山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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ウマ娘「サンちゃんって呼んでいい?」お友達「どっから出てきたそれ」

 

 

 

 

 

「.........」

 

 

 騒がしい街。行き交う鉄の塊。目が痛くなってくるくらいに敷き詰められた建物。情報量の多さに目も耳も塞ぎたくなってくるが、そうも言ってられねェ。

 オレ様ちゃんは帽子を深く被り、誰にも目を合わせずにただ歩く。目的地は無い。

 

 

(クソ.........ンでオレがまた[身体]を持つ羽目になってンだよ.........)

 

 

 気分はナーバス。ああそりゃ最悪さ。

 

 

 なんせ、オレは名前も分かんねェ[メス神様]に[土着神]だのなんだの言われて縛り付けられていた。

 もちろんそりゃ、[ガキ共]の成長だの何だのを見守.........高みの見物するにゃ持ってこいだったが、意外に制約があった。

 

 

 それは[行動範囲]だ。日本からは決して出れねェ。少なくとも、オレ様ちゃんと[繋がり]のある奴が外に出て、活躍して認知されない限りは.........

 

 

 だがそんな制約もそろそろ終わりそうだと思っていた矢先にこれだ。[アオハル杯]って奴が上手く行きゃ自ずと行動範囲が広がると思っていた。

 

 

 それが.........

 

 

『ねぇねぇ〜お名前教えてちょ〜よ〜♪』

 

 

(うるせェ.........!!!)

 

 

 今、この男に張り付かれている。寄りにもよって[この男]だ。[今のマックイーン]と最も近しいこの男はこの状況に焦り一つ表に出していない。

 

 

『ねぇねぇ〜、名前は〜?』

 

 

「っ!うるせェ!!!テメェで勝手に呼べ!!!」

 

 

『じゃあ[サンちゃん]ね!!!』

 

 

「?.........はァ!!?どっから出てきやがったそれェ!!!」

 

 

『君は真夏の太陽みたいな光で突き放すから、さっ☆』

 

 

(う、うっぜェ〜.........!!!)

 

 

 焦りを見せないどころか、コイツはこの状況をとことん楽しんでいるようにすら見えてくる。頭がイカレてンじゃねェのか?

 しかもウインクも上手く出来てねェ。こんな奴が本当に[アイツ]のトレーナーなのか.........?

 

 

 

 

 

桜木(.........見たところ、あんま危ない子じゃなさそうだな)

 

 

 ―――手探りながら目の前の存在について確かめて行く。

 あまりにもイレギュラーな事態。そんな中でここまで変に纏わりつかれてまだ可愛らしい悪態レベルを向けてくれるならこの子はそんなに危ない存在じゃ無いと理解出来た。

 

 

 とは言ってもこれ以上は本当に危ない。本当に機嫌を損ねてしまえば何が起こるか分からないのでそろそろ弁えて置く。

 

 

 そして俺は、今考えるべき事に思考を張り巡らせ始めた。

 

 

桜木(さぁて.........こっからどうするか)

 

 

 考えるは[未来]。つまりこれからの事。ウマ娘としてチームに参加するまでは良い。そこからどうやって[アイツ]をブチのめす事が出来るのか.........それだけが懸念点だ。

 マックイーンに関しては.........まぁどっかのタイミングでもう一度[特別移籍]して貰えば良いだろう。別に期間的な制約は無いし、連続して移籍するのも規制が掛かっていない。

 それに何より大会ルールで示されてないし。別に良くない?[それって玲皇のルール?]って言われたら[そうだよ?]って返す位の正当性はある。

 

 

 まぁ、結局の所を言えば勝つしかない。奴に当たるまで勝ち続けるしか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁかぁらぁ!!!さっきから言っているだろう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで思考していた考えが止められる。聞き馴染みのある声が聞こえてきたからだ。その方向を思わず見てみると、そこには私服姿の[アグネスタキオン]とその[友人二人]が立っていた。

 

 

タキオン「君の申し出は嬉しいがこれ以上は無理だ!!!そろそろ自重しないと[マーク]されてしまう!!!」

 

 

「そういう訳にも行かねェんだよ!!!他でも無い[フジ先輩]頼まれちまってんだからよォ!!!」

 

 

「あの、道の真ん中ですし.........喧嘩は止めた方が.........?」

 

 

『「あっ」』

 

 

 面倒な事になった。タキオンと何故か言い争いを始めている[ジャングルポケット]。その間に割って入っている[マンハッタンカフェ]と目が合った。

 

 

 そしてその視線に二人も気付き、俺達の方へと目を向ける。

 

 

 試しに横にスゥーっと移動して見せると、見事にカフェだけが俺の姿を捉えていた。う〜ん不味い〜.........

