山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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黄金達の覚悟

 

 

 

 

 

 ―――窓から眺める景色。チームルームのそれとは違う目の下に雲が広がる世界。何度見ても年甲斐も無く心をざわつかせる。

 クラスはファースト。座席の座り心地も最高だ。特にこのクッションの触り心地は.........とても言葉じゃ言い表せない。

 

 

 ここにはアタシだけじゃない。他のチームメンバーも揃って居る。ほとんど個室みたいな物だがはしゃぐ声も聞く事が出来る。

 

 

 .........殆どがトレーナー達の物だが。

 

 

「パリまで14時間かぁ.........長いなぁ」

 

 

「すごっ!オレンジジュースうま!!?」

 

 

「し、シャンパンかオレンジジュース.........コイントス.........いや、はしたないからやめよう.........」

 

 

「ごめんなジェンティル.........ドバイの時こそファーストクラスで過ごさせたかったのに.........」

 

 

 このレベルのもてなしは初めての奴が沢山居るだろう。爺さんと旅行で飛行機に乗る時は決まってファーストクラスの座席だっただけで、アタシも慣れてなければ同じ反応をしていたはずだ。

 

 

 シオンのトレーナーは空の旅の長さに座席をリクライニングさせ、オルフェーヴルのトレーナーはオレンジジュースに舌鼓を打つ。

 アタシのトレーナーは優柔不断が発揮して飲み物すら頼めて居ない。そして何故かジェンティルのトレーナーは一人悔しそうな表情をしている.........

 

 

 他の連中はと言えば、団体の代表兼ゴールドシップのトレーナーであるポイントフラッグ。並びにジャスタウェイのトレーナーは静かにレース資料に目を落としている。

 

 

フェスタ(.........爺さん達も今頃、作戦練ってるんだろうな)

 

 

 空の上の快適な旅。ストレスも何も無いこの状況で何を憂いているのかは知らないが、アタシの心はその安心安全さに心をざわつかせた。

 欲している。刺激を。心は焦燥したがっている。

 

 

 そんな状態で待てをされれば誰だって不安定になる。

 

 

 知らない間に病気になっていた。名前はきっと、まだ無いのだろう。[勝負]を欲し、それをしている時だけが自分を満たした気持ちにさせてくれる心の病。いつからなったのかも分かりはしない。

 いくら[変わった]と周りが言っても、自分が気付いたとしても、それだけは変わらない。[勝負事]はいつだってアタシの心を満たしてくれていた。これは.........所謂条件反射って奴だ。

 

 

 口に咥えていたキャンディが溶けて無くなる。次第にざわつきが足にまで伝わって踵を浮かせて下ろすという行為を繰り返し始める。所謂貧乏ゆすりだ。

 .........全く。少し前まで走らねぇって選択をしていた筈なのに、いざ戻ってくりゃこの始末だ。有言不実行。不良娘は不良娘のまま.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フェスタ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェスタ(.........寝るか)

 

 

 その心は結局。直近の不甲斐ない記憶まで触れ始める。自分の事すらままならない。人間というのは小さい動物園みてぇな物だ。

 だが、あの顔を思い出しちまったのなら話は別。身体は直ぐに落ち着いて心も平静さを取り戻す。残念ながらアタシの飼育員はアタシじゃ無いらしい。

 

 

 座席のリクライニングを倒し切って目を瞑る。空の旅は14時間。寝ても別に勿体ない事は無い。

 アタシは空の旅を夢の旅にするだけ。誰にでも無くそう理由をつけて、その瞳を閉じて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山あり谷ありウマ娘 外伝

 

 

 黄金達の行方

 

 

 第三話 覚悟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 充実した部屋の中。愛しの妻とテーブルを境に向かい合って座る。真ん中には最近訓練を続けている古い遊びの盤面が置かれていた。

 何らおかしな事は無い。過ごしやすい気温。取り揃えられたドリンク類。腹を満たす為の少し豪華な食事。

 

 

 違和感があるとすれば.........天井が低い事と窓の外は青一色と言った所だろう。

 

 

「.........王手ですわ」

 

 

 外の景色が変わったか視線を動かした瞬間。妻の可愛らしい声での宣言が耳に入って来た。

 慌てて盤面を見ると、確かに彼女の角が俺の王を詰ませている.........

