山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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トレ妹「ぽっと出の家族キャラは序盤出しがセオリーだぞ☆」ウマ娘「じゃあ帰ってもろて」

 

 

 

 

 

 アオハル杯予選。第二回戦が終わった。

 

 

 相手チームのトレーナーを叱る為に一時男に戻った俺だが、直ぐに薬を使い[ウマ娘]になり、また学園でのトレーニングに明け暮れようとしていた。

 

 

『はぁぁぁ.........』

 

 

ビール(え、なになにマックイーン?なんかヤな事でもあった?)

 

 

『.........もっとテメェの本来の姿を堪能したかったんだとさ。寝てる時言ってたぜ?ウンザリしちまうくらいにな』

 

 

『そうです.........久々に素敵な貴方を生で見れましたのに.........声も聞けましたけど.........短すぎます』

 

 

ビール(.........弱ったなぁ〜)

 

 

 俺の傍をふよふよと浮き、俯き加減で頬を膨らますマックイーン。何とも可愛らしい反応を見せてくれるが、現状俺にはどうしようも無い問題だ。

 どうマックイーンを慰めたものか。そう考えつつ学園の中を歩いていると、三女神の噴水に人だかりが出来ているのが見えた。

 

 

「はいはーい押さないで〜。サインはちゃんと全員分書くからね〜」

 

 

ウマ娘「あ、ありがとうございます〜!」

 

 

職員「い、いつもインスタ見てます!!」

 

 

トレーナー「あの、今度担当の勝負服を作って欲しくて.........」

 

 

『す、すげぇ人気だな.........ん?どうしたお前ら?』

 

 

『あ、あの人は.........!!!』

 

 

「.........!」

 

 

 噴水の縁に座ってサインの対応をする女性。身長で言えばマックイーンより小さいがスリムの為、スタイルが良く見える。

 紫色のメッシュの入った三つ編みのロングヘアーを肩に掛け、メガネの下のメイクも決まっている。

 

 

 そんな女性が俺の方を見て立ち上がり、ゆっくりと近付いてきた。

 

 

『お、おい。なんかこっち来てンぞ.........?』

 

 

ビール「.........ッッ!!!」

 

 

「―――ッッ!!!」

 

 

『なっ、何を.........!!!』

 

 

 一定の距離に近付いてきた。或いは近付いた瞬間。お互い同時のタイミングで前へと駆け出した。

 最早避けられまい。俺達は.........こうする[運命]にあるのだ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ずんちゃ♪ずんちゃ♪ずんちゃ♪ずんちゃ♪」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.........へ?』

 

 

『は.........?』

 

 

全員「えっ」

 

 

二人「ずんちゃ♪ずんちゃ♪ずんちゃ♪ずんちゃ♪」

 

 

二人「ずんちゃ♪ずんちゃっちゃ〜♪」

 

 

 

 

 

 ―――突然向かって行ったかと思えば、二人は何とも可愛らしい小さい振り付けのダンスを踊り始めました。

 その様子に私達含め、全員がポカンとした表情でお二人を見つめていました。

 

 

「じゃ♪ウチ約束してるんで!!バイビー♪」

 

 

『.........へ!!?あの、置いてかないで下さいまし!!!』

 

 

『ま、また変な奴が増えやがった.........頭が痛ェ.........』

 

 

 上機嫌な二人が腕を組んで去っていこうとします。他の皆さんは相も変わらずポカンとしていましたが、私達は正気を取り戻し、彼等に着いていくのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「と、言う訳でビールちゃんの[勝負服]を持ってきて下さいました〜♪自己紹介。どぞー」

 

 

「どうも〜♪ウチは[桜木 玲皇]の妹してる[桐莉]って言います♪よろしくゥ!!」

 

 

全員「.........ちょっとタイム」

 

 

桐莉「.........?なんか皆やり始めたよ?」

 

 

ビール「きっちゃん。いつものダウナーモードでお願いね。多分皆キャラが濃すぎて落ち着こうとしてるんだよ」

 

 

 皆既に疲れきった様子を見せている。タキオン達は紅茶を入れ始めてるし、ブルボンはガンプラ。カレンチャンはウマスタ更新。元気なのはウララとライスとファイン。バクシンオーくらいだ。

 

 

ウララ「きりりちゃんはトレーナーの妹なの!!?」

 

 

桐莉「は〜いそうで〜す。ピチピチの24歳だぞ♡」

 

 

バク「ちょわっ!!?思っていたよりも大人なのですね!!!」

 

 

ライス「じゃあお兄、トレーナーさんの五歳下なんだね.........!」

 

 

ファイン「桜木トレーナーがお兄さんだと毎日楽しそうですね〜」

 

 

桐莉「?にいは普通のにいだよ?」

 

 

全員「え」

 

 

 何故かバクシンオー以外が俺の方を見てくる。なんだ。そんなに意外か?俺はこう見えても兄力53万は自負できる程のお兄ちゃんだぞ?

