山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
―――ポタ.........ポタ.........
桜木「.........」
水の滴る音。その音に導かれるように意識が覚醒して行く。ふんわりとした[夢]特有の感覚は身体から抜けて行き、身体の所々からひんやりとした感触を感じ始める。
あぁ.........[また]か。そう思った俺は諦めるようにため息を吐いてから顔を上げた。
桜木「.........何の用?俺、[お前のせい]で遅刻したんだけど?」
目の前に佇む男。現代的な衣装では無く、最早衣服としての役割と言うより、自身の[身分]を示す為の物としか言い様がない程に肌が露出させているその男に言葉を投げかける。
「それは前回言った通り。君の[身体]に用があるんだよ」
桜木「そりゃお生憎様。定員一名ポッキリ。搭乗者俺の当肉体は寿命果てるまで予約びっしりでございます。またのご利用にしてくださいませ?」
軽口を叩いてみるものの、それ以上の事は出来ない。なんせ今の俺は[鎖]で自由を失っている。
この空間がなんなのか。この男が何者なのかは定かじゃ無い。分かっているのは唯一つ。俺がコイツを気に食わないってことだ。
「君の意見は聞いてない。僕はただ君の身体に触れるだけでいいんだ」
「前回はちょっとした挨拶。礼儀正しい人間だろう?」
桜木「っ.........[人間]、ねぇ?」
俺は今まで沢山の人外の者達と触れ合ってきた。ウマ娘は勿論、神様って呼べる人とも会ってきたから、目の前に居る奴がどんな奴なのかはそれとなく分かる。
恐らく、[神]。身体から滲み出るオーラと言うべきか、圧と言うべきか。それを感じ取れる。
俺の言葉に応えることなど無く、男は容赦も無く俺に近付いてくる。
「君は[特別]だ。[
「だから.........その力を、[僕の理想の為]に使わせてもらうよ?」
会話なんかじゃない。男がしているのはただの独りよがりの独り言だ。俺がどんなに抵抗の意志を見せたとしても、伸ばして来た手を止めることはしない。
桜木(っ!!?この炎、はっ.........)
男の手に灯された[炎]。青白い色をしたそれを、俺は知っている。
[ヘル化]と言う、ウマ娘に宿る[心の力]。強い渇望によって発生するその炎が今、男の手で揺らいでいる。
熱い。身体では無く、知識でも無い。今俺の[心そのもの]が、その熱源を探知してしまっている。
薄気味悪い笑みを浮かべながら、その手が鎖に触れ、全てを燃やし尽くし始める.........
その時だった。
「.........あれ、おかしいな」
「君、[女神]から[加護]は貰ってなかった筈だよね?」
ーーー
春。全ての始まりと言っても良い程に花は咲き、心地よい風が吹き始める季節。
ここ、トレセン学園のとある一室にチームを構える俺にとっても、その季節を存分に感じさせ始めて居た。
桜木「ではこれより。サブトレーナー入団面接を始めます」
桐生院「よ、よろしくお願いしますっ!」
「よろしくお願いします」
机を一枚隔てた向こう側に座る若い男女。一人は俺と同期の桐生院 葵さんだが、もう一人は顔も名前も知らない。
二人は先日行われた春のチーム体験イベントで入団の意志を示してくれたトレーナーだ。本来であるならば両手を振って歓迎する所だろうが俺は腐っても社会人。まずは価値観の相違が無いよう面接するのが定石だ。
桜木「まずお名前を教えて下さい」
桐生院「はいっ、桐生院 葵と申します!」
「[
ふむふむ。花道泰雅.........これまた珍しい上に何だか他人じゃない気のする名前だ。[桜木]と来て[花道]。[
とまぁそんな事はさておき、ここはいきなりこの面接の重要部分である[動機]について聞いて行こう。
桐生院さんはともかく.........この男、糸目だし優男だし信用ならん。漫画で信用しちゃいけない特徴ランキング上位に君臨している.........
