山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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Stone-Broke

 

 

 

 

 

 吹き荒れる初夏の風。最後の涼しさを届けるこの風が汗にまみれた身体から体温を奪って行く。

 歯を食いしばり、抜けていく力にリードを付けて引き戻す様に身体を強ばらせる。

 

 

 こんな所で止まってる訳には行かねェ.........せっかく掴ませて貰ったチャンスなんだ。物にしないでどうする.........!!!

 

 

ビール「っ、もう一本.........うひゃ!!?」

 

 

 体勢をゆっくりと前傾姿勢に整えた。しかしそこから時間を置くことなく、オレの首筋に何やらひんやりとした物体を当てられて大きく飛び退いた。

 ヒヤリとした首元を触りながら振り返ると、そこには[青鹿毛]のウマ娘がイケすかねェ顔をオレに見せながらペットボトルを手に持っていた。

 

 

「ちょっと休憩。頑張るのは良いけど、それで[走れなく]なったら元も子も無いよ?」

 

 

ビール「.........チッ、っるせェよ。誰に口聞いてんだァ?」

 

 

「飛んだじゃじゃウマを掴まされたのう。[ポッケ]の時より骨が折れそうだわい」

 

 

 ペットボトルをぶんどって水分補給をしながら話を聞く。ウマ娘とそのトレーナー。[フジキセキ]と、確か[タナベ]っつってたトレーナーだ。

 

 

タナベ「それにしても良いのかフジ?この子は打倒[リギル]を掲げておるチーム。[レグルス]の所属じゃぞ?」

 

 

フジ「あはは、そうなっちゃいますね」

 

 

ビール「そうなっちゃいますねって.........」

 

 

 能天気な奴だ。[昔]っからそうだったが、ここに来てもそれは変わらないらしい。違うとすれば[姿]だけだ。誰に似たのか知んねェが、オレと違ってコイツは穏やかで頭が切れる。

 爽やかな笑いを見せた後、コイツは水分補給をしているオレに視線を向けてきた。

 

 

フジ「なんて言うのかな。この人は[ほっておけない]って思ったんです」

 

 

タナベ「ポッケの時と同じか?」

 

 

フジ「う〜ん、ちょっと違うかな?ポッケの時は手の離せない後輩って感じだったけど、これは.........うおっと」

 

 

ビール「.........茶番は終いだ」

 

 

 空になったペットボトルをフジに投げる。言いかけた言葉を出させる事無くオレはこの会話を終わらせたかった。

 

 

 [家族]だのなんだの、下らない。結局は[血]だ。現状コイツとの繋がりは何一つとして存在していない。

 繋がってるのは[魂]だけだ。それも[別世界]。今じゃ限りなく薄い。それに振り回されちまえば[今]を見失わせる事になる。

 

 

 それは.........オレも[コイツ]も望んじゃいない。

 

 

ビール「特等席で見せてやる。オレ様ちゃんの走りをな」

 

 

タナベ「お、おいっ!まだクールダウンは.........行きおった」

 

 

フジ「あはは.........これは、ポッケより大変そうだなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポッケ「.........」

 

 

 チーム[レグルス]のミーティングが終わった俺は桐生院の指示でタキオンとカフェとでビデオを見る事になった。

 けどまぁ、これが頭に入ってこねぇんだ。俺としては実際に身体動かして試してみたい事の方が多いし、その方が身に付きやすい。昔っからこの手のレース映像を見せられると身体がむず痒くて仕方無かった。

 

 

 .........だが今は―――

 

 

タキオン「気になるのかい?カフェの[お友達]が」

 

 

ポッケ「あぁ.........正直ビデオトレーニングよりかはな」

 

 

カフェ「そうですね。私も少し気になります.........」

 

 

 窓の外に映るのは元々俺の事を見てくれていたナベさんとフジ先輩。そしてカフェのお友達が憑依した状態のウエスタンビールだ。

 その光景に目を奪われて正直トレーニング所じゃない。そしてそれはカフェの奴も同じだった。

 

 

 俺達のその様子を見て、タキオンは躊躇する事無くレース映像を停止させ、座っている椅子の向きごと窓の外へと向けた。

 

 

タキオン「[運命]。なんて言葉を口にするのは嫌だが、あの存在からは多少なりとも近しい物を感じるよ」

 

 

ポッケ「そうかぁ?つっても[幽霊]なんだろ?あんま深入りすっと危ねぇってカフェも言ってたじゃねぇか。なぁ?」

 

 

カフェ「.........実は、私も」

 

 

ポッケ「おい。説得力の塊」

 

 

 いつも通りのオーバーなリアクション。それに対して至極真剣な表情で同意をする。俺の知ってるコイツらだったらもう少し反発した感じを見せるんだが.........どうにも今日は違うらしい。

 

 

タキオン「君もそうだろう?わざわざ自分であそこに[預けた]のだから」

 

 

ポッケ「違ぇよ。見てらんなかっただけだ」

 

 

カフェ「?それは、どうしてですか.........?」

 

 

 .........余計な事言っちまった。俺らしくも無い。

 

 

 だが実際そうだ。一人もがき始めたアイツを見てたら、凄く苦しくなった。

 [一人]で強くなる方法が[分からない]。そんなのが手に取るように分かるくらいがむしゃらで加減を知らねぇ。そんなやり方で強くなってもいつかガタがくる。

 

 

 [俺達]は.........多分、そういう風に[出来ちまってる]。

 

 

