山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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剣ヶ峰の霞む先

 

 

 

 

 

ビール「おかえりみんなっ!![マイル]やばかったね〜」

 

 

フジ「うん。だけど、スズカもターボも居てくれたから安心して走れたよ」

 

 

ポッケ「ま、マジでパネェレースだったっす!!!やっぱフジさんは半端ないっすね!!!」

 

 

 激戦を制したマイル戦。結果を見ればフジキセキとスズカのツートップと悪くは無いが、レース内容はある意味心臓に悪い物だった。

 

 

『ゲートが開いた!!!先頭に躍り出るのはやはりサイレンススズカ.........いや!!![ツインターボ]!!!ツインターボだ!!!』

 

 

 大逃げを得意とするスズカ。それすらも上回るスピードでトップに躍り出てきたターボによって観客もレース参加者も大混乱。スズカも驚きのあまり、レースタイムの感覚を狂わせる結果になった。

 中盤までは二人の激走。最早回りなど見えていないとでも言うように競っていた。チームメイトなのに。こっちは生きた心地がしなかった。

 

 

 .........それを救ってくれたのがフジキセキだ。

 

 

 ターボエンジンの燃料切れで下がっていくターボ。そしてタイム感覚を狂わされたスズカが抜かれないよう、予め穴となる位置で待機し、頃合を見て前へと出て行ったのだ。

 正直、[リギル]が分かれていてくれて助かった。ここに[マルゼンスキー]がもし居たら.........勝負は分からない所か、これ以上にぐちゃぐちゃにされていた自信しか無い。

 

 

『それにしても、走っていないとは思えない程に手際が良かったですわね.........』

 

 

『へっ、当たり前だ。スズカも頑張ったが、ありゃ経験が出るだろうよォ』

 

 

フジ「確証は無かったけど、上手く行って良かったよ。これならナベさんの所に戻っても上手くやれそうかな」

 

 

 足の感触を確かめる様に爪先をトントンと地面を叩く。その表情から不安の様子は無さそうだった。

 

 

『.........トレーニング。上手く行った様ですわね』

 

 

ビール(うん。本当に良く我慢してくれたよ)

 

 

 彼女に課したのはプールトレーニングと重点的な柔軟。そして根本的なレース走法の変更により、フジキセキは何とか走れる状態にはなった。

 [屈腱炎]。未だ原因すら解明できていない未知の炎症。[繋靭帯炎]と同等に厄介な物だが、死ぬまで痛みに付き合う必要は無いとなればまだ優しい方だ。

 

 

 だが、走れない事こそ死と同義。この身体になって実感したが、そうしなければ発散出来ない[体力]がもろに[ストレス]へと変換される。

 フジキセキにとってもそれは同じく、そしてその[病]の[再発率]を大きく高めていた要因だと俺は感じた。

 

 

 脚に負担の掛からない上、スタミナ補強に最適なプールトレーニング。脚への負担を和らげる為に全身の筋肉を柔らかくする為の柔軟。そして、そもそもの原因である足裏接地時の[衝撃]。それを何とかするのが俺に求められた物だった。

 

 

ビール(本当、安心沢先輩が居てくれて助かったぜ)

 

 

 基本的に身体の状態は先輩が逐一見てくれていた。見てくれは変(本当に今でも哀しい)が、優秀な人には違いない。

 あの人が居なければ、彼女の再起はまだ先。いや、訪れなかっただろう。

 

 

フジ「.........はぁ、楽しかった」

 

 

ビール「!.........最高のショーだった。[次]も、期待してる」

 

 

 満足そうな言葉。しかしその声は少し震えていた。怖かっただろう。苦しかっただろう。他人行儀な言葉でしか表せない程に、彼女とその病との付き合いはそう短くは無かった。

 彼女は[ひとり]で[乗り越えた]。謙遜じゃない。その痛みに、苦痛に折れた人間が同じ道で再起を果たそうだなんて、バカですら考えない。

 彼女は.........それを乗り越えた、誤魔化しでも思い込みでも無い。真正面から挑み、打ち勝った。[初めて]のウマ娘になってくれた.........

 

 

ビール(きっと、フジキセキはこれからも多くの人に[勇気]を与えてくれる存在になるだろうね)

 

 

シリウス「まさか、あんな同じ事の繰り返しがこの結果に繋がるとはな」

 

 

シャカ「不思議って訳でもねェ。ストレスを身体動かして発散させる。理屈や筋を通しながら療養させたのはヤバいけどな」

 

 

タキオン「ククク.........そういう男だよ。[彼]は.........」

 

 

 多くのチームメンバーと共に控え室に行くフジキセキ。もう先程の弱さは無く、元通りの寮長フジキセキがそこに居た。

 そんな彼女の後ろ姿を見て何かを言っていた複数人が俺の姿を見てくる。が、特別な事を何かした訳でもない。

 

 

ビール「悪いけど、彼女に特別な事はして無いし、寧ろ任せっきりだったよ。俺は特に何もしてない」

 

 

シリウス「の割には大活躍だったじゃねぇか」

 

 

ビール「まっ、そこはシリウスの好きそうな[自主性]って奴?出来る出来ないは明確に線引きした上で客観視出来るようにならないと、レースじゃ勝ちにくいし。フジキセキはそれが得意だと思ってさ」

 

 

シャカ「.........はァ。型破りな奴だぜ。参考にならねェデータしか取れねェぞお前ンチーム」

 

 

タキオン「だから[勝てるんだ]よ。効率が独自性を持って最適化される。データに無いトレーニングはマスクデータとなる。外部には悟られない上にウマ娘達はトレーニング場所を分散する。本来の立場なら、彼は[ぽっと出の裏ボス]に相応しい男だよ」