桜木「ではまず、我がチームを志望した動機についてお聞かせください。桐生院さん」
桐生院「っ!はいっ、私は今まで、ハッピーミークのトレーナーとして誠心誠意職務を全うしてきました」
桐生院「URAファイナルズも好成績で終え、理事長やミークからもチーム設立の機会だと言われたのですが.........二人三脚でやってきたものですから、勝手が分からなかったんです」
桐生院「そこでチーム運営の基礎を学ぼうと思い、勝手ながら親しいと思っている桜木さんのチームに入ろうと考えました」
桜木「.........うぅ、ありがとう」
桐生院「え、えぇ!!?」
良い子や.........!なんて良い子なんや桐生院さん.........!!!こんな純真なトレーナー見た事ない!!!採用やこんなもん!!!
桜木「次、花道くん」
花道「はい。[レグルス]が好きだからです」
桜木「うん。採用♪」
桐生院「えぇっっ!!!??」
おぉ!ウチのチーム好きなんかおぉ!だったらもう即採用やそんなもん!動機とかえぇ!好きなこと好きなだけやったもん勝ちや人生は!
桜木「よーっし!じゃあ面接も終わったし、放課後まで解散って事で!よろしく〜♪」
ふぅ♪これで俺の久方振りの仕事らしい仕事はおしまいっ。俺はカフェテリアでマックイーンを待たせてるんだ!早々に退散させて貰うっ!
花道「.........何か、風みたいな人ですね。桜木先輩って」
桐生院「風と言いますか.........嵐と言いますか.........」
ーーー
デジ「春ですねぇ〜」コロコロ
タキオン「そうだねぇ〜」トントン
春の季節。以前までの私にとってはそれほど重要視してはいなかったが、歳を取るというのはどうやら感受性を自然と成長させるものらしい。
チームに新たに加入したサブトレーナーの桐生院くんと花道くん。そしてハッピーミークくんと、大勢では無いにしろ新人が入ってきたお陰でチームは活気づいている。
そんな中、私とデジタルくんはチームトレーナーである彼から[サッカートレーニング]を課せられていた。
私の周りをドリブルするデジタルくん。その中心で私はリフティングを続ける。暫くそうしていると、不意に声が響いて来た。
「おおぉぉぉぉい!!!タキオぉぉぉぉン!!!」
デジ「おや?おやおやおやおや!!」
タキオン「.........はぁ、面倒なのに出会ってしまったようだ」
遠くから私の事を真っ直ぐ見つめながら走り抜けてくる存在。茶色の髪の毛にチャックを開けたジャージ。首元から下げたミラーボールの様なアクセサリーが光を反射している。
[ジャングルポケット]。それが彼女の名だ。
ポッケ「丁度良かったぜ!なぁタキオンっ、並走しねぇか?」
タキオン「断る。見て分かる通りトレーニング中なんだ」
ポッケ「トレーニング中って、ただボール遊びしてるだけじゃねぇのか?」
はぁ.........とため息を吐く。彼女の事だ。皮肉でも無く悪気も無い純粋な疑問なのだろう。
まぁ無理も無い。彼のトレーニングは[個性的]だ。沖野くんの様に直接レースに関わらないと思われる物をトレーニングとして活用している。
この[サッカートレーニング]もそうだ。
効果としてはリフティングはまずボールを扱う事で身体の動きを自然のまま可動域を広げる効果。
そしてドリブルは速度を保ちつつも足捌きを意識する事でコーナリングの向上。そしてバ群を抜け出す際のコースシフトに影響する。
その上どちらも脚への負担が余りない。[本格化]を控えたデジタルくんや脚に不安を抱える私にはうってつけのトレーニングだ。
それを事細かに説明すると、彼女は意外にも納得して見せた。
ポッケ「へぇ〜。すげぇじゃんお前んとこのトレーナー」
デジ(!タキオンさん.........)
