山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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マックイーン「ダイエット作戦!決行ですわ!!」

 

 

 

 

 

 規則的な時計の針の音が、痛いくらいに静かに聞こえる。寝息を立てている下のやつの事も気にせずに、今日の出来事を振り返っていた。

 

 

桜木『コラっ!』

 

 

マック『っ!!』

 

 

 大きくはりあげた声。つい感情的になってしまったが、あの時、本当は怒るつもりだった。

 それでも、マックイーンのぴょこっとした耳がしゅんとなるのを見て、その気持ちも霧散してしまった。

 

 

桜木「.........嘘だな」

 

 

 嘘、嘘。うそウソ嘘。全部嘘だ。あの献立表は未完成なんかじゃない。完成品だと思って渡したんだ。それでもあの言葉が口から出てしまった。

 マックイーンはちゃんと反省していた。これ以上俺が怒っても、気を落とすだけで、何のプラスにもなりはしない。そう、思いたくて嘘をついた。

 

 

桜木(だが、ああは言ったものの、俺自身ダイエットなんてしたことないし.........やり方なんて.........?)

 

 

 ボロアパートの一室の、さらに隅っこにある積まれてある漫画。もはや国民的ボクシング漫画とも言ってもいいコミックスが積まれてあった。

 

 

桜木「あ!これかぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダイエット一日目

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

マック「あの、トレーナーさん。それだけですか?」

 

 

 チームルームのテーブルに置かれているのは、トレーナーさんが作ってくださったお弁当と、トマト、サラダチキンだけです。

 そして、気の所為でなければ、先日の元気な姿とは裏腹に、何故かもう既に気力を無くしかけているトレーナーさんがじーっと自分の食事を見ていました。

 

 

桜木「ああ、実はな。家にちょうど体重を落とす為のノウハウが詰まってる漫画があったんだ.........」

 

 

桜木「それ読んで昨日今日でもう20km近く走ってきたから.........」

 

 

マック「に、20kmですか!?」

 

 

 既に若干痩せてきているトレーナーさんの姿に驚きを覚えつつも、自分も頑張らなければ、そう思いました。

 

 

マック「そういえば、他の方々はどうされたのですか?」

 

 

桜木「タキオンは俺に気を使って、黒津木の奴に飯を作らせてる。ウララとライスには、俺の可哀想な姿をみたら、絶対ご飯あげたくなっちゃうから来ないでって言っといた」

 

 

マック「な、なるほど.........」

 

 

 確かに、今のトレーナーさんを見れば、何かを施してあげようとおもってしまいますわ。現に私も、今こうしてダイエットで勝負していなければ、今食べているものを半分上げているところです。

 ですが、勝負は勝負。敵に施しは一切しませんし、逆に、トレーナーさんがこの勝負にどれほど本気なのか認識することが出来ました。

 

 

 

 

 

 ダイエット二日目

 

 

 

 

 

桜木「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ!」

 

 

 朝五時の自宅付近にある公園。まだ日が出てまもなく、空気も若干冷えている。

 身体が動く。ベストコンディションと言っても差し支えないほど、人生で一番身体が動けている。

 懸垂をしている鉄棒から手を離し、ベンチに置いた縄跳びを取りに行く。

 

 

桜木「.........あれ?マックイーンか......?」

 

 

 遠くからでも分かる綺麗な芦毛の髪をなびかせながら、ランニングするマックイーンが見えた。近くで見て美しいものは、遠くで見ても美しい。

 そんな日本の古文のような感情を抱きながらも、信号待ちを駆け足で待つその姿と、この早朝の時間帯に走っている姿を見て、改めて凄い子だなと感じた。

 

 

桜木「というより、そんなに俺に言う事聞かせたいのか.........?」

 

 

 

 

 

 ダイエット三日目

 

 

 

 

 

 帳が降りた夜のトレセン学園。目の前のコースを走るサイボーグの特訓に付き合いつつも、自分の身体を動かし続けた。

 

 

ブルボン「視覚的情報から、『疲弊気味』のステータスを確認。大丈夫ですか?」

 

 

桜木「え?ああ.........すまん。減量中だからな。心配しなくても、二週間程度経てばまた元通りになる」

 

 

 どうやらマイル距離を走り終えたらしく、ブルボンは俺の目の前へとやってきていた。いかんな、担当ではないとはいえ、俺はトレーナーだと言うのに、ちゃんと見なければ.........

