゃないか?」ヤレヤレ
タキオン「君の恋人がいるかどうかよりも、その発言への裁判がしたいのなら質問を続けるといい」ユビサシ
桜木(うぐ.........周りの視線が冷ややかになった気がする.........)ダラダラ
ゴルシ「それで、トイレに行ってどうしたんだ?」
.........
ミーク「しばらくトイレに居て、出てみると、トレーナーが居たんです」
「待った!!」
桜木「それは本当に桐生院さんでしたか?」
ミーク「えっと、はい.........私と同じくらいの背丈のトレーナーさんは、あの人しかいません.........」
桜木(確かに、職員室でも桐生院さんくるいの身長の人は同期ではそうそう居ないな.........)
タキオン「トレーナーを見つけて、どうしたんだい?」
.........
ミーク「少し話そうと思って、後をつけてみたんです」
「待った!!」
桜木「授業中なのにその背中を追ったんですか!?」ダンッ!
「異議あり!!」
タキオン「それは証人の思考行動の自由だ!」ダンッ!
タキオン「それを制限する程の権限を与えられる者は何者も居ないのだよ。モルモット君?」ユビサシ
桜木(うぐ.........タキオンの言う通りだ)ダラダラ
ゴルシ「証人、トレーナーを追ったあとは何したんだ?」
.........
ミーク「トレーナーは階段を上がると、踊り場でお電話していました」
「待った!!」
桜木「踊り場で電話をしていたのですか?」
ミーク「はい.........確かそうだったと思います.........」
桜木「わざわざ恋人との電話を、そんな人に聞かれそうな場所でやるでしょうか?」
「異議あり!!」
タキオン「事件当時、ハッピーミークは移動教室で1階の視聴覚室で授業を受けている」
タキオン「そして、現場となった三階の踊り場だが、そのフロアの生徒達は皆、合同で体育の授業があった」
タキオン「故に、人に聞かれる可能性はほとんど無いのだよ。理解したかな?トレーナー君」
桜木(ナルホド、確かにそれなら納得だ)フムフム
タキオン「さて証人。被告人はどのような様子だったかな?」
.........
ミーク「とても、楽しそうな雰囲気で、話しかけずに教室に戻りました」
「待った!!」
桜木「それは本当に楽しかったと言えますか!!」ダンッ!
「異議あり!!」
タキオン「待ちたまえモルモット君!!それは流石に言いがかりじゃないか!?」
タキオン「彼女が主観で見て楽しそうだと思った。それが全てだろう?」ヤレヤレ
桜木(た、確かに.........焦りすぎてしまったみたいだ)ダラダラ
ゴルシ「なぁ、結局誰だったんだよー?」
.........
ミーク「多分、恋人だと思います.........はい」
「待った!!」
桜木「恋人.........そう言えるような証拠があるのですか?」
ミーク「はい、トレーナーさん。何だかとても嬉しそうだったので.........」
タキオン「ふふ、どうやら自分の無実を立証するどころか、かえって不利になってしまったかな?」
.........
マック「大丈夫ですか?トレーナーさん」
桜木「ああ、こっちの手持ちで、何とか崩せそうだよ」
マック「本当ですか!?」
桜木(君はなんでそんなに嬉しそうなんだい?)
.........
「異議あり!!」
タキオン「!」
桜木「.........いいですか」
桜木「これは、四月に発売された、期待の新人トレーナー特集の組まれた雑誌です」
先程、作戦会議の最中で使えそうだと思い、本棚から取り出した雑誌を見せ付ける。
もしかしたら俺の事も載ってるかもしれないと思ったが、誰も取材に来ていないのに、載ってるわけが無い。そんな恥ずかしさしか俺に与えてくれなかったコイツが、今は救いの手を差し伸べてくれている。そう思うと嬉しかった。
タキオン「それが、なんだと言うんだい?」
桜木「ハッキリ言いましょう。ここに!桐生院さんは!!恋人など居ないと書いているからです!!!」
BGM:成歩堂龍一 〜異議あり!
