山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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魔王降臨

 

 

 

 

 

ビール「はァ、はァ、いやぁ〜んサンちゃんの走り。とっても凄かったわァ〜ん♡普通のウマ娘だったらスカウトしてた所よ〜♡」

 

 

『うげェ.........』

 

 

 中距離レースが終わり、オレは控え室に戻ってきた所で身体の主導権を奴に返した。かなり持っていかれていたはずの体力が身体から離れるのと同時に取り戻されて行く。

 代わりに意志のない疲労が身体には残され、最初こそかなりキツそうにしていた奴だったが、直ぐに冒頭の言葉を言う程になっていた。

 

 

デジ「確かにサニーさんのあのコーナリングは凄まじいです.........!でも簡単に真似できる物じゃ無いですよね〜」

 

 

カフェ「.........」

 

 

シャカ「.........」

 

 

タキオン「.........ふぅン」

 

 

ポッケ「?どうしたんだよお前ら、急に黙りやがって.........」

 

 

(.........勘づかれたか)

 

 

 チームのリーダーであるデジタルが奴の身体に近付き、その調子を確かめながらオレのレースを振り返る。

 その言葉をきっかけに[繋がり]のある奴らは何かを感じ取る様に押し黙っていた。

 

 

 流石にやり過ぎた。あの[走り]は言わば[原点]みてェなもンだ。見せ過ぎればそりゃ誰だって勘づいちまう。

 

 

(コーナリングの加速.........感覚は鈍っちゃいねェ)

 

 

(.........だが、何かが[足りねェ])

 

 

 あの瞬間。何かが[見えた]気がした。遠い暗闇の中で微かに光る[景色].........今はまだ届く気がしないほどの場所が、確かにある。

 そう思い空に手を伸ばした瞬間。座っていた奴が急に立ち上がる。

 

 

ビール「あ〜あ!早くアタシも走りたいなァ!っ、ケホッケホッ!」

 

 

桐生院「ちょ!!?ダメですよビールさんっ!!次の出走まで空いてるとは言え、二回出走なんて本来無茶なんですから!!!」

 

 

フジ「あはは。羨ましい位に元気だね。けど本当に休まないと後で大変だよ?」

 

 

ビール「いやぁ〜、アタシもそう思ったんだけど相当やられててさ。一息つくともう寝ちゃいそうなんだよね〜。っとと.........はぁ」

 

 

 

 

 

 ―――頭の後ろで手を組みゆらゆらと左右に揺れていると、足元が覚束なくなる。幸い傍に壁があり、それにもたれ掛かる事によって誰かにぶつかったり倒れたりすることは無かった。

 しかし、そんな俺の姿を見てウララとライス。そしてマックイーンが傍に来て俺の身を心配してくれた。

 

 

ライス「び、ビールちゃん大丈夫!!?」

 

 

ウララ「座ってた方が良いよ!!寝ないようにウララがお話してあげるね!!」

 

 

『お辛いのでしたら私がレースまで変わりますっ!!我慢強さなら自信がありますからっ!!!』

 

 

ビール「あはは、皆ありがとう」

 

 

ビール「.........でも、これは[味わっておくべき物]だから.........」

 

 

全員「.........?」

 

 

 今のこの苦しさ。その元凶を思い浮かべる。ゆっくりと心の中で渦巻く[怒り]。まだ足りないと感じて沈めて行く。

 もっとだ。もっと必要だ。この全てをぶつけなきゃ、俺はきっと[アイツ]を.........[ぶち壊せない]。

 

 

ビール(.........絶対、後悔させてやる)

 

 

 奥歯を噛み締める。キシキシと、ギチギチと、力強く食い縛る。拳を握り閉めれば奴のあのいけ好かない顔が、[花道]を通して映し出される。

 許せる訳が無い。許すつもりも無い。完膚なきまでに、再起不能になるまでに潰しに行く。

 

 

 そのためには.........[これ]が必要なんだ。

 