 

 

桜木「むっ、ちょっと待った」

 

 

マック「待ちません。仏の顔も三度まで」

 

 

桜木「君は仏なのかい?」

 

 

マック「まさか。優しいから三回まで許していたんです。四回目は失格扱いですわよ?」

 

 

「ん〜?おや.........これは災難な盤面だねぇトレーナーくん。君の詰みはこの部分で確定していたようだよ」

 

 

桜木「なに?.........え、マジ?」

 

 

 ワイングラスを回しながら横から登場するアグネスタキオン。彼女の指を指した駒を見つめると、確かにそこに動かした展開を起点にこの盤面が作り上げられている.........

 なんという事だ。ルドルフと対戦している時ですら良い勝負の出来る展開に持ち込めたと思い込んでいたが、それすらも手のひらの上だったとは.........

 

 

桜木「.........君は将棋も出来たんだな」

 

 

マック「まぁ、チェスを嗜んでいましたからこれくらいは。身体は動かせませんもの。責めて頭は現役にしときませんと」

 

 

桜木「タキオン。次は君がやってくれ。データを取りたい」

 

 

タキオン「嘘をつくのは行けないよ?直ぐに捨てるじゃないかそんなデータ」

 

 

桜木「むぐぅ.........」

 

 

 痛い所を突かれた。幾つになってもこう言った勝負事は最後には感覚を頼ってしまう節がある。悪癖だとは分かっているが、如何せんそれで捲ってきた手前、その勝ち方が癖になってしまっているのかもしれん。

 

 

 肺に溜まった息を吐く。歳を取ると呼吸すらも辛くなる。遠くで寝息をたてている若者二人を見ると羨ましさすら感じる。俺はまだ眠くなってくれない。

 

 

タキオン「.........これから世紀の一戦が始まるかもしれないと言うのに、大した度胸じゃないか」

 

 

桜木「無理も無い。息子は兎も角、嫁はパートに出ている専業主婦だ。普段の疲れも溜まっているのだろう」

 

 

マック「資金なら私が出すと言っていますのに、頑なに受け取ろうとしないんですから。見た目の可愛らしさとは裏腹に頑固な人ですわ」

 

 

 座席を倒す事無くブランケットを身体に被せて寝ている息子夫婦。二人ともあどけない顔をしている。

 特に嫁の方は寝ている姿は本当に可愛らしいのだが、口を開けば聞くに絶えない程粗雑な言葉遣い。身振り手振りもまた乱暴な物。

 しかし地頭が良く、[仮面]を被る事に対して抵抗も無い。俺と同じく厄介な人種だろう。

 

 

 .........だが。

 

 

桜木(クク、[恋]。と言うのは中々厄介な物だろう?キンイロリョテイ)

 

 

リョテイ「ん.........んん〜」

 

 

マック「あら.........あらあらあら.........♪」

 

 

 寝返りを打った事で覆いかぶさっていたブランケットがずれ落ちる。その下では二人の手が繋がれているのが確認出来た。

 まぁ、こう見えて惚れたのはリョテイ側だ。絶対に悟らせまいとしているが、俺には分かる。[仮面]を誰よりも長い間被って来たんだ。それくらいは造作もない。

 

 

 仲睦まじい若者夫婦の姿を見て、俺達年寄りは顔を見合せて微笑む。そんな表情を彼女にでも見られた日には相当暴れ散らかすに違いない。

 ここは早々に俺達も離れるとしよう。そう目配せで二人に合図を送ると、それを察してもう一度先程の席へと戻って行く。

 

 

桜木(さて。第2ラウンドが始まる訳だが.........)