タキオン「な、なんだってぇぇぇ!!!?????」グヌヌ!
桜木「念の為に読み上げましょうか。『私はウマ娘に対して常に、一途でありたい。ですので、現状恋人を作るという考えはありません』。これで分かったでしょう?」
ゴルシ「これは決定的ですな」
桜木「以上を踏まえた上で、もう一度この件の結論を出していただきたい!!」
「異議あり!!」
タキオン「確かに桐生院 葵に関しては、証拠不十分かもしれない」
タキオン「けどね、私は君の通話内容をしっかりと、この耳で聞いたのだよ。トレーナー君」ユビサシ
タキオン「『あおちゃん』と優しくささやく君の声がねぇッッ!!!」ピキーン!
BGM:追求 〜追いつめられて
桜木「し、しまったーーー!!!????」ガァーン!
ここに来て一番難しい問題に直面する。ここに来て、母を母だと言うことを恥ずかしがってきた自分が痛い目を見ている。
『あおちゃん』。母親の名前から付けた安直なあだ名に、今は相当参っていた。何をどうしても、このことについては言い逃れはできまい。
桜木(終わり.........なのか.........)
「異議あり!!」
タキオン「!?」
ゴルシ「!?」
桜木「.........!?」
マック「ですわ!」
桜木「マックイーン!?」
楽しそうだったのでつい、といいながら、照れるような仕草をみせるマックイーン。そんな可愛らしい姿もすぐに身を潜め、真剣な表情を見せ始めた。
マック「トレーナーさん。私、思ったのです」
マック「『桐生院さんとトレーナーさんが恋人ではない事』を«立証»するのよりも」
マック「『トレーナーさんと桐生院さんが恋人で生じる矛盾』を«提議»すれば良いのでは無いでしょうか?」
桜木「!!」
そうだ。マックイーンの言う通りだ。なにか意固地になって、頑なに恋人では無い事を証明しようとしていたが、それでは限界がある。
『発想を逆転させる』。一体どこまで逆転裁判をやらされてるんだと思うが、ここまで来れば楽しくなってくるものだ。
«提議»することで«立証»する。できるかできないかでは無い。それが、俺が学んできた裁判のルールだ。
桜木「.........良いですよ。受けて立ちましょう。ミツル.........あいや、タキオン検事」
桜木「きっちり俺の潔白を証明する為にもねっっ!!!」ユビサシ!
タキオン「ふぅン?随分と強気だねぇモルモット君。だが、あいにくだけど、私は薬の副作用で思考能力が低下しているんだ。簡潔に頼むよ?『簡潔』に.........ね?」
桜木「もちろん、『簡潔』に済みますよ」フフン
タキオン「な!?」
会話の内容を盗み聞きしている。その事実には一旦目を瞑り、アグネスタキオンの話を聞いてみると、十分。『逆転』に必要な部分は聞かれている。
後は、これを突きつけるだけだ。
「くらえ!!」
タキオン「それは.........トレーナーバッジかい?」
そう、俺達トレーナーに与えられているトレーナーバッジ。しかし、それだけの意味ではない。このトレーナーバッジは、学園所属の、『新人トレーナー』に与えられているバッジだ。
このバッジが有する権限は、『新人トレーナー職員室での作業及び、業務の認可』だ。このバッジを持つものは、職員室の机を所有する事が出来る。
桜木「トレーナーはそれぞれ職員室で業務を行います。ほぼチームルームに直行して作業していても、必ず、朝は朝礼の為に、職員室に顔を出します」
タキオン「それが、一体なんだと言うんだい?」
桜木「.........会ってるんですよ。毎日のように」テレーン...
桜木「毎日顔を合わせてるんだから、元気かどうかなんて聞かないでしょッッ!!!」ドンッ!
タキオン「な.........」
タキオン「なんだとぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!??????」ドシン!ドシン!ドシン!グヌヌ!
ーーー
ゴルシ「.........結果が出たな」
コンッ!
