山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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チームと欲望と再会と

 

 

 

 

 

シリウス「.........」

 

 

桐生院「.........」

 

 

シャカ「.........」

 

 

 時計の針が鳴り響く。チームルームには最早その音しか存在していない。そう言えるほどに静まり返っている。

 頭を抱えることすら出来ない。ただひたすらに汗を発汗させ、それを顎の方まで伝わせて地面へと落としていくだけだ。

 

 

 そんな中、ようやく口を開く奴が居た。

 

 

桐生院「あの、もう一度言ってくれます.........?」

 

 

「あ、はい。[ウエスタンビール]こと[桜木 玲皇]です。短距離やらせてもらいます。よろしくお願いします」

 

 

二人「待て待て待て待てッッッ!!!!!」

 

 

 クソッ!!聞き間違いじゃなかった!!!いやこんな静かな教室で聞き間違えるもクソもある訳ねぇがそれだけを期待していた!!!

 見ろ!!!桐生院なんて訳も分からず[トレーナー白書]とか書かれている分厚いノートを開いて何かを探し始めてるぞ!!!絶対[人間]が[ウマ娘]になった時の対処法を探してやがる!!!

 

 

シリウス「なんでアンタはいっつもそう変な方向に舵を思い切り切ってくるんだ!!?有り得ねぇだろ!!!少しは私らの常識に寄り添ってくれ!!!」

 

 

シャカ「シリウスの言う通りだ!!!見ろ!!!オマエのせいでチームの奴ら皆困惑―――」

 

 

オペ「ああ!!まさか先生がボク達と同じ姿になってまでマックイーンくんを助けようとするだなんて.........[真実の愛]はこんなにも、ボクの近くに存在していたんだね.........!!!」

 

 

ウララ「本当にトレーナーなの!!?とっても可愛い〜♪!!」

 

 

ライス「こ、これからは、ライス。[お姉さま]って呼んでみたいな〜.........?」チラチラ

 

 

ブルボン「身体の動き。口調。仕草。全て普段のマスターと合致しません。しかしこの雰囲気は.........ステータス。[パンク]」プシュー

 

 

デジ(な、何も感じない.........!!?デジたんが、[萌え]も[てぇてぇ]も生み出す事が出来ない!!?こ、こんな事が.........!!!)ガシガシ!!

 

 

ビール「.........平常運転じゃない?」

 

 

二人「うぐっ.........ぐぬぬ.........!!!」

 

 

 コイツ.........平然と首を傾げてさも何とも無いように言ってやがる.........!!!

 確かにコイツは[レグルス]の空気だ。以前居たから良く分かる。

 だがよぉ.........!!!

 

 

ポッケ「.........タキオン。お前のチーム大変なんだな」

 

 

タキオン「.........?」

 

 

カフェ「ポッケさん。タキオンさんは長く在籍しすぎてて.........もう.........」

 

 

 まだ染ってない奴も居る!!!それなのにコイツはお構い無しに自分の領域を展開して来やがる!!!

 クソッ、本当にこのままじゃ埒が.........

 

 

 ガララッ!!

 

 

「そう簡単にチームには入れないぞ。[桜木 玲皇].........ッッ!!!」

 

 

全員「!!?」

 

 

 突然開けられたチームルームのドア。そこに立っていたのは白衣を纏い、何故か左手が発光している保健室医の黒津木が立っていた。

 そしてその横から顔を出している司書も居る。

 

 

ビール「だったらさっきの俺のセリフは聞いているだろう?この[桜木 玲皇]は[短距離選手]としてチームに所属すると」

 

 

黒津木「やはり.........桜木 玲皇か.........!?」

 

 

シリウス「やめろォ!!これ以上場をカオスにするな!!!」

 

 

 最早頭が痛いを通り越し、頭痛が痛いの領域に到達している。それくらい場は混乱を極めていた。

 助け舟を求めてシャカールの方を向いたが、奴は早々にこの現状を投げ出してヘッドホンを付けてノートパソコンと向き合っている。薄情な奴だ。

 