 

 

桜木(.........どうにも[勝負事]になると、昔から血の気が沸き立ってしまうな)

 

 

 対面に座る妻。想定以上の手練だと認識した今、俺の心は熱で燻っている。どうにもこの悪癖は死ぬまで所か、死んだとしても治ってはくれないらしい。

 そんな悪癖に苦笑しながらも、こんな自分に最後まで残っている物がそれだけだと思い知る。ならば責めて、死ぬまで付き合ってやるのがこれまで離れずに居てくれたこの悪癖に対する責めてもの礼儀だろう。

 

 

 そう思いながら、俺は今一度将棋の歩を手に持った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェスタ。久しぶりね」

 

 

 八月の終わり。思っていた以上に早い秋の到来を感じさせる肌寒さが肌を冷たくさせる。秋晴れと言ってもいい程の快晴の空の下。公園で子供達のはしゃぐ声を背景にしてアタシと一人の女性が向かい合っている。

 この人はアタシの元担任だ。爺さんが死んでグレてからも.........アタシやオルフェーヴルの事を気に掛けてくれた、唯一の部外者だ。

 

 

「.........?少し雰囲気変わった?」

 

 

フェスタ「ああ.........自分でも分かるくらいには、な」

 

 

 アタシの目を見て先生は言った。自分の記憶と擦り合わせる様に考えている先生だが、アタシもその節は十分感じている。

 

 

 過去に行ってきた。そこで見た物は.........過去に行く前までの、あの時までのアタシには無かった物ばかりだった。

 

 

 世界ってのはずっと、弱肉強食だと思って生きてきた。弱い奴は負けて持っているもんの一部を持ってかれて、強い奴は勝って敗者から何かを奪い取る。それだけが世界の真理だって.........ガキ臭さの抜けねぇ考えがあった。

 それをあの[世界]は否定しなかった。否定しなかったが.........同時に[正解]でも無いと突き付けてきた。

 勝とうが負けようがどうにも出来ねぇ事はある。世界ってのはアタシが思っている以上に残酷な物で、厳しい物だった。

 そんな[世界]に対して.........あの時のアタシ以上にガキ臭ぇ考えの奴が真っ向から立ち向かった。世の中[勝ち負け]だけじゃないって言う甘ったれた事を本心で言うくらいには、ガキらしい奴が。

 

 

 それが若い頃の爺さんだった。バカやってドジやって、周りを巻き込んだトラブルを引き起こす。

 それでも最後は何故か皆が笑っちまう。そんな奴を見ていると[世界の真理]どころか.........[勝ち負け]の定義すらあやふやにされちまう。

 

 

フェスタ「.........なぁ先生。アンタにはどう見える?」

 

 

「.........そうね。レースを走ってる時のフェスタがそのまま、ここに居る感じ」

 

 

フェスタ「ハっ。なんだよ、[生きてる]って言いてぇのか?」

 

 

 アタシの言葉にクスクスと笑って返事をする。そんな先生に対して苦笑いする事しか出来なかった。

 けど不思議と嫌な気持ちにはならなかった。それはアタシにとって、[生きる希望]が[レース]から[生きる事そのもの]になっていたからだ。

 

 

 世の中ままならない事ばっかりだ。そう口に出すのは簡単だし、思うだけならそれよりも容易い。

 だけど、そんな事を口にしながら、思いながらも[生きる為]に足掻く人達を見て.........アタシは変わって行った。

 

 

 そんな人達には決まって、[大切な人]が居た。一人だけじゃない。沢山の人が大切になって、その人の為に生きたくなっちまう。

 

 

「―――フェスタ」

 

 

フェスタ「.........?」

 

 

「私。フェスタが走ってる所が見たい」

 

 

フェスタ「な、なんだよ急に.........レースの映像なら幾らでも「そうじゃない」.........」

 

 

「.........ちゃんと。この目で見てみたいの」

 

 

「今の貴女が、どんな顔をして、どんな思いを秘めて、どんな[勝負]をするのか.........」

 

 

 .........そうだった。先生は元々こんな感じで押しが強かった。病気になって入院していた時は弱っていたから見れなかったけど、それが治ったんだからその押しの強さも元通りになる。

 アタシはため息を吐いた。先生を視界から外すように背を向けて頭を搔く。そんな姿も見られていると思うと恥ずかしさも出てきたが、今この瞬間だけは先生の顔を見る事が出来なかった。

