山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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壁と奇跡は超える為にある

 

 

 

 

 街灯が灯る真夏の暑さが残る暮れの教室。一人顔面の全てを腫らした俺とそれを取り囲む三人のウマ娘と一人の老人が居た。

 

 

ビール「ず、ずびばぜんべびば.........」

 

 

ゴルシ「ざっけんなこの大ポカ野郎ー!!!最初っから分かってたんだよゴルシちゃんは!!!ドッキリなんざ一那由多年早ぇー!!!」

 

 

オル「そ、それにしては激しかったよね.........」

 

 

フェスタ「.........はぁ。んで?その話は本当なのか?」

 

 

 ジタバタと暴れるゴールドシップ。未だ怒りを発散しきれて居らず、オルフェーヴル(?)に落ち着かせられている。

 代わりにナカヤマフェスタが取り仕切り、桜木.........あー。分かりにくいから能面(死ね)は黙って腕を組んでいた。

 

 

ビール「勿論言った通りだよ。マックイーンは離脱させてしまった上に、俺は[AIアプリ]の作用で嫌われちまった。表面上でも元に戻すにはあと一勝、[アオハル杯]で勝つ必要がある」

 

 

能面「.........[AI]、か」

 

 

ゴルシ「んお?心当たりあるのかじいちゃん?」

 

 

能面「まあな。入れてみるか」

 

 

フェスタ「お、おいおい!そりゃいくらなんでも.........」

 

 

能面「お前ら俺の事嫌いか?」

 

 

三人「大好きだ(っス)(に決まってんだろ)!!!」

 

 

能面「クク、じゃあ問題無い」

 

 

 なんともまぁかなりの信頼の上で無謀とも言える行動を許す三人。周りに影響があるのが難点だが、事俺に至っては心配は無い。世界で一番嫌いなんだ。これ以上悪化する事も無い。

 

 

 アプリが入るまでの間、俺は三人に話を聞く事にした。

 

 

ビール「えっ、と.........オルフェーヴル。で、良いんだよな?」

 

 

オル「うんっ!あ、そっか。この姿で会うのは初めてだもんね.........///」

 

 

ゴルシ「姉ちゃん髪染めてたんだよ。昔これで不良してたからさっ!!」

 

 

『随分と印象が変わりましたわね』

 

 

ビール(前も可愛かったけどなぁ〜)

 

 

 以前来ていた時とはかなり印象が変わった。今は黙っていれば圧を感じるほどの風格もあるし、つり目だから真顔でも少し睨まれている感じもする。

 だけどやっぱりオルフェーヴルはオルフェーヴルだ。持ち前の愛嬌と柔和な感じは健在で、これなら以前よりファンが出来そうだ。

 

 

 .........危ない虫が着かない事を祈る。

 

 

『.........はァ。まさかテメェがコイツらの爺さンになるとはなァ?でもまァ考えてみりゃ妥当かァ』

 

 

ビール(ふふふ。未来は明るいぞい)

 

 

『本当、不思議な話ですわ』

 

 

能面「よし。出来たぞ。搭載されている[AI]は.........やはりな」

 

 

ビール「?やはりって.........」

 

 

 ダウンロードされたAIアプリ。それを開いて画面を一目見た瞬間に何かを察したようだった。

 それを見れば十分。そういう様に能面は手に持った携帯をポケットに戻した。

 

 

能面「[STシリーズ(サティズ)]。その中でも[介護型専用コアシステムAIユニット:IMUNI]だ。[ST-082]に搭載される予定のな」

 

 

ビール「さ、サティズ.........って何?」

 

 

 飛び出してきたのは聞き慣れない単語。[サティズ].........頭の中をひっくり返しても覚えの無い単語だ。

 

 

能面「お前達が未来に来た時、彼女に着けた装置があるだろう?」

 

 

ビール「あ、ああ」

 

 

能面「政府主導のプロジェクト[ST計画]。[超少子高齢化社会]を支えるべく生まれた新たな[非人類労働力]」

 

 

能面「始まりは些細な発明だったが、意識の投下。[ダイバーダウンシステム]の開発によって飛躍的に進歩したそれを[彼ら]は見逃さなかった」

 

 

