山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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Answer To Noise

 

 

 

 

ビール「はいどうも皆さんばんなこ。ばーんなっこーチャンネルのビールちゃんです」

 

 

全員(も、もう挨拶が投げやりになってる.........!!!)

 

 

 ひどく投げやりな挨拶。奴はもう既に飽きている様にすら思える仕草でカメラの前でポーズを取っている。

 夏の蒸し暑さが室内でも感じられる季節。場所は府中のレース場。控え室の中で奴は配信を始めた。

 

 

ビール「[頑張ってね]。もちろん!!二回も走るからね!!みんなの二倍頑張るに決まってるじゃんねェ!!!」

 

 

ビール「[二回も走るのは流石にバカ]。いやいや、世界を変えるのはいつだって度の過ぎたバカなんすよ。いつの世も」

 

 

ビール「[大会頑張って下さい。タマモさん]。おう!!ウチに任しときィや!!!って誰がタマモクロスさん!!?接点無いよ!!?」

 

 

ビール「.........うお!!?1000スパチャ!!?初めて貰った!!!なになに?[はじめましてビールさん。この度はある事の許可を貰う為にスーパーチャットを送らせていただきました]。はいはい?」

 

 

ビール「[今度のコ〇ケでビール×エール×サニーの薄い本を制作したいと考えております]」

 

 

ビール「[内容は触〇凌〇快楽〇ち系です。具体的にはお二人は早々に離脱してビールさんだけ快楽に飲み込まれてしまう展開にしようと考えております。ご検討の程よろしくお願いします].........」

 

 

ビール「.........はい。BANっと」

 

 

ビール「www」

 

 

 コイツ大丈夫なのか?いやコイツもそうだがこの配信?とかいう奴を見ている奴らも心配になるくらい頭がおかしいが.........

 

 

『つか何だよ〇手〇辱〇〇堕ち系って?』

 

 

『.........さ、さぁ?///』

 

 

 ?なんでこいつ恥ずかしそうにしてやがんだ?まさかそういう単語だったのか?本当にどうしようもねェ奴らばっかりだなジャップ共は.........

 

 

タキオン「コホン、ビールくん?配信も良いがそろそろ身体を渡してあげたらどうだい?彼女に今日の身体の調子を把握させた方が良いだろう?」

 

 

ビール「あ、そっか。んじゃ変わりま〜す♪」

 

 

サニー「.........っ、ふゥ」

 

 

 アイツの[魂]が身体から離れて行く。それに伴ってオレに繋がれた[鎖]が身体の方へと収納され、やがてオレ事身体ン中に入り込んで行く。

 感覚は変わりない。万全だ。夜はオレが寝て飯はこっちのマックイーンが食ってくれた。怖いくらいに準備は万全だ。

 

 

シャカ「どうだ?作戦通りにやれそうか?」

 

 

サニー「あァ?オレ様ちゃんをあンま舐めンじゃねェよシャカール。誰に口聞いてやがンだ?ア?」

 

 

ブルボン「サニーさんからステータス、[武者震い]を確認。少し落ち着きましょう」

 

 

 オレとシャカールの間に割って入ってくるウマ娘。確かミホノブルボンだったか?まァ得体の知れねェ奴だ。信用する訳には行かねェ。

 

 

『ちょちょちょい。ウチのミホちゃん程良い子はそう居ないぜ?』

 

 

サニー(はン、スプリンターから三冠狙おうとする奴がまともな訳ねェだろ)

 

 

『それを言うならそれを実現しようとした彼が素晴らしい人だったと言えるでしょう?』

 

 

『マックイーン。それ多分前後の文脈的に褒めてる感じになってないよ?』

 

 

 ったく、コイツらはどこまで行ってもベッタリしやがって.........オレ様ちゃんが見えてねェのか?目の前で引っ付き合いやがって.........