 

 

フェスタ「.........その事で、話に来たんだよ」

 

 

「!本当っ!?じゃあ.........」

 

 

フェスタ「ああ、[復帰]する」

 

 

 それを伝えると先生は小さく跳ねて喜んだ。まるで子供みたいに。自分の事の様に喜んでくれるのが嬉しいと感じるのと同時に、さっきより恥ずかしさを感じた。

 元々それを伝えるつもりで連絡していた。本人にはまぁ、ただ会いたいって伝えただけだったが.........

 爺さん.........いや。[おっさん]の日和りが移っちまったのか、先生が目の前に来た時点で頭の中のプランは白紙になっちまった。そういう所は似ないで欲しかったんだが、結果オーライだ。

 

 

「それでそれで!いつ走るの?冬?来年の春?もしかしてもうそろそろ!!?」

 

 

フェスタ「ああ、それで聞きたい事があったんだ」

 

 

「ん?なに?」

 

 

フェスタ「[十月]の初めって、空いてるか?」

 

 

「もちろんよ!でもそんなおっきいレースは―――」

 

 

 そこまで言ってから先生はその表情を徐々に楽しげな物から無に変えて行った。先生の中で、何かが答えとして導き出されて行く。

 

 

「[十月の初め]って.........もしかして.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歓声が響くレース場。少し観客席から離れていて隔てられているこの場所でさえそれが聞こえて来る。肌を痺れさせる様な熱気に自分の本能が刺激されている。

 現役を引退したとはいえ、それでもこの身はその日々を忘れてくれることは無い。うざったい程にアタシの身体は熱をこもらせて居た。

 

 

 そんな熱を鎮めるために来たのは[喫煙室]。アイツらを育てていた時は辞めては居たが、身体は一度覚えた幸福を忘れはしない。

 ポケットから電子式の機械を取り出して一本そこに差し込んだ。

 

 

リョテイ「.........あ?んだよ。電池切れか」

 

 

 しまった。そういえば暫くこっちに来てから充電しちゃ居なかった。吸う場所も無かったからはあまり使わなかったのが災いして想像よりも電力が逃げてやがった。

 だがここに来た以上、一服はしたい。仕方なく加熱も何もされていないそれを口に入れようとした瞬間。ジッポ式のライターを目の前にチラつかされる。

 

 

桜木「吸うか?一本恵んでやるぞ」

 

 

リョテイ「ん.........どうも」

 

 

 ライターの裏に隠すように二本の指で挟み込まれていた煙草を手に取り、咥えながら礼を言う。

 慣れた手つきでハッチを開けてフリントを擦る。着けられた火に先端が触れるようにして唇で調整して息を吸い込んだ。

 

 

リョテイ「.........随分と渋いの吸ってんじゃねーか」

 

 

桜木「ほう。吸ったことがあるのか?」

 

 

リョテイ「近所の老いぼれと仲良くしてたらな。偶に貰えたんだよ」

 

 

 久方振りの紙巻きたばこ。電子の物とは違う味.........と言うのもあるが、このタバコがそもそも他のそれとは味が全く違う。

 [ハイライト]。手頃な値段でタールとニコチンを一気に摂取出来るヘビースモーカー御用達の代物だ。

 

 

リョテイ「こんなもん吸って良いのか?ウマ娘にとっちゃ毒だし、イメージ悪くなんだろ」

 

 

桜木「.........内緒にしてくれる?」

 

 

リョテイ「.........まぁ、考えとく」

 

 

 この爺さん。本当に未来から帰ってきて相当人が変わった。修羅場を潜り抜け終えた影響だろう。表情も行動も大分打算的な物になっている。

 まぁそっちの方が関わりやすい。なんだかんだ言ってアタシら家族を気に掛けてくれた礼だと思えば安い物だ。

 

 

 吸い込んだ煙からほんのりと感じるラム酒の風味。それを楽しみながら肺にまで入れてゆっくりと吐き出す。

 暫く強い物を吸って来なかったせいか、喉がチリチリと刺激を感じている。咳払いしてその感触を無くしてからもう一度、煙草を吸う。

 