能面「[一時的神経回路変更回路]はその副産物だ。その技術は一時、[血]の流れる戦いを[無血]と変え得たが.........無事、その方向へはシフトしなかったがな」

 

 

三人「.........ゴクリ」

 

 

 な、何ともまぁ壮大な話だ。未来の世界では普通にあった出来事なのか、ゴールドシップ達はつまらなそうに話を聞いていたが、俺達にとってみれば鬼気迫る話だった。

 しかしそこはやはり我らが日本。そんな事はさせまいと頑張ったのだろう。その後も開発者拉致未遂事件とか、プログラムハッキング事件とかがあったとか言われたが、無事に終息したとも聞く事が出来た。

 

 

ビール「そ、それでコイツは.........?」

 

 

能面「その[STシリーズ]の[介護ロポット]に使われる[AI]だ。どんな改造を施しても[IMUNI]という名前を変える事はできん」

 

 

能面「.........そして、人に対し[最適解]を導く為の[AI教育担当]を請け負ったのが[STシリーズ]の開発者の息子。[花道 泰雅]だ」

 

 

ビール「マァジかよ.........」

 

 

能面「因みに俺が一度鬼籍に入った事故にも乗り合わせていたな」

 

 

ビール「」

 

 

 .........なんか、もう。うん。絶句ですわこんなん。おかしいもんだって、話が。飛躍しすぎ。バカかよ。ハイパーバカ。人に聞かせる物じゃ無いだろこれ。アホか。

 そんなげんなりした表情をした俺の事など気にせずに能面は俺の方を見て口を開いた。

 

 

能面「.........では貴様の話を聞こうか。それだけではあるまい?何を隠してる?」

 

 

ビール「あ〜.........言いたくない的な?」

 

 

能面「そうか、では手を出せ」

 

 

ビール「は〜い」

 

 

 素直に手を差し出す。能面はその手を優しく握る。すると、奴の手から[鎖]が発生し瞬く間に俺の肩まで巻き付いてきた。

 

 

能面「.........なるほどな。かなり[厄介]な事が起きているようだ」

 

 

ビール「うへぇ〜.........俺これ嫌い〜」

 

 

ゴルシ「な、何したんだ!!?何か分かったのか!!?」

 

 

能面「ああ。大体の状況が、な?」

 

 

『!』

 

 

 俺から手を離し、冷えた笑みを浮かべながら俺の背後に目をやる能面。その言葉通り、これまでの経緯を完全に把握したようだ。

 オマケにこの感じでは、マックイーン達の状況も理解出来たのだろう。奴はそれを知ると十分だと言うようにその場から立ち上がった。

 

 

能面「帰るぞ。まだ皇奇達の賃貸の契約は切っていない。暫くはそこで生活だ」

 

 

フェスタ「あ、ああ.........」

 

 

能面「そういう訳だ。貴様も帰って明日に備えて置け」

 

 

ビール「は〜い」

 

 

 

 

 

能面(.........また[神]か。[奇跡]の上に立つのはいつも)

 

 

 ―――厄介な事態にまた巻き込まれた物だ。俺はそう奴を見て判断した。行動自体は評価に値しよう。諦める事無く愚直さを選んだ結果、自らを変える。全くもって[人間らしい]。

 

 

能面(報告したら帰る予定だったが.........往復する事になりそうだ)

 

 

能面(.........[人の子(糞餓鬼)]が)

 

 

 老いるというのは何ともまぁ苦しい物だ。怒りすらも湧かせるのに時間と労力が掛かる。感性も随分と衰えてしまった。

 .........だが、ここに来てまた[彼女]がこのような目に会っている。[悲劇]は既に乗り越えたと言うのに、まただ。ふざけている。

 

 

 世界というのは[残酷]だ。[慈悲]では決して回ることは無い。そうであるからこそ人は、生物は[進化]し、[発展]する。

 

 

 しかし、[繋がり]というのは[慈悲]の中でしか育まれない物だ。

 

 

能面(.........どこかで一度、[未来]に戻るしかあるまいな)

 

 

能面(俺の[コレクション]。まさか使う日が来るとはな.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「っつー訳で、アタシらも今日から[レグルス]って訳だ」

 

 

タキオン「.........」

 

