山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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お久しぶりです。
スマホが壊れて今までの小説データが吹き飛びました。
悲しいです


気付いたらウマ娘としてレースに出走していた話

 

 

 

 

 

白銀「.........はァァァ」

 

 

 

 大きくため息を吐く。カメラの撮影を止めてデータを編集者に送る。要点は完結。間をカットして字幕をつけるようにと指示を出す。

 直ぐに既読が着いて返信も「ウッス」の一言。信頼出来る編集者だ。後は何も言わなくとも一時間後には投稿されているだろう.........

 

 

 問題は―――

 

 

白銀「.........アンタら[常識]って無いの?」

 

 

「「「「.........」」」」

 

 

白銀「.........俺に[常識]を問われるのって相当恥ずかしい事だよォ!!?」

 

 

「「「「うぐっ.........」」」」

 

 

 俺の言葉にショックを受ける四人の幹部達。コイツらが今まで何をやってきたのか。俺はここに来てようやく理解する事が出来た。

 まぁ、簡単に言ってしまえば俺が悪かったのだ。能力があるコイツらが部署の片隅に追いやられているのを可哀想に思い、こうして拾ってやってこういう企画のトップをやらせて見たが.........残念な事にコイツらは[過激派]だったのだ。

 失敗だった。能力的に見りゃコイツらは有能。そんなヤツらがなぜ燻ってるのか深く考えられなかった.........

 そして今の[URA運営委員会]はいわゆる[穏健派]。トレセン学園も学生さんも大切に、仲良くしていきましょうね〜。という奴らがトップだから、自然と対極の派閥は肩身が狭くなる。

 

 

 だがコイツらを見つけてきたのは俺で、採用したのも俺だ。ここは責任をもって連れて行くしかない。

 

 

白銀「良いか?お前らの利益を考えりゃ確かにプロは大事だ。学生レースよりそっちを盛り上げたい気持ちも良くわかる」

 

 

白銀「だったら学生レースにもっと力を入れて、[スター]を出してからソイツをプロに引っ張って来りゃ良いだけの話じゃねぇかっ!!!」

 

 

「「「「.........」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........お前ら[アオハル]舐め過ぎッッッ!!!!!」バゴォ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ヒィッッッ!!!??」」」」

 

 

 何にも反応しやがらない奴らに痺れを切らして俺は遂に怒鳴り声を上げた。ついでに人差し指を机に思い切り突き立てると、そこからヒビが入っちまった。これ経費で落とせるか.........?

 まぁいいや。俺悪くねぇし。悪いのコイツらだし。俺株主だし何とかなんだろ!!!

 

 

白銀「つーわけで!!これからはトレセン学園と手を取り合ってやっていくって訳で!!よろしくっ!!」

 

 

「「「「は、はぁ.........」」」」

 

 

白銀「あ、なんか腹減ったからピザ頼むわ」

 

 

「「「「は?」」」」

 

 

白銀「もしもしピザハットさん?俺白銀。そうそう!ピザ食いたいんだよね。ドミノのツナピザ。作ってくれる?」

 

 

白銀「.........あ?作れませんじゃねぇよッッ!!!オメェはもうドミノのツナピザ作るかドミノに行ってツナピザ買って持ってくるかの二択しかねェんだよッッ!!!良いから持ってこいッッ!!!」

 

 

白銀「ふぅ、んじゃ会議始めようぜ!な♪」

 

 

「「「「」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!!!」

 

 

 割れんばかりの歓声。未だレースは始まっていないというのに会場には観客達が盛り上がりを見せている。余程今日のレースが気になるらしい。

 土曜日の東京競バ場。公式のレース場を持ってしての選抜レース。トレセン学園以外のウマ娘も参加するという前代未聞の事態.........盛り上がらない訳が無い。

 

 

 .........しかし

 

 

タキオン(たった一度きりのレースを見てスカウトをしろだって?冗談じゃない.........残念だが私はそういう事に関しては素人並の眼しか持ち合わせていないぞ.........)

 

 

 事態は殊の外厄介極まりない物だった。走る事に関しては私も他に引けを取らない。それどころか抜きん出ている部分を持ち合わせていると自負できる。

 だがたった一度のレースを見て、[原石]を見つけ出すなど私には不可能に近い.........

 

 

 一体、[彼]は今までどうやって.........