 

 

カフェ「うぷっ.........桐生院トレーナー。ロイヤルビタージュース持ってませんか.........?」

 

 

桐生院「え、あっはい。どこか具合でも?」

 

 

カフェ「いえ.........強いて言うなら胸焼けですかね.........コーヒーが甘くて」

 

 

タキオン「確かにあの辺りから甘さがぷんぷん漂ってきているねぇ。桐生院くん。私も頼むよ」

 

 

 それ見ろ。コイツらの姿が見えちまってるカフェはともかく、タキオンの奴にまで影響出ちまってるじゃねェか。

 桐生院っつうトレーナーが水筒を取り出して、その中に入っている草を絞ったみてェな緑色の液体を紙コップに入れて二人に渡す。オレはその様子を可哀想に思いながら見ていた。

 

 

サニー(テメェらのせいでオレの大事なカフェとタキオンがあンな物飲まされる事になってンだぞ?)

 

 

『むっ、失敬な。これでも自重してる方ですわ』

 

 

二人「え」

 

 

『本当だったらキスもしたい所ですけど、この状態では.........はぁ、早く元に戻りたい.........』

 

 

サニー(.........おいクソボケッッ!!!コイツを何とかしてくれよォッッ!!!)

 

 

『不味いぞ.........!このままじゃ身体の悪影響所かマックイーンが周りを気にせずキスをしてくるキス魔に.........キス魔ックイーンになっちまう!!!』

 

 

サニー(.........)

 

 

 絶句した。隣では憂いた顔をしつつも身体をよじらせる女。片やその反対側では頭を抱えてこの先を想像して震える男。

 最悪だ。オレは人間っつうのは[オレ達]なんかよりよっぽど抑えの効く利口な生き物だと思っていたが.........その認識を改めなければいけないらしい。

 

 

ポッケ「おっ、そろそろ出走者出場の時間だぜ?」

 

 

桐生院「あっ!そうでした!アオハル杯はチームメンバーの出走者発表から始まるんです!」

 

 

ビール「え〜、でももうアタシ達発表してるし、行かなくて良いんじゃな〜い?」

 

 

全員「良くないッッッ!!!!!」

 

 

 突如身体の主導権を奪われて口を挟む男。全員に集中砲火を受けて慌ててオレに身体を返したが、戻った先でもマックイーンの奴にこんこんと叱られ始めた。

 .........まァ、気持ちは分かる。オレ自身そこまでレースに真面目な訳じゃねェ。こんなのはパッパと終わらせるに限る。

 

 

 だが何の[修正力]か、[この姿]になった奴らは皆レースに真面目になっちまっている。あの[ゴールドシップ]ですら同じ態度を取っただろう。

 .........とは言っても、少しはコイツの片棒を担いでフォローするくらいはすると思うが.........

 

 

サニー「はァ、行くか.........」

 

 

 椅子から立ち上がると同時に部屋に鳴り響くアナウンス。時間はどうやら待ってはくれないらしい.........

 

 

 億劫な気持ちを胸に押さえながらも、出走するオレ達はそれぞれの足取りでパドックへと向かって行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.........すごい盛り上がりですわね』

 

 

 今回のレースへ出走する方々がパドックへ出てきて、その姿を観客の方々に披露します。

 

 

 出走者の方々はそれぞれの勝負服を身にまとい、まるでG1レースの様な雰囲気を漂わせています。

 

 

 .........ただ一人を除いて。

 

 

『全くっ!だからあれほど[勝負服]の申し込みは早めにした方が良いって言いましたのにっ!』

 

 

サニー「ぐっ、ぅお.........」

 

 

 そう。それこそ[彼]。いえ[彼女]の事。アオハル杯は全て[勝負服]を着用してレースに望む特別なレース。G1で無ければ着用できないそれを、予選の時点で着用して挑むことになるのです。

 その勝負服の発注が間に合わなかった.........それだけならまだ良いでしょう。時が経てば服は届きます。

 

 

 しかし、事もあろうか彼は[忘れていた]のです。[勝負服を着る]という事そのものを.........