 

 

タキオン「丁度良かった。この頑固者を説得する為に連絡しようとしていた所なんだよ。君からも言ってやってくれ。これ以上チームを目立たせる訳には―――」

 

 

ポッケ「だからソレが意味わかんねぇんだよ!!!大体お前とカフェが揃った時点でだいぶ目立.........おいカフェ!!?」

 

 

 目の前の現実を受け止め切れずにカフェは卒倒した。地面に倒れる寸前で傍に居た二人が何とか抱えて怪我は無かったが、これでここでお話をするという選択肢は消え去ったという事だ。

 

 

『近くに手頃なマクドナルドがありますよ?入ります?』

 

 

「あぁ.........そうだな」

 

 

 困惑している二人に対して[サンちゃん]は面倒くさそうに溜息を吐き、頭を掻きながらも誘導する様に店の中へと入って行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポテトLサイズが5個!ウマウマアボカドバーガーが20個!!メロンソーダ1つとマックシェイク3つ!!ごゆっくりなのー!!」

 

 

タキオン「.........なるほど、そうなったか」

 

 

ポッケ「.........」ダラダラ

 

 

カフェ「ポッケさん.........大丈夫ですか.........?」

 

 

「クチャクチャ.........ンァ?」

 

 

 俺は目の前でボロボロと中身を零しまくりながら飯を食ってる奴に対して頭を抱えた。

 大丈夫かだって?大丈夫な訳ねェだろ!!!何でお前らそんな驚きもしねェんだよ!!!カフェの[ダチ]っつったらアレだろ!!?夏の夜のテレビで良くやる特番組まれる[アイツ]なんだろ!!?

 

 

 大丈夫な訳ねェだろ!!!

 

 

ポッケ「タキオンお前それで良いのかよ!!?目の前にいる奴はお前みたいな奴が嫌う[オカルト]的な存在だろ!!?」

 

 

タキオン「私をそこら辺のなんちゃって科学者と一緒にしないで欲しい。[オカルト]もいつかは科学で解明できる事象だ。私は専門外だがね」

 

 

カフェ「だそうです」

 

 

ポッケ「お前ら仲良いな本当ォ!!!」

 

 

 クソッ!!!四六時中とまでは言わねぇが一緒に居るならそうなるよな!!!聞いた俺がバカだった!!!

 けどまだまだツッコミどころはある!!!

 

 

ポッケ「大体話聞いても分かんねェよ!!!何でこのどこにでも居る[ウマ娘]がタキオンのトレーナーなんだよ有り得ねェだろ!!!俺の妹でももっとマシな嘘つくぞ!!!」

 

 

タキオン「おぉ!!!良いぞポッケくん!!!もっと言ってやれ!!!」

 

 

カフェ「遂にタキオンさんのチームにもまともなツッコミ役が.........」ホロリ

 

 

 いや何でお前らそんな嬉しそうなんだよ!!!そこは俺に対して対抗してくる所だろ!!!なんで便乗してきやがんだよ!!!

 ま、まぁいい!!!トレセン学園もタキオンのチームも大変なのは良く理解してるが、[アレ]の力を借りる訳には行かねェ!!!この勢いのまま押し切らせて貰うぜ!!!