 .........まぁ自由奔放な兄だった事は認めるが。

 

 

『羨ましい.........!!!小さい頃のトレーナーさんと過ごせていただなんて.........!!!』

 

 

『あァ?どうせただのガキだろ?今より滅茶苦茶に決まってるぜ』

 

 

『っ! 貴方は知らないのです!!!小さい頃の彼は―――』

 

 

ビール「だァーっと!!!このままじゃ話が進まないから早速持ってきた[勝負服]ってのを見せてもらおうじゃない!!!」

 

 

 危ない危ない。このままだと日が暮れるまで話が続く事になる。今日は俺の[勝負服]の[精査]の為に来て貰ってるんだから早くその用事を終わらせなきゃ行けないんだ。

 

 

桐莉「それもそうだね。んじゃビールちゃ〜ん。お着替えしてきましょうね〜」

 

 

ビール「うんうん.........え!!?きっちゃんも来るの!!?」

 

 

桐莉「あったりまえじゃ〜ん♪今のビールちゃんを堪能させて貰いますよ〜♡」

 

 

 驚いている俺をよそに桐莉は背中を押して部屋から退室を促して来る。他の皆に助けを乞う様に目線を送るが、既に嵐が去って行ったと安堵する者達と俺の[勝負服]を楽しみにする者達で二分化され、俺を助けてくれるという人は居なかった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐莉「にいー。ちゃんと着替えられるー?下着とか着けてるー?」

 

 

ビール「着けとるわい!!!お兄ちゃん流石にそれくらいの常識はある!!!」

 

 

 チーム小屋の一室。そこで着替えを強要されて仕方なく妹の前で着替えを始める。

 ったく、女家族で育ってきたのはコイツが良く知っているだろうに。悲しい事にそういった物にときめく程耐性がない訳では無い。

 

 

ビール(.........という訳でマックイーン。お願い)

 

 

エール「!はぁぁぁ.........」

 

 

桐莉「おお!聞いてた通り本当に別人の雰囲気だね。今はどっち?幽霊さん?マックイーンちゃん?」

 

 

エール「え、えっと、メジロマックイーンですわ.........」

 

 

桐莉「!かんわいいぃ〜〜〜.........♡♡♡」

 

 

 

 

 

 ―――彼から唐突に身体の主導権を渡され、着替えをさせられる事になりました。

 いえ、仕方無いのです。彼も男性。いくらご家族の物を見慣れていると言っても扱えるかどうかはまた別問題。こう言った時は私に代わるのが既に日常でした。

 

 

桐莉「ほぉ〜。手際良いですね〜。流石お嬢様っ」

 

 

エール(.........調子狂うわね)

 

 

桐莉「凄いな〜。にいもそりゃ我慢出来ずに[告白]しちゃうよね〜」

 

 

エール「ええそうですか.........?へぇ!!?」

 

 

 [告白]。という単語に思わず驚いてしまいます。まさか私とトレーナーさんとのやり取りで.........いえ、私の姿は普段見えないはず。考えられる点は.........

 

 

エール(.........話してます?)

 

 

『え?うん。一応家族には言っておかなきゃと思って』

 

 

エール(.........私はメジロ家にバレないよう立ち回って居たと言いますのに.........!)

 

 

桐莉「でもまさか[ウチより年下]の子と恋愛するなんてね〜♪」

 

 

『げぽらァッッッ!!!!!』

 

 

『うわ!!?吐血した!!?』

 

 

 ああ.........彼が気にしていた事を彼女は気にも止めずに言葉を鋭利な刃物として彼の喉元へと突き立てる所か、勢いよく突き刺しました。

 そう。以前から事ある毎にネガティブな状態に陥る事のある彼。普通のトレーナーとウマ娘だった関係の時は見る事はそうそうありませんでしたが、恋人同士となって休日を共に過ごす内に、彼の[悪癖]が良く見えてきたのです。

 

 

 それは.........恐らく、彼自身の[夢]が無くなった[後遺症]の様な物。時折何も無い所から、ぶわり。と[良くない考え]が出てくるらしいのです。

 そういう時は決まって一人だったから気にもせずに放置していたらしく、現在もそれは治っていないまま.........