 

 

 そして舞台に現れた彼女の姿は[デビュー戦]のライブで着る勝負服。[スターティングフューチャー]を身にまとい壇上に上がっておりますが、スカートなど履いた事も無いサニーさんは慣れない様子を見せています。

 

 

「.........くく、天下の[レグルス]もここまで落ちましたか」

 

 

ビール「.........あ?」

 

 

「おや、これは失敬。聞こえてしまいましたかな」

 

 

『なっ.........あのトレーナー、壇上で挑発なんて.........!!!』

 

 

 アオハル杯の形式は普段のレースとは大きく異なり、いつもであるならば壇上に存在しないトレーナーという存在が居ます。

 双方が自分達のチームの威信を、そしてこれまでの努力を理解しているトレーナーだからこそ、チームのエースと同等の存在感があるのです。

 

 

 そして現在、[レグルス]には残念ながら二人がいません。

 

 

 チームのエースである私も、トレーナーさん自身の姿も.........

 

 

(なんて歯痒いのかしら.........!!!)

 

 

 唇を噛み締めながら相手チームの演説を聞きます。先程聞こえてきた言葉は嘘だと思えるほどに清々とした声で、その抑揚で自分達が今日この日の為にどれだけの特訓。トレーニングを重ねてきたのかを観客の方達に言うのです。

 

 

 その言葉に観客は既に相手チームに意識を向けてしまいます。こちらも[URAファイナルズ]で激戦を制したチームではありますが、やはりあの[AIアプリ]の影響が以前よりも色濃く出ている事を痛感させられました.........

 

 

「.........どうぞ。桐生院トレーナー?」

 

 

桐生院「っ、では―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――パシン.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――な』

 

 

 桐生院さんの手に渡る筈だったマイク。それがたった今、[彼女]が奪い取る形でその流れを断ち切りました。

 突然の出来事に呆気に取られましたが、私は直ぐに観客席から彼女の側へと飛んで行きました。

 

 

『な、何やっているんですの!!?は、早く桐生院さんに渡してください!!!サニーさん!!?』

 

 

『おおおオレじゃねェよッッッ!!!??』

 

 

『.........へ?』

 

 

 突然隣から抗議の声が聞こえてきました。その方へ振り向くと、慌てた様子の[サニー]さんがあの身体に戻ろうと何度もアタックを仕掛けていました。

 

 

 しかし、[彼]の意思が強いのでしょう。彼女が何度も身体をすり抜けて行きます。その度に磁石の同じ極を示し合わせたかのように弾き出されて行くのです。

 

 

『で、ではアレは.........!!?』

 

 

『正真正銘[桜木]って奴だよッッッ!!!!!』

 

 

ビール「はいはーい。アタシ桜木トレーナーから[メッセージ]を受け取ってるから、ここで発表しますね〜♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[舐めんな]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「っ.........!!?」

 

 

 ドスの効いた低い声。鋭い刃物を突き立てられたような冷たさ。たった一言で、先程までの彼女の様子とギャップを感じて私達を含めた皆さんが黙りました。

 その冷たさを帯びた視線で周りを見渡し、自らの[敵]が誰なのか。どれほど居るのかを確認して行きます。

 

 

 少しの間の沈黙。彼のその行動が終わり、手に持ったマイクを口元へ近付けました。

 

 

ビール「[俺]は諸事情でここに姿は見せられない。チームの皆には深く申し訳ない気持ちとやるせなさを感じている」

 

 

ビール「許して欲しいとは言わない。帰ってきたら何でもわがまま言ってくれて良い」

 

 

ビール「それと、恐らくだけど[相手]は俺の事を煽ると思う。俺が居ないのを良い事に好き勝手言うと思うが気にすんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうせ[勝つ]から」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「.........以上っ♪」ポイッ

 

 

桐生院「わっ!とっと、えっと.........さ、桜木さんの代役として、チームを勝利に導けるよう頑張りますっ!」

 

 

 

 

 

 ―――あ、あの野郎、やりやがった.........!!!こんな大勢が見ている中で堂々と相手に喧嘩を売りやがった!!!しかも完全アウェイな状況で!!!

 

 

 こ、コイツは流石にオレ様ちゃんでも不味いって分かる.........!!!こんな状況で煽ったら刺されても文句言えねェぞ!!!