 

 

ポッケ「オラオラ!!さっさとテメェがタキオンのトレーナーって証拠を出しやがれ!!!じゃなきゃ俺は認めてやらねェからな!!!」

 

 

タキオン「そうだそうだ!!!私もそろそろ胃が限界なんだ!!!早く姿を戻して帰って来いトレーナーくん!!!」

 

 

カフェ「桐生院さんも大変そうでしたよ.........?」

 

 

「モグモグ.........ンァ?ァァ.........チッ、わァったよ聞いてやるよ.........」

 

 

 テーブルを叩き上げて目の前の奴を睨み付ける。タキオンも前のめりで抗議して、カフェも別の角度から揺さぶりを掛けて行ってる。

 それでも目の前の存在は面倒くさそうに話を聞きながらポテトを食っていた。

 

 

 そしてそんな最中、誰もいない空間に顔を向けて耳を向けた後にしかめっ面して俺達の方へと向いた。

 

 

「.........ァァ、この隣に居る馬鹿。カフェは見えてるよな?コイツが言うには今口頭でタキオンのトレーナーだって証明すんのは無理だっつってる」

 

 

ポッケ「そら見ろ!!!分かったらさっさとそんな妙ちくりんな格好とカフェのダチを元に戻して―――」

 

 

「でも[マックイーン]の事なら言えるってよ」

 

 

ポッケ「は?」

 

 

タキオン「ダメだ。絶対にそれだけはダメだ。周りを見るんだトレーナーくん。マクドナルドだぞ」

 

 

カフェ「なんか寒気がしてきました」

 

 

 突然コイツは代替え案を提案してきた。あまりにスっと出てきたもんだから俺は思わず威圧的な声を出しちまった。まぁ目の前の奴は何も気にしてやがらなかったが。

 どうするべきか隣に居るタキオン達を見ると、一人は汗を流しまくって一定のリズムで首を横に振る機械になっていて、もう一人はなんか寒そうに身体を震わせていた。

 

 

 んで話がどう転がっていくか分かんなかったからとりあえず視線を戻したら、ガックリと項垂れウマ娘が目の前に居て思わず言葉を失っちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誕生日4月3日身長159cm体重は俺の献立表で完全安定。スリーサイズはB71・W54・H76。靴のサイズは左右ともに22.5cm。学年は中等部所属。寮は栗東寮。得意なことはテーブルマナー。苦手なことはスイーツの誘惑に耐えること。悩みは人前で耳をツンと立ててしまいがちなのとスポーツの話をしているとしっぽの振りが激しくなること。ご両親には[マックちゃん]と呼ばれていてマイルールはアーリーモーニングティーで目覚めること。スマホのロック画面はメジロ家紋章、ホームはこの前見たら俺の寝顔の隠し撮りだった。出走前は体温計で体調チェック。幼い頃からの習慣らしいよ?偉いよね。得意科目レース史とレース戦略。あとスポーツ栄養学。密かな自慢は他人の奇行に前ほど動じなくなってきたって言ってた。流石に反応に困ったよ。よく買う物は観終わった映画のパンフレット。マジのトップシークレットは『かっとばせー!』という自分の寝言で起きる可愛い一面がある。それとミルクティーはミルクインファースト派」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなマックイーンの好きな所を今から一つ一時間「結構!!!」あ、そう?」

 

 

ポッケ「.........やべェな(小並感)」

 

 

カフェ「桜木トレーナーって怖いんですね」

 

 

 ―――恐れられてしまった。何故だ。俺はマックイーンの事を話しているだけなのに.........

 

 

 隣に居る[存在]。今の俺の姿と全く同じ姿の[浮遊霊]に視線を送ると、面倒くさそうな表情で目を逸らした。

 どうやら擁護はしてくれないらしい。とても悲しい。

 

 

 もう一度目の前の三人に視線を戻すと、カフェがその隣の存在に対して酷く驚いた表情で凝視していた。

 

 

カフェ「.........く、くっきりと見えてる.........!!?」

 

 

『はァ.........やっぱそうか。声もハッキリ聞こえんだろ?』

 

 

カフェ「!」コクコク

 

 

『あ〜クソ.........これで完全にオレ様ちゃんはこの世界に[顕現]しちまったって訳だ。[ウマ娘]としてなァ.........はァァァ』

 

 

カフェ「それに.........[鎖]で繋がっています」

 

 

 彼女の胸の部分から[鎖]が出ている。それは俺の身体と繋がっており、完全に離れる事は出来ない。これのせいで彼女はこの俺との共同生活を[強制]させられているのだ。

 頭を項垂れて大きく溜息をつくサンちゃん。どうやらこの事態は彼女............いや彼?にとっては好ましくない物らしい。

 まぁそれは既にそうなってしまっているのでどうしようも無い。俺達にはどうにも出来ない事だ。今考えるべき事じゃない。

 