 

 

「.........タキオンさん?具合でも悪いんですか.........?」

 

 

タキオン「.........ああ、[君達]の事もあってね。頭が混乱しているんだよ」

 

 

「まぁそう言うなよ。[チームメイト]だろ〜?」

 

 

 私の頭を悩ませている原因。その二つ目が今隣に居る。長く艶やかな黒髪が特徴的なウマ娘。[マンハッタンカフェ]とそのトレーナーであり、私達のトレーナーである[彼]とは親友の[神威 創]が立っている。

 

 

 彼らとはこの会場の外で合流した。そしてその際挨拶をしながら彼は一枚の封筒を私に手渡して来たのだ。

 中身を見ずともそれがなんなのかは察する事が出来た。私はその事についても頭を悩ませているのだ。

 

 

タキオン「君達の申し出はとても嬉しい。だがやはり[短距離選手]が枯渇しているんだ」

 

 

カフェ「そうですね.........とても難しい問題だと思います」

 

 

「まっ、それも今日で解消されるって訳だ」

 

 

全員「!」

 

 

 背後からそんな言葉を投げ掛けられる。突然の事で驚いて見てみると、そこには私を観戦に誘った人物。トレセン学園の保健室医である[黒津木 宗也]くんが沢山のフードを持って現れた。

 

 

黒津木「ほいタキオン。カフェも居るか?」

 

 

カフェ「!ありがとうございます.........」

 

 

神威「俺の分は?」

 

 

黒津木「美少女ウマ娘になってから出直して来い」

 

 

神威「テメェ殺してやろうか?」

 

 

タキオン「えぇいやめたまえ!!ただでさえ頭がまだまとまっていないのに目の前で争うな!!」

 

 

 突然目の前で取っ組み合いを始めようとする二人。それを急いで諌めると二人ともお互いの顔に唾をはこうとし始めたのでカフェと二人で頭を叩いて止めさせた。

 全く。良い大人が公共の場でやることでは無いだろう?私もいい加減疲れるよ。

 

 

神威「.........んで?お前から聞いた[とっておき]って?」

 

 

タキオン「なに?私は初耳だぞ!!?」

 

 

黒津木「言ってないからねぇ」

 

 

タキオン「カフェ。私は今から警察に捕まるかもしれないが彼をタコ殴りにする」

 

 

カフェ「やめてください。チームメイトになって早々そんな事に巻き込まないで下さい」

 

 

 私の口調を真似する形で彼は両手を広げた。それがあまりにも癪に障ったので彼の襟を掴みあげたが、反省の色を見せては居ない。

 カフェの的確な指摘によって何とか心を落ち着かせて彼を下ろす。

 

 

タキオン「.........それで?その[とっておき]というのは?」

 

 

黒津木「それはお楽しみって事で。ほら、第一レースが始まるぞ。長距離だってさ」

 

 

 彼は私の質問をはぐらかしてこれから始まるレースに目を向ける。こっちは割と真剣だと言うのにこの能天気さ.........本当に呆れてしまうよ。

 

 

タキオン(私に彼の代わりが務まるかは定かでは無いが.........せめてチームメイトの負担が減る人選をしなければね.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計の針の音。

 

 

 時計の針の音。

 

 

 時計の針の音。

 

 

「.........」

 

 

 人々のけたたましい歓声。

 

 

 絶え間ない脈の鼓動。

 

 

 誰かが締め損ねた蛇口の音。

 

 

 全てが一つになって世界を形成する。ここが[舞台]であると知らしめてくる。もう既に自分はそこに立っているのだと.........

 

 

 そこに立つのは久方ぶりだ。[役者]として、[道化師]として自ら立とうとするならば十は容易い。既にそんな年月が経ち、あの日の才能も努力も、そして興味すらも枯れ果てている。

 

 

 だがやらなければ行けない。ここに立った以上、その[道化師]としての責務を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――きゃは☆」

 

 

「[ウエスタンビール]ですっ♪[短距離担当]として頑張りまーっす♡」

 

 

(うおおおおおおげrrrrrrrrrrr)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激しい嫌悪感が俺を襲う。鏡に映る自分の姿を見て俺は思わず目を逸らした。

 

 

 いや、最初は良かったんだ。黒髪ロングで少し暗めな印象のあるパッチリ目の少女。正直どストライクだ。初対面のマックイーンよりも見た目的には俺を射抜いて来ている。

 

 

 だがポーズをとってしばらくしていると、鏡の中に映る美少女が[俺]になるのだ。正真正銘の男の俺が.........可愛らしいポーズを取っているのだ.........!!!

 

 

ビール(くそっ!ダメだ桜木。いやビールちゃんっ!!こんなんじゃ誰かに怪しまれる.........!)

 

 

ビール「俺は.........いや、アタシは美少女.........アタシはウマ娘なんだぁ.........」

 

 

ビール「ふ、ふひ.........」

 

 

 なんともまぁ下手くそな笑みが鏡に映る。素晴らしく可愛いが結局俺の姿が重なってしまう。これでは台無しだ。

 俺はこんなに演技が下手だったのか?