 

 

『お、おいマックイーン!!!オマエさっさとアイツの頭引っぱたいて謝らせ―――』

 

 

『.........♡』

 

 

『?おい?おい!!?どうしたんだオマエ!!?顔が赤ェぞ!!?』

 

 

『ふ、ふふ♡最近はこの勝負の世界にも慣れて落ち着いてきた姿もとても頼りになる素敵な殿方になってきたと思ってましたけど.........♡』

 

 

『.........やっぱり強引な貴方が好きです♡』

 

 

 メジロマックイーンはもじもじと身を捩らせ、先程までの光景を脳裏に浮かべては何度も顔を赤くさせている。

 

 

 それを見てオレはこう思った。

 

 

 あ、ダメだこれ。トリップしてやがる.........

 

 

『バランスが良いのよね、普段は優しいから相手を尊重するけど、ここぞって時は譲らない姿。いつ見ても胸が締め付けられるくらい素敵.........』

 

 

『おい。口調変だぞ』

 

 

『.........ハッ!コホン。い、今のは聞かなかった事にしてくださいまし』

 

 

 いやもう無理だろ.........つうかコイツ、キッチリ真面目ちゃんしてるフリして内心ではキャーキャーしてたんじゃねェのか?コイツの不遜っぷりを見てよォ.........

 

 

 はァ.........あんま難しい言葉は使いたくねェが、[前途多難]だな。こりゃ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャカ「.........はァ」

 

 

ブルボン「?どうされましたか、シャカールさん」

 

 

サニー「さっきの事に決まってンだろ?まさかオマエら疑問も湧かないくらい慣れっこなのか?」

 

 

 溜息を吐くシャカール。それに対してサンちゃんは同情した様子で彼女を見た後、窘めるように俺を見つめてくる。

 

 

『やりすぎちゃったかなぁ.........』

 

 

『ふふん、アレで丁度いい位ですわ』

 

 

カフェ「.........」ジー

 

 

『.........ハッ!す、少しヒヤッとしましたから、今度からはもう少し抑えてくださいましっ!』

 

 

 う〜ん.........マックイーンもそう言ってるし、やっぱちょっとでしゃばっちゃったかなぁ.........?

 とは思ったものの、やはりあそこで言われっぱなしになるという選択肢は無かった。俺だけならばまだしも、あのトレーナーは確実に俺の[チームメンバー]に対しても言葉を向けていた。

 

 

 この先、彼女達が軽んじられる事が無いようにしただけの事。後悔は無い。

 

 

オペ「それにしても、やはり彼女の演技力は本物だ.........あれほどまでに流れを断ち切る程の雰囲気を空間単位で作り出せるなんて.........!ボクも精進しなければ!!」

 

 

シリウス「お前があのレベルになったら私らも歌劇団扱いされるっての」

 

 

ファイン「良いじゃないそれっ![レグルス歌劇団]っ!!!」

 

 

カレン「楽しそう〜♪宣伝担当はもちろん、カワイイカレンチャンに決まりだよね♪」

 

 

バク「お任せ下さいっ!!この学級委員長っ!!小学生の頃は木の役で先生に褒められましたのでっっ!!!」

 

 

 うぉぉぉ.........!!!また空気が緩んで緊張感が無くなってきた.........!!!うちのチームはなんでいつもこうゆるゆるになってしまうんだ.........!!!

 

 

『貴方の影響ですわ』

 

 

『そんな訳ないよっ!なぁカフェ!!!』

 

 

カフェ「司書さんからは桜木トレーナーの雰囲気に呑まれると全てがゆるゆるになると伝えられました」

 

 

『創ェッッ!!!テメェ覚えとけよッッッ!!!!!』

 

 

 クソがッ!!!アイツ自分の担当に親友の悪口言うなんて最低だ!!!絶交だ絶交!!!

 

 

 ったく、まぁ確かにこの雰囲気になっちまうのには俺に原因があるのかもしれない。普段は落ち着いてたし、なんなら負けても余裕があったからな。

 それがいつの間にか彼女達に伝染して.........はぁ、普段からもう少し緊張感を持つべきだったかなぁ〜?

 

 

『それはあると思いますわね。でもどうしていつもそんなに余裕があったんです?』

 

 

『え?だって今までの対戦相手3200mレースに引きずり出して君と走らせても勝つビジョンが思い浮かばなかったもん』

 

 

『.........それは、えぇ.........?///』

 

 

 

 

 

 ―――思わず呆れてしまいました。まさかあの余裕のあったチームの雰囲気の理由がそんな事だったなんて.........思ってもいませんでした。

 しかし、呆れ半分。惚気半分と言った所でしょうか?確かにトレーナーとして。いえ大の大人としてかなり楽観的な心持ちだと感じましたが、それでチームが勝てるようになって行ったのはこの目で確かめています。

 

 

 .........だからと言って.........