 

 私の状態を説明しよう。説明したくない。以上。

 

 

 何なのだ一体。昨日の今日で増え過ぎだ。なんだい?彼は何かしらの[バグ]でも使ったのかい?所属ウマ娘増殖バグ?ああそれは良い。いくらでも使ってくれたまえよあのおバカ。

 チーム小屋で腕を組んでそう豪語したゴールドシップくんは変わらない快活な笑顔で答える。隣に居るフェスタくんとオルフェーヴルくん(?)は小屋の中を見渡している。

 

 

シリウス「アンタらは兎も角、随分変わったな」

 

 

シャカ「あァ.........[風格]ってのか?嫌でも分かるぜ。ありゃ」

 

 

オル「?何の話っスか?」

 

 

二人「.........」

 

 

 唐突にイメージが変わった彼女。それでも変わらない内面にかなりのギャップを感じてしまう。黙っていればそれこそ[王]足り得る風格があったろうに。

 .........そして、極めつけは。

 

 

能面「チーム小屋か.........ここに来てまさか踏み入れるとはな。来てみる物だ。ぬお!!?」

 

 

オペ「おお!!!先生にどこか似ているお爺さん!!!もしやゴールドシップくんの関係者なのかい!!?」

 

 

能面「げぇぇぇオペラオー.........!!!」

 

 

 ギョッとした顔を見せたかと思いきや、彼は即座に私の背後に隠れた。それを追ってオペラオーくんがすかさず私の前に組み付いてその顔を見ようとするが、それを避ける彼との小規模な鬼ごっこが始まった。

 

 

能面(たたたタキオン.........!!!俺は彼女がそんなに得意じゃない!!!何とかしてくれ!!!)

 

 

タキオン(な、何とかって、何がダメなんだい?)

 

 

能面(キラキラだ!!!この!!!眼差し!!!)

 

 

カレン「その人誰なの?部外者はここまで来れない決まりだったはずだけど.........」

 

 

バク「オペラオーさんの言う通り、桜木トレーナーさんに似てますね!!!もしや彼のお爺さんなのでは!!?」

 

 

ファイン「確かに〜♪どうなの?ゴールドシップさんっ!」

 

 

ゴルシ「ああ.........実はな」

 

 

 先程までの笑顔はどこかへ隠れ、彼女は真剣に彼の存在。そして自分達の真実を語り始めた.........

 最初こそ私やデジタルくんが止めようとしたが、フェスタくんとオルフェーヴルくんが何故かそれを止めて来た為、とにかく話させてみることにした。

 

 

ゴルシ「.........という訳なんだ」

 

 

全員「.........へ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘くさ(嘘くさい.........)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「.........ヘェ!!?」

 

 

 声を出したのは数人。しかしこの場にいた大半がそう思ったのだろう。何より視線がそれを物語っている。

 

 

シリウス「随分面白い話だったが、信憑性がねぇ。特にお前から出てきたって事はそういう類の話だ。折り紙付きのな」

 

 

シャカ「大方、どこかでそっくりな顔の爺さん拾ってきたンだろォ?ったく、手が込みすぎなンだよ」

 

 

ゴルシ「あ、アタシは本当の事を.........なァ!!?」

 

 

オル「ゴルシちゃん。日頃の行い」

 

 

フェスタ「悪ぃな。助け舟は今出航中だ。一隻も残っちゃいねぇよ」

 

 

ゴルシ「そんな.........う、うっうっうぅ.........マイクレジット.........!!!」

 

 

 自分の信用の無さを痛感したのだろう。泣いてしまった。余りに哀れ。流石の私も慰めようと思ったくらいだ。

 

 

桐生院「でも本当、良くここまで入ってこれましたね?」

 

 

能面「何。正式な手続きを踏んで入れさせて貰ったよ。こう見えても彼女達の祖父だからな」

 

 

ミーク「.........?じゃあ、さっきの話.........本当.........?」

 

 

能面「似てるだけだ」

 

 

 そう言い切り、彼は勝手に戸棚からココアの粉末を取り出し、ポッドの湯を沸かし始めた。

 しかしまぁ不思議な光景だ。本来居るべきでは無い人間が居る。事実を知り期間が空くとやはりそう思えてしまう。

 