 

 

 いやいや。今はもうそんな事はどうでもいい。今回は初戦。スタートダッシュを決めてタキオンのお眼鏡に適わなければ行けない。

 でないと黒津木に頼んだ意味が無い。とにかく切り替えが必要だ。今は[コイツ]に頼る他ない。

 

 

ビール(持って来といて良かったぜ。ココアシガレット)

 

 

 ブルボンからの禁煙令が言い渡されてかなりの年月が経つが、やはり習慣というのは恐ろしい。見られると誤解を招かれる可能性はあるが.........精神の安定上仕方の無い事だ。

 

 

ビール(懸念点は.........[何か]が[足りない]って事だけだな)

 

 

 レースの事を知り、俺はとにかくトレーニングをした。幸いタキオンの実験トレーニングを続けているお陰で肉体は変わってもあまり身体能力のダウンは見られていない。

 だが以前、公園で見かけたキタちゃんとダイヤちゃん(トレセン入学前)と併走してコテンパンに負けたのだ。

 

 

 そう、[トレセン入学前]の彼女達に.........!!!

 

 

ビール(俺のレースは.........[第三レース]か。ストレッチはしとかないとな)

 

 

 これから始まる初の実戦。トレーニングでは中距離程の距離ならばスタミナが持ったが.........実戦ではやはり勝手が違ってくるだろう。

 そんなどこか恐怖にも、そしてワクワクにも似た何かを感じながらストレッチを始め、ゆっくりと心を落ち着かせて行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきのレース凄かったな!!確か[アウトローレース]の子だろ!!?ありゃ公式でも通用するレベルだな!!」

 

 

「俺はやっぱ[第一レース]の[留学生]に目を奪われたなぁ.........[フランス]からだっけ?やっぱ凄いよなあの国!!」

 

 

黒津木「やっぱ凄いな。この盛り上がり」

 

 

神威「ああ、ムカつくけどやっぱアイツ企画力あるわ。殺したくなってくる」

 

 

黒津木「俺もソウナノ.........」

 

 

 レースは既に第二レースまで終わってしまった。やはり私の目を持ってしても1着。良くて2着までのウマ娘にしか注目が出来ない。

 ここで下手に有望株を引いてしまうと結局注目されてしまう。それだけは何とか避けなければ行けない.........

 

 

カフェ「[留学生].........確か、[リトルココン]さんという名前でした.........」

 

 

タキオン「ああ、もう一人の[ビターグラッセ]くんもこの後出るだろう。[第五レース]だったはずだ」

 

 

 入り乱れた選抜レース。現れた[留学生]。一人は[フランス]。そしてもう一人は[ドバイ]。どちらもレース界では強豪国に名を連ねる国々だ。相手にするならばそれ相応の準備が必要だろう.........

 

 

神威「おっ、[第三レース]が始まるぞ。[短距離]だってさ」

 

 

タキオン「今日の目的はこれだからね。せめて良い選手をスカウトできるよう君達も.........ん?」

 

 

 続々とパドックに入ってくる選手達。[見知った顔]も居るが、今はそれよりも気になる存在が居た。

 青鹿毛のウマ娘。流星も何も無い綺麗な髪をしたウマ娘がこちらに目を向けている。

 

 

 それだけならば気にしなかった。だが彼女は明らかにこちらを見て手を振っている。

 

 

黒津木「あのバカ.........」

 

 

タキオン「知り合いかい?」

 

 

黒津木「まぁ、な」

 

 

カフェ「ではあの人が.........先生の言っていた.........」

 

 

神威「どこで知り合ったんだよテメェ」

 

 

黒津木「お前には教えねぇ〜よ〜!!!」

 

 

 隣でまた喧嘩が始まりそうだが今度は止めない。もう何度もこのやり取りを初めて辟易としている。そろそろスタッフにつまみ出される可能性もあるが、私もそれほど優しくは無い。

 改めてレース場へ目を向けると、そこには手を振るどころか、私達に存在を知らしめる様に飛び跳ねるウマ娘が居た。

 

 

「〜〜〜!〜〜〜!!!」

 

 

タキオン(何をやってるんだ彼女は)

 

 

カフェ(何をやってるんでしょうあの人)

 

 

神威(何をやってるんだあの子)

 

 

黒津木(何やってんだアイツ.........)

 

 

 本当に一体なんなんだ彼女は。まるで知り合いを見つけたかのように手を振るどころか、まるで主人を見つけた子犬のようにしっぽを振って飛び跳ねて.........

 あそこまで馴れ馴れしい存在を忘れるわけが無い。つまり彼女とは面識が無いのだろう。可能性があるとするならば宗也くんの知り合いか.........或いは[彼]の差し金か.........

 

 

 いずれにしろ、今分かることは無い。

 

 

「[ウエスタンビール]さん。ゲートに入ってください」

 

 

 ほら見ろ。ゲート入りが遅いから放送で催促されているじゃないか。

 やれやれと思いため息を吐いていると、ふと隣のカフェが何かを考えている素振りを見せていた。

 

 

タキオン「カフェ?どうかしたのかい?」

 

 

カフェ「っ、いえ.........多分、なんでもありません.........」

 

 

 口元に手を当てて何か自分の中で思いを巡らせていたが、私の質問に返すのと同時に彼女はそれを止めた。

 そこで止められるとどうにも気になってしまう。しかしそれを遮る様に出走準備の実況が耳に入って来た。

 

 

「東京レース場第三レース。距離は短距離です」

 

 

「バ場状況は非常に良好。各選手それぞれのポテンシャルが遺憾無く発揮される事でしょう!!」

 

 

「各バ体勢に着きまして―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――今スタートですッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガコンッッッ!!!!!