 

『.........トレーナーさん』

 

 

ビール(!.........大丈夫。呑まれやしないよ)

 

 

ビール(今はこの[力]を、[利用]させてもらう)

 

 

シャカ「.........」

 

 

 

 

 

 ―――ゆっくりと拳を握り、開く。その動作を繰り返す奴を見て、オレは少なくとも良い予測は出来なかった。

 奴は[変数]だ。決まりきった[方程式]の中に存在する変動する数。不定形の象徴。マイナスにもなりプラスにもなりうる。

 

 

シャカ(奴は今まで[プラスだった]。それは[トレーナー]だからだ。表に出ず、ただオレ達ウマ娘のバックアップに集中する存在)

 

 

シャカ(だからってソイツが[ウマ娘]になったからって[プラス]なままな訳がねェ。[マイナス].........下手をすりゃ[虚数]にすらなり得る)

 

 

 確証はねェ。だがだからと言って違うという保証も無い。[サニー]のあの感覚を考えたら自然とその解に辿り着く。

 そしてそれは間違い無く、この身体を使う今の[メジロマックイーン]も多分に盛れない。

 

 

シャカ(.........オレがこう考えンのも変だし、説得力もねェが.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

([勝利]だけが、[レース]じゃねェンだよ.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズルズルズルっ!

 

 

黒津木「.........ん、んまい」

 

 

神威「だろ?これ俺のイチオシ」

 

 

 勢い良くラーメンを啜る宗也。その隣でレースの熱狂を感じつつも腹を満たす為に俺も後に続く。

 トレーナー活動を始めてからという物、こう言ったレース場に立ち寄る機会が増えた。担当であるカフェのレースもあるが、情報収集や敵情視察と言った点を含めると休日の大半をここで過ごす事になる。

 

 

「すみません。お隣よろしいでしょうか?」

 

 

二人「どうぞ〜」

 

 

 おお、流石は宗也。見た目だけなら俺達の中でもトップクラスのイケメン。俺だけだったら普段来ないであろうウマ娘の美女が隣に座ったぞ。羨ましい。

 .........いやでも何か変だな。こんな暑いのにスーツだ。それにサングラスなんてかなりのガチガチ装備じゃないか?

 

 

 うん。ここは触らぬ神に祟りなし。知らぬが仏と言う奴だ。

 

 

 そんな俺の考えとは裏腹に宗也はこっそりと耳打ちしてきた。

 

 

黒津木(なぁ創?こんな真夏にわんさか人が居る中で黒スーツって地獄じゃない?)

 

 

神威(.........趣味みたいなもんでしょ)

 

 

黒津木(いや玲皇(ドM)じゃないんだからさ。普通もっとラフな格好してくるって)

 

 

神威(お前それ以上やめろよ?悪い事言わねぇから)

 

 

黒津木(察するに彼女は機関が俺達を監視する為に送り込んできたエ〜イジェンっツ―――「コホン」.........」

 

 

「聞こえていますよ?[黒津木先生]?」

 

 

 その少し怒気の孕んだ声を聞いてドキリとする。俺じゃなくて宗也が。

 

 

 俺としてはまぁ今でもウマ娘に関する医療関連の研究報告を毎年している様な奴だし、一部界隈では有名人だ。

 問題は、コイツが仕事サボってここに来ているという事実だ。

 

 

黒津木「まままさか本当に機関のエージェントかっ!!?安心沢さんに仕事押し付けた恨みか!!?金か!!?それともアグネス家の差し金か!!?」

 

 

「.........この人そんなに恨みを買っているのですか?」

 

 

神威「アグネスに関しては恨みと言うより外堀埋められてる。タキオンが実家に招待された時に埋められたらしい。セメントで」

 

 

 もうコイツの周りに穴は無い。流れている水なんて知らずにセメント流し込まれた感じだ。

 何せこの先の研究費と身の安全の保護を無償で与えられたのだ。それくらい言っても過言じゃないだろう。

 

