山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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T「俺は人間を辞めるぞォ―――!!」?「次いでに[男]もなァ―――!!」

 

 

 

 

 

 時計の針が鳴り響きます。何度も。何度も。等間隔に。頭が痛くなってくるほどに。その一秒一秒を今、思考を停止させて無駄にしてしまっているという現状に気付いた時、私はゆっくりと息を吐きました。

 

 

マック「状況は.........把握しました」

 

 

タキオン「すまない.........一足遅かった」

 

 

 暗い雰囲気の中。私は考えました。何故こんな事になってしまったのか.........

 いえ。そんな事は分かりきっています。彼の[評価低迷]を放置した結果.........なのでしょう。

 

 

 先程、どうやらトレーナーさんが誰かに階段から[突き落とされた]様なのです。

 幸い外傷は無く、黒津木先生の診察も単なる気絶で済ませられており私達は必要以上に取り乱す事はありませんでした。

 

 

桐生院「まさか、階段から突き落とされるだなんて.........」

 

 

ウララ「うぅ.........トレーナー.........」

 

 

ライス「ウララちゃん.........」

 

 

 目を潤ませながら俯くウララさん。それを慰めるライスさんとブルボンさん。お二人も同様に酷く落ち込んでいます。

 こんな事になるなら.........そう思っても、何をどうすればこの展開を回避出来たのかも想像出来ません。

 

 

 考えあぐねて居ると、不意にタキオンさんがポケットから彼女の所有物では無いと思しきスマートフォンを取り出しました。

 

 

タキオン「原因は把握している。この[AIアプリ]だ」

 

 

全員「え、AIアプリ.........?」

 

 

 彼女の見せてきたホーム画面に一つだけ存在しているアプリケーション。[IMUNI]と表示されていました。

 

 

ミーク「それ.........最近流行ってる.........」

 

 

タキオン「そうだ。所有者のノンレム睡眠中を検知後起動し、催眠を施す物だ」

 

 

全員「さ、催眠.........!!?」

 

 

 .........驚愕の事実です。まさかこのアプリがそんな危険な物だったなんて.........まさか、まさかそんな.........!!!

 

 

 私はあまりのショックで膝を着きました。その様子を見たタキオンさんとデジタルさんが慌てて駆け寄って来てくださいました。

 

 

デジ「マックイーンさん!!?大丈夫ですか!!?」

 

 

マック「合点が.........合点が行きましたわ.........!!!」

 

 

タキオン「!ま、まさか君にも影響が.........!!?」

 

 

マック「えぇ.........!兆候はありました.........!」

 

 

ブルボン「マックイーンさん.........」

 

 

マック「最近彼とのデートの時についスカートを履いてしまっていたのです.........」

 

 

全員「は?」

 

 

マック「あの人が喜ぶのは脚のラインがハッキリと分かるジーンズ系ですのに.........!」

 

 

マック「私は.........!自分の羞恥心を優先して.........!!!」

 

 

タキオン「彼女の話は聞かない方がいい。体内で砂糖が生成される」

 

 

 な、何でですか!!!これもれっきとした症状では無いのですか!!?そ、それをこんな何ともないように言って.........!!!

 

 

『恋人離れには良い機会じゃない』

 

 

マック(絶対嫌!!!死んでも離れないわよ!!!)

 

 

 何ですか恋人離れって!!!そんなの恋人じゃありません!!!ただのトレーナーとウマ娘でしかないではありませんか!!!

 

 

 ショックを受け続け蹲る私。そんな最中、突然校内放送が掛けられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全生徒に連絡します。明日朝、全校集会を行います』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........全校集会?」

 

 

デジ「かなり突然ですね.........」

 

 

タキオン「何か、あるだろうね.........」

 

 

 本来ならば放送が掛けられる事の無い時間。トレーニングを行っていないウマ娘にも連絡が恐らく届いているでしょう。無線で寮に連絡が行くでしょうから.........

