山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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マック「新たな勝負服と名も知らない宿敵」

 

 

 

 

 光が差し込む教会の中心。ステンドグラスの虹彩を通された光は七色に光り輝き、床に彩りを作り上げていた。

 目の前の男は口を開いたまま一向にアクションを起こさねェ。オレとしては聞きてェ事が山ほどある。[あの後]の事。そして、何で[ここ]に居るのかって事.........

 

 

 それでもコイツは何も喋らない。痺れを切らしたオレはその全てを聞き出す為に、ゆっくりと奴に近付いた。

 

 

「ま、待ってくれ!!!」

 

 

サンデー「............あン?」

 

 

「不味いぞ.........抜け駆けは無しって[アイツら]に言われたのに.........」

 

 

「いやいや。俺は教会に祈りをしに来ただけだぜ?偶然だよ偶然.........仕方ねぇよ。不可抗力って奴だ.........アイツらも許してくれるさ.........」

 

 

 .........やっぱり変わってねェな。こういう心配しまくる所とか、他のヤツらを気にする所とか.........

 けどまァ、この状態になっちまったらコイツは引っぱたかねェと元には戻らねェ。そして今のオレに、それをしてやるほどの[繋がり]はねェ。

 

 

 聞きてェ事はあったが、今日はこれで.........

 

 

「っ!ま、待ってくれ!!!」

 

 

サニー「あン?ンだよ。折角こうして[運命的]な再会を果たしたってのにオレ様ちゃんをほっぽってウダウダしてる奴に用なンざ一つもねェよ」

 

 

「ぐっ.........すまない」

 

 

「だ、だがここで君をただ返す訳にも行かないんだ!!!」

 

 

サニー「っ.........!」

 

 

 力強い表情を見せて奴はそう言い切った。普段弱気の姿しか見せないコイツが、そう断言してきやがった。

 それに気圧される形で、オレは手を引かれて車に押し込まれちまった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言う訳で.........連れて来ちまった.........」

 

 

「「あ、アホかァァァァッッッ!!!!!」」

 

 

サニー「うるせェ!!!馬の前で叫ぶンじゃねェよッッッ!!!!!」

 

 

 連れてこられたのはホテルの一室だった。扉を開けて出てきたのは昔[調教師]って形でオレに携わった奴と[騎手]ってンでオレの背中に乗っていた奴だった。

 事情を説明するコイツに対して圧を浴びせ続けて終いにはドンドンしりすぼみになっていくコイツに、目の前の奴らは怒鳴り付けた。

 

 

「お前下手したらここのポリスに厄介になってたんだぞ!!!」

 

 

「こっちはかなりトレセンの肩身狭い中無理を押し通して出てきたの分かってんのか!!?」

 

 

「けどだからってこの機会逃したら[渡せねぇ]だろ!!!こんな代物いくら平和ボケしてるからってトレセンに送ったらそれこそ通報されちまうッッ!!!」

 

 

サニー(コイツら何を言ってやがるンだ.........?)

 

 

 頭を抱え始めた三人。異様な光景だ。ここまで追い詰められた姿なんて.........[プリークネスステークス]の時だって毅然と対応していたンだぜ?

 そンなコイツらがこれほど動揺してるとは.........一体何をしようとしてやがるンだ.........?

 

 

「って、こんな事してる場合じゃないよな。[サンデー]。ちょっと待っててくれ」

 

 

サニー「.........?あ、ああ」

 

 

 そう言われたオレは素直に従っちまった。それどころか、[サンデー]って呼ばれて自分の事だと最初認識出来ていなかった。それほどまでにオレ自身、ここでの生活に馴染ンじまってるって事だった。

 .........複雑な気持ちだ。もうその名でオレを呼ぶ奴も居なかった。久々に、直にこの耳で聞いてようやく自分が[何者なのか]ってのを再認識する事が出来た。

 

 

 暫く部屋のソファーに座って待ってると、アイツらが一つの[箱]を手にしてオレの方へと持ってきた。

 

 

サニー「.........コイツは?」

 

 

「ああ。アメリカではトレーナー側が[勝負服]の発注をするんだ。昔こそ勝手に決めてたが、今ではウマ娘の意思を汲み取って反映されている」

 