 

黒津木「フっ、タキオンとはこれから先も付き合っていくつもりだったが、誤算だったのだ」

 

 

黒津木「俺もう研究報告したくなかったのに、あんな額出されたら研究しなくちゃ行けないだろ」

 

 

「.........私は研究者では無いのであまりそう言った知見はありませんが、貴方の研究で救われるウマ娘は多いですよ」

 

 

神威「そうだぞバカ。俺達トレーナー以上に救ってるんだから責任持てよ」

 

 

黒津木「俺としてはウマ娘の毒素分解力を用いた研究もしたいのに.........もう身体面は嫌だ.........」

 

 

 頭を押さえながらテーブルに突っ伏す宗也。何年も玲皇の無茶ぶりに振り回された結果だろう。

 テイオーの骨折。タキオンの脚の弱さ。そしてマックイーンの繋靭帯炎。その全てに対処を施し研究結果をまとめて来たんだ。そりゃ何年も身体に対して調べなきゃ行けないしその分労力も掛かる。嫌になっても仕方が無い。

 

 

「お待たせ致しました〜。特製濃厚豚骨ラーメンです〜」

 

 

「うっく.........臭いが.........ですがこれも殿下の為.........」

 

 

神威「.........SPも大概、大変そうだけどなぁ」

 

 

 薄々勘づいては居たが、やはりファインモーションの護衛の人だった。恐らく彼女に言われてここのラーメンを食べに来たのだろう。

 期間限定の出店店舗。彼女もまだ食べてはいない筈だ。気になるのも当然だろう。

 

 

神威(それにしても、医者と言いSPと言い、大変な仕事だなぁ)

 

 

 そんな二人を横目に俺は味噌ラーメンを食っている。かく言う俺も玲皇に頼まれて味噌ラーメンの味を確かめているが.........まぁアイツの舌ならなんでも美味いって言うしオススメしといて良いだろう。

 仕事は大変だ。だがこの二人を見ていると自分の仕事が楽に思えてくる。案外、ウマ娘と関わるのならトレーナーっていう職業の方が気は楽なのかもしれない。

 

 

 自分の[勝ち]だけに専念できる.........そこにウマ娘の体調管理と身体の安全が含まれているが、この二人程の事は出来はしない。

 改めて[トレーナー]という役職の絶妙さに気付く。距離が近い様で居て、結局俺達はその時になってしまえば何も出来なくなってしまう存在だ。

 

 

 負担や責任は、行くとこまで行ってしまえば楽になってしまうだろう。そうなった時が.........多分、トレーナーとして一番苦しい時だ。

 

 

神威(.........アイツ、大丈夫なのか.........?)

 

 

 そう考えると元々ウマ娘では無いアイツの現状。その心境を考えてしまう。

 今アイツは[トレーナー]ではなく、[当事者]なのだ。

 

 

 今までに無い状態。アイツの表舞台に立った経験は既に十年も前の事。しかもその時とは違う分野で立つ事を余儀なくされている。

 

 

 それにアイツは.........こうやって誰かに追い込まれるのが[心底嫌い]だ。

 

 

 精々アイツの[爆発]が周りを巻き込まないことを祈りながら、俺は残りの飯を平らげて行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「.........」

 

 

 チーム控え室。外は熱狂が渦巻いている。レースの様子はモニターに映し出されており、ここに来るまで完全勝利を収めてきている。

 第四レースの長距離戦。完封に近い形でレースを作った彼女達に感心を受けながらも、俺は一人、心の内の[苛立ち]と戦っていた。

 

 

カレン「.........ビールちゃん。大丈夫?」

 

 

ビール「うん。頭は冴えてるよ。身体もまだ冷えてない」

 

 

バク「ピリピリしていますよビールさんっ!!チョコでもどうですか!!?」

 

 

ビール「ううん。良いんだ。これで」

 

 