 

 

 これから何が起こるのか.........それを予測する事すら出来ずに今日の所は解散となりました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボディガッ!アメェゼ!クラエェッ!ウオリャッ!」

 

 

神威「お〜っす。飯買ってきたぞ〜」

 

 

黒津木「おう。そこに置いといてくれ」

 

 

「フンッ!ィイヤッ!」

 

 

神威「.........コイツどれだけやってんの?」

 

 

黒津木「三日ぶっ通し。アケコンのパチパチ音が煩くて仕方ねぇ。単なるCPU戦なのによ。良くやるぜ」

 

 

「オォォォォォ!!!クライヤガレェェェ!!!」

 

 

桜木「.........ふぅ」

 

 

 会話が耳に入って来た。それを合図にしていた俺はゲームの電源を切る。あぐらをかき続けた影響で身体はバキバキ。目は充血しまくっている。

 

 

 俺は考え事をする時に歩くタイプだ。自然に動かせる動作をしながら頭を働かせる事でアイデアや考えが固まる。

 だが現状、外を歩くのは危ない。誰があのアプリを入れているのかもすら不明な中、外に出るのは命知らずのやる事だ。

 よって俺にとって歩く事の次に自然に行える動作の出来る[ゲーム]をやり続けた。誰かの話が耳に入ってきたのなら、考えはきっとまとまったのだろう。

 

 

桜木「くっ.........ぁぁぁ。[アレ]からどれくらい?」

 

 

黒津木「三日目が終わるぞ。電気代払えよな」

 

 

神威「お前も飯食っとけ玲皇。腹減らねぇのか?」

 

 

桜木「んじゃお言葉に甘えようかな。その前に頼んでた物は?」

 

 

 俺は座っている黒津木の方を向き、そう問いながら椅子に座った。

 奴はどうしたものかと視線を泳がせて神威の方を見たが、どうぞご自由にというような手を広げるジェスチャーを見て溜息を吐いた。

 

 

黒津木「わぁったよ。ほれ」

 

 

桜木「サンキュー♪やっぱ持つべきものは天才学者よね〜♪」

 

 

黒津木「外科医なんですか一応」

 

 

神威「お前なんでも出来っから良いじゃん別に」

 

 

 テーブルの上に置かれた二つの[薬品]。一つは見慣れている。[筋力ウマ娘化薬]。服用すればたちまち新陳代謝が爆発的に向上し、吹き出た汗が水蒸気となる。

 そして一部。[ウマ娘と同じ姿]が現れるとんでも化学薬だ。こんな物を作れる時点でノーベル賞物。そして言ってしまえば人類を脅かしかねない代物だ。

 

 

 テーブルの上にはもう一つ。こちらは見覚えの無い薬品。だが確実に俺が頼んだ物であろう事が伺える。

 

 

黒津木「説明するぞ。コイツは脳のブラックボックスにアクセスして―――」

 

 

桜木「え?」ブスー

 

 

黒津木「ハッハー!!!お前死ねよッッ!!!」

 

 

 あ、なんか説明してくれるところだったの?ごめん寝てないから頭回んないんだわ。それにどうせ平常時でも理解したフリしかしないだろうし。

 俺は[見覚えの無い方の薬]を血管に差し込んだ。元々注射器の形をしていたんだ。用途はつまりそうなのだろう。

 

 

 次第に強い眠気が襲ってくる。ぐらりと視界を回しながら何とか椅子の上でバランスを取ろうとしたが、結局そこからずり落ちて行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、次に目覚めた時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [桜木 玲皇]と言う存在は[この世]から姿を消したのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........んん、ぁ.........?」

 

 

 身体が気怠い。久々に睡眠を取ったせいだろう。横向けになっている身体を仰向けにしながら何とか意識を覚醒させて行く。

 耳に入ってきたのは.........[高い声]。聞き覚えの無いその声に違和感を抱きつつも、俺はとにかく目を開けて見た。

 

 

(.........布団だ。アイツら運んでくれたんだな)

 

 

 身体の上には掛け布団が掛けられている。有難いことにどうやら放置はされなかったらしい。アイツらにもそういう優しさが残っていた事に驚きを隠せなかった。

 取り敢えず今は自分の身体の状況が知りたい。そう思って俺はゆっくりと掛け布団を退け―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........くぁw背drftgyふじこlp;@:「」!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ間違えた!!![タマ]がねぇ!!![チン]も!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼下に広がる身体.........そこには本来男に[付いている筈の物]が存在していなかった.........