 

 

 その時に良く、「俺は妹よりも年下の子と.........」と小さく呟き塞ぎ込んでいました。

 彼は聞こえていないと思っていたかもしれませんが、ウマ娘の耳の特性上聞こえてきてしまうのです。

 

 

 世間体や体裁を気にする彼にとって、私との関係は喜ばしい物ながらも、どうしてもそのような考えが浮かんでしまう。と打ち明けてくれました。

 

 

桐莉「NDK?NDK?NNDK〜?」

 

 

ビール「うるせェッッ!!!出ていけェッッッ!!!!!」

 

 

桐莉「あ〜ん♪ホイホイチャーハン♪」

 

 

『?あら、いつの間に.........』

 

 

 気付けば身体の主導権は彼の元に戻され、妹さんは首根っこを掴まれて部屋の外へと放り出されました。

 荒々しい息を整えながら、彼はもう一度私と交代し、トランクに詰められた[勝負服]を着ていく事になりました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、[勝負服]のお披露目会が始まった。

 

 

ビール「じゃっじゃ〜ん!!どう?この服!!」

 

 

ミーク「コックさん.........?」

 

 

ビール「そうそう!これ着たらきっとレース中に皆のお腹を満たせるよ!!」

 

 

シャカ「.........いや逆効果だろ。何人か走ってる最中に飯の事考え始めンぞ」

 

 

ライス「た、確かにそうかも.........」

 

 

 最初は料理人を模した勝負服。そのまま厨房に立っていても違和感は無く、それでいて走る時も邪魔にならない程度の物。

 最初から採用確実。かと思われたが、シャカールの言う通り何人か少しお腹が空いた様に思えた。

 

 

 .........特にマックイーンが。

 

 

『なっ!!?い、良いから早く次!!!次に行きますわよ!!!』

 

 

 

 

 

ビール「これはどうかな!!シティポップでナウなヤングにバカウケよ!!!」

 

 

ポッケ「うわっ。懐かしいなこれ。母ちゃんの若い頃の写真でよく着てた服だ」

 

 

カフェ「.........あの、もしかしてこの人って.........」

 

 

タキオン「ああ、君の思ってる通り流行に疎いタイプの人間だよ。以前世界初の二足型歩行ロボットの動画を見て感動していたくらいにはね」

 

 

 二着目はダボダボなジャケットにこれまたダボッとしたパンツの勝負服。エンジン掛かるの遅い系若人を表したかのような服であったが殆どの人に不評だった。

 ただ小屋の窓の外には素敵な物を見つけたという様な目でマルゼンスキーが俺の事を見つめていた。良いセンスだ。

 

 

『.........次行った方が良いンじゃねェかァ〜?』

 

 

 

 

 

ビール「アタシと言えばビール!!ビールと言えばウエスタンっ!!っぱカウボーイっしょ!!!」

 

 

ファイン「う〜ん。カレンちゃんはどう思う?」

 

 

カレン「カウボーイ風の勝負服はタイキシャトルさんが着てるから、話題性はあんまり無いかも.........」

 

 

ウララ「あっ!!そういえばタイキちゃんとガンマンごっこする約束してたよね!!ビールちゃん!!」

 

 

ビール「うん!!着替えるね!!」

 

 

 三着目は今の名前にリンクしている[ウエスタン]な勝負服。完成度は他の物に比べてズバ抜けて高い気がしたが、既に同じ様な勝負服を来ているタイキシャトルの存在が他の皆にもチラついている。

 無理も無い。マイルであの成績を出されてしまえばウエスタン=タイキシャトルの構図が出来上がってしまっている。

 

 

 それに何よりウララにガンマンごっこの約束を思い出されてしまった。嘘をついてまでこちとらここまで逃げてきたのだ。このまま逃げ切ってやる.........

