山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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どうも。作者です。
仕事が半端なく忙しくなるので多分年内はこれで書き納めになると思います


ウマ娘「メジロ武術って半端ないな」マック「メジロではなく[女城]ですわ」

 静けさが響く和製の大きい部屋。そこで一人、星座をして精神を統一している。

 その俺の後ろでまるで値踏みをするような目で見てくる一人と、心配の視線を送る者が一人.........

 

 

「ふむ.........まだ荒いが、及第点じゃ。流石は[役者]よのぉ?」

 

 

ビール「.........」

 

 

『.........』

 

 

「ほれ。時間は限られておる。我は暇では無い。今日は録画しておるレッド〇ーペットを見なければならんからな」

 

 

 手を叩いて次のステップへと催促をしてくる女性。和服に身を包んだ白髪の存在。それが現代社会に生きる俺達にとって[異質]な物であると思わせてくる。

 

 

 何故、こんなことになったのか.........話は数時間?前に遡る.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、貴女があの[伝説の女神様].........!!?』

 

 

ビール「え、伝説って?」

 

 

『あァ.........[相変わらず]ムカつく顔してやがらァ.........』

 

 

 眠りに入った俺達は先日、女神に言われた通りに二人まとめてこの平原へと連れてこられた。

 事前説明を頼まれた俺だったが、サンちゃんは直ぐにその話を信じ、逆にマックイーンはかなり懐疑的で体調不良を心配された。

 

 

シロ「随分なご挨拶ね?サンデー」

 

 

『テメェのせいでオレは[土着神]とかッつう意味のわかンねェシステムで縛り付けられてンだ。恨まねェ方がおかしいだろ?』

 

 

ビール「え、サンちゃんって神様なの?」

 

 

シロ「そうよ。元の世界では特にこの日本に与えた影響は大きいわ」

 

 

 へー。そんな凄かったんだ〜。でもまぁ初めて会った時のオーラ?的な物は確かに凄かったし、印象は強かったな〜。

 

 

『ま、まさか[三女神様]を統率している女神様が居るという[都市伝説]が、本当だったなんて.........!!!』

 

 

シロ「.........この子今後面倒臭いことになりそうだからここでの記憶は消した方がいいかしら?」

 

 

『!!?嫌ですっ!!!絶対他の誰にも言いませんからそれだけは.........!!!』

 

 

シロ「この子案外図々しいわね」

 

 

ビール「へへ.........そんな所も好き」

 

 

シロ「惚気けてんじゃないわよ」

 

 

 頭を抱えつつツッコミを入れてくる女神。事実なんだから仕方が無いじゃないか。彼女のそういう所が魅力的なんだ。

 他の三女神様達にも出会えて感銘を受けているマックイーンから視線を外して、俺は女神へと質問をする。

 

 

ビール「んで?具体的に何すんの?」

 

 

シロ「.........[アイツ]、すっぽかしたわね.........はぁぁぁ」

 

 

 大きな溜息を吐いてまた頭を抱える女神。どうやら[人]が来る予定だったらしいが、この場に見覚えのない存在は今の所居ない。

 どうするのかと思ったが、女神が手に持った杖で草原を叩くと、目の前に巨大な煙が出現した。

 

 

三人「―――!!!」

 

 

 [気迫]。その一言に尽きる。まだ姿すら見えていないと言うのに、この視界を遮る中からとてつもない存在感を感じ取る事が出来る。直感力に乏しい俺ですら感じ取れるのだから、他の二人からしたらかなり強く感じ取れるだろう。

 少しずつ煙が晴れてくる。一体その中に、どれほどの存在が出てくるのだろう.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バリバリバリ.........ナッハッハッハッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人「.........はぇ?」

 

 

「.........?なんだ女神。我は今撮り溜めたエ〇タの神様を見とるのだ。用なら後にせい」

 

 

 .........煙が晴れたそこには、横になってせんべいを食べながらテレビを見ている[ウマ娘]が居た。

 その様子に呆気に取られる俺達。そして静かにこめかみに青筋を浮かべる女神が居た。

 

 

シロ「貴女昨日約束したじゃない?今この世界の存亡を掛けた危機だから力を貸してほしいって」

 

 

「あぁ.........そんな事もあったなぁ」

 

 

シロ「昨日の話よ!!?」

 

 

「それは取り消しにする。我は忙しいのでな」

 

 

シロ「ちょっと!!!テレビ担いでどこに行く気よ!!!」

 

 

「帰るに決まっとるだろう?せんべいも残り少ない。どうしてもと言うならここで[一発ギャグ]でも披露してみよ」

 

 

シロ「桜木っ!!!アンタそういうの得意でしょ!!!」

 

 

ビール「はァ!!?無茶振りってレベルじゃねーぞッッ!!!」

 

 

 なんなんだ。俺は今何をしているんだ?[アイツ]への[対抗策]を用意してくれるっつうからここに来てんのに、一発ギャグ?舐めてんのか?