 

 しかし、その混乱を収めたのも[コイツ]だった。

 

 

ビール「はい。おふざけはおしまい。ここからは[未来]の話をしよう」

 

 

全員「!」

 

 

ビール「短距離として俺が入ったけど、依然としてパワー不足だ。ワンマンでどうにかなるほど俺は優秀じゃない」

 

 

 手を叩いた事で空気は一変。真剣な物へと様変わりする。温度差で気分が悪くなりそうだが、そうも言っていられない。

 姿は違うがこうしてチームの中枢が一人戻ってきた。方針を決めるならばやはり[チームトレーナー]が居なければ話にならないだろう。

 

 

ビール「[短距離選手]の補強は続けて行く。そしてローテーションが利くよう他の距離の子達も必要だ。ウチのチームには[怪我]の可能性が高い子が多いからな」

 

 

桐生院「た、確かにそうですね。シリウスさん達も他チームの方ですし、無理をさせてケガをさせる訳には行きません」

 

 

ビール「そゆこと。放課後はいつも通りトレーニングして、それ以外は人員確保だ。良さそうな子を見つけたら誘っといてくれ」

 

 

全員「おぉ.........!」

 

 

ビール「じゃあアタシご飯食べてくるね♪」

 

 

全員「あっはい」

 

 

 そしてまた雰囲気は変わる。メリハリがあると言うより、情緒が不安定と言った方がしっくり来てしまう。

 鼻歌を歌いながらルンルンとした足取りでチームルームから出ていく桜木。いやウエスタンビール。その背中を見送る事しか私達には出来なかった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ンでェ?仲間には人集めるよう言って置いて、テメェは呑気に飯かよォ?』

 

 

ビール(良いじゃん別に。俺だって好きで食べてる訳じゃないよ?面倒いし)

 

 

『あァ.........そういうタイプか。難儀だなァ?オレ様ちゃんが変わろうか?』

 

 

ビール(まだダメ。取り敢えず今身体に必要なもの選んでるから待ってて。席に着いたら変わって欲しい)

 

 

 飯を食べるのはあまり好きじゃない。時間が取られるしその後の思考に陰りが生じる。誰かと食うのは好きだが、自分一人で済ませるなら手頃な物。なるべく咀嚼しない物が好ましい。

 だが今の俺は一人の[ウマ娘]。しかも[選手]だ。食わないという選択肢は無い。ならばここはもう一人の存在にバトンタッチして俺は思考に時間を掛ける事にする。

 

 

ビール(うっし。取り敢えず身体作りの為の飯は揃えたな。座る場所は.........大体埋まってんな)

 

 

ビール「どーこーかーにいい場所は〜.........っっ!!!??」

 

 

「モグモグ.........」

 

 

 ここら辺の席は全て埋まっていた。皆友人と食事を楽しんでいる。チームルームに居たため少し出遅れたせいか、殆どの席が埋まっており、空いている場所も知らない子達の席だった。

 そんな中で[一人]。[顔見知り]が居た。俺は猛スピードでそこに突撃し、トレーをテーブルに置いた。

 

 

ビール「ね、ねぇ!!一緒に食べていい!!?」

 

 

「?えぇ、構いませんわ」

 

 

ビール(しゃァオラァッッ!!!)

 

 

 心の中で盛大なガッツポーズ。俺の目の前には会いたくて会いたくて仕方の無かった愛しの[マックイーン]が食事をしていた。

 ゆっくりと席に着き、俺はスプーンを手に持って食事を始めた。

 

 

『おいテメェッッ!!!変わるっつったよなァ!!?』

 

 

ビール(うるせェッッ!!!マックイーンが居るなら話は別だろうがよォ!!!それに俺は[やるべき事]があんだよッッ!!!)