 

 

『コイツ結構あくどいな』

 

 

『そういう所が役に立つ時もありますから』

 

 

 

 

 

ビール「ひ、ひひひ.........もうこれしかねェ.........!!!完全無欠の[踊り子]!!!ビールちゃん参上ッッ!!!」

 

 

全員「な、ぁ...ガ.........」

 

 

ビール「お〜度肝抜かれてるねぇ〜。インパクト抜群っ!!!これならレースの相手も魅了出来るに違いないっ!!!」

 

 

デジ「き、却下ですっ!!!公序良俗に反する格好過ぎますよ!!?」

 

 

オペ「良い子の皆の目を塞ぐんだ!!!」

 

 

ブルボン「ハッ!急に目の前が真っ暗になりました!!」

 

 

シャカ「おい!!!何で俺まで目を塞がれてンだ!!!」

 

 

隊長「殿下のご指示ですので」

 

 

桐生院「わ、私もですか!!?」

 

 

 ふふふ.........どうやら皆この踊り子の勝負服には驚いているらしい。そりゃそうだ。初めて見た時俺も驚いた。

 なんせ.........うん。はっきり言ってしまえばマイクロなビキニと大差無い布面積に透けてるという事すらおこがましい程に透けている布を身に纏っている。そしてそれ以上に不可解なのが口元の布は透けてない事だ。

 

 

 なんだこれ?まさか我が妹の癖なのか?流石の兄ちゃんも困るぞそれは。

 

 

シリウス「おい」

 

 

ビール「!なになにシリウスちゃん〜♪ビールちゃんの魅力際立つ勝負服に嫉妬.........?」

 

 

 横からシリウスに声を掛けられて軽口を叩きながら振り向いた。そこには青筋をこめかみに浮かべながら何故か携帯電話の画面を俺に見せてくる彼女が居た。

 その圧に気圧されながらも、俺はその意図を聞き出そうとしたが、それは彼女が先に答えてくれた。

 

 

シリウス「その格好からさっさと着替えろ。さもないとエアグルーヴに連絡するぞ」

 

 

ビール「ヒェ.........はい.........」

 

 

 遂に.........遂にシリウスの怒りが限界を超えてしまった。

 しかしそこはやはり名家のウマ娘。決して手を挙げることなく、そして声を荒らげる事もしない。これから起こす事を相手に提示して行動を促す思慮深さが彼女の長所である。

 

 

 .........でもこの衣装結構好きなんだよな.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐莉「ただいま〜。ごめんごめん。仕事の連絡来ててね〜。試着終わった?」

 

 

全員「.........」ジトー

 

 

桐莉「.........何その目。ハイパー悲しいんですけど」

 

 

 なんか仕事の電話で席外して帰ってきたら皆変な目でウチの事見てきてる。何?ウチ何かした?悪いことしちゃった?

 いやいやいや。考えてもみてよ?忙しい〜時間を縫って来たんだよ?感謝くらいされないとやってられないよ?何なのさ一体!!!言わなきゃ分かんないよ!!!

 

 

ビール「.........きっちゃん。ダメだわアタシ」

 

 

桐莉「へ?ダメって?」

 

 

オペ「残念ながら彼女と完全に一つになれる衣装は存在しなかったんだ.........」

 

 

桐莉「.........あぁ、そっか」

 

 

 合点が行った。そんな訳ない。ある筈が無いと思っていたけれど、この仮定があるなら話は別。ウチの思っていた通りの[算段]は全て失敗に終わってもおかしくない。

 にいはまだ[立ち直ってない]。[人の夢]を支える事は出来ても、自分の事で[本気]になれない状態のままなんだ。

 だから怖がって、自分が出来るはずの事もしないまま、分からないままで居ようとしてるんだ。

 

 

桐莉「.........もう辞めなよ。にい」

 

 

ビール「え?桐莉.........ちゃん?」

 

 

桐莉「そうやって目を背けても、それはにいにしか見えないんだよ?ちゃんと見なきゃ[強くなれない]よ?」

 

 

ビール「は、はは.........何言ってんだよ?俺、いやアタシ、は.........」

 

 

 本当だったら、もっと別の人の役目なんだと思う。けれどここにはにいの本当を知っている人はウチしか居ない。だからやるしかない。

 

 

 にいの時間はきっと、[トレーナー]になってからようやくまた動き出したんだ。人との関わり。物事の流れ。繋がって行く展開。それを把握して、自分で選択出来るくらいには.........