 

リョテイ「.........」

 

 

桜木「.........[怖い]な」

 

 

リョテイ「.........アンタには、分からない」

 

 

 黙っている時間に心が痛くなったのだろう。男は何の気無しに、分かった風な口を聞く。苛立ちさえしなかったが、その言葉はアタシの神経を撫でて行った。

 誰も分からない。親も、友人も、同じレースを走るウマ娘でさえも、その心情を掴むことなんて出来やしない。

 それでもこの男は.........相も変わらず分かった風に言葉を発する。

 

 

桜木「.........[夢]は、[呪い]だ」

 

 

桜木「自分に課した呪い。叶わなければ一生解呪されることは無い。厄介極まりない物だ。[名前]と同じ程にな」

 

 

リョテイ「.........」

 

 

 自分の事を話すように噛み締めながら物を言う男。長い時を生きているだけあって説得力のこもった言葉がアタシの心に突き刺さる。

 名前ってのは親から生まれて初めて与えられるプレゼントであり、そして自分の定めだ。今後どう頑張ったって、ソイツは一生自分に付き纏う事になる。

 そして[夢]は.........テメェが人生掛けて悩みに悩んだ末に選び抜いた素敵な贈り物だ。それがどんな結果に転ぼうが、テメェに大きな影響を及ぼすもんになる。

 

 

 .........この男は知っている。挫折を、後悔を、有り得たはずの世界を.........生きとし生ける誰よりも痛感している。

 そんな男の言葉に反論なんざ出来るわけがなかった。

 

 

桜木「.........だがな。[災い転じて福となす]という諺があるように、結局その[呪い]も自分次第だ」

 

 

桜木「叶わなかった夢を抱いて[New game(やり直し)]を選択する。固執し続けて[Curse full being(呪いそのもの)]となる。それらは自由選択だ」

 

 

桜木「彼女らは.........[Continue(もう一度)]を選んだがな」

 

 

 男は嬉しそうな表情を見せる。だがその裏側には、どこか寂しげな感情を見え隠れさせていた。自分には無かった強さを持つ孫達を見て、何か思うところがあったのだろう。

 全く。いい歳こいて格好付けすぎだ。だがそれが[桜木 玲皇]という男なのだろう。どこまで行っても変わる事の無い人としての根幹。それがハッキリと分かった。

 

 

 心の不安は気付けば消えていた。勝つか負けるか。なんて簡単な思考じゃない。その先を見て.........なんて言う複雑な未来予想図でも無い。

 ただただ漠然とアタシを包み込んでいた霧が今、斬り払われた。この男の言葉によって.........

 

 

リョテイ「.........アンタは変わらないな。アタシがガキの頃からお節介焼きだ」

 

 

桜木「そりゃそうだ。俺は優しいからな」

 

 

リョテイ「その優しさ。アンタ自身にも分けてやったらどうだ?」

 

 

桜木「フフ、だが断る」

 

 

 短くなった煙草を灰皿ですり潰して外に出る。話に夢中になって聞こえなくなっていた歓声ももう一度耳に入って来る。

 爺さんが喫煙室から出るまで扉を開けて置いてやると、外に出るタイミングで礼を言われた。

 

 

 さて。一服も済ませた所でさっさとコウキ達の所に戻ってやんね「おい」.........と?

 

 

「お袋。じじい。まだ辞めてなかったのか?」

 

 

二人「.........げっ」

 

 

 声を掛けられた。最近聞いて無かったその声に驚いて振り向くと、そこには腕を組んで仁王立ちをする存在。アタシよりも小柄なウマ娘がアタシらを睨み付けていた。

 

 

 

 

 

 [ドリームジャーニーが現れた!!]

 

 

 キンイロリョテイ Lv39

 桜木玲皇    Lv72

 

 

 たたかう

 説得する ◁

 道具

 逃げる

 

 

 

 

 

 [キンイロリョテイは説得を試みた!!]

