山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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マックイーンの誕生日に本を通して静かに愛し合う話

 

 

 

 

 

 4月3日。それは私にとって特別な日であり、多くの人にとってはなんてことは無い、普通の日。

 普段は食べない様な豪華な料理。以前は見飽きる程に見てきたけど、目の前に居る人と食べるのはまだ数えるくらいで、このテーブルや椅子。周りの空間とも齟齬が生まれる。

 

 

 人生で二十数回目の誕生日。子供の頃は大人は自分の歳を数えなくなるなんてデタラメだと思っていたけれど、こうしてなってみると、数えなくなるのではなく、数えたく無くなると言うのが正しい事が分かってきた。人は誰しも、歳を取りたくない。

 

 

 けれど、目の前に居る彼はそうでは無い。私以上に歳は上だと言うのに、毎年毎年、今年は何歳になった。去年より小じわが増えたと嬉しそうに報告してくる。

 その癖して、私と並んだ時にいつ介護をする娘とその父親に間違われるかを怖がって、最近はスキンケアや昔にやっていたトレーニングを再開している。

 

 

 そんな彼との誕生日。一緒に居るだけで毎日幸せだけど、今日という日はそれに合わせて、彼からのサプライズプレゼントが用意されている。

 去年はペンダントを貰った。一昨年はお揃いのマグカップ。今年も何か形に残る物を貰えるだろう。そう思っていた。

 

 

「これは.........本?」

 

 

 彼から渡された物は、一冊の本。その表紙はどこか新しくも、懐かしさを感じる。

 手触り、字体、絵、そして紙の匂い。それを捲る音。最近は忙しい日々を過ごしているから、本なんて全く読んでこなかった。また読み直すには丁度いい機会かもしれない。

 

 

 けれど意外だった。まさか彼から本をプレゼントされるだなんて、思ってもみなかった。サプライズとしては大成功なのだろうけど、そんな得意げな顔で笑顔を向けてくる彼に、私は少し悔しさを感じた。

 

 

「あの、どうして本を?」

 

 

 そう聞くと、彼は恥ずかしそうに話し始めた。自分はめっきりセンスが無いのだと。

 今まで何とか取り繕ってアクセサリーや小物を買っていたが、先日は完全に最早微々たる物しか無いなけなしのセンスが、完全に枯れ切ったと察した。

 結局お店の中をただ徘徊するだけで何も見つけられずに帰ろうとすると、古い書店を見つけたと言う。

 こんな所にあっただろうか?そんな疑問を感じつつも、彼は引き寄せられるようにそこへと足を踏み入れた。

 引かれるようにして踏み入れたその店で、彼は惹かれるように一つの本を見つめた。タイトルは当たり障りの無い物。

 けれどそれは、彼の手をひとりでに伸ばす程の引力を持ち、触れ合うと温かさが広がったと言う。

 結局そのまま、店主にお金を渡し、本を買ったと言うのです。

 

 

「嬉しいです。でも.........」

 

 

「私が独りで読んでも、共感する相手が居ませんわ.........」

 

 

 視線を斜め下に下げながらそう言うと、テーブルに何かが置かれる音がした。

 

 

 その方向を見ると、そこには私の手に抱かれている本がもう一冊、そこに置いてあった。

 

 

「一緒に読む.........?」

 

 

「.........ふふ、そうですね。そうしてくれると私も嬉しいです」

 

 

 そうして、二人の奇妙な生活が幕を開けた.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一緒に居る。けれど、一緒に居るだけ。

 

 

 朝起きて、顔を洗って、ご飯を食べて、歯を磨いて、どちらかは仕事に。或いはどちらも、ある時はどっちも家に居る。

 

 

 そんな毎日が続くけど、彼との会話は減った。

 

 

 本があるから。

 

 

 彼の隣で。時には向かい合って。ある時は別の部屋で。

 

 

 会話も無く、ただ静かに二人で本を読む。

 

 

 切り上げるタイミングはどちらかのお腹の音がなったり、欠伸をしてしまえば、一旦おしまい。

 

 

 それでも、毎日が素敵だった。

 

 

 誰かと時間を共有している。そんな気になれた。

 