タキオン(ああ.........どうやら彼女は[影響]を受けていないらしい)
ポッケ「?なんだよ。コソコソと話して」
彼の評価は上がっていく所か、日に日に[下がっていく]一方だ。そんな中でも一定数変わらない存在が居る。
.........だが、その根拠と言うべきか、基準がどうにも分からない。私と彼女。いや、私と私以外のチームメイトで一体どのような差が.........
「おーいポッケー!!カフェがお前さんと走ってくれるそうだぞー!!」
ポッケ「マジか!!悪ィタキオンっ!並走はまた今度頼むぜ!!」
タキオン「ああ、楽しみにしておくよ」
遠くで恰幅の良い男がポッケくんを呼んでいる。その隣にはカフェと司書くんも居た。
彼女は別れ際に私に対して拳を作って突き出した。彼女のルーティンなのだろう。私もそれに習って同じように拳を合わせると、嬉しそうに笑みを浮かべた。
ポッケ「んじゃ!デジタルも今度並走してくれよなっ!」
デジ「なななんと!!ではその時はお付き合いさせて頂きまする.........!!」
ポッケ「ははっ、変な奴!」
かしこまった様子でデジタルくんは両手で拳を作って彼女の拳に合わせた。それを見てひとしきり笑った後、こちらに来た時と同じスピードでまたもや去って行った。
デジ「良い人そうだと思ってましたけど、本当に良い人ですね〜。ジャングルポケットさん」
タキオン「そうだね。良い人ではあるが.........少々歯止めが効かないのが難点だ」
彼女のエネルギッシュさには毎回感心させられる。デビューやクラシック期ならば兎も角、あのモチベーションを維持し続けている部分に関しては見習うべきだろう。
さて、どうしたものか。私の[本格化]も既にデータ上に打ち込んでいるせいか、トレーニングの伸び代も分かってしまう。
ここからはやはり、個人に対する[対策]しかないのだろう.........
タキオン(.........はぁ、あまり頼りにはならないだろうと思っていたが、気付けばこの[アプリ]を開いてしまっている)
デジ「?あ、それ最近トレセンのウマ娘ちゃん達の間で流行ってる[AIアプリ]ですか?」
タキオン「ああ、私も興味があってねぇ。トレーナーくんのあの頭脳とこのAIの計算。どちらが勝るか.........」
AIアプリ。[IMUNI]。突然ネット上で公開され、誰でもダウンロードが可能になっている代物だ。
役割としてはトレーニング効果やレース出走の管理と使えるが、少し使いこなせる様になれば自分の実力と他のウマ娘との比較や勝率。その方法まで計算される.........
私の専攻分野では無いが、このシステムとその構築については興味がある。何を根拠にしてその勝率なのか.........見る分には私のレースに影響は無いだろう。
タキオン「さぁ、続けようか。お互い[怪我]をしないようにね」
デジ「ですね!」
彼の考案した[サッカートレーニング]。通常の物より脚への負担は大きくない。
しかし、その効果をこのAIは疑問視している。効率的なのは好みだが、残念ながらその為に[可能性]を捨てると言うのは頂けない。
私はアプリを切り、もう一度地面にあるボールを持ち上げ、リフティングを始めた.........
ーーー
桐生院「流石ですウララさん!もうここまで出来るんですね!」
ウララ「えへへっ!ミークちゃんが教えてくれたんだ〜♪」
俺の眼前で何とも栄養価の高い光景が広がっている。将棋を指しながらウララの一手一手を褒める桐生院さん。
目の前の対局に集中しながらも、同じトレーニングをするライスとブルボンにもアドバイスを送っている。
桜木(.........サブトレーナーになる意味あったのかな?)