 

「俺達のチームが結成された時。コイツがな.........」

 

 

「アッチじゃチームおったてるのにだって金が掛かんのによぉ.........コイツ。酒に酔った勢いで俺達の理想のウマ娘の為に、[勝負服]作っとこうぜって言ってな」

 

 

サニー「.........ハッ、それに乗らねェ程良い子ちゃんでもねェだろ?テメェら」

 

 

 ホント。馬鹿な奴らだ。現れるかも分からねェ理想の相手を思い描いて、どれほど掛かるかも分からねェのに[勝負服]を作った?イカれてやがる。いつだってそうだ。コイツらはそんな奴らだった.........

 

 

『この前は1万ドルの一般セリ.........そして次は最低価格5万ドルのセリで3万ドルで届かず.........でもコイツは生まれたんだ.........生まれちまったんだよ.........』

 

 

『あの馬を何とかしろ?それは上に乗るアンタの仕事だ。好きにさせてやると良いさ。アイツは賢い。意味も無く暴れ続けはしないさ』

 

 

『ハッハ!!!サンデーサイレンスかッ!!!速くて良いじゃないかッッ!!!薬やるよりお前の背中に乗ってた方が気持ちいいぜ!!!』

 

 

 方向性は違うさ。でも向いている方向は同じで、辿り着きたい場所も一緒だった。一言で言やァ.........[奇妙]だった。

 [運命]っつう[プロット]すら真っ白に塗りつぶして、その純白の上を走っている気さえしちまっていた。

 

 

「.........気に入らなかったら返しても良い。だから一度中身を「良い」.........え?」

 

 

サニ?「[着てやる]。コイツを着て、[走ってやる]」

 

 

サ??「ずっとそうだったんだ。他のやり方より慣れてる」

 

 

???「それによ.........やっと[安心]できたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレは、[サンデーサイレンス]だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前に[拾われ]、お前に[鍛えられて]、お前と[走った]存在だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンデー「.........次があるかは、分からねぇけどな」

 

 

「.........それでも良い。受け取ってくれて、ありがとう」

 

 

 俺は箱の中身を見る事無く、コイツらからの[贈り物]を受け取った。そしたら憑き物が落ちたみてぇに安心しきった顔を俺に向けて来やがった.........本当。人間ってのは面倒臭ぇ。

 

 

 .........だが、コイツからは懐かしい物を感じる。暖かい感触だ。それがウザったくて暴れた時もあった。それが今じゃ.........凄く落ち着いてくる。

 コイツらが、オレをオレたらしめる存在。そんな奴らが寄越した物だ。有難く使わせてもらう。

 

 

サンデー「.........んで、用はこれだけか?」

 

 

「.........ああ。荷物もあるんだろ?送ってくよ」

 

 

サンデー「そいつぁ有難ぇな。案内してやるから最初にそこ行って、最後にトレセンに向かってくれ」

 

 

「分かった。サンデー」

 

 

サンデー「あん?」

 

 

「.........その、怖かったら手を握っててやるぞ?」

 

 

サンデー「?.........!!!///」ボフン!

 

 

 こ、コイツ.........!!!気付いてやがったのか!!?いや確かに[車]に乗るのは怖ぇけど!!!これでもカフェと一緒に居たお陰で大分マシになったってのに.........

 .........いや、コイツなりの配慮だ。運転中もなるべく揺れないようゆっくり動かしてたが、それでもオレの[トラウマ]はしっかり刺激されていた。息が詰まってたのがバレちまってたのかも知れねぇな.........

 

 

「ククク.........なんだサンデー。可愛い所もあるじゃないか」

 

 

「お前も神経質だったもんなぁ。分かるぜその気持ち」

 

 

サンデー「うるせェ!!!言っとくけどなァ!!!これでも大分慣れたんだぞ!!!」

 

 

サンデー「大体オレ以外が死んじまった事故でトラウマにならねェ方が頭ラリってんだろうが!!!」

 

 

「サンデー。安全運転するから。な?」

 

 

サンデー「〜〜〜!!!さっさと行くぞ!!!このボケナスッッッ!!!!!」

 

 