 

 

ビール(.........確かに、このチームメンバーは裏ボス感半端ないな)

 

 

 もし仮に何にもなくアオハル杯が開催されたとしてこのチームメンバーだったとしたら、今程では無いにしろ快勝は出来るだろう。

 .........だがやはり、ここまでチーム戦略を練れたのは紛れもない[エースの不在]があったからだ。

 

 

『か、買い被りすぎですわ.........』

 

 

ビール(まさか。正当な評価だよ。普段通りだったら君の強さにかまけてただろうね)

 

 

『まァテメェの性格考えりゃそうなるだろうなァ』

 

 

 さて.........次はいよいよ[中距離]。折り返し地点まで来た。

 次は殆どの観客が[メインディッシュ]だと思っている種目。手を抜く事は無いだろうが.........どっちに転ぶのかは俺にすら分からない。

 

 

ビール(さぁて.........果たして吉と出るか凶と出るか.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沸き立つ歓声の声。最早包み隠そうとすらしねぇ。皆が皆、この[レース]を見に来たって訳だ。勝負に[格]を付けたがるのはいつだって外野だ。

 地下バ道を進みながらそう考える。口寂しさを覚えてポケットに手を入れるが、前を歩くオルフェーヴルが無言でアタシを睨み付けて来やがった。

 

 

フェスタ「.........わぁったよ。レース前は止めとく」

 

 

オル「.........」

 

 

ゴルシ(な、なー姉ちゃん?雰囲気ヤバくね?)

 

 

フェスタ(あぁ、ありゃ相当.........ん?)

 

 

 先程までとは打って変わって、黙り始めたオルフェーヴル。その様子に相当なプレッシャーが掛かっていると思っていたが、そんな奴がアタシらを止めるように片手を伸ばす。

 その先を見ると、三人のウマ娘が立っていた。逆光でシルエットになっているが.........[オーラ]で分かる。

 

 

フェスタ(.........ご対面、か)

 

 

フェスタ([三冠バ様]のお出ましだ.........)

 

 

 ゆっくりとこっちに近付いてくる。シルエットは徐々に薄くなり、その姿が見えてくる。

 

 

 [シンボリルドルフ]

 

 

 [ナリタブライアン]

 

 

 [ミスターシービー]

 

 

 .........これが、アタシらの対戦相手になる。

 

 

ルドルフ「.........こうして顔を合わせるのは初めてだね。君達の事は聞いているよ。ナカヤマフェスタ。オルフェーヴル」

 

 

ナリブ「.........こうして見ると分かる。ゴールドシップが強いのも頷けるな」

 

 

シービー「初めまして。アタシ、ミスターシービー。良いレースにしようね」

 

 

 前に出てきて手を差し出すシービー。それに何故か反応を示す事の無いオルフェーヴル。

 .........おかしい。いつものコイツだったら喜び勇んで両手でブンブンとその手を肩からもいでしまう程の勢いで振り回す筈だ。それをしないだなんて.........

 

 

 あまりの変貌に心配していると、ようやくオルフェーヴルが動き出した。

 

 

 .........が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――パシッ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――退()いて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人「―――.........」

 

 

二人「な、ぁ.........ガ.........」

 

 

 差し出された手。それを払い除け、鋭い目で三人を睨んだオルフェーヴル。そしてそのままアタシらすら置き去りにして、アイツは光差す世界へ一人、静かに歩いて行ってしまった。

 

 

シービー「.........痺れたね。これは」

 

 

ルドルフ「ここまでの敵意.........久しく感じていなかったな」

 

 

ナリブ「.........フッ、随分と滾らせてくれるな」

 

 

ゴルシ「い、いやいや!!!いつもはあんな感じじゃねぇんだよ!!!なぁ姉ちゃん!!?」

 

 

フェスタ「あ、あぁ.........間違いねぇ.........」

 

 

フェスタ「.........何を[吹き込んだ]?[おっさん]」

 

 

 アタシは後ろに声を掛けた。控え室から耳を立ててやがったのか、ゆっくりと扉を開けて気まずそうにでてくる[おっさん]。今はウマ娘がこっちにゆっくり歩いてくる。

 アイツがあんな事をする筈が無い。この人達はアイツの憧れであり、目標だった。そんな人達に、あんな敵対心を見せれる奴じゃねぇ.........

 [凱旋門]の時だってトレヴの奴に日和ってたレベルだ。勝たなきゃ行けねぇって思ってもアイツじゃあそこまで行けねぇ.........

 

 

ビール「な、なはは♪何かな〜?ビールちゃんはオルフェにエールを送っただけばぶぅ!!?」

 

 

フェスタ「茶番してる暇はねぇんだよ。さっさと言わねぇとブチ飛ばすぞ」

 

 

ゴルシ「おっちゃ〜ん素直に言った方が良いぜー。アタシら姉妹ん中でもフェスタはキレたら辺り一面トマトジュースフェスティバルが開催されちまうからなー」

 

 

ナリブ「?おっちゃん.........?という事はまさかお前」

 

 

 両頬を片手で掴んでゆっくり力を込めて行く。その過程でコイツの正体をバラしちまう事になったが、まぁ差したる問題じゃねぇ。

 このまま行くと本当にどうなるか分からねぇ。その時になってようやく、おっさんはアタシの手を掴んで上手く力を[抜けさせて]口を開いた。

 

 

ビール「だァァァ分かったよ!!!言います言いますよ!!!マックイーン取られてんのは分かるっしょ!!?」

 

 

ビール「新しく来てるスピカとかカノープスの子達にも伝えてないけど!!!本当はあと一勝じゃなくて!!![全距離全勝]しなきゃなの!!!」

 

 

二人「はァ!!?」

 

 

ビール「その為にも!!!リギルは酷い条件突きつけて来てマックイーンを返さないつもりで居るって言ったの!!!そしたらあの[覇王モード]よ!!?お分かり!!?」

 

 

 .........そんな追い込まれてたのかよ。[レグルス]は.........普通、言うだろ。そんな事.........