 

 

(んもう!!この人は恥ずかしいって感覚が無いのかしら!!?)

 

 

『え、なんか怒ってる?』

 

 

『怒ってません!!呆れてるんです!!全く.........』

 

 

タキオン「うぷっ.........すまないポッケくん。ロイヤルビタージュースを.........」

 

 

ポッケ「はぁ?もう三杯目だぜ?お前も物好きだな」

 

 

カフェ「まぁ元々ミキサーで食事を済ませていましたし」

 

 

 あぁもうっ!!普通に会話をしているだけですのになんでこの方はそんな反応を見せるんですか!!!デジタルさんまで貰っていますし!!!

 

 

 うぅ.........なんかどっと疲れて来ましたわ.........

 

 

 そんな疲れに翻弄されていると、控え室に場内放送が流れてきました。

 

 

「出走者の皆様にご連絡致します。第一レースの中距離コースの準備が整いました。出走者の方は―――」

 

 

シャカ「.........行くか」

 

 

ブルボン「はい」

 

 

 地下バ道の出口。光が差し込む方へ視線を向ける三人。ゆっくりと意識を整え、レースに向けて精神を統一して行っています。

 

 

 彼女達が一歩前へ踏み出そうとした時、桐生院さんが口を開きました。

 

 

桐生院「待って下さい」

 

 

全員「?」

 

 

桐生院「桜木トレーナーはいつも、レースが始まる前に[言葉を贈っていました]」

 

 

桐生院「それで勝てるなんて甘い考えはありませんが.........私もそれに習います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[勝ちましょう]。皆さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達は、その為に集まったんですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐生院「.........えっと、どうでしょうか.........?」

 

 

『.........そこまでしなくていい』

 

 

 真剣な眼差しで、疑いなど一切ない表情でそう言ってのけた桐生院トレーナー。その姿は正しく、いつも私達をレースへ送り届けた彼の姿でした。

 彼女はその後、上手くできたのかを聞くためにカフェさんの方へ振り返りましたが、彼女もまた赤くした顔を片手で覆い隠す彼の姿を見て、優しく微笑んで頷きました。

 

 

シャカ「.........まァ、良い締め直しにはなったンじゃねェか?」

 

 

サニー「フッ、だな」

 

 

ブルボン「ステータス[高揚]を確認。必ず勝利を届けます。皆さん」

 

 

 その言葉に応えるように、三人は先程よりも柔らかい表情を見せ、もう一度私達に背中を見せました。

 

 

 一人は首を鳴らしながら。一人は身体の筋を伸ばしながら。一人は大きく深呼吸をしながら前へと歩いて行きます。

 

 

 ここから、私達の[アオハル杯]が始まるのだとようやく実感しながら、彼女達の背中が見えなくなるまでこの場から離れる人は居ませんでした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよ始まりを迎えます[アオハル杯]。チーム[レグルス]対[スコルピィ]。激戦必至の中距離戦」

 

 

「果たしてどちらが先制を取るのか、ゲートインは各バ完了しております」

 

 

「チームの流れを決める第一レースっ!中距離戦―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガコンッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――今スタートしましたッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ゲートが開いた瞬間。視界が開けた瞬間に前へ行く。理性的ではない。本能的な物で前へと躍り出ていく。

 それでも微かに残った理性を働かせて自分の立ち位置を思い出す。オレは.........先行だ。この隊列。この[群れ]の中心に居なければならない。

 

 

サニー(相手は全員先行かァ.........オレ様ちゃんにマークを合わせてきたって訳だ。案外ビビりなもんだなァあの男は.........キヒヒッ!)

 

 

 どこの馬の骨とも分からねェ存在。ソイツを入れた事を散々こき下ろした割には完全にマークを掛けてきてやがる。

 まァ、ちょっと考えりゃああいう低俗な奴の思考は読み取れる。大方、この[世界]は甘くないって言いてェに違いねェ.........