「痛っ!!?分かった!!!行くから蹴るなよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、[数日]の月日が流れた。

 

 

 チーム[レグルス]は完全にチームルームを引き払い、[チーム小屋]へと拠点を移した。掃除や物の設置に時間が掛かったが、それが丁度良かった。

 

 

 それが終わった頃に、[桜木 玲皇]と[メジロマックイーン]が夢から帰還して来たのだ。

 

 

 

 

 

ビール「は〜い♪それではチーム[レグルス]の新拠点設立記念配信を初めま〜す♡」

 

 

 ―――広間に置かれたテーブルを囲い、メンバー全員と乾杯していく。まさか俺が居ない間にチームルームがお引越ししていたとは.........

 

 

ファイン「広い所だねー♪もっと色々置けちゃいそう!!」

 

 

ビール「いいよいいよー!じゃんじゃん好きな物置いてって!!桜木さんにはアタシから説明しとくから!!!」

 

 

ファイン「ホント!!?じゃあここに期間限定のカップ麺置いてこっと♪」

 

 

SP「殿下。地下バルコニーがありますのでそちらに保管しましょう」

 

 

ビール「へ〜!!!そんなのあったの!!?」

 

 

SP「いえ。作りました」

 

 

ビール(え何やってるのこの人達メジロの人?)

 

 

『メジロ家の従者を滅茶苦茶な人の通称にしないでくださいまし!!!』

 

 

 怒られてしまった。いやでもあの人達ならやりかねなくない?そういうこと結構乗り気でやっちゃう気がするんだけど.........

 

 

ビール「.........まぁいっか♪あっ。9BXさん1000スパチャありがと〜♪」

 

 

 [本当無茶苦茶ですね。チームレグルス]

 

 

ビール「あはは!!でしょ〜?でもだから居心地良いんだけどね〜♪あれ、ブルボン何作ってるの?」

 

 

ブルボン「RX-79BD-1。通称ブルーディスティニーです」

 

 

ビール「あ〜あのEXAMの?かっこいい〜♪」

 

 

桐生院「本当、こんなに小さいのに細かくディテールされていて.........職人の技ですね」

 

 

 器用にニッパーで部品を切り取り、着々とプラモデルの完成を目指しているブルボン。彼女の表情から至福のひと時を過ごしているのは目に見えているが、それと同じくらい[プラモデル]の方も幸せそうな表情だ。

 

 

 .........久々に[聞いてみる]か。

 

 

ビール(.........お加減はどんな感じです?)

 

 

BD-1「お前。ニュータイプだな?」

 

 

ビール(え)

 

 

BD-1「この小娘もニュータイプだろ?俺より大きい。そいつも、そいつも、そいつも」

 

 

BD-1「そうなんだろ?何とか言えよ。分かってんだよ。はっきり言えよ?ド タ マ か ち 割 る

ぞ ?」

 

 

ビール(違います)

 

 

BD-1「.........EXAM-system.STAN

 

 

 慌てて俺は声をシャットアウトした。

 

 

 なんだコイツ!!?こんなタイプの奴初めてだぞ!!?ただのヤバい奴じゃねぇか!!!

 今までマグカップとか机とかホワイトボード位しか声聞いて無かったし.........キャラ物ってこんな感じなのか?今後気を付けよう。

 

 

カレン「ねぇビールちゃん!カレン気になったんだけど、[勝負服]ってどうなってるの?」

 

 

ビール「え?」

 

 

カレン「ほら。サンちゃんもエールちゃんも用意出来たって言ってるから、ビールちゃんはどうかなって」

 

 

ビール「あ〜.........[スターティングフューチャー]で良くない?正直アレアタシが一番着こなしてる自信あるし」

 

 

シャカ「あ、炎上した」

 

 

カレン「ビールちゃん?流石にもう擁護できないよ?」

 

 

 おお、怖い怖い。カレンは俺の方を笑顔で見つめてきているが背筋に悪寒が走る。それから逃げるようにチビりとオレンジジュースを口に含む。

 その時ふと視線を感じて反対方向に目をやると、同じような表情のマックイーンが俺を見ていた。通りで寒い訳だ。謝るべきだろう.........

