山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
ごめ〜ん。リアルが忙しすぎたァ〜。
今後この様なペースになり得ます〜。お許しを〜。
八月の暑さにうだつの上がらない[ウマ娘]が一人、グラウンドを走っていた。
いや、正確に言えば暑さだけではなく、完全に[疲労困憊]の状態だった。誰がどう見ても限界に感じてしまう程に.........
ビール「はァ.........はァ.........」
カレン「ビールちゃん!!頑張りすぎだよ!!それじゃレースの前に身体が.........」
ビール「っ!ごめん.........けど、やらなくちゃ.........!!!」
心配をするチームメイトを押し退け、トレーニングを再開する。遠目から見ていた私は[彼]のその行動に違和感を感じていた。
タキオン「.........おかしい。普段の彼だったらあんな過密にトレーニングを課す事はしないはずだ.........」
カフェとポッケくんとのタイヤ引きトレーニングの傍ら、私は必死に自分を追い込む彼の姿を見ていた。その姿はどこか[焦燥感]に駆られている様にも見える。
身体に括り付けられていた縄を解き、彼の元へ行こうとすると[見えない何か]に阻まれる感覚がした。
これはまさか.........
カフェ「お友達が止めてます.........」
ポッケ「げっ.........ここに居んのかよ.........」
タキオン「大方彼の願いだとは思うが、私達にとっては元々[チームトレーナー]だ。かけがえのないね」
タキオン「何か理由があるんだろう?それを知らない訳にはいかない」
彼女か彼かすらも判別は出来ないが、ともかくこの[お友達]は頑固だ。融通が効かない。何か理由があるのだろうが、私はそれを知りたいんだ。
すると不意に身体が固まっていた感覚が無くなり、カフェが耳打ちされているような体勢へと入る。
黙って行くことも出来たが、後が怖いので私はカフェの口から答えを聞くのを待った。
カフェ「.........どうやら、[勝負服]のせいですね」
ポッケ「勝負服?あの[ピエロ]みてぇな奴か?」
タキオン「なるほど。つまりまだ勝負服の[力]を引き出せていない事に焦りを感じている。という訳だね?」
.........彼もまた難儀な問題に直面した物だ。私はため息を吐きながら外した縄をもう一度身体に掛けてタイヤ引きトレーニングを再開した。
ポッケ「止めに行かねぇのかよ?俺が言うのもなんだけど、ありゃ身体ぶっ壊すぜ?」
タキオン「彼のやりたいようにやらせれば良いさ。理由を聞いてしまった以上、私ではどうする事も出来ないと分かったからね」
カフェ「.........うん。お願いするね」
カフェ「.........危なくなったら止めるよう、お願いしておきました。でも多分その前に、マックイーンさんが何とかすると思います」
彼の居る向こう側に視線を向けるカフェ。恐らくそちらには[彼女]が着いていてくれているのだろう。
過保護そうに思える彼女ではあるが、その実はトレーニングの鬼。心配はあるだろうがこの追い込みを実現出来ているのは彼女が居てこそだろう。
.........最も、自分と同じように[彼]を倒れさせる事が無いか不安ではあるのだが。
タキオン(勝負服に関しては私達にも未だどうやって作用し、レースに影響を及ぼしているのか把握出来ていない)
タキオン(本来ならば[自分で作る代物]なのだが.........時間が許してはくれなかったのだから仕方ないだろう)
正に彼にとっても、妹を頼ったのは[苦肉の策]だったという訳だ。そしてその苦渋は未だに飲まされ続けている。
しかしその打開策は無い。勝負服が応えてくれるまで、自分を認めてくれるまで.........手を抜くことは出来ない。
果たしてこれが、[次のレース]までに何とか出来る物なのか.........
ーーー
極限状態の練習により、桜木のストレスは限界状態を維持していた。
ブチィッ!!!
ビール「ねぇ、さっきの追い込みの意図は何なの?」
「え、いやあの、さっき一度併走した時にコーナー回る時に内側が空いてた様に見えたので.........」
ビール「うんそうだね。でもそれ下手すると自分が危ないよ?止めようね?」
「は、はい.........」
並走してくれた相手の不手際を指摘。普段であるならばもう少しふざけた様子で伝えているが、そんな余裕も無い。
ビール「ハッ!ハッ!よしっ!!!中距離でも走れる位のスタミナは着いたぞ.........!」
タキオン「.........残念だが、[あのレース場]でそれをすると[降着]するよ?」
ビール「はァ!!?何でェ!!!」
シャカ「そりゃお前よく分かってンだろ?[秋の天皇―――」
ブチィッ!!!