 それに、他人を信用していないアイツの心が、俺には少し分かる。

 ナイフみてぇな切れ味でアイツは心を振り回してっけど、ソイツは言わば[虚栄心]の裏返しだ。

 テメェが積み上げてきた物が通用しねぇ。それが分かってるからこそそれを守る為に[強がっている]。それだけだ。

 

 

ポッケ「.........」

 

 

タキオン「?私の顔に何か付いているかい?」

 

 

ポッケ「っ、何でもねぇ!!!」

 

 

 クソ、コイツの洞察力を甘く見ていたぜ。バレねぇ様に見てるつもりだったのによ。本当に抜け目のない奴だ。

 .........だからこそ、[あの時]は面食らっちまった。用意周到という言葉が似合うウマ娘はコイツ以外に俺は知らねぇ。

 そんな奴が[トゥインクルシリーズ]のデビューを遅らせに遅らせて来た。コイツと一緒に入学して来た奴らは早々にデビューを果たしたらしいが.........コイツはそんな事お構い無しに[研究]ってのに日々を費やしていた。

 

 

 そんなコイツがデビューした。ああ、さぞかし震え上がったさ。遂に[虎]が目覚めたのか。一体どんだけ速ぇんだ.........って。

 

 

 それが蓋を開けりゃ皐月賞から脚部不安で無期限の出場休止。一体何やってたんだって、意味も分からず苛立ってた。

 

 

 もう[戻ってこねぇ]。そう確信した俺は、前々からナベさんに[ドリームトロフィー]への[移籍]について真剣に考え始めた。

 書類も何度も書き直したし、フジ先輩と何度も相談して、どのグループに所属すっかも決めた。

 

 

 そんな矢先、コイツは[有馬記念]で復活して、[URAファイナルズ]の決勝にまで残りやがった.........

 

 

 大きなレースではあったが、参加条件は[現状TCに参加しているウマ娘のみ]だった。俺はもう半分離籍してたもんだし、タキオンの出走を知ったのも出走者発表の時だ。余りにも時間が無かった。

 

 

 コイツは[復活]した。カフェも居る。ダンツだってまだまだこっちでやる気を出してやがる。離れる理由はもう無ぇ。

 チーム戦ではあるが、コイツらとしのぎを削るのは違いねぇんだ。俺はとことん、走らせてもらうだけだ。

 

 

 これからのレースにそんな期待を馳せていると、タキオンは窓の外を見ながらうなり始めた。

 俺達もその方を見ると、またアイツがナベさんに噛み付いていやがった。

 

 

タキオン「だけど不安だね。あの[タナベトレーナー]は素晴らしいが、彼への態度を他の者から見られたらたまったものじゃない」

 

 

ポッケ「まあな。すっげぇ偉い人だってのは俺も流石に分かる。けど大丈夫じゃねぇか?あの二人が傍にいんだろ?」

 

 

カフェ「.........」

 

 

二人「.........え、カフェ?」

 

 

 流石にあの二人が止めるだろう。そう思っていた俺達は二人の姿が見えるカフェの方を見たが、凄く何かを言いたそうに口をもごもごさせているカフェが目に映った。

 

 

カフェ「.........ごめんなさい。マックイーンさん。桜木トレーナーさん。約束守れません」

 

 

タキオン「や、約束?」

 

 

カフェ「今お二人は居ません」

 

 

二人「は?」

 

 

 え、なに?なんだって!!?おいおいおい話が違ェぞ!!!俺はやばそうになったらあの二人が止めんだろと思ってナベさんを紹介したのに!!!これじゃただの火の着いてねェ爆弾じゃねェか!!!

 

 

 い、今すぐにでも引き離さねぇと.........!!!

 

 

 そう思い立って俺は立ち上がろうとしたが、それを制するようにカフェは待ったをかけてきた。

 

 

カフェ「これはお二人の[作戦]です」

 

 

タキオン「ふぅン?作戦ねぇ?」

 

 

カフェ「[お友達]は今、自分で考えて、動いて、変わろうとしています」

 

 

カフェ「それに対して正しいアドバイスを送ったとしても、本人の気が晴れない可能性がある。それを考えてお二人は離れると.........」

 

 

ポッケ「な、なるほど.........」

 

 

 確かに理にかなってやがる。プライドが高い奴は身内からのそういうのに苦しく思う奴が多い。

 それは勿論悪い事だとは思うし改善するべきだと思うが、今直面してる問題とは直接的に関係しねぇし、それに同時にやると余計時間が掛かっちまう.........

 

 

 案外考えてんだな。アイツら.........

 

 

ポッケ「はぁ〜安心したぜ〜.........っつぅことはどっかでこの状況見てくれてんだろ?」

 

 

カフェ「.........あー」

 

 

ポッケ「え、嘘待って何その反応」

 

 

タキオン「おいおいおいおい。冗談だろカフェ?このままじゃ私は最近読んだ某奇妙な作品の登場人物のとある漫画家みたいな性格に歪んでしまうよ?」

 

 

ポッケ(元々それくらい歪んでる.........)

 

 

カフェ「ごめんなさいタキオンさん。ポッケさん.........お二人の平穏の為にも言う訳には行きません.........」

 

 

ポッケ「そりゃ無いぜカフェ!!?」

 

 

タキオン「さぁ言え言うんだカフェ!!!さもなくば君のコーヒーにいつも私が飲んでる量の二倍のシロップと砂糖を入れるぞ!!!」

 

 

カフェ「デートに行ってるみたいです」

 

 

二人「.........は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はァァァァァッッッ!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「はァ......はァ......クソッ」

 

 

 ダメだ。全然身体に慣れやしねェ.........芝は兎も角、ダートの方もオレが走っていた奴とはまるで違う。完全に砂だ。脚が滅茶苦茶に取られる.........