 .........ただまぁ、そこで拒否のするのは簡単だが、それでは話が先に進まないし、何より[代替案]を作り出す時間が勿体ない。

 俺は諦めて、テレビを持つ女性の前へと躍り出た。

 

 

ビール「.........[ジャパン]の波、[ジャッパーン]」

 

 

「.........」

 

 

ビール(.........ダメ、か)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........クヒ」

 

 

「クヒヒハヒハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

「オヒョ!オヒョ!オヒョフフフハハハハハ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「えぇ.........?」

 

 

「はぁ、はぁ、貴様。才があるな?まさかエン〇に出ようとしてるのか?」

 

 

ビール「いや〇ンタはもう終わってる」

 

 

「なんと。まぁ仕方あるまい。盛者必衰の理はどこの世界でも常よ」

 

 

 そう言ってテレビを地面に下ろす女性。女神に目配せさせた後、女神は手に持った杖でもう一度地面に叩いてそのテレビだけをこの場から消す。

 そしてゆっくりと俺の方へと近付いて来る.........が、後ろの方でその様子を見守っていたマックイーンに気付くと慌てた様子でそっちに近づいて行った。

 

 

「おお。お主[女城]の血筋だな?名はなんと?」

 

 

(?このイントネーション.........まさか[女城]と言ったのでしょうか.........?)

 

 

『.........マックイーンと申しますわ』

 

 

「ほぉ。お主が.........まさか[同胞]に会えるとは。長く留まる物だなぁ」

 

 

シロ「.........貴女には[守護]を頼んでるのだけど、何で知らないのよ?」

 

 

「たわけ。元々は[アシガル]。我が[母君]の仕事じゃろう。早々に輪廻に戻った者の仕事を引き受ける程暇では無い」

 

 

シロ「お笑い番組とドラマしか見てないじゃない」

 

 

「残念だったな。最近はアマ〇ラでアニメも見ておる」

 

 

 不味い.........話が、話が早すぎて追いついて行けない.........!!!誰なんだこの人は一体.........!!!

 そう思っていると不意に手を引かれる。どうやらマックイーンが状況説明をしてくれるようだ。

 

 

(このお方、どうやら[女城之足軽]様の血族の様ですわ)

 

 

ビール(あ、アシガル様.........?)

 

 

(かつて[戦乱の世]では、ウマ娘が集まった[国]が多数ありました)

 

 

([朝廷]と親交の深かった[信堀家]。時の将軍と同盟を結んでいた[成武家]。そしてその文字通り、女性と子供だけが住む[女城家]がありました)

 

 

(アシガル様はその[女城]を作った、私達の大元の御先祖様です)

 

 

 な、なんか壮大な話になってきたな.........戦乱っていうとやっぱり[戦国時代]とかの話になるのか.........?

 道理で気迫があると思った。そんな時代を生き抜いたんなら確かに説明が着く.........

 

 

(そして恐らくではありますが.........この方はその[女城]を守り抜き、後世に残したと言われる、[女城之―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう?我を差し置いて内緒話とは、礼儀がなっとらんなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人「はっ!!!ご、ごめんなさいっ!!!」

 

 

「.........ふふ、何、そう慌てるでない。単なる戯れよ。頭が混乱しておるのであろう?案ずるで無い。[あっち]に行ってから話をしてやる」

 

 

「そこの[童]よ。お主は今回不要。こやつの代わりに[現世]に居よ。戻ってくるまで自由にすると良い」

 

 

 鋭い視線で叱られた.........と思ったが、本人はどうやら冗談のつもりだったようだ。こちらとしては生きた心地がしなかった.........

 そしてサンちゃんに向けてそう言うと、俺達二人は女性に無理やり担がれる。

 

 

ビール「え、あの。戻ってくるまでってどれくらいです?ちなみに」

 

 

「そうだなぁ。上手く行けば早く帰れる。行かなければ一生帰さんつもりでいる」

 

 

ビール「それ答えになってないっす」

 

 

 それだけ言って女性は女神に目配せをする。神使いの荒い奴だと文句を垂れながらもう一度地面を叩こうとする女神に俺は抗議した。

 

 

ビール「ちょちょちょ!!!俺まだ了承も何もしてないんだけど!!?」

 

 

シロ「もうそういう次元の話じゃないの。これは必要な事なのよ。分かったらさっさと[受け入れなさい]」

 

 

ビール「っ、[諦めなさい]の次はそれかよ.........!!!前向きなのは好きだけどさァ!!!」

 

 

「あまり喋っていると舌を噛むぞ?」

 

 

ビール「え―――」

 

 

 そう言われた瞬間。俺達の周りに煙が発生.........すること無く、突然空へと勢い良く飛び上がって行った。

 

 

ビール「うぁぁぁあああぁぁぁ!!!??」

 

 

『ままままさか、先程の煙みたいな物はぁぁぁぁぁ!!!??』

 

 

「無論、[超光速]を出した時の副産物じゃ。着地の時にはクッションとなるぞ?」

 

 

二人「それでも怖い(です)―――ッッッ!!!!!」

 

 

「ナッハッハッ!愛いヤツらじゃのう〜♪」

 

 

 .........こうして、俺達は暫くの間[女城]のウマ娘に拉致されての生活が始まったのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「はァ.........はァ.........」

 

 

 そして話は冒頭の少し先に戻る。ここに来て分かった事が幾つかある。

 

 

 俺達をここに連れてきたのはやはり[女城]の人で、名を[女城之武蔵]。今風に言えば[メジロムサシ]だと教えてくれた。

 戦乱の世。かつて[天下統一]を果たさんとする武将達が跋扈する中で[女子供の城下]を守り抜いてきた英傑だとマックイーンは教えてくれた。

 本人はまぁ、気ままに暮らしていただけだと言っていたが、それでも凄いことをやってのけた人だ。

 