ビール「―――ミがよォ.........」
全員「えっ」
ビール「[ゴミコース]がよォッッッ!!!!!」
『っせぇなァ.........良いのかよォ?レース場の文句なンて言わせて』
『.........まぁ、私も思う所はありますから』
調子良く走り切ったと思えば[降着]の危険性判断有りと仲間に告げられる。普段の桜木ならばこれまたゲンナリとした様子でそれを聞き、その返答に苦虫を噛み潰したような顔をしながらも聞き入れただろう。
だがストレスが常に限界メーターの上限値スレスレの状態。少しの刺激であろうと誘発する状態なのだ。
そして、終いには.........
ブチィッ!!!
パリィンッ!!!
タキオン「っ、今度はなんだい!!?」
ビール「さァ創。[俺]と[中距離(?)]で勝負(?)しろ.........」
ビール「これ以上、チーム小屋の窓を割られたく無かったらな(?).........」
突如小屋へと現れたかと思えば、その手に持っていた椅子を思い切り窓ガラスへと放り投げた。
己のチーム小屋であるはずなのだが、最早怒りのせいで先程から話している事が支離滅裂になってしまっている。それでも本人はそれに気付いて居ない程に、怒り猛っていた。
その場に居合わせた者は全員絶句の表情を浮かべ、何が起きたのか皆目見当もつかない様子だ。
カフェ「と、トレーナーさん!!何をしたか知りませんが早く謝ってください!!」
神威「えぇ嫌だよ!!何やったのか分からない事で謝りたくない!!!」
神威「俺ここの冷蔵庫のプリン食っただけだもん!!!」
ポッケ「絶対ェそれだろッッッ!!!!!」
勤務の疲れを癒すべくカフェに会いに来ていた神威。普段の桜木ならば冷蔵庫の何を食われ何を飲まれようが一切気にしないが、時期が悪かった。
全員が神威の言葉の真意を確かめる為にピリついた空気を出す張本人に視線を向けると、そこには薄ら笑いを浮かべているウマ娘が立っているだけだった。
フジ「そ、それだけの事で.........?たったそれだけの事で、こんなバカな事を.........」
ブチィッ!!!
ビール「ッ!バカな事.........?バカな事だとォォォ―――ッッッ!!!!!」
ビール「アレは.........高級宇治抹茶プリンは俺の楽しみだったんだッッ!!!許せるもんか.........!!!絶対にィッッ!!!」
既にチーム小屋は混乱状態。しかし危機を察知したシリウスとシャカールが直ぐにウララやライス等、怒りをぶつけられる事に慣れていないであろうウマ娘を連れて出て行っていた。
そして勿論、[身体の無い者達]も黙って見ている訳も無かった。
『お、おい!!!早く何とかしてコイツを止めろ!!!取り返しがつかなくなるぞ!!!』
『わ、分かっています!!!トレーナーさん!!!プリンの事は確かに残念ですが!!!』
ビール(マックイーン。悪いけど今はすこぶる機嫌が悪いんだ。だから―――)
『この騒動が解決しましたら、その.........沢山デートしましょう?』
ビール(!.........♪︎)
いくらストレス満載の状態でも人間はそう変わらない物である。自他ともに認める[チョロさ]が幸を奏し、意図も容易く機嫌を持ち直す事が出来た。
その様子を見て安堵するウマ娘達。殆どにはマックイーンとのやり取りは見えていないが、何が起きたのかは勝手に想像着いた。
桜木にとっては最早、プリンは終わった話になってしまった。
.........そう。[終わった話になってしまった]のである。
神威「わ、悪かったよ.........プリン買い直すから許してくれよ。な?何のプリンが良い?好きなの買って―――」
ブチィッ!!!
ビール「プリンプリンって、バカヤロォォォォォ―――ッッッ!!!!!」
全員「えぇぇぇ―――ッッッ!!!??」
この男。何を隠そう終わった話を蒸し返されるのが大嫌いなのである.........