 

 

 ゲートの扉が開いた瞬間。身体が前へと自然に進む。参加者は七人。その先頭に走る逃げ二人の後ろに着いて走っている。

 作戦はもちろん[先行策]。これしか勝つビジョンが思い浮かばない。

 

 

ビール(まぁでもっ、そのビジョンすら曖昧なんだよね.........!!!)

 

 

 現実は非情だ。どんなに勝ちに徹してもそれが見えてこない時もある。勝ち筋も勝ちパターンも己の経験としては未熟にも程がある。

 果たして勝てるのか?そんな事は聞く意味も無い。勝敗に対してモチベーションでやりくり出来るならそれは手を抜いているのと同じだ。そんなもので揺らぐほど甘い世界じゃない。

 

 

 ではこう考えよう。今の俺に[部]はあるのか?この子達より秀でている部分はあるか?

 それならば答えられる。[アドリブ力]だ。

 

 

 コーナーを曲がる前の辺り。それぞれの立ち位置を目視と気配。そして空気の振動。地面の揺れ方から察して凡その位置。距離を把握する。

 土壇場でそれが出来る[スキル]。冷静さと[思考加速]が必要だが、物にすれば容易いものだ。

 

 

ビール(っ、だけどやっぱ。考えるより[反射的]にやりたかったけどなぁ.........!まだ慣れてねぇかっ)

 

 

 [思考加速]の更に上。[反射運動]の領域に達すると一気に脳のリソースが空いてくる。視界の情報を言語化すること無く身体が判断し最適解を導き出しその通りに動く。

 体感的には.........およそ[1000時間]費やせば物に出来るだろう。しかしその時間ただトレーニングをするのではなく、純粋にこの[展開]の中を[1000時間]過ごし、そして解を導き出す事が必要だ。

 もちろんまだそこの領域に達しては居ない。現時点ではまだ[10時間]程度。まだまだ脳がその思考をして取捨選択しているに過ぎない状態だ。

 

 

ビール(これ以上になれるかは分からないけど.........それを目指さないとこの[先]は―――)

 

 

 そこまで考えた。そこまで考えて、コーナーに入って行ったんだ。

 

 

 短距離。[1400m]。そんなもの直ぐに終わる。人間ならまだしも、ウマ娘としての能力で走ってしまえば数分経たずに決着が着く。持久走とは訳が違う。

 この距離でのカーブは正に[正念場]。勝負所だ。気を引き締めて望まなければならない.........

 

 

 だが―――

 

 

ビール(―――ッ)

 

 

 身体に電流が走る。いや、そんな生易しい物じゃない。[雷]に打たれたような衝撃が走る。

 

 

 これだ。あの子達と併走した時も確かこの場所で打たれた。

 まるで、ここに居るべきでは無いと[神様]に裁かれた様な感触.........それが、俺の身体を酷く蝕み痛みを与えてくる。

 

 

ビール(何が.........俺に何が足りねぇって言うんだよ.........!!!)

 

 

 俺はここで走っているウマ娘の誰よりも[走り]を見てきた。そして[教えてきた]。

 時には己の身体でトレーニングの効果を試し、彼女達にどれほどの力をもたらすかも検証して来た。

 それを今度は自分に施した。短期間ではあったが十分に走れる程にはなったはずだ。

 

 

 だが.........それでも身体はまるで[デバフ]をかけられた様に体力を吸い取られ、言う事を聞かなくなっていた。

 

 

 そんな焦りと失望の中、コーナーが終わり切る間際。前に走り行く彼女達の後ろ姿を指を咥えて見ていると、俺の後ろでじっと息を潜めていた一人がその存在感を示し出した。

 

 

「―――ッッッ!!!!!」

 

 

ビール「なっ.........!!?」

 

 

 とてつもないスピード。そして瞬発力。短距離戦でありながら、思うように動けなくなった俺の後ろに居た[差し]のウマ娘。本来だったら既に絶望的な位置。

 だが、彼女は確かに俺の視界の横から突然現れ、そして前に走る五人を一気にごぼう抜きにして行った.........

 

 

「なんとっ!!ここに来て4番が前に出てくる所か!!先頭に躍り出たぞ!!!」

 

 

「短距離レースでこれほどの追い込みッッ!!!逃げのウマ娘を躱しッッ!!!まさかの[追い込み]で勝利をもぎ取って行った―――ッッッ!!!!!」

 

 

ビール「はァ......!はァ......!」

 

 

ビール(.........クソッ、汗が止まらねぇ.........!)