 

 そんな人に俺は今、[メジロ武術]なるものを教えて貰っている.........のだが。

 

 

ビール「どうなってんだ.........身体が夢ん中とは思えねぇ位疲れる.........」

 

 

ムサシ「当たり前よ。それでは修行にならんからのう。ほれどうした?マックイーンは既に体得したぞ?」

 

 

『ご、御先祖様?私は元々[メジロ護身術]は体得していましたし、武術の心得もお母様から.........』

 

 

ムサシ「甘い。甘いぞマックイーンよ。汁粉の汁を全て餡蜜にした甘味より甘い」

 

 

 そうだ。経験者云々は関係無い。今は非常事態。これを体得出来ない限り、俺はきっと奴には対抗出来ない.........

 そう思うと胸の内にどす黒い感情が燻り始める。これを早く体得して、必ずアイツを.........

 

 

ムサシ「.........ふむ。[それ]だな」

 

 

二人「え?」

 

 

ムサシ「小僧。暫し触らせてもらうぞ?」

 

 

ビール「な、何を.........」

 

 

 俺の了承も得ずにムサシさんは身体へと触れてくる。太腿。肩。背中.........その全てを解すようにして揺すった後、彼女は俺の下腹部に手を置いた。

 

 

ムサシ「[武術]は後から入ってきた物じゃ。本来の[女城]は敵を作らぬよう、相手の情を[動かす]事で身を守ってきた」

 

 

ムサシ「[喜怒哀楽]は勿論、[嫉妬]、[恋慕]。そして[色欲].........それらを操れるのならば―――」

 

 

ビール「―――ッッ!!!かはっ.........!!?」

 

 

『っ!!?トレーナーさん!!!』

 

 

ムサシ「.........クス、[憎悪]すらも操れる」

 

 

 突然、腹部に衝撃が走る。立つこともすらも困難な激しい鈍痛。吐き気すらも催すそれに必死に耐えていると、不思議な事に徐々にそれが消えていくのが感じ取れる。

 しかし.........それが治り切る頃には、[奴]に対する怒りは.........

 

 

ムサシ「ほ〜れほれ。貴様の[憎悪]は全て我に移ったぞ?一度気を緩めれば、[殺してしまう]やもしれんなぁ?」

 

 

ビール「ぐ、ぅあ.........!!!」バッ!!!

 

 

『!!?そんな、ダメですっ!!!トレーナーさんッッ!!!』

 

 

ムサシ「あ〜れ〜♪獣に襲われてしまう〜♪」ヒラリ

 

 

 

 

 

 ―――彼は激しく身震いした後にムサシ様に脇目も振らずに飛びかかって行きました。両手を突き出して、その先にはか細い女性の首.........

 しかし、その手を振り払う事もせずに彼女はひらりと身を躱したのです。

 

 

『っ、ダメです!!!御先祖様っ!!!お願いですから彼を.........彼を元に戻してくださいましっ!!!』

 

 

ムサシ「ならん」

 

 

『!どうして.........!!?』

 

 

ムサシ「.........クス、自分で考えてみよ」

 

 

ビール「ぐっ、ズァ.........!!!」

 

 

ムサシ「おーおー。言葉に出来ん程に憎いか?[弱い]とは辛いの〜♪」

 

 

 何度も何度も、彼女は迫り来る彼をハラリと避けます。その動作は必要最低限の物で、着崩された和服がそれ以上崩れる事は無い程でした。

 彼の体力が尽きかけて動作が止まる度に、言葉と身振りで彼を煽って行きます。私の静止すら聞かずに、二人の攻防は彼が力尽きるまで続けられるのでした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「.........っ、ぁ」

 

 

ムサシ「目が覚めたか?」

 

 

ビール「っ!!!.........」

 

 

ムサシ「ほう?少しは抑えるか。成長したなぁ?」

 

 

 .........頭が痛い。思考回路が全て[憎悪]で堰き止められている感じがする。[思考停止]をしてしまっているのを、直に感じている.........

 どうやら俺は眠っていたらしい。敷かされた布団の上から目覚めると、隣でぷかぷかとキセルを吸うムサシがただ座っていた。

 

 

ムサシ「.........クス。待てを言わずともそれが出来るとは。名犬よのう?」

 

 

ビール「.........っ」

 

 

ムサシ「っと、あまりやり過ぎるとマックイーンにぐちぐち言われるな。済まなかった」

 

 

ビール「.........不思議っすね。普段だったらどんな謝罪でも許せるのに.........」

 

 

ビール「一寸も許せねぇ.........」

 

 

 自分の身の程を知る。今まで俺は、きっと何が起きても謝ってくれさえすれば許せるだろうと思ってきた。事実、それくらい他人に無関心で居た。

 けれどどうやら、今回は流石に肩入れし過ぎたみたいだ。こうなった時の感情の付き合い方を、俺はまるで理解出来ていない。

 

 

 大人になったつもりだった。もう30も手前だ。だと言うのに俺の精神年齢は殆ど変わっていない。

 自分の身体が壊れそうになるくらいの感情に対して、俺には為す術が無かった.........