 

 

 

 

 

リョテイ「待て!!話せば分かる!!!」

 

 

 [ドリームジャーニーは仁王立ちのままだ.........]

 

 

 [桜木は説得を試みた!!]

 

 

桜木「.........ジュースを奢ってやろう」

 

 

 

 

 

 [ドリームジャーニーは挑発されたと勘違いした!!]

 

 

 

 

 

 [ドリームジャーニーの必殺頸動脈噛みつき!!]

 

 

 

 

 

ジャニ「ほう?プロウマレスラー相手に賄賂を渡すか?」

 

 

桜木「え、あいや違っ!!キンイロリョテイが勝手に!!!」

 

 

リョテイ「ジジイッッ!!!」

 

 

ジャニ「安心しな。二人まとめて婆さんの前まで噛み引き摺ってやる」カチカチ

 

 

 

 

 

 [全滅した.........]

 

 

 

 

 

 [その後、世界の喫煙所で二人の姿を見た者は居ない.........]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『絶対に見に行くからね!!フェスタ!!』

 

 

フェスタ「.........」

 

 

 閉じていた目を開く。意識は過去の思い出からゆっくりと現在へと向けられて歓声が耳に入ってくる。

 仄暗い地下バ道。光射す場所へ行けばまた.........熾烈なレースを繰り広げる事になる。

 

 

オル「フェスタちゃん。いよいよだね」

 

 

フェスタ「ああ、似合ってるぜ?[新しい勝負服]」

 

 

ゴルシ「アタシは!!?なーなーアーターシーはー!!?」

 

 

フェスタ「はいはい。似合ってる似合ってる」

 

 

 世話の掛かる妹達を背にアタシは溜息を吐く。これから世界の頂点を決めるっつうのに片方は褒められてニヤニヤとしてやがるし、もう片方はアタシの背中を叩いてくる。

 オルフェーヴルは以前までの改造学生服みたいな見た目の勝負服じゃ無くなった。五月の初めに髪を染め直したお陰で似合わなくなったせいだ。間に合うかどうかが唯一の問題だったが、業者がわざわざフランスにまで届けてくれた。どこぞの王子様が来たのかって勘違いしちまうくらいキラキラしてやがる。

 

 

 ゴールドシップに至っては帰ってきた時点で発注してやがったらしい。いつもの赤いマーチ服みてぇなデザインじゃなく、シンプルな黒いドレスを象った勝負服だ。

 

 

 アタシは.........まぁ、いつも通り。世界の頂点を決めるレースも、身内で格付けする日本のレースも同じ。勝負は勝負だ。そこに優劣つけて特別扱いをするつもりは毛頭ない。

 

 

 そんな妹達に手を焼いていると、不意に目の前に一人のウマ娘が現れる。オルフェーヴルと方向性は違うが、そいつも王子様みてぇな白い勝負服を身にまとっていた。

 

 

「久しぶりですね。オルフェーヴルさん」

 

 

オル「っ、うん。久しぶり.........って、アタシってよく分かったね!!?」

 

 

「いえ。以前会った時も怯えてた様子でしたから.........」

 

 

オル「.........うぅ、恥ずかしい」

 

 

 おいおい.........これからレースで対戦する相手だってのに、もう少ししゃんとしろよ。アタシの背中に隠れて人差し指ツンツンしてる場合じゃ無いだろ?

 

 

 また溜息が自然と出て行く。[リベンジマッチ]の主役がこんな様子なんだ。姉であるアタシが責めて格を保たせなきゃ行けねぇ。

 

 

フェスタ「ウチの妹が世話になったな?[トレヴ]さんよ」

 

 

トレヴ「ふふ、今度は貴女もお世話してあげますよ」

 

 

ゴルシ「ほ〜ん。んじゃアタシもおんぶと抱っこをご所望するぜ。おフランス式の最高級お世話をな」

 

 

 ふざけた調子の言葉をゴールドシップは言う。だがその表情も声の抑揚も、いつも以上にマジな様子だった。

 トレヴの隣を通り過ぎていく間際。アイツはその鋭い眼光を向けていた。それに気圧される事無く、睨み返すでも無くただ見つめ返すトレヴ。先に口を開いたのはアタシの妹だった。