 

 

『はァ!!?ンだよそれェ!!?』

 

 

 隣に居る存在を押しのけて俺は意識を[耳]に集中させる。俺は.........俺はこの時をずっと、ずぅぅぅ〜っと待っていたのだ.........!!!

 目を閉じ、その時を伺う。周りの音を意識でノイズキャンセリングを掛け、来るであろうその[音]。いや、最早[奏でられし円舞曲]が始まるのをひたすらに待った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........モキュ、モキュ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール(―――ぁ.........ぁぁ)

 

 

 一切の音が全て無くなり、その[音]だけが頭の中で反響する。オーケストラの響きの為にコンサートホールが作られたのだとするのならば、この音の為にカフェテリアは想像されたのだと実感する。

 

 

 正直。[絶頂]した。

 

 

『お、オマエ何やってんだ.........?』

 

 

ビール(ふ、ふふ.........マックイーンの可愛い[咀嚼音]を聞いてるんだよ.........)

 

 

ビール(あぁ.........ウマ娘ってサイコー.........俺もこんな[耳]が欲しかった.........)

 

 

『ヒィ!!?だ、誰か.........!誰かオレをコイツから引き離して.........!!!』

 

 

 ふふ。引かせてしまった。

 

 

 分かっている。今の俺はそんじょそこらに居る[変態]とはレベルが違う。と。

 確かにここには色んな子が居る。ウチのチームには[変態]と揶揄される程に酔狂なウマ娘も居る。[アグネスデジタル]だ。

 

 

 確かに彼女も[変態]だ。

 

 

 だが俺は.........お前以上に[変態]だ.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その時、ふと思い付いた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この[耳]。[使える].........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........ご馳走様でした」

 

 

ビール「!ぁ.........」

 

 

 彼女の食事の音に気を取られていて気が付けば食事を終えてしまっていた。俺のトレーは未だにスープやら惣菜やらが沢山残っている。

 .........俺は横目で隣に居る存在に目を向けた。

 

 

『.........な、何だよ』

 

 

ビール(食べていいよ。やりたい事は済んだし)

 

 

 身体の主導権をバトンタッチする。サンちゃんは最初こそ困惑したが、鼻にくすぐる匂いに意識を取られ始め、最終的にがっつくように食事を始めた。

 

 

ビール「うめェ.........!!人間の奴らこンなもン毎日食ってんのかよ.........!!!」

 

 

『美味しいよね。あっデザート一口だけ食べさせてくれる?』

 

 

ビール「ア?デザート?この変な色の奴か?」

 

 

『チョコミントアイスだよ。俺好きなんだよね』

 

 

ビール「ミント.........ま、まァ良いぜ?その位は譲ってやる」

 

 

 こうして、比較的穏やかな昼食の時間を俺達は過ごしたのだった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「.........」

 

 

『.........今度は何してンだァ?』

 

 

ビール「シッ、静かに.........」

 

 

 何の変哲もねェ廊下。そんな場所でコイツはただひたすらに息を潜めて何かを待っていやがった。

 オレが何か聞いても静かにしろと言ってきやがる.........別にオレ様ちゃんの声なんざ誰にも聞かれやしない。カフェだってハッキリと聞き取れる訳じゃなかったんだ。するだけ無駄な心配だ。

 

 

 .........それを説明したところで、それでも男は静かにする事を要求しやがる。それがなんだか[アイツら]を思い出させる。ついオレはつい声を張り上げちまった。

 

 

『だから何してやがンだって聞いてんだよッッ!!!』

 

 

ビール「うるせェ!!!俺はこの[時]を待ってたんだよッッッ!!!!!」

 

 

『!!?』

 

 

 ギリリ、とそんな音が聞こえてくる程に男はその可愛らしい見た目と整合性の取れていない憤怒の表情をオレに向けてきた。

 い、一体何があるって言やがるンだ.........こんな廊下で.........!!!

