山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
今年もよろしくお願いします。
涼しい風がオレの身体を撫でるように通っていく。耳が痛くなってくる音を立てる鉄の塊。うるせェ位に多い人の足音。それにも慣れてきてもう頭も痛くならねェ。時期はそンくらいだった。
だが.........[アイツら]が居ないってのは初めての事だった。オレ様ちゃんが言うのも何だが.........まァ不安だった訳だ。この[身体]になる前はカフェと一緒に居たし、この世界で「一人」って言うのは初めての事だった。
丸くなっちまったもンだ。そう心の中で呟いてトレセン学園のチームルームに向かい、その扉を開いた。
開いたンだが.........
サニー「.........何してンだ?お前ら」
シリウス「見たら分かんだろ?荷造りだよ荷造り」
シャカ「クソ、狭い癖にやたらと物が詰め込まれてやがる.........おいタキオンッ!!!もうこのプリント要らねェだろ!!!」
タキオン「いいや。それはウララくんがお絵描きに使う物だ。一枚も捨てるんじゃない」
開けた瞬間。何やら忙しそうに物を片付けてるチームの奴らが居た。トロフィーだの何だのを片っ端からダンボールに詰めてる様子だ。
状況が分からねェ.........オレは取り敢えず桐生院って奴に説明を求めた。
桐生院「サニーさん。実はチーム人数が増えた事で、チームルームの移動が決まっていたらしいんです」
サニー「らしい?」
ミーク「桜木トレーナー.........多分、連絡見てない.........かも」
マジかよ。アイツトンデモねェと思っていたがまさかここまでのレベルだったのかよ.........シャレにならねェぞそれ。
桐生院はミークの言葉を聞いて怒りを思い出しワナワナ震えてやがるが、直ぐにハッとした様子でオレの肩を掴んで来やがった。
桐生院「桜木、じゃなかった!!ビールさんと変わって下さいっ!!!伝えなければ行けない事があるので!!!」
サニー「!い、いや。それが―――」
しまった。そこまで口に出してアイツらの不在の言い訳を考えるのを忘れていた事を思い出した。まさか馬鹿正直に[女神に連れ去られた]なンて言っても頭がおかしくなったって心配されンのがオチだ。
な、何か.........何か言い訳を.........!!!
サニー「え、と.........アイツらなンだが、実はその.........情報収集?そう!!情報収集に出張ってて居ねェんだよ!!」
桐生院「そ、そうですか.........思えば[アオハル杯予選]を全勝すると言う無理難題、連絡の確認ミスをしても仕方ありませんよね.........はぁぁ」
オレの言葉で落ち着いたのか、桐生院は自分で桜木の状況を察して事態を納得する事が出来た。事実、アイツだけ飯も風呂もマックイーンに任せて、寝る時以外考えに耽っている状態だ。
それに、寝る時の主導権も寝付きが良いってンでオレが担当しちまっている。アイツの身体だってのに、アイツがこの身体を使っている時間が短くなっちまっている.........
サニー([使いやすい]ってェのはオレ目線の話だが.........それにしてもこの[馴染み具合]。何か変じゃねェか.........?)
シャカ「あン?何だこのユニフォーム?」
タキオン「あ、それ.........トレーナーく、いや。はぁぁ.........マックイーンくんの私物だよ。丁寧に扱いたまえよ?彼女の[スポーツ観戦セット]だからね」
ブルボン「すいませんっ!!!私のプラモをしまったのは誰でしょうか!!!」
シャカ「オレだよ!!!今度は何だ!!?」
ブルボン「しっかり作品別に入れてくれないと並べ直す時に大変ですッッ!!!」
シャカ「あァ!!?言われた通りに入れただろうがッッ!!!」
ブルボン「ウイングゼロとゼロカスタムは続編ですが別物ですッッ!!!それとνガンダムとHi-νガンダムも同じ逆襲のシャアという作品ですがそもそも媒体が―――」
シャカ「だァァァァ!!!!!時間はあンだから普通に時間掛けて並べりゃ良いだけの話だろッッッ!!!!!」
あァ.........また段々と騒がしい事になって来やがった.........こういうの苦手なんだよ。
ここに居ると巻き込まれるかも知れねェし、片付けを手伝えって言われる可能性もある.........そンな事するくらいだったら死ンだ方がマシだ。
ここは退散するに限る.........そう思い、オレは足音を立てないようにゆっくりとチームルームを後にした.........