 これならまだ芝を走っていた方が楽だ。それに.........

 

 

ビール(ダートはマイル以下しかねェ.........もうちっと優遇してくれても良いんじゃねェかァ.........?)

 

 

 膝に手を着きながら心の中で弱音を吐く。汗が滝のように流れ出て行き、額から顎に伝って地面に染みを作って行く。

 あと一本.........あと一本走れば何が掴めるかも知れねェ。そう思っても身体は言う事を聞かない。前傾姿勢から戻そうとすると更に前のめりになって行って、終いにはオレはその場に仰向けになって倒れた。

 

 

ビール(.........眩しい)

 

 

 ギラついた太陽。突き放すような強い光。手で影を作りながら直視する。強烈な炎の明かりは網膜を焼き、目を離したとしても残光の様にその影を目に残す。

 どこに居ても着いてくる。顔を沈めてもやがて昇ってくる。ウザったくして仕方が無い。

 

 

ビール(.........)

 

 

ビー?(.........)

 

 

ビ??(.........オレは)

 

 

???(オレは本当に、そんな[存在]に成れたのか.........?)

 

 

 ただあるだけで強い影響を及ぼす存在。ただ空に浮かんでいるだけで光を降り注ぎ、暖かさを与える存在。

 オレには[名前]がある。毎日の様に全人類。全ての生き物が見る[星]。それからあやかった名前が付けられた。

 

 

 .........いや、正確には違ェ。もっとろくでもねェ意味だ。ただ万人が勘違いしているだけ。

 

 

 その名前の意味すら忘れちまった。[太陽]にはなれねェ。結局オレは.........

 

 

「隣、良いかな?」

 

 

ビール「.........」

 

 

「よいしょっと」

 

 

ビール「おい。良いなンて言ってねェぞ」

 

 

「え?ああごめんごめん。でも私も疲れちゃったからもう動けないんだよね」

 

 

 呑気な顔をしてフジキセキはまたオレの隣に居座ろうとして来やがる。それどころかオレと同じ様に地べたを背に着けて空を見上げている。

 両手を腹に乗せて深く息を吸うコイツの姿を見て、オレの心も何だか次第に落ち着いて行った。

 

 

ビール「.........髪汚れるぞ」

 

 

フジ「良いの良いの。レースの時だって乱れるし、私はあまり気にしないから」

 

 

ビール「.........そうかよ」

 

 

フジ「ふふ、ここの土地には慣れた?脚、大丈夫?」

 

 

ビール「うるせェ。お前に心配される筋合いはねェよ」

 

 

 どこまでも目ざとい奴だ。本当に一体誰に似たんだが.........

 

 

 溜息を吐きながらも、オレは自分の脚に意識を向ける。痛みは無い。むしろ快適過ぎるくらいだ。[器]としては申し分が無さすぎる。

 他人の身体だってのに、まるで自分専用に[調整]されてるみてェにフィットしやがる。

 

 

 .........だがそれでも。

 

 

ビール「.........何かが足りねェ気がする」

 

 

ビール「なんかこう、[迸る]様な何かが、今のオレにはねェ」

 

 

フジ「.........迸る、か」

 

 

 今のオレの課題点でもあった。こっちじゃ目標と呼べる物が何一つ無い。ただただ巻き込まれた形で身体を得たってだけの存在だ。

 .........けれどだからと言って、負けを潔く認める程オレは落ちぶれちゃいねェ。

 

 

 やるからには勝つ。勝負をするからには叩きのめす。それだけを胸に今まで生きて来た。

 気に食わねェ奴も、気に入った奴も同じ土俵に立てば全員オレの標的だ。誰であろうと関係ねェ。

 

 

 だからこそ、今この現状。[勝ち]に遠い今をオレは受け入れられずに居る。

 

 

 そんなオレに対してフジキセキは悩みながら立ち上がり、やがてオレの方へと振り返った。

 

 

フジ「じゃあさ、一週間後に走ってよ」

 

 

ビール「.........ァ?一週間?」

 

 

フジ「そう。条件は芝、中距離。目標タイムは二分丁度」

 

 

ビール「おいおい、勝手に話を進めてんじゃねェ。大体オレは元々ダート―――」

 

 

フジ「いいや。君の走りは[芝向き]だよ。日本だったらね。ここのダートは脚が取られやすいし、ちゃんと走ろうとした時[怖かった]でしょ?」

 

 

 .........コイツ。どこまで目ざといんだよ。バレねェと思っていたが、少しの走りでそこまで見抜いて来やがるとは.........

 

 

 いや、[コイツ]だからか。テメェも同じような境遇を辿ってんだ。分からねェ訳がねェ。それを視野に入れられなかったオレが馬鹿だっただけだ。

 

 

 実際、脚に痛みは無いながらもオレは庇っていた。いつ何時、あの痛みが走るか分からない。[あの時]だってそうだ。気付けばオレの足に居座り着いて、結局ソイツと共に[死んだ]。

 ああ。クソッタレだよ本当に。まるでゆきずりする馬鹿な男と女みてェな関係だ。祝福なんざ出来ねェくらいにどうしようも無い奴だった。

 

 

フジ「どうする?」

 

 

ビール「.........お前は芝の方が[好き]か?」

 

 

フジ「え?うん。ダートよりは走りやすいけど.........?」

 

 

ビール「じゃあやってやる」

 

 

 ガキが。あんま大人を舐めてんじゃねェ。[テメェら]が走ってんだ。オレに出来ねェ訳がねェ。

 あァそうさ。最初から[そのつもり]だったさ。[ダート]の中距離が存在しねェ。あったとしてもメジャーじゃねェって知ったからには、オレに残されたのはこの道だけだった。