 

 

 現在、既にマックイーンとサンちゃんは勝負服を手に入れている。サンちゃんは[ファン]の人達から渡されたらしい。

 そしてマックイーンの[勝負服]は.........[夢]から覚めた後に郵送で箱が届いた。差出人は匿名であったが、中身の[和服]を見るに恐らく[ムサシの婆さん]の物だろう。あの時言っていたことはこれの事だった。

 

 

 そして未だにライブ衣装しか持っていない俺。宛が無い訳では無い。何ならむしろ既に頼んでいるのだが.........一向に連絡がつかないのだ。

 

 

ビール(.........まっ、今気にしても仕方無い。か)

 

 

シャカ「.........チッ。やっぱ前より[桜木]の事で変な事書き込んでくる奴増えてきてやがンな.........」

 

 

『なっ!!?そんな人が居るんですの!!?』

 

 

ポッケ「えっと何何?[桜木トレーナーは教養も無いしノリも内輪的だから見ていて面白くない].........反応に困る奴だな」

 

 

タキオン「アッハッハッハッ!!そうだぞもっと言ってやってくれ諸君っ!!彼の傍若無人さには私も呆れ果てて居てねぇ!!!」

 

 

カフェ「煽らないで下さい。配信のコメントが悪口大会になります」

 

 

フジ「まぁまぁ。今居ない他人の悪口より、今は私達への質問とかの方が良いかな?全員集まってる事なんてほとんど無いしね」

 

 

 おお。流石は寮長のフジキセキだ。俺への悪口一色になりかけたコメント欄を上手く誘導して話題を転換した。大人でもこんなに上手く対処出来るやつなんてそうそう居ない。

 その対応を見てサンちゃんは何故か得意気な顔を見せ、マックイーンはそんなことなぞ露知らずにコメント欄を凝視して俺への悪口を監視し始めている。

 

 

ビール(無駄だと思うよ〜?俺この前それとなく印象操作やってみたけど上手くいかなかったし)

 

 

『そんな事は分かっています!!!でもだからと言って見過ごせる訳がありません!!!』

 

 

『因みに印象操作って何やったンだよ?』

 

 

ビール(う〜んとね〜)

 

 

 

 

 

 Xにて

 

 

ビール「桜木さんって仮面ライダーの南光太郎さんにそっくりよね」

 

 

「は?」

 

 

「ゴルゴムの手先か?」

 

 

黒津木「⚠️南光太郎には全く似ていません⚠️」

 

 

「髪型がね...」

 

 

神威「桜木の給料:300000円」

 

 

 

 

 

ビール(やっぱりダメだったよ)

 

 

『.........』

 

 

 二人がジトっとした目で俺を見てくる。まるで(そんなので鎮火できる訳無いだろ)とでも言わんばかりの視線だ。

 いやそりゃ俺だってそう思ったよ?でもまさか投稿一分もしない間に集中砲火にあうとは思わないじゃない。そんだけ嫌われてるんだなぁと思うと元に戻りたくなくなってくる。

 

 

ビール「これじゃ桜木トレーナーはいつか刺されちゃうだろうねぇ」

 

 

ウララ「えー!!?どどどどうしよう!!?」

 

 

ライス「う、ウララちゃん。大丈夫だよ!............多分」

 

 

ミーク「桜木トレーナー.........お外出れない。かも」

 

 

オペ「ああ!!輝かしい栄光を手にした彼が今、こんなにも不憫な状況に.........!!ここはやはり彼の目の前でボクの渾身の[オペラ]を披露して慰めてあげるべきだ!!」

 

 

シリウス「止めろ。近所迷惑になる」

 

 

 ワイワイガヤガヤと、それぞれが雑談をしている空間。本当に学生時代を思い出す。俺も昔はこうやって仲間と切磋琢磨していた時期があった。

 とっくのとうに失ったと思っていた。でもそれは無くしたんじゃなくて、手放したんでもなくて.........

 

 

 きっと、[この子達]に譲れたんだろうな.........