彼女に関して言えば、既にトレーナーとして相応の実力を持っている。もし仮に長期間俺が不在になったとしても、チームが壊滅.........なんて事は起きないだろう。
花道「.........先輩。一つ、いや二つ良いですか?」
桜木「ん?どうしたの?」
花道「どうして保健室の先生と司書さんが居るんです?」
そう言われて俺は彼に指を指された方向を見る。そこには腕を組んで仁王立ちし、トレーニングを見守る男が二人.........俺は頭をかいた。
桜木「.........花道。トレーナーっつうのは体当たりをする職業だ。自分で聞きに行くって事をしなけりゃウマ娘の担当にはなれないぞ?」
花道「!わ、わかりました!」
桜木(うわ、本当に素直に聞きに行きやがった.........)
もう少し粘るか。と思いきややはり素直な優男。俺だったらもうちょいゴネて同行をねだる所だ。
暫くして話を聞き終えた花道は俺の側へと戻り、事の顛末を話した。
黒津木は暇だった.........まぁ、保健室医が忙しいのは悪い事だ。暇な時間を持て余しているこの現状は喜ばしい。
神威はカフェと他の人の邪魔になるから.........お前何?トレーナーでしょ?堂々としてりゃ良いじゃん。
桜木「まぁなんだ。気にすんなよ。あんま害は無いし、あったとしても下ネタ言うだけだ」
花道「し、下ネタ.........!!?」
おぉ、なんだなんだ。お前行けない口か。良かったぜここで判明して。俺結構言っちまうからな。気を付けとかないと。
桜木「それで?もうひとつは?」
花道「あ、あぁ.........えっと。その、言い難いんですが.........」
桜木「なんだ?はっきり言ってくれ」
花道「.........マックイーンさんとの距離、近くないですか?」
マック「.........?」
そう言われて俺は隣に居るマックイーンと目を見合せた。別にどうって事は無い。普通の距離感だ。手なんて繋いでないし、腕も組んでない。自然だ。
桜木「花道〜。お前さては女の子苦手なタイプか〜?」
花道「いや、近いと思いますよ?普通に」
マック「普通の担当トレーナーとウマ娘でしょう?」
二人「ね〜?」
花道「.........」
桜木「あ、マックイーン髪になんか着いてる」
―――髪に優しく触れる先輩。それをくすぐったそうにしながらも受け入れているマックイーンさんを見て僕は確信した。
あ、これ[付き合ってる]な.........と。
桜木「.........お?なんだ?別に普通じゃねえか髪に着いた物取るくらい」
マック「そうです。健全な関係ですわ。健全な関係」
花道「ああ、もう良いです。色々察しましたから」
桜木「あ、そう?」
―――これは中々嬉しい。つまりコイツの前ではある程度羽目を外しても良くなったって訳だ。
桐生院さんはまぁ.........そのうちバレるでしょ。俺達だし。そこら辺分かりやすいらしいから。
花道「それにしても、随分古い練習法ですね。今ならもっと効率の良い練習法もあるでしょう?」
桜木「そりゃそうだが.........俺達がやってんのはプロウマ娘のトレーナーじゃないだろう?」
桜木「プロだったらそりゃレースに役立つ練習だけすりゃ良いさ。でもまだ皆学生だ。レース以外の道に進むってなった時に、やってきた事が役に立たないなんて事になったら可哀想だろう?」
レースに勝つ為のトレーニングをするのは大事だ。けれどその為に視野を狭めてその世界だけでしか生きられないようにするのはとても残酷な事だ。
社会と言うのは思った以上に寛容的ではあるが、想像以上に泥沼だ。何処かの汚泥に足を踏み入れてしまえば抜け出す事は容易じゃない。
だが、生き方さえ見に付ければそれを回避する事が出来る。彼女達の能力を見れば、練習さえすれば直ぐに身に付けることが出来る部分だ。しない手は無い。
桜木「花道。お前はちょこっと視野が狭いな」
花道「す、すみません」
桜木「良いさ。最初はそんなもんだ。ここで広げてくれりゃ良い」
新人の時期はやる気に満ち溢れている。それを良しとする風潮もあるが、やはり視野の狭さが問題だ。特にウマ娘を見るトレーナーとしては、危険に及ぶ事もある。
一般的な社会人ならば、そういう失敗は自分に跳ね返ってくる。自分以外に向いたとしても、大抵は上司が肩代わりしてくれる事が大半だ。まぁ確実では無いが。
しかし、ここでは全て担当のウマ娘に向かってしまう。トレーニングの怪我。レースの作戦。出走方針。視野が狭ければ些細な選択もリスクを跳ね上がらせてしまう。
桜木(.........そういう意味で言えば、沖野さんところは結構学べるチームだったなぁ)
まだ独立して日は浅いはずが、もう既に遠い日の様な感覚に陥る。[スピカ]はいいチームだった。主体性を育てる事に重きを置いてトレーニングを決めていたから、自ずと俺も考えて行動する事が増えた。
大変な事もあったが、今では良き思い出だ.........