 

 

 .........だがなァ

 

 

サニー(こっちは負けたら[死ぬ世界]でやってきたんだよ.........どこよりも[シビア]な[勝負事]をよォ)

 

 

 作戦としては良い。だがそれをするには相手が悪かった。

 何せ今ここで走ってるのは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――かつての[米国二冠馬]なのだから.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サニー(おっ、そろそろ最終コーナーか.........)

 

 

 気が付けばレースは既に終盤。オレとしては何事も無く展開が進んでいて逆に怖くなってきやがる。

 だが本来ならこんなもんだ。今までは[上に乗ってた奴]に良い様にされてきて窮屈だった分、伸び伸びとレースが出来る利点を感じ取れた。

 

 

 先頭は未だにあの[ミホノブルボン]とかいう奴が居る。そして後方にはシャカール.........

 

 

 ここは少し、[威厳]を見せて行ってやるとするか.........

 

 

サニー(さァて.........[アイツ]の柔軟でどンだけ柔らかくなったか、試させてもらおうか.........!!!)

 

 

 最終コーナーの手前。前を見ればインコースから少し膨れた所に空きがある。普通の奴なら絶対に通れない位置。コーナー中に加速しなければ絶対に無くなってしまう空間。

 

 

 だが[オレ様ちゃん]は特別だ。これだけは誰にも譲れない。オレ様の専売特許。[血]なんて関係の無い[力].........

 

 

 身体に入っている余分な力を抜いて行く。重点的に、意識的にするのは[足回り]。特に[足首]の部分。身体と地面の関係性を良好にする為の橋渡し役だ。

 

 

 準備は整った。後はこのコーナーを走り抜けるだけだ.........!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [Growing Glory]

 [Lv 1]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [オレ様ちゃん流コーナリング]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ.........!!?」

 

 

 周りの連中は度肝を抜かれた声を上げる。そりゃそうだ。コーナー中にこンだけ速度を上げてくる奴と走った事はねェだろう。

 コーナーは抜けた。後は.........

 

 

ブルボン「.........」

 

 

サニー(へっ、テメェのその仏頂面を歪めてやるぜェ!!!ミホノブルボンッッッ!!!!!)

 

 

 チーム戦。初めてやる種目だ。オレの世界じゃ聞いた事もねェ。だがやる事は簡単だ。勝ちゃ良い。

 それさえ出来れば.........[アイツ]も満足だろうよ.........!!!

 

 

サニー(っつう訳で、抜かせて貰う.........!!?)

 

 

ブルボン「―――フッ!!!」

 

 

サニー(コイツあんだけ飛ばしてまだ飛ばせ―――なっ!!?)

 

 

シャカ「―――ッッッ!!!!!」

 

 

 おいおいおいおい.........!!!なんだよコイツらッッ!!!あンだけやる気なさそうにしてたり、スカしてやがったのによォ.........!!!蓋を開けりゃ誰よりも[勝ちたがり]じゃねェか.........!!!

 

 

サニー(.........へっ、良いぜ。ようやく[楽しくなってきた])

 

 

「先頭はミホノブルボンを筆頭にチーム[レグルス]が独占ッッ!!!対する[スコルピィ]は完全に仕掛け所を見失ったのかバ群に飲まれていますッッ!!!」

 

 

「ゴールまで200m!!!一着は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サニー「はァ.........はァ.........」

 

 

 膝に手を付きながらゆっくりと息を整える。掲示板を見りゃオレは三着.........無理もねェ。慣れない芝でトップ層とやり合ってこれだ。展望はある.........

 

 

サニー(.........はっ、オレ様も随分丸くなっちまったな.........)

 

 

 一昔前。それこそ、[現役]の気分が抜けないままこっちに来ていたら、それはもう荒れただろう。負けは負け。チームだろうが関係ないって.........