 でもまだ動いてない物がある。ウチには分かる。心の奥底で怖がっている物が.........だから、ウチがそれを―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――止めろッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桐莉「っ、えっ.........」

 

 

ビール「っ、ぅ、あ.........っ」

 

 

カレン「っ!!ビールちゃんっ!!!」

 

 

 にいに触れようとした瞬間。それを拒まれた。拒んだ本人も驚くくらいには大きな声で、拒絶された。

 誰も動けない中、先に動き出したのはにいだった。罪悪感と後悔。自己嫌悪でぐちゃぐちゃになった顔を見せた後に小屋を飛び出して行った。

 

 

桐生院「.........桜木さん」

 

 

カフェ「.........大丈夫です。マックイーンさんが着いて行ってくれました」

 

 

シリウス「.........はぁぁぁ」

 

 

フジ「?どこへ行くんだい?シリウス」

 

 

シリウス「どこでも良いだろ」

 

 

 あぁ、またやってしまった。自分の正義感で行動して、また誰かを不幸にしてしまった。いつもそうだ。おかしいと思った事に口を出して輪を乱す。止めようって思ってるのに、この口と感情は止まってくれない。

 間違ってると思ったらそれを正さなきゃ行けないという強迫観念染みた使命感がウチの中にある。それを何とかしない限りは.........

 

 

バク「あの〜。質問よろしいでしょうか?」

 

 

桐莉「.........なに?」

 

 

バク「ビールさんが何故出て行ってしまったのか、この学級委員長の頭脳を持ってしても導き出せずに居るのです!!このモヤモヤを解決したいので答えを知っていましたら是非教えてください!!」

 

 

桐莉「.........そうだね。ちょっと長くなるけど、話すよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『元気出してくださいまし。妹さんならきっと本心じゃないって分かってくれますわ』

 

 

ビール「.........」

 

 

 三女神の噴水の縁に座り込みながら地面を見つめている。流れて落ちる水の音と夏の虫の声が耳に入ってくる。

 落ち込んでいる。他人事の様に自分を分析すればそう言える状態だ。しかし、単純な物では無い。

 

 

 俺は[拒絶]した。無意識であろうとも、血縁である妹を、強く突き放してしまったんだ。こんな事人生で一度も無かった。

 

 

 俺は.........自分が怖くなっちまったんだ。

 

 

ビール(.........マックイーン。俺さ、君達に会って、色々困難を乗り越えた)

 

 

ビール(そんな中で、夢は[呪い]なんかじゃなくて、[祝福]なんだって思える様になれたんだ)

 

 

ビール(.........でも俺は、その[祝福]を受けるのが、[怖い])

 

 

『.........トレーナーさん』

 

 

 言われて気付いた。強く問い詰められて初めて自分の状態に気が付いた。ポジティブな心持ちにはなれたんだ。それはハッキリと言える。

 でも.........それでもやっぱり、自分の力で[夢]に触れようとするのは.........怖いままなんだ。

 

 

 壊れたらどうしようって。見失ったらどうしようって.........無駄に考えてしまう。

 

 

 そしてそれが妹に対して、きっちゃんに対して出てきてしまった。決定的な瞬間だった。

 

 

ビール(俺。本当の意味で立ち直った訳じゃ無かったんだ)

 

 

ビール(今でも俺は、自分の為に何かをするのが怖い.........)

 

 

ビール(.........っ、もしかして俺。今まで無意識に君達に依ぞ―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――おい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「!シリ、ウス.........」

 

 

 ネガティブな感情。最早慣れてしまったと言っても良い程のぬるま湯。それに腰まで浸かりかけた時、目の前にシリウスが現れた。

 顔を上げると、そこには無表情でただ俺の前に立ち尽くす彼女が居て、特に何も言わずに俺の横へドカッと座って来た。

 

 

ビール「.........ごめん」

 

 

シリウス「あ?」

 

 

ビール「はは、情けないよな。君達に大口叩いて、夢を追わせるべき存在のトレーナーが.........自分の夢を追うのが怖いなんてさ」

 

 

シリウス「.........」

 

 

 

 

 

 ―――俯いた状態のまま、コイツは弱々しい声で自虐し始めた。普段の姿からは想像がつかない程に打ちのめされているのは一目で分かった。

 そして語り始めた。何故[夢]を追うのを怖がっているのか。それを聞いていく中で、私はようやく、その要素がコイツの根幹を担っている事。コイツのトレーナーとしての立ち振る舞いに大きく関わっている事を理解した。