ーーー
サニー「はァ、つってもやる事もねェしなァ.........」
「ケホッケホッ!モウサァッムリダヨ!!ナンネンモソウジシテナインダカラサァ!!!」
「ちょ!!?[テイオー]さん!!?」
「コマメニモットソウジシナイトサァッ!!!」
サニー「あン?」
やる事もねェから学園の敷地内を歩いて居ると、目の端から急に咳き込みながら出てきた奴が現れた。
ソイツを追い掛ける形で数人がぞろぞろと駆け寄ってくる。
「ちょっとテイオー!!!アンタが手伝うって言ったんでしょ!!?」
テイオー「だってあんな埃まみれだって思わなかったんだもん!!!スカーレットだってびっくりしてたじゃん!!!」
「けどよテイオー?桐生院トレーナーも頼んだって言ってたんだし、ちゃんとやらねぇと」
テイオー「じゃあウオッカがやってよ!!!ボクもうやだ!!!」
「で、でも!!サブトレーナーさんが居ない今、少しでも役に立ちたいって言ってたじゃないですか!!!」
「そうよテイオー?私達は[アオハル杯]に[出てない]んだし、これくらいは.........あら?」
キンキンとした甲高い声で駄々を捏ねているガキンチョを宥める四人。その中に知っている顔がある。スペシャルウィークとサイレンススズカ.........その内の片方、スズカがオレに気付く。
それに付随して周りの奴らも気付いた。面倒な事になりそうだ。逃げるしかないか?
そんな事を考えている間に、あのガキンチョが間髪入れずに接近してきやがった。
テイオー「ねぇねぇ!!キミ、[ウエスタンビール]だよね!!!」
サニー「.........はァ、だったら何だよ?」
テイオー「?.........!ふっふーん♪ボクはトウカイテイオー♪キミ達の[チーム小屋]を清掃してあげてたんだよ♪」
サニー「今逃げてたじゃねェか」
テイオー「!むっか〜.........!!!さっきまでちゃんとやってたもんね!!!キミは良いよね〜気楽そうで!!!」
サニー「!ンだと〜.........!!!」
テイオー「やるか〜.........!!!」
スペスズ「ま、まぁまぁ」
一触即発の状態だった。オレとトウカイテイオーは額を擦り合わせていた。少し動けば殴り合いの喧嘩に発展するレベルだったそれを、スズカがオレを。スペがテイオーを羽交い締めにして事なきを得た。
クソッ、コイツやっぱ[トウカイテイオー]だな.........気に食わねェ。我が物顔で威張り散らしやがって.........マックイーンが居なきゃお前なンて.........って
サニー(今そのマックイーンどっちも居ねェじゃねェか!!?)
あ、危ねェ所だった.........つい居るつもりでおっぱじめる所だった.........流石にこの身体はアイツのだし、怪我したりは勿論、変な事が起きたら迷惑はアイツに掛かる.........!!!あンな奴に借りも貸しも作りたくねェ!!!
スズカ「えっと、多分[サニー]さんで良いのよね?」
サニー「あァ、自己紹介は別に良いぞ。全員知ってるからな」
スペ「え!!?も、もしかして私達って有名人.........?」
全員(そりゃG1に出てたら有名人でしょ(だろ).........)
やっぱ抜けてンなァコイツ.........昔っから見てたが、強くなってもこういう所が変わってねェ。普通はもっと風格だとか何だとかが付随してくるってもンだが.........
サニー(まっ、[アイツ]の影響を考えりゃ納得出来ちまうわな)
どいつもこいつも腑抜けた様な顔をしてやがる。それなのに、走っちまえば他をブッチ切る程に強ェ。普通に鍛えればそれに釣られて表情も固くなって行っちまう。そんな奴らを、オレは[何匹]も知っている。
その顔に浮かんでいる[焦燥]。それがコイツらには無かった。
サニー(.........本当、[違う世界]だ)
テイオー「は〜あ。掃除するのも飽きちゃったし〜、後はトレーナー達に任せちゃおっかな〜」
サニー「.........そういや[チーム小屋]って何だよ?」
疑問を感じる単語に対して質問をする。チームルームってのはここに来て結構聞いてきたが、チーム小屋ってのは初めてだ。
するとここは自分の出番だ。とでも言いたげな表情ででかい胸を張るダイワスカーレットが前へと出て来た。
ダスカ「良い?チーム小屋ってのは昔、トレセン学園で[アオハル杯]が盛んに開催されていた時期に作られた建物よっ!!」
ダスカ「当時は1チーム十人超えは当たり前だったけど、アオハル杯もやらなくなってチームに人数を抱える必要も無くなった結果、次第に使われなくなって行ったわ!!」
ダスカ「今十人超えてるところは[アンタの所]だけよっ!!!」
スペ「え?えっと、リギルは?」
ウオッカ「あそこなら今二手に分かれてるし、元々1番大きかったけど十人も居なかったからなぁ」
サニー「ふゥん?」
なるほどなァ。つまり今一番デケェチームはオレ達って事か.........悪い気はしねェが、そうなるとやっぱり最終的に目立つチームになってたって事だな。
.........けど、一つ疑問が解消されればまた新たな疑問が浮かび上がる。それは、コイツらがなンで[アオハル杯]に出てねェのかって事だ。
サニー「お前らは何で出ねェンだよ?良い線行くと思うぜ?」
テイオー「良い線〜?そんなんじゃダメダメ♪狙うんだったら優勝だよね〜♪」
ダスカ「そりゃそうだけど、質問に答えられてないわよテイオー」
スペ「え〜っと、出たかったのは山々何ですけどね.........」
.........するってェと、何だ?コイツらは走りたかったが、何らかの理由で出れなくなったって事か.........!!?