 

 

ビール「.........すぐ近くにトイレがあるだろう?」

 

 

『!あ、ああ.........』

 

 

ビール「流石の完璧超絶美少女のマックイーンも生物の生理的現象は克服出来ない」

 

 

『え、やだ怖い。それ以上言わないで』

 

 

ビール「ウマ娘は耳が良いからなァ.........!さりげなくマックイーンの後に着いて行って.........キヒヒッ!!」

 

 

『』

 

 

 .........絶句した。あまりの気持ち悪さに。この男の本性に思わず吐き気を催した。もうここから、この男から離れてしまいたい.........

 

 

 だがこのままではオレ様ちゃんの知っている[マックイーン]と[別人]とはいえ、ソイツが被害に遭う。それだけは止めてやらねェと行けねェ。

 そう思ってもう一度男の方を見たが.........

 

 

(.........ァ?何だ.........この[青白いオーラ].........?)

 

 

 ほのかにその身体からうっすらとオーラが溢れ出していた。目を凝らしてようやく視認できるくらいには薄かったが、少なくとも今朝の時点じゃ発生してなかった筈だ。

 

 

 それを何とかしてコイツに伝えようとした。

 

 

 その時だった。

 

 

「さっきぶりね?」

 

 

ビール「っ!!?マックイ―――」

 

 

『なにっっ!!?』

 

 

 背後から突然掛けられる声。それに驚いて二人で同時に振り返ったが、コイツがその名前を言い切る前にその手がコイツの胸へと押し当てられた。

 

 

 そして次の瞬間。コイツからさっきまで感じていた[嫌悪感]と[オーラ]が突然無くなった。

 

 

ビール「―――アレ?俺、じゃない。アタシさっきまで.........」

 

 

「はぁ。やっぱり[貴方]だったのね。それに.........」

 

 

『っ、おいおい。まさかこの[ハンサム]が見えちまってるのかァ?』

 

 

「ええ。すっかり可愛らしくなったじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[サンデー]の[坊や]♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『!なっ.........!!?』

 

 

ビール「え、なになに!!?どゆこと!!?」

 

 

 [知った顔]をした奴が、[それ以上に知ってる呼び方]で俺を呼ぶ。オレ達はその状況に混乱する事しか出来なかったが、目の前のウマ娘はそれを無視する様にオレ達の前を歩き始めた。

 

 

「着いて来なさい?説明してあげるわ」

 

 

二人「.........」

 

 

 何が起きているのか。そんな事すら理解が追い付かない。

 結局オレ達には、[メジロマックイーン]の後を着いていくしか選択肢は無かった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここなら誰も来ないわ。安心して話せる」

 

 

ビール「な、なぁ?本当にマックイーン.........じゃなくて、[Mさん]。なのか?」

 

 

M「ええ。貴方の知っている通り、私はあの子の[ウマソウル]。その人格よ」

 

 

 使われていない空き教室。そこは以前、学園の[七不思議]となっていた場所。現在は彼が除霊(物理)して、それに使った漫画の本が大量に置いてあるだけの教室。

 目の前に居るウマ娘は酷く戸惑っている様子。それと同じ見た目をした[浮遊霊]も、凄く困惑した表情で私の事を見つめている。

 

 

 私は事の顛末を話した。話して行くうちに彼はやはり怒りに支配されて行き、[蒼い炎のオーラ]をほのかに放出させながら拳を握り、震わせていた。

 

 

M「.........落ち着きなさい。また[振り回される]わよ?」

 

 

ビール「え?」

 

 

M「今の貴方は[ウマ娘]。元の状態より感情の起伏は[激しく]、そしてそれは[表に出やすい]。コントロールしなさい」

 

 

 客観的な事実を伝えると、彼は申し訳なさそうにしてゆっくりと心を落ち着かせていった。深呼吸の息を吸うタイミングでオーラは小さくなり、吐くタイミングで緩やかにその燃料。[感情]を発散していく。