 

 

桜木「マイル距離はもう懸念点は少ないな。明日からは中距離に向けて、坂路をもう一週追加しよう」

 

 

ブルボン「.........了解しました」

 

 

 俺としたことが、ブルボンを心配させてしまったか?申し訳ないことをしたな.........

 

 

 

 

 

 ダイエット四日目

 

 

 

 

 

テイオー「マックイーン大丈夫?」

 

 

マック「え?何がですの?」

 

 

テイオー「なんかぼーっとしてるから、珍しいなーと思って」

 

 

マック「.........ええ、それはそうですわ。そうでなければ、今この状況を乗り切れませんもの.........!」

 

 

 目の前のテイオーはこれみよがしに、はちみーをたっぷりとかけられたホットケーキを美味しそうに頬張っています。意識をしないようにすれば自ずとそうなってしまいますわ。

 

 

マック「わざわざ、ダイエットをしている者の目の前でする行為とは到底思えないのですが?」

 

 

テイオー「だってはちみーホットケーキ美味しいし」

 

 

マック「食べるのは自由です!!今の私の目の前でする行為では無いと言っているのですわ!!」

 

 

テイオー「あはは!マックイーンおもしろーい!」

 

 

 

 

 

 ダイエット五日目

 

 

 

 

 

マック「スイーツスイーツスイーツスイーツスイーツ.........」

 

 

桜木「メシメシメシメシメシメシ.........」

 

 

 チームスピカのチームルーム。そこでは減量中の桜木とマックイーンが気を紛らわせる(?)為に延々と欲望を呟いていた。

 

 

「あの、これって一体.........」

 

 

沖野「あー、気にしないでくれ。今減量中で心ここに在らずなんだ」

 

 

タキオン「モルモット君。トレーニングの時間だよ」

 

 

二人「.........」

 

 

「あ、トレーニングはするんですね.........」

 

 

 

 

 

 ダイエット六日目

 

 

 

 

 

ウララ「えっほ!えっほ!ゴール.........!」

 

 

桜木「よし、よく頑張ったなーウララ」

 

 

ウララ「うん!トレーナーも頑張ってるから!ウララも頑張らなきゃ!!」

 

 

 ここのところタイムも縮まってきている。レースで一着を取るのも、不可能ではなくなってきたようだ。

 そう思っていると、ウララは何かを思い出したように、置いてあったカバンから何かを取りだした。

 

 

桜木「え、くれるのか?」

 

 

ウララ「うん!ライスちゃんが作ってくれたの!!トレーナーにもあげたいって言ってたから!ウララの分けてあげる!!」

 

 

桜木「ハハ、気持ちは嬉しいけど、今俺は制限中で.........」

 

 

ウララ「大丈夫!お砂糖じゃなくて、お塩で作ったしょっぱいクッキーなんだよ!!」

 

 

 ラッピングされた袋から、クッキーをひとつまみし、それを渡してくる。しょっぱいクッキー。食べたことは無いが、行為を無下にするのも申し訳ない。それをひょいと口に入れてみる。

 

 

桜木「!!美味い.........!中々良い感じだ!!」

 

 

ウララ「でしょー!」

 

 

 口の中の水分が随分と吸われた。最後の脱水にも効果があるかもしれないな.........

 

 

 

 

 

 

 ダイエット七日目

 

 

 

 

 

マック「ゴールドシップさん。このキノコはなんですの?」

 

 

ゴルシ「そいつは毒だ。食べない方がいいぜ」

 

 

マック「なるほど、味の方はどうですか?」

 

 

ゴルシ「は?」

 

 

マック「味です。味」

 

 

ゴルシ「聞いてなかったのか!?」

 

 

マック「ちゃんと聞いてましたわ!でも食べたら美味しいかもしれないでしょう!?」

 

 

ゴルシ「おい!!マックイーンからキノコを取り上げろ!!」

 

 

「は、はい!!」

 

 

マック「な!?か、返してください!!!」

 

 

「あげません!!!」

 

 

マック「そんな........よよよ......」

 

 

ウオッカ「.........」

 

 

ダスカ「.........」

 

 

 あんな風にはならないよう、自分達はしっかり節制していこうと、覚悟を改め直した二人であった。

 

 

 一方保健室の方では

 

 

桜木「よこせ!」

 

 

黒津木「やだ!」

 

 

桜木「グミくれよ!!」

 

 

黒津木「やーだよ!!」

 

 

神威「.........?何やってんだアイツら......?」

 

 

 

 

 

 ダイエット八日目

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

 何をやっても気が紛れない。好きなジュースを飲むことも出来ないのに、自販機の横で座っている。ようやく折り返し、あと一週間なんだ。早くここの誘惑を断ち切ってしまえ。

 そう思っていると、シンボリルドルフ会長が自販機の前へとやってくる。ジュースを買いに来たのか?しかし、その割にはソワソワと周りを見回しているが.........

