山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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者と物

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

(―――)

 

 

 ―――ポタリ.........

 

 

(―――.........っ、?)

 

 

 ―――ゆっくりと、意識が覚醒する。雫の落ちる音と共に。激しい頭痛と若干の吐き気を感じながらも無意識に身体を動かした。

 

 

 [鎖]の音。両腕が上の方で固定されていて自由が効かない。嫌な予感を感じながら片目を開けると、膝を着いた地面は赤黒く染まっていた。

 

 

(.........ここは)

 

 

 ここがどこか。それはもう分かっている。今考えるべきはそこじゃない。[いつ]、[どうやって]、[この場所]に来てしまったのか。思い出すべきはそっちだ。

 

 

 .........ここに来る前、確か―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッッッ!!!!!」

 

 

 割れんばかりの歓声。レース場内は既に興奮の渦を発生させている。耳に聞こえてくるその熱に引かれないよう、ゆっくりと呼吸を落ち着かせる。

 

 

ブルボン「勝ってきました。少々危ない所でしたが」

 

 

シリウス「お相手さんも隠し玉使ってくる位には警戒してるって訳だ。もうノーマークとは言えねぇな」

 

 

シャカ「チッ、だからってぶっつけ本番でやってくる奴が居るかァ?あンな走り見せてこなかったぜ.........」

 

 

 第四レースの中距離戦。少々手こずった様子だったが、それでも三人とも連帯で勝利を収めてくれた。残すは短距離。つまり、[俺]の出番だ。

 

 

タキオン「それで?調子はどうなんだい?」

 

 

ビール「ああ、中々良い感じだよ。[服]が馴染む」

 

 

 胸に手を当ててその感触を確かめる。桐莉が持ってきた勝負服の中で一番肌に合い、そして俺と[結び付き]の感じられる物を選んだ。

 端的に言えば[道化師]。赤と青の二色を基調とした厚めの生地の上着に黒いドロワ。互い違いの耳カバーの先には白い綿が着いている。

 顔には涙のペイント。靴はつま先が何度か折れて尖った先端の物。正に舞台に立つ道化師そのものだ。

 

 

 文句は無い。それほどまでに、[コイツ]は俺に力を貸してくれる。

 

 

カレン「そろそろ時間だね。行こっ!バクシンオーさんっ!ビールちゃんっ!」

 

 

バク「私達のバクシン力を見せつけてあげましょうっ!!!」

 

 

『トレーナーさん。頑張って下さいましっ!』

 

 

『無茶はすンなよォ〜』

 

 

ビール(うん。ありがとう。行ってくるね)

 

 

 仲間達に背中を押され、光差す道へと向かって行く。ここを乗り越えれば.........この[三回戦]を突破する事が出来れば.........

 

 

(.........待ってろよ。[神様])

 

 

([全レース全勝]。その[無理難題]とも言える[奇跡].........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(絶対ェ[超えてやる]からよォ.........!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ興奮醒めやらぬアオハル杯予選。第三回戦第5レース。本日最終レースとなっております」

 

 

「ここまで全レースで無敗を誇るチーム[レグルス]。土を付けられるか、はたまたその栄光にまた一つトロフィーが飾られるのか!!」

 

 

ビール(.........)

 

 

 .........静かだ。観客席は騒がしくて、隣に居る娘達の心臓の鼓動音もうるさい程に聞こえてくるのに。とても静かだ。

 ゲートインは完了している。体勢には入った。これが開けば、レースが始まる。

 

 

 勝負は一瞬だ。始まってしまえば決まってしまう。

 

 

 .........でも、それが[戦い]だ。

 

 

 精神を研ぎ澄ましていく。必要な物をただひたすら自分の中で選別していく。汗すら出てこないひんやりとした感触。鋭い刃は水面を切り分けて深みへ潜って行く。

 

 

ビール(.........この感触だ)

 

 

 深い深い、闇にも等しい程の深さ。そこに[ある]。自分と向き合って初めて得られる[強さ]。触れればきっと、二度と元には戻れない。

 知らない。分からないが通じない。俺は[俺]を認識するだろう。どういう人間なのか。どう生きていける存在なのか.........