 そしてその代わりに.........いや、その代わりもあまり無かった。少しふっくらしている感じではあったが、決して豊穣とまでは言えないそれが二つ。胸の部位にあった。

 

 

 そして俺は次第に満足感を心に充足させて言った。恐らく人生で言うことは無いだろうセリフ.........それをちゃんとした場面で、ちゃんとした用法で使用できた事に感動していた.........

 

 

「ってー事はやっぱ.........おほー♪♪♪やっぱ俺の声じゃんっ!!!」

 

 

 高い!!俺の声がまるで天使の透き通った声みたいだ!!!まさかこれほどの状態になるだなんて.........!!!

 俺は思わず跳ね起きた。こうしちゃ居られない。直ぐにでも自分の姿を確認しなければ.........

 と思ったが、今は完全に裸。この格好で部屋の外に出れば何が起こるか分からない。男は皆野獣。ビースト先輩なのだ。自己防衛だよね!服着る?紳士の彼氏を見つける?同性愛者になる?

 

 

 そんなふざけた事を頭で考えながら何か着るものを探していると、傍にまた薬。そしてサイズ別の同じデザインの服が用意されていた。

 .........いや凄いな。良くこんなの用意出来る。素直にキモい。

 

 

「コイツがウマ娘化薬だよな。もう飲んじまうか」

 

 

 衣服の傍に置かれていた薬品を手に取り口に流し込む。何度も飲んでいて味には慣れていると思っていたが、身体の変化の影響が味覚にも現れているのか凄く美味しくなかった。

 吐き出しそうな所を何とか我慢して全て喉に流し込んで行くと、身体に変化が起こり始める。

 

 

 身体から溢れる汗。それが蒸発して行き纏わりつく。ふうっと息を吐いて落ち着きを保とうとしていくと本来なら何も感じない部分が敏感になり始めた。

 

 

「うっし.........これで準備は良いな。服は.........Mで良いか?」

 

 

 サイズ違いの衣服の内、Mサイズの物を取ってみる。想定の為に自分の身体の前にピッタリとつけてみるが.........明らかに大きい事が分かった。

 そういえば身長も大分小さく感じる。男だった時は平均身長くらいあったはずだが.........

 

 

 まぁそれならばSサイズにすればいいだけの事。そこまで考えて俺は一旦下着を着ようと衣服の置かれているタンスの中を覗き込んだ。

 

 

「.........うわぁ」

 

 

 .........いや。確かに用意して欲しいと言った。言いはしたのだが.........もうそろそろ30代になるであろう男が一人で女性物の下着を買い漁るって言うのは中々毒々しい光景だ。

 そしてサイズも衣服と同じように点でバラバラ。職質とかされなかったのだろうかと心配してしまう。

 

 

(っと、まぁブラジャーはこんな感じだったよな。無くても別に構わんと思うけど)

 

 

 ふふふ。俺は男勝りの女家族で育った男だ。目の前でこういうのに文句言いながら付けている家族を見てきたんだからおちゃのこさいさいよ。

 だが実際付けてみるとやはり聞いていた通り面倒だ。俺自身家族と違って控えめなんだから別に付けなくても.........

 

 

 っと、行けない行けない。俺はこれから[桜木 玲皇]としてでは無く、一人の[ウマ娘]として生活するんだ.........そこら辺の意識もしっかりしなくては.........

 

 

 気持ちを正して服を着る。下着以上に手間取ったのがウマ娘用衣服の特徴である[しっぽ穴]だ。不器用な俺にとっちゃこれがまた難しい。果たしてこれに慣れるまでどれくらい時間が掛かるか.........