 

 

ゴルシ「アタシらは[勝ち]に来たんじゃねェ。テメェで始めた事の[落とし前]を付けに来たんだ」

 

 

ゴルシ「[二連覇]ならくれてやるよ。ただ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――今日のゴルシ様は、結構[マジ]だぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレヴ「.........」

 

 

 笑みを浮かべて言っていた。だがその笑みに暖かさはなく、刃物の先端の様な冷たさを帯びていた。

 

 

 けれどそれを受けてもやっぱり目の前のウマ娘は触発される事無く、様子はそのままにアタシらに頭を下げて光射す場所に向けてアタシらに背中を見せる。

 

 

オル「.........いよいよだね。フェスタちゃん」

 

 

フェスタ「ああ.........」

 

 

 始まってしまう。ここから先に歩けば、否が応でもレースの空気に充てられる。アレから一切.........[凱旋門賞]を走ってからは一度も公式のレースには出ていない。

 そんな中で、自分が以前とどう変わっているのか、その本質にはまだ触れられてはいない。

 

 

 勝負服のポケットの中に手を入れる。身体の熱でぬるくなった[硬貨]の感触が指先に触れた。

 

 

フェスタ(.........あの時アタシは、[賭け残した])

 

 

フェスタ([勝負師]の風上にも置けねぇ。[誰か]っていう自分以外の物を賭けちまった)

 

 

フェスタ(アレで勝っても.........結局アタシは、こうなっちまっていたのかもな.........)

 

 

 あの時。アタシは賭けちまった。自分の手には無い。自分の手には余る程の[奇跡]を.........願っちまった。

 勝つことが出来たら。もしそれが起こってくれるなら何でもする.........それは、誰にでもある事だ。

 けどそれじゃダメなんだ。それをしちまったらもう.........[勝負]じゃねぇ。一か八かの[賭け]なんかじゃねぇんだ。

 

 

 勝つ事は出来なかった。けど[賭け]には勝った。そんな事実が.........アタシの根本を揺らがせた。

 勝てば奪える。負ければ奪われる。そんな自分の中にある世界の真理を、不本意ながらも、その出来事に喜びを感じながらも崩されてしまった。

 

 

 だが.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『[夢]ってのはさ。人間どう頑張っても抱いちまうもんなんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別れ際。過去から未来へ戻る時にある男に投げかけた問答。その答えが今、アタシの頭の中でフラッシュバッグした。

 アンタの[夢]は叶っただろ?なんて言う言葉に対して、アイツは照れ臭そうに笑いながらもまだ叶っていないと言った。

 それまでの事を、自分の辿ってきた道を簡潔に話した。そんな経験をしてしまえば、夢を抱く事すら恐くなるだろ。そう聞いて帰ってきたのが、それだった。

 

 

 アタシも同じだ。自分の根本をぶっ壊されたってのに、今またここに立っている。あの時に有り得た[IF]を求めて、それを実現しようとここに居る.........

 

 

 アタシの[賭け残した物]。それは他でも無い、[アタシの全て]。あのレースで後回しにしてしまった、勝負師にとっては一番大事で、価値のある物.........

 

 

フェスタ(.........コイントスのコインも、それをするのも、アタシの物じゃなきゃ行けねぇ)

 

 

 自分の物だけを賭けた勝負。それ以上に面白く、そして熱くさせる物は無い。誰かの物を背負うってのも悪くは無いが、生憎とそういう性分じゃない事は知っていた。

 けれど人間、どうしても背負わなきゃ行けない時がある。アタシにとってはそれが.........前回の[凱旋門賞]だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はそれが無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アタシの[全て]。それを賭ける事の出来る瞬間が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこれは.........あの時[賭け切る]事の出来なかったアタシの[賭け残し]。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........さぁ、そろそろ時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[ジャックポット]は起こる。誰に微笑むのかは知らねぇが―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――当てに行くぜ。[凱旋門賞].........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......To be continued

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