死 刑 !
全員「え!? 」
唐突な死刑宣告。流石にめちゃくちゃやる逆転裁判もこんな事は起こらない。一体どうしたんだゴールドシップよ。
ゴルシ「だってよー。アタシ話聞いてるだけだったし、人の恋路とか興味ねえもん」
美人の側を台無しにするように欠伸をしながらコンコンと木槌を叩く。どうやら裁判に対しての興味を失ったらしい。
だが、無実の証明をするまで頑張って興味を持ってくれたのだ。そこは感謝しなければならない。
ゴルシ「んなもんよりさ!海底行こうぜ海底っ!!海底人とサッカーして握手しながら戦争したらぜってぇ面白いぜ!!!?よーしっ!今からレッツ海底探検!!」
桜木「あっ、サンキューなゴールドシップ!!」
ゴルシ「いいってことよー!!」
大慌てでチームルームを飛び出していくゴールドシップ。あの様子ではまた白銀が連れていかれるのだろう。この前は無人島で宝探しをしたと言っていたし、今度は海底で神殿を見つけてくるかもしれん。
嵐が去ったなと思っていると、先程まで悔しそうにしていたアグネスタキオンが顔を上げた。
タキオン「.........待ちたまえモルモット君。君に恋人が居ない証明はまだされていないぞ?」
桜木「だから、母ちゃんだって」
これ以上証明出来る証拠が無い。無いものは無いとしか言い様がないように、存在しない物を存在しないと証明する事は人類の長年の難問だ。
どうしたら良いだろうか、そう唸っていると、ポケットに入っているスマホが振動し始めた。
桜木「.........もしもし『あおちゃん』?」
マック「え!?」
だからなんで君が驚くのよ.........そう思いながらスマートフォンのスピーカーをONにして机へと置いた。
「どうしたのれおちゃん?電話かかって来てたけど」
桜木「説明するのも面倒だから、そっちで勝手に想像してくれ」
「うわwwwベジータさんみたいwww」
ゲラゲラとした笑いがチームルームに響き渡る。話が脱線する前に、早く終わらせたいところだ。
マック「あの、トレーナーさんのお母様ですか?」
「え?トレーナー?ちょっとどういうこと?あたし聞いてないけど?」
桜木「あっべ」
そう言えば、母には言ってなかったな。トレーナーになった事。
先程まで楽しそうな声色だったが、急に怒気をはらみ始めた。正直すごく怖い。
「アンタまさか、女の子に変な事させてんじゃないでしょうねぇ!!トレーナーってなにさ!!今何してんの!?」
桜木「えっと、ウマ娘のトレーナーです.........今年転職しました.........はい」
「スピーカー切りなさい」
桜木「はい.........」
「なんでそんな大切なこと言わないのー!!?」
キンキンとした声が耳に響く。キンキンとした声がダイレクトに響いてくる。ありがとう母さん。確かにこの声はマックイーン達には聞かせられない。
桜木「いや、申し訳ないっス」
「アンタもいい大人なんだから、ちゃんと報告くらいしなさい!」
久々に怒られた。こうしたお叱りは何度も受けたことがあるが、この子達の前だと恥ずかしさが尋常じゃない。今すぐ穴に入りたい。
「スピーカー付けなさい」
桜木「はい.........」
「どうもー、母のあおいです。息子の玲皇がお世話になっております」
マック「い、いえ!お世話になって居るのはこちらの方です。トレーナーさんには感謝してもしきれません」
母「あら!あの子真面目に働いてるのねー」
マックイーンとうちの母が話し始めている。傍聴席に居るライスに手招きすると、寝ているウララを起こしてこちらへやってきた。
他愛もない話の中、ふと出口に目をやると、そろりそろりと足音なく出ていこうとするアグネスタキオンが目に映った。
桜木「おい.........どこに行くんだ?」
タキオン「ひゃあ!?」
桜木「まさか.........何もお咎めが無いとお思いで?」
皆が楽しんでいる中、それを邪魔しないよう最小音量でタキオンを問いただす。