ーーー
そんな状況が二日程続いてしまった。俺としては全く普段通り過ごしていたと思っていたが、周りからの反応を見るにかなり酷い状態だったようだ。
正直記憶が無いに等しい。あまりのストレスで頭がおかしくなっていたとは思うが、まさかこれほどまでとは.........
そんな俺を見兼ねてチームの皆はお休み(という名の追放)をくれた。これでリフレッシュしてまた一からトレーニングをしよう。
そう思っていた矢先に、突然の訪問者が来たのだ.........
桐莉「やっほーにい☆お休み貰ったんだってー!だったらウチと遊びに行こうよ!!」
ビール「.........ん〜ちゅっ♡」
桐莉「はァ!!?ちょちょちょ!!!何謎投げキッスから玄関閉めて来てるわけ!!?」
インターホンが鳴り響いた自宅。誰かと思い覗いてみるとそこには妹が居た。こういう時は面倒事に巻き込まれる可能性が高い。俺は餞別として投げキッスを与えておかえり願おうと思った。
しかし流石は我が妹。ガッと足を滑り込ませて扉を閉じさせようとはしてくれなかった。
俺が本気で閉めればなんとでもなるが、怪我の可能性もある。諦めて扉から手を離してやった。
ビール「何の用っすか?ビールちゃんは寝たいっす」
桐莉「え?何言ってんの。にいのストレスがそんな事で解消される訳ないじゃん」
ビール「.........」
『あァ。そらそうだなァ』
『くっ.........私が何ともなければデートでトレーナーさんの心を癒せましたのに.........!』
.........隣でマックイーンが悔しそうに拳を握りしめているけど、ここは反応しないでおこう。間違ってはいないが、妹の手前恥ずかしい。
しかし、コイツがどうやって俺のストレスを解消させるつもりなのか.........それを聞こうとした瞬間。かなり強引に手を引かれた。
桐莉「行くよにい!!ウチには[コネ]があるのだ!!!」
ビール「だっ!!?バカっ!!!靴くらい履かせろ!!!」
具体的な案を聞き出す前に、桐莉は有無を言わさず俺の手を引っ張ってグイグイと勝手に目的地へと赴くのであった.........
ーーー
「お待ちしておりました。桐莉様」
桐莉「爺やさん久しぶりっ!![プレイルーム]借りるね!!!」
ビール「」
桜木の妹はコイツの手を引いて連れてきた場所。それはもう[大豪邸]と言って差し支え無い場所だった。流石のオレ様ちゃんもその大きさに呆気に取られていたが、桜木の奴は度肝を抜かれたみたいに口をアングリ開けていた。
唯一、マックイーンだけがその場所に関して知っているようだったが、桐莉って奴の方を見て驚いている様子だった。
『なァ、ここどこだよ?』
『.........[サトノ家]。ですわ』
『サトノ.........するってェと、あの[ガキンチョ]の家か』
ビール「お、おおおお前。いつの間にダイヤちゃん家と繋がりを.........」
桐莉「ふっふっふ。桐莉ちゃん。実は[Tear Rhythm]の[勝負服職人]なのです」
『なっ!!?てぃ、[Tear Rhythm]ですって!!?』
―――桐莉さんの正体を初めて知り、私は驚愕しました。[Tear Rhythm]。このレース界では名前を知らない人はまず居ない世界有数のブランド社。
その手は広く、一般的なファッションは勿論、バッグなどの小物。アクセサリー。そして勿論、ウマ娘の[勝負服]と多岐に渡ります。
その中でも特筆すべきなのはやはり[蹄鉄].........ウマ娘のレースに欠かせないそれすらも、この会社独自の手法を用いて生産されているオリジナリティ溢れる代物。
一般的に言えばそちらが有名ですから、話題にあがるのは大体[蹄鉄関連]の話ですが.........それでもその会社に勤めているだなんて.........!!!