 

 

 最後にゴールしたウマ娘から一バ身も離されてようやくのゴール。先が思いやられる中、息も整わず汗も止まらない。

 対策不足か、練習不足か。恐らくそのどちらでもないのだろう。俺に足りないのはそれらで補えられる程簡単な物じゃない。それは今回のレースで思い知った。

 

 

ビール([七着].........へへ、[俺の始まり]にしちゃ、割といい数字なんじゃねぇの?ビリッケツだけど)

 

 

 俺にとっては思い入れのある着順。しかしその時と今とではその価値に大きな違いがある。素直に喜んでいる場合じゃない。

 俺はとりあえず掲示板の方へと目を向けた。

 

 

ビール(うわっ、あそこから捲って一バ身差かよ.........一体どんな―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はァっはァっはァっはァっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一着で走り抜けた子の後ろ姿。肩で息をして両手を膝についている。レースをしたら誰だってそうなる。全力でやって息が上がるのは仕方の無いことだ。

 しかし明らかに様子がおかしかった。息を吸おうとしても吐く事しか出来ない。まるで[過呼吸]の状態。曲げた背中を更に曲げて行く姿を見て俺は思わず駆け寄った。

 

 

ビール「おいっ!大丈夫か!!」

 

 

 「.........っぁ」

 

 

ビール「っ!!?マジか.........!!!」

 

 

 俺の言葉に返事も反応も返さない。彼女はただ自分の呼吸を整える事に集中していた。

 そして結局それは整え切れずに、彼女は足から脱力して行った。

 

 

 倒れて行く体を支える。倒れる少女を支えるのはこれで何回目だろう。何度経験してもそうさせてしまった自分の無力さを思い知る。今回はその限りでは無いのだが、それでも嫌という程に思い知らされる。

 

 

ビール「おいっ!!大丈―――」

 

 

「―――た、なきゃ.........」

 

 

ビール(.........おいおいおい、嘘だろ.........!!?)

 

 

 抱き抱えてようやく、その顔が見える。走っている時は気付かなかった。後ろ姿を見た時も。

 けれど今になってようやく、彼女が誰で、どんな名前なのかがはっきりと分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [エメロードシエル]。それが、彼女の名前だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエル「[ウララ]ちゃん、みたい、に.........なって」

 

 

シエル「[リギル]に.........入っ.........て.........」

 

 

ビール「っ、分かった.........頑張ったな。もう良いんだ。後は.........大丈夫だから」

 

 

 強ばっていた彼女の表情が緩む。ようやく俺の声が届いてくれたんだろう。その変化に俺は少し安心した。

 そして間もなく運営スタッフが担架を持って慌ててやってくる。彼女をそこに乗せ、ターフから姿を消して行った.........

 

 

ビール(.........[リギル]だって?そんな訳ないだろ)

 

 

ビール(いくら人員不足だからって、あそこ程のネームバリューがありゃ短距離だって一声かけりゃ集まってくる筈だ.........!!!)

 

 

 ふつふつとした怒り。どす黒い色の感情が緩やかに広がっていく。握り締めた拳は力が入りすぎてギチギチと震えている。

 [リギル]は強大だ。今現状の噂は俺も知っているが、それでもあのチームで走れるならばと思う子は少なくない。

 

 

 そんなチームがわざわざ、学園外のウマ娘も走るレースを見てスカウトなんてするはずがない。メリットも無いし、部外者を入れて輪を乱されるリスクもある。

 

 

 そしてその怒りはやがて俺には扱えない程に大きくなって行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒津木「おいおいっ!!シャレになんねぇぞマジで!!!」

 

 

タキオン「落ち着け宗也くんっ!!気持ちは分かるがここから飛び降りたら君だって怪我するぞ!!!」

 

 

 レースの一部始終を見終えた私達は、その結末を見届けた。見知った顔のそれは、私達の思考を大きく乱すには十分すぎる瞬間だった。

 

 

 [エメロードシエル]。距離適性は中距離寄りのマイル。バ場適正は[ダート]。パワーがある分後方の捲りが武器のウマ娘だ。

 彼女は元々[ウララ]くんのクラスメイトであり、友人だ。[有馬記念]に彼女が参加すると知ってトレーナーくんに直談判しに来るくらいには優しい子だった。

 

 

 そんな彼女が、距離もバ場も合わないこの場所を走った。気付いた時には血の気も引いた。

 

 

カフェ「.........距離適性、合ってないんですよね.........?」

 

 

神威「そうだ。その上バ場も元々[ダート専攻]。スピードの出過ぎる[日本の芝]に慣れてないと、そのダートで培ったパワーで足を潰される可能性だってある」

 

 

神威「最悪、[一生ベッドの上]。だ」

 

 

黒津木「クソ.........!!!」

 

 

 会場は混乱していた。折角のヒーローがこんな形で姿を消すのは誰も想像出来ていなかった。私達でさえも、責めて終わってからのケアはしっかりして欲しいという話をしてからのこれだ。非常に気持ちが落ち込む。

 宗也くんもそのイラつきを鉄柵にぶつけるように拳を叩き付けた。

 

 