 

 でも、普通はもっと話すものでしょう?と人は言うかもしれないけれど、これは私と彼が決めた事。

 

 

 そのお話があまりにも面白すぎて、すぐに感想会を開いてしまう。それをするのは本当に最後。大切な、本を読み終わった後に取っておく最高の楽しみ。

 

 

 朝日でページを日光浴させ、美味しそうな匂いを表紙に嗅がせ、月の光を浴びた菊の栞を挟んで次を温める。

 

 

 そんな毎日が過ぎ去って、栞を抜き取り、本をテーブルに置いたと同時に、彼は別室からリビングへと顔を覗かせる。

 

 

 その手にはいつも持っていたはずの本がなかった。つまり、彼も読み終わったという事なのでしょう。

 

 

「おかえりなさい。どうでしたか?」

 

 

 私の問いかけに彼は、良かったとだけ言って満足そうに笑顔を浮かべました。そしてそのまま私の向かい側へ座り、しばらく見つめ合います。

 

 

「.........では、始めましょうか?感想会」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「念の為聞いておきますけど、ちゃんと内容は読みましたか?」

 

 

 向かいに座る彼に対して、私はしっかり読んだのか問い掛けました。彼は勿論、とすっぱり言ってから、どうして?と逆に質問をしてきました。

 

 

「うふふ、聞いてみただけですわ」

 

 

「でも、貴方が嘘を吐く時はいつも歯切れが悪いですから.........聞いてよかったです」

 

 

 嘘をつく時、彼はいつも視線を泳がせたり、少し間を置いて返事を返します。今回はそれが無かったので、本をしっかり読んだのだと安心しました。

 

 

 そんな彼を疑った私に、彼は怒ることはせずよく見てるね、と感心を抱いて静かに呟きました。

 

 

「!あ、いえ!いつも四六時中見ている訳では.........け、決して無いと言いますか.........」

 

 

「.........え?私が嘘をつく時も歯切れが悪い.........?」

 

 

「.........いじわる」

 

 

 目の前に居る人はイタズラが成功したような笑みで私を見つめてきます。本当、酷い人です.........

 そんな日常的な会話もそこそこに、私は本題の感想の方へシフトさせます。

 

 

「コホン、ではこの本をしっかりと。隅々読んだという事で詳しい事は省きますわね」

 

 

「この本の内容は短編集.........のようでいて、しっかりと読めばそれぞれが繋がっている事が分かります」

 

 

「過去、未来、そして現在。話数も多い上に順序もバラバラですので正しく並べ替えるのは大変ですが、とても良いお話でした」

 

 

「貴方はどのお話が印象に残りましたか?」

 

 

 彼の目を見つめながら私は問い掛けました。少しばかり首を傾げて考えていましたが、その表情からどれも甲乙つけ難いお話だったというのが見て取れます。

 次第に一つのお話に絞る事の出来た彼は、その口から彼なりの答えを導き出しました。

 

 

「登場人物達の姿を見ていた小鳥が飛び立つお話.........ですか?」

 

 

「.........そうですわね。お話の都合上、気が遠くなる時間の経過があるのでそれが比喩なのか、それともあの世界特有の存在なのかは分かりませんが、私もそのお話がとても印象に残っています」

 

 

「人々の成長を見ていた小鳥は最後、自分も彼ら彼女らに憧れを抱き、それに続きたいと願いながら大空を羽ばたいて行く」

 

 

「そして小鳥はやがて、立派な成鳥となり。見る人に憧れを抱かせ、勇気を与える存在になる.........」

 

 

「きっと小鳥は、沢山の勇気と物語を栄養にして、今度は多くの人々にそれを与える存在となったのですね」

 

 

 脳裏にその情景を思い浮かべながら、私は目を閉じました。

 この本には決まった主人公は居ません。主観となる人物は居ますが、話が変わればその主観もまた変わります。

 ですが、その人達の転換期に。そして大きな決断を迫られた時に、その小鳥は姿を現します。

 何かを問いかける訳では無く、そしてその存在を主張する訳でもない。この小鳥が主観になる話以外は全て、お話のディテールとして描写されています。

 その光景を思い浮かべていると、不意に彼から問い掛けられました。

 