 

 .........だが、まだ一人、顔を見せていない存在が居た。

 

 

フジ「.........肝心の[彼女]がまだ来てないね。いつもだったら来てるはずなのに」

 

 

ポッケ「なぁ?ビールの奴どうしたんだ?聞いてるか?」

 

 

カフェ「?いえ。具合が悪かったりすれば、マックイーンさんが来てくれるのですが.........」

 

 

能面「.........フッ。[惑う]か。若人」

 

 

全員「.........?」

 

 

 ココアを口に含み、飲み干してからそう意味深に呟く彼。その言葉の意味すら分からず、そして彼もそれを説明すること無く、今はただ静かな時間が過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デジ「.........!タイム[3.17.2]秒!!!順調ですっ!!!」

 

 

エール「はァ......はァ.........ありがとうございます。デジタルさん」

 

 

デジ「いえいえ♪久々にマネージャーらしく出来て楽しいですっ!」

 

 

エール「ふふ♪頼りにしてますわ。リーダー」

 

 

 ゴールドシップさん達が帰ってきた翌日。既に次回の出走するメンバーは選定され、[4回戦]に向けてトレーニングをし始めました。

 デジタルさんもダートで走る事が決まっていますが、彼女の申し出でマネージャーとして見てもらっている状態です。

 

 

デジ「それにしても[4回戦]。実質[準決勝]ですね〜。あっという間じゃ無かったです?」

 

 

エール「本当、この状態になって半年近く経っているなんて.........思っても居ませんでしたわ」

 

 

 手渡されたスポーツドリンクを飲み、水分補給を進めます。身体から熱が抜けていく感覚を感じ取ってからゆっくりとベンチに腰を下ろし、デジタルさんの隣に座りました。

 

 

エール「.........今のデジタルさんから見て、どうでしょう?勝てそうでしょうか?[長距離]」

 

 

デジ「.........難しいです」

 

 

 忌憚のない意見。彼女だからこそ出来る断言。傍で[ウマ娘]を見続けたからこそ出来る分析力。トレーナーではなく、同じ[ウマ娘]だからこその視点。それが要になります。

 

 

デジ「あのマックイーンさん。冷たいレースをしてます。実際のレースを見た時は肝が冷えました。自分は走っていないのに.........」

 

 

エール「.........それほどまでに、[完成]されていると?」

 

 

デジ「分からないです。ただ、[芯]があります。何をしても変わらない程の[固い芯]が」

 

 

エール「.........[芯]、ですか」

 

 

 トラックの向こう側。ゴールドシップさん達がトレーニングをする声が聞こえてくるその場所を見ながら、私はそう呟きました。

 .........[メジロマックイーン]。まさか対峙する事になるとは思いもしませんでした。同じ名を持つ存在が、その身体を持ってして牙を剥く.........正直自分自身、どうすれば勝てるのか想像が付きません。

 

 

エール「.........正攻法しか、無いのでしょう?」

 

 

デジ「はい。[ライスさん]がしたような、それこそ[究極仕上がり]にでもしない限りは.........」

 

 

エール「うぅ.........その感覚が分かれば早いのですが.........」

 

 

 あの時、レースで彼女から感じた[迸る闘志]。ライスさんの様子を形容するならばそれが一番合っています。

 しかし、私自身あれ程のレベルにまで自分を高めれた事など一度も無いのです。

 

 

 それにもうひとつ懸念点があります。もしそれが出来たとしても、これは彼の身体.........その後の生活に何か支障をきたす事態が起きてしまったら.........

 

 

エール「何か.........[攻略法]はないのでしょうか.........?」

 

 

『.........』

 

 

デジ「う〜ん.........マックイーンさんのスタミナとトップスピードに至る速度.........考えれば考える程泥沼に足を取られて.........」

 

 

『.........チッ、おい。何考えてやがンだ?』

 

 

 悩んでいるデジタルさんの後ろでお二人が会話をし始めます。先程までずっと静かにしていたトレーナーさんとサニーさん。

 特に、トレーナーさんはトレーニングの間もずっと何か考え込んでいる様子でした。

 

 

 真剣な面持ちで考え続け、どこか遠慮する様に彼は口を開きました。

 

 

『.........あるよ。[攻略法]』

 

 

エール「なっ.........!!!??」

 

 

デジ「ひょわ!!?ま、マックイーンしゃん!!?」

 

 

 思ってもみない[光明]。正に闇の中に一筋の光が差した瞬間でした。真剣な眼差しでそう言い切った彼の顔を見れば、それが彼の導き出した[最適解]なのだと分かります。

 

 

エール(そ、それは一体.........!!!)