 空腹感が思考力を奪ってくる。腹部に手を当てて腹を握る。この感覚は.........好きになれない。

 飯を食うのはそこまで好きじゃない。それ以上に、この[飢え]が俺は嫌いだ。どこまでも付きまとう[死]のイメージ。遥か先にあるにも関わらず、空腹に陥るとそれが嫌でも脳裏に過ぎってくる。

 

 

 貧乏人は死ぬまで貧乏人。その言葉の意味はここにある。この死に近しい飢えを一度でも感じた者はもう.........二度と飢えを楽しめなくなる。

 

 

カレン「無理はしちゃダメだよ?」

 

 

ビール「.........そうだね。でも大丈夫。[台本通り]だから」

 

 

「本日最後の第五レース。短距離戦の準備を始めます。出走選手は持ち場に移動を―――」

 

 

 場内アナウンスが聞こえてくる。遂に出番が回ってきた。一度も立った事も無い舞台の上。台本は素人作家の即興物。

 [道化]になるのは目に見えている。だがそれこそ俺の[舞台の立ち方]。その方向性ならまず負けはしない。

 

 

ビール「じゃあ今日最後の質問。作戦に異論は?」

 

 

カレン「ううんっ!カレン、ビールちゃんの作戦が一番勝てると思うっ!」

 

 

バク「私は何も聞かされていませんがっ!とにかくバクシンする事なら得意分野ですっ!!」

 

 

 胸を張って堂々と宣言をするバクシンオー。彼女の言う通り、俺は彼女に作戦を伝えていない。

 彼女はレースに関して言えば聡明な方だ。俺の指示した通りの戦略を直ぐに身に付け、実戦投入出来るほどの地頭の良さがある。

 だが彼女は今まで[チーム戦]をした事が無い。短距離最強の名に近い彼女の走り方を変えてしまうくらいなら、思う存分走らせてやる方が良い。

 

 

 俺達は.........サポートに徹するだけだ。

 

 

カレン「バクシンオーさんは先頭で、カレン達はバクシンオーさんが走りやすい様に展開を整える」

 

 

カレン「それでバクシンオーさんがマークされていたら、必然的に私達はノーマークって事だから、その時は私達で勝ちに行く。そうだよね?」

 

 

ビール「うん。基本はそう。多分この先も変わらないかな」

 

 

 作戦立案はかなり早い段階で決まっていた。むしろこれ以外に無いだろう。

 

 

 サクラバクシンオーに気持ち良く走ってもらう。

 それが出来ない時は、俺とカレンチャンで一着を狙いに行く.........シンプルだが、合理的な考えだ。

 

 

 短距離で彼女を抑えるのなら必然的に相当のペースで前へ行かなければならない。それでバクシンオーが抑えられる時もあるが.........そこは[捲りのレース]をしてきたカレンチャンに分がある。

 

 

 この勝負。勝たせて貰う.........

 

 

ビール「.........よし。それじゃ行こっか」

 

 

二人「!うん(はい)っ!!」

 

 

 準備は終わった。皆の声援を背に受けて、俺達は最後のレース。ターフへと赴いて行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「長丁場のチームレースも次でいよいよ最終戦。チーム[レグルス]が全勝して50pt獲得となるか。はたまた[スコルピィ]が意地を見せるのか!」

 

 

「.........ふん、運が無いわねアンタ」

 

 

ビール「.........?」

 

 

 実況の声が鳴り響くゲートの中。突然隣のウマ娘が話し掛けてきた。そちらに視線をやると、自信満々の笑みを浮かべていた。

 

 

「残念だけどアンタ達は勝てない。もともと[スコルピィ]は短距離特化のチーム。アンタ達の対策も楽勝なのよ」

 

 

「そういう訳だから、さっさと諦めたら?」

 

 