 

 

シリウス「.........そうか」

 

 

ビール「.........俺は、弱いまんまだ」

 

 

シリウス「.........私はそう思わないけどな」

 

 

ビール「え?」

 

 

 話を聞いて私は安心した。自分一人でここまで辿り着けているんなら、殆ど助力は必要無い。後は気付くだけで良いんだ。

 コイツは既に[気付いている]。けれど今はそれを忘れているだけだ。

 

 

シリウス「夢が怖い。それに気付けんのは本気で追った事のある奴だけだ」

 

 

シリウス「アンタは気付いていた。忘れてただけだ」

 

 

ビール「.........シリウス」

 

 

シリウス「向き合い方は聞くなよ?私はアンタのやり方なんて知らないからな」

 

 

 勝負の世界は複雑だ。臆病であってはいけない。その上、恐怖に鈍感でもいけない。

 危険や嫌な予感というのは重要な要素になりうる。そこで足がすくんでしまえば、チャンスに成り得た物が消えてしまう。

 そして、鈍感な者はそのチャンスにすら気付く事も出来ない。勝負では博打を打つという事を強要される事は非常に多い。

 

 

 トラウマっていうのはそう簡単に克服できる物じゃない。そう思ったとしても突然それを突き付けられれば誰だって身体が動かなくなる。

 私もそうだ。未だに海外のレースを見る時には身体が固まったり、息が苦しくなる瞬間がある。

 .........でもコイツも、それと付き合えるくらいには強くなっているはずだ。

 

 

シリウス「私は戻る。アンタは?」

 

 

ビール「.........戻るよ。きっちゃんに謝らなくちゃ」

 

 

シリウス「.........ハっ」

 

 

 本当、不思議な奴だ。普段の滅茶苦茶さでコイツは私達とは遠い存在だと思わせてくるが、こうして見ると私達と同じなんだと分かる。

 [夢]を追い求めた者。立ち位置で言うなら私達より先に居る。そして.........私達にも有り得る怪我で、それを諦めさせられた人間だ。

 

 

シリウス(少し分かった。コイツは.........何を[怖がれば良いか]を知ってる)

 

 

シリウス(それを直接的な言葉じゃなくて、行動や空気で伝えようとしてきやがる)

 

 

シリウス(.........本当、甘ちゃんな奴だ)

 

 

 コイツはかつて言っていた。死にものぐるいで勝ちに行く外国の奴らの流れに則ってやるのは、[支配]されているのと同じだと。

 それを言われて初めて気付いた。私は[支配されていた]のだと。外国レースの苛烈さに心を焼かれ、その[手先]になってしまっていたのだと.........

 

 

シリウス(.........ったく。[アイツ]の事を言えねぇな)

 

 

 思い起こされる背中。かつて日本レース史に置いて初めて[海外遠征]へと繰り出したウマ娘.........私と同じく、その苛烈さに身を焼かれ、心を折られた存在。

 それ以来、妄執し、まるで取り憑かれた様に海外への熱を隠さなくなった奴に対して、私は鼻で笑っていた。

 

 

 そして、奴の二の足を踏んで.........それ以上の妄執と熱に取り憑かれていた.........

 

 

 それを取り除いたのは他でも無い。コイツだ。[今]だけを見て決め付けていた私を変えたのは、[未来]を見続けるコイツだった。

 過去は無惨にも敗走し、今はそれを引き摺って抜け殻になるだけだった。それでも未来はまだ分からない。

 [それ]だけは.........まだ誰にも、決め付けられないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カレン「そんな事があったんだ.........」

 

 

ファイン「.........皆、知ってたの?」

 

 

タキオン「何となくは聞いていたさ。黒津木くんも居るしね」

 

 

デジ「.........でもああ見えて秘密主義な人ですから、それらしい事は本人からは一度も聞いてないです」

 

 

 重い空気の中、何人かは桜木の事実を知って凹んでいた。元から居た奴らは察していたのかさほどダメージは受けてなかったが.........オペラオーとバクシンオーは打ちひしがれていやがった。

 

 

オペ「やっぱり可笑しいと思ったんだ.........!!!先生ほどの方が表舞台に立って居ないだなんて.........!!!」

 

 

オペ「ああ!!なんて巡り合わせなんだ!!そうならなければ彼はこの場に居ることは無いッ!!!こんなの正に[オペラ]そのものじゃないか!!!」

 