 

 

 [肉体]。それは[魂]の力を[増幅させる装置]の様なもの。四肢は直接的に現実に干渉し、思考は裏側から現実を侵食して行く。

 元々男性であった彼は女性以上に[感情]が強い。しかし肉体構造から制限を掛けられ、それが大きく爆発したり、表に現れる事はまず無い。なぜならそう[創られている]から。

 

 

 だけど、[女性]となれば話は別。肉体構造から[感情]を抑制する機能は無く、訓練をしなければそのまま表に素の感情が飛び出てしまう。

 普通の女性であるならばある程度は問題無いのだけれど.........男性レベルの感情ともなれば話は変わってくる。

 

 

M「アドバイスを上げる。常に穏やかで居なさい?そうするだけで貴方は感情の起伏を今より掴めるようになる」

 

 

M「それは[武器]よ。無闇に振り回せば必ず誰かを傷付ける。肝に銘じなさい」

 

 

ビール「わ、分かった」

 

 

 人間って思ったよりも不便だと感じたわ。[あの子]の身体を借り始めた時は苦労したし、今も若干動かし憎さを感じている。

 けれどこの特性は[あの時以上]を引き出せる物だとも感じているのは事実。

 

 

 なんせ、[鞭]なんかで叩かれずとも己の感情一つで加速が付く。そんなのどこを探したって人間以外の生物居やしない。

 

 

 目の前の人達は未だに困惑しているけれど、私は構わず話を先に進める。

 

 

 その為に、私は[手を叩いた]。

 

 

『?何やってんだ.........?』

 

 

ビール「!あの仕草.........ま、まさか!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お呼びでしょうか。お嬢様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が手を叩いた音に少し遅れて、[天井]からロープが垂れ下がり、一人の老体が降りてくる。私自身も驚いたわ。ここトレセン学園よ?

 そしてその姿を見て、彼は頭を抱えた。

 

 

M「あ、ありがとう爺や.........その、前に頼んで置いた[物]。ある?」

 

 

爺や「勿論です。しかし依然として[桜木様]の行方は.........」

 

 

M「もし、目の前の存在がその[桜木 玲皇]だとしたら?」

 

 

爺や「!な、なんと.........!!?」

 

 

 酷く驚いた様子で目の前のウマ娘を見る爺や。しばらく疑いの目を向けていたけど、その首元から下げていた[アクセサリー]を見て直ぐに納得した。

 

 

爺や「むぅ、確かにこの姿でしたら、私共が尽力したとしても見つからない訳です」

 

 

ビール「え?探しててくれたの?連絡してくれれば良かったのに.........」

 

 

爺や「今やお嬢様は貴方様の敵方。[リギル]です。あの[若者]に勘づかれる事は避けたいとお嬢様が」

 

 

M「無駄話は結構よ。早く[渡しなさい]?」

 

 

 

 

 

 ―――酷く雑な切り方で話を終わらせたMさん。それに対して爺やさんは申し訳なさそうに頭を下げてから懐から高価な箱を取り出し、俺の方へと歩いて来た。

 

 

ビール「.........爺やさん。今のマックイーン。変だと思わないんすか?」

 

 

爺や「.........事情は把握しております。受け入れ難い事ではありますが今は、[マックイーンお嬢様]の安全の為従っております」

 

 

ビール(マジか.........!じゃあMさんの事把握してるのか!!?)