タキオン「.........今は彼女の無事を祈るしかないだろう」

 

 

神威「そう、だな」

 

 

カフェ「.........?待って下さい。何か.........[変]です」

 

 

 突然、カフェが周りを見始める。誰かを見ていると言うより、空間を見渡している様に感じられるその動作に私達も異様さを感じ始めた。

 彼女の[霊感体質]は侮れない。科学的では無いと言われるかもしれないが、未だこの世には化学で照明できない事態の方が多い。私もそれを知っている。

 

 

 やがて彼女はもう一度その目をターフに向けると、それ以降一切視線を動かす事は無かった。

 

 

カフェ「!あの人.........」

 

 

タキオン「あれは.........[血]か!!?」

 

 

黒津木「っ、何やってんだアイツ!!?」

 

 

 顔を伏せながら立ち尽くすウマ娘。強く握り締められたその手からは雫が垂れ落ちており、その下のターフに赤黒いそれを染み付かせて居た。

 

 

 そして.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然。彼女の長い青鹿毛の髪の毛がぶわりと舞い上がった。風も無い中でそれが起こり、その光景に呆気に取られていた瞬間.........

 

 

 無数の[鎖]が、彼女の中から観客席に向かって[放出]された。

 

 

タキオン「なっ!!?」

 

 

黒津木「タキオンっっ!!!」

 

 

 彼女から放たれた鎖が私に向かってくる。それに反応出来ずに居たが、すんでのところで宗也くんが私を抱えて伏せてくれた。

 安心しながらも周りの様子を見ると、誰もその事に関してまるで関心が無い。まさか、見えているのは私達だけというのか.........!!?

 

 

神威「っ、なんだよあれ.........!![未来]で見た夢みたいな[鎖]じゃねぇか!!?」

 

 

カフェ「い、今はとにかく、身を隠した方が.........」

 

 

 ジャララララ!!![ガチン]ッッッ!!!!!

 

 

全員「.........ん?」

 

 

 縦横無尽に振るわれていた[鎖]。その内の私達に向けられている一本が突然、何かに[はまった]様な音を立てた。

 恐る恐るその方向を見ると、何も無い所で突然静止していた。

 

 

タキオン「な、なんだ.........?」

 

 

黒津木「マジでふざけんなよっ.........?お前らどうした?」

 

 

二人「」

 

 

 

 

 

 ―――拝啓 神様へ。

 

 

 お元気にしておられますか?私は絶賛困惑中ですこんちくしょう。今私はありえない状況が目の前で起こっていて頭を悩ませています。

 もし運命という物が存在し、これがその運命に基づく展開だと言うのなら私は貴方を許しません。

 

 

タキオン「.........な、なぁカフェ?まさかとは思うが、そこに居るのはもしかしなくとも.........」

 

 

カフェ「.........わ、私の[お友達]が居ます」

 

 

タキオン「oh.........」

 

 

 どうしよう。いやマジでどうしよう!!?なにこれ!!?今までこんな状況になった事ないよ!!?

 これマジでどうなんの!!?俺さぁこれさぁ!!!マジで嫌な予感すんだけどさぁ!!!そんな事には絶対ならないよねぇ!!?

 

 

カフェ「は、早く引きちぎりましょう!!!」

 

 

神威「んな無茶な!!!」

 

 

黒津木「やっちまえ創っ!!!空手黒帯の実力見せてやれ!!!」

 

 

神威「俺は[型専攻]なんだよッッ!!!つかお前もちっとは抵抗しろよォ!!!」

 

 

 発破を掛けられて[コイツ]に繋げられちまった[鎖]を引き抜こうとしてみる。だけど全然引き抜けない。

 つうかコイツも余りに突然の出来事すぎて思考が追いついてない気がする。いつもだったらもっと暴れ狂う筈だし、もっと俺の耳鳴りが凄い気がす―――

 

 

 ―――グイイイインッッッ!!!!!

 

 

カフェ「あっ!あああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

タキオン「危ない!!!落ちるよカフェ!!?」

 

 

カフェ「はな、離して!!!私の事は良いから!!![お友達]が!!!私のお友だ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――キュッポン♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「え」

 

 

神威「ヘェ!!?」

 

 

黒津木「oh.........」

 

 

カフェ「」

 

 

 な ん と い う 事 で し ょ う

 

 

 鎖に繋がれたカフェのお友達はそのまま引っ張られ、あのウマ娘の中へ入って行ったではありませんか.........

 

 

 いやこれどうすんの!!?カフェなんかもう余りに衝撃すぎてぐったり意識無くしてんだけど!!?なんなら魂っぽいのが口から出て行ってる気がするんですけどォ!!?

 

 

 それになんかあのウマ娘も前髪に[流星]が急に浮き出て来たしっっ!!!なんなの!!?キン肉マンII世かなんかなの!!?