 

 

『.........そんな難しい事じゃないよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『[サンちゃん]に走ってもらう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『.........は?』

 

 

 意を決した表情でそう言い切ったトレーナーさん。その言葉に私も、そしてサニーさん自身も驚きを隠せませんでした。

 

 

エール(.........その意図は?)

 

 

『マックイーン。君は強い。特にMさんなんかは君以上に、君の走りをしてきて且つ、俯瞰的に自分の走りを見てきている』

 

 

『でもそれは俺も[同じ]。君のトップスピードは確かに目を見張る物が有るし、それに至るまでの加速力とそれを持続させるスタミナは凄い。正直[ぶっ壊れ]だ』

 

 

エール(ぶ、ぶっこわ.........?)

 

 

 聞き馴染みのない単語が彼の口から飛び出してきました。普段はもう少し噛み砕いて説明してくれるのですが.........ま、まぁそれほどまでに評価してくれているのでしょう。

 気を取り直して、彼の話の続きに耳を傾けます。

 

 

『マックイーン。今の君を倒す方法は[二つ]。君に最後まで張り付いて最後の最後、君以上のトップスピードを叩き出して抜く戦法』

 

 

『そしてもう一つ。[コーナーで抜いてから一度も追い抜かれない]戦法。その二つ。それ以外に勝ち目は無い』

 

 

『.........言うのは簡単じゃねェか』

 

 

『ああ。でも、これしか無い。勝つ方法はもう[後者]しか残されていないんだ』

 

 

 重苦しい緊張感が漂います。二度の同じ負けは無い。そう自負し、鍛錬してきました。それがここに来てこれほどまでに大きな壁として立ちはだかるだなんて.........思ってもいませんでした。

 

 

デジ「.........えと、トレーナーさん達とお話です?」

 

 

エール「!えぇ。難しい話でしたが.........実る物はありましたわ」

 

 

 少し不安そうな顔で私の顔を覗き込むデジタルさん。先程までの会話で私の表情を見ていたのでしょう。エースとして不甲斐ない姿を見せてしまったかもしれません。

 そう.........私はチーム[レグルス]の[エース]。無理とか無駄とか諦めの良い言葉を使う事はしません。

 

 

 やるしかない.........そう意気込む私でしたが、不意に見える彼の表情に陰りが見え、気になりました。

 

 

エール(.........懸念か何かありますか?)

 

 

『.........そういう訳じゃない。ただ.........まだ[踏ん切り]が着かないんだ』

 

 

 何の事でしょう?それを問い掛ける為に彼に近付くと、今まで思考でのやり取りをしていた分、今彼が思い起こしている事を受け取ってしまいました。

 

 

 それはどうやら.........先日、私達が寝た後の事に起きたようです.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .........あれは、皆が寝静まった夜の事だった。突然、俺の携帯に着信が入った。番号は非通知。普段なら出る訳ないが、状況を考えれば.........[花道]の可能性もある。ここに来て何かを吹っ掛けてくる事も考えられる。

 

 

ビール「.........もしもし」

 

 

「.........フッ、警戒するな。俺だよ」

 

 

ビール「っ、クソジジイ.........」

 

 

 電話をしてきたのは[奴]だった。こんな夜も更けているというのに、元気な爺さんだ。

 

 

ビール「.........何の用?伝え忘れでもあったか?」

 

 

「伝え忘れでは無い。こっちの方が彼女達に[聞こえない]から丁度良いと思った」

 

 

ビール「?一体何を―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この件。終われば[悪霊]は消える」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「.........は?」

 

 

「正確に言えば、[見えなくなる]が正しいだろう」

 

 

 .........何を言っているのか理解が出来ない。コイツは、何が言いたいんだ?