 

 

 そんなこんなで着替え終えた俺は一応部屋の外に出て見る事にした。

 

 

黒津木「うおっ!マジか.........」

 

 

「おぉ宗也!!どうよ〜今の俺の姿〜」

 

 

黒津木「凄いぞお前。面影全くねぇわ」パシャリ

 

 

 苦虫を噛み潰したような顔で写真を撮る黒津木。その撮られた写真を見せて貰うとこれまた驚きの光景が写っていた。

 

 

 あまり気にしていなかったが、前髪がとてつもなく長い。男であった時の長さを優に超えてしまっている。

 そして驚く事に瞳が[綺麗な青色]をしている。純血日本人だったはずだが.........これももしかして、[女体ウマ娘化]の影響なのか.........?

 

 

「すげぇな.........こりゃ誰か完全に分からんわ.........」

 

 

黒津木「喋り方変えたらもう終わりだぞ。これで暫くは安心だな」

 

 

「.........ああ」

 

 

 これは嬉しい誤算だ。これならば暫くどころか自分から言わない限りは誰にも気付かれないだろう。

 問題があるとするならば.........

 

 

「なぁ、最近トレセンの様子はどうだ?」

 

 

黒津木「.........あ〜」

 

 

「?」

 

 

 俺の質問に対して、黒津木は完全に目を逸らして来た。頭までかき始めてどうしたものかと言う態度を表にしだす。

 こういう時催促してもコイツは言わない。必要なのは[圧]。無言の圧力を使って奴の心のチキンを叩き起こして言葉を吐き出させようとする。

 

 

 しばらく経てば観念したように溜息を吐いて話し始めた。

 

 

黒津木「.........[アオハル杯]やるってさ」

 

 

「へぇ。[アオハル杯]って?」

 

 

黒津木「ああ!.........ってか知らねぇの?俺らが学生の頃はやってたぜ?」

 

 

「知らな〜い。俺部活一筋だったし」

 

 

 悲しい事に学生時代は部活と遊ぶこと以外頭に無かった男だ。実際この世界に居てウマ娘の存在を仕事辞めるまで知らなかったんだ。仕方ないだろう。

 そんな俺に黒津木は奇特な人を見るような目をしながら俺に説明してくれた。

 

 

 まず[アオハル杯]というのは[チーム対抗レース]らしい。短距離から長距離。そしてダートまでのレースを競い、三勝すれば勝ち確と言うルールらしい。

 最初に[予選]を行った後、[本戦]へと移る。その期間の長さからトゥインクルシリーズとの折り合いが困難となり、昨今では開催されなくなってしまった。

 

 

 では何故そんなレースがもう一度始まったのか.........それは一人のトレーナー。[東先輩]が直談判したからだ。

 

 

 生徒の意志を尊重していたこれまでのトレセン学園。それを全てとっぱらい、ありとあらゆる事を管理下。そして監視下に置く[樫本理事長代理]のやり方に不満があったとの事。

 同じ意志を持つトレーナー。ウマ娘の署名を集め、それをその日の内に叩き付けた結果。[アオハル杯]での決着で白黒付けよう。という話になったという事だった。

 

 

「はぇ〜。中々やるじゃん」

 

 

黒津木「ところがどっこい。それだけならまだ良かった」

 

 

「ひょ?」

 

 

黒津木「参加の条件にはチーム内メンバーの内[必ず一人]を[特別移籍]させなきゃ行けないらしい」

 

 

「はァ!!?殺されてェのかァッッ!!!」

 

 

 絶対に無理ッッ!!!ウチは参加しません!!!東さん一人でやってください!!!