 

「え?私の印象に残ったお話ですか.........?」

 

 

「.........やはり、ロケットの太陽。でしょうか」

 

 

「遥か未来。人類は地球の限界を感じて、その原因を調べた」

 

 

「その結果。それが太陽の衰弱だと知った人類は、太陽に燃料を与えるべく、ロケットに膨大な化学反応材を詰め込み、それを打ち上げる」

 

 

「その中で様々な意識や価値観の対立が起き、自然の中で死んで行くのを良しとする者。若者の未来の為に全力を尽くす者が居て.........」

 

 

「最終的にロケットは打ち上げられ、太陽の寿命は大きく引き伸ばされました」

 

 

 その話は、この本の中でも深く考えさせる内容でした。

 

 

 正しさとは、正義とは、未来とは、人間とは.........

 

 

 この本の中では一番未来のお話でしたが、この先もこの世界は続くのだと。読者が知らないでも、この世界は生き続けるのだと言われている様なきがしました。

 

 

 そして何より、人々の対立。どちらも見方によっては正しくあり、間違っても居る。

 人間は自然の一部だと強く思うのなら、星の寿命を受け入れ、それに抗うこと無く運命を共にする。

 今生きる者の未来を強く思うのなら、できうる限りの事をし、自分達の紡いできた物を自分達の手で、納得の行く終わらせ方をする為に運命に抗う。

 妥協と徹底。潔さと悪足掻き。どちらも人間が持つエゴでありながら、美しさと醜さを併せ持つ。

 そしてこの物語はそれを対照的に描きながらも、読者をそれぞれの立場に立たせるお話でした。

 

 

「一つ、よろしいでしょうか?」

 

 

「貴方がこのお話と同じ立場になった時。どちらを選択しますか?」

 

 

「星と共に寿命を全うするのか、それとも。未来の為に運命に抗うのか.........」

 

 

 どちらも難しい選択だと思います。私だったらきっと何日も考えて結論を出しても、少し経てば、きっとまたその答えを変えてしまうでしょう。

 それでも彼は、悩む素振りを一切見せずに結論を出しました。普段見せる優柔不断さなんて微塵も感じさせずに、その答えを私に聞かせました。

 

 

「.........そうですか。星と運命を」

 

 

「それも良いと思います。人間という一種族の意思だけで星の寿命という大きな都合を捻じ曲げるのは、私も気が引けますから」

 

 

「それに、貴方らしい優しさも感じられる.........」

 

 

「.........え?自分一人だったら?」

 

 

「私が一緒に居たら.........運命に抗う?」

 

 

「.........もう、恥ずかしくないんですの?」

 

 

 彼が真面目な表情そんなことを言うものだから、つい呆れてしまいました。けれど、自然に上がってしまう私の口角はきっと隠せていません。

 そんな中で、彼との談笑は続いて行く。あの場面はどうだった。あの時この人はどう思ったのだろうか。何故この人はこんな行動を起こしたのか.........

 その一つ一つの情景にお互いを重ね合わせる。同じ事。違う事。それを擦り合わせて、一つの真っ直ぐとした線にして行くようにしていくそれは、まるで昔に戻った様だと思いました。

 

 

「.........あ、そういえばもう一つ印象に残っているお話がありましたわ」

 

 

「意思と秩序.........このお話はまた壮大なお話でした」

 

 

「一人の少女を犠牲にし多くを救うか、それとも少女を助け、多くを犠牲にするか.........まるでトロッコ問題の様な決断をこの主観の人物に差し迫るこのお話.........」

 

 

「結局彼は、多くを助ける為に、泣く泣く少女を犠牲にし、人々から英雄と呼ばれるようになりました」

 

 

「.........もし貴方だったら。どちらを選びますの.........?」

 

 

 息が苦しい。ただお話の中の人物を彼に置き換えただけなのに、その答えを聞くのが酷く苦しくなります。

 私が少女の立場だったら、彼に私を選んで欲しいというのが本心.........だけど、それをしてしまえば、多くの人が亡くなってしまう。それでは、私が彼に惹かれた優しさが嘘だと言うことになってしまう.........