 

 

「あの時。俺は確かに[浮遊霊]を見た。だがそれは[彼女だけ]だ。他は見られなかった。お前の記憶に居た[存在]は認識出来なかった」

 

 

ビール「バッ!!!.........ふざけんのも大概にしろよ。冗談じゃねぇ」

 

 

「ああ[冗談じゃない]。唯一見えた物と言えば、貴様から生え出た[鎖]だけだ」

 

 

ビール「っ!」

 

 

 そう言われて自分の腹部に目をやる。[鎖]。確かに伸びている。それはベッドの上まで伸びていて、気持ちよさそうに寝ている[今の俺と瓜二つな存在]に繋がっている。

 

 

「今はどんな姿をしている?」

 

 

ビール「.........今の俺と、同じ」

 

 

「そうか。その[身体]を[基本]としたか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前。[弾き出される]ぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「は.........?弾き出される.........?何、言って.........」

 

 

「[魂の形]がその[身体]と同じになっている。今は半年程度。だが一年経つとどうなる?身体は自ずと[相性の良い魂]を選ぶ」

 

 

「[鎖]がある内は良い。そうなってそれすら無くなれば、お前は帰る場所を失い―――」

 

 

ビール「―――[消える]。ってか?」

 

 

「.........クク」

 

 

 笑い声が聞こえる。でも蔑む物じゃない。俺には分かる。自分にはどうしようも無い事態が起きた時、笑ってしまうんだ。それを察してしまった。

 

 

 [超えなければ]、彼女は戻らない。

 

 

 [超えてしまえば]、サンちゃんは見えなくなる。

 

 

 [現状維持]は.........俺が消える。

 

 

 誰かが.........確実に居なくなる。それはもう、覆しようのない結末だ。

 

 

「.........老いぼれの助言を一つ」

 

 

「[悔いのない様に]、な」

 

 

ビール「.........わぁってるよ。それは.........」

 

 

「フッ、じゃあな」

 

 

 .........面倒な男だ。激励の一つすら不器用なやり方しか出来ない。自分に対しては.........そういったやり方しか出来ない。それは俺にも言える。

 [やるしかない]んだ。[奴]よりも実直でありながら投げやりな言葉を掛けることしか出来ない。[奴]以上に俺はまだ自分に優しく出来ちゃ居ない。

 

 

 切られた通話。頭の中の思考は再び生まれ始めた眠気によって遮られる。どうするべきか。違う。俺達は手段も結末も選べる立場じゃない。

 [必ずそうなる]。そうしなければいけない。分かっていたはずだ。こんな歪な状況、長続きする訳ない。させる事は無いだろうって。

 

 

 .........でも、本当に。心の底から楽しい生活が送れていたのは.........紛れも無い事実だったんだ。

 

 

ビール「.........寝よう」

 

 

 手に持った携帯にもう一度充電器を差し込み、彼女達が眠るベッドの上に横たわる。深い微睡みに飲み込まれていく感触を感じながら、[夢の中]へと堕ちて行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エール「.........」

 

 

『.........』

 

 

『.........たはは、言わなきゃって思ってはいたんだけど.........言いにくくて、さ』

 

 

 困った笑顔を浮かべて頬を搔く彼。そんな表情の奥に見える心情は、そんな事が出来るほど穏やかでは無いことを、私は知っています。

 .........本当。一人で何でもかんでも抱え込もうとするんですから。困った人です。

 

 

エール「.........さぁっ、タイムも出せましたし、今度はどうしましょう?」

 

 

デジ「!そうですね〜。マック.........じゃくて、エールさんの身体を考えると、ここはやはりスタミナを鍛えた方が良いかと」

 

 

『.........確かに、[アイツ]とやるなら無いに越した事はねェな』

 

 

『えぇ!!?ち、ちょっとはショック受けた方が良いんじゃないの〜!!?』

 

 

二人「それで事態が好転するならしますけど(するが)?」

 

 

『うぐっ.........へいへい。どうせあたしゃマイナス思考野郎ですよ〜』

 

 

 項垂れる彼を後目に、私達はトレーニングを続けます。打倒[メジロマックイーン]。遥かにそびえ立つ壁を前に、一歩一歩。確実に乗り越える為に日々を積み重ねて行きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッッッ!!!!!」

 

 

 割れんばかりの歓声。頭を揺さぶられる程の強い声達。一つ一つに、意志を感じられる程に皆、熱狂している。

 確か、そう。[アオハル杯]。その[4回戦]だ。世間では[準決勝]と言われているらしい。まぁ僕には関係の無い話だけれど。

 

 

 人々が熱狂する様をただ見下ろす。こうして[遊び]に熱中する[子供達]を見るのは存外気分が良い物だ。

 .........けれど、それでも[生きる為]には[現実]と向き合わなければ行けないんだよ?