 

 

ルドルフ「.........拡散するデオキシリボ核酸」

 

 

桜木「.........ハハ」

 

 

ルドルフ「!?」

 

 

 しまった。つい笑ってしまった。どうやら生徒会長さんは俺の存在に気付いてなかったらしく、酷く驚いている。

 長居は無用。それがお互いの為だ。そう思い、ベンチから立ち上がった時に、急に舞い降りてきたフレーズが口から出てしまった。

 

 

桜木「ジャパンの波ジャッパーン」

 

 

ルドルフ「ッッッ!!!!?????」

 

 

 普段なら言いもしないし思い付きもしない洒落を言うと、シンボリルドルフの顔は衝撃が走った様に驚いていた。

 その後、生徒会室では鼻歌交じりに業務を行うシンボリルドルフを見て、生徒会全体の指揮が大幅にアップしたとか。

 

 

 

 

 

 ダイエット九日目

 

 

 

 

 

「あ、マックイーンさんとサブトレーナーさん」

 

 

二人「.........」ポケー

 

 

「トレーニングしてる時はあんなにピリピリしてるのに、休憩中は幸せそうですね」

 

 

ゴルシ「ああ、減量中だけだぜ?あんなピリピリしてんの。ゴルシ様も困ってんだぜー?おっちゃんもマックイーンも負けず嫌いだからな」

 

 

 それにしても、気付いてねーのかなーおっちゃんもマックイーンも。あんだけくっついてたら付き合ってるって言われても文句言えねーぜ?いっちょからかってやろ!!

 

 

「あ!ゴールドシップさん!!」

 

 

ゴルシ「おっすオマエらー!今日もラブラブだなー!」

 

 

桜木「あ、ゴールドシップ.........言ってやってくれ。あの雲メロン見てえだろ?」

 

 

マック「何をおっしゃるのですか.........?ソフトクリームにしか見えませんわ.........」

 

 

ゴルシ「おう!そうだな!アタシ用事出来たから帰るわ!!」

 

 

 無理無理無理無理!!いくらゴルシちゃんがスーパー天才ウマ娘だからってあんな霞がかった雲に食いもんなんて連想できねぇ!!

 

 

白銀「喰らえ玲皇!!!タンクトップタックル!!」

 

 

ゴルシ「そうそう!!コイツとオーストラリアのテニス大会にでんだよ!!アタシがコーチとして頂点に連れてってやっからな!!!」

 

 

 丁度良かったぜ!!白銀のヤツを連行すればおっちゃんもブチ切れねーしアタシも逃げれるし一石二鳥だ!!

 

 

白銀「は!?俺この前帰ってきたばっかしなんだが!?」

 

 

ゴルシ「うっせぇ!!アタシが行くっつったら行くんだよ!!!」

 

 

白銀「じゃあ優勝したらπ触らせてくれ!!!」

 

 

ゴルシ「ああ!!アタシのπで良けりゃな!!!!」

 

 

二人「!!!!!?????」

 

 

マック「?」

 

 

「?」

 

 

ゴルシ「決まりだなぁ!!いっちょブラジルまで飛んでくぜー!!オラァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 ダイエット十日目

 

 

 

 

 

桜木(クソ、腹が減って寝れねぇ.........!!)

 

 

 もう腹は空腹になれて、音もならないのに、その飢餓感を持ってエネルギー補給の必要性を誇示してくる。

 勢いよく布団をかぶり込み、体を縮こませた。体を折りたたんで、少しでも内蔵と内臓の間を埋めようと足掻くが、所詮プラシーボ効果。別段空腹感は満たされてくれない。

 

 

 ポチャン

 

 

桜木(ッッッ!!!!!)

 

 

桜木「ーーーーーーッッッ!!!!!」

 

 

 深夜2時を回った暗闇の部屋。蛇口から落とされた一雫の響きで、被っていた布団を蹴り飛ばし、靴を履いて一目散に外へと出ていった。

 

 

桜木(クソ!クソ!クソッ!!)