 

 

ビール「.........ふふ、楽しいなぁ」

 

 

バク「チームはやはり楽しいですね!!!私もトレーナーさんにチームを作ってもらいたいです!!!」

 

 

桐生院「ば、バクシンオーさんのトレーナーさんも頑張る人ですから.........その時はお助けしたいですね」

 

 

 確かにあの人、職員室で顔を合わせるけどバクシンオーと違ってかなり考えてる人なんだよな。レースとかトレーニングとか基本的な事は押さえつつも発展性のある物をよく生み出してるし.........

 

 

 ちびりちびりとオレンジジュースを飲みながら彼の姿を思い出す。俺なんかよりよっぽど真面目に取り組んでる人ではあるが.........アレを複数人分やるってなると本気で命の危険を感じる位にはのめり込んでるからなぁ.........

 

 

デジ「.........うわっ、触れにくい話題が流れてきましたよ」

 

 

ビール「え?.........[白銀選手が逮捕された件について一言下さい]?」

 

 

ビール「まぁあのバカならやるよね!!時間の問題だと思った!!人間社会で生きていける人じゃないよ!!これを機に早く自然に帰った方が良い!!」

 

 

全員「.........」

 

 

 全員が鳩が豆鉄砲食らったような目で俺を見てくる。なんだ君達。俺がアイツを擁護するような人間に見えたか?いやそもそもアイツが擁護される程の奴に見えていたのか?

 残念ながらそんな気はさらさらない。アイツももう大人だ。十代の頃だったらそりゃ助け舟くらい出しはしただろうが、この歳になればもう笑うしかないだろ。

 

 

 ほら見ろ。コメント欄もよう言うたの嵐だ。皆いつか捕まると思ってたんだろうなぁ。

 

 

ビール(ああホント、バカみてぇに平和だよ)

 

 

 姿形を変えてしまったこの身であるが、日々迎える日常は目まぐるしくも楽しく、そして平和な毎日だ。

 

 

 次のレースは[一週間後]。そう気持ちを引き締める度に、この身体と[絆]はより一層に深まっていくのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「現在、[アオハル杯予選二回戦]の準備をしております。ご来場の皆様。もう暫くお待ち下さい.........」

 

 

「ふぅ.........」

 

 

 レース場の選手控え室。久方振りの実戦に緊張を覚えながらも、私はゆっくりと息を整えていました。

 この感覚.........やはり[身体]は変わったとしても普段通り、レースには向き合えています。集中の質もその持続力も申し分ありません。

 

 

タキオン「気分はどうだい?身体の差異は?」

 

 

エール「ええ。問題ありません。強いて言うなら.........」

 

 

タキオン「なら?」

 

 

エール「.........普段よりスイーツを食べたくなる欲求が無い。くらいでしょうか?」

 

 

シリウス「.........じゃあ、寧ろ良いんじゃねぇか?」

 

 

 確かに普通の方ならそうでしょう。普段の欲求を抑えられる。それどころか普段よりもその欲を感じられない。とあらば喜ぶ人は多数だと思います。

 しかし私は今まで、この欲求と上手く付き合ってきたのです。それが無いとなると.........何と言うかこう、手応えと言いましょうか?自分の反発心が弱くなっている気がして.........

 

 

エール「うぅ.........寂しいですわ.........」

 

 

ウララ「エールちゃん大丈夫?.........ウララのにんじんジュースあげる!!」

 

 

エール「ウララさん.........ふふ、気持ちだけ受け取りますわ。ありがとうございます」

 

 

 私の様子を心配したウララさんがバッグからにんじんジュースを取り出して持ってきてくれました。その気持ちだけで嬉しくなり、また負けられないと思う事の出来た私はその申し出を断ります。

 そうです。スイーツがなんですか。勝てなければチームは元通りにならないのです。ここで頑張れなければ.........

 

 

『.........』

 

 

「―――お待たせ致しました。これより対戦チームの出走者発表を行います。控え室に待機しているメンバーの方々は速やかにパドックへとお越しください」

 

 

オペ「.........始まるようだね。次も苦戦を強いられるレースになるだろう」

 

 

シャカ「あァ。何せ相手は[リギル上がり]のトレーナーだ.........一筋縄では行かねェだろ」

 

 

桐生院「.........それも、ありますが.........」

 

 

全員「.........?」

 

 

 レース会場の準備が整い、遂に相手チームとの対面となります。私達は既に出走メンバーを前日に公表していますが、相手方は違います。ここで初めて相手の出方を伺えるのです。

 .........しかしそれも、彼の[洞察力]の前では完全に決まりきっているのですが.........