耳はシュンとしており、顔もいつものすまし顔とは違い、少し申し訳なさそうだった。
タキオン「い、いや。君も楽しんでいただろう?」
桜木「けど桐生院さんに迷惑をかけたし、マックイーンを困らせた。罪には罰だ」
ーーー
桜木「よし、もう1セット頑張っていくぞー」
放課後のトレーニングタイム。あんな茶番が起きても、トレーニングになると皆真剣な表情をし始める。
しかし、今日はしょんぼりとした顔をしたウマ娘が一人いる。
タキオン「モルモット君ー.........もう外しても良いだろ〜?」
桜木「ダメだ。それで許してやってるんだから、今日は一日それでトレーニングするんだ」
首から下げられたホワイトボード。そこには『私は自分の勝手な行動で、チームのみんなに迷惑をかけました。反省していません』と書かれている。
猫みたいで可愛いだろ?実際しゅんとしながら走るタキオンは国宝級のお宝だと思っている。
そんな顔を見せながら、アグネスタキオンは仕方なくもう一度コースを走り始めた。
ゴルシ「よっ」
桜木「あれ?海底に行ったんじゃないのか?」
ゴルシ「あ?何言ってんだ?ウマ娘がそんな所に行けるわけねえだろ?」
背中を預けていた木の陰からひょっこりと登場を果たしたゴールドシップ。ああ、そのノリはもう終わったのね。
そう思っていると、ゴールドシップはよっこらせと隣に座ってくる。
ゴルシ「今日はどうしたんだ?」
桜木「え?」
ゴルシ「いや、なんか無理してる感じがしたから」
無理、してたのだろうか?思い当たる節は無いが、多分ゴールドシップの目にはそう写っていたんだろう。
原因を考えてみればすぐに分かる。今朝の夢だ。
桜木「あー、なんつーか覚えてないんだけど、悲しい夢を見たんだよ」
ゴルシ「その夢って?」
桜木「さぁ.........雨が降ってたことくらいしか覚えてないな.........」
ゴルシ「.........」
あれは結局、なんだったんだろう。たまたま何かに心を動かされて、泣いてしまったのかもしれない。
けれど、申し訳ないがそんな一時の感情を無意識に引きずってしまうほど、俺の記憶力は良くはない。
そんな考えにふけっていると、ゴールドシップはおもむろに立ち上がり、俺に背を向けた。
ゴルシ「今考えても仕方ねえんじゃねえか?」
桜木「.........?」
ゴルシ「それよりよ!!今度火星人と木星でアルマゲドンごっこすんだよ!!乗っていく船決めなくちゃな!!タイタニックとかよー!!」
振り向きながらそう言うゴールドシップの顔は、いつも通りキラキラしていた。つまらない話をしてしまったなと思いつつも、今はその反応に救われた。
桜木「.........アポロ11号とかどうだ?」
ゴルシ「お!いいなそれ!!『地球はパスタよりラーメン派だった』が座右の銘なアタシにぴったしだぜ!!」
嬉しそうな顔を振りまきながら、タキオンが走って行ったコースを追走する。いつも通りの騒がしい日常。いつの間にか平和と見間違う程にいつも通りになってしまった。
ゴルシ『今考えても仕方ねえんじゃねえか?』
桜木「.........いつか分かる時が来るとは思わねえけどなー.........」
ゴールドシップのなにか引っかかる物言いに、思考を巡らせたものの、大した収穫は期待出来ない。ジャージのポケットからストップウォッチを取り出し、背後の木から背中を上げ、身体を伸ばした。
ウララ「トレーナー!!走るよー!!」
桜木「おう、しっかりと計ってやるから、思っきし走ってこい!」
今はそんなことより、コイツらの方が大切だ。俺がしっかりとしないと。
そう思いながら、気持ちのいい風が駆け抜けるターフへと足を運び、今日もトレーナーとしての一日を始めるのだった。
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ......To be continued