 いや本当に無理.........マジ無理.........なんでそんな事しなきゃ行けないんだよ.........ウチの子達をそんな事で離反させる訳には―――

 

 

黒津木「言いにくいけどお前のチームから一人出てったぞ」

 

 

「―――へェッッ!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「考え直すんだマックイーンくんっ!!!」

 

 

 優雅な昼下がり.........とは言い難いお昼頃のチームルーム。座っている私の目の前でテーブルに両手を叩き付けるタキオンさんが私を睨み付けていました。

 

 

ライス「ま、マックイーンさん.........本気なの.........!!?」

 

 

タキオン「いいや!!!明らかに判断ミスだ!!!もう一度考えたまえ!!!それをして私達のチームは一体どうなる!!?」

 

 

マック「考え直したとしても出る答えは同じです。これが[最善]だと考えました」

 

 

タキオン「っ.........だからって.........」

 

 

 こうなる事は目に見えていました。しかしだからと言って停滞していては、何が起きても流されるままとなってしまいます。

 私が.........私達が[彼]から学んだ事は[前に進む]こと。どんなに苦しくとも、辛くとも、前にさえ.........一歩踏み出す事さえ出来れば状況は変わるのです。

 

 

ブルボン「.........私は、[賛成]です」

 

 

タキオン「!ブルボンくん!!?正気か!!?」

 

 

ブルボン「チームは現在、マスターが不在です。いつ戻ってくるかも予測がつきません」

 

 

ブルボン「そしてマックイーンさんの離脱により、外部から見ればチームはより壊滅的になります」

 

 

 的確な説明。それによりチームはこれから起こる事実に頭を抱えます。トレーナーさんの不在。私の離脱。チームは完全に崩壊している様に見えるでしょう.........

 しかし、それは逆に言ってしまえば[チャンス]となるのです。

 

 

桐生院「.........そういう事ですか」

 

 

ミーク「?トレーナー.........?」

 

 

桐生院「敢えてチームを壊滅的状況に見せる事で、序盤のマークを[外す]」

 

 

桐生院「それによって、水面下で動ける状態にすると.........」

 

 

マック「.........[トレーナーさん]ならきっと、そう行動していた筈です」

 

 

 仲間の為に、自分の[居たい場所]の為にならば彼はなんだってします。今回この場に彼が居たのなら、きっとチームの事は桐生院さんに頼み、自らを差し出した事でしょう。

 しかしこの場に彼は居ません。ならばその代わりをする者が居なければ.........前に進む事は出来ないのです。

 

 

 私はティーカップに残った紅茶を飲み、一息ついてからそれらを下げました。

 

 

マック「私は[リギル]に移籍します」

 

 

デジ「リギル.........今[花道]さんの居るチームですよね.........」

 

 

マック「他のチームも考えましたが.........一番敵を安心させるならば、やはりそこでしょう」

 

 

マック「私とトレーナーさんが[帰ってくる]までの間.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チームをお願いしますわね―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[アグネスタキオン]さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――彼女は自らの手で書いた書類を手に持ち、扉の前で私に振り返ってそう言い切った。その顔はどこか彼を思い出してしまうほどに.........心の底から[私達]を信じているようだった.........

 

 

 彼女が部屋から出て行ってしまう。それを止める者は誰も居ない。

 全てのチームメンバーが彼女の[決死の覚悟]を感じ取ったからだ。この苦境を乗り越え、必ずまた元の日常を勝ち取るという覚悟を.........

 

 

ウララ「マックイーンちゃん.........」

 

 

タキオン「.........そう悲観しなくても良いよ。学園内ではいつでも会えるさ」

 

 

ウララ「!うんっ」

 

 

 ショックを隠しきれていないウララくんにそっと寄り添う。別にもう会えなくなった訳では無い。一時的にチームメイトでは無くなってしまったが、トレセン学園を辞めてしまった訳では無い。

 

 

デジ「あの、これからどうしましょうか?」

 

 

タキオン「.........まずはトレーニングをしよう。桐生院くん。それで構わないだろう?」

 

 

桐生院「そうですね。[アオハル杯]は[チーム対抗戦]。一戦一戦が[G1クラス]のレースになる可能性もあります」

 

 

ブルボン「同時にチームの人員を補充しなければ行けません。現時点では[短距離担当]が不在です」

 

 

 ああそうだ.........チーム内の適性も考慮しなければ行けない。[中長距離]はともかく、[マイル]と[短距離]。そして[ダート]に穴が有り過ぎる.........