 

 

ムサシ「.........そう気負うでない。人の[感情]とは元来そんな物よ」

 

 

ムサシ「我も晩年はこの様な姿から、[妖狐]だと畏怖されておった。その名に負けんほどに全て意のままだった」

 

 

ムサシ「.........が、己の[心]と[城]とを天秤に掛けてしまう程に、人の心は掴めん」

 

 

 あっけらかんとした口調で彼女はそう言った。その背景にどれほどの物があったのか、理解すら出来ない。

 確かにそこに大きな物語が存在しているはずなのに、彼女は普段通りゆったりと、優雅な口調で語り、キセルに口を付けた。

 

 

ビール(.........今まで、こんなに自分の感情に困らされる事なんて無かった)

 

 

『今の貴方は[ウマ娘]。元の状態より感情の起伏は[激しく]、そしてそれは[表に出やすい]』

 

 

『私は弱くて.........!その癖負ける度に凄く心がザワつく.........!!!』

 

 

 これがきっと、そうなんだろう。彼女達の言っていた言葉がようやく、身に染みて理解出来てきた。結局俺は表面上でしか言葉を理解出来て居なかったんだ。

 誰かに貶められても、勝ちたい勝負で負けてしまっても.........どこか心は穏やかだった。

 そいつにもきっと何かがあったんだと。きっとコイツも相当勝ちたかったんだと、そう思う事が出来たんだ.........

 

 

 俺は.........俺は本当の意味で、彼女達の隣には[立てていなかった].........

 

 

ムサシ「.........その為の[武術]よ」

 

 

ビール「!」

 

 

ムサシ「今日はもう終いにしよう。明日から本格的に稽古を付ける。無論、術は[掛けたまま]にする」

 

 

 妖しげな笑みを浮かべて振り返るムサシ。俺の返答を待つことなく、彼女は障子を開けて部屋から出て行った。

 蝋燭の炎が揺れる夜闇の一室。外の匂いと入り交じって胸の内に違和感が生まれる。

 

 

 明日からまた、修行が始まる。その結果がどう転がるのか?どれほどの時間が掛かるのか.........何もまだ分からない。

 

 

 それでも俺は、やらなければ行けない.........そんな焦燥感に駆られて、俺は布団を頭から被った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.........』

 

 

 憂鬱な気分の朝。廊下で歩を進める度に床が軋む音が聞こえて来ます。夢の中だと言うのに、まるで現実に居るかの様な錯覚を覚えさせてきます。

 .........いいえ。ここもまた[現実]なのでしょう。[女神様]達が作り上げた空間。寝ている間に来ていると言うだけで、ここは立派に存在している場所なんだと思います。

 

 

 この足は広間を目指し進んでいきます。そこは先日、トレーナーさんが御先祖様を襲った場所です。

 その事を考えると、とても怖くなりました。昨日も実際、あまり眠れず.........ムサシ様から心配される程でした。

 

 

 なんせ、あれ程までに我を見失った彼を見た事が無かったんです。そしてそれが[ウマ娘]という肉体の影響だと知った時には.........私自身も恐怖しました。

 もしかしたら、何かの手違いで、万が一でも.........自分も誰かにああなってしまうかもしれない.........そう考えただけで、心臓が握りつぶされる様な気持ちになってしまいます。

 

 

(っ、ダメよマックイーン。いざとなったら、私が.........)

 

 

 そうはならない。そして、彼にもそうはさせない。もしもう一度、あのような事が起きた時は私が前に出て、止めてみせる。

 そんな決心を胸に、私は広間の襖をゆっくりと開けました。

 

 

『お、おはようございます.........!!!』

 

 

ムサシ「そんな音では岩は壊せん。もう少し工夫してみよ」

 

 

ビール「はァ.........はァ.........ッッ!!!」ズバッ!!!

 

 

ムサシ「そう。それじゃ。それを維持して正拳突き1000回。両手で2000回」

 

 

ビール「っ、よう言ってくれるぜ婆さん.........!!!」

 

 

 襖を開けた先には正拳突きの稽古をする彼と、テレビの前で寝そべっているムサシ様が居ました。

 しかし、私が想定していたよりは穏やかな様子で胸をそっと撫で下ろしました。

 

 

 そのままゆっくりと床へ正座すると、彼が横目でチラリと視線を送りました。

 

 

ビール「帰っても、良いんだよ、マックイーン?これもう、俺が頑張れば、良いだけ、だから」

 

 

『!帰るつもりなんてありませんっ!!私も一緒に居ます!!』

 

 

『.........それとも、私はお邪魔ですか.........?』

 

 

 自分でも言っていてずるい言い方だと感じました。こう言ってしまったらもう、彼は断る事なんて出来ないのに。

 けれどそれでも、私はもう彼と[離れ離れになる]という事は避けたかった.........幾度も経験し、その度に彼は成長して戻って来てくれたとしても.........彼の傍に居たいと思うのはおかしい事でしょうか?

 

 

ムサシ「.........ほ〜う?♪」

 

 

二人「?な、何(ですか).........?」

 

 

ムサシ「お主ら、まさかとは思ってたが.........[恋仲]だったとはなぁ?♪」

 

 

(!こ、この顔.........!お母様にそっくりだわ.........!!!)