 でも、時間は経っちまった。かなり長い時間だ。[孫]どころか[曾孫]まで居ちまう。ソイツらが活躍してるって考えたら.........相当考えも変えられちまう訳だ。

 

 

 顎に伝う汗。それを袖で拭うと自然とそれが目に入る。

 

 

 [勝負服]。オレの世界には無い。あったとしても殆ど代わり映えのしない[上の奴ら]が着る物を、オレが今着ている。

 

 

ブルボン「お疲れ様です。オペレーション[中距離完全勝利]。達成しました」

 

 

シャカ「あァ.........まァ良いスタートが切れたンじゃねェか?.........何やってんだブルボン」

 

 

ブルボン「[ハイタッチ]です。マスターから仲間と何かを成し遂げた時はこれをするともっと仲良くなれると」

 

 

シャカ「.........はァ、そンなのする訳ねェ(パシン).........ア?」

 

 

 

 

 ―――突然、目の前でミホノブルボンの出した手を叩くヤツが現れた。他の奴らなら兎も角、今この中距離を走ったメンバーにその提案を呑む奴が居るとは思わなかった。

 だが現に、あの[サニー]って奴が何の気後れも無くその手を叩きやがった。

 

 

サニ?「.........[アメリカ]じゃ普通だぜ?こンくらいはなァ」

 

 

サ??「良いもんだな。初めてだ」

 

 

サ???「こんな[レース]も、[勝負服]も、この[感覚]も.........」

 

 

シャカ「―――っ」

 

 

 [ノイズ]が走る。頭がざらつく。理性と本能の中間が、ありもしねェ[扉]を激しく叩いている感覚。

 汗が流れる。疲れと疲労の汗に混じって、一滴の汗。[触れてはいけない]物に触れる[恐怖]。それに似た感覚がオレの中に生まれた。

 

 

シャカ「っ、なァ。オマエは一体―――」

 

 

サ??「.........喋り過ぎた」

 

 

サニー「忘れてくれ。取るに足らねェ話だよ」

 

 

 奴はそう言って、一人足早に地下バ道へと向かって行った。オレはその背中を追いかけることも出来ず、ただ呆然と突っ立ってる事しか出来なかった。

 

 

ブルボン「.........シャカールさん。サニーさんはハイタッチしました」

 

 

シャカ「え、あ、あァ.........」

 

 

 結局、それ以上の事は分からず終いだった。

 

 

 オレは先程生まれた感覚に訳も分からず、結局ミホノブルボンにハイタッチをしてしまう。それを見ていた観客席の[アイツら]から変な声が聞こえてくるが、今は無視するしか無い。

 

 

シャカ(つっても、まだ初戦だ.........ここから先勝てるかどうかは.........)

 

 

 前代未聞の[二レース出走]。オレから見てもかなりの無茶だ。実際のところ、サニーはかなり疲弊していた。

 最初と最後で時間の差があるとはいえ、回復しきるにはかなり厳しい。

 

 

 .........[あの男]に、それを覆す策があるのかすらも、定かじゃねェ。

 

 

 だが今はその、[根拠の無い自信]を頼りに、オレ達はターフの上から去るしか無かったのだった.........

 

 

 

 

 

 Tips

 [オレ様ちゃん流コーナリング]

 華麗なコーナーワークで加速力が上がる。

 そしてコーナーが得意になり、速度が少し上がる。

 

 

 

 

 

......To be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日

 ケンタッキー州トレセン学園.........

 

 

 

 

 

ニコロ「.........」

 

 

 閑散としたチームルーム。昼休みだと言うのに誰一人として居ない。トレーナーもウマ娘も、まるで空き家の様に扱われている。

 その部屋で一人。俺は日本の[レース配信]を見ていた。最近あの国では[アオハル杯]と呼ばれる[チーム対抗方式レース]が執り行われているらしい。

 

 

ニコロ「.........何故隠れる?」

 

 

「おぉ、流石だなリット。まるでウマ娘みたいな鋭さだ」

 

 

 扉を隔てた場所。そこから先程から中を伺う誰かの気配が感じ取れていた。しばらくしたら消えるだろうと思っていたが、昼休みの1/3を潰しているとなると流石に声を掛けない訳にも行かない。

 そう思いその気配に対して声を掛けると、意外にもそれは俺の所属しているチームの代表トレーナーだった。

 

 

ニコロ「はぁ、アンタは一体何がしたいんだ?」

 

 

「別に?ただお前を邪魔したくなかっただけだよ。真剣そうに見てたからな」

 