『凄いですわトレーナーさん!!桐莉さんも美衣奈さんも素晴らしい人です!!』
ビール「ちょ、ちょっと待って!!?お仕事ほっぽり出して来てるってことなの!!?」
桐莉「残念でした〜☆ウチはホワイトなんで1ヶ月くらい有給使えるんです〜♪︎」
ビール「クソァッッ!!!」
『おいおい.........[白]だの[黒]だの、そういう話題は禁句なンじゃねェのか?』
『!こ、こっちではそこまで敏感になる程差別がある訳では.........いえ、これもある種の差別.........?』
うぅ.........結果的に彼を刺激するだけになってしまいました.........やはり、あんなに追い込んでしまったのが原因なのでしょう。私にも責任の一端はあります。
どう彼を諌めた物か。そう考えていると、不意に奥の部屋から人が出て来ました。
「爺や。お客様ですか?」
桐莉「あっ!ダイヤちゃ〜ん♡♡♡久しぶり〜♡♡♡」
ダイヤ「!桐莉お姉さん!!」ダキッ!
「あっ!!ダイヤちゃん!!ビールさんも居るよ!!この前のレース見てました!!」
ビール「き、キタちゃん?あ、ありがとう.........」
現れたのはサトノダイヤモンドさんとキタサンブラックさんでした。ダイヤさんは桐莉さんに抱き着き、キタさんはビール.........基、トレーナーさんにサインをお願いしていました。
ひとしきり状況の説明をお二人に説明すると、一緒に遊びたいと言って道を案内して下さいました。
ビール(それにしてもサトノ家かぁ.........初めて来たけどマックイーンのお家と雰囲気違うね?)
『あのメジロ邸は建築年数が相当経ってますし、サトノ家は比較的新しく名家になった人達ですから.........お祖母様が羨ましがっていましたわ』
ビール(え、なんで?)
『家の老朽化改善。天災対策の為の補強。事件事故防止の防犯システム。全て最新鋭で建てたらしいですから。メジロ家はその契約変更の手続きなどが.........』
ビール(あ〜.........由緒正しいってのも大変なんだね)
そうなんです。歴史ある名家の天敵は正しく[時の流れ]。流行や世間からの評価は勿論。新しく出てくる技術に追いつく為の途方も無い投資.........
それが自らの身体ならば、鞭を打ってでも追いついて見せましょう。しかし、施設や設備と言った物を常に最新に.........となると、莫大な金額が短いスパンで動いて行ってしまいます。
トレーニング施設ならば、[メジロ家]としてではなく[出資企業]として動けますが、家の防犯システムやらなんやらはやはり、どこかで一度新品にしなければ行けません。
一般家庭でも大変なのに、それがあの[メジロ邸]ともなると.........お祖母様の苦労は計り知れません。
.........っと、そうこうしている内に目的の部屋へとたどり着いたらしく、ダイヤさんとキタさんが可愛らしい足取りと仕草でその扉を開けました。
ダイヤ「ここが[プレイルーム]ですっ!!」
『なっ!!?す、凄い数の[機械]が.........』
『うげェ.........目がチカチカしてきやがる.........』
広い部屋。広間と言っても良いほどの場所に敷き詰められた機械。それらは全て電源が着けられていて、その画面には多くの映像が映し出されていました。
ビール「.........[ゲーム]だ。古いのも、ゲーセンで稼働してる現役の奴もある」
桐莉「ふふん。ビールちゃんのストレス解消にはやっぱこれでしょ?」
ビール「それはそうだけど.........どうしてこんな部屋を.........」
ダイヤ「!.........じ、実はその。桜木トレーナーさんはゲームが好きだと聞いて.........」
ビール「え、まさか.........その為だけに?」
―――俺がそう聞くと、ダイヤちゃんは恥ずかしそうにコクリ、と頷いた。
その反応を見て流石に驚いた。まさか俺の為にこんな凄い物を用意してくれるなんて.........
.........ちょっと怖い。
『ちょっと!!ダイヤさんがせっかく用意してくれましたのよ!!?』
ビール(い、いやそれは分かってるけど痛っ!!?)
桐莉(にいも隅に置けませんなぁ〜?♢)
ビール(その語尾何?)