 

 

 結局、一時間半。ダッシュとランニングを繰り返したが、空腹感が紛れることは無かった。

 

 

 

 

 

 ダイエット十一日目

 

 

 

 

 

「臨時ニュースです。なんと先月、アメリカ大会で優勝した白銀選手が、オーストラリア大会への飛び入り参加を表明致しました」

 

 

桜木「マジかよ.........」

 

 

「なぜこの時期に!!意図を説明してくださいますか!?」

 

 

白銀「そんなの、決まってるでしょ」

 

 

白銀「男の夢を掴むためですよ」

 

 

「後ろにいるウマ娘さんとはどのような関係ですか!!」

 

 

ゴルシ「あ?別に何でもねえだろ。なあ?」ペロリンチョ

 

 

白銀「ああ、ゴルシ誰?」

 

 

ゴルシ「え.........?分かんねぇ.........誰だよゴルシって、怖いこと言うなよ.........」

 

 

「.........」

 

 

桜木「.........なんか、ダイエットするのバカバカしくなってきちゃった.........」

 

 

マック「あの、トレーナーさん。お弁当食べ終わりましたので、ここに置いておきます」

 

 

桜木「あ、ああ。わかったよ」

 

 

 い、行けない行けない。これは勝負なんだ。これだけあっちもヤッケになってるのに、罰ゲームありでわざわざ負けを選ぶなんて自殺行為にも程がある。ここは何としても勝たなければ.........!!

 

 

 

 

 

 ダイエット十二日目

 

 

 

 

 

マック「.........一体どうなっているのですか.........?」

 

 

 目に映る数字。先日の夜と全く変わらない姿が見受けられます。

 ハッとして、備え付けられて時計を見ます。まだ門限には時間がありますわ!

 

 

マック(トレーナーさんがあんなに必死になってるんです.........!信用はしていますが、何をされるか溜まったものじゃありませんわ!)

 

 

 そこまでして私にさせたいことがあるのでしょう。全く!恐ろしい人ですわ!!

 ジャージのスペアを着用し、その日は気が済むまで寮の周りをランニングしました

 

 

 

 

 

 ダイエット十三日目

 

 

 

 

 

桜木「.........マックイーン」

 

 

マック「はい?なんでしょうか?」

 

 

桜木「今日は少し少なめにしよう。見たところ、疲れ気味だ」

 

 

 目の前にいるマックイーンの目は、少し疲労が溜まっている。この状況でトレーニングさせた所で、大した身にはならないだろう。

 そう思って声をかけたところ、マックイーンはムッとした顔で詰め寄ってきた。

 

 

マック「お言葉ですが、それはトレーナーさんも一緒ではありませんの?」

 

 

マック「トレーナーさんが頑張るから!私も頑張ってるんです!」

 

 

桜木「.........俺が頑張ってるから?」

 

 

マック「.........あ、いえ.........すみません。言い過ぎましたわ.........」

 

 

 嫌な空気が流れ始めている。そうか、俺達。二人とも頑張ってたんだな.........

 彼女の耳をシュンとさせてしまった罪悪感と、一人だと思い、一緒に頑張ってきた事に気付かなかった不甲斐なさでいっぱいになる。

 

 

桜木「.........今日は、一時休戦にしよう」

 

 

マック「え.........?」

 

 

桜木「久しぶりに、ピリピリしてないマックイーンが見たいからさ」

 

 

マック「トレーナーさん.........ええ、私も丁度。いつものトレーナーさんとお話したいと思っていましたわ」

 

 

 良かった。いつものマックイーンに戻ってくれたみたいだ。耳も雰囲気も、いつも通りの彼女に戻ってくれた。

 嬉しいな。なんかよくわかんないけど。これも多分ファンとしての感情なんだろう。

 

 

桜木「今日はトレーニングを終えたらすぐ帰るよ。ブルボンにも伝えておく」

 

 

マック「そうですか.........あの、トレーナーさん?」

 

 

桜木「?」

 

 

マック「よ、よろしければ、一緒に帰りませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「悪い!待たせた!」

 

 

マック「いえ、もう少し掛かると思っていたので、気持ち的には待っていませんわ」

 

 

 学園の門の前で、そう言いながら、笑いかけてくれるマックイーン。学生時代に経験しておくべきイベントを遅れて体験しているみたいで、なんだか恥ずかしい気持ちになってくる。

 

 

桜木「はは.........それにしても、マックイーンも相当頑張ってるってことは、何か欲しいものでもあるのか?」

 

 

マック「え?トレーナーさんこそ、私にお願いしたいことがあるのでは無いのですか?」

 

 