桜木(.........ま、俺はまだ[スピカ]なんですけどね)
しかし残念な事に、チーム内で唯一俺だけ独立に失敗した。URAファイナルズの長距離決勝に勝利したは良いが、テイオーが駄々をこねたのだ。
そんなもの突っぱねてしまえば良い物を、彼女が与えてくれた夢と希望は計り知れない。その恩を仇で返す事は出来ず、結局俺は[スピカ]のサブトレーナーのまま、このチーム[レグルス]を独立させたのだ。
マック「.........ふふ♪すっかりベテラントレーナーさんですわね」
桜木「まぁね〜。ちゃらんぽらんだと自分でも思ってたけど、案外真面目でビックリしたよ」
花道「先輩、ちゃらんぽらんだったんですか?」
桜木「そうよ?俺単体なら兎も角、アイツらとつるんだ時の[四人パーティ]の時は.........」
そこまで言って俺自身げんなりする。自分はかなり大人になったと自負できるレベルだが、何故かヤツらが絡み出すと途端に精神年齢行動基準が十代まで遡ってしまう。
今はまだ[三人]にしかなり得ないのが.........せめてもの救いだろう。
マック「そう言えば、[白銀]さんの姿を見ませんが.........」
桜木「あー。なんかゴールドシップが帰ってくるまでに[ビッグ]になるぜっつって.........それきり音信不通だわ」
マック「これ以上大きな存在って.........総理大臣にでもなる気でしょうか.........」
まぁあのバカの事だ。直ぐに半べそかいて財産の半分を溶かしたっつって帰ってくるだろう。テニスしか出来ない癖にテニス嫌いだし。
桜木「さっ、あのバカの事は今は忘れて今はトレーニングっ!マックイーンも頭休んだなら行けるだろう?」
マック「うぅ.........ではトレーナーさんに勝負を申し込みます」
桜木「いや俺将棋知らんのよ.........」
花道「では自分が。こう見えても得意なんで」
桜木「おっ、良いねぇ。さぁマックイーン?隣に居てやるから早く行こうね」
マック「!わかりましたっ!」
隣に居てあげる。そう伝えるだけでマックイーンのやる気は元に戻った。扱いやすいと言ったら怒られるだろうが、そういう所が可愛いんだ。
そうして、その日のトレーニングは何事も無く時間が過ぎて行ったのであった.........