 

 

 怖さはある。でももう四の五の言っている暇は無い。怖気付けば全てが終わる。

 

 

 ゲートが開く前に、俺はそれに触れなければ―――

 

 

 

 

 

 ―――思い出したかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「.........」

 

 

 思い出した。またか。また横槍を入れられたのか。こんな大事な場面で.........

 

 

 声の下方向に顔を上げると、玉座にふんぞり返る神を騙る存在。[アニマ]が自分を見下していた。

 

 

アニマ「そんな顔しないでよ。悲しいな」

 

 

ビール「何回も何回も何?大事なレースだって前に言わなかったっけ?」

 

 

 不機嫌さを表に出して問う。今現状の立場を考えれば出来ない態度だろうが、事態が事態。これくらいの抵抗はさせてもらう。

 しかし、男はそんな態度を見てもその笑みを止める所か寧ろ口角を更に上げた。

 

 

 そしてそのまま玉座から降りて来る。

 

 

アニマ「けれどまぁ、君も災難だよね?目を付けていた[彼]が居なくなったせいでこうなっちゃったんだもん」

 

 

ビール「.........何言ってんの?」

 

 

アニマ「分かるでしょ?[桜木 玲皇]だよ。本来ならば彼の[役割]だった」

 

 

 [桜木 玲皇]の役割.........それがなんなのか分かりはしない。コイツが本当に神様なのか。俺の成すべき事はなんなのか。それすら不明瞭なままだ。

 それでも、今ここに、今ここに至るまでに生きてきた。それが証で、俺の道だ。誰かに何かを[強制]される筋合いは無い。

 

 

アニマ「.........仕方ない。それじゃあ僕の話をしようか」

 

 

ビール「!へぇ。聞かせてくれるんだ」

 

 

アニマ「君があまりにもわからず屋だからね」

 

 

 軽い身のこなしで腰をあげる男。階段を降りて俺の目の前まで来る。様子を確認するかのように顎に手を添えられて顔を上げられるが溜まった物じゃない。

 首を動かしてその手に噛み付いてやろうとすると、男は身を引きながら笑い声を上げた。

 

 

アニマ「.........僕が欲しいのは[願望器]。それは人や物。万物に宿る。それは説明しただろ?」

 

 

アニマ「けれど[君]と[彼]の物はただの[願望器]じゃない。[全ての願いを叶える]。それに等しい[大きさの器]なんだよ」

 

 

アニマ「それを使わせてもらいたいんだ」

 

 

ビール「っ、ちょ!やめ、て.........!!!」

 

 

 もう一度。ゆっくりと顎先を指でなぞられる。まるで割れ物を扱うような丁寧さで人差し指で撫でられ、それが首の裏まで届き、終いには胸にまで及ぶ。

 [鎖]さえなければ.........こんな事を許しはしない。なんて、どこかの亡国の女騎士みたいだと現実逃避をしながらも男を睨みつける。

 

 

アニマ「おお、怖い怖い.........」

 

 

アニマ「.........続きを話そうか。君の[身体]が欲しい」

 

 

アニマ「安心してよ。今の[彼]と同じ状態になるだけさ」

 

 

ビール「っ.........!!!」

 

 

 そう、か.........やっぱ[花道]はコイツに.........