 

 

 そんな中、チームメンバーは不安を抱えます。理由は一つ。相手チームのトレーナーの存在です。

 話を聞けば数年前まで[リギル]にて基礎を学び、その後独立。トントン拍子でチームを作るまでに至ったトレーナーとの事。そして驚く事に、トレセン学園にやってきたのは彼と桐生院さんと同時期との事です。

 

 

 しかし、肝心の桐生院さんはその[リギル]。という部分ではなく、別の部分で不安を感じている様子でした。

 

 

エール(.........はぁ。こればっかりはこの目で確かめるしか無いわね)

 

 

 息を吐き切り、肺の空気を入れ替えてから立ち上がります。ここで手をこまねいていても仕方ありません。

 そう思い、私達はパドックへと向かうのでした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特設されたパドック上のステージ。その場に二つのチームが躍り出ています。真ん中には実況の赤坂さんが立ち、進行を務めていました。

 

 

エール(.........あら?前回よりも人が.........?あの人達は.........)

 

 

「おーいっ!!!出るって聞いたから応援しに来てやったぞー!!!」

 

 

「抗争で忙しい時間を縫って来てやったッス!!!負けたら承知しねぇッスよ!!!」

 

 

 あの方達は.........確か[lasting]の方々.........以前私が迷惑を掛けてしまったアウトローレースの人達です。

 こういう所には来ないと思っていましたけど、どうやら私の勝手な偏見だったようですわね。

 

 

 私は彼女達の姿を見て手を振りました。それを見て嬉しそうに顔を見合せた後、もっと大きな身振り手振りで手を振り返してきます。その様子を見て苦笑しながらも、私は意識をレース情報の方へと向け直しました。

 相手のチームは少ないながらも精鋭。顔ぶれは公式レースでチームメンバーが対戦した事のある方々も居ます。難しいレースになるのは間違いは無いでしょう.........

 

 

 .........しかし

 

 

エール(桐生院さんは一体、何を恐れて居たのでしょう.........?)

 

 

 特段これと言って特別な事はありません。出走距離、コース別のメンバーが発表されて行くだけで不穏な事は一切ありませんでした。

 

 

エール(.........何も無かったわね)

 

 

 穏便に出走者発表が終わり、全員が地下バ道に向かって行きます。観客達の抑えきれない声援を背に、光から遠ざかって行く。

 

 

 その時でした。

 

 

「どうも。桐生院さん」

 

 

桐生院「!」

 

 

「いやぁ、大変そうですね。急にチームを任されて指揮をするなんて。溜まったものじゃないでしょう?」

 

 

全員「.........」

 

 

 突然でした。先程まで静かにしていた相手方のトレーナーが桐生院トレーナーに話しかけてきたのです。

 空気は一気に不穏な物に。この場に居る誰もが目の前の男に対して不信感を抱き始めました。

 

 

「見た所、寄せ集めみたいな状況.........いや、それは元々でしたっけ?まぁ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの[トレーナーもどき]なら仕方無いですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エール「っ.........!!!」

 

 

デジ「.........人のトレーナーを侮辱するのは良くないと思いますけど?」

 

 

「ああごめんよ。でも本当の事だから」

 

 

タキオン「!言葉には気を付けたまえ。君の担当達も見ているんだ」

 

 

「これはこれは。かつての[問題児]から苦言を呈されるなんて。丸くなったね。君」

 

 

 溢れ出る悪意.........それを直に浴びてしまい、つい手が伸びかけました。仕掛けてきているのはあちらですが、手を出してしまえば私達の負けです。

 拳を握りしめ、唇を噛み締めながら必死に耐えていました。その様子を見て満足したように、彼は鼻で笑ってからその場から離れていったのでした。

 

 

カレン「.........あの人、なに?」

 

 

ファイン「感じ悪い人だね.........」

 

 

桐生院「私達と同時期に入ってきたトレーナーです。実力は確かで、桜木トレーナーに並んで一番若いチームトレーナー。そして.........」

 

 