 

 

「.........来たね」

 

 

 足音が近付いてきて、扉を開ける。特別観戦室。僕と[彼]だけの部屋.........その部屋の扉を開けて現れたのは、やはり[彼]だった。

 

 

桜木「.........待たせちまったか?」

 

 

「.........クク。全然?でも良かった。[勝ち]は一応拾いに来たって感じだ?」

 

 

桜木「これから捨てるつもりも無い」

 

 

 逆だった髪の毛。鋭い眼光。冷たい視線。間違いない。彼だ。[桜木 玲皇]。その姿をしっかりと認識出来た。やはり[取り決め]は絶対だった。

 

 

「難儀な物だよね。君達人間は、[組織]とかいう精神的概念に縛られる癖して、それが無ければ生きられないのだから」

 

 

桜木「弱いからな。そうでもしなきゃ[孤立]する奴も居る。難儀ではあるが、それでも[必須]な物だ」

 

 

「フフ.........でも、ここに来たら[終わるまで]出れないよ?トイレ休憩位ならいいけど、[レースの間]は居てもらう」

 

 

「これで.........空いた穴は[埋められない]」

 

 

 彼は僕の言葉に目を細めて反応した。思い違いをしていたのか、少し頭を搔いて何かを問おうとしている。

 身振りでその質問を許すと、彼は身に付けた[黒いスーツ]の内ポケットから何かを取り出した。

 

 

桜木「.........喫煙所には?」

 

 

「う〜ん。ダメ」

 

 

桜木「.........はぁっ。分かった。今から一服してくる」

 

 

「ごゆっくりどうぞ。始まる時には戻ってきてよね」

 

 

桜木「ああ。満足行くまで吸わせてもらう。その前に―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――紹介しておこう。[穴埋め]だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って、彼はもう一度扉を開けた。

 

 

 そこに立っていたのは[二人].........一人は居るはずの無い[存在]だった。

 

 

ビール「.........よう。どうした?まるで、[居ないはずの存在]が出てきた見てぇな顔して?[幽霊]でも居たか?」

 

 

「な、ぁ―――」

 

 

 違う。有り得ない。見間違えるはずが無い。彼は確かに[桜木]だ。同一人物である[彼女]が目の前にいるわけが無い。

 黒いコートに片足裾が無いダメージジーンズ。[見たことも無い勝負服]に身を包んだ彼女が立っていた。

 

 

 そして、その[隣]には.........

 

 

「.........[覚えてますか]?」

 

 

「っ、君、は.........」

 

 

 深く被ったキャップ帽。そのツバに顔は隠れて顔は見えない。[NEOGEO]とデザインされたその帽子を手で取り、その顔を見せたのは.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエル「.........お久しぶりです。[花道トレーナー]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エメロード.........シエル.........」

 

 

桜木?「.........クク。そういう事だ」

 

 

 彼女達の背後でそう笑う彼。薄ら寒い空気が背中を通る。何が起こっているのか理解が出来ない。怒涛の展開。正に僕のシナリオが今、完全に破綻しようとしている.........

 彼は.........いや、この[存在]は一体、何をしでかそうとしているというのだろう?

 

 

桜??「そう怖がるな。俺達は別にお前を[倒しに来た訳じゃない]」

 

 

???「.........[取り返しに来たんだ]。お前から奪われた物を根こそぎ、全部な」

 

 

ビール「クク。そういう訳だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「覚悟しろよ?[人の子(クソガキ)]」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「今の俺は、いや。俺達は―――」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「テメェの[奇蹟]ですら超えられねェぜ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......To be continued

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