 キョトンとした顔を見せるマックイーン。多分、俺も同じように首を傾げてるだろう。考えなくても、俺達は互いにすれ違っていたことに気づいて、笑ってしまった。

 

 

桜木「はははっ!どうやらお互い!頑張りすぎてすれ違ってたみたいだ!」

 

 

マック「ふふふっ、ええ、そうみたいですわね.........トレーナーさんと居ると、気持ちよく頑張れますわ!」

 

 

 全く面白い話もあるものだ。お互いの頑張りが、お互いの頑張りに影響を与えつつも、すれ違っている。一つ間違えれば仲違いになっていたかもしれない。

 それでも、お互いがお互いを思い、切磋琢磨し、こうしてすれ違いに気付く事が出来た。一心同体.........とは、また違うかもしれないが、通じあっていると思える程には、面白い出来事だった。

 

 

桜木(グー.........)

 

 

マック「あら、大きい音ですこと」

 

 

桜木「コイツ〜.........ここ2、3日は音を鳴らす元気もなかったのにこんな時に.........!」

 

 

 現金なヤツだ。マックイーンと話して元気が出たからってそりゃないだろう。

 それでも、クスクスと笑う少女の声が聞ければ安いものだと言う俺も、結構危ない。

 

 

桜木「.........なんか買ってくるよ。すぐ戻ってくる!」

 

 

マック「え?トレーナーさん?」

 

 

 目の前にあるコンビニに駆け込む。大人になって久しぶりに、女の子にドギマギしているかもしれない。それを悟られないよう、彼女に背を向けて走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「トレーナーさん。ダイエットは.........?」

 

 

桜木「言ったろ?今日は一時休戦。俺も休むから、マックイーンも休んでくれ」

 

 

 そう言いながら、トレーナーさんは手に一つだけ持った商品の袋を開けました。中身は、二本の棒が付けられた氷のアイスでした。

 

 

桜木「ダブルソーダは初めてか?」

 

 

マック「ええ、普段。ああいう場所でお買い物をしませんので.........」

 

 

桜木「はは、流石お嬢様だな。スーパーでばったりっていうのも無さそう」

 

 

 どこで買い物してるんだろうなーと、トレーナーさんは視線を空へと剥けました。

 失礼な人です。スーパーマーケットくらい、行ったことありますわ!数回だけですけど。

 そう思って顔を背けていると、不意にひんやりとした空気が頬に触れます。振り返ってみると、先程のアイスが、半分程度の大きさで私の視界に現れました。

 

 

桜木「お疲れ様。マックイーン」

 

 

マック「お疲れ様です。トレーナーさん」

 

 

 優しく笑う彼につられて、私も、表情が緩んでしまいます。初めて口に入れたダブルソーダというアイスの味は、ヒンヤリとしていて、透き通るような甘さが口の中に広がりました。

 

 

桜木「.........飢えなんて、慣れてたつもりだったけど.........どうやら忘れてたみたいだ」

 

 

マック「.........?トレーナーさん?」

 

 

 一口だけ、アイスを食べた彼は、その目に涙を浮かべていました。どうしましょう。この展開は予想外です。

 

 

マック「以前、食事制限はしたことないと.........」

 

 

桜木「ああ、食えるのに食わないってことはした事ない.........食う物が無いから食えないってのは、散々味わったよ」

 

 

桜木「小さい頃、家が貧乏でな。やせ細っててガリガリだった。今思えばアレ、栄養失調だったと思うな」

 

 

 トレーナーさんが?やせ細っていた?正直、そんなことを言われてもピンとは来ません。目の前にいる彼は体格が良く、強そうな男の人です。

 

 

桜木「母ちゃんが頑張ってくれて。女手一つでここまで育ててくれた.........感謝してもしきれないし、 出来れば心配させたくない。親孝行もドンと派手にしたかった」

 

 

マック「トレーナーさん.........」

 

 

桜木「本当はテレビで俺が写ってて『え!?家の息子がなんかテレビで活躍してる!?』みたいな風にしたかったのに」

 

 

マック「ふふっ、それは素敵ですわね」

 

 

 まるでそれは確実に起こると言うようにハッキリとした口調で、トレーナーさんは言いました。これはきっと、私達の活躍を全面的に信じているからだと思います。

 

 

マック「.........凄いです。トレーナーさん」

 

 

桜木「?」

 

 

マック「私には、貴方の苦労を真に理解し、共感する事は難しいですが......それでも、トレーナーさんはそんな苦境の中を生き抜いて、夢を諦めながらもここまで頑張って.........」