 

「話を戻すよ。これから[アタシ]は[ウエスタンビール]としてチーム[レグルス]に所属する。異論はある?」

 

 

ポッケ「.........何で俺の方を見んだよ!!?」

 

 

ビール「さっきまでカミカミしてたから。なさそう?なら良いよ。OK」

 

 

ビール「そんでもって[アオハル杯]に出て打倒[花道]。そして出来たら途中でマックイーンを取り戻す。質問は?」

 

 

タキオン「.........はぁ、本当。君は[最大理論値]を臆せず口にするのが得意だね」

 

 

ビール「当然。[奇跡]を超えるんだったらそれくらいはしないと。遠慮してたら[女神様]に情けを掛けられちゃう」

 

 

 紙ストローに手を伸ばして注文した俺のメロンソーダに突き刺す。冷やされた甘い炭酸が口の中に広がっていく.........まさにこれの為にマックに来ていると言っても過言では無い。

 まぁカフェが倒れたから来たんだけど、細かい事は気にしちゃ行けない。

 

 

タキオン「はぁ.........[退屈]しないのは[レグルス]の利点ではあるが、こうも事が起こり過ぎると頭がパンクしそうになるよ。君は良くいつも通りで居られるね。トレーナーくん?」

 

 

ビール「ジュ〜.........アドリブは得意だったからね。慣れだよ慣れ。さっ、皆もさっさとご飯食べて?この後アタシ用事あるから」

 

 

ポッケ「なぁ、マジで普通に女友達と話してる感覚なんだけど?」

 

 

カフェ「桜木さんって女の子だったんですか?」

 

 

 ふふん。俺は十数年の間[女家族]で過ごして来た。女子の振る舞いならお手の物だ。無い物を[演技]するより遥かに簡単。いくら腐ってもそれくらいは出来る。

 

 

 三人は戸惑いながらも自分の分のポテトとハンバーガー。そしてシェイクを飲んで行く。

 全てテーブルの上から消えたのを確認して、とりあえず俺達は今日この場は解散する事になったのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........」

 

 

 ―――開かれた窓から風が優しく吹いてくる。カーテンはゆっくりとその風を包み込み、大きく膨らみを見せている。

 少し薬品の入り交じった匂いのする部屋。そのベッドの上で私は目を覚ました。

 

 

 しばらくはその風に意識を奪われていた。気持ちのいい風が吹いて頬を撫でてくれる。それがただ一つ、この場所にいる私にとっての癒しだった。

 

 

 だけど.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――シャリ、シャリ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........何、してるの?」

 

 

「あ、起きたんだ。おはよう[シエル]ちゃん。リンゴ食べる?あ、そもそも食べれるかな?」

 

 

 私のベッドの隣には、顔も知らないウマ娘がリンゴの皮を向いていた。普通こういう時って身近な人がやってくれるシチュエーションだと思うんだけど.........この子の顔に見覚えは無かった。

 

 

シエル「.........頂きます」

 

 

「うん!アタシ。ウエスタンビール。この前の[選抜レース]で一緒に走ってたんだよ!.........まぁアタシは最下位だったけどね」

 

 

シエル「!.........っ」

 

 

 そうなんだ。この子、あの時私の前で走っていた.........あの[変なウマ娘]だったんだ。

 走っていた時[感じられなかった]。この子からは他の[ウマ娘]から感じられる[何か]が.........フォームも実力も確かにあったのに、[根本]が[無かった]様な.........変な感覚。

 前を走られていてとても気持ち悪かった。でも今はそんな事より.........そんな風に笑ってられる方が、気持ち悪かった.........