ーーー
―――薄暗い一室。ここは東京都港区にあるビル。
そこに人影は無く、その座席には備え付けられたそれぞれのモニターが存在している。
時計の針が4時を示した時、一斉にそのモニターの電源が付けられる。
「集まりましたか」
髭を蓄えた初老の男がそう告げる。端に一番近いそのモニターに映っている事から相応の地位に居る事が察せる。
「では手短に行くとしましょう。現在進行中の[計画]についての進展を」
「はい。まず第一段階として、現理事長である[秋川やよい]に対しての[出張命令]を下しました。遅くとも[一ヶ月後]にはこの国を出ていって貰う算段です」
メガネを掛けて居る男がそう言うと、他の人間も感嘆の声を上げる。そのことからこの男は仕事が出来ると言う評価をされているのが分かる。
「それは良いですね。彼女が居ると私共もやりにくい」
「それに付け加えまして、一人を[トレーナー]として潜入させています。今後[理事長代理]の補佐として存分に力を奮ってくれるでしょう」
「なんと。もうそこまで........」
話がどんどんと流れて行く。彼らの中で[計画]という物が順調に進んでいる。そう思わざるを得ない。
やがてある程度話がまとまった時、恰幅の良い男が笑い声を上げた。
「いやしかし、彼女には手を焼いた物だ。トレセン学園は言わば[プロ]を育成する為の機関。昨今は学生レースの熱量が高まっているが、そこを疎かにされるとこちらが困る」
「だが本当によろしいのか?これは[彼]の立案だ。やり方は任せると言われ、どんな方法でも構わないと言われたが、会議に呼ばないのは.........」
「「「お前それ本気で言ってる?」」」
「.........いや。すまない」
濁された[彼]という存在。どうやらこの者達にとっても厄介な存在らしく、苦言を呈した方もそれを問われて冷や汗を流している。
「.........[URAファイナルズ]。確かに素晴らしいイベントではあった。が、少々やりすぎでしたな」
「あんなものを出されてしまえば[プロレース]の縮小に拍車が掛かってしまう。ただでさえ最近ではプロ入りするウマ娘の数も減ってきていると言うのに」
「だからこそ。何としてでも盛り上げなければならん.........」
「私達の、[安寧]の為に.........」
髭を蓄えた男が薄ら笑いを浮かべる。下卑たそれに釣られる様に、他の者達も笑みを浮かべた。
ここは、[URA本部]。日本のウマ娘が参加するレースのほとんどを取り仕切る言わば[運営企業]。
その本部の一室で交わされている会議について知っている者はまだ―――
「あァァァァッッ!!!??」
「「「「しまった!!?」」」」
―――突然、その部屋のドアを開ける者が居た。
掃除用具を手に持ちながら、気慣れていないスーツを崩して着る若い男。この場に似つかわしく無い程に若い男がこの部屋に乗り込んで来た。
「おいッッ!!!会議すんなら俺呼べよッッ!!![株主]だぞッッ!!!」
「いやしかし!貴方は忙しいと言って会議には参加しないと.........」
「その日は忙しかったんだよ!!![バカ女]帰って来た時の為のサプライズ指輪買いに行ってたの!!!」
「ば、バカ.........?」
「キィィィィ!!!俺だって会議室で喋りてぇんだよ!!!つか今度からリモート禁止ッッ!!!家でサボってんじゃねぇッッ!!!」
((((んなアホな.........))))
時代錯誤にも等しい価値観を叩き付けた後、男はそのモニターのコンセントを抜いて行き、器用にその全てを外へと持ち運び出して行く。
(くけけ.........まさか俺がURAの株主になってるとは夢にも思わねぇだろうなぁ.........!)
(これで[翔也]様もまたビッグになっちまったぜ.........!!!)
一人能天気に歩く男。名は[白銀 翔也]。
かつては[プロテニス選手]として名を馳せ(現在も選手登録はしているらしい)、[白金コーポレーション]の社長(現在は副社長に経営全て丸投げ中)。
最近では[テレビ局]の株を買い占めて居たが、ここに来てまたもやその大きな野心の赴くままに行動を起こしてしまった。
しかし、そんな本人ですらまだ知らない。これから何が起こるのか.........
トレセン学園。そしてURA。ウマ娘。トレーナー全てを巻き込んだ大騒動になる事を、まだ知らない。
そう、まだ誰も.........この[計画]を知っている者は、誰一人として居ないのである.........
......To be continued