 酷く残酷な質問をしている。例えそれが、作り物のお話だとしても、その選択次第で私達のこれからの関係が危うくなる。それを考え付いた時にはもう、質問をしてから数秒経ってしまっていました。

 

 

 そんな私の神妙さに、彼は風船が割れた様に笑い始めました。こちらの気も知らず、軽い気持ちで大きく笑い声を上げた後、それを噛み締めて勢いを殺して行きます。

 

 

 徐々に大人しくなっていく彼の笑い声と表情をずっと伺っていると、彼はその手で目の端の涙を拭い、私に優しく微笑み掛けて言いました。

 

 

「.........え?」

 

 

「両方.........助ける.........?」

 

 

「そんなの、無理に.........でも」

 

 

「.........そうね。貴方だったら、きっとそうするわよね.........」

 

 

 小さく呟いた声。それは誰に聞かせるでもなく、ただ自分に確認する為の物。そして次第に、彼の言葉がゆっくりと納得する様に身体に落ちていきました。

 

 

 彼は諦めが悪い。いえ、[諦める事を諦めた]人です。

 

 

 私は現役時代、この脚が治る事の無い不治の病に冒されました。多くの人々。ファンの方々や同じレースを走るウマ娘達。終いにはメジロ家のおばあ様にまで、走るのを辞めた方が良いと言われました。

 

 

 けれど彼は。

 

 

 彼だけは、私に道を選ぶ権利を与えてくれた。

 

 

 辞めろと言う事無く、続けろと言う事も無かった。ただ私の行きたい場所について行かせて欲しい。私の車椅子を、一生掛けてでも押させて欲しい.........と。

 

 

 そして私が進みたい道に進む為、全力を尽くしてくれた.........もう一度、あのターフに立つという選択を受け入れ、それが出来るよう、全力で支えてくれた.........

 

 

「.........でも、今のはこの本の製作者に失礼だと思いますわ」

 

 

「こう言うのはわざと読者を惑わすよう究極の選択にしているのです。そう易々とそれを壊されてしまっては.........」

 

 

「.........なんで笑ってるのですか?」

 

 

 先程の答えは確かに彼らしくはありましたが、それはこのお話を作った作者の方を否定する物です。きっと作者さんはこのお話を読んでもらい、読者に自分だったらどちらを選択するのかを葛藤してもらう為に作ったお話だと私は思いました。

 それを咎めると、彼は何故か堪えるように笑いました。何が面白いのか分からず、彼の様子を睨んで見ていると、不意に懐から一枚のレシートを取り出してきました。

 

 

「なんですか?これ」

 

 

「読んでみて、って.........んん?」

 

 

「.........出版代.........二冊?」

 

 

「え、え、待って。話が見えないわ。なに.........え!!?」

 

 

「ま、まさかこの本って、貴方が.........!!?」

 

 

 そこまで言って、レシートから彼の顔に視線を移した時にはもう確信しました。

 彼は頬杖をつき、優しい顔で「お誕生日おめでとう。マックイーン」と言ったのです。

 

 

 してやられた。溜息を吐きながら頭を押えます。この人は本当、予想も付かない事で私を喜ばせる才能があります。そしてそれは本として形作られ、私と彼の手元に二冊に詰め込まれています。そしてそれに気付くと同時に、彼が私にくれた本当の誕生日プレゼントに気が付きます。

 

 

 彼が贈りたかったもの。それはただの本ではありません。本当のプレゼントは.........この本を一緒に読んで、感想を言い合う時間。

 

 

「.........もう、本当に変な人」

 

 

「なら、さっきの作者さんのお話は不毛ですわね。忘れて下さいまし」

 

 

「.........あら。もうこんな時間。今日はもうお休みしましょう?貴方も私も明日は仕事が.........?」

 

 

 テーブルから立ち上がり、その本を持って寝室に向かおうとすると、彼に突然呼び止められました。何かと思いその方向を見ると、どこか不安げな表情で私の目を見つめていました。

 

 

「え.........?分からない場所がある.........?」

 

 

「.........最初のお話の最後で、二人は本当に幸せだったのかって.........」

 

 

 最初のお話。それは、どこにでもある普通のお話でした。何の接点もない男女があるキッカケで出会い、次第に心を惹かれ、最終的には二人で道を共に歩む.........