 

 

 この道じゃなきゃ.........[約束]は果たせねェ。

 

 

『私が勝ったら、貴女もチームとして走って下さい』

 

 

『そしてこの[世界]でもう一度、[栄光]を掴み取るんです』

 

 

ビール(ったく、強引な所と頑固な所は、しっかり同じなのがムカつくぜ)

 

 

 ゆっくりと地面から立ち上がる。背中に着いた土を払いながら空を見上げる。

 太陽は未だにオレに突き放すような光を降り注ぐ。それでも尚、オレは目を逸らさない。

 

 

 あれがオレの[目指す物]。オレという存在を担うものであり、[表す物]。

 

 

 その[名]にオレ自身が負けないよう、強くならなくちゃ行けねェ。

 

 

ビール「一週間で仕上げてやる。楽しみにしとけよ。[クソガキ]」

 

 

フジ「!あはは、私の方が歳上だと思うんだけど.........」

 

 

フジ「.........うん。何だか悪い気はしないね」

 

 

 休憩は終わりだ。ガキ共に舐められたままじゃ示しがつかねェ。今は少しでもこの[芝]に慣れるのが先決だ。

 実際、足を取られるダートよりスピードが出る芝の方が走りやすい。負担は掛かるが、もう[あの身体]じゃねェんだ。多少無理をしようが持ってはくれるはずだ。

 

 

 コイツは.........フジキセキはゆっくりと立ち上がる。ゆったりとした余裕のある動作で土をほろった後、オレの方を見て微笑みかけてくる。

 

 

フジ「君の事は何も分からないけど、それでも私は君を放っては置けない」

 

 

ビール「.........勝手にしな」

 

 

フジ「うん。そうさせてもらう」

 

 

 そして結局、オレはコイツのしつこさに観念してしまった。こうまとわりつかれると調子が狂う。

 

 

 オレは別に一人だって―――

 

 

『.........気は済んだか?[    ]』

 

 

ビール(.........何で今それを思い出すんだよ)

 

 

 それは無理だ。出来ない事だ。そう言わんばかりにオレの記憶はオレの考えを否定してきやがる。

 今度は面倒臭い事に、オレにレースを教えた存在が出てきやがった。いつだって仏頂面で何を考えているのか分からねェ。

 その癖、オレが暴れている時はいつもそれが落ち着くまで放っていやがった。

 

 

 それでも呆れもせず、飽きもせずにオレの傍に居続けた.........奇特な奴の一人だ。

 

 

 だがそれも、今度で終いだ。一週間後のタイム計測.........オレはそこで―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――この[呪縛]を解く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うっひゃ〜。すんげぇプレッシャー.........』

 

 

 久方振りのトレセン学園。時刻は放課後。人はレグルスのチームメイト。そしてタナベさんとその教え子達が居る。

 その誰もが神妙な面持ちでゲートに入っているサンちゃんを見つめている。

 

 

『どうやら[テスト]の様な物をするようですわね』

 

 

『テストって、そんな事しなくてもサンちゃんの強さは俺達が保証できるじゃんか』

 

 

『納得いかないのでしょう。特に彼女自身が』

 

 

 腕を組みながらゲートを見守る彼女。それを横目で見た後、鉄柵に頬杖を着いて事の行く末を見届ける体勢に入る。

 

 

 まぁ俺自身、なるようになるとは思っている。サンちゃんはああ見えて結構生真面目な性格だ。確かに横暴で暴力的で乱暴者で人の話を聞かない節があるかもしれない。

 

 

 けど誰よりも横暴で殺戮的な程に暴力的で乱暴者と言うより独裁者で人の話を聞かないで殴り掛かってくる本物のヤバい奴(白銀 翔也)とは違ってまともに接することが出来る。

 

 

 そんな存在が一週間時間を掛けたんだ。あの時とは全く違う姿を見せてくれる筈さ.........

 

 

(頑張れよ。サンちゃん.........)

 

 

 

 

 

 

ビール(.........チッ、ゲートスタートかよ。調子狂うぜ)

 

 

 ―――囲われた空間。息苦しい程の狭さ。何もかも変わっちゃいねェ。あの頃と全く同じだ.........

 足の裏を地面に擦り付けて何とか気分を落ち着かせる。ここに来るとどうも気分が空回りしてきやがる.........

 

 

ビール(クソ、[あの野郎]なんつってやがったか.........)

 

 

 [    。そう焦らなくても良い]

 

 

 [ゲートが開いたら前に行くんだ。お前のタイミングで構わない]

 

 

 .........いや、[アイツ]は最初からオレに任せてやがった。訓練は受けたが、改善しようってのは強く感じられなかった。

 クソ、どこまでも[甘いヤツら]だ。そんなにオレの実力を買ってやがったよかよ。

 

 

 .........まぁ、今となっちゃ.........有難かったけどな。

 

 

ビール(さァて、[ガキ共]に悪い姿は見せらんねェからなァ.........!)