 

 

 俺は思わず彼女の方を見た。俺の表情を見て面倒臭そうに溜息を吐いたが、その視線を窓の方へと向ける。どうやらこちらは事の顛末を説明してくれる気は無さそうだ。

 彼女としては早々にこの集会を終わらせたいのだろう。[花道]。いや[奴]がどう目を張り巡らせているか分からない現状、長い時間一緒に居るのは避けた方が良い。

 

 

 俺は取り敢えず爺やさんに差し出された箱を受け取った。

 

 

ビール「これは?」

 

 

M「貴方達が今後[ウマ娘]として[強くなる為]に必要な物。そして私自身が預けたい物よ」

 

 

『[強くなる]だァ?こンな手の平に収まる箱の中にそんな物が入ってるって言うのかァ?まさか、[ドーピング薬]でも入ってンじゃねェだろうなァ.........!』

 

 

 隣で浮いているサンちゃんが強くMさんを睨み付ける。あまりそう言った事に関心があるとは思わなかったが、どうやら[ドーピング]という物に関しては違うらしい。

 しかしMさんはその圧に対してひらりと躱す様に首を振った。

 

 

M「開ければ分かるわ。だけど.........[時間切れ]ね」

 

 

ビール「時間切れ.........!!?」

 

 

『っ、誰か来やがる.........』

 

 

 弱々しい音。普通の人間であったのならすぐ側に来るまで気付けなかっただろう。だが今の俺は[ウマ娘]だ。誰も歩いていないこの階の廊下。そこに至る為の階段を上る足音が聞こえてくる。

 嫌な汗が背中に流れ、体操服のシャツをぺったりと肌に張り付かせるが、そんな不安さとは裏腹に俺の頭は既に[言い訳]を考えていた。

 

 

 ある程度言葉が整理出来た後、足音はこの教室の扉の前で止まり、ゆっくりと扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや。ここで何をしているのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

M「.........[花道トレーナー]」

 

 

 奴は俺の姿を見た後一瞬驚いた表情を見せたが、直ぐに全てをバカにした様な笑みを浮かべてそう問いかけてきた。

 先程の様に感情が暴れ出しそうになるが、拳を握り締める事でその感情を思考からその手に移し、先程考えていた[言い訳]だけを思考して行く。

 

 

ビール「マックイーンさんは元々[レグルス]所属です。それをスカウトし直すのは当然でしょう?」

 

 

「何を言ってるんだい?[特別移籍]をしなければ[アオハル杯]には出場出来ないよ?」

 

 

ビール「?したじゃないですか。もう」

 

 

 俺がそう言うと、奴はキョトンとした顔をして見せた。この男ほどの頭脳なら簡単に分かる[ルールの穴]だと思ったが、どうやら俺の買い被りだったらしい。

 

 

ビール「[特別移籍]した後、元のチームに[特別移籍]しては行けないなんてルール。あります?」

 

 

「!くはは、これは一本取られた。やるねぇ?それも[彼]の入れ知恵かい?」

 

 

ビール(!コイツ.........まさか.........!!!)

 

 

ビール「.........ええ、正直[アニマ]だとか何だとか分かりませんけど、アタシはあの人の伝言は伝えただけです。今回もそう」

 

 

「そうか。じゃあ彼に伝えておいてよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[全距離]、[全レース]で[全勝]出来たら[返して上げる].........ってね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール(っ、キツい事言ってくれんじゃんねぇ.........!!!)

 

 

 目の前の男はしてやったり。とでも言いたげな表情でそう言い切り、マックイーンの肩を叩いてこの教室を去ろうとして居る。

 俺はその背中を黙って見て居たが、その胸中には[希望]が渦巻いていた。

 

 

ビール(アイツ.........[気付いてねぇ]。良いぞ.........撹乱は出来そうだ)

 

 

 あの口ぶり。明らかに[気付いていない]。俺が[桜木 玲皇]である事に、全くと言っていいほどに。

 恐らくではあるが、この[ウマ娘]はそこら辺の一般のウマ娘で俺が無理を言ってチームに参加させている。とでも思っているのだろう。

 

 

 ともなればいざと言う時、何か相手を混乱させる事が出来るだろう。やり方は思いつかなくても今は良い。その時が来れば考えればいいだけの事だ。

 

 

『.........おい。そろそろ行くぞ』

 

 