 

 

 面白い物を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべて私の方へと近付いてくるムサシ様。彼と私を交互に見てからゆっくりと後ずさる私を逃がさない様に抱きしめてきます。

 こ、これは本当にお母様と同じような展開が.........

 

 

ムサシ「お主。小僧が修行し終えるまで暇じゃろう?どうだ。わらわに話しちゃくれんか?ん?」

 

 

(や、やっぱりこうなるのね〜!!!)

 

 

 こうして、彼の修行の傍らで根掘り葉掘り、私と彼との事を聞かれる生活が始まりました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その、私と彼との出会いはトレセン学園のターフでして.........』

 

 

ムサシ「ほうほう♪ん?お主。薪割りは身体作りの基礎。都度完璧を持って完遂せよ。それで?」

 

 

ビール「ぐっ.........ふっ!!!」

 

 

 

 

 

『私が天皇賞に出る際には、彼自身の弱さも見せてくれて.........それがとても愛おしく.........』

 

 

ムサシ「ほ〜う?♪ほれそこ。呼吸を乱すでない。生物は全て呼吸から始まるのだぞ?」

 

 

ビール「っ、スゥゥゥ.........フゥゥゥ.........!!!」

 

 

 

 

 

『私が今後歩けなくなってしまう程の状態になっても、彼は諦める事無く、多くの試練を乗り越えてくれて.........』

 

 

ムサシ「それはそれは♪必死に尽くしたくなるなぁ?貴様も、こんな所で往生する暇はないぞよ?」

 

 

ビール「分ぁってるよンなこたァよォ!!!にしたってこの[丸太]の修行悪趣味すぎんだろッッ!!!俺の頭を覗いて作ったんかッッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、幾ばくがの時が流れました。と言っても体感では一週間程度。しかし外の景色は四季を感じさせる程に目まぐるしく変わって行ったのです。

 そんなある日、ムサシ様に課せられた修行を終えた彼に対して、彼女は提案をしました。

 

 

ムサシ「これから本格的に[女城]の[武術]を教えるが、その前にもう一度。あの状況を作り出す」

 

 

『!』

 

 

ビール「.........」

 

 

ムサシ「お主らも分かっておるだろう?既にその[憎しみ]は矮小な物となっておる。今一度最大にまで戻した上で、お主の中で折り合いを付けるのじゃ。良いな?」

 

 

 そう言って御先祖様はもう一度、あの時と同じ様にゆっくりと彼の下腹部に手を添えます。

 息の整う音。それだけが反響する空間。緊張と不安で私は息を呑みました。

 

 

 ぐっ、と強くムサシ様の手が押し込まれました。以前は地に伏せた彼も鍛錬の現れか、自身の体幹を持ってして耐え切る事が出来ました。

 

 

 .........しかし

 

 

ビール「―――ッッッ!!!!!」

 

 

『!ムサシ様ッッ!!!』

 

 

ムサシ「ぐっ、やはり毛が生えた程度では無理か.........」

 

 

 彼は、トレーナーさんは彼女の手を持って強く投げ飛ばしました。受け身こそ取れたものの、突然の事でダメージはある様子です。

 直ぐさまその場から立ち上がり、術を解除しようとトレーナーさんに近付いて行こうとしますが、それを[彼自身]が止めました。

 

 

ムサシ「.........何のつもりだ?苦しいだけだろう?」

 

 

ビール「はァ.........はァ.........へへ」

 

 

『!あの顔は.........』

 

 

 自身の感情に飲み込まれながらも、彼は笑って見せました。それに反発するように彼の[憎しみ]という本能は[青白いオーラ]となって可視化出来るようになって行きます。

 それを大きくさせながらも.........彼はその場で強く足を踏み締めました。

 

 

ビール「俺が求めてんのは.........腕っ節の強さなんかじゃねェ.........!」

 

 

ビール「こういう時にっ、落ち着いて物事を考えられる[強さ]が欲しいんだッッ!!!」

 

 

ビール「ありがとうよ.........婆さん.........」

 

 

ムサシ「何.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタをどうやったら[倒せる]か、今はそれを考えるだけで[楽しい].........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 左腕の袖を捲り上げ、拳を握り締める。その瞬間、炎の様な[青白いオーラ]は紫電となって霧散して行きました。

 しかし、彼は明らかに普段のそれとは違う状態.........直ぐに止めなければ.........!!!

 

 

ムサシ「待て」

 

 

『!そんな、どうしてですか!!!』

 

 

ムサシ「奴は今、[思考]をしておる」

 

 

ムサシ「見て、聞いて、感じて、それらを材料に我に一矢報わんとしておる。それが[武術]の真髄」

 

 

ムサシ「.........クク、そして何より―――」

 

 

 彼女は妖しげな笑みを浮かべ、掌を天へとかざしました。

 するとそこに大きく煙が現れ、その中からゆっくりと大きな[盃]が降りてきます。

 

 

 何か、[透明な液体]が並々注がれている。それが何なのか私には検討が付かない内に、彼女は飲み干していきます。

 

 

 .........そして、徐々にその白髪が[黒鹿毛]になって行く様子は.........正に[若返っている]と言っても差支えのない表現でした。

 

 

ムサシ「―――ぷはっ、ん〜♪やはり[若さ]は良いな。見るのも聞くのも勿論.........だが」

 

 

ムサシ「やはり、[この身で堪能する]のが格別よ」

 

 

ムサシ「小僧。お主のその欲、我が満たしてやる。その代わりに―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――我にも少し、[つまみ食い]させよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――俺と対峙するムサシは着崩した和服の上の袖から更に腕を引き、晒だけの上半身を顕にした。

 妖しげな笑みは既に獰猛さを隠す事を忘れた獣の様な物となり、今か今かと餌をその身で喰らわんとする意志を感じる。

 

 

 距離は優に十歩を超えている。ここから普通に近付けば明らかに相手に優位に事が運ぶだろう。

 だから俺は.........