 

 

 ゆっくりと重心を落として姿勢を整える。一週間掛けてようやくこの身体に慣れることが出来た。

 アイツ.........[桜木 玲皇]も奇特な奴だ。誰かも分かんねェ。どんな影響が出るかも知らねェ[悪霊]のオレに一週間。身体を貸し続けた。寝る時も風呂の時も.........飯作る時は流石に変わって欲しかったが、そのおかげで身体の熟練度は上がって行った。

 

 

 そのおかげで.........ようやく[スタートライン]に立つ事が出来た。

 

 

フジ「準備は良いかなー?よーいっ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガコンッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「ッ、チィッッッ!!!!!」

 

 

『な、出遅れ.........!!?』

 

 

 ―――真剣な表情で見ていたマックイーン。しかしゲートの開きから平均より少し遅れた秒数で走り出すサンちゃんを見て顔を驚かせていた。

 無理も無い。あんだけ練習したんだから、ゲートスタートは十分だと思っていたんだろう。現に他の子達もその様子を見て心配したり、面を食らっている。

 

 

『まぁ今回は仕方無いよ。それに出遅れしただけじゃレースの勝敗は分けられないからね』

 

 

『それはそうですけど!!あんなに練習してましたのに.........』

 

 

『.........心配かい?』

 

 

『っ!そう、ですわね。本音を言ってしまえば.........凄く』

 

 

 普段は喧嘩ばかりするマックイーンも、サンちゃんの事が心配らしい。ウマが合わない事もあるが、それでも過ごしてきた日々を思えば何も思わないなんて事は無いだろう。

 俺も視線をレースの方へと戻す。今の彼は絶好調だ。距離は2000m。平均的な走破タイムは2分ギリギリ。ここを超えなければ並々いる強敵と競い合う事は難しいだろう。

 

 

(大丈夫。勝てる)

 

 

(だから.........[信じる]んだ。サンちゃん)

 

 

 

 

 

バク「素晴らしく順調なタイムです!!中距離でこのスピードならバクシン的タイムを叩き出すことでしょう!!」

 

 

ウララ「うん!!サンちゃん凄い!!!」

 

 

タキオン「.........」

 

 

 .........現状からして見れば、今のこの状況は喜ばしい事だろう。目標タイムは2分。それを切る事は確実に出来そうだ。

 しかし懸念はある。それは果たして本当に彼女がこのスピードを[維持]出来るか。という事だ。

 

 

ポッケ「.........ありゃ[バテる]な」

 

 

カフェ「.........そう、ですね」

 

 

カレン「サンちゃん.........」

 

 

 ここに居る殆どは気付いている。あのスピードが本来の物では無い事を。決して冷静さから来る、[確信的な速度]では無い事を.........

 

 

桐生院「ワタベさん。少し[掛かっている]気がします」

 

 

タナベ「うむ.........トレーニングの時とは違う速度の出し方じゃ.........」

 

 

 遠目から見える彼女の行先。これから入るのは[第一カーブ]。減速しなければスムーズに曲がり切ることは到底出来ない。

 しかし彼女はそれを気にすることなく速度を落とさずにそこに入ろうとしている。

 

 

 .........そして、案の定。

 

 

ミーク「あっ.........」

 

 

ブルボン「体勢が.........!!?」

 

 

デジ「こ、これではタイムが.........!!!」

 

 

ライス「が、頑張って.........!!!」

 

 

 スピードを殺すこと無く曲がり切る。そんな芸当など出来るはずもなく、コーナーを回ると同時に彼女の弧線は大きく膨らんだ。

 そしてそれを何とかしようと内側への重心移動と姿勢制御で戻ろうとしたが、それが返ってバランスを崩す事になる.........

 

 

タキオン(無理だ。カーブに入ってもスピードを維持するなどというのは[幻想]だ)

 

 

タキオン(誰だって思い付く。だが誰もやりはしない。その結論は一つ。[出来ない]からだ)

 

 

 そう。カーブの最中速度を上げることが出来れば確実に他と差が付く。だがそれは結局[机上の空論]。[出来れば]というレベルの話。実際に出来る事は無い。

 必要なのは力まない事。そしてそれ以上に身体的な才能。[柔軟さ]が必要不可欠だ。レースに対する柔軟さもそうだが、身体的に極限レベルにまで柔らかくなければできはしない。

 

 

 長い歴史のあるウマ娘のレースの中で、それが出来た者は誰一人として居ない。少なくとも、[公式レース]の中ででは.........

 

 

シリウス「.........シャカール。猶予は?」

 

 

シャカ「.........チャート通り。つまり[ジャスト]な走りをしねェ限りはもう無理だ」

 

 

ファイン「そう、なんだ.........」

 

 

オペ「.........非常に、歯痒いね」

 

 

 誰もがあの[挑戦]を見て、その心意気を評価しただろう。それは私も同じだ。

 だからこそ、そのせいで目標タイムを出す為の猶予が無くなった事に悔しさを覚える。あんな事をしなければ今頃、もう少し余裕を持って走る事が出来ただろう。

 

 

 不安の表情を、皆浮かべている............

 

 

タキオン(.........果たして、彼女は一体どう走って見せるのか.........)

 

 

タキオン(どうしようも無く.........[目が離せない])

 

 

 客観的に今の自分の心境を分析する。普段の私ならばこの時点で既に彼女への改善点を3つ程上げ、それを分かりやすく伝える為の思考に意識を割く。

 だが今はそれが出来ずにいる。ただ純粋に彼女の走りを見届けたい.........その気持ちに、支配され尽くしている。

 

 

 [運命]。という言葉は使いたくは無いが.........そう言わざるを得ない程に、彼女に惹かれている自分が居た.........

 

 

 

 

 

ビール(クソ、クソッ、クソッッッ!!!!!)

 

 

 ―――ゲートの出遅れ。コーナリングの失敗。そのどれもがオレのメンタルを尽くギタギタにしてきやがる。

 練習不足?ブランク?ンなもんは関係ねェ。ただ純粋にオレが甘かっただけだ。

 

 

 この[身体]で、それをやろうとしたのが[間違い]だった.........