ま、まさか.........!!!
スズカ「ひゃん!!?」
ウオッカ「うお!!?ど、どうしたんだよいきなり!!?スズカ先輩の脚なんか触りだして!!!」
サニー「お前骨折してないよな!!?」
スズカ「し、してない.........はず?」
ダスカ「な、なんで疑問形?」
最悪の事態を想像してしまった。[本来]であるなら、スズカは[骨折]して走れなくなる。いや、それどころかそれが原因で[死んじまう]。
[この世界]は優しい。走れなくなったからって命までは奪いはしねェ。けど走れなくなっちまったら、今のコイツらからしたら死んだも同然だ。
けど触った感触からして問題は無さそうだ。腫れとか熱もねェ。健康体そのものだ。他の奴らもピンピンとしてやがる。どうやらオレの勘違いだったみてェだ。
サニー「.........悪い、早とちりだ」
スズカ「?あぁ、アオハル杯に出てないのは別に、私達の誰かが不調になったとかじゃ無いわ」
スペ「そうなんです。実は今、リーダーの[ゴールドシップ]さんが未もご?」
ウオッカ「あ、アステカ文明の謎を解き明かしに!!!アマゾンに!!!な!!?スカーレット!!?」
ダスカ「そ、そうそう!!!本当に困ったリーダーよね!!!」
スペの口を塞ぐウオッカとスカーレット。その表情には焦りが見えており、アイツの[正体]に関して部外者には秘密にしているらしい。ここら辺はまともで安心.........いやスペシャルウィークが抜け過ぎててダメだな.........
[我が子]ながら心配になるが、今はそんな事より話の続きを知りたい。
[ゴールドシップ]の不在。それだけが理由じゃないはずだ。
スズカ「.........ふふ、それだけじゃない。って思ってるでしょ?」
サニー「!よく分かったな」
テイオー「スズカは何でも分かっちゃうんだよ♪この前なんて〜、ボクがマックイーンのスイーツ食べちゃったの見破られちゃったし♪」
ウオッカ「そりゃお前が嘘つくの下手だからだろ」
テイオー「だってさー!!!チームが分かれたせいでサブトレーナーも他のみんなも構ってくれないんだもん!!!サブトレーナーは今でもサブトレーナーなのにさぁ!!!」
じたばたしながらやいのやいの言い始めるテイオー。その姿に苦笑する他のウマ娘達。
しばらくそんなテイオーを見て笑っていたが、話が逸れたと言ってスズカはまた柔らかい表情をオレに向けて来た。
スズカ「[待っている]の」
サニー「?何をだよ」
スズカ「[アオハル杯]は盛り上がるけれど、その分ウマ娘達にも負担が掛かる。一度開催するだけで、参加者達はその年の通常レースに出れる程の体力は残せないらしいの」
スズカ「私達のトレーナーさんも.........当時の事が原因で担当が怪我をして.........一度学園を去ったって」
スペ「.........あ、はは。良くある、噂.........ですけどね」
全員「.........」
.........有り得ねェ話って訳じゃねェ。予選期間は3ヶ月。相手の対策を練るンだったら練習量も増えて行く。現にアイツは.........寝る時以外は殆ど意識がここに無いって状態だ。
そんな状態で普通のレースも出るってなったら.........並大抵のヤツは壊れていくに決まってる。それを走り切れる奴なんて.........まァ、イクノディクタス位じゃねェか?名前出すのも癪だが。
スズカ「サブトレーナーさんはそれに気付く筈。だから私達は.........」
サニー「.........[アイツ]が頼るのを待ってんだな?」
スズカ「ええ。トレーナーさんも私達の意見に賛成してくれたから、今回は[まだ]参加してないの」
.........本当、変な奴らだ。義理なのか縁なのか知らねェが、アイツに関係する奴は全員世話焼きな奴らが多すぎる。ここまでになると反吐すら出てこねェ。
サニー「.........そうかよ。ンじゃあ甘えさせて貰うぜェ?頑張って掃除しとけよォ」
テイオー「うんうん♪ってえぇ!!?そこは[変な奴らだぜ。見てらんねぇな]。って言って手伝ってくれる流れじゃないの!!?」
サニー「オレ様ちゃんは散らかす方が得意なンだ。埃まみれの部屋がゴミまみれになるが良いかァ?」
スズカ「そ、それはちょっと.........」