 

 

ビール「ッ、イイヤッッッ!!!!!」

 

 

ムサシ「!!!」

 

 

 十歩をそのまま踏む事無く、[一跳]で距離を詰めながら蹴りを浴びせる事にした。

 目論見は功を奏し、突然の奇襲に驚いた婆さんは右の前腕で受け止めたが、痺れを感じている。

 

 

 俺の蹴りを痺れごと振り払うように右手を払うと、手早い連拳でリードを取ろうとしてくる。

 

 

ビール(動きの感じから大技はまだ来ないっ、来るとしたら.........っ!!?)

 

 

ムサシ「ほれッ!!!」

 

 

 連撃によって後ずさった俺の隙を見逃さないムサシ。少し空いた股下に膝を入れ込み、そこから顎をかちあげる様に掌底を突き出して来る。

 受け止める事は出来ない。間一髪で身体を逸らした事でその掌底を躱し、彼女の膝に手を着いてそこから横に抜ける。

 まるで、壁に出来た穴を通り抜ける様に.........

 

 

ビール「っとと、ふぅ」

 

 

ムサシ「.........お主は不思議だなぁ」

 

 

ムサシ「我に立ちはだかる勇気を持ち合わせておきながら、しかと[死]への恐怖を持っておる。その上、それと上手く付き合う術も持っておる.........」

 

 

ビール「へへ、[スリル]を楽しむ心は持ってるけど、それも[命]あっての事だろ?」

 

 

ムサシ「!ふふ.........そうだなぁ」

 

 

 俺の言葉に関心した様な表情を浮かべて反応を示してくる。それでもまだ闘争を諌めるつもりは無く、先程までの少し両手を広げて誘う構えから前へ構える[受け]の体勢へと変わった。

 

 

ムサシ「人間よ。其方、名はなんと?」

 

 

ビール「[桜木 玲皇].........そういや自己紹介してなかったな」

 

 

ムサシ「ふふ、興味が無かったのでな」

 

 

 ふわりふわりとした口調でありながらも、婆さんは迅速に俺に接近し、ニ撃浴びせて来た。右左のコンビネーション。その基礎的動作を受け、躱した上で俺も同じように右左を繰り出す。

 どちらも受け止められるが、相手にターンを譲るつもりは無い。俺はすかさずそこから右足を上げ、相手に[蹴る]という意識をさせる。ムサシの目が俺の足に行った瞬間を見計らい、その足を下げて相手のふくらはぎを蹴り払おうとした。

 

 

 しかし、流石は達人だ。そんな事などお見通しだと言わんばかりにその場で回転をかけながら少し飛んで俺の蹴りを避けた後、その遠心力を生かした腕が顔の方まで伸びてきた。

 その手をどうするか。防御するのは容易いが、流石に怪しい。掴まれる可能性もある。そう考えた俺は相手が飛んでいる事を良い事に、フットワークを活かして密着しながら背中合わせの形にした。

 

 

ビール「うおりゃッッ!!!」

 

 

ムサシ「おおっ、それは[大陸]の武術だな?」

 

 

ビール「よく知ってんな。アンタの時代には無かっただろ?」

 

 

ムサシ「ふん、その程度、Y〇uTubeで見た事あるわ」

 

 

二人「は、ハイテク.........」

 

 

 背中合わせの状態からそのまま身体を突き出してムサシを押し出す。このまま密着戦を続けても分が悪いと感じた末の選択だ。

 婆さんの言う通り俺は見様見真似ではあるものの[武術]の技を使った。散々目にしてきて練習もしてきた物だ。本職から見たら怒られるかもだが、それなりに自信はある。

 .........まぁ、[格ゲー]の知識なんだが。

 

 

ムサシ「先程の二連後の蹴りも、我流ではあるが良い筋をしておった。師でもおるのか?」

 

 

ビール「.........まぁ、[見るだけ]なら沢山」

 

 

ムサシ「ふふ、良い。教えを説かれるだけが人生では無いからの」

 

 

 目は真っ直ぐとこちらを捉えたまま微笑みを向けて来る。構えを解いた姿から試合は終わったかと思ったが、一向に向けられた感情に変化は無い。

 一歩。婆さんが踏み込んだ瞬間だった。先程俺がして見せた様に一飛びで距離を縮めて来る。速度と体重、全てが乗った手刀を防御するのが手一杯だ。

 

 

ビール「ぐっ.........!!!」

 

 

ムサシ「人間。[武士]とは何たる物か知っておるか?」

 

 

ビール「!何、を.........」

 

 

ムサシ「死して尚[主君]に仕え、誇り高きままに死を迎える事」

 

 