 

 

 体内時計は正確だ。このまま安定を取っちまえば目標タイムはギリギリ。いや無理だ。序盤でスピードを出しすぎちまった。スパートの掛け所をミスれば完全にタイムが出せなくなる.........

 

 

 そんなオレの目の前に現れる最後の曲線。[第四コーナー]。さっきの失敗がチラついてきやがる.........

 外側には[アイツら]が居る。顔を見ればどいつもこいつもシケたツラしてオレの事を見てきやがる.........

 

 

ビール(.........舐めやがって)

 

 

ビール(.........っ!!?)

 

 

 視界の端の端。視線を前に戻そうとした時、不意に見知った顔が目に映る。

 

 

 凛とした表情で、いけ好かないくらいに澄ました顔でオレの姿を見る.........[メジロマックイーン]がそこに居た。

 

 

マック「.........」

 

 

ビール(.........クソが、テメェも結局。オレを見下すのかよ.........!!!)

 

 

 気に食わねェ。何も変わらねェ。[アイツ]と結局大差ねェんだ。期待されて切望されてきた奴は同じ顔をオレに見せやがる。

 期待はしてない。そんな表情の裏側にある値踏みされる感触.........心底下らねェ。

 

 

 なんだよ。テメェも結局、走ってた時はそういう感じだったのかよ.........!!!

 

 

 

 

 

 ―――ギラついた視線が私に向けられる。その内情を察するに、私の事が気に入らない様子。

 まぁ、無理も無いわね。自分の走りを見て何とも思わない表情を向けられるのは、[プライド]に関わるもの。

 

 

 けどね、[サンデーの坊や]?

 

 

 私は貴方を[知っている]。

 

 

 こんな程度じゃ無いって事を.........

 

 

 

 

 

ビール(?アイツ、どこに指差して―――)

 

 

 オレの視線に気付いたアイツは表情を変えることなくゆっくりと指を差した。その先に視線を動かすと、そこには[ぼやけた奴ら]が立っていた。

 

 

 徐々にそのもやは晴れて行き、次第に[見知った姿]へと元通りになって行く.........

 

 

『.........っ』

 

 

『.........!』

 

 

 ソイツらは.........他の誰よりも、苦しそうな顔をしてやがった。自分が走ってる訳でもねェのに、まるで自分の事みてェに苦しんでいやがった。

 

 

 頭がグラグラとしてくる。呼吸が浅く、早くなって行く。まるで[生きている]様に、身体に[血]が通い始める感覚が生まれて行く.........

 

 

 .........誰が、そんな顔をさせたんだ?

 

 

 誰に一体、そんな期待を抱いてんだ.........?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[俺].........?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ゾワッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレの隣に[旋風]が走った。走るスピードよりも速い速度で隣を駆け抜けて行った。

 

 

 [抜かされた]。一体誰に?覚えている。知っている。この感覚、絶対に忘れる訳が無い.........

 視線を逸らした後ろ側。誰が走っている?誰が走らせている?どちらも愚問だった。答えはオレが一番良く知っている。

 

 

 .........あァ、知ってるよ。この先の展開は知っている。もう一回食らわされてんだ。分かんねェって言う方が馬鹿だ。

 

 

 本当、悪い事しちまっ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サンちゃん―――ッッッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『[サンデー]―――ッッッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [Growing Glory]

 [Lv 1]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンデー「ッッッ............!!!!!」

 

 

 

 

 

タキオン「な、ァ.........!!?」

 

 

カフェ「コーナリング中に.........!!!」

 

 

シャカ「加速、しやがった.........ッッ!!?」

 

 

 ―――何が起こったのか。場面だけを言うのなら簡単だろう。彼女は加速した。コーナーの手前辺りで、先程やろうとした事を、見事やってのけたのだ。

 だが、何が要因でそれが出来たのか。それは難しい事だった。本来、彼女の身体はそう柔らかくは無い。元はトレーナーくんの肉体だ。平均的な柔軟性しか持ちえていない。

 

 

 にも関わらず、彼女はコーナリングの最中での加速を披露した。だが何が変わったのか.........

 

 

タキオン「.........まさか!!?」

 

 

フジ「.........[足の裏]。だと思うよ」

 

 

フジ「彼女はかなりあの身体に驚いていた。その中でも一番目を付けていたのは、[地面]へのアプローチ方法だ」

 

 

 .........有り得ない。この短期間で他人の肉体で、あんな芸当が出来るだなんて、考えられない.........

 確かに、人の足の裏は生物の中で比較的柔らかい性質を持っている。その性質を利用出来れば加速しながらコーナーを曲がる事も出来うるだろう。

 

 

 だがそれにはかなりの時間を要する筈だ。1秒。いや0.1秒にすら満たない時間の中で地面との接触を考えるなんて無茶にも程がある。

 

 

 だがその無茶を.........彼女は押し通して見せたのだ。

 

 

 無理を押し通す。[机上の空論(奇跡)]を実現してし見せたのだ.........