 

 

桜木「ああ、正に。『山あり谷ありウマ娘』ってところだな」

 

 

マック「.........?」

 

 

桜木「楽しいことも、辛いことも、全部はこの為にあったと思えば、凄く納得出来る。お前らに教えられることが出来て、助けられることが出来るなら、俺の苦しみも、怪我も、決して無駄にはならない」

 

 

桜木「山登って谷を下った後には、マックイーン達が居てくれた。それが俺にとって最高の幸せだ」

 

 

マック「トレーナーさん.........」

 

 

 優しく、素敵な表情をしながら、そう言ってくださるトレーナーさん。私も、貴方に出会えて嬉しく思っているのですよ?

 でも、私にはいま、それを伝える力も、勇気もまだございません。いつかこの気持ちを伝えられるその日まで.........

 そう思いながら、彼の横顔を見ていると、不意に目があってしまいます。

 

 

桜木「本当に、見つけられて良かった」

 

 

 そう言いながら、彼はいつも通りニカッと笑ってみせます。

 彼の辛さや苦しみは、私には分かりません。飢えを強いられる苦しみも、夢を諦めなければ行けない辛さも、並大抵の物では無いはずです。

 それでも、彼は私達に会えて良かったと。真っ直ぐ言ってくれる。それが、とても嬉しかった。

 紅くなった頬はもう誤魔化せません。夕焼けは出ていませんから、背けて見せないようにするのが精一杯です。

 

 

マック(本当にズルい人ですわ。トレーナーさん)

 

 

 ヒンヤリとしたアイスの甘さも、頬の熱さや、胸の高鳴りを抑えるのは心許無いです。二人で歩いた夜道はなんだか、いつもより短く感じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダイエット最終日 結果発表

 

 

 

 

 

 

桜木「.........来たな、マックイーン」

 

 

マック「ええ。準備は万端ですわ!トレーナーさん!」

 

 

 いつもより重い空気が支配するチームルーム。いつも騒がしい(良い意味で)ウララとライスも、空気に気圧されている。アグネスタキオンはまた炊飯器で何かやってる。

 

 

タキオン「おー。やはり黒津木君の言う通り炊飯器は万能だねぇ」

 

 

桜木「やめとけ。アイツはアル中信者だぞ」

 

 

マック「???」

 

 

 通りで最近様子がおかしいと思った。まさか、ニコニコ動画でも見せたんじゃないか?アイツ。止めてくれないか!うちのタキオンは少し影響を受けやすいんだ!!主に好奇心がありすぎるせいで!!

 

 

桜木「.........さ、見届け人も居る事だ。俺が先に、結果を出すぞ。その後俺は廊下に出るから、マックイーンはその後に計ってくれ」

 

 

 

 

 

 体重測定中.........

 

 

 

 

 

タキオン「.........まぁ、結果はご覧通りさ」

 

 

桜木「ふぅ.........地獄のダイエットだったけど、何とか勝ったな」

 

 

マック「うぅ、悔しいですわ.........!」

 

 

 開示された体重のマイナス幅は、俺が圧倒的なリードを見せつけ、完勝していた。やれば出来らぁとはまさにこの事。ボクシング漫画様様だぜ。

 

 

タキオン「まぁ待ちたまえ。審査員票がある。勝ち負けはまだ決まってないよ」

 

 

桜木(え?そんなん聞いてないけど.........)

 

 

タキオン「せーので札をあげよう。準備はいいかい?ウララ君?ライス君?」

 

 

 三人が座っている机には、いつの間にか札が置かれている。嫌な予感がするぞ。待て、結構差は着いてるぞ?そんな事しなくても、勝敗は確定的に明らかじゃ.........

 

 

ウララ「せーの!!!」

 

 

 マックイーン

 

 

 マックイーン

 

 

 マックイーン

 

 

ライス「しょ、勝者はマックイーンさん.........!!」

 

 

桜木「うぉぉおおおいいいいい!!!????」

 

 

 申し訳なさそうに席に着くライス。良いんだ。ごめんね?大声出して。でも納得はできん。

 そう思っていると、審査員の一人一人が勝因を語り始めた。

 

 

タキオン「トレーナー君。これはダイエット対決だと言うのは理解しているだろう?」

 

 

桜木「当たり前だ」

 

 

タキオン「確かにマックイーン君はダイエットしていたよ。けれども.........君のそれはダイエットなんかじゃない」

 

 

タキオン「減量だよ。ボクシング選手がよくやる様な奴だね」

 

 

桜木「.........あっ」

 

 

 え?ダイエットと減量って定義が違うのか?いや待てよ.........?