 

 

タキオン「な、何が起きているんだ!!!誰か説明してくれ!!!私はもう何も考えたくないっ!!!」

 

 

黒津木「創ェ!!!何がどうなってんだ!!!」

 

 

神威「あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!」

 

 

二人「おお!!」

 

 

神威「俺はお友達があのウマ娘の中に引き入れられる所を見たと思っていたら、いつの間にかカフェを抱き抱えていた.........」

 

 

二人「は?」

 

 

神威「な、何を言ってるか分からねぇと思うが、俺も何が起きてるのか分からねぇ.........女の子特有の柔らかさとか、石鹸の香りとか、そんなちゃちなもんじゃねぇ。男にとっちゃもっと恐ろしい物の片鱗を味わってるぜ.........!」

 

 

タキオン「現在進行形で味わうなバカ!!!」

 

 

黒津木「あ〜もう滅茶苦茶だよ〜!!!」

 

 

 もう現場は滅茶苦茶だった。俺達の頭もぶん殴られたみたいな衝撃を与えられたし、周りの観客も未だ立ち尽くすウマ娘に不安を感じている。

 そして、そのウマ娘は未だその顔を上へと上げずにいる。

 

 

 次第に俺達も落ち着きを取り戻して行く。冷静さと冷たい静けさを心に宿しながら、とにかく今は事の行く末を見る事しか出来ないと悟った。

 

 

 そして.........彼女は顔を上げたと同時に、[怒号]を響かせた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[アニマ]ァァァァァ―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[見つけた]。奴と今、[繋がった]。確かな感覚だ。煮え付いた怒りを1点に叩き込むための[槍]にして今、俺は奴の居る方向へと目を向ける。

 

 

 そしてそこに、[アイツ]は居た。人混みに紛れて、どこにでも居るような顔をしてじっと俺を見ていた。

 

 

 だが俺がその[名]を叫んだ時。まるでソイツは学校の先生が生徒の解答を褒めるように目を細めて拍手のジェスチャーを俺に送った。

 

 

 .........[花道]の姿で、ソイツは下卑た笑みを浮かべているんだ。

 

 

ビール「俺は別に.........[正義の味方]とか、[悪の使者]とか何でもねぇ.........!!!」

 

 

ビール「けど.........!だけど.........!!!」

 

 

ビール「お前のやってる事は.........!!!ただ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ただ残酷なッッ!!!だけじゃねェかァァァァァッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........もう、何が起きているのかは[理解]出来た。この奴と繋がった[鎖]が俺に教えてくれている。

 アイツはもう殆どが[アニマ]だ。ここから流れてくる物はあの暗い空間と同じくらい気持ちの悪い物で満たされている。

 

 

 そして、それと同時に送られている[記憶]。そこからは奴が言葉巧みに[彼女]を誑かし、このレースに出走させている記憶だ。

 .........もちろん、そんなつもりなんて無い。端からのでまかせだったんだ。

 

 

「.........♪」

 

 

ビール「ッッッ.........」

 

 

 それでも、奴は俺の怒号にそれほど反応は示さない。終始気持ちの悪い笑みを浮かべていたが、わざとらしく腕時計を見て時間を確認した後、俺を煽るようにその手を振って観客席から立ち上がった。

 

 

ビール(見とけよ[クソ野郎].........!!!)

 

 

ビール(俺は絶対.........[奇跡(テメェ)]を―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――[超えてやる]からな.........ッッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人々の歓声。レースの地響き。それを耳と肌で感じ取りながら私は静かに目を閉じていた。

 場所は地下バ道。その壁に寄りかかり、一人のウマ娘をただ待っていた。

 

 

タキオン(.........本当に、有り得るのだろうか?)

 

 

 頭の中で組み立てられた推理。証拠も何も存在していないそれに信憑性などどこにも無い。

 

 

 だが、どこにも無いからこそ[信じられる]のだ。あの[男]はそういう存在だ。常識や定石なんぞ軽々しく覆してくる。

 もしそうだとしたら.........真意を聞かねばなるまい。

 

 

 私を含めた四人。正確には一人意識を失って司書くんにおぶられているが、会話もなくただひたすらに時間だけが過ぎていく。

 そして、控え室から私服のウマ娘が出てきた。

 

 

 フラフラとしたおぼつかない足取りで現れ、私達の目の前に来た所でようやく顔を上げた。

 そしてやはり、レース前には無かった[流星]が今でもくっきりと見えている。

 

 

「?.........あぁ、初めまして」

 

 

タキオン「.........何のつもりだい?」

 

 

「はは、ごめんね。体調悪いんだ。話ならまた今度にしてくれる?」

 

 

 彼女は私の言葉を軽く払う様に返事を返した。見たところ本当に体調が悪そうだが、それでも聞かなければいけない。

 

 

タキオン「君は、[私の知っている君]は、もっと別の姿をしていた筈だ。どういう事だ?」

 

 

「どういう事って。そんなの決まってんじゃん」

 

 

「[何でもするよ]。チームの為ならね」

 

 

タキオン「っ.........」

 

 