 

 

 怒りが湧いて来る。それと同時に俺を縛る鎖に青白い[炎]の様なオーラが溢れ始める。それを見て直感的に不味いと感じた。

 

 

 なんせそれは.........[ヘル化]の炎だからだ。

 

 

アニマ「ククク.........良いよぉ?素晴らしい[本能]だ。生き物らしいと思わないかい?」

 

 

ビール「っ、どこが!!!」

 

 

アニマ「[怒り]だよ。喜びや悲しみよりも生を実感させてくれる激しい感情。癖になるでしょ?」

 

 

ビール「.........なわけ」

 

 

 [感情]。生きとし生けるもの全てに与えられた産物。その中でも生物の[防衛本能]に強く結びついているのが[怒り]だ。

 それは実感出来る。この感情が一番強く、そしてこの身体を瞬時に[支配]してしまう程に強力だという事を。人の身に有り余る激しさが全てを破壊し尽くしてしまう。そう思わせる程に、これは特筆、[人]が持っては行けない激しさだと思う。

 

 

ビール「こん、な.........もの.........!!!」

 

 

アニマ「クク、そう。[こんなもの]だ。けど君達[人類(人の子)]は終ぞこの激しさに囚われ続けている」

 

 

アニマ「こんなに[呆けた世界]でも、それは変わらない」

 

 

アニマ「君達はその感情の赴くままに、一体幾つもの[発展]を成し遂げたんだろうね?」

 

 

 薄ら寒い笑みを浮かべて他人事のように問い掛ける。神でありながら、俺達をまるで[シミュレーションゲーム]の観察対象だと言わんばかりの他人事。

 .........いや。そういうものなんだろう。義務も責任も無い。仕事でも無い。ただただ使命感で、やりたいだけでそうしているだけなんだ。きっと神様ってのはそういう物なんだ。

 

 

 本当の意味で[神]なんだと、嫌な程に思い知らせてくる。

 

 

アニマ「!へぇ。もう抑え込められるんだ。早いね?」

 

 

ビール「舐め、ないでよねっ.........!!!」

 

 

アニマ「そんなつもりじゃない。寧ろ[礼]を言わせて貰いたいくらいだよ」

 

 

ビール「え―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――目を下げれば、奴の前腕が目に映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その先は、[俺の中]に[入っていた].........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「.........ぐ、ぷぁ゛」

 

 

アニマ「[本能]を抑え込む[理性]。素晴らしいよ。人間はいつだって意志一つで[進化]出来る」

 

 

アニマ「でもそれは.........[命の危機]が迫っていない時だからこその[進化]だよ?」

 

 

 気持ち悪さが込み上げる。痛みは無い。異物感も無い。それが返って目の前の状況とのギャップが生まれてくる。

 [何か]が抜けて行く。[血]では無い。[透明な液体]が奴の手に伝って地面に滴り落ちる。俺の中の[大切な物]が.........抜けて行く感覚がする.........

 

 

ビール「や、め.........」

 

 

アニマ「止めないよ。ここまで来たんだ。もう引き返せない.........っ!見付けた.........♪」

 

 

ビール「―――っっ!!!」

 

 

 奴の前腕の筋肉が収縮する。それを見て、何かを[掴んだ]と察した。それを止める暇なんて無い。その瞬間奴は勢い良く、俺の身体から[それ]を引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [それ]は、大きな[ガラス玉]の様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無色透明で、とても人の手にも、そして[神様]の手にも収まらないほどに巨大で、綺麗な塊だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アニマ「見えるかい?これが[願望器]。人は他の生物より大きいこれを有してはいるけれど、これ程大きい物は滅多にない」

 

 

アニマ「やっぱり君は―――」

 

 

 

 

 

 ―――これで計画は遂行された。そう思って彼女を見ていた。だけれど、その手に触れていた[願望器]の異質さを感じ取って直ぐに視線を戻した。

 

 

アニマ([女神の加護].........いや、[コレ]は―――)

 

 

 手の上にある[願望器]。何の変哲もない。今まで見てきた物と大きさ以外は一緒の物。それは間違い無かった。

 

 

 唯一違う点を上げるとするならば.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その中に、一回り小さい[願望器]が入っていた事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アニマ(なんだこれは.........今までこんな事.........ッッ!!?)