 問答が始まると同時に、避けていた密着戦が再開する。お互いの腕を絡め合い、両腕での攻撃は既に出来なくなっている。

 しかし激戦は既に[足元]へと移動し、繰り広げられている。引いては押し、絡めては解き、力んでは抜く。手先よりも濃密な時間を目視すること無く、触れ合う触覚によって最適解を導き出し、相手の心情を読み解こうとする。

 

 

ムサシ「だが[武]というのはそもそも[生きる術]。時代がそうさせたとは言え、その中に[死]を見るのは本来本末転倒」

 

 

ムサシ「[武士道とは死ぬことと見つけたり]。時代が産んだ大きな[過言]よ」

 

 

ムサシ「人間。貴様に問う。[武]とは何だ?[生きる]とは[死ぬ事]か?」

 

 

 .........哲学的な話だ。嫌いじゃない。むしろ考える事が無い時は四六時中考える事だ。

 [武]という[生きる術]を極めて行く内に、[死]こそが[生]を際立たせる。その側面は大いに有るだろう。時代の影響を抜いて考えても、人はきっとそこに行き着く。

 

 

 切っても切り離せない物。だけど[生]+[N]=[死]であって、[N]-[死]=[生]である。だから[生]≠[死]が成り立つ。

 [待ち受ける死]の為に[生きる]んじゃない。[生きる]為に[死]があるんだ。

 

 

 .........変わらない。もう随分前に出した答えだ。いつまで経っても根本はそれだ。

 

 

ビール「.........[楽しむ事]。かな」

 

 

ムサシ「ククク.........!良いぞ、[桜木 玲皇]。貴様の事を気に入ったわッッ!!!」

 

 

ビール「なっ!!?どわ―――」

 

 

 足元のもつれ合いから一転。ムサシが俺の脛を軽く蹴った事で僅かな隙間が空いたお互いの身体。そこに蹴りをした足で更に腹部を蹴り付けられるが、片腕を掴まれて離れ切る事が出来ない。

 そこから更に両腕でその片手を掴まれ、背を向けられる。不味い。これは明らかに背負い投げの体勢.........!!!

 

 

ビール(ええいっ!!!背負い投げの対策は頭でバッチリ出来てるッッ!!!この[ウマ娘]の身体能力さえあればッッ!!!)

 

 

ムサシ「っ!!?」

 

 

『まさか!!?御先祖様が片足支えになるタイミングで全身を捻るだなんて.........!!!』

 

 

 武術家の投げと言うのは基本、即死技に近い。マットやここの畳の上ならば上手く受身を取れば殆どのダメージは軽減される。

 しかしそれでは相手にターンを渡したまま。そこから主導権を取るには投げられる瞬間に相手の体勢を崩すしかない。

 

 

 足に掛かる遠心力。それに抗いながら強く身体を捻る事で相手のバランスを崩す。人間のままだったなら不可能だったろう。

 だが今の俺は紛れもなく、[ウマ娘]だ。

 

 

 俺はうつ伏せの状態。婆さんは仰向けの状態で地面へと向かっていく。既に手は離れて距離も出来た。

 お互い身体を打ち付ける事無く、受身を取って即座にその場に立ち上がって見せた。

 

 

 しかし、先程までの攻防戦で体力がかなり消耗してしまっている。膝がガクガクと震え、息も上手く吸えず、酸素の循環が滞っている。

 それでも目の前に居る[壁]は何も変わらない。この道を生きてきた者はやはり侮れないなと強く思った。

 

 

ムサシ「.........[武]とは[生きる術]」

 

 

ムサシ「究極的に言えば、[相手を殺す]事など考えておらん。言わば頭のおめでたい考えだ」

 

 

ムサシ「故に、[面白い]」

 

 

ムサシ「我は思うのだ。[武士道]とは[生き方]であり、[死に方]では無いと。生の最後こそ有終を飾るのが責ではあるが、それだけでは[中身]は完成せん」

 

 

ムサシ「.........人間。貴様はそれを理解しておるようだなぁ?」

 

 

二人「!」

 

 

 そう言って、婆さんは今まで見せてきた中で一番満足そうな、そして優しい笑みを見せて来た。

 それに呆気に取られていると、彼女は俺から背を向けて背中に垂れ下がった和服の上の部分に袖を通し始めた。

 

 

ビール「!お、おいっ!!これって.........」

 

 

ムサシ「終いにする。これ以上は[前菜]に及んでしまう。我の目的は[つまみ食い]。これ以上は食べ過ぎになる」

 

 

ムサシ「マックイーンよ。[女城の技]はあちらに戻ってから伝授させよ。ここで教えても意味は無い」

 

 

『そ、それってつまり.........』

 

 

ムサシ「修行は完遂した。この者はもう、[憎しみ]や[憤怒]に呑まれる事は無い。立派な[武者]に成長したからのう」

 

 

二人「や.........やったぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 ―――私とトレーナーさんはお互い抱きしめ合って飛び跳ねました。御先祖様のお墨付きを貰えるという事はとても凄いこと。それが私のトレーナーさんだったのなら自分の事以上に嬉しく思えてきます。

 

 

ムサシ「マックイーンよ。一つ教えておく。この者には[勢殺]だけ教えよ」

 

 

『え、な、何故ですか?』

 

 