桐生院「彼の事を、[トレーナーもどき]と呼び始め、それを流布した張本人です」

 

 

エール「な、なんて卑劣な.........!!!!!」

 

 

 ふつふつとしていた怒りが烈火の如く、憤怒に変わるのが手に取るように分かりました。

 以前までの彼の評判.........今のような状況では無いにしろ、傍から見れば酷い有様でした。彼は見て見ぬふりをして流していたので私達もそっとしておきましたが.........それでも怒りは湧いていたのです。

 

 

 どうしたものでしょう。そこまで考え、その思考に[彼]が居ない事に気付きました。これでは独りよがり。ただ自分の怒りをぶつける為だけの[欺瞞]に過ぎません。

 恐る恐る彼の反応を見る為に視線を逸らすと、彼はうんうんと唸っていました。

 

 

エール(と、トレーナーさん.........?)

 

 

『.........アイツ名前なんて言ったっけ〜.........』

 

 

エール(へ?あの人は―――)

 

 

『待って!!!もうここまで出てんのよ!!!本当に!!!』

 

 

『くっそ〜.........女の子に悪口言われるのは嬉しいから覚えられるんだけど.........男だからなぁ〜.........』

 

 

『お前、頭おかしいだろ』

 

 

エール(.........)

 

 

 .........ああ、そうでした。この人はこういう人でした。最近は普通でしたから忘れていましたけど.........

 

 

 人に悪口を言われれば、そこは改善点だと前を向き、褒められれば裏があると勘ぐる程捻くれていて.........その癖、満更でも無くなってしまうくらいには純粋な人です。

 

 

エール「.........ふふ♪」

 

 

全員「?」

 

 

 バカバカしい。あんな人に悪意を向けるくらいならこの人に好意を向けた方が有意義です。今それを再確認出来て良かったですわ。

 溢れ零れた笑いを掬う事無く、私は皆さんに顔を向けてレースの準備をするように促します。

 

 

 [勝てば良い]のです。特別な事。仕返しなど一切考えなくても良い。だってそれが.........一番相手の[嫌がる事]なんですから.........

 

 

「これより、予選第二回戦一レース目。[長距離レース]を開始します。出走する選手はゲートまでお越しください」

 

 

エール「いよいよですわね.........ふふ。前回よりも大勢の観客。そこで完勝してしまえば、どれほどの屈辱を与えられるでしょうか.........♪」

 

 

シリウス「.........コイツ、性格の悪さも移って来てねぇか?」

 

 

桐生院「あ、あはは.........まぁ、ストレスとか溜まってるんでしょうね.........」

 

 

 当たり前ですっ!トレーナーさんの!私のトレーナーさんの悪口を言う人に遠慮なんかする訳ないではありませんか!!!

 レースで勝てば良いんです。それだけの事で仕返しできるんですから、[復讐]としては安上がりでしょう。

 

 

 私達には[勝つ]以外の道はありません。その道中で少し気が晴れるくらいの出来事が起きる。ただそれだけなのです。

 

 

エール「.........では、行きましょうか」

 

 

ブルボン「よろしくお願いします。マッ.........エールさん」

 

 

ライス「さ、三人で一緒に走れる.........何だか夢見たいだね.........!」

 

 

 ニコニコとしたライスさんにそう言われ、今更ながら気付きました。今回の長距離は純正チーム[レグルス]のメンバー。何もトラブル無く[アオハル杯]が開催されていたのなら、きっとこのメンバーで出走していた事でしょう。私も.........[メジロマックイーン]として。

 磨き上げた[肉体]。鍛え上げられた[精神]。研鑽された[技術]。正に今回の相手にぶつけるのは打ってつけです。なんせこのメンバーこそ.........[彼]が原石から見出した[宝石]なのですから。

 

 

エール「相手の方に見せてあげましょうか」

 

 

エール「一体、[誰]のトレーナーが[もどき]なのかを.........」

 

 

二人「!うん(はい)っ!!!」

 

 

 相手にとって不足なし。この三人の力を持ってして、トレーナーさんの[実力]をはっきりと分からせる為に、私達はレースに臨むのでした.........