 

 

 中に入っていた物が勢い良く外へと飛び出した。その瞬間。まるで時間の流れが変わった様に巨大な[願望器]が[朽ちていった]。

 ひび割れ、欠け、くすんだ物に変わって行ったのだ。

 

 

 .........そして、その[願望器]に映る世界は.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [桜木 玲皇]が見てきた景色だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを確認した瞬間。中から出て行った願望器から[糸]が飛び出し、巨大なそれを引き寄せて再び中へと入った。そして、元の変哲の無い願望器へと姿を戻し、そのまま元いた場所へ帰って行った。

 

 

アニマ「まさか.........君は―――」

 

 

???「クク.........あーあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「バレちまったかぁ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ピカン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――夜の帳が降りた荒野。ポツンと張られたテントがそこにあった。

 

 

「「「「「ダッダッダラララダッダッダーラン♪」」」」」

 

 

 同じ顔をしたウマ娘がその中でひしめき合っている。観客も役者も皆、格好を変えた同じ顔で大いに盛り上がりを見せていた。

 そこは正に[サーカス]。バニーガールや動物のコスプレをしている彼女達。それを押しのけ、[道化師]が真ん中に立つと更に盛り上がりは大きくなる。

 

 

「喜劇も〜♪」

 

 

「悲劇も〜‬T_T」

 

 

「ぜーんぶお任せっ☆」

 

 

 可愛らしい笑顔でバルーンに玉乗りしながらナイフでジャグリング。切り離された下半身にハンカチを振って泣きながら別れを告げる切断マジック。そのどれもが観客を笑わせる為の演出。

 そして彼女はクルクルと回りながら懐から[歪な仮面]を取り出し―――

 

 

「だからゆっくり.........」

 

 

「[楽しんで行ってね].........♪」

 

 

 妖艶な笑みを浮かべながら、それを被ったのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [鏡の道化師。写すは虚界]

 [演出 邪悪な面]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [ゲートが開いた瞬間。持ち前の乗せる力で相手を盛り下げるか味方を盛り上げる。演出によって効果が変わる]

 

 

 [邪悪な面:賢さがウエスタンビールより下の場合、ゲートが開いた瞬間本来発動しない取得スキルが発動してしまう。50下回っていれば金スキル。100下回っていれば固有スキルが発動してしまう]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおっとこれはどうした事か!!?ゲートが開いた瞬間殆どのウマ娘が掛かってしまっています!!!」

 

 

シャカ「おいおい.........いくら短距離だからって荒れすぎだろ.........」

 

 

シリウス「ああ。恐らく、いや十中八九.........」

 

 

オペ「[先生]の力だろうね.........」

 

 

 レースが始まった瞬間。殆どのウマ娘がスタートダッシュを切りました。常識に収まらないスピードで。

 その理由を推測するチームの皆さん。そしてそれはかなり的中していると思えます。

 

 

(彼は[人を乗せる]のが得意な人です。その気が無くてもその土俵に上がってしまう)

 

 

(視線誘導。息遣い。気配の出し方。どれも巧妙に使って相手を踊らせる.........相手はその手の上に居る事すら知らずに)

 

 

(彼がどう思っているかは分かりませんが、それこそまるで、[ゲーム]の様な物です)

 

 

 彼と休日を共に過ごす内に、彼の趣味への理解を深めました。その楽しみ方も。

 そう。正しく[ゲーム]なのです。行動一つで引き出したい相手の行動を引き出す。それが何なのかを調べる作業すら、彼は楽しんでやります。

 [本能]だけでは行けない。けれど逆に[理屈]過ぎても理解出来ない。相手の心境を把握して行動を釣る。どんなゲームでも彼はそれを探していました。

 

 

 そしてそれは.........レースでも。

 

 

 盤面は既に荒れ尽くしており、第3コーナーを回る前には死屍累々。バテ尽くしたウマ娘達が重くなった足を回転させて前へ食らいついて行こうとします。

 ですがもうスタミナは残ってないでしょう。考え抜いてきたバクシンオーさんへの対策も既に使えない程、レースはぐちゃぐちゃに崩されてしまいました。

 

 

ポッケ「半端ねぇな.........」

 

 