 

 

シエル「.........なんで笑えるの」

 

 

ビール「え?」

 

 

シエル「負けたのに.........!どうしてそんなヘラヘラしてられるの!!?」

 

 

シエル「勝てたらどこかのチームにスカウトされてたかも知れないんだよ!!?貴女にとって凄いチャンスだったんだよ!!?」

 

 

シエル「それをどうして.........!!?」

 

 

 抑えきれなかった。急に感情が荒くなって暴れ出した。

 

 

 [あの子]を思い出した。どんなに負けても、誰よりも勝ちから遠くても、変わらない笑顔で頑張り続けるあの子に、その表情は似ていた。

 だから.........[あの子]みたいになろうとしてなれなかった今の私にとっては、凄く刺激の強い物だった。

 

 

 .........でも、私の濁流の様な感情を叩き付けた後の彼女の顔は、[あの子]とは違う物だった。

 

 

ビール「ふふ、そうだよね。それが[普通]」

 

 

シエル「え.........?」

 

 

 笑っていた。私の言葉を聞いて笑いを零していた。

 けどそれは私を嘲笑う物じゃなく、そして自分を卑下する為の物でもなかった。そうであるには余りにも.........その笑顔は優しく、力強い物だった。

 

 

ビール「負けたら悔しいよ。笑ってる暇なんかない。次の為に努力して行かないと。そう言いたいんだよね?」

 

 

ビール「でも笑うのを止めたらいつか[泣いちゃう]よ。泣いて苦しくなるくらいならアタシは笑うのを[辞めない]」

 

 

シエル「っ!」

 

 

 違った。[あの子]とは違うんだ。悔しさも辛さも感じているけれど、それを受け入れてこの人は笑えるんだ。

 私にはその強さが無い。負けたら悔しくて、辛くて.........それを自分以外に向けてしまう。

 だからあの子にも.........[ウララ]ちゃんにも強く当たってしまった.........

 

 

シエル「.........どうしたら、そうなれるの.........?」

 

 

ビール「.........」

 

 

シエル「私は弱くて.........!その癖負ける度に凄く心がザワつく.........!!!」

 

 

シエル「何度も[変わろう]と思った!!![夢]を[諦めない]為に頑張ろうって決意した!!!」

 

 

シエル「だけど.........ッッ!!!」

 

 

 心の底から渇望した。何度も、何度も。負ける度に、勝った誰かを見て羨み、僻む度に、それは違うって自分に言い聞かせた。

 でも私は変われずに居た。

 

 

 [今回]だってそうだ。[花道トレーナー]に言われて[選抜レース]に参加した。レースの結果次第で[リギル]に入れるって言ってくれたから。

 

 

 [短距離]は適正じゃなかった。もう少し長い距離で勝負に掛ける時間が長いレースじゃないと私の足は持たない。

 スピードは確かにある。けれどそれじゃ私の脚は摩耗して、最後には走れなくなる可能性があった。

 

 

 分かっていたけど.........[チャンス]を逃したくなかった.........

 

 

 私は勝った。けれど花道トレーナーは病室に来てくれない。連絡もしてくれない。もう.........結末は分かっていた.........

 

 

シエル「ぐすっ.........ひぐっ.........!」

 

 

ビール「.........」

 

 

 涙が溢れて行く。人が居るのに、名前も顔も知らなかった人の前で喚き散らして、無様に涙を流している。

 でももう取り繕えなかった。私は私だ。結局変わることなんて出来なかった。

 

 

 どんな[夢]を、見させられても―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――まだ[終わり]じゃねぇぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエル「!え.........?」

 

 

 ―――思わず顔を上げた。その声は私より年下に見えるウマ娘から出てきた物とは思えない程厳しくて、そしてその時に見えた表情はとても怖い顔をしていた。

 

 

 けれど私のそんな表情を見た後、直ぐに彼女は目を閉じて笑みを浮かべた。

 

 

ビール「―――って、[あの人]は言うんだろうね」

 

 

シエル「?あの人って.........」

 

 

ビール「リンゴ。剥き終わったから食べてね。脚、お大事にね」

 

 

シエル「あっ、ちょっと!!!」

 

 

 気になる単語を残して彼女は椅子から立ち上がった。私に背中を向けて病室の出口へと向かって行く。

 ベッドの傍のテーブルには少し不格好に切られたリンゴが乗せられていた。

 

 

ビール「.........あ、ごめんごめん。言い忘れてたことあった」

 

 

シエル「!な、なに.........んっ?」

 

 

 言い忘れていた事。それを言うために彼女はもう一度私の傍まで歩いて来た。

 それは何かと質問した時、私の頭に何かを乗せられた。彼女の被っていたツバ付きのキャップだった。

 