 デジタルくんは[中距離マイル]。そして[芝とダート]と走れるが.........安定を取るならば極力出走レースの適性は固定化させた方が良いだろう。やったとしても[距離適性]のみ。[バ場適性]の頻繁な変更は彼女にも負担がかかる。

 

 

タキオン(.........全く、困ったものだよ)

 

 

タキオン(私がそういう[柄では無い]というのは、知っている筈だと言うのに.........)

 

 

 思わず笑ってしまう。呆れによる物か、諦めよる物か、そのどちらかは定かではない。

 しかしこうして任された。任されてしまった。不本意ではあるが私ならばと彼女は信頼してくれた。そしてその前に彼が私を信じてくれたのだ。

 

 

 ならば何としてでも[守り通す]。この[チーム]を.........チーム[レグルス]という存在を.........何としてでも.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の授業は頭には入って来なかった。だがノートはしっかりとその授業の板書を的確に写せている。後で見返しさえすればある程度の補完は出来るだろう。

 私は全ての持ち物をバッグへと詰め、教室を出た。チームルームへと向かう最中、必死に色々と考える必要があった。

 

 

タキオン(トレーニングの件は心配しなくてもいいだろう。桐生院くんに任せれば彼とやり方は違えど、効果は保証出来る)

 

 

タキオン(問題は.........人員の確保だ)

 

 

 考えども考えども一向に解決策を見つける兆しが無い。今のこの状況。[アオハル杯]に参加するならばどのチームも人員確保は必要だ。

 その中で勧誘は難しいだろう。トレーナーくんの不在。そしてマックイーンくんの離脱は確実に伝えなければならない。

 .........そんな万全とも言えないチームに、一体誰が好き好んで入ってくるものか.........

 

 

 気付けばその解決策を見つけ出す事は出来ないままチームルームの入口に立っていた。

 溜息を吐きながら、これから待ち受ける苦難を考えてその扉を開けた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――よう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「―――は?」

 

 

 .........教室には既にチームメンバーが集まっていた。その中心。彼女達に囲まれている存在が私の方を見て声を掛けて来た.........

 

 

タキオン「な、何故.........!!?」

 

 

「流石の状況に天下のアグネスタキオンも動揺を隠せねぇか?」

 

 

「無理も無いだろう.........先生の不在。マックイーンくんの離脱.........状況は正に陥落寸前のローマそのもの.........っ!!!」

 

 

「身振り手振りがうるせェ.........」

 

 

 中央に陣取る[三人]のウマ娘。一人はチーム[リギル]に所属している筈の[シリウスシンボリ]。そしてもう一人も[リギル]に居る筈の[テイエムオペラオー]。

 最後は.........この事件の原因を見つけ出してくれた恩人。[エアシャカール]。

 

 

 以前と同じ助っ人メンバーが目の前に居る。彼が姿を消した時、私達の目の前に現れて(ほぼ拉致)私達を支えてくれた彼女達が.........

 

 

タキオン「な、何故だ!!!チームの状況は聞いてるだろう!!?」

 

 

シリウス「ああ、あの滅茶苦茶なトレーナーは突き落とされて、お嬢様の方は参加条件の為に[リギル]へ渡ってきた」

 

 

オペ「その際に頼まれたんだ!!もう一度、彼女達と先生を助けてくれないかとっ!!!」

 

 

シャカ「オレはもう首突っ込んじまったからな。これで何もしねェのは寝覚めが悪ィ」

 

 

 それぞれが何ともない様な様子でこの場所に来た理由を言う。マックイーンくんに頼まれたから。もう既にこの事件に関わってしまったから。理由としては申し分ない。

 だがやはり、今のこのチームに来るのは合理的では無い。もっと他に安定した場所があったはずだ。

 

 

 そんな考えが顔に現れていたのだろう。シリウスくんは私の表情を見て察し、そして鼻で笑った。

 

 

シリウス「[アオハル杯]参加には最低一人。[特別移籍]させないと行けねぇ。リギルは大所帯だ。一人や二人抜けた所で大した痛手じゃない」

 

 