スペ「え、遠慮しときます!!」
けっ。元気の良い返事をしやがって。ガキっつうのはどンな姿になっても可愛く感じる物だ。悲しい位にな。
けどまァ、邪魔になるってのは本当の話だ。こうして身体は手に入れた物の、[片付ける]って概念がさっぱり分からねェ。
昔っからテメェの[運命]所か、ガキ共のそれすらとっ散らかした奴に片付けが出来ると思うか?そンなスキルがあったらとっくのとうにオレ様ちゃんは悠々自適に[アメリカ]で馬鹿共を高みの見物してるっつうの。
サニー(.........とは言え、何にもしねェってのも癪だ)
サニー(.........そういやァアイツ、[カード]とかってのを好きに使ってくれって言ってたな.........)
ーーー
ウララ「よいしょっ。よいしょっ.........ふー!これでお片付けは終わりだねー!!♪」
ライス「ウララちゃん。要らないものお外に運んだだけだから、お掃除もしなきゃだよ?」
「ああもうっ!!!なんでこんなに埃まみれなのよ!!!ケホッケホッ!」
二人「わわっ!!」
はぁぁぁ.........ウララさんに誘われたから見に来たは良い物の、まさか掃除を手伝わされるだなんて.........いくら[キング]は家事も一流とは言え限度があるわ!!!
せっかく急いで用意したエプロンも三角巾も埃まみれになっちゃったし.........トレセン学園の設備として存在しているのなら掃除していて欲しかった物ね。
沖野「悪いなぁキング。手伝って貰って」
キング「ふん。当然よ。キングは人助けも一流でなくちゃ」
沖野「それに引き替え、ウチのテイオーと、リーダーと、サブトレーナーと来たら.........はぁぁぁ」
キング「.........」
大きな溜息を吐いて肩を落とすスピカのトレーナー。流石にツッコミ辛い話題だからスルーさせて貰ったわ。テイオーさんはともかく、他の二人は事情があるようだからこの場に居ないのは仕方無いと思う。
キング「.........それにしても、スピカと言いレグルスと言い、良くトラブルが続くわね」
ウララ「うんっ!!でも楽しいよね?ライスちゃん!!」
ライス「.........^_^;」
キング(ライスさんは相当滅入っている様ね.........)
無理もないわ。こんな目まぐるしい環境で楽しめるのなんて、それこそウララさんくらいでしょう。他の皆さんも疲弊していなければ良いんだけど.........
ウララ「そうだっ!!ねぇねぇキングちゃんっ!!キングちゃんもチームに入ってよ!!!」
キング「.........はぁぁ。またその話?」
ウララ「この前聞いた時はまた今度ねって言ってたから!!そろそろ良いかなーって!!♪」
.........本当。こういう時の記憶力だけは良いんだから。[有馬記念]が終わった後に聞かされたけど、丁重にお断りさせて貰った。
確かに[アオハル杯]が始まった今凄く魅力に思えるけれど、私としては自分の[トレーナー]が変わる事の方がデメリットが大きい。
それに.........[約束]を守らないのは一流としては恥ずべき事よ。
キング「.........残念だけど、チームには入らないわ」
ウララ「えっ?」
キング「それは今後も変わらない。それに.........適任は[私じゃない]わ」
ライス「?それって.........」
キング「ほらほら。手を止めていたらいつまで経っても終わらないわっ!!キングは年末の掃除も次の日に持ち越さない主義なの!!!」
ウララ「わぁ!!!キングちゃんウララのお母さんと一緒なんだね!!♪」
そう。これで良い。私が入ってしまったらきっと、もっと展開がいい方向に向かう。でもそれはウララさん達の[都合]。
私自身、揺れ動いているのは違いない。彼女達は目の前の事で手一杯だと思うけれど、私はもっと先。[アオハル杯]の先を見ている。
現状、トレセン学園は[二極化]している。
伝統を重んじりながら、手探りで新しい手法を取り入れていく[旧理事長派]。
そして、[完全統制]による[完全管理]によって無理と無駄のない、トレーニングと出走ローテーションを理想とする[現理事長派]。
私は今までの経験と予測を持ってしても、そのどちらを選ぶべきか迷っている。そんな人に入られてもきっと困るだけ.........