ビール(!そうだね。トレーニング行かなくちゃ)

 

 

 チャイムが鳴り響く音。そろそろトレーニングが始まる。

 他の子達に関しては心配していないが、やはり一番足手まといなのは俺だ。それを自覚していて顔を出さないのは流石に有り得ない。

 

 

 俺は爺やさんから受け取った箱をポケットに忍ばせて教室を後にした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「ち、ちかぽれいた(疲れた).........」

 

 

 汗と泥にまみれた身体を綺麗にする気力も無く、俺はベッドへと頭から突っ込んだ。

 ここは俺の家。この身体になってから何だか嫌な匂いがこびり付いている事に嫌悪感を感じるが、そんな反応を示す事すら出来ないほど疲れ切っている。

 

 

『飯はねェのか?』

 

 

ビール「無いよ.........もう寝る.........」

 

 

『はァ!!?ちゃンと食わねェと勝てねェぞッッッ!!!!!』

 

 

 サンちゃんの意見もごもっともだ。しかし現在俺の身体はこれ以上動いてくれそうには無い。飯を作る気力があるならこんな所にダイブなどしていないのだ。

 うつ伏せになった身体を仰向けにして行く最中。何かズボンに入っている物がゴリゴリと俺の太ももに痛みを与えてくる。

 

 

 驚きながらもポケットに手を突っ込むと、そこには爺やさんがくれた[箱]が入ってあった。

 

 

ビール「あ.........疲れてて忘れちゃってた.........」

 

 

 俺とした事が大事な事を忘れていた。いくらトレーニングが厳しかったからと言って預かった物を忘れるのは頂けない。

 俺は自分に喝を入れ、心の中でMさんと爺やさんに謝りながらその箱を開いた。

 

 

 その箱の中には.........

 

 

ビール「.........ッッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、[王冠のアクセサリー]が入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「こ、これはまさか.........マックイーンの.........っ!!!」

 

 

『ァ?何が入ってたんだ?』

 

 

 箱の中身を見て驚愕する。そんな俺の姿を見て横から中身を覗き込む様にサンちゃんが顔を覗かせてくる。

 これは俺達の[チームの証]。俺の首元に下げられた物と同じ[王冠]を象ったもの。本来ならば彼女の耳飾りと共にあるはずだ。

 しかし今日会った時、その耳に注目してなかったから付けていたかどうかすらまで覚えては居ない。

 

 

 だが少し[汚れている]。[あの日]、彼女はこれをトレーニングコースで失くしていた。雨の降る中で、これは汚れてしまったのだ。

 

 

 無事にその後戻ってきたとはいえ、完全にこの[汚れ]は落ち切る事は無い。だからこれがマックイーンの物だと直ぐに分かった。

 

 

 俺は恐る恐る、その王冠に触れる。

 

 

ビール「―――っ!!?」

 

 

『なっ―――』

 

 

 その瞬間。その王冠から強烈な[光]が発せられた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次第に、その光は弱くなっていく.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強い光に目をやられないように腕で目を庇っていた。それが弱まるのを確認して俺はゆっくりともう一度その[王冠]を見ようと目の前を見た。

 

 

ビール「い、一体何が―――」

 

 

『っ!おいおい.........!!?』

 

 

 手に持った箱。それを手前に視界にはベッドに降り立つ[脚]が見えた。

 

 

 状況が飲み込めない。サンちゃんは俺の隣だ。目の前には居ない。

 

 

 じゃあ誰が?それを確かめる前に、その人物が声を上げた。

 

 

「―――[トレーナーさん]っ!!!」

 

 

ビール「のわっ!!?」

 

 

 唐突に身体に抱き着かれる。触れられる。暖かさがある。だと言うのに、 彼女の身体は浮いている。

 

 

 整合性が取れていない。何が起きているのか理解が出来ない。けれど現実は待ってはくれない.........