 なるほど。このチームも俺と同じく外部要因で固めて来た。と言った所か。そしてその目的についても察しが付く。

 [アイツ]の差し金だ。トレーナーか。それとも元々のチーム全体かまでは分からないが、少なくとも息が掛かっている。

 コイツらは[勝ち]に来たんじゃない。俺達を[一敗]させに、このレースを[荒らし]に来たんだ。

 

 

 そんな相手に向ける唯一の言葉。俺は知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前それでいいのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........は?」

 

 

 小娘は俺の言葉を聞き、酷く醜悪な物を見るような目で見てきた。まるで「何いきなり話かけて来てるわけ?」とでも言いたげな目だ。

 俺はバクシンオーとカレンにかなり手伝って貰って短距離戦を仕上げてきたのだが、最近は俺の実力もうなぎ登りの如く他を凌駕してきているから気の毒になって聞いただけなんだかむかついたので

 

 

ビール「お前ゲートでワカらすわ.........」

 

 

 と言って俺は意識をレースに集中させた。相手は小娘。だが躊躇はしない。今この時を持って相手チームは完全に俺のチームを[破壊]しに来た事を察した。

 

 

 ゆっくりと前傾姿勢に身体を持って行く。勝負は[ゲート]。そこで一気に[圧]を掛ける.........!!!

 

 

「各バゲートイン完了。アオハル杯予選一回戦。最終レース短距離―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガコンッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――スタートしましたッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ピカン♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――意識が朦朧とする。まるで眠りと目覚めの狭間の状態。

 俺は誰だ?何をしていた?ここはどこだ?

 

 

 一つ一つに解を照らし合わせていく。

 

 

 俺は[桜木 玲皇]。[トレーナー]だ。

 

 

 [ウマ娘]となって[レース]に出走していた。

 

 

 .........[暗い場所]に.........今は居る。

 

 

ビール「―――っ!!?ここは―――」

 

 

 意識が浮上してきた。身動きは取れる。身体の自由もある。だが依然としてここがどこなのか理解が出来ない。

 暫く混乱していると、不意に[滴る水滴音]が耳に聞こえて来る。

 

 

 それと同時に.........[奴]を感じる.........

 

 

「―――やぁ、初めまして。だね?」

 

 

ビール「.........」

 

 

「クク、随分無愛想な[お客様]だ。こんなにしかめっ面な娘は[初めて]だよ」

 

 

 どこからとも無く、闇の中から姿を現す男。衣服と呼んでも良いかも分からない衣装を身にまとい、フラフラと傍若無人に俺の周りを歩く。

 .........[娘]。つまり、俺はまだ[ウマ娘]の姿のままという訳だ。正体はバレては居ない。だがそれ以上に気になる言葉が出てきた。

 

 

ビール「[初めて]って何?」

 

 

アニマ「ここはね。自分の力を[自覚]したウマ娘が来る場所なんだよ。大抵は[幼い頃]に来るし、僕はその記憶を消している。覚えている子はまず居ないね」

 

 

アニマ「だから.........こんな大きい子と話すのは[初めて]なんだ。どう?楽しい?[人間]としての暮らし?」

 

 

ビール「.........」

 

 

アニマ「ふふ、良いね。僕の質問は聞かないって魂胆だ」

 

 

 楽しく遊ぶ子供の様に笑う神と語る存在。如何にも自分勝手に存在してきた者だと言うのが見て取れる。そして何より気持ち悪い。

 出来ることなら早いところ逃げたいが、ここから出る方法も浮かばないのも事実。ここは一つ、この場を[利用]させてもらう。

 

 

ビール「.........貴方の目的は何?」

 

 

アニマ「[ここ]だよ」

 

 

ビール「ここ.........?」

 

 

 男は間髪入れず、そして先程の声色を全て殺したような声でそう言った。指した指先は俺達の足元を指している。 言っている意味が分からない。ここがなんだと言うのだ?一体どういう事なんだ.........?