キタ「ダイヤちゃん、トレセンに入ったらお兄さんにお世話になるから、そのお返しのサプライズなんだって!!」
ダイヤ「ちょっとキタちゃん!!言わないでよ〜!!」
ビール(.........ああ、[夏祭り]の時の)
お世話になる。その言葉を聞き、以前の事を思い出す。
あの時確かに俺は彼女の言葉を受け止めて約束した。二年後にレグルスに入れて欲しいと言う約束を。
もう既にタイムリミットは一年を切り始めた。来年の春.........彼女は俺の前に現れるだろう。
ビール(.........まだまだ[先]だと思ってたんだがなぁ)
恥ずかしそうに顔を赤らめながら怒るダイヤちゃん。その反応を見て楽しそうに笑いながら逃げていくキタちゃん。ちびっ子達は鬼ごっこを初め出した。
かく言う俺はこの敷き詰められた[アーケードゲーム]。さながら雰囲気はゲームセンターと言ってもいいほどの場所に呑まれている。
ビール(ゲームか.........そういや最近めっきりやってなかったな)
目の前にある筐体のレバーに触れる。ヒンヤリとした感触。倒した際には少し抵抗感を感じる。メンテナンスはバッチリなようだ。
しかし、ここまで揃えられていると何からやろうか迷ってしまう。バーチャファイターもチュウニズムもデイトナも捨て難いが.........何か新しい物も触ってみたい.........
ビール「.........?なんだ、あのデカイ筐体.........」
ダイヤ「!ビールさんもやはり目を付けましたか!!」
ビール「う、うん。流石にね。何あれ、戦場の絆?開発〇ガだっけ?」
目の前にあるのはポッド型の筐体。大の大人がすっぽり入ってしまう程の大きいのが一台ある。
最近ゲーセンに行ってないからなぁ。まさかセ〇がここまで本格的にゲーセン再参入をしているだなんて.........
桐莉「ビールちゃん聞いた事ない?[Cosmic.Down:Fall]」
ビール「あ〜!!これがそうかー!!」
以前話題になっていた新作のアーケードゲーム。ジャンルは[PvPvP]。
宇宙の鉱物惑星群の中で、それぞれのメカを駆使してその物資の奪い合いをするゲーム。一定時間が経つと他プレイヤー操作のボス機体が現れて、場は更に混沌を深める。
ジャンルの性質上、邪魔をされたり姑息な手段で物資を奪われたりとストレスは半端ないのだが、その分中毒性も高いゲームと話題になっていた。
ビール「なるほどなるほど♪なら[今のビールちゃん]にうってつけだね♪」
『はァ!!?テメェただでさえストレスでヤベェンだからこンなゲームやっちまったら―――』
『.........いいえ。[だからこそ]、ですわ』
『.........は?』
―――ゆっくりと機械の扉を開けて中に入って行くトレーナーさん。その後ろ姿をじっと見つめます。
彼は.........この人はそもそも[怒らない人]なんです。何があったとしても対処して行く事だけを目標にして、起こった事象には目を向けない。勿論、再発防止には努めます。
その[思考力]が培われたのが、[ゲーム]なのです。
何度か隣で見てきました。どんなに惨めな負けであろうとその理由を全て自分の物とし、どう対処するかを考える。そこに怒りは無く、寧ろ楽しそうにゲームをする彼の姿を.........
『.........もしかしたら、ここで何かを掴むかもしれませんわね』
『.........はァ〜。そう上手く行きゃァ良いンだけどなァ?』
ーーー
桐莉「あ〜惜しいっ!!あともうちょっとで生還だったのに〜!」
ダイヤ「で、でもどんどん上手になってます!!」
ビール「ふぅ.........」
筐体からゆっくりと床に足を付ける。数ヶ月のブランクはかなり大きいようで、たった数戦だけで目と肩がかなり疲れ切ってきた。
キタ「あれ、もういいんですか.........?」
ビール「うん。[動きを見れた]からね。きっちゃん。冷えピタとココアシガレット買ってきてくれる?」
ダイヤ「そ、それならありますよ!!桜木トレーナーさんは駄菓子も好きだと聞いておりましたから!!」
ビール(準備良すぎだな.........)