フジ「まさかあれほど展開を操れるなんて.........強ちオペラオーの言っていた事は間違いじゃなかったのかもね」

 

 

カフェ「ああなると強いですよ。あの人」

 

 

 感心した様子でレースを見守る人達。数人は彼の強引さが垣間見えてげんなりとした表情を見せていますが、これは紛れもなく彼の実力。そこに文句はありません。

 レースは既に終盤。最終コーナーを先に回ってきたのはやはりバクシンオーさん。後に続く形でカレンさん。1バ身離れてビールさんと、普段の形に落ち着いて行きます。

 

 

『相変わらず、滅茶苦茶な展開にしやがる』

 

 

『そうですわね。でも、それこそ[トレーナーさん]らしさですわ』

 

 

 自分のやりたい事と、人の思いの折り合いを付けてひた走る。それが彼であり、皆が抱く彼の在り方。

 バクシンオーさんが最終コーナーを曲がり終えての直線。大番狂わせは最初に起きました。ここから更に盤面を崩す事は無いでしょう。彼の策略にハマってしまった方々は悔しそうに唇を噛み締め、彼女達の行く末を睨みます。

 

 

「先頭は変わらずサクラバクシンオー!!そこにカレンチャンが並んでくる!!」

 

 

「後続はウエスタンビールを筆頭に団子状態!!!どうやら彼女は集団に蓋を掛けている様にも見えます!!!」

 

 

「抜け目ないですね。ここから横に逸れない限り前には出られません。完全に自チームの負け筋を潰しに来ています」

 

 

 圧倒的なレース。その内で何が起こったのか.........それは最早関係者にしか分からないほどに高度な[騙し合い]の末に掴んだ勝利。

 それを物語るかの様に、直線にまだ最後尾がまだ足を付けれていない状態で、バクシンオーさんはそのゴールを踏み抜いて行きました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「はァ.........はァ.........」

 

 

 大歓声が湧き上がる中。掲示板を確認する為に顔を上げる。順位は三着。5バ身差。練習通りの結果を引き出せた。

 

 

カレン「上手くいったねっ!ビールちゃんっ!!!」

 

 

ビール「うん。練習通りだった」

 

 

ビール「.........本当、[練習通り]」

 

 

 レースが始まった瞬間。意識は身体の方へ戻っていた。[反射思考]は意識外でする最高速の展開循環札ではあるが、[完璧]では無い。それを逆手に取られる事すらある。

 単に言えば、[アドリブ]に弱いのだ。想定外が一つ起きた瞬間に瓦解する。それだけでは[要]とは言えない。

 

 

 これは[切り札]ではあるが、[必殺技]と呼べる程の破壊力は無い。だからただの[手札]にした。

 

 

ビール([意識]する事で、強くなる事もある)

 

 

ビール(.........[リソース管理]は、意識が無きゃ出来ねぇしな)

 

 

ビール(まぁ.........何にしても.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

([また助けられちまった]なぁ.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衣服の下に隠した[王冠のアクセサリー]。そこに手を当てて礼を言う。あの神様は何が何だか分かってない様子だったが、俺は直ぐに気付いた。

 [願望器]。奴の言っていたその中に、[コイツ]が居た。俺の目の前までその身で来た時、その中に[桜の木]が咲いていた。

 

 

 それを見て察した。[戻ってなんか居ない]。俺は[コイツ]のお陰で、何とか[元通り]を[演じている]。これを無くせばまた、[夢]を亡くした俺に戻ってしまう。

 

 

桜木(.........桜が咲き続ける事は無い。それは分かってる)

 

 

桜木(でも今は、まだ.........)

 

 

カレン「ビールちゃん。戻ろっか」

 

 

ビール「!そうだね。いや〜疲れたな〜。バクちゃんもそうだよね〜」

 

 

バク「.........」

 

 

ビール「.........バクちゃん?」

 

 

 一人、俯き佇むバクシンオー。その背中を見て俺は不審に思った。いつもだったらもっと笑ってはしゃいでいる筈の彼女がこうも静かなのは初めての事だからだ。

 何かが起きているのか?そんな不安に駆られながら、彼女の肩に恐る恐る触れた。

 

 

ビール(っ、震えてる.........!!?)