 

 

アニマ「僕はね。[夢]を集めているんだ。[願望器]って知ってる?」

 

 

アニマ「あー良いや。答えなくていい説明するから」

 

 

アニマ「[夢]を叶える[物]だよ。僕にとって正確なのは[者]だね。夢を[拠り所]にしてそれを叶える為だけに動く[存在]。例えそれが自分の利外。そして自分の破滅を意味していても行動する」

 

 

アニマ「[ウマ娘]は良いね。皆夢を持っている。[人間]より[歪]だからかな?でもお陰で僕は目的を達成する事が出来る」

 

 

アニマ「じゃここで問題。僕の求める[願望器]とは誰の事だろう?」

 

 

 気だるげなのは声だけで、身振り手振りは随分活発に見える。そんな目の前の情報を噛み砕ける程度にはまだ頭はキャパシティを超えては居なかった。

 ここに来てようやく、見えてきた気がする.........コイツの求める[存在]。その[正体]が.........何となく、だが.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........[桜木 玲皇]。そうでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アニマ「.........クク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[半分外れ]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「―――っ」

 

 

 奴は引っかかり問題を出した。その罠にまんまとハマった俺を嘲笑う。言葉と共に浮かべた表情を見た時、俺の背筋には悪寒が走った。

 

 

アニマ「答えは[全人類]。誰でもそうなるし、誰でもそうはならない」

 

 

アニマ「だって皆自分の事で精一杯だ。自己中心的。利己的。合理的」

 

 

アニマ「でもそれじゃ矛盾が出る。[願望器]はじゃあどうすれば出来る?答えは簡単―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[空っぽ]だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.........言葉の意味が分からない。コイツは何を言っているんだ。そんな抽象的な物が答えな訳が無い。

 そんな俺の表情を見て、奴は更に笑みを深く浮かべる。まさに期待していた通りの反応だと言わんばかりに。

 

 

アニマ「[人間]は気付かない。自分の[夢]が本物だと信じきれず、[疑ってしまう無意識]に」

 

 

アニマ「けれどそれに気付く瞬間が必ずある。自分が[空っぽ]だと知る事。そして、[空っぽになった]と感じる事」

 

 

アニマ「後は簡単。空いたグラスに好きな飲み物を入れて飲むだけ。どう?簡単でしょ?」

 

 

ビール「.........そこまでする目的はなんなの?」

 

 

アニマ「[人類繁栄]」

 

 

 全く底が見えない解答。何を見据え、何を持ってしての繁栄なのか。俺には理解が出来ない。

 それでもコイツの言っている事に[混じり気]は無い。全てが嘘なのか、それとも実現性は兎も角、それができると[信じている]のか.........

 

 

アニマ「僕はね。[人の子]なんだ。[人]と呼ばれた[最初の存在]であり、[願望器]だった」

 

 

アニマ「そして多くの人々。生物。[心を宿す物]に願われた。永久の繁栄をね」

 

 

アニマ「でも僕にはもう肉体が無い。けれど人々が[夢]を見る事で力を貯える事でここに居る。だったらやる事は決まってるよね?」

 

 

ビール「.........あんまり真面目すぎるのも人に罪悪感を与える物だよ?」

 

 

アニマ「んふ、君は優しいね。[願望器候補]一人発見」

 

 

 余計な言葉だったか?信念を揺さぶるには良いと思ったが、思考が足りなかったらしい。お陰でまた標的にされた。面倒くさいことこの上ない。

 しかし疑問はまだある。奴の目的は分かった。その手段も。問題は[過程]だ。手段を揃えて目的を達成するための道のり。それが全く見えてこない。

 

 

 そんな俺の内心を察したのか、奴はまた薄ら笑いを浮かべ始めていた。

 

 

アニマ「[インターネット]って知ってるよね?どう出来たか知ってる?」

 

 

ビール「.........世界中の可愛いウマ娘と知り合いになりたい金持ちが作り上げた気狂いなプログラムだろ?」

 

 