 今度は力強い返答が帰ってきた。真っ直ぐな目で射抜かれる様に見つめられて私はつい、動揺を隠す事が出来なかった。

 もうこれ以上話すことは無い。それを表すように[彼]はまたフラフラと俯きつつも歩き出す。

 

 

「.........待って下さい」

 

 

全員「!」

 

 

「?」

 

 

 それに待ったを掛ける者が居た。それは先程まで気を失っていたマンハッタンカフェだった。

 彼女もまた気怠げな様子を見せながら司書くんの背中から降り、彼女の前へと立ち塞がる。

 

 

カフェ「.........[どっち]ですか?」

 

 

「どっち?どっちかぁ〜.........」

 

 

 腕を組んで目を閉じながら歩き始める。どこまで行くのかと思いその様子を見守っていると、そのまま私達にぶつかりそうな勢いでこちらまで来ていた。

 それに驚いて避けると、やはり止まる気など無かったようでそのまま私達に背中を向けてまた少し歩く。

 

 

 そして止まったのは私達から数メートルほど離れた位置だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........まだ[俺]♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って、彼は振り返った。

 

 

 その表情は[何とでもしてくれそうなニカっとした笑顔]であり、彼を象徴する物だった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........ッ、ゥァ」

 

 

 耳にけたたましい程の音が鳴り響いてきやがる。沈んでいた意識を引っ張られるようにオレは目を閉じたまま身動ぎをした。

 いつもだったら少し経てば収まる音。確か[アラーム]だったか?それが止む気配を一切感じられない。

 

 

(ンだよ.........寝坊か?珍しい事も、あんっな.........と)

 

 

 普段だったら優しいオレ様ちゃんだ。起きてくるまで別に止める事はしねェがここまでうるさいと話は別。オレの瞼は今超重いんだ。

 きっと許してくれるに違―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――待て、どうして[止められた]?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッッッ!!!!!」

 

 

 オレはその場でいつもの様に[跳ね浮き上がった]。だがまるで[身体]があるように地面に脚が着きやがった。

 ひんやりとした感覚。それを感じるのと同時に、その冷たさはオレに何が起きたのかを思い出させた。

 

 

「おいおい.........おいおいおいおいっ!!!」

 

 

 フラフラとする身体。思わず両手を地面に着けて移動したくなったが、[以前と違って]そういう風にはこの身体は作られていねェ。

 壁に身体を持たせて這うように移動する。二本しか脚がねェって言うのは中々不便だった。

 

 

(ふ、ふざけんじゃねェ.........!こんなの[アイツ]のギター聞いてた方がマシまであるッッ!!!)

 

 

 考えられる展開。オレはそれを脳裏に過ぎらせながらも希望を捨てずに居た。

 そうさ。何かの間違いだ。これはまたオレ様ちゃんが寝ぼけて悪さしちまったに決まってる。現状を確認したら直ぐにこの身体から離れて謝り倒しァ済む話だ。

 

 

 見た事もない部屋の中のドアを開け放って行く。オレはとにかく[鏡]を探した。それさえ見りゃ一発だ。オレが今どんな状況になっているのかなんてすぐにわかる。

 

 

 そして玄関近くの扉を開けた瞬間。日本の風呂場特有の匂いが鼻を通ってきた。確か[塩素]とかって言った。

 ここになら鏡はある。ここで白黒付けられる。

 

 

 オレは目を瞑りながら中へと入って、壁に手を突き出してそれを探した。

 

 

(っ!あった.........!)

 

 

 ひんやりとした感覚。両方の手からしっかりと伝わってくる。後は目を開けば全てが確定する。

 オレはゆっくりと、[目覚める]ようにその目を開けた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――Jesus」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........[鏡]には写っていた。ハッキリとした[顔]。[身体]。そして[耳]までも.........嘘偽りない[アイツら]と同じ姿が、目の前に立っていた。

 乾いた笑いを発しながら頬に触れる。やはりハッキリとしている。

 

 

「は、ハハ.........ンだよこれ.........お、オレ様ちゃんの[ハンサム顔]がこんな、ちんちくりんに.........」

 

 

 受け止めきれない現実。顔のありとあらゆる所を触り、胸を触り、そしてオレ様ちゃんの立派な物があった場所に手を伸ばし掛けたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガタッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

 

 その手を止めて振り返った。だが俺は、直ぐに後悔した。

 

 

 そこには、まるで幽霊みたいに宙に浮いた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [ツンツンヘアー]の[悪人面]が、そこに居た.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「―――くぁwせdrftgyふじこlpッッッ!!!??」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百九十二話

気付いたらウマ娘としてレースに出走していた話

 

 

 

 

 

第百九十二話

[鬨偵′縺励>蝨滓屆譌・縺ォ謔ェ髴翫?逶ョ隕壹a繧]

 

 

 

 

 

第百九十二話

[騒がしい土曜日に悪霊は目覚める]

 

 

 

 

 

......To be continued

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