 

 

 

 

 

……To be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっと待った』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エール「!」

 

 

 ―――突然、彼から呼び止められました。外の光が広がるレース場。そこへ向かう足を止めて私は振り返ります。

 そこには.........[真剣]な面持ちをした彼が立っていて、そしてゆっくりと私の目線に合わせるように膝立ちをし始めました。

 

 

『マックイーン』

 

 

エール(っ.........はい。なんでしょう?)

 

 

 彼が私の名前を呼ぶ。それだけで胸が高鳴るのが分かります。最近は近くに居すぎたせいか、思えば名前を呼ばれる。なんて事も少なかった気がします。

 

 

タキオン「.........カフェ。まさか、[彼]が何かしているのかい?」

 

 

カフェ「はい。エールさんを呼び止めています」

 

 

ポッケ「.........あっ。アレじゃね?ほら。レグルスっていつも声掛けんだろ?レース前に」

 

 

 そう.........なのでしょうか?遠巻きで話すタキオンさんの話を耳にしても、私にはあまりピンと来ませんでした。

 なんせいつにも増して真剣なんです。彼の表情が。私を見つめる、その目が.........

 

 

『さっき、スイーツを食べたい欲求が少なくて張合いがないって言ってたでしょ?』

 

 

エール(ええ、まぁ.........///)

 

 

『.........その、代わりになるかは分からないけど、さ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――スッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エール「―――ぇ、あ.........」

 

 

カフェ「!!!!!みみみ皆さん!!!目を逸らしてあげてください!!!」

 

 

全員「え?」

 

 

カフェ「良いから!!!早くっ!!!」

 

 

 彼の身体。正確には胸部が目の前に広がっています。今自分が何をされていて、どんな状況なのか.........何となくですが、分かってしまいました。

 

 

 [抱きしめられている]。触れる事も、感じる事も出来ない.........けれど確かに彼の手はしっかりと私を抱きとめて、その温もりを分けてくれている.........

 

 

『.........戻ったら、最初にこうしたい』

 

 

エール「!.........はい.........///」

 

 

『.........俺には[君]がいる。[君達]が居る』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だから他には、なーんにも要らないんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『[復讐]なんて、やらなくて良いよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エール(!.........うん)

 

 

 彼の優しく諭す様な声。その声を聞いて、先程までの自分の有様を客観視しました。まるで子供のよう.........やられた事をそのまま仕返す事しか考えられなくなってしまっていました。

 彼の背中に手を回します。例え触れられなくとも、この手に直接、温もりを感じられなくても.........ただ彼の事を、強く抱き締めたかった.........

 

 

エー?「.........(わたし)も」

 

 

エ??「自分の身体を取り戻したら、最初にやりたい事を見つけました」

 

 

『.........パフェの踊り食い?』

 

 

???「!ふふ♪それも良いかもしれませんが―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「―――今はただ、貴方を抱きしめたいです.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなに近くに居るのに、触れられない。心は前より近くて、触れられるのに、寂しく感じる.........

 私達の[絆]は深まったはずなのに、それと付随して感じるはずの物を感じる事が出来ていない。それに気付いてしまってからはもう、私の決心は早い物でした。

 

 

 [取り戻したい]。彼との日常を。彼女らとの日々を。今一度そう強く決心し、私はそこにあるであろう彼の身体から手を離して行きました。

 

 

マック「.........[勝ってきます]。トレーナーさん。だから―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――一着で、待っていてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『!.........うん。一着で、君達を待ってる』

 

 

 彼の言葉を聞いてもう一度、皆さんに背を向けます。彼の地からの抜けたような笑みを脳裏に浮かべながら前へと歩いて行きます。

 

 

デジ「す、姿が見えないはずなのに脳内にくっきりと.........!!!桜マクっ!桜マクの波導がァ〜.........!!!♡♡♡」

 

 

フジ「う〜ん.........より一層負けられないとは思ったけれど.........寮長として風紀が乱れないよう釘を刺すべきか.........」

 

 

バク「うんうん!!何が何やらよく分かりませんでしたが!!良い表情になりましたね!!」

 

 

 背中から聞こえてくる騒々しさ。元通りの[レグルス]らしさを感じながらも、これからもこのチームで過ごす為に、私達は覚悟を決めたのでした.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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