 

 

ビール「バクシンオー!!!何があった!!?」

 

 

バク「っ!あ、はは.........申し訳ありません」

 

 

 俺の声に気が付き、その顔をようやく上げてこちらを見た。その顔は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑ってはいたが.........それは明らかに、[仮面]。であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バク「その、大変言い難いのですが―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[怪我]。してしまったみたいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[アオハル杯予選第三回戦]。未だ興奮醒めやらぬレース会場。その終わりに、とてつもない衝撃を桜木とカレンチャンは受けてしまった。

 まだ終わりの見えない果てしない激闘。その簡単な予想を簡単のままに終わらせてしまった結果.........[短距離エース]の離脱という痛手を負ってしまった。

 

 

 未だ言葉を発せられぬ桜木。そんな彼に追い打ちを掛けるような現実が待っている。

 

 

 [第四回戦]。チーム[リギル:A]。

 メジロマックイーンが現在在籍する最強と名高いチーム。長距離だけではなく、中距離には[三冠バ]が待っている。

 

 

 それを超える[衝撃]を.........彼らはまだ、知らないでいたのであった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........やられたね」

 

 

 独り、誰に聞かせるでもなく呟く。ここに来て全てが振り出し。いや、水の泡へと消えてしまった。

 彼は消えた。目の前から忽然と姿を消し、気付けば元の身体へと戻ってしまっていた。

 この状況を見越したのか、はたまた偶然か.........[本能]に[理性]を動かす様に刷り込ませた結果が、僕のこの醜態だろう。

 

 

 薄暗い部屋の中、椅子に座り頬を着く。最早[彼]を狙った所で大した収穫は望めないだろう。あの[願望器]は異質すぎる。利用した際のイレギュラーを対処し切れるか。その答えは永遠に出てくる事は無い。

 

 

「[女神の加護]じゃ無かった。ではあれは[在野の神の気まぐれ]か?どちらにしろ、僕が手を出せる代物じゃない」

 

 

 惜しい存在だった。アレで自分の想像する通りだったら.........そう何度も考えてしまう程にショックは大きかった。

 

 

 .........だが、[別の展開]ならばまだ使える。時間は掛かるし不安定ではあるけれど.........これを使わせてもらうしかないだろう。

 

 

「ククク.........逃した魚は大きかったけれど、同じくらい[大きい魚]が居るんだ」

 

 

「今度は.........[二人で育てよう]?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[桜木 玲皇(人の子)].........♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 計画が水の泡になった。だが[たった一つ]だけだ。他に何も準備をしていない訳が無い。こうなると予想はしていなかったが、保険は掛けて置くに越したことはない。

 

 

「楽しみだね.........本当に、楽しみだ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バレちまったかぁ.........』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時。彼はあの[炎]を[変質]させた。激しい[本能]を、抑える事など出来るはずも無い物を、彼は一瞬変えた。

 [日色の炎]。そう呼ぶのが相応しいだろう。押さえ込んでいた[蒼炎]を、陽の光に似た色をした炎にした。

 

 

 アレが果たして何なのか.........一体どのように生まれ、どのように[計画]に関わってくるのか.........僕にも未だ分からない。

 

 

「.........早く来てね?」

 

 

「[手遅れ]になっちゃうよ?ククク.........」

 

 

 [人の願い]。それは最早切り離す事の出来ないもの。考える力とは時に、人をその場から動かさずに[夢]だけを見せる[屍]に変えてしまう。

 それだけはいけない。頂けない。僕は[彼ら]の願いを叶える存在。[永遠の繁栄]。他生物を導かなければならない。

 

 

 この世界は.........停滞している。

 

 

 

 

 

 ―――独り。[蒼炎]を纏い静かにその時を待つ男。その目には、何も映っては居ない.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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