キング(.........[彼]はきっと、[旧理事長派]でしょうね)
どっちつかずの心理状況。どちらが正しいのか分からない。
出たいレースに出る為に身体を壊す覚悟でトレーニングをするこれまでと、今後の事を考え出走レースを絞り、管理されたトレーニングで強くなるこれから.........
.........選ぶにはもう、私は少し[進みすぎた]気がするわ。
キング(はぁぁ、嫌になるわね。おばあちゃんにでもなったみたい。まだ母親でも無いのに.........)
.........こんな立場になって少し、[あの人]の気持ちが分かった気がするわ。口を出したくて仕方が無い。けれど自分の事を話すには忍びない。言い方に気を付けても結局、私もあの人の娘だから.........
今でさえやっと我慢が出来ている状態なのに、彼女達が自分の娘だったら.........きっと私も、電話越しで口酸っぱく言っていたでしょうね。
キング(.........今度の休みに顔だけでも出そうかしら?)
[アオハル杯]。私は出てすら居ないのに、少しだけ大人になった気がする。でもきっとそれをあの人に伝えたら.........何をバカな事をって一蹴されるかもね。
.........でも、本当に少しだけ、そんな気がした日だったわ.........
ーーー
サニー「っと、こンなもンか.........」
トレセン学園から少し離れた街。人間からしてみれば遠いかも知れねェが、ウマ娘の脚なら数分位の距離だ。
アイツの家からトレセン学園までの道のりより人通りが多い。その上有り得ねェ程デケェ建物ばかりだ。カフェやアイツらと一緒に来た時もあったが、一人でここに居ると少し恐ろしく感じちまう。
サニー(.........本当、人間ってスゲェな)
そんな事を考えながら自分の手を見る。小さな手だ。こんな手で何かが出来るとは到底思え無い。
だがこれは全て[人間]がその手で生み出した物だ。そう考えると[可能性]ってのは本当、目が痛くなっちまう位にドデケェ存在だと感じちまった。
サニー(.........でもアイツらが居たら、こんな事考える暇なンて無かっただろうなァ)
『あっ、あそこのお店.........』
『この前デートしたとこだね。期間限定の抹茶モンブラン提供中.........』
『くっ、こんな身体でさえ無ければ.........!トレーナーさんと行けましたのに.........!!!』
『期間は.........うげっ、来週一杯かぁ〜。無理ゲーっぽいねこれは.........』
『身体がもし元のままでしたら、朝からこちらに来て映画とかショッピングを楽しんだ後、こちらで少しお腹を満たして、午後はゲームセンターやバッティングセンターに行って』
『え?ま、マックイーンさん?』
『そして夜にはあのビルで夜景を眺めながら[愛してますわ。トレーナーさん♡][ああ、俺も。君の事を離したくない].........そうして.........〜〜〜♡♡♡///』
『あは、は.........その展開はあるだろうけど、全部取り戻す前に思った事口に出しちゃうのは治さないとね.........』
サニー(.........あァ〜あ。一人で助かった)
クソッ。四六時中一緒に居たから全部想像できちまう自分に腹が立ってくる.........どンだけ頭ピンク色なんだよアイツらは.........男ってのは行動で示してこそだ。口に出すのは三流って奴だぜ。
.........でもこう言ったらこう言ったで「でもサンちゃん。言葉にするのだって行動だよ?」ってあのスケコマシは.........
あァ〜マジで腹が立ってくる.........!!!あンなでも昔はもっと高飛車だったンだぜ!!?トレセン学園に来る前はもっとこう、ツン。としてて、他を寄せ付けねェオーラ出してたンだ!!!
それでアイツ自身はそれじゃダメだっつって、来た時には少し親しみ安い雰囲気作りを始めたンだ!!!オレ知ってンだよ!!!見てたンだから!!!