 

 

 

 

 

 ―――クソ。本当に[世界]ってのはふざけてやがる。

 

 

 足掻く奴には嘲笑うかのように[現実]を突き付けて、腐る奴にはうざったいほどの[幻想]を見せてきやがる。

 

 

 だがそのお陰で.........今ようやく[思い出した]。

 

 

 [サンデー。君は凄い奴だ。こんなにも手前変えがスムーズで身体の柔らかい馬は居ない]

 

 

サンデー(そうだ。身体の動きだけでコーナリング加速させようだなんて馬鹿のする事だ)

 

 

サンデー(必要なのは[地面]との連携.........走る為だったら.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

([アイツら]に泡を吹かせる為だったら.........!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

([何だってやってやる].........!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐生院「1.58.5.........」

 

 

タナベ「ふぅ、切り抜けおったな」

 

 

 ストップウォッチを持つ桐生院の若きトレーナー。その秒数を耳にし、ワシはようやく安堵の溜息を吐いた。

 レース場には既に仲間達が彼女の周りに集まっておる。あのコーナリングをどうこなしたのか気になる者。純粋に目標達成を祝う者。沢山おった。

 

 

ビール「だァァァ!!!るっせェ!!!これくらいオレ様ちゃんに掛かりゃ朝飯前だっつってンだよッッ!!!」

 

 

ポッケ「その割には焦ってたじゃねぇか♪」

 

 

ライス「おめでとうっ!!これからよろしくねっ!!」

 

 

ウララ「サンちゃんっ!!一緒に頑張ろうね!!」

 

 

ビール「お、おいっ!!?引っ付くな!!!」

 

 

 .........和気あいあいとしておる。チームと言うのは運営は難しいが、上手く行けば[絆]。[繋がり]が強く芽生える。

 それを不在の中でも、あそこまでまとまるよう勤め上げたあやつも大したもんじゃ。

 

 

ビール「のわァ!!?ちょ、ちょっと待って!!!サンちゃんいきなり交代はキツいって!!!ウララちょっと離れて!!!」

 

 

カフェ「.........タキオンさん」

 

 

タキオン「ああ、戻ったようだねぇ.........」

 

 

ビール「え、な、なんすか?急に怖い顔して.........」

 

 

ポッケ「いんやァ?別に取って食おうって訳じゃねェ。ただ、[お前ら]が何してたのかだけが聞きてェだけだ.........」

 

 

タナベ「.........何をしたんじゃあやつは」

 

 

桐生院「さ、さぁ.........」

 

 

 何故か[主人格]に戻ったであろう彼女を、ポッケは首根っこ捕まえて学園へと引き摺って行った。

 何人かは疑問を呈したが、何故か元のチームメンバー達は仕方が無い。と言った表情でその疑問に無言で答えた。

 

 

 そしてアグネスタキオン。マンハッタンカフェもが彼女へと続く。残った者達は桐生院トレーナーの指示に従い、トレーニングを始めて行った。

 

 

 久々の熱の篭ったトレーニングの日々じゃった。最近はポッケも力が着き、底力を上げる物はしなくなっていた。

 シニア級に入って既に三年目。右肩上がりの成長ではあるが、だいぶ緩やかになった。それを考慮すれば、怪我の可能性の低い物を続ける事が逆に効率が良い。

 

 

 少しの間感傷に浸っておると、先程まで賑やかさに加わっておったフジキセキがワシの隣まで戻ってきた。

 

 

フジ「あはは、賑やかでしたね」

 

 

タナベ「そうじゃな。久々に元気を分けてもらったわい」

 

 

フジ「じゃあナベさんもどうですか?チーム」

 

 

タナベ「ほっほ。こんな老いぼれに付いてくる子など居らんよ」

 

 

 確かに羨ましくもあった。じゃがトレーナー人生を長く経験しておるワシにとって、今更チームを立ち上げるというのは中々難しい事じゃ。

 それにその労力も経験しとる。フジキセキがワシの所に来た時は世代も交代。隠居も考えておったからチームは畳んでいた。年齢的にも、大勢を見られる程の体力は残っとらんかったからの。

 

 

 .........じゃがそれが巡り巡って、気付けばフジはポッケを連れてきて、ポッケは仲間を連れて来て、気付けば小さなチームと言っても良い程の所帯になってしまった。

 

 

 大変じゃったが、その分。良い[夢]を見せて貰った。

 

 

タナベ「.........のぉフジ。お前さん、もう少し[あの子]の面倒を見る気はあるか?」

 

 

フジ「え?.........それって」

 

 

タナベ「ほほ、お前さんを見れば分かる。[近くで見たい]のじゃろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[行ってこい]。フジキセキ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その目で何を見たのか。帰ってきた時に教えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この子には、まだ[やるべき事]がある。それをワシの傍で燻らせるのは非常に勿体ない事じゃ。この子にとっても、これからの[レース界]にとっても.........

 

 

フジ「で、でも私は」

 

 

タナベ「心配するな。あのチームには桐生院がおる。お前さんの[脚]も気に掛けつつ、意志を汲んでくれるじゃろう」

 

 

タナベ「それに何より、正規メンバー全員が[URAファイナルズ]の決勝に出ている。そんなチームに所属する機会なんてそう無い」

 

 

フジ「.........」

 

 

 ワシの言葉をフジは黙って聞いておった。困惑から次第に申し訳なさ。最終的には諦めた表情を見せてくれた。

 ワシとの付き合いも長い。こういう時何を言っても聞かないのはもう分かって居るのじゃろう。

 

 

フジ「.........寂しくなったら、いつでも言って下さいね」

 

 

タナベ「その時はワシが顔を出すよ。あの子達と一緒にな」

 

 

 ワシの所にはまだ、ポッケの友人達が居る。終わってしまう雰囲気が出てしまっていたが、あの子達が満足するまでは支えて行くつもりじゃ。

 ポッケに負けず劣らずのじゃじゃウマ娘ばかりじゃが、今じゃ居なくてはならん存在。それは恐らく、彼女達もワシに対してそう思ってくれておる。

 

 

 そして.........あの[チーム]も同じじゃ。

 

 