シリウス「それに、今流行ってる[AIアプリ]を使い始めてからチームの空気が変わっちまった。どうにもそれが気持ち悪い」

 

 

オペ「ボクもだ。以前まではもう少し自由に時間を取らせてくれたが.........[彼]が来てから一気に変わってしまった」

 

 

タキオン(.........花道くんか)

 

 

 以前までだったらそんなことを言われても信用しなかっただろう。人畜無害と呼んでいい程に好青年だった彼が、今ではすれ違う度に寒気を感じて来てしまうほどの存在になってしまっていた。

 錯覚だったら良かった。これが私の単なる思い込み。[彼]を突き落としたのが花道くんかもしれないと言う無意識下による思考がそうさせているのだと言えた。

 しかし、現状は違う。まるで人が変わってしまったかのように彼は認識されている。誰かがすれ違う度にそれまでの彼と乖離している事を知り恐れる。

 

 

 そんな彼が今やリギルをほぼ掌握していると言われても信じられる位には.........変わってしまったのだ。

 

 

シャカ「兎に角、オレ達はこの[状況]を良しとしてねェ。その為には[行動]しなきゃならねェ。そしてここはそれをするのに.........」

 

 

シリウス「[打って付け]。だろう?」

 

 

シャカ「.........チッ」

 

 

 気怠げな様子でこのチームに来た事の利点を話していたシャカールくんだったが、その最後の言葉をシリウスくんに持っていかれる。

 彼女はそれが気に入らないといって舌打ちをしたが、それには私も同意せざるを得なかった。

 

 

タキオン(.........ある意味では、マックイーンくんの[思惑]が通ったか)

 

 

 チームは壊滅的。例え[アオハル杯]に出たとしても最初は注目を集め切れないだろう。チームのまとめ役である[彼]。そして主柱であり現役最強と謳われる[彼女]が居ない今のチームは.........恐らく他から見ればかなりのパワーダウンをしている様に見られる。

 [アオハル杯]は言わば[バトルロイヤル]。圧倒的力量が備わっているならば注目しなければ行けない。少なくともその注目の的に暫くは定められないだろう.........

 

 

タキオン(全く.........そういう所だけは、[似ないで欲しかった]のだがねぇ)

 

 

 こういう行動を起こすのは彼の専売特許だと思っていたが.........今ではどうやら彼女もそうらしい。彼とは違い話してくれはしたが、余りにも迅速過ぎた。少しは時間に余裕を持って欲しかったが.........お陰で彼女達をこうして迎え入れる事には成功出来たようだ。

 

 

ウララ「これからよろしくね!!」

 

 

ミーク「よろしくの.........握手.........」

 

 

桐生院「人員は増えましたが、[レグルス]にはまだ[短距離選手]が不在です。安心するにはまだ.........」

 

 

シャカ「いいや。[チャンス]はある」

 

 

全員「.........?」

 

 

 未だ不安の様子を見せる桐生院くん。その言葉に我がチームの弱点を思い出し、それを解消できていない事を知る。

 頭を悩ませようとした私達であったが、シャカールくんが制服のポケットからウマフォンを取り出し、一つの動画を再生させ始めた。

 

 

シャカ「今日ネットで話題になってた動画だ。今回の[アオハル杯]は[ヤバイ]ってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆さんにお知らせでーっす!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『[URA運営委員会]は![アオハル杯]と―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――[全てのウマ娘]を応援致しまーす!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よって[トレセン学園未所属参加可能選抜レース]を〜!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『[俺]のポケットマネーで開催しちゃいまーすっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「な、ぁ...ガ.........!!!」

 

 

 ―――画面に映るのは、有り得ない位にスーツを着崩した男。その胸元には[URA委員会]に所属している者が所持を許されている認証バッジが付けられている.........

 

 

 そしてその男は、この場にいる。いや、このトレセン学園に居る誰もが知っている.........この春から姿を完全にくらませ、顔を見る今の今まで忘れていた存在.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [白銀 翔也]が、満面の笑みで映っていたのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......To be continued

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