備え付けられた冷蔵庫から見えるのは溢れんばかりの駄菓子。非冷蔵はしっかりと隣の棚にあるのを見るに相当気を使っているらしい。
そこからダイヤちゃんは冷えピタとココアシガレットを持ってきてくれる。それを礼を言って受け取ってからもう一度筐体の中に入った。
ビール「ふぅ.........っし。んじゃ始めますかね」
『あともう少しだったからなァ。物資独り占めも.........?おい、そっち[ボス]の方だぞ?』
ビール(良いの良いの。[こっち]を見る為に戦ってたんだから)
このゲームの事は大体理解が出来た。高性能な機種な分。そこを利用できる。
この筐体は身体に掛かる[G]を再現する為に[ベルト]を上手く活用している。早く動けばきつくなり、スピードを落とせば緩くなる。
機体制御も同じようになっていて、上を向けば自然とベルトが引き締まり、身動きが取りづらくなる。
没入感は半端ない。中毒者が出てくる訳だ。
『たった数回でそれだけの情報を.........!』
ビール(.........くひひ)
『うわァ.........こりゃァヤバそうな絵面が見れそうだなァ』
ーーー
「うっし!!物資独り占め達成っ!! 」
「さっすが姉御!!今日も快調ッスね!!!」
[アウトローレース]の帰り。俺が率いるチーム[lasting]の祝勝杯を終えた後のルーティン。それはゲームセンターに駆り出す事だ。
やっぱレースの振り返りをすると闘志が漲ってくる。だが身体は既に疲れ果てている。そんな時諌めてくれんのがゲームの存在だ。
そして、その中でもここ最近になって出てきやがったこのゲームは格別だ。レースと同じくらい激しい刺激を与えてきやがる。
外のモニターで俺のプレイを見ている奴らも盛り上がってやがった。
「さぁて、そろそろ大将のお出まし.........はン?」
「うわ.........[イリア]だ」
時間経過で現れたボス機体は[半自動AI制御システム:IЯIA]。初心者にお勧めされている機体だが、その実攻撃力防御力共にボス機体最低クラス。
上級者が頑張ってようやく中の下くらいの性能。しかもそれも[中量型カスタム]という特定の物。コイツは[重量型カスタム]だ。
間違いなく初心者に違いない。そんな奴が出てきて少し興醒めしちまった。
(チッ、初心者かよ.........ちったぁ手加減してやるか)
そう思い、そいつの真正面に突っ込んで行った。操作が複雑な分、急な対応は難しい。少しでも良い勝負を演じてやって目の前の奴のモチベーションに繋がればと思っていた。
.........だがそれも、最初の一瞬で消え失せた。
「―――ッ!!?」
「あー!!避けたッス!!!」
「まぐれでもリーダーの攻撃を避けるなんて.........リーダー?」
「.........ッ」
両横にあるスラスター制御のレバーを握り締めて歯を食いしばる。今の一瞬で分かった。コイツは違う。[熟練者]だ。
だが知ってるヤツじゃねェ。表記されている名前は[獅子十六]。見た覚えも聞いた覚えも無い。
それでも奴は強い。避けた時、コイツは俺の[下]を潜って行きやがった。わざわざ下をだ。このゲームの特性を理解してやがる.........!!!
「面白ェ.........!!!どこの誰だか知らねェが、叩きのめしてやらァッッ!!!」
緩くなったベルト。奴は下。俺は上。その位置関係で睨み合いながら次の行動を思考する。
どうするべきか。その思考の初速を読んだのか、奴は右肩に装備された三連装ミサイルを発射して来た。
「っ!チィッッ!!!ぐっ.........!!?」
ミサイルをギリギリで躱した。だがそれでも有利不利は変わらない。直後に奴はスラスターを発進させて俺の上へと位置を変える。お陰でベルトが急に締まりやがった。
敵のロックオンシステムまで使ってきやがるのか.........気持ち悪い。底の知れねェ奴だ。
そう思ったのも束の間。俺に物資を奪われていた奴らが一斉にボスに飛び掛る。さっきの一連の流れを見て危機と感じたんだろう。
「.........っ!!?違うッッ!!!相手は[イリア]だぞッッ!!!」
安心した。それも一瞬だけだった。[イリア]の特性は敵ロックオン数に応じた出力上昇。基本無視して一体一を作り出しちまえば楽に倒せるボス機体だ。
そんな相手にロックオンなんてしちまえば―――
「あ、あぁ.........」
「そんな.........[イリア]で.........こんな.........」
(っ.........ふざけた兵装積みやがって.........!!!)
相手の動きを止めるとりもち弾。撹乱する為だけのロックシステム搭載型デコイ。一発の火力は大きいが基本当たらないソードカノン。真面目に戦いに来てるとは思えねェ.........
だがそれでも奴は[イリア]の特性を活かして敵をいなして的確に三連装ミサイル。隙にはソードカノンをぶち込んで行っていく。
.........だがこのランク帯の奴らならコイツの特性にすぐ気付くはずだが.........