 

 

ビール「.........あのねぇ?これでも一応[トレーナー]よ?レースにそんな盤外要らないのよ。君らには大人の思惑に惑わされずに走って欲しいんだ」

 

 

ビール「オルフェーヴルには問い詰められちゃって言っちゃったけど.........あの子、察し良いね」

 

 

ゴルシ「.........じゃあ、ずっと[戦って]来たのか?タキオン達は.........」

 

 

ビール「.........最初から居る子はそのつもりだよ。俺達には端から負けは認められない」

 

 

二人「.........」

 

 

 .........なるほど。道理で普通のレースをやるって雰囲気じゃ無かった訳だ。ただ勝ちゃあ良いって訳じゃねぇって事も.........

 はぁ.........なんでこうもトラブルに巻き込まれるのかねぇおっさんは。自分で引き起こしてる分には見逃してやるが、巻き込まれ体質なのは頂けない部分だ。

 

 

フェスタ「まぁ事情は分かった。けどなぁ?」

 

 

ビール「い!!?い、いひゃいよふぇふは」

 

 

フェスタ「テメェは何でそう大事な事言わねぇんだよ。そういう所は[爺さん]と同じだな?え?」

 

 

ゴルシ「全くだぜ姉ちゃん!!!そのついでに何で[白銀]の奴が来てねぇのかもしっかり吐き出させてやるからなぁ!!!」

 

 

ビール「そ、そひぇはへははんへんひへ〜!!!」

 

 

 .........はぁ。我が妹ながらなんでこうもポンコツなんだか。[遺伝]なのかねぇ。

 アタシが両頬を引っ張っている間にゴールドシップがその頬を突っつく。しばらく良いようにやられていたが、流石のおっさんも我慢の限界だったようで強引にアタシらを引き剥がして脱出した。

 

 

 両肩で息をしてアタシらを睨み付けるが、その背後に[三人]が立つ。その気配を察しておっさんはゆっくりと振り返った。

 

 

ナリブ「.........おい。まさかお前、本当に[桜木]か?」

 

 

ビール「!.........!!!」

 

 

ルドルフ「.........君は分かりやすいな」

 

 

 自分の正体がバレた事でその口を両手で押さえ慌て始める。その様子に呆れ果てるようにナリタブライアンとシンボリルドルフは頭を押さえた。

 

 

ビール「しーっ!しーっだよっ!!!指切り!!!」

 

 

シービー「.........なんか聞いてた話と違うよ?可愛いじゃん」

 

 

ナリブ「信じるなよ。かなりの悪だぞ」

 

 

シービー「ふぅ〜ん。まっ、アタシはレースが楽しめるならそれで良いからさっ。指切りしてあげる」

 

 

ビール「てんきゅ〜♪」

 

 

フェスタ「.........はぁ。後でオルフェーヴルに謝れよ?」

 

 

 

 

 

 ―――ミスターシービーと指切りをしている間にフェスタとゴールドシップが光に向かう。

 それに釣られるようにルドルフ達も俺に背を向けた。シービーはお別れするように俺に手を振って向かって行く。

 

 

『.........どう見てる?』

 

 

ビール(え?ああ、[勝てる]よ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(意識は[オルフェーヴルに向けた]から)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ、テメェ。[盤外]はしねェンじゃ無かったのかァ?』

 

 

ビール(盤外をしないって言うのが、番外戦術だったとしたら?)

 

 

『.........チッ、喰えねェ奴だ』

 

 

ビール「.........ククク」

 

 

 想定外と言えば想定外だ。だがそれを利用しない手はない。[策士策に溺れる]。という諺もあるが、溺れない程度に弄すれば良いだけの事だ。要は[バランス感覚]が悪いのよ。自分が天才だと酔いしれるから足元に巻いた紐にすら気付く事が出来ない。

 そうなったらそうなったで良い。転ばなければ済む話であり、転んでしまったらすぐ立ち上がるだけの事。立ち上がるのに考える必要性は無いのだから、痛みを堪えて歯を食いしばればいくらでも軌道修正は効くものだ。

 

 

ビール(あの子達には[マックイーン]が着いてくれている。何が出来るか分からないけれど.........それでも、安心する)

 

 

ビール(俺は、俺の出来る事をやろう)

 

 

サニー「!.........もう良いのか?」

 

 

『ああ。身体に慣れといてくれ。激戦になる』

 

 

サニー「.........分かった」

 

 

 鎖を手繰り寄せてサンちゃんを身体に入れる。それと同時に外へと弾き出される。

 .........言われた通りだ。気にして見れば、まるでこっちが[家主]と言わんばかりに身体が反応している。俺が戻る時に弾き出すことは無いと言うのに.........

 

 

(この[ハンデ].........どう作用するのか.........)

 

 

 まだ見えぬ戦局。その時が来なければ見えないそれを歯痒く思い浮かべながら、俺はその[ウマ娘]の後ろへ着いていくのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[アオハル杯予選第四回]。2000m中距離レース。かつてないほどの激突が予想されます」

 

 

「ここまで無敗、チーム[レグルス]。ここに来て一転、暗雲立ち込めて来ています.........!!!」

 

 

「.........ククク」

 

 

桜木「.........」

 

 

 続々とゲートインをして行く少女達。その様子を見て奴は気味の悪い笑い声を出す。抑えきれんばかりの嘲笑。それが奴の自信の現れだ。

 それは分かる。何せ出走参加は全て三冠制覇者。勝率はかなり高い。そうなるのも無理は無いだろう。

 

 

「どうだい?この[壁]は?見果て無い程の高さだろう?」

 

 

桜木「そうだな。実に高く、そして堅牢な壁だ」

 

 

 シンボリルドルフ。堅実な攻め手を忠実に実践してくる厄介な存在。末脚も鋭く、マークを外せば直ぐにそれに勘づく事が出来るほどにレース中の視野は広い。

 ナリタブライアン。爆発力のあるあの切れ味。要所要所で必ず注意をしなければならない。ルドルフとの親和性も高く、必ずマークが分散する瞬間が出てくる。

 ミスターシービー。後方から追い上げてレースの展開を加速させてくる。常に新しい方法で前に出てくる。マークは殆ど意味をなさんだろうが、見なければ話にならない。

 

 

 頭が痛くなってくる話だ。ここに来てこの難関。普通であるならば頭を抱えるだろう。

 

 

 だが.........[勝負事]に[100%]は存在しない。

 

 

桜木「.........[麻雀]。という物を知っているか?」

 

 

「勿論だよ。僕の[子供達]が頑張って考えた物さ。[親]として、それは手放しに褒めるべき物だよ」

 

 

桜木「そうか。あのゲームに[安定]という物は[存在しない]」

 

 

桜木「どこまで突き詰めたとしても、引き次第で全てが変わる」

 

 

「.........話を逸らしているのかい?」

 

 

桜木「何も逸らしてはいない」

 

 

 ゲートに全員が入る様を見ながらそう呟いた。奴は怪訝そうな顔で俺を見ていたが、やがてその視線をターフの方へと向け直した。

 [勝負事]。ビジネスや約束事とは違う。この世界は[約束事]で回っている。決まりきった過程。結末。そして始まり。全てがどこかで可決され、それを元に構築されている。

 

 

 だが、[この世界]は違う。一瞬の意識で全てが変わる。何を奪い、奪われ、何を得て、得られてしまうのか、その瞬間まで分からない。

 それは.........[勝利の女神]ですらも.........

 

 

「ゲートイン完了。アオハル杯予選第4回、中距離レース―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ガコンッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――今スタートッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルドルフ(.........後方は二人。聞いていた通りのレース方法。だが圧は強い)

 

 

 ―――序盤の形成。先行を走りレースの地盤を固める。全て持ってして勝利を収める。それが私のやり方だ。例外は無い。

 例え自身が唯一となり得なくとも、チームの貢献を考えるならばやらない意味は無い。スタンドプレーは、独善的な自己満足でしかない。

 

 

 前を走るのは二人。G1で善走もしたウマ娘達だ。手を抜いて勝てる要素も無い。必然的に、この場にいる全員が全力を持って臨むだろう。

 .........だと言うのに。

 

 

ルドルフ(.........フフ、本当に君には毎回驚かされるな?[ゴールドシップ])

 

 

 私の隣を走る彼女。少し後ろに着かれたか、肌がピリつく程のプレッシャーを感じる。

 彼女の走りは説明が出来ない。だが、どこか[セオリー]を感じる。まるで精錬された[レース理論]の先を感じさせる走りを見ていて感じさせる。

 隣で走り、それが確信へと変わった。彼女は[先]を行っている。私よりも.........遥か先へ.........

 

 

ルドルフ(.........だが、[皇帝]は[定石]で退ける程、[退屈な相手]では無い)

 

 

 

 

 

ナリブ(.........前に出るのか。アイツ)

 

 

 ―――予想外だ。まさかゴールドシップが前に出ていくとは。それも、付け焼き刃じゃない。まともな先行をやってみせている。

 それほどまでに勝ちに来ている。という事か.........

 

 

ナリブ(中距離は詰めて来た。何度か[マックイーン]とも走ったが.........同じ位の圧を感じる)

 

 

 もう少し前に行くべきだったか。いや、これ以上前は厳しい。周りが見えなくなる。それだけは避けたい。

 .........私にこれほどまで焦らせるとは。面白い奴だ。

 

 

 .........それに。

 

 

ナリブ(.........後ろからも、[感じる])

 

 

 ヒリつくプレッシャー。隠す気が無い[闘志]を超えた[何か]。肌で感じ取れる。これをぶつけられたのはいつ以来か.........少なくとも、ここ最近は無かった。

 [ドリームトロフィー]の休養期間は長い。いつも明けにブランクと戦う必要がある。しかし、いつまでも[トゥインクルシリーズ]を走る事は許されない。

 進めばもっと楽しめると思っていたが.........世の中そう単純では無いらしい。

 

 

ナリブ(久方ぶりの[乾き]だ)

 

 

ナリブ(そう簡単に、[潤わせてくれるなよ]?)

 

 

 

 

 

シービー(.........何か[変])

 

 

 ―――レースが始まって、形が整えられて行く。誰かの主導は無く、各々やりたい事をやって、それが決められて行く。

 今日はこの形。明日は違う形。雲の流れみたいで、不定形なそれを見るのが好き。その雲を、飛行機で横切る様に貫くのが好き。

 

 

 .........でも今日は、[違う]

 

 

シービー(大きい.........でも、ただ大きいだけじゃ無い。なんて言うんだろう.........)

 

 

シービー(.........[雷雲]?)

 

 

 大きな[入道雲]。その中にバチバチと[プラズマ]が発生している。見かけの白さに騙されている?誰が?何のために.........?

 まだ分からない。でも.........レースで答えは必ず出てくる。その時、負けるのはいつだって[回答]を[竦んだ人]。

 

 

 .........だったら、[突っ込まなきゃ]。そのプラズマに当たらないように.........

 

 

 

 

 

ゴルシ(チィッ!!!結構スピード出してるつもりなんだけどなァ!!!どんだけ速ェんだよこのシンボリカイザー様はよォ!!!)

 

 

 ―――アタシの少し前を走る皇帝様。シンボリルドルフの後側面を見る。無理をしてる様子はねェ。焦りとかじゃなく、これをやるって決めて走ってやがんだ。

 ゴールドシップ様の[先行策]。マックちゃんに触発されて[凱旋門賞]で実戦投入。こっちで練習を積み重ねてようやく[物にした].........って実感したのによォ!!!これじゃーアタシが鯛で海老を釣るバカみてーじゃねーか!!!

 

 

ゴルシ(けど、こういう強敵イベントってのは回想イベント挟んで覚醒ってのがセオリーだァ!!!だったらアタシも何か良さげなアレをアレして〜)

 

 

『おっちゃん!!何やってんだー?』

 

 

『飛行機とドーナツを合体させたらさ、マックイーンが喜ぶんじゃないかと思って今設計図作ってんだよ。お前も作るか?飛ばしてくれるぞ?翔也が』

 

 

『へ、へ〜.........』

 

 

ゴルシ(あ、アレをアレして.........)

 

 

『な、なー!!これ本当に飛ぶのか!!?あいや飛ぶっつっても意識じゃなくて!!!ちゃんと無事に離陸して着陸まですんのか!!?』

 

 

『大丈夫だって、いざとなったらドーナツで栄養補給出来るし』

 

 

『いやなんで無事前提で話しねーんだよ!!!アタシの命掛かってんだぞ!!!』

 

 

『いやなんで無事故前提で話しようとすんの?事故ったらどうすんの?舐めてる?発明』

 

 

ゴルシ(.........アレを)

 

 

『と、飛んだー!!!すげぇー気持ちーぜー!!!んでこれ何処に行くんだ?』

 

 

『え?どこも行かないよ?全部お空で食べて証拠隠滅する』

 

 

『は?なんで?』

 

 

『だって俺免許持ってないし。この前黒津木に聞いたらそもそもこれ違法っぽいって言われたから』

 

 

『』

 

 

ゴルシ()

 

 

「.........!!!おっとゴールドシップ!!!少し減速したか!!!中団の先頭まで下がって行ってしまったぞ!!!」

 

 

 

 

 

フェスタ(何やってんだアイツ.........)

 

 

 少しダレた様な走りをするゴールドシップ。予測するなら、余計なこと思い出してゲンナリしたんだろう。アイツはそういう所があるから不思議な事じゃない。

 だがこれはナンセンスだ。喝を入れてでも元に戻してやりたいが.........

 

 

オルフェ「フーッ.........!!!フーッ.........!!!」

 

 

フェスタ(.........こっちの手網を握るので精一杯なんだよなぁ)

 

 

 今動けば確実に[解き放つ]事になっちまう。今はまだその時じゃねぇ.........

 

 

 [三冠]を手にする者。それが出てくる事は[読めていた]。こうなるのは想定外だったが.........アタシにもそれ相応の[武器]がある。

 突くとするならば.........まだ先。思考に満たない[予感]。そこだ。

 

 

フェスタ(ケッ.........こうして走ってみると分かる)

 

 

フェスタ(アンタら全員、[良い子ちゃん]だってな)

 

 

フェスタ(アウトローレース.........その真髄を見せてやらァ)

 

 

 

 

 

「隊列はやや長め。リードは5番。そして3番が作り、レースの形を作って行きます」

 

 

「ククク、見たまえよ。あの形成。あれこそ正しく、[シンボリルドルフ]が得意とする[黄金隊列]さ」

 

 

桜木「.........」

 

 

 ―――レースは着々と進んで行く。奴が言った通り、彼女の今の位置を見れば負けを考えてしまう程の位置に居る。先行、3番手。これ以上に良いポジションは無い。

 .........だが、コイツは何か[勘違い]をしている。

 

 

桜木「.........シンボリルドルフは[ステイヤー]だ。その真価は[長距離]でこそ発揮される」

 

 

桜木「確かに中距離で同じ事は出来るだろう。だがこれは.........ナンセンスだ。貴様の作戦か?」

 

 

「いかにも」

 

 

桜木「フッ、[ごっこ遊び]か?[トレーナーもどき]」

 

 

「.........君、まさか僕が怒らないタイプの人間だとでも思っているのかい?」

 

 

桜木「おや.........[人間]?聞き間違いか?俺が相手にしているのは[神様]じゃないか?もしやここに他に人が.........っ」

 

 

 ゆっくりと俺の前に立ち、手探りな様子で胸倉を掴み持ち上げてくる。力は十全にある。花道くん本来の物か、或いは[IMUNI]を使い、リミッターを外しているのか.........定かでは無い。

 奴の瞳。奥に居る[存在]に嘲笑する。借り物の身体。借り物の[願望器]。どこまで行っても他人の物。それを欲しがる様は正に[人の子(糞餓鬼)]だ。

 

 

桜木「貴様に[次は無い]。だから教えてやろう」

 

 

桜木「[中距離戦]こそ最も[ワンマンプレイ]が出来んフィールドなのだ」

 

 

桜木「隊列の位置、形、各々の配置。その全てがどのレース以上に確率がバラける。序盤でコレだ。中盤終盤の手札は出す順番が違うだけで勝利者はゴロッと変わる」

 

 

桜木「[チーム戦]に[向かん]のだよ。事[中距離]に置いては。足の引っ張り合いにしかならん」

 

 

 チームを構築する上で最も重視すべきは[誰が強いか]ではない。[誰が勝てるか]なのだ。三冠バは大きなアドバンテージだろう。だからといって三人諸共ぶつけてくるのは下手くそがやる事だ。

 それにあの様子では.........闘志に当てられて空中分解するのは目に見えている。相手は三冠保持者と言えど、所詮は一人の[アスリート]にならない。

 

 

桜木「.........だが一人、その[中距離チームレース]を勝ち続けた子が居る」

 

 

「.........!まさか―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[うちの孫]は、俺の[勝負勘]を遥かに超えた才能がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおっと!!第4コーナー手前で大外から回ってくるのは[オルフェーヴル]ッッ!!!エンジンが掛かって来たのか!!!前に居るウマ娘達をゴボウ抜きだ!!!」

 

 

 .........動き始めた。戦局が、優位が、正に今。[獣]が檻から解き放たれた。

 

 

 息苦しさから開放される。奴はガラスに掌を当てて呆然と立ち尽くしている。

 

 

桜木「どうだ?引いたの牌は[川]に流したか?」

 

 

「っ、こんなのどうとでも無いさ。彼女達なら―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――他人の[可能性()]に縋るな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........なに?」

 

 

桜木「.........俺が貴様に教える、最初で最後の[トレーナー論]だ」

 

 

 [可能性]。生きとし生ける全ての存在に与えられた[自由の翼]であり、[縛り付ける鎖]でもある。

 人は誰しも手を伸ばせる。だがそれが届くか届かないかは分からない。それを語り、そして耳に届くのは[届いた者]の言葉だけ。届かなかった者はなり損ないの烙印を押され、ただの負け惜しみだと言われる。

 

 

 だが、人生と言うのは[多くの負け]の中に、一際輝く[少ない勝ち]を語る物だ。負けの言葉ほど人に染み込み、そして否定したくなる物は無い。

 

 

 [勝負事]に勝ち続けるのは[強者]だ。それに異論は無い。

 

 

 だが.........その[強者]に勝つのはいつの時代も―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[負けを知っている博打打ち]だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルドルフ(っ、上がってきたか.........!!!)

 

 

ナリブ(この[圧].........!!!やはり[本物].........!!!)

 

 

 ―――一人は唯一の[負け筋]を突かれ少し表情を険しい物にし、一人は[乾き]を潤す[好敵手]が出てきた事に喜び勇む。お互い、既にオルフェーヴルに意識が集中していた。

 [大外]から捲りをかけようとする大きな存在感。見逃す事は出来ない。

 

 

 .........だが。

 

 

フェスタ(.........―――)

 

 

シービー(.........!!?違うッッ!!![今じゃない]ッッッ!!!!!)

 

 

 一人後方で全体を見てきたミスターシービー。彼女は気付いた。自分の方に視線をやったナカヤマフェスタ。その瞳の奥に浮かぶ奇妙な[光]に.........

 

 

 何故彼女一人が気付けたのか。ルドルフの様に[負け筋]を潰さず、ブライアンの様に[固執]しない。[レースそのもの]を[楽しむ]彼女にとって、[勝ち筋]という物は彼女の無限に広がる[可能性]に他ならない。

 故に[タブー]を犯した時もあった。故に人々の[常識]を覆す時もあった。だからこそ、その瞳の奥に潜む[光]。[勝負事]に狂気じみた楽しみを見出すフェスタの[脅威]を知れたのだ。

 

 

 

 

 

フェスタ(―――アンタは釣れなかったか)

 

 

 ―――オルフェーヴルが上がって行く。それに気圧されて前の奴らはギアを一段階上げた。まだ最終コーナーは遠い。ナリタブライアンは兎も角、シンボリルドルフの戦略はこれで一旦崩す事が出来た。

 大外から上がって行くオル。アイツの制御をするのは久しぶりだが、中々上手く行った。やはりアタシはどこまで行っても[不良娘]らしい。

 

 

 背後にはミスターシービー。アタシの動向を見るようにまだ後方。大方作戦通りの[最後方強襲]。コーナー前で準備を整えて直線で抜く。ルドルフの[先行イン狙い]が上手くいかなかった時の保険だろう。ブライアンはそれすらも上手くいかなかった時に勝ち切る為の存在。

 

 

 なるほど。こうして見れば[負け筋]はしっかりと潰している。こうして見るとどこまで行っても[優等生].........[分かりやすいレース]だ。

 

 

 だからこそ、アンタらは容易に[勝ち筋]を[捨てられる]のさ。

 

 

シービー「ッ、チィッッ!!!」

 

 

フェスタ(っ、流石に良く見てきてやがんなァ!!!)

 

 

 オルフェーヴルに意識が一番向くその瞬間目掛けてスパートを掛ける。[オルフェスタ]の常套手段。公式レース以上にマークがキツイのが[アウトローレース]だ。

 チームのやりくりはアタシが良く知っている。あの不良どもをまとめて来たのは伊達じゃねぇ。

 

 

 穴はある。オルフェーヴルに気を取られた奴らの展開は少し乱れている。そこを出られればある程度話になるだろう。

 勝負は[1秒]も掛からない。その瞬間を感じ取るんだ.........!!!

 

 

 

 

 

「.........」

 

 

桜木「どうした?随分口数が減ったな?」

 

 

 ―――静かに。だが確かに焦りを感じている。奴の背中から感じる[圧]。それが明らかに弱々しくなってきているのが分かる。

 無理も無い。負けなど無いと思われていた[勝ち戦]。それをこれ程までに追い詰められている。[負け筋]を潰した事でそこから生まれる[想定外]すら潰し、安牌の[勝ち筋]を優先した結果がこれだ。

 

 

 [格下相手]であるならばそれで処理出来るだろう。だが、それに気付かない彼女達ではあるまい。

 

 

「有り得ない.........僕が.........[IMUNI]が間違っていたのか.........?」

 

 

桜木「言っただろう?貴様のは所詮[ごっこ遊び]だと」

 

 

桜木「大方[IMUNI]の[弱化認識催眠]。彼女達がバカ正直に貴様の言った事を実行しているのはそれだ」

 

 

「っ.........」

 

 

 [弱化認識催眠]。本来であるならば[介護用ロボットAI]にそんな物は必要無いと思われるだろう。

 しかし、[認知症]を主にした記憶障害。それを患った高齢者を安全に介護する為には必要不可欠。多くの議論が巻き起こったが、結局その機能は採用される事となった。

 

 

 時代の流れ。[超少子高齢化社会]と言えども若者の数は増えている。しかし、それを支える為の[中年層]は今のこの時代に生まれて来た者達だけだ。突然増える事も無く、それらが親の介護で職を離脱するという事は大きな社会問題に発展し、最終的に人材育成にすら手が回らなくなる自体へ発展しかけた。

 

 

 .........無論、思う事はある。しかし最早俺達はそこまで[進んでしまった]。後戻りなど出来ん。

 だが[この世界]は違う。誰も知る由もない未来の行く末を決めるのは玉座に座るだけの[神]でも、歩くことすらままならなくなった[老人]でも無い。

 

 

 リスクを冒してでも前に進もうとする[若人]のにだけ、その権利はある。

 

 

桜木「見て置くが良い。この[特等席]でな」

 

 

「おおっと!!最終コーナーから上がってきたのは[ゴールドシップ]!!!先程下がったのは単なるパフォーマンスだったか!!?」

 

 

桜木「さぁ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立直だ」

届いた(リーチ)........!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[引き当てた]。待ちに待った配牌。最後のピースに辿り着くための資格。それをようやく得ることが出来た。

 前に行くのはオルフェーヴル。盤面を掻き乱すのはゴールドシップ。いつか見た光景。腐っても鯛。全国に名を轟かせた[オルフェスタ]の走りは未だ健在って訳だ。

 そして皮肉な事に、アタシらが[三冠バ]相手にそれが出来るのは[公式レース]を走ってきたから。良くも悪くも[負けない為のレース]の日々はそれを出来るほどの経験と知恵をアタシらに授けた。

 

 

 さぁ、アンタらは何を[捨てる]?

 

 

 .........まぁ、もう[解る]けどな?

 

 

「[先頭]に立ったのは[シンボリルドルフ]!!![ナリタブライアン]は[内側]から仕掛けるつもりだ!!![ミスターシービー]もオルフェーヴルを追うように[大外]を回って上がって行く!!!」

 

 

 流石は[三冠バ]。後ろから抜く[走法]で勝ってきた経験はデカイ。コイツの存在がこのチームの[安定感]を底上げしてるのはよく分かった。

 

 

 だが.........[安定]を求めれば[吊り橋]は渡れない.........

 

 

「っ!!!最終コーナーに入って前に出てきたのは[ナカヤマフェスタ]だ!!!コーナリングで生じる隙間を狙っていたか!!!」

 

 

ルドルフ「っ!!!」

 

 

ナリブ「っ!チィッ!!!」

 

 

 [勝負事]ってのは残酷だ。勝ちを求めるなら[自由]は無い。決められた戦法。セオリーを追い求めて効率化を図る。それを固めた[理論武装]。どっちがより硬いかの勝負になって行く。

 それも良い。一発逆転もどちらかと言えばアタシの肌には合わない。毎度それをやっちゃ身体の方がガタがくる。

 

 

 けどな.........本当に[勝てる奴]ってのは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その[理論武装]を一早く[脱げる奴]なんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[ナカヤマフェスタ]!!!まさかまさかの大一番で勝ち星を挙げたのはナカヤマフェスタだ!!!」

 

 

フェスタ「はァ.........はァ.........っ!」

 

 

オル「!お姉ちゃん!!?」

 

 

フェスタ「ケホッケホッ!.........っぅあ。クソッ.........柄にもねェぜ。ったくよォ」

 

 

 ゴールの線を走り抜けた。アタシが一番早く。歓声を浴びる余裕も無く体力が尽きて倒れちまった。本当、柄にも無い。

 オルフェーヴルはすっかり元通りに戻った様だ。慌てた様子でアタシに肩を貸す。その様子をゴールドシップ。そして[三冠バ]様が汗だくの顔で見ていた。

 

 

ゴルシ「すげェ.........!すげェぜ姉ちゃんっ!!!ルドルフ達に勝っちまうなんて!!!」

 

 

フェスタ「バーカ.........アタシじゃ無ェよ。チーム戦に慣れてねェのが救いだっただけだ.........」

 

 

ゴルシ「〜〜〜!!!カッケ〜!!!さっすがチーム[オルフェスタ]のリーダーだぜ!!!」

 

 

二人「やめろ(やめて)」

 

 

 ったく。こちとらもう[不良娘]は飽き飽きしてんだ。確かに経験は役に立ったが、今後はもう二度と思い出したくも無い。

 それは隣のコイツも同じようで、少し怯えた表情で講義をしていた。コイツの場合、酒に酔ってレースでボコしに来たお袋でも思い出したんだろう。実力は分からんが、経験でいなされた感覚はあった。

 

 

フェスタ(.........まぁ、今回それをやったのはアタシの方か)

 

 

 心配そうに騒めく観客。それを安心させる為に顔を上げて手を挙げてやる。そうすると抑え込んでいた興奮を解放するみてぇにどっと歓声が挙がった。

 