 

 

「ぐすっ.........会いたかったです.........!!!」

 

 

ビール「ま、[マックイーン].........なのか?」

 

 

 肩を抱いてゆっくりと俺の身体から引き離す。[彼女]と瓜二つの姿。そして白いワンピース。格好を見れば、[ウマソウル]だけの状態のMさんと同じだ。

 

 

 だが、その身体付きはMさんのような大人の女性の物ではなく、普段から親しんでいる[彼女]。[メジロマックイーン]と同一の物だった。

 

 

 そんな頭で組み立てられる答えへの計算式。それに答え合わせをするように、彼女は口を開いた。

 

 

「ええ.........!私は正真正銘、チーム[レグルス]の[エース]―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[貴方のメジロマックイーン]ですわ.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........何が起こっているのか。頭で理解する事はまだ出来ない。だがこの現状は現実だ。確かに目の前で起こっている。

 

 

 誰がこんな事を予想出来た?誰がこんな事態を引き起こした?どうして彼女がこんな目にあっている?

 

 

 その全てに対し、一つの[答え]で答案を埋めた俺は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、嘘.........!!?トレーナーさん!!?トレーナーさん!!!」

 

 

『.........あァ、そりゃ。そうなるよなァ』

 

 

 ―――俺は、[全て俺のせい]。という解答に辿り着き、今まで感じた事の無いレベルの[自責の念]により、意識を手放したのであった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ

 

 

 

 

 

 教えて〜!シロちゃん先生〜!

 

 

桜木「.........え、何これ。またなの!!?」

 

 

シロ「皆。名も無き女神のシロちゃん先生よ。今日は[歴史]についてお勉強するわ」

 

 

桜木「ちょっと!!?貴女何やってんの!!?」

 

 

シロ「そこ。授業が出来ないわ。内申点下げるわよ」

 

 

桜木「な、内申点って。学生なら良いよ?俺もう三十路近いんだか.........ら」

 

 

ダーレー「ん?何かな桜木くん。俺の顔に何か着いてるかい?」

 

 

ゴド「私、一度言ってみたかったの〜。ちょっと〜男子〜。これじゃシロ先生が授業出来ないわ〜♪」

 

 

ターク「静かにしろ。桜木」

 

 

桜木「これ俺が悪いの?」

 

 

シロ「今日は[世界創造]について学んで行くわよ。少し難しいからちゃんとノートを取るように」

 

 

三人「は〜い」

 

 

シロ「この世界が[創造]される前。私は別世界に居たわ」

 

 

シロ「そこにはウマ娘では無く、[馬]という生物が居て、私は人類が発見した中で最古の[馬の骨]として人類に認知されたわ」

 

 

シロ「その結果。[馬]による活躍。そして[夢]や[希望]はその子達を通して[私]という概念に集約して行った」

 

 

シロ「その[願い]の力を使い、私はこの[世界]を創造したのよ」

 

 

シロ「何か質問はあるかしら?」

 

 

桜木「先生〜。これテストとかあるんですか〜?」

 

 

シロ「そんな物無いわ」

 

 

桜木「はァ!!?んじゃ時間の無駄じゃんっ!!!俺は帰らせてもらう!!!」

 

 

ターク「な!!?貴様っ!!!シロ様がこんなにも優しく[世界創造]について教えて下さっているというのに!!こんな機会中々無いのだぞ!!?ダーレー貴様からも.........ダーレー?」

 

 

ダーレー「.........Zzz」

 

 

ゴド「あらあら〜♪ダーレーったらヨダレまで垂らしちゃって.........」

 

 

シロ「はぁ。今日の授業は終わりね。レックス?」

 

 

レックス「はいはい。彼を[夢]から目覚めさせるよ」

 

 

シロ「ありがとう。偶にの暇つぶしには良い催しだったわ」

 

 

シロ「それに[テスト]は無いけれど.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[ここから先]、必要な[知識]だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 End.........♪

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