(.........嫌、コイツまさか、[ヘイト]の為にとりもち使ってやがんのか.........!!?)
相手を苛立たせるだけで何も無い兵装。こんなものを使われた日には頭に血が登って簡単な事も分からなくなる。
それを見越した装備選び.........こんなの遊びでやってるヤツらには刺さるに決まってる.........
(チッ、連携組むしかねェか.........)
コックピット内部の壁際に設置されている受話器。オープンチャットをする為の物だ。対戦中でもこれで連絡が取れるようになっている。
ボタンで探索機プレイヤーに一斉送信出来る機能も備わってる。ソイツを使って一気に叩いてやる.........
「おいッ!!イリアの特性は強力だが流石に集中攻撃からは逃げられねェッッ!!!仕留めるぞ!!!」
「ッ!了解ッッ!!!」
四方八方に散開し、相手のモニター画面では全員を視認する事は出来なくなる。
そうなれば人間の手じゃとても捌ききれねェ。後は蜂の巣にしてやるだけだ。
―――機体制御システム反転承認。[AIプロトコル:イリア]。オールグリーン。
キドウ。きどう。起動―――
(なっ.........!!?[オーバードライブ]!!?)
ボス機体限定のスキル。[オーバードライブ]。このゲームの肝であり、この機体が[中の下]と評される最大の理由。
AIに操作を任せ、自身は代わりにロックオンや危機センサーを担当するというモード。これが多くのプレイヤーを悩ませた。
なんせロックした瞬間に直線的に向かって行っちまう。単純な弱体化な上、プレイヤーの負担も考えねェ。ガタガタと振動は凄いしベルトの締まりと緩みの緩急も半端ない。極めつけはモニター画面の動きも酔いやすい奴は一発アウトだ。
それをこんな所で使ってきやがった。一体何を考えているんだ.........?
「な、なんスか.........アレ.........」
「相手を近寄らせてない癖に.........自分はガンガン攻撃して行ってる.........」
その答えは直ぐに分かった。AIは単調だ。ロックオンをすればそっちに向かって近付いていく。危険センサーをプレイヤーに作動させればその反対方向へ瞬時に飛び退く。
コイツのせいで初心者所か、プレイヤーは絶対封印するべき代物の死にスキルだ。
それをコイツは、滅茶苦茶な操作で戦場を目まぐるしく駆け回りながら混沌を作り出して行く。
(クソッ、これじゃ相手の攻撃が読めないっ!!弱体させる為のロック外しも出来ねェ!!!)
一人。一人。一人。AIとの戦闘で落ちて行く。まるで悪夢を見ているようだ。冷たい汗が頬を流れて行く。
だがそれでもまだ希望はある。オーバードライブは20秒。それさえ凌げばまた人間の手で操作される事になる。
人数は減った分、相手は弱体化している。そこを狙うしか無い。そう考えていた.........
しかし、その制限時間が終わった瞬間。奴は[換装]した。
(なッ.........!!?)
ゴツイ見た目と厳ついフェイスがとっぱらわれて、スリムなボディとヒロイックな顔が見えて来る。
異様な雰囲気。それに身動きを取れずに居る。
イリア専用カスタムスキル。[戦闘換装]。戦闘中に一度だけ装備を変更出来るという物だ。
普通だったら戦況に応じて使えるスキルだが、これも事前選択する訳じゃなく、スキル発動と共にメニューから選択する方式だ。
俺達の乗っている探索機ならいざ知らず、出れば格好の的になるボス機体でそれは多大なリスクを孕んでいる。
しかし、そんな時間なんて一切.........
.........いや、まさかコイツっ!!!
([オーバードライブ]中に選択してやがったのか.........!!?)
換装終了のエフェクトが奴を中心に発せられ、俺らの方にまで光が来る。閃光が晴れればそこには[軽量近接型]となったイリアが浮かんで居た。
(.........エンドソードにハウンドナイフ。二連装バルカンにブーストバンカー。殺意マシマシの厨房装備じゃねェか.........!!!)
当たればかなりダメージを食らう大剣のエンドソード。手数と小回りの良さを重視した小刀。ハウンドナイフ。肩に装着され接近戦時には擬似スリップダメージとなるガード不可の二連装バルカン。そして極めつけに右手には射程極短ガード不可の一撃武器。ブーストバンカー。
(これは.........マズイな.........)