タナベ「フジよ。少々重荷かもしれんが、あの[青年]のチームを頼んだぞ」

 

 

フジ「うん。私も、彼にはお世話になったからね」

 

 

フジ「レースに出るかどうかはまだ分からないけど.........支える事は、出来るはずだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぎゃぁぁぁあああああ!!!!!ご、ごめんなさいィィィィィィ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フジ「.........少し、騒がしいチームだけどね」

 

 

タナベ「はぁ.........本当、何しとるんじゃろうな。あのトレーナーは」

 

 

 ゆっくりと息を吐き切る。もう少し若ければワシも古賀の様に笑い飛ばせていたじゃろうが、老いというのはそんな事をするための元気も奪って行ってしまう。嫌な話じゃ。

 

 

 しかし、それでもあのチームには[未来]がある。

 

 

 復帰不可能と言われた[メジロマックイーン]。その根源である[繋靭帯炎]を克服した、あの[チーム]でならば.........

 

 

 ワシが見出せなかったフジの[未来].........それを導き出せるやもしれん。

 

 

 そんな淡い期待を胸に、ワシはフジの背中を見送ったのじゃった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Here Came's A New [Racer]!!!

 

 

 

 

 

 New! ウエスタンビール(???)

 New! フジキセキ

 

 

 

 

 

 Tips

 [Growing Glory]

 先頭集団で最終コーナーに差し掛かった時、悪魔的な程に加速する。

 コーナーから抜けた後、速度を少し上げる。

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某日 某時刻。

 ケンタッキー州トレセン学園.........

 

 

 

 

 

ニコロ「.........」

 

 

 疎らに動く人々。狭い部屋から我先にと出て行く者達を見ながら、俺は先程の会議の議題について考えていた。

 方針を与えられ、それぞれ目標を持つようにとトレーナー管理主任へ言われた。それはつまり、何を勝つのか。という至極単純な問答だった。

 

 

 流石は資本主義の大国。競走するのはウマ娘だけでは無いという事だ。

 

 

 .........そんな俺の隣で、寝保けている男が一人居た。

 

 

ニコロ「.........おい。会議は終わったぞ」

 

 

「んぁ?あぁ.........主任はなんて?」

 

 

ニコロ「何のレースを勝つか明確にしろ。と」

 

 

「おいおい。こっちは貴重な睡眠の30分削って早くに来てやったんだぜ?一時間の会議で一言で説明付く話を延々とするなよ」

 

 

ニコロ「.........その30分。プラス30で回収してたぞ」

 

 

 俺がそう言うと、奴はヘラヘラと笑った。何とも軽薄な人間だろう。現実主義者の多い国ではあるが、ここまで野心が無いのは珍しい。

 そんな中、奴の頭を思い切り叩く男が現れた。

 

 

「おい。お前はチームトレーナーだろ。さっさと目標を掲げろ」

 

 

「あぁ.........じゃあ今年の目標は一人ウマ娘をスカウトする」

 

 

ニコロ「.........まぁ現状、卒業して行ったウマ娘から下の世代は居ないからな」

 

 

 何ともまぁ壊滅的だ。どこで間違えてしまったのだろう。少なくともここに来るまでは俺のトレーナー人生はそれなりに順調であった。

 しかし、この男に惹かれたのが運の尽きだ。[奴]に似た何かを感じ取ってしまったために、ついチームのサブトレーナーを申し出てしまったが.........ウマ娘の居ないチームは酷く肩身が狭い思いをするのだと痛感した。

 

 

「アイツは?」

 

 

「あぁ。どっかでタバコでも吸ってんだろうよ」

 

 

「おいサボりかよっ!!!真面目に来てる俺を見習えってんだ!!!ったく」

 

 

 足を組んで横柄な態度を取る男。この男こそがチーム[Stone-Broke]のトレーナーだ。

 

 

 それを叱る男はそこに所属するトレーニング専門のトレーナー。

 

 

 そして、ここに来ていない男はウマ娘にレースの作戦を伝えるプランナー専門のトレーナーだ。

 

 

 日本ではプロ以外あまり普及していない形態だが、この国では早い段階から分業して行く。一人のトレーナーから走りを習うのは小児用レーススクールまでだ。

 もう少し考えてチームを選ぶべきだった.........そう後悔しながらここに所属してからの記憶を思い起こすと、ある事に気が付く。

 

 

 この男が、何故今日[早起き]してきたのか。

 

 

ニコロ「アンタ、早く起きれたのか?」

 

 

「はは、俺にだって早起き出来るさ」

 

 

「いや。コイツ土曜日に[いい夢]を見れたと言って酒を飲まずに昨日寝たんだ」

 

 

ニコロ「コイツが?酒を!!?」

 

 

「おいっ!!!何で驚くんだよそこで!!!酒くらい飲まない日だってあるだろ!!!金欠の時とか!!!」

 

 

 本当に驚いた。平日だろうが構わずウイスキーをロックで何杯も煽った挙句二日酔いで学園に来るのが最早日常の光景だったコイツに酒を飲まない日があるとは.........

 

 

 男は俺の発言に気を悪くしたのか、そっぽを向いて頬杖を着いていた。少し申し訳なく思ったが普段の行い。自業自得だと思い、気にせず聞いてみる事にした。

 

 

ニコロ「どんな夢だったんだ?」

 

 

「.........良い夢だったよ。ああそりゃ良い夢さ」

 

 

「[ギタリスト]になるより、[親父のチーム]を継ぐのより、ずっとな.........」

 

 

ニコロ「.........それで?夢の続きは?」

 

 

「.........見れなかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は[静かな日曜日]だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......To be continued

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