 

ビール「治ったら[レグルス]に来なよ。アタシスカウトされたんだ」

 

 

シエル「!そ、そう。でも私は」

 

 

ビール「安心してよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[絶対ェ勝たせるから]♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエル「.........!!!」

 

 

 .........その顔は、何が起きても[なんとでもしてくれそうな笑顔]だった。ニカっと笑って、まるで[太陽]みたいな輝きを放つその笑顔に.........私は[古い記憶]を呼び起こされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [ボール遊び]をしていた。

 

 

 [ひとりぼっち]の私と遊んでくれた。

 

 

 そして.........[命懸けで助けてくれた]。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエル(.........バカだなぁ、私)

 

 

シエル(辛いからって、[忘れた]らダメじゃん.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 分かってしまった。何となくだけど、[彼女]の正体が。

 

 

 そして、[思い出してしまった]。私が今、生きている意味。その根幹を担っている人の[顔]を.........

 

 

シエル「.........でも、そっか。[泣きたくない]か」

 

 

シエル「ふふ、確かに[あの人]らしいかも.........」

 

 

 

 

 

『良いのかよォ。あンな事言っちまって』

 

 

ビール「良いんだよ。[アレ]が言えないんならトレーナー辞めた方が良いぜ」

 

 

 ―――病院の廊下を歩いてるとさっきまで黙っていたサンちゃんが口を出してきた。その顔は何だか面白くなさそうな顔をしている。

 

 

『オレ様ちゃんは沢山見てきたぜェ?ああいう奴ァ[諦めた]方が幸せなんだよォ』

 

 

ビール「へぇ。そっちでは諦めたらどうなるの?」

 

 

『大抵は素人を乗せる役割になンなァ。最近だとセラピーだとか何だとかに利用されるが.........まァ使えなかったら[肉]にされんな』

 

 

ビール「最悪じゃねぇか」

 

 

『キヒヒ!!人間様ってのは怖ェな〜?テメェの思い通りに行かなかったら直ぐ手放すンだからよォ.........』

 

 

 俺の周りを浮きながらバカにするような口調で話してくる。まるで俺もその例に漏れないとでも言うように。

 確かに、人間ってのは自分勝手だ。自分さえ良けりゃ良い。邪魔する奴は排除すりゃ良い。そんな奴が沢山居る世界なら、自分の身を守る為にそうならざるを得ない。

 

 

 けれどここは違う。少なくとも彼女達は[人間]だ。サンちゃんやMさんの居た世界とは違うんだ。

 

 

『楽しみにしてるぜェ?テメェが[約束]を破るのかどうかをなァ?』

 

 

ビール「約束なんかしてない」

 

 

『.........ヘェ?じゃァ何だ?はなっから[嘘]ついたって訳かァ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうするって[決めた]んだよ。[確定事項]だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「[ルール]にしたんなら、[約束]とかいう口先だけで結べるもんより強いだろ?」

 

 

『.........頭良いなお前。オレ様ちゃんも使って良いか?』

 

 

ビール「どうぞご自由に」

 

 

 感心の表情を浮かべてサンちゃんはそう言った。案外純粋な人柄で中々接していて楽しい存在だ。やっぱり危ないものじゃない。

 

 

ビール(さぁて.........明日から忙しくなるな)

 

 

 病院から出て陽の光を浴びる。時間的には昼過ぎだ。まだまだ明日には余裕がある。

 俺は身体の調子を確認するために、ひとまずトレーニングコースへと足早に駆けて行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(.........何とかやり過ごせているわね)

 

 

 風が吹く学園のターフ。指定の半袖短パンを着用している。

 

 

 頬に流れる汗を拭いながら周りを横目で確認する。向けられた視線からは感心や尊敬の類は感じられるけど、[疑念]は向けられていなかった。

 

 

(何とか[身体]を動かせているけど、まだ足りないわね)

 

 

(まさか.........[また走る]事になるなんて.........この落とし前。必ず着けさせてもらうわ)

 

 

 視線を動かした先。そこに居るのは二人の存在。一人はタブレットを持った女。そしてもう一人は薄気味悪い笑みを浮かべる男.........