アニマ「面白いね君。外れだけど玉座を上げよう。座っていいよ」

 

 

 男は指を鳴らした。まさかと思い後ろを振り返ると、そこには音もなくあたかも最初から置かれていましたと言わんような顔で居座る玉座が置かれていた。

 相手の出方を伺いつつも、俺はゆっくりと腰を下ろす。無下にして期限を損ねさせれば追い出される可能性もある。それよりも、今はコイツの全てを聞き出す方が最優先だ。

 

 

アニマ「アレは[とある国]の国防省が資金援助して作らせた物だよ。元々は1コンピュータに集約されていたデータを共有して防御性を高める為に開発されたんだ」

 

 

アニマ「分かるかい?今の君達の生活に欠かせない物が[国防]。つまり[外敵]から身を守る為に作られたんだ」

 

 

アニマ「人はね、自らの身に[危機]が迫って始めて現状を脱し、[発展繁栄]出来る種族なんだ」

 

 

アニマ「だから僕は君達[ウマ娘]のやっている[闘争本能]。[対抗意識]を逸らす為の[紛い物]を全て[無かった事]にして―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[あるべき姿]に、世界を[書き換えたい]んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「.........何がしたいの」

 

 

アニマ「ここまで聞いて分からない?それともそういうフリ?顎が疲れてきちゃうよ」

 

 

 そこまで言って。そこまで言い切って男はわざとらしく疲れた姿を見せる。フラフラと足元を覚束せずにあっちへこっちへと身体を動かす。

 一通りそれを見せた後、俺の方へ視線を送って嘲笑う。

 

 

 .........考えたくは無い。この男の求める[世界]。どうなってしまうのか。何が[無くなってしまう]のか.........先程までの答え合わせで自ずと導き出されてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コイツの目指す世界に、[ウマ娘]は存在していない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「.........勝利宣言。のつもりですか?言っときますけどそんなこと聞かされて手伝うなんて事するわけないじゃないですか」

 

 

アニマ「違うよ。僕が[利用]するんだ。君がさっきから僕を[利用]しているように」

 

 

ビール「.........っ」

 

 

 チッ、バレてやがった.........流石に露骨に質問し過ぎたか?いや。これくらいやっても良いだろう。こっちはレース中にこっちに引き寄せられたんだ。等価交換には等しいだろう。

 

 

ビール「ご親切に色々教えて頂きありがとうございました。ではアタシ。レースの最中ですので」

 

 

アニマ「帰す訳ないでしょ」

 

 

ビール「―――っ!!?なっ.........」

 

 

 先程までとは打って変わって凍てつく程の冷たい声。その声と共にまたもや指を鳴らす。その瞬間。俺の身体は[何か]に縛り付けられていた。

 腕と足。そこに視線を向けると座っている玉座から鎖が生えていた。流石にこの展開は予想していなかったかも.........

 

 

ビール「やっば.........っ!!!」

 

 

アニマ「いつもの僕なら返してたけど、今は違う」

 

 

アニマ「肝心の[彼]の行方も追えないし、バックアッププランは欲しいよね?」

 

 

 ゆっくりと俺に近付いてくる。身動きは取れない。絶体絶命なのは間違いない。

 だがそれでも俺はそれを受け入れるしかない。奴の手が俺の頬に触れる。気持ちの悪い感触だ。

 

 

アニマ「.........ふ〜ん。変だね君も」

 

 

アニマ「[何か]で満たされてる。無色透明な何かだ。[空っぽ]だけど[空っぽじゃない].........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――まっ、関係無いけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「―――っ!!?ぁぁ゛ぁあああァァァアァァアッッッ!!!??」

 

 

 奴の手の平に燃える[紫炎]。それを胸に打ち込まれる。触れた途端にとてつもない熱を感じ、鎖で縛られながらも俺はじたばたともがいた。

 溢れ出ていくのは[悪感情]なんかでは生ぬるいと感じる程の[ドス黒い物]。これがなんなのか。果たしてどう言った経緯で生まれる感情なのかすら、俺の人生を掛けてもまだ見つかっていない言葉でしか言い表せない物だ。