 

 コイツは打ちひしがれていやがったが、直ぐに立ち上がって自分が桜木を支えるとか言い出しやがった。お前自分のトレーナーどうすんだよ。

 一方でバクシンオーの方は黙ったままだった。余程ショックだったンだろう。オレ様ちゃんはコイツのご尊顔を拝む為に覗き込んだ瞬間。右手で自分の顔を鷲掴んだ。

 

 

バク「ま、まさか.........!!!まさかそんな.........!!!」

 

 

バク「び、びびびビールさんが.........!!!桜木トレーナーさんだったなんて.........!!!」

 

 

全員(あ、バレちゃった)

 

 

 流石の頭爆進野郎でも気付いちまったらしい。後が大変だとは思うが、まァいつかはバレちまうもンだ。

 

 

(それにしても、桜木の奴にも[弱点]はあったか)

 

 

カフェ「.........ダメだよ。悪い事しちゃ」

 

 

『.........チッ。姿がハッキリ見えるってのも難儀なもンだなァ〜?』

 

 

 こうなってからというもの、カフェの奴に何かと悪さを悟られちまう様になっちまった。おちおち暇つぶしも出来やしねェ。

 どうアイツをからかってやろうか。そンな考えを遮られた矢先に、チーム小屋の玄関が開けられた。

 

 

シリウス「.........チッ。まだ居やがったか」

 

 

シャカ「あァ?ンだよ。居ちゃ悪ィか?」

 

 

オペ「シリウスさん聞いてくれ!!ボク達は今しがた先生の信じられない様な.........過去を.........」

 

 

ビール「.........や、やほ」

 

 

全員「!!?」

 

 

 シリウスの後ろから顔を覗かせる桜木。少し申し訳なさそうな顔を見せるが、オレ達は奴が戻ってきた事に驚いていた。

 あの様子なら暫く。それこそ2、3日は姿を見せてこないだろうと思っていたからだ。その時はオレがケツでも蹴飛ばしてやろうかとも考えていたが、どうやら杞憂に終わったようだ。

 

 

タキオン「.........随分早かったね?」

 

 

ビール「まあね。ビールちゃんちょろい大人ですから。少し優しくされたら機嫌直しますよ♪」

 

 

シリウス「.........なんだその目はお前ら」

 

 

 桜木の奴のあまりの変貌に全員シリウスの方を見た。一体何をしたらここまで持ち直せるんだ?

 そう思っていたが.........相手は桜木だ。常識は通用しねェ事の方が多い。次第にシリウスが何か特別な事をしたとかじゃなく、単に桜木が変なだけだと心の中で結論付けた。

 

 

桐莉「にいっ!!」

 

 

ビール「!きっちゃん」

 

 

全員「.........」

 

 

 再度相対する二人。先程の事もあり、空気は一種の緊張状態に陥る。

 見つめ合い交差する視線の中、動きを見せたのは妹の、今の桜木の姿を写す瞳だった。

 

 

桐莉「にい.........ごめん、なさい.........」

 

 

桐莉「アタシ.........にいに戻って欲しくて.........大好きだった.........いつも自信満々な、お兄ちゃんに.........」

 

 

ビール「.........はっは〜ん?さてはきっちゃん。俺のケツに火をつける為に[一役買った]な〜?」

 

 

桐莉「っ.........ごめんなさい.........」

 

 

 

 

 

 ―――瞳に涙を浮かばせて謝る桐莉。俺の為を思っての事だと分かっては居たが、少々やり方が悪かった。

 トラウマってのは心の奥に根深く棲みつくものだ。忘れようとしたって無くなる事は決して無い。それに向き合うのは本当に難しい事だ。

 

 

 自覚している俺だって例外じゃない。過去に向き合い、事実を知った所で浄化されてくれるほど甘くは無いんだ。

 

 

 俺はゆっくりと妹に近付き、俯くその表情を真っ直ぐ見る。零れていきそうになるその雫を指で拭った後、その手で.........

 

 

桐莉「.........痛っっっ!!!??」

 

 

ビール「妹の癖に生意気だ。兄ちゃんはこう見えてちゃんと考えてる」

 

 

ビール「お前の悪い所は、思い付いたら直ぐ行動して口に出す所だな」

 

 

 おでこを押さえ俺を睨む桐莉。先程のものとは理由の違う涙が目に溜まっている。

 普段ならばお礼を言って穏便に済ませる所だが、相手は妹。お節介焼きなのは姉と同様だが余りにも下手くそだ。それで何度トラブルに巻き込まれたか.........