 

ニコロ「.........[アオハル杯]を見ていた」

 

 

「ああ、あの日本の」

 

 

ニコロ「!意外だな。知っていたのか?」

 

 

「何か日本って国は魅力があんだよなぁ」

 

 

 だから逐一情報をチェックしている。と男は言った。そして何の遠慮もなく俺の隣に座り込み、許可も取らずに配信を覗き見してきた。

 そんなものかと思いながら配信を見ていると、遂にレースが始まりだした。

 

 

ニコロ「中距離はミホノブルボンとエアシャカールか.........ん?」

 

 

「どうした?」

 

 

ニコロ「見覚えのないウマ娘が居る.........」

 

 

 見たことが無い存在がゲートに居る。日本研修の際、実力のある。または伸びるであろう存在にはチェックを入れていた。

 現に今、ゲートに入っているウマ娘達は一人を除き、資料などでその姿を見た覚えがある。

 

 

 新入生か?いや、だとしたらもっとあの時点で騒がれてもいいはずだ。G1級のウマ娘がひしめく[アオハル杯]に参加できるほどの実力者.........名前を聞かない方がおかしい。

 

 

 しかし、その思考は結果に結びつくことなくレースは始まる。それは[先行策]を取り、相手のチームはそれをマークするかのように後ろに張り付く。

 

 

ニコロ(やはり、このレベルでマークするということはかなりの力を有しているはず.........だが何故名前を聞いたことがない?名前を知らない.........?)

 

 

 そこまで考え、ふと静かな事に気がついた俺は隣を見る。

 

 

 そこには.........今までに無いほどに真剣で、誰よりもその姿に引き込まれる男の表情があった。

 

 

「.........」

 

 

ニコロ「.........知り合いか?」

 

 

「.........まだ、[分からない]」

 

 

「けど[コーナー]。そこに入れば、[みんな分かる]」

 

 

ニコロ「コーナー.........?」

 

 

 切羽詰まった様子だが、男は淡々とそう言った。汗を垂らしながら、その時を延々と待ち続けたかのように心を踊らせている。

 

 

 刻一刻とレースは進んでいく。佳境はとうに過ぎ、ミホノブルボンが先頭で仕切るレースは遂に、最終コーナーへと向かって行く。

 

 

 そして.........

 

 

「おおっと!!ここで[ウエスタンビール]が伸びてきた!!!まさかのコーナリングでの加速ッッ!!!これはミホノブルボンに並ぶ勢いですッッ!!!」

 

 

ニコロ「[ウエスタンビール].........やはり聞いた事ないな。アンタは知り合いだった―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[サンデー].........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニコロ「.........何?」

 

 

「.........悪い、ちょっと用事が出来た。暫く俺は[バカンス]に行く」

 

 

ニコロ「は?急に何を.........おいっ!!!」

 

 

 それだけ言って、奴はチームルームから出て行った。

 

 

 突然だった。あの男はあんな楽観的ではあるが、根は安定思考の人間だ。おいそれとギャンブルに手を染めるような真似はしない。

 ウマ娘の育成方針もそうだ。無理な事をさせず、適正にあったレースに出走するよう心掛けている。

 

 

 だが逆に、強い相手と競うとなると途端に弱くなる。実力差。人気。そのどちらかでも劣っていると日和り気味になる程に.........

 

 

 そんな男が、大胆な行動を起こした。それが大きな衝撃だった.........

 

 

 

 

 

 ―――思い出した。なんでここに居るのか。

 

 

 ようやく理解した。ここに居るのになんで、[居心地が悪い]のか。

 

 

 [君]が居なかったからだ。[君]の姿を見ていなかったからだ。

 

 

 遊び呆けて、ミュージシャンの真似事をして、親父の跡継ぎ抗争で弟に負けて。

 

 

 親友に付き合ってもらって、すげぇトレーニングを思い付く[アイツ]と出会って、すげぇレース展開の答えを見つける[アイツ]に出会って.........

 

 

 全部[なぞってきた]んだ。なのに、[君]だけが居なかった。

 

 

 でも.........ようやく見つけた。

 

 

「[サンデー―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――サイレンス].........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......To be continued

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