ゆっくりと後ろに下がる。残り時間は一分半。生き延びれば報酬は手に入る。物資は全部頂いている。一人勝ちは出来る状況だ。
俺は無闇に戦わない。勝ちに気に入らないもクソもありゃしない。ここは精々逃げ残らせてもらう。
そう考えていると、生き残った一人が接近戦を仕掛けに行った。奴が勝ちに行くにはアイツを倒すしか無い。
俺は後ろから援護射撃してアシストする。それが唯一の勝ち筋だ。
「.........行けッッ!!!」
スラスターを噴射させて突進を仕掛ける。イリアはそれに反応して即座に相手の上に避ける。
がら空きになった背中を狙おうと照準を合わせるが、奴は機体を制御しきって俺にロックオンを合わせてくる。
「っ、チィッッ!!!」
少しでも止まればガード不可のバルカンが当たっちまう。大したダメージは出ないが、もう残り体力も少ない状態。無駄な被弾は避けたい。
だがロックオンを俺に向けたという事は、すぐ近くに居る方はノーマークという事になる。ここで一気に仕掛ければ勝ちを狙える。
.........そう思ったが。
「っ、嘘だろ.........!!?」
ロックオン切り替え。方向転換。ハウンドナイフで牽制。竦んだ所にエンドソード。完璧な立ち回りで奴は一方をいとも簡単に沈めてきやがった。
ロックオン強化が二人になっちまったせいだ。この機体が一番扱い易い状態になっちまっている。
そして[軽量スピード型]。被弾さえしなければ全機体の中でも扱い易さは断トツ。正に鬼に金棒だった。
「こなクソォッッ!!!」
やられた機体の爆発を背中に奴は超スピードで接近してきていた。反応は少し遅れたが、俺は後方に逃げながら奴にマシンガンを浴びせようと引き金を引いた。
ガリガリとダメージを削って行く。それすらも不穏。その気になれば避けれると言うのに、何故一直線で負けを覚悟しながら近付いて来るのか、その瞬間が来るまで分からなかった。
―――プレイエリア外です。
「っ、しまっ―――」
画面にメッセージが表示され、消える。
その瞬間。モニターに映った物は―――
―――ブーストバンカーが装備された、奴の右手だった.........
ーーー
ビール「.........ふぅ」
満足した。その一言に尽きる。
充足した緊張感。滾る程の高揚感。思考による展開とそれを確かな物とした反射的な行動。どれもがピタリとハマって正に完璧な内容だった。
ここ一週間感じていたストレスは綺麗さっぱり消えた。それを確認した俺は筐体から出て地面に足を着く。
けれどそれだけじゃない。このゲームのお陰で一つ試していない事を思い出した。
それは[声]を聞いていない事だ。
あの[勝負服]の声を、俺はまだ聞いていない。それだけでも来る価値はあった。
ビール「ん〜.........!!!やりきったぁ〜.........」
ビール「.........んぁ?アレ、皆は?」
外に出ると今まで居たはずの皆が居なかった。どこへ行ったのかと思い辺りを見渡して見ると、一人。このゲームの画面を映し出すモニターを見ているマックイーンが居た。
ビール(マックイ〜ン。皆どこ行っちゃったか知ってる?)
『どこって、桐莉さんは帰りましたし、ダイヤさん達は学校ですのよ?』
ビール「.........ん?」
.........おかしい。確か今日は土曜日だったはず。いやまさかそんな.........
『.........気付いて居ないと思いますけど、貴方がボス機体?に乗ってからかなりの時間が経ってますわよ?』
ビール(.........き、聞きたくないんだけど、どんくらい.........?)
『ざっと三日ほどです』
三日かぁ。
3日。
みっか。
さんにち。
Three Daysっっ!!!??
『因みにサニーさんはカフェさんの所に行きましたわよ。何をしても反応してくれないからつまらないと言ってましたわ』
ビール「お、お、おっおっおっおっ」
「Oh My Godァァァァァァァッッッ!!!!!」
こうして、俺の休日は学生宜しくゲームに消え失せ、妹とダイヤちゃん達とチームメイトに対して謝り倒す一日が始まるのであった.........
......To be continued