 

 

ビール「まっ、きっちゃんは[忘れてる]ようだし〜?仕方無いか〜」

 

 

桐莉「!わ、忘れてるってなに!!アタシはお兄ちゃんの事を思って―――」

 

 

ビール「だ〜か〜ら、忘れてるっての」

 

 

桐莉「いっ!!?ま、またやったな〜.........!!!」

 

 

 全く。我が妹ながら可愛い奴だ。からかいがいのあるっていうのはこういう事なのだろう。マックイーンとはまた違う感じがする。

 

 

ビール「良いかきっちゃん?俺は好きな事は手を抜かないのよ。サボり魔の俺が本気でやっちゃう訳よ」

 

 

桐莉「っ!.........サボり魔で何でも出来ちゃうから、本気を出せばどこまでも行ける.........」

 

 

ビール「にひひ♪︎そゆこと♪︎という訳で勝負服選考会、再開しま〜す☆」

 

 

 

 

 

 ―――トレーナーさんに良いようにされてしまったせいか、桐莉さんは怒りによってその身を震わせましたが、一方で嬉しい気持ちがあったのでしょう。次第にその表情は笑みへと変わって行き、落ち着いて行きました。

 

 

タキオン「.........意外だね。自虐的な彼にまさかあんな[ナルシスト]な側面があったとは」

 

 

シャカ「あァいうのが一番厄介なンだよ。コイツの方が分かりやすい」

 

 

オペ「うんうん!!家族仲は良好な方が良いからね!!そうだ!!ここは仲直りの記念にこの気持ちをオペラで表現しよう!!」

 

 

カレン「良いな〜。カレンも新しい勝負服欲しい〜♪︎」

 

 

ファイン「そうだっ!!ねぇねぇ!!私もトレーナーさんを驚かせたいから、一緒にお願いしてみます?」

 

 

ポッケ「おっ!!良いじゃねぇかそれ!!帰ってきた時ナベさんも驚くだろうしな!!」

 

 

フジ「私は良いかな。まだあの勝負服を満足に着られてないからね」

 

 

バク「うっ、うぅ.........ビールさん。いえ、桜木トレーナーさん?いやいや。ビールさんの姿をした桜木さん?それとも、桜木ビールさん.........」

 

 

 彼が着替えている間、チーム小屋は今日一番と言っていいほどの騒がしさとなりました。

 居心地の良い空間へと様変わりして行き、そしてまた彼の勝負服の審査が始まって行くのでした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........はい。はい。分かりました。ではそれでお願いします」

 

 

「?資金ですか?そんなの[彼]から[出資]された分で賄えるでしょう?[URA]はそれ程まで腰の重い組織なんですか?」

 

 

「.........ふふ、ではお願いしますね」

 

 

 手に持った機械の画面を触り、通話を切る。準備は着実に進んでいる。

 

 

([ウマ娘]。人類の繁栄には邪魔な存在だけど、[夢を抱かせる]分には十二分に活躍してくれる)

 

 

 [アオハル杯]。多くのウマ娘が参加し、それを見た人々は熱狂する。その[熱]が各々の[夢]。[願望]へ刺激を与える。

 あともう一歩.........あともう一歩で計画の前段階は完了する。

 

 

 [桜木 玲皇]。そして[ウエスタンビール]。面白い[願望器]を持つ存在。その身体を[貸して貰って]、僕は[人類の夢]を叶えなくちゃいけない。

 

 

(ホント、人間って変だよねぇ?あんなに苛烈に[戦争]してたって言うのに、気付けば堕落して衰退してるんだもん)

 

 

(この分なら僕居なくて安心って思ってたのにさ.........)

 

 

(.........でも、ここで[身体]を貸して貰ったら―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――ちゃんと[そっち]も、[繁栄し直させる]からね.........♪︎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――男は一人、笑みを浮かべる。それは下卑た物ではなく、正にこれから[正しい事を行う者]の様に、使命感を抱いている。

 男の中は最早、全ての国。全ての星。全ての宇宙。そして.........全ての[世界]。そこにいる[人類種]に対する、[庇護欲]を渦巻かせる[かつての願い]だけが残されているだけであった.........

 

 

 

 

 

……To be continued

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