 様々な葛藤、困難。そして共に歩む為にお互いに何かを捨てる。最初に読んでいた時、これはどこにでもあるお話なのだと思いました。

 しかし、彼がこの本の作者だと知った今。この物語全てが、私と彼の歩みの様なものだとさえ思ってしまう。どこにでもあるお話が、今になって一番印象的で、一番好きなお話になりました。

 

 

 ですが、おかしな話です。この本は彼が書いたもの。登場人物や展開はすべて彼の頭から出てきた物です。それを何故、彼ら彼女らの幸せを私に問うのでしょう?

 

 

(.........ふふ、本当。心配性なんですから)

 

 

 それはきっと、この二人が私達だから。彼が想像するお互いの物語がこの形で、そして思いがセリフと地の文で構成されている。

 けれどこの話は、彼が一人で作った物。私を喜ばせる為に、一人で来た道を辿り直し、一人で書き上げた物。

 そこに、私の思いは一切無い。この作品は言ってしまえば、彼の独りよがりなのです。

 

 

 けれど.........

 

 

「.........何か、忘れていませんか?」

 

 

「私と貴方が夫婦である前に、愛し合う者同士である前に」

 

 

「そして、苦楽を共にしてきた相棒である前に.........」

 

 

「私と貴方は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[一心同体]。ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の手を握り、優しく微笑みかける。すると彼はそうだったね。と言って、私と同じ様に微笑み掛けてくれた。

 そんな姿を見て、つい微笑みが崩れてしまう。だらしのない笑顔を、二人一緒にお互いに見せ合う。

 けれど、そんな時間が。今この瞬間が、何よりも、何よりも愛おしい。その気持ちを胸に感じながら、私は彼が立ち上がる間もその手を包み込んでいました。

 

 

「あの、これからも何か読みませんか?」

 

 

「頻繁にでは無くていいです。三ヶ月とか、半年とか.........一年に一冊。同じ本を読みましょう?」

 

 

「え?一番のオススメ、ですか?」

 

 

「.........また同じ物を読む事になりますわよ?」

 

 

 薄く笑みを浮かべながら彼の表情を伺うと、そこには少し照れる様に頬を染め、面を食らう彼が居ました。

 

 

 二人で手を繋ぎながら寝室のベッドに潜り込む。人から見れば恥ずかしいくらいに子供のような行動。だけど、今ここにそれを咎める人は誰もいません。

 

 

 彼がくれた贈り物。それは一瞬で使い切ってしまう様な物でも、永遠に残る様な物でもありません。思い出でもありません。

 

 

 彼が私にくれたのは、本を通して共有する時間。二人で同じ時を過ごすという事の素晴らしさ。愛おしさを教えてくれました。

 

 

「.........ねぇ、貴方」

 

 

「もう知ってるかもしれないけれど.........」

 

 

 私より先に寝息をたて始め、起きている時に感じさせる大人らしさを感じさせない寝顔を見て、そっと呟きます。

 ゆっくりと彼の頭に両手を伸ばし、優しくその頭を胸の位置で抱きしめました。

 

 

 一緒に過ごす時間は、楽しくて、愛おしくて、何より心地良い.........

 

 

 何かをしていなくてもいい。ただ貴方の隣に居るだけで、私は.........

 

 

「私、今とっても幸せよ.........?」

 

 

 一瞬と言うほど短くは無い。

 

 

 永遠と言うほど長くも無い。

 

 

 人生は主観で見れば恒久的で客観的に見れば変則的。

 

 

 劇的に変わったかだなんて、後になってみないと分からない事ばかり。

 

 

 けれど、貴方と一緒なら。

 

 

 貴方と共に、過ごせるのなら.........

 

 

 きっと、最後の誕生日を迎えても、幸せに過ごせる.........

 

 

「.........おやすみなさい」

 

 

「.........大好きですわ」

 

 

「これからも、ず〜っと.........♡」

 

 

 

 

 

 ―――Fin

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