 ダイエット=健康志向。その後も痩せ続ける。その健康体を保つ為の考え方。

 減量=一時しのぎ。計量通過後は元に戻してOK。その場しのぎでも許される。

 

 

マック「トレーナーさん.........」

 

 

桜木「見るな.........!そんな目で俺を見るな.........!」

 

 

 哀れみを帯びた目で見てくるマックイーン。これは勝負だ。そんな情けをかけるような目で見ないでくれ。甘えたくなる。

 そうしているうちに、今度はウララが席を立った。

 

 

ウララ「えっとね、マックイーンちゃんはダイエットする前もした後もね?可愛いんだよ!!」

 

 

ウララ「けどね?トレーナーはダイエットする前の方がかっこよかったな.........」

 

 

桜木「!!!!!」

 

 

 かっこよかった.........?じゃあ今の俺は.........?

 言われてはいないはずなのに、ウララの声が頭に響き渡る。

 トレーナーかっこ悪いよ!という声がエコーを付けて聞こえて来る。

 

 

タキオン「トレーナー君.........」

 

 

桜木「くっ.........!貴様もかアグネスタキオン.........!!」

 

 

 普段お前はそんな目をしないだろ。いつもらしくモルモットを扱うような目で見てくれ。お願いだからバカだと笑ってくれ。

 そして今度はライスが申し訳なさそうに立ち上がる。これで最後だ。穏便に済ませてくれ。

 

 

ライス「あの、ね?ライス。ずっとトレーナーさんのこと。心配だった.........」

 

 

桜木「ライス.........」

 

 

ライス「だからライス.........怒ってるんだよ.........!」

 

 

 なるほど、だからマックイーンの札を上げたのか。納得.........いや、そんな的外れな思考は今すべきじゃない。

 

 

ウララ「ライスちゃん怒ってるの!?ダメだよトレーナー!!ウララも怒ったぞー!!」

 

 

桜木「ご、ごめんなさぁぁぁい!!!!!」

 

 

 成人男性の情けない謝罪がチームルームに響き渡った。今日も[スピカ:レグルス]は平和です。

 

 

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ......To be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケその1

 

 

 

 

 

 スピカのチームルーム。

 

 

「おはようございますー!」

 

 

桜木「あれ?新しいチームメンバー?」

 

 

全員「え?」

 

 

 ダイエットを終え、精神的に余裕も出てきた最終日のトレーニング。入ってきた黒髪のウマ娘は今まで居なかった筈だ。

 

 

沖野「お前.........本気で言ってるのか?」

 

 

桜木「え?」

 

 

「そんな.........私、一週間前からチームに入ったのに.........」

 

 

桜木(そマ!!???)

 

 

 一週間前。丁度ダイエットの中でも一番意識がぶっ飛んでいた時期の筈だ。どうしよう。名前も思い浮かばない。けど、名前を、名前を言わなければ.........

 汗をダラダラと垂れ流しながら、必死に名前を思い出そうとするも、身体のどこにも彼女の名前の痕跡は見当たらない。喉にも込み上げてこない。

 

 

ウララ「トレーナー!!この子は」

 

 

沖野「待てウララ。トレーナーならチームメンバーの名前くらい言えるはずだ」

 

 

 クソァっ!マジで性格悪いぞこの人!!ぐ.........こうなったら、奥の手だ.........当てずっぽうしかない.........!

 

 

桜木「レ、レオディセンバー.........?」

 

 

「.........」

 

 

全員「.........」

 

 

 まずい。どうやら違ったみたいだ。どうしよう.........この空気。

 

 

沖野「スカーレット。ウオッカ。やれ」

 

 

二人「はい(おう)」

 

 

桜木「ふ、二人とも顔が怖いぜ?冗談だって、心をおちけつ.........」

 

 

二人「問答無用ッッ!!!」

 

 

桜木「べふぅぅぅっっ!!!」

 

 

 息ぴったりのクロスボンバーが炸裂した。いや、死にますって旦那。タマモクロスの姉御のツッコミもここまで激しくありませんって。

 

 

マック「おはようございます」

 

 

「あ、おはようございます.........」

 

 

 スピカのチームルームに入ってきたマックイーン。名前も知らない(知ってるはずの)ウマ娘に気付くと、おもむろに近づいていく。

 

 

桜木「ま、マックイーン.........助けぶ.........」

 

 

 いやいや!口まで抑えないでよ!!息が出来ないじゃねえか!!不味い。マックイーンからは死角。俺の姿は完全に見えていないぞ.........!!