それが全部アイツのせいで[瓦解]したンだ!!!あのスケコマシが!!!オレ様ちゃんのマックちゃんを!!!あンなへにょへにょのぐねぐねの頭スイーツに変えちまった.........!!!
ぜってェ〜許さねェ〜.........!!!
―――
二人「クシュ!!!」
ムサシ(ほぉ。寝ながら何ともまぁ可愛らしいくしゃみを.........誰かが噂したんじゃなぁ)
二人「.........ムニャムニャ」ゴロゴロ
ムサシ「!!?ええい寝ながら引っつこうとするでない!!!我を間に挟んで一尺ずつ距離を置いとるのに何じゃ!!!己らは磁石か!!?」
―――
寒気が背筋を走る。これ以上は考えねェ事にしよう。イライラするだけだ.........
自分の中で存在を大きくする苛立ちの感情。それを押さえ込ンで居ると、街の中のデカいビルに付けられたこれまたデカいテレビにニュースが映し出される。
「速報です。現在、[URA委員会]の筆頭株主として[アオハル杯]開催を主導して来た[白銀 翔也氏]が先程、[インサイダー取引]の疑いで逮捕されました」
「おっおーい!!!違、違ェからァッッ!!!ハメられただけなんだってェ!!!」
「警察は今後、事情聴取を行いつつ、真相の究明に務めるそうです」
サニー「何やってんだアイツ.........」
唐突に映し出される良く知る顔。切羽詰まった様子で警察の車に押し込まれて行く男の姿が映し出されている。
それでも人々はそんな物に目を向ける事はしない。それどころか見ている奴の中には「やっぱりな......」とか「だと思ったんだよなぁ......」とか、散々な言われようをしてやがる。
まァ、オレ様ちゃんもそこまで関わりねェから別にどうでもいいが、アイツらがどういう反応するか.........ろくでもない返答が帰ってくるのは確かなのは分かっているが、流石に気になってくる。
サニー(.........それにしても、クソッ。炭酸買ったのは不味かったな.........これじゃ走れねェ)
両手に持った袋の中身を見てゲンナリとする。片方は菓子が詰められていて、もう片方はジュースだ。ガキ共は好きだろ。特にシュワシュワしてる炭酸とか。
それでまァ、柄にも無く考えて選んでみたが.........それが裏目に出ちまったってパターンだ。
あァクソ。走ったら直ぐなンだが、歩かなきゃならねェと思った瞬間面倒になって来やがったぜ.........脚も何か疲れてきたし、休憩出来る場所でも探すか.........
サニー(.........ァ?)
少し歩いた所。活気な店通りを離れた住宅街の中に、周りの空気とは違う建物がそこにはあった。
.........知っている。確か[教会]って奴だ。宗教ってのは良く分からねェが、神様に祈りを捧げる為の場所だ。
そンな所に転がり込むのは癪だったが、流石のオレ様ちゃんも疲れて来た。それに、ここは[アメリカ]じゃねェ。日本だ。信者なんて沢山は居ねェ筈だ。
そう思ったオレはその敷地に足を踏み入れ、入口のドアをゆっくりと開けた。
そこには外とはまるで違う世界が広がっていた。太陽の光が色彩豊かなガラス窓によって彩られた光として降り注いでいる。祭壇って呼ばれる場所にその光が差し込まれて、本当に別の世界に来たのかって思っちまう。
でも、それ以上に目を取られたのは.........そこに居た一人の人間の後ろ姿だった。
サニー(っ.........似てやがる.........)
有り得ない。思わずそんな言葉を心で唱えちまう位に、面影を見ている。後ろ姿だけなら瓜二つ。祭壇に跪き、手を合わせている男の姿に、オレは心臓を早めていた。
そんな訳が無い。こんなところに居るはずが無い。だってアイツは.........オレの知っているアイツは.........こっちには.........!!!
「.........!Sorry.I was hogging everyone's place(悪い。皆の場所を独り占めしてしまっていたよ)」
サニー「っ!Don't worry. In fact, it was your place just now(構わねェよ。実際、さっきまではアンタの場所だった)」
聞こえて来たのは[慣れ親しんだ言葉]だった。それも、昔良く聞いたその[声]で.........
「Haha.Thanks.........っ!!?」
何者なのか。男が背中を振り返って、オレの顔を見る。息を呑んだのが目に見えた。
その反応だけで.........察しが着いちまった.........
「.........サン、デー.........?」
「.........よう。[大馬鹿野郎]」
......To be continued