ムサシ「先程の動き。こやつの頭には[自らの動作]を考えている節はなかった。無闇矢鱈に教えれば恐らく付け込まれる[隙]となる」

 

 

『!分かりました。必ずや、私達[メジロの技]をトレーナーさんに授けて見せますわ』

 

 

ムサシ「.........頑張るのだぞ。良いな」

 

 

二人「!.........はい」

 

 

 優しい声と表情を見せながら、ムサシ様は私達二人を抱き締めました。

 短い時間でしたが、まさか私の御先祖様と出会う事が出来るだなんて.........考えても居ませんでした。

 離れていく手に名残惜しさを感じながらも、私とトレーナーさんは決意を固めました。

 

 

ムサシ「ここから出る方法は[眠る事]。我の術でお主らをしっかり現世へと戻してやるから安心するが良い」

 

 

ムサシ「.........それと、マックイーン。お主には[贈り物]を用意して置く。女神に頼むから楽しみにしておけ」

 

 

『お、贈り物ですか?』

 

 

ムサシ「何、お主の[走り]の話を聞いたら懐かしくなっての。ただの老婆心故、素直に受け取って欲しい」

 

 

『わ、分かりましたわ』

 

 

ムサシ「ふふ、聡いな」

 

 

 そう言ってムサシ様はゆっくりと両手を胸の前まで持ってきました。それを見て自然と、[別れ]の時が来たのだと実感します。

 もう言う事はありません。全てお話しました。これまでの事も、これからの事も.........

 トレーナーさんも多くは語っていませんでしたが、あの一連の試合の中で語り尽くしたのでしょう。表情はどこか満足気で、このような終わりを受け入れている様でした。

 

 

ムサシ「.........さらばじゃ。若人よ」

 

 

ムサシ「次会う時はお互い、年老いた姿だろうなぁ」

 

 

ビール「って事は、俺だけ見た目爺ちゃんかぁ.........ウマ娘はちょっとしか老けないんだよなぁ」

 

 

『ムサシ様も、お元気で』

 

 

 私達の言葉に御先祖様はクスリと笑い、胸の前に持ってきた両手をパンっと叩きました。

 

 

 その瞬間。私達は身体から力が抜けて行き、意識を手放して行くのでした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムサシ「.........やれやれ。度肝を抜かれたわ」

 

 

 ―――意識を失った二人を抱えた後、静かに床へ横たわらせた。時間にして[数日]。この男はたったそれだけの歳月であれ程までに成長して見せた。

 もともと身体の動きは完成していた分、与えるべきは[武]の心得だと分かった時には苦難を予感した。

 

 

 それが一番、険しい道だからだ。

 

 

 だがそれすらも此奴は[超えて行った]。省みて見るに、その素質があったのだろう。

 

 

ムサシ「.........クク、驚いたぞ?まさか[あやつ]と同じ事を言うとはなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カッカッカッ!![武]とは[楽しむ事]ッ!!殺す殺さないなぞどさんぴんの戯言ぜよッッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、一人の男が城に来た。たった一人で、我らを窮地に追いやった男だが.........奴はただ手合わせをしに来ただけとの事だった。

 その理由を聞けば、[強い女子]が好きだと馬鹿な事を言っておった.........

 

 

 いつ死んでも可笑しくない。情けを掛ける相手を間違えば命に関わる時代に、奴はただ楽しみたいだけで生きておった。

 

 

 我も.........そんな奴を魅入ってしまった。

 

 

 それからだった.........男の[武]を学び、[女城]は大きな力を持った[大国]として名を馳せたのは.........

 

 

 まぁ、最終的に目をつけられ焼き討ちされたが、仕方あるまい。そういう時代だったからの。

 

 

 それが今や、[メジロ]として再生を果たしてまた名を轟かせておる。我のやったことも無駄では無かったという事じゃ。

 

 

ムサシ「.........さぁて、面倒事も片付いた。小僧に勧められたアニメでも見るかのう」

 

 

ムサシ「.........は?アマプ〇に無い?ア〇マ限定ッ!?カァーッ!!!これだから現代人は醜いのじゃ!!!何処で見れても構わんじゃろ!!!」

 

 

 くっ、なんだと言うのじゃ!我はこれに入っとけば全部見られるとアシガルに言われたから入っておったのにッッ!!!これでは小僧のオススメが見られんでは無いかッッ!!!

 じ、神社の賽銭もアマプ〇の会員料で限界.........無駄遣いは出来ん.........

 

 

ムサシ「.........そうじゃ♪此度の報酬、ア〇マの会員1000年分を要求しよう♪女神も許すじゃろう♪」

 

 

 そうじゃ。そうと決まれば早速あの女神の所に行き打診してもらうとするか♪[世界の窮地]を救う手助けをしたのだ。それくらいの褒美はむしろ安価じゃろう♪

 

 

ムサシ(.........クク、それにしても、楽しみじゃなぁ。奴と神との[対決]が.........)

 

 

 テレビを持ち上げながら夢想する。奴はどう神に対抗するのか.........今回の様に、我にも[読めない思考]で対峙するとなると.........あの[願望器]の驚く姿が目に浮かんで来る。

 

 

 なんせあの[小僧]は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イイヤッッッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [←↓/ D]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体の動きではなく、[何かの文字列]であの攻撃を繰り出して来たのだから.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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