 

 

マック「初めまして。メジロマックイーンですわ」

 

 

全員「え!?」

 

 

マック「え?なんですの?」

 

 

桜木(マジかよ!!)

 

 

 流石マックイーン!!期待を裏切らない!!

 そしてウオッカとスカーレットが驚いて力が緩んでいる間に拘束を脱出。何とか一命を取り留める事に成功した。

 

 

沖野「マックイーン.........お前もか.........」

 

 

マック「だから!なんなんですの!?」

 

 

「もー!!なんで私の名前が分からないんですかー!!」

 

 

 まずい、名も知らぬウマ娘がもう泣きそうだ。ここは耳打ちしてなんとか状況を知らせよう。大丈夫。マックイーンはちょっとおっちょこちょいだが、やる時はやる子だ。

 

 

マック(み、耳がくすぐったいですわ.........///)

 

 

マック「ええ.........!?だ、だいたい事情はわかりましたわ.........」

 

 

「ぐすん.........」

 

 

マック「申し訳ございません。冗談でしたが、少々タチが悪かったですわ.........」

 

 

 おお、何とか穏便に話がまとまりそうだぞ.........全員、胸を撫で下ろしている様子が見て取れた。

 

 

「じゃあ.........私の名前を言ってください」

 

 

マック「」

 

 

桜木(マックイーンさん!?)

 

 

 固まった。完全にやってしまった。多分マックイーンもわかんないんだと思う。うん。

 

 

マック「.........コホン」

 

 

桜木(!?)

 

 

 だが、それも一瞬だけだった。いつもの優雅なマックイーンに戻った。良かった。彼女はやはり頼りになる。窓からの逃走は必要無いのかもな。

 

 

マック「メジロムーンライトさん」

 

 

桜木「逃げるんだよォ!マックイーン!!!」ガララッ!

 

 

 無理だ!!もう言い逃れ出来ない!!だって完全に目を見て名前を言ってなかったんだもん!!笑顔が引き攣ってたんだもん!!!

 

 

「.........せん.........」

 

 

全員「え?」

 

 

桜木「?」

 

 

「許しませんッッ!!!」

 

 

桜木「な、何ィィィィ!!!?????」

 

 

 名も知らぬウマ娘ッ!脅威の末脚ッッ!!!いや、ウマ娘に逃げ足で勝とうだなんてそもそもが無理なんですけどね。

 

 

「私の名前はッッッ!!!!!」

 

 

桜木「き、君の名はッッ!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スペシャルウィークですッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。チームのトレーニングが終わるまで俺とマックイーンはレンガを膝に乗せられ、正座させ続けられた。二人は二度と無理なダイエットはしない。そう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケその2

 

 

 

 

 

「白銀選手ッッ!!!まるでアメリカ大会での疲れを感じさせないッッ!!!オーストラリア大会優勝ですッッ!!!!!」

 

 

白銀「ッシャァァアアッッ!!!見たか女ァッ!約束通りπ触らせろやァァ!!!」

 

 

ゴルシ「ああ.........良いぜ。恥ずかしいけど、お前になら触らせてやるよ.........」

 

 

白銀(へへへ、最初はマジかよと思ったが、思えばこの女は約束は破らねぇッ!勝ったな.........あんなデケェのはそうそうお目に......?なんだアイツ、紙とペンなんか出して.........)

 

 

ゴルシ「ほらよ。アタシのπ.........」

 

 

白銀「」絶句

 

 

 それは.........とても、綺麗な綺麗な、まーるい円でした。ゴールドシップの類まれな芸術センス。見る人が見れば、億超の作品になるようなマジックで書かれた円。それは、純粋なπと言っても、差支えはありませんでした.........

 

 

ゴルシ「あ、アタシだっては、恥ずかしいからよ.........は、早く触ってくれよ.........」

 

 

白銀「アア.........オレハコノタメダケニガンバッテキタンダ.........ユックリタンノウサセテクレ.........」

 

 

 そんな柔らかさも感じない平らなπを触った白銀は、あまりのショックにその場に倒れ伏せ、一週間は目を覚ましませんでした.........

 因みに、メディアでは、白銀翔也。失恋という見出しで大々的に報道されたそうな............めでたしめでたし。

 

 

 

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