 

 

 まだ気付かれていない。泳がされている可能性もあるけれど.........私はポジティブに捉える事にする。

 

 

(本当危なかったわ。いきなり[催眠]仕掛けてくるとは思わなかったわよ.........)

 

 

([入れ替わった]お陰で影響は無いけれど、心配ね.........)

 

 

 身体に作用する催眠だけど、[魂]にまでは浸透しない。つい土壇場で入れ替わったけれど、どうやら功を奏したみたい。

 その後も何度か掛けられたけど、[魂]が核だと理解出来ているから特に影響は無い。心配があるのだとしたら.........

 

 

([爺や]はちゃんと[アレ]を届けてくれるかしら.........?)

 

 

「[マックイーン]さん!!もう一度並走お願いしますっ!!」

 

 

「!ええ、もちろん構いませんわ」

 

 

 

 

 

 ―――少女は呼びかけられた声に反応して背筋を伸ばして見せた。その振る舞いと言動からは[普段の彼女]を思わせる。

 誰も彼女を疑わない。何ら変わりない彼女が[リギル]に居ると言う事実を、全くと言って良いほどに.........

 

 

 だが、それでも唯一[相違点]があった。

 

 

 普段、彼女が身につけている物。確かにあるはずの物―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[王冠のアクセサリー]が、耳に付いていないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それに気付いて居る者は、誰一人として居ないのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......To be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ

 

 

 

 

 

 教えてぇ〜!黒津木先生〜!!!

 

 

桜木「.........あ?何だこれ?」

 

 

黒津木「は〜い皆さんこんにちわ〜。毎度おなじみ[おしくろ]の時間だよ〜」

 

 

桜木「なんだよそれ!!!聞いた事ねぇぞ!!!」

 

 

黒津木「初めてやったから当たり前だろ?話聞いてた?」

 

 

桜木「毎度おなじみって言ってなかった?頭大丈夫?」

 

 

黒津木「今日の議題はこれ。[桜木 玲皇=サンデーサイレンス説]〜」

 

 

桜木「サン、なに?」

 

 

黒津木「学会では幾度と議論されている議題だよ〜。因みに9割が肯定派だね」

 

 

桜木「あのそれ議論じゃなくて雑談じゃない?反対意見陰謀論として扱われる奴じゃない?」

 

 

黒津木「まず確証その1。[二人ともメジロマックイーンが好き]」

 

 

桜木「あっへ〜。誰かと思ったけど見る目あるじゃ〜ん?」

 

 

黒津木「根拠その2。[二人ともミントが好き]」

 

 

桜木「ミントっつうかチョコミントだし。抹茶も好きだし」

 

 

黒津木「抹茶なんて草みたいなもんだろ」

 

 

桜木「え?抹茶好き敵に回すの?その[意図]はなんなの?」

 

 

黒津木「根拠その3。[二人ともホモ]」

 

 

桜木「は?」

 

 

黒津木「サンデーサイレンスとメジロマックイーンは♂同士なのは皆知ってるよね?」

 

 

桜木「だから誰!!!俺知らないんだって!!!」

 

 

黒津木「玲皇はほら。俺を淫〇厨に仕立てあげた張本人だし」

 

 

桜木「沼に突き落としただけだゾ。助けも呼ばずに沈んで行ったジャマイカ」

 

 

黒津木「最後は恒例のアナグラムで締めよう」

 

 

桜木「ガバ穴グラムの間違いでは?」

 

 

黒津木「まず[山あり谷ありウマ娘]。これをローマ字に直すと[YAMAARITANIARIUMAMUSUME]になります」

 

 

桜木「読みにく」

 

 

黒津木「これを何とかするのは面倒臭いので[AI]の力を使います」

 

 

桜木「は?」

 

 

黒津木「すると.........おっほ。すっげー単語が浮かび上がってる。ハッキリ分かんだね」

 

 

桜木「それ見せろよ早く」

 

 

黒津木「アナグラムの全容はFanB〇Xで20000円支援して下さると確認出来ます」

 

 

桜木「テメェ舐めてんのかァッッ!!!」

 

 

黒津木「では次回の[メジロマックイーン=ゴールドシップの祖父説]にてお会いしましょう」

 

 

桜木「もう帰れッッッ!!!!!」

 

 

 〜END〜

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