 

 

 .........でも。

 

 

ビール「フー.........!フー.........!」

 

 

アニマ「わ、[青くなった]。凄いね。そこまで[戻せる]んだ」

 

 

ビール「ア......ンタが.........何、を...しよう、と.........」

 

 

ビール「アタシ、は.........アタシの、[やり方]で.........ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタシの[世界]を[守り抜く]ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ん、―――ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ビールちゃんッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「―――っ!!?あれ.........」

 

 

 湧き上がる歓声。胃の内容物が込み上げてくる程の疲労感。そして絶え間なく流れ出ていく汗。それらが全て突然にして襲いかかってくる。

 それに対して俺は数秒も経たない内に[レースが終わった]のだと察する事が出来た。

 

 

 レースの記憶は無い。掲示板を見ればやはり、一着はバクシンオー。二着にカレンチャンが入ってきている。

 だがそこに、何故かハナ差で三着に入っている[俺]の番号が映し出されていた.........

 

 

ビール「.........ごめん。走るの夢中で気付かなくって、何があったの?」

 

 

カレン「.........覚えてないの?」

 

 

ビール「え―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [―――ピカン♪]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [???]

 Lv 1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「.........」

 

 

 彼女は教えてくれた。ゲートが開いた直後。相手チームが皆[加速を付けた]と。そして全員が加速し終えてようやく、自分のやった事に[気づいた]のだと.........

 

 

「ちょっとアンタッッッ!!!!!」

 

 

 その話を聞き終えた直後、俺を挑発してきたウマ娘が息も絶え絶えのまま俺を睨み付けてきた。

 肩で息をしながらもゆっくりと力無く俺の方へと近付き、その力無い手で俺の胸倉を掴んできた。

 

 

「何をやったのよ.........!私達に一体何をしたって言うのよッッッ!!!!!」

 

 

ビール「な、何をしたって.........」

 

 

「あの[瞬間]ッッ!!!ゲートが開いたばかりだってのに、アタシらはスパートだって[勘違い]した.........!!!」

 

 

「.........っ、アンタは一体、何なのよ.........ッッッ!!!!!」

 

 

 .........何をしたのだろう。俺は一体、あのゲートが開く瞬間。

 [圧]を入れたのが行けなかったのだろうか?少しばかり、場をコントロールしようとしたのがこの現状を招いたのか?

 

 

 .........だけど、考えても見ろ。俺は勝てたんだ。大事な大事なレースで、一戦も落とすこと無く勝ち上がる事が出来た。

 だったらこれは.........必要な物なんだ。

 

 

 覚悟を決める。これから先、この[力]を使い続ける事で多分、奴の思惑に近付くことになってしまう。

 けれどそうでもしなければ、俺達は勝てない。いや、どこかで負けてしまうかもしれない。

 

 

 出し惜しみはしない。だからもう.........[半端]な事は絶対にしない。

 

 

ビール「.........アタシは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただの[ウマ娘]、だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――大きなレースが一つ、終わりを迎えた。チーム[レグルス]は全勝でこの日を終える。

 そして、ライバルであるチーム[リギル]もまた、どちらも全勝を飾った。

 

 

 だが、そこには決定的な違いがあった。定石手段で相手を倒すリギル。

 

 

 そして、どんな手を使ってでも勝利を掴もうとするレグルス。

 

 

 針の穴を通すような戦略。そして出走編成。相手チームの出方読み。その全てを通して完全勝利を掴んだのだ。

 

 

 やがて各種メディア。AI使用者からレグルスのトレーナーはこう呼ばれ出した.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [魔王]。と.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......To be continued




どうも。作者です。
最近また更に忙しくなり、現在以上に投稿期間が空くやも知れません。
楽しみにお待ち頂ければ幸いです。
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