 

ルドルフ「.........完敗だ。今日の事は良い学びになったよ」

 

 

ナリブ「[チームレース]。最初はどうかと思ったが.........個人とはまた違う[乾き]を感じれた」

 

 

シービー「ブライアンはもっと学んでも良いんじゃない?[ドリームトロフィー]で成績上げれば[プロ]になれるんだし、そこからは[チームレース]みたいな物でしょ?」

 

 

 今日の事を思い、悔しさを滲ませながらも相手を讃えようとするルドルフ。レースへの奥深さを新たに知り、どこか満足そうなブライアン。そしてどこかカラッとしたシービー。

 なるほど。三冠バと言っても、同じようなウマ娘は居ないってことか。

 

 

フェスタ「.........あっ。おいゴールドシップ。お前途中速度落としただろ?」

 

 

ゴルシ「ギクッ.........い、いやほら?なんつーかこう、思い出パワーっつうの?アタシもそれに憧れててさ〜?」

 

 

オル「で、でも後半凄かったよ?」

 

 

ゴルシ「!おうっ!!なんかマックちゃん思い出してさ〜。そしたら身体がぐわ〜ってなったんだよ!!!これが[絆]って奴なんだな.........」

 

 

二人(.........いやマックイーン(さん)に怒られるって思ったんじゃねえか(ない)?)

 

 

 一人しんみりしながら空を見上げるゴールドシップ。もしこの場にマックイーンが居たら怒髪天を衝く勢いで怒られていただろう。レースでそんな事をするんじゃない。とか何とか.........

 

 

フェスタ(.........それを言っちまうと、アタシも[同じ]か)

 

 

 そんなつもりは無かった。誰かの掌の上で仕組まれた勝負なんざ真っ平御免だ。アタシがいくら[勝負狂い]だとは言え良い気はしねぇ。今回だってゲートに立つ頃にはおっさんに良い様に誘導されたと悟っちまった。

 最初はふざけんなって思ったさ。ようやく.........ようやく何の気兼ねも無く[アタシ自身]を賭ける事が出来る舞台が整ったと思っていた所に、だ。誰だって反発くらいするだろう?

 

 

 .........でも。

 

 

フェスタ([アンタ]はそんなアタシですら、[持ち駒]にしちまう位に[勝ちたい]んだろう?)

 

 

 観客席に居るチームメンバー。嬉しそうに手を振っているアイツ.........屈託の無い笑顔を見せているが、その内心。どうなっている事やら.........

 何がなんでも[勝つ]。それを一心に何でもする。アイツは[勝負師]だ。アタシ以上の視野と爺さん以上の戦略性がある。

 

 

 思う所が無い訳じゃねぇ。ただ.........

 

 

フェスタ(アンタらの[夢]を、終わらせる訳には行かねぇからな.........)

 

 

 ここまで来たんだ。それが良く分からねぇ有象無象に引っ掻き回されてはいおしまい。ってのは話を聞いてるアタシからしても気分が悪い。

 だから.........これくらいの手助けはしてやろうと思っただけだ。

 

 

フェスタ「あぁクソ.........しばらく動けねぇなこりゃ.........」

 

 

ルドルフ「私も肩を貸そう。迷惑を掛けている手前、何かしないと気が済まないのでな」

 

 

フェスタ「.........へっ、どうも」

 

 

「無事中距離レースを終え、選手達が地下バ道へと帰っていきます!!!皆様!!!盛大な拍手を―――!!!」

 

 

「―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや〜熱い試合だったね〜』

 

 

サニー「.........ああ」

 

 

 隣で浮き続ける奴を見る。どこか呑気そうな顔をして空を見上げているが.........その目の鋭さまでは隠せていない。流石にこんだけ長く居りゃ分かってくる。

 コイツの表層。言うなれば[仮面]。ちゃんと見りゃ歪で気色悪いが、それでもコイツの本心はそうじゃないってのは分かる。

 

 

『はぁぁぁ.........』

 

 

『!マックイーンおかえり〜!!どう?ゴールドシップ達は?』

 

 

『どうしたもこうしたも.........!!!あの人が速度を落とした瞬間肝が冷えましたわ!!!』

 

 

『最悪バ群に沈みそうになって.........思わず怒ってしまいました.........』

 

 

サニー(.........大変だったんだな)

 

 

 先程の事を思い出して怒り出したかと思えば、自分が怒ってしまった事に対して申し訳なさそうにシュンとしている。姿など見えないだろうに、気にしなければ良いだろう。

 .........やっぱり[変]だ。アイツがこの身体に戻るのに時間が掛かるのに、オレが戻る時はすんなり入る事が出来る.........何が起きてるんだ.........

 

 

『.........まぁいいじゃない?その分[身体]が応えてくれるさ』

 

 

サニー(.........呑気なもンだぜ。全く)

 

 

 考えても仕方がねェってのは分かる。けどどうしても考えなきゃいけねェって、そう思っちまう。今[答え]を出さなきゃ.........[後悔]する。

 そンなオレの事なンて気にせずに、奴は鼻歌混じりに帰ってくるアイツらを出迎える為にこの[身体]から離れて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――アナタに[使命]を与えるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サニー(.........これが[それ]じゃねェってのは、テメェにも分かンだろ)

 

 

 オレをこの[世界]に縛り付けた張本人。その言葉を思い出す。今のこの状況が決められていた訳が無い。[イレギュラー]な筈だ。だと言うのに、あの[夢]から一切音沙汰が無い。

 

 

 このまま進ンじまって良いのか.........オレらしくもなく弱気な思考を巡らせながらも、その時間は刻一刻と迫っていく.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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