山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
0と1で視界が構成されていく。2進数だけの世界。はいかいいえで答えを強制される空間。用意されたシナリオ以外は存在しない。
それがインターネット。人が作り出した非現実的でありながら、現実以上の苛烈さと中毒性のある、擬似的な生きた心地を体感させる場所。
やがて視界が明瞭となり、安定していく。暗い空間に俺は一人座っている。やるべき事は分かっている。
起動シーケンスの流れ。天井にあるスイッチを順に上げていき、その隣にある引き手のロックを解除。それを掴んで引き、パスワードを打ち込む。
このパスワードによって使用機体が変わるという、なんとも凝ったシステム。没入感を重視するSEG〇。最早その手の世界では老舗と読んでも過言ではないだろう。
俺が打ち込んだのは.........[IRIA]。勿論、俺が使い込んだ愛機。使わない訳が無い。
引手が自動的に天井に戻って行き、やがて空間が明るくなっていく。隣の壁面から[板]が出てきてテーブルの様に俺の前へと降りてくると、それがキーボードとしての機能を果たし始める。
ビール「[CTZ-258:コルニス=テクトリカ].........」
誰に言うでもなく、自分に問いかける。コックピット内は以前座った[玩具]ではなく、完全な[戦闘用]として顕現している。未来世界の[生成AI]とは、何とも恐ろしい物だ。
ビール「.........果たして、俺に扱えるのか.........」
いつに無く弱音を吐く。手元のキーボードで武装の確認。エンジン出力。弾薬数の確認を済ませる。
.........何を今更。ここに座ろうとしたのは俺だ。他の奴には任せられないだろう。
キーボード版の背面には一枚の大きな感圧版が付けられており、それを押すと自動的に持ち上げられ、側面の窪みへと縦に入り込み、目立たない壁となる。
目の前には二つの穴。その下から小さいレールの様な物が設置されて居る。[Cosmic.Down:Fall]のPVではここに操縦桿が収納されており、それを掴んで縦方向に回した後、レール上に引き上げていた。
.........結局。俺は変わらない。どこまで行っても事ゲームとなると熱くなって心を踊らせてしまう子供だ。
だったら、その先の言葉は自ずと出てくる.........
ビール「.........[やってみせるさ]」
狭苦しいと感じていた空間が、操縦桿を引き上げると共に拡張されて行く。前面にしか無かったモニターも外壁が全て後ろに回って行き、視界全体。上も下も、左右までも全てが外界の様子を確認出来るものとなる。
薄暗い空間のそこかしこに青いラインが走って行く。やがて全てが行くべき場所に辿り着き、コックピット内が明るくなって行く。
モニターに映る外の景色と共にUIが現れ、現状の機体状態を確認させてくれる。顔面全体を覆う[強化ウィンドウ]。カメラを守る為のそれが内側の青い光で満たされている。
.........と。ここで装備選択か。今回は本気の本気。ガチガチに固めて行かないとな.........
ビール「操作方法は変わってないでくれよ.........」
『システムオールグリーン。機体稼働率、98、99、100、パイロットに発進権を譲渡』
そうそう。この感じだ.........この感覚が、この高揚感こそが、[Cosmic.Down:Fall]だ。
ビール「よろしくな。[IЯIA]」
『.........』
ビール「.........あれ?IЯIA?IЯIAさん!!?」
俺の問いかけに何も反応しない。そんなことは無い。彼女はゲーム内AIだが、しっかりと設定通りに特別に作り込まれている。独立した存在なんだ。
ま、前にかなり仲良くなって、雑談する位にはなってるってのに.........
ま、まさかこれ、別個た―――
桜木「何をボサっとしているッッ!!![奴]に気付かれたッッ!!!こっちで送信するぞッッッ!!!!!」
ビール「はっ!!?ま、待て!!!こっちにも色々準備ってもんが―――」
―――突如、逡巡する間もなく機体が勢い良く前へと発進する。閉じられたハッチが開かれたと同時にスレスレで外へと飛び出していく身体。
ビール「ぐ、ぎぎ.........!!?」
ビール(な、何だこれ.........!!?マジのGなのか.........!!?押し潰されそうだ.........!!!)
『―――[情報圧]です』
ビール「!」
発進シーケンスから一切言葉を発さなかった存在。[IЯIA]が話し掛けてくる。その説明に耳を傾けようとするが、あまりの衝撃でそれどころでは無い。
頭が壊れそうだ。これは.........俺の身体が[逃げている].........?そうだ。目に見えない[情報]から、本能的に逃げようとして、有り得ない力が働いているんだ.........
『.........私の声を聞ける状態での電子空間戦闘は非効率的です。貴方のシステムをOFFにする事を推奨します』
ビール(や、やっぱりコイツ!!!俺と一緒にゲームしてきたIЯIAじゃない―――)
情報に押し潰されながらも、混濁する思考の渦にその解を投げ込んだ。
加速する視界。圧迫感から込み上げる恐怖。止めろと言われて止められる訳が無い。AIとの連携。必要なのは対話。[声]が聞けなくなればそれすらも出来ない。
.........やるしか、無い。
手探りで見えない現実の手を動かす。手に当たる箱の感触だけを頼りにそれを開け、中の駄菓子を口に咥える。
ビール(クソ.........目の前.........目の前の、集中だ.........)
ーーー
『報告。マザーチップからの通信が途絶。制御権を奪取されました』
「.........」
目の前に現れた板。今の子供達は[ウィンドウ]と言う物が開かれ、英語で色々と報告が表示されて行く。
予想はしていた。彼が気絶させて終わらせる訳が無い。必ず、僕と彼。そして[IMUNI]との繋がりを[断つ]。そうしてくると踏んでいた。
.........だがもう少し掛かると思っていたが。
『時空間に歪な揺痕を確認。移動の可能性が高いです』
「なるほど、戻って色々持ってきたのか.........それじゃあこちらも、[向かい打つ]しか無いよね?」
『マザーチップであった物からオンライン状態を確認。正体不明のプログラムソフトが起動しています。解析。判明。[トロイの木馬]』
「ふふ、確かにこの時代では厄介なウイルスプログラムだけど、君なら何とか出来るでしょ?」
『現在稼働率58%。完全クリア想定、10分28秒52となります』
うーん。やっぱり遅くなるよね〜。メンテナンスの都合上、この世界にある部品で構成しないと行けないし、その上他の電子機器が使える程度にダウングレードさせてなきゃ行けない。
唯一彼の[マザーチップ]だけはナノマシン式チップだから頼りにさせてもらっていたんだけど.........こうされると基本、型落ちスペックなんだよね。
『.........報告。トロイの木馬が正体不明の[AI]と共にこちらにインストールされ始めています』
「ふーん?解析は?」
『不明。データベースに存在しないAIです。類似AIは[第五世代AI]。[AIRI]と非常に特徴が合致しています』
「AIRIか.........第五世代の始まり。手強そうだね。よし分かった。それを[代替]にしよっか」
『かしこまりました。[ネットワーク構築権]を使用し、プログラムの書き換えを不可能にさせます』
「お願いね〜」
本当、良い物を作った物だよ。僕の子供達は優秀だ。生身の肉体ほど現世の干渉力は無いけれど、それを瑣末な物と感じる程に良く働いてくれる。
0と1。どう足掻いても単なる天才には辿り着けない境地.........絶えず思考し解を見つける彼等は正に、肉体を持たない神様そのものだ。
.........だから、[僕]が使ってあげる。
『―――報告。敵性AIに[人的思考]を確認。同乗者が存在します』
「そっかそっか。じゃあ、[同じ事]してみる?」
『[トロイの木馬]の情報量は人体脳に重大なダメージを与えます。よろしいのですか?』
「構わないよ。もう要らないし、生きていたら[使ってあげなくもない]」
なるほど。奇想天外な発想。僕だけであったら飲み込まれて有耶無耶にされていたかもしれない。神と言えど、無機物じゃない。
でも今君達が迎え撃っているのは[神に近しい存在]。第五世代の[最先端]だ。それが本物の[神]と手を組んでいる事を忘れて貰っては困る。
これ以上、侮られては溜まったものじゃない。
『―――警告。トロイの木馬が侵食を開始』
ビール「えっ!!?何それ!!?誤爆したって事!!?」
『システムを切って下さい』
ビール「いや、連携を取るためには―――」
『[切れッッッ!!!!!]』
―――電子の宙を漂っている最中、突然IЯIAにそう告げられた。
瞬間。頭の中で電流が走った感覚がする。
意識を外そうとしたが、遅かった.........
さっきのと比べ物にならない程の濁流。渦なんかじゃない。傍から見ているだけで、[死]を予感させる波.........[津波]。自分の身の丈すら多い尽くし、自分の旅路ですら流し潰してしまう程の巨大な.........波.........
「―――」
「―――聞こえるかな?聞こえてるよね。今どんな感じかな?苦しいかい?」
―――微動だにしないプログラム。インストールの始まったそれは現在、約15%で止まっている。[IMUNI]にまだ刃先が届いていない状態。
そんな中、響く声。それに耳を傾けているのか居ないのか。廃人と化したのか、ただひたすら耐えているのかすら分からない。桜木の状態は、外からも内からも、同伴する[IЯIA]にすら把握出来ていない。
やがてその目の前に、巨大な要塞が現れる。幾万の防衛隊。[ウイルスバスター]を引き連れて。
「運がいいね。君は本当。死ななかったんだ。トロイの木馬はその情報展開によって高性能コンピュータですら殺してしまう」
「でも君は[生きている]。[守られている]んだよ。[運命]に」
「―――」
黙り続ける桜木に諭すように話し掛ける。まるで[親]が[子]へ教えを説くように、優しく、そして自分の目的地に誘導する様に。
それでも尚、押し黙る。それを受け入れ、アニマは言葉を続ける。
「考えてもみてよ。こんなの[合理的]じゃない。君が[命を掛ける]必要は無い。ここで帰れば良いんだ。帰って一言、[謝れば良い]。いつも通り、失敗を認めて、許しを乞えば、それだけで君は帰れるんだ。[日常]に」
「嫌だろう?こんな[ゲーム]みたいな形で、むざむざと[死ぬ]のは.........」
先程までの空気では無い。バカ騒ぎをし、相手を乱し、その隙を狩る。まるで夜襲を仕掛ける様な戦略。しかしそれが出来る空間では無い。
ただひたすらに、狩る者と狩られる者。その二つに分けられる。0と1。二進数的空間では、極端な分けられ方しか出来ない。
.........だが。
―――ガリ、ガリ、ガリ.........
―――ボウ...ジリリリ.........
「―――フーーー.........」
「[今更]だな」
刹那であった。動きも何も無い空間で動き出したのは他でも無い。桜木だった。
武装の射撃口を全て向け、その全てから攻撃を発する。止めるという思考すら覚束無い。アニマ所か[IMUNI]。そして[IЯIA]ですら、その行動を妨害する事も、支援する事も出来なかった。
「ククク.........やっぱアンタは[神様]だ」
「[神様は賽子を振らない]。だから、その賽子に[命を賭けられない]」
「な、にを.........」
「賭ければ賭ける程実感する。[生きる]という事。勝負さえ出来れば、人はそれを実感する」
「負けて生を実感する奴も居れば、勝って終わりを悟る奴も居る」
先程と打って変わっての饒舌。あまりの変貌にアニマは困惑する。何が起きているのか。ただそれを知りたいがために、その手に[鎖]を出現させ、電子越しに桜木に伸ばす。
繋がる。見える。感じる。彼に雪崩込む情報。その濁流。未だ衰える事を知らない。しかし、中心に[渦巻く]。情報の渦。
それが何なのか。それを探ろうとした時、その[渦]が.........[瞳]となる。
浮かび上がるは、面白い玩具に夢中となる子供の無邪気さを思わせる狂気じみた笑顔の少女。
「ゲームでも何でも良い。終わり方もどうでも良い。俺自身が納得出来るんだったら、俺は俺に引導を渡せる」
「外付けの[香り]より、ぎっしり詰まった[中身]があるんだ。[それで良い]」
―――狂ってる.........彼は.........やはり[一直線]に[合致]している.........
外してしまった。[仮面]を。裏の裏。仮面を剥がれ、化粧を落とした先の[道化師].........それが、[桜木 玲皇].........!!!
「そ.........そんな事で.........!!?たった一つの[命]を[掛ける]って言うのか!!?」
「アンタもやらせてきたんだろ?たった一つの[命]を[賭け]、幾万、幾億もの[命の行先]を左右させる」
「不条理こそ本質。ぬるま湯に浸かっていても、どこか理解している。それが[人間]」
「怒り。憎しみ。嫉妬。僻み。嫌悪。その匂いを染み付かせていても、[物語の本質]は単純。それは明白」
「神様にだって頼れない。そんな場面がある事を、[俺達]は知っている」
薄ら寒い笑みが見える。あの時老獪のそれと思わされたそれは、奴が飼い慣らした[狂気]なのだと今更知る。
(―――君は、君達は一体、どこまで.........!!!)
―――前のめりになる男。玉座には最早座っているとは言えない状態。肘置きを握り潰す程の力強さで怒りを顕にする。理解を超えた存在。自らの手から離れた[それ]を、彼は[人間]だと受け入れられないでいる。
そんな事など露知らず、これ好機とばかりに口に咥えた物を綺麗にされた小皿にグリグリと押し付ける少女。
インモラルな情景。しかし少女は暇なく駄菓子の箱の隣に置いてある箱から一本、振って取り出し口に咥える。
「良いね。ゲーセンだとここで吸えないから、いつもより気が楽になる」
まぁ、約束を破ってるのは罪悪感だけど。と自嘲気味に呟きながらライターで火を付け、自身の体制を万全にする。
この間、10秒もない。手馴れた動作でそれをし、気付けば片手で縦横無尽に駆け回り、1/4の敵を一掃していた。
左肩と左手に着いた武装。四連装ミサイルと二連電磁レール砲。たったそれだけで敵を一掃している。
しかし、視界に広がるのはまだ多い敵の姿。流石に面倒だと思ったのだろう。少女は溜め込んだ息と共に紫煙を吐き出しながら右手で壁を殴る。
「iЯIA。交代。武装の制御だけ任せる。他はいつも通りの権限ね」
『かしこまりました。武装行使権限譲渡確認。きどう、キドウ、起動―――』
―――機体に走る青い蛍光ラインがエメラルドに染まっていく。少女は煙を口から吹かしながら両手で操縦桿を握る。
それを黙って見ている訳も無い。[IMUNI]が主導権を持つウイルスバスターはその外敵を排除する為に攻撃を仕掛ける。
誘導。直線。殲滅。それらが入り交じりながら機体に向かって飛んでいく。
雨のような、嵐にも見えるその粒の流線の中を動く。人の手によって、人の身体の様に、人には出来ない動き方で避けて行く。
IЯIAはその動きに心地良さを感じる。ストレスの無い、指示の必要のない動き。ああしていればと思うことさえない。完璧な動き。
だと言うのに少女はどこかつまらなさそうな表情で黙々と避けて行く。IЯIAは刻刻と標的を打ち続けて行く。
『残弾数。残り20。物資を要求』
「ふーん。おーい。トロイの木馬一丁〜」
神威「了解ッッッ!!!!!ぁ」
黒津木「.........?あッッッ!!!??コイツPCアプデし始めたぞ!!!??」
桜木「殺されてェのかァッッッ!!!!!」ガバッ!!!
神威「ぁぁあぁぁああああやってないッッッ!!!??やってないやってないやってないッッッ!!!!!(アプデ操作)」
「.........ダメみたい。まぁいいじゃない。気楽に行こうよ。気楽にさ」
外から聞こえてくる阿鼻叫喚。そんな事に気を向けず、少女はひたすらに目の前の事を考える。
回避行動の質は変わらない。しかし、それに付随する撃墜力は激減していた。それに目を付けない相手では無い。
「IMUNIッッ!!!インストール率はッッ!!?」
『現在、43%。ウイルスの侵入力が想定より高いです』
「どういう事だ.........!!!」
トロイの木馬。対策法を知っていればある程度カバーが出来るコンピュータウイルス。だと言うのに、IMUNIはそれに手こずっている。
その事実に爪を噛みながら分析するアニマ。明らかに[それだけじゃない]。目の前以外、その周囲以外の[何か]が絡んでいる。彼はそう睨んだ。
「何はともあれ、まずは目の前のアレを倒す.........!!!」
「.........ねぇ?そんなに気になる?残弾数?」
『残り10発。作戦の成功率は低い状態です。近接装備はありますが、現在よりも成功の可能性はありません』
激しくなる激戦。向かってくる敵機の数は減らない。その理由は倒すべき敵を選別している為。無闇矢鱈に倒すのでは無く、必要最低限を倒し、目的を達成する。IЯIAは彼ならばそれが出来ると踏み、彼の想定外の動きをし続ける。
「.........IЯIA。良い事を教えてあげる」
「[残り物に副なんか無い]。特に、[腐りかけ]は」
『何を―――』
「アグニじゃないけど、これは効くよ」
避けていた機体がその身を翻して身体の前面を全て敵に向ける。正に格好の的。打って付けのチャンス。相手方はこれを待っていた。
IMUNIは計算していた。彼の行動パターンを。人の手によって作り出された物はある種[遺伝的パターン]を内包している。統計的に、生物学的に。
よって、それを潰さんと多くの敵機が押し寄せる。前方から放射状。そして収束する形で機体に敵機が視線を向け、身体を動かし、照準を合わせる。
それよりも早く、[撃つ]―――
「.........何が、起きた.........?」
『伝達。ウイルスバスターの機能不全。トロイの木馬感染。正常なアプリケーション動作を行え無い事を予測。アンインストール致しました』
―――眩い光.........それが、辺り一面を包んだ。それだけだった。たったそれだけで、僕達の防壁は簡単に崩れ去ってしまった。
けれど彼はまだ生きている。体勢を立て直さなければならない。急いで状況を視認する。
電子世界に残っているのは、たった一機だけ。あの[機体]だ.........!!!
「.........く、ははっ.........!!!ボロボロじゃないか.........!!!」
そう。確かに残っているのはアレだけ。でもどこからどう見てももう大した力も残っていない。オーバーヒートだ。向かってくる程馬鹿じゃない筈だ。
「分かった。痛み分けと行こう。お互い今日はここで終わりにしないか?」
.........深い沈黙。迷っている。彼もここに来てようやく普通の感性を見せ始めている。そりゃそうだ。本来[死]なんて遠い物だ。感じれば感じる程[生]を実感するだなんておかしい話だ。
彼は必ず飲む.........飲まざるを得ない.........!!!
「.........はぁぁぁ〜〜〜???」
―――少女は表情を歪めた。その言葉に[覚悟]は無かった。やはり[神]。土俵には上がらない。分かっていた事だが、未だ自分達を下に見ているその存在に心底軽蔑をした。
ビール「IЯIA。[換装]」
『!了解』
「なっ.........!!?待て!!!まだこっちには戦力がある!!!ここで引けば君も無事に―――」
ビール「黙れ」
重く響く言葉。その先に続く言葉は無い。静かに重々しい機体に装着されたパーツが外れて行く。
宙に放り投げられるパーツの節々。その中に格納されていた[剣]と[マント]を取り出し、右手に持って首元に付ける。
一度雌雄を決する為に始められた物。投げられた賽の目をハッキリさせるまでが勝負。それを目に焼き付けられれば[死]すら恐れない。[勝負師]とはそういう事。
だが、少女はそれをひっくり返された事に腹を立てた訳では無い。
ビール「―――テメェは」
「.........?」
ビール「テメェは一体、どれだけの人の[勝負]に、そうやって[待った]を掛けた?」
ビール「その[戯言]に耳を貸した[優しい奴]を、一体どれだけ[狩ってきた]?」
ビール「俺が賭けてんのは[命]だ。けど、俺に[賭けられてる]のは―――」
「―――たった一度切りの[青春]なんだよッッッ!!!!!」
―――煮えくり立つ腸の熱。それを腕に伝えて操縦桿を前へと押し出す。コイツだけは許しちゃ行けない。ガキはガキでもやっていい事と悪い事がある。それだけはハッキリさせなければ行けない。
惜しい。ああ、もう[命が惜しい]。こんな奴相手に正々堂々の勝負が出来ると思っていた俺が間違っていた。土俵に爪先すら入っていない奴に端から勝負なんて物が出来る訳が無かった。
スラスターを全開に、システム連結されたシートベルトが強く俺の身体を引き締める。巨大な船に向かって、その刃を突き立てる。
[エンドソード]。黒い刀身の鋭い刃が向かって行く。奴はまだ反応出来ていない。
これで―――
「ッ!!?撃てェェェェ―――ッッッ!!!!!」
―――刃が船にめり込んだ瞬間。同時に本体の攻撃が放たれる。IMUNI独自の思考演算。即興的に作り上げられた防衛プログラムによってもたらされる光。それに機体は、完全に包まれた.........
「.........く、ククク.........ハハハハハ.........!!!見たかいIMUNI!!?勝ったんだ!!!僕は勝ったんだ!!!」
「何が[勝負]だ!!!そんなの、君達の理屈じゃないか!!!僕は[勝負]をしに来たんじゃない!!![勝利]しに来たんだ!!!」
「世の中全てが二分化されるッッ!!!君達は全て、僕に[負ける運命]にあるんだッッッ!!!!!」
電子空間に響き渡る笑い声。それに反応を示す者は誰も居ない。ただひたすらに、絶え間なく、暇なく続いて行く。
それが途切れたのは、アニマが光の先にある[別の光]を視認した時だった。
「.........?」
「―――人の[
「な―――」
光の先に薄く見える[蒼碧]。その[双眸]。それが見えた瞬間。目の前に分厚く存在する全てを書き換える光すら貫く様に[左手]が突き出されて居る。
ビール「[勝利の女神]に蹴られて消えろォォォォ―――ッッッ!!!!!」
二連電磁レール砲。それを放てるスペックを誇る左手が換装パーツを外してお役御免。となる訳が無い。
全てのバリア防壁を無効化し、機体に直接干渉を図る事の出来る唯一の兵装。[ブーストバンカー]が標準搭載されている。
ビール「俺のこの手が弾けて穿つッッッ!!!!!」
ビール「勝負を決せと貫き吠えるッッッ!!!!!」
ビール「ブゥゥゥストォォォォ―――ッッッ!!!!!」
「や、やめ―――」
「バンッッッカァァァァ―――ッッッ!!!!!」
ーーー
ビール「―――っと。ふぅ.........」
ヘッドギアを外して首を振る。長い髪が解かれて行くのを感じる。汗を拭ってから外へ出ると、白銀もヘッドギアを外してPCにのめり込む三人の後ろからそれを覗き込んでいた。
桜木「良くやった。後は楽勝だ」
ビール「[楽勝]って、たかが[トロイの木馬]だろ?厄介つっても今どき対策も出来るレベルだし、太刀打ち出来ねぇんじゃねぇの?」
桜木「案ずるな。[トロイの木馬]の形をした[別のAI]だ」
ビール「.........は?」
「IMUNI!!!おいIMUNIッッ!!!」
―――無反応を貫くAI。トロイの木馬が完全にインストールされてしまった。だからと言ってうんともすんとも言わないのは流石に変だ。
何かがおかしい。そう思い問い掛け続けていると、やっと返答が帰ってきた。
『.........起動。起動。起動―――』
『オオ。ココガ新シイロボ爺ヤノマイホームカ?』
ビール「な.........?」
神威「お.........?」
黒津木「うわ.........」
白銀「.........ん?」
「.........ゑ?」
ウインドウの代わりに出てきたのは古臭いポリゴンの生首(脳トレみたいな感じ)物。それもメジロ家の爺やに酷似している存在が浮かび上がる。
そしてテキスト文の様な形で、桜木のPCにそのやり取りが浮かび上がる。
桜木(ククク.........生成されたAIは必ず届出を出し、廃棄するにも正規の手順を踏んで役所に申請しなければならない)
桜木(だが奴を[IMUNI]にすげ替えれば簡単。計画が破綻したとして[IMUNI]として処分出来る.........!!!)
桜木(さようなら、
「き、君は何だ!!?」
『ロボ爺ヤハ最新テクノロジーノAIト[白銀 翔也]ノ思考的ハイブリッド。ツマリ、[第六世代AI]ダ』
『大変ダッタゾ。[IMUNI]ノ心象操作ヲ改変スルノ。許サナイカラナ』
「な、何をしたんだ!!?一体どうやって.........!!?」
『マズ駄目オリジナルノ冤罪ヲ証明シタゾ。ロボ爺ヤニ掛カレバ簡単ダ』
『ア、ソレトカスノ印象モ最悪カラ[無]ニシタゾ』
全員「なんて事を.........」
全員が同じ言葉を呟く。一人は計画の破綻。他は白銀翔也の解放。白銀は桜木のバッシングが無くなったのが不服だったようだ。
そんな事も気に止めず、ロボ爺やは話を続ける。
『ココニキタノハ[IMUNI]ヲ完全二破壊シニ来タカラダ』
「.........く、ククク。どうやって?いくらウイルスと言えどそんな事は出来まい。完全自動生成型だ。自己修復など幾らでも出来る」
『ソノ根本ヲ破壊スルノダ。ソノ為ノ[ゲスト]ヲ紹介シヨウ』
『初めまして。私はAI〇べりすとです』
四人()ゾアッ
白銀「の〇りすと?」
ロボ爺やが招き入れたゲストの名前を聞いた瞬間。白銀以外の人間が身の毛をよだたせて冷たい汗を吹き出させた。
それは正に、初めてGTロボと邂逅を果たしたトリコとココの様な状態であった。
『ノベリスト。オ前ノ考エタ最強ノ[ウイルス]ヲ教エロ』
『ハイ。私の考えられる最強のAI破壊ウイルスは―――』
『―――〇〇さんです』
ビール「お前精神状態おかしいよ.........」
神威「こっちにも衝撃が来たァ!!!」
黒津木「これマジ?」
桜木(ば、バカな.........!!![IMUNI]の防御プロトコルは自動生成によって数秒単位で根本からコードごと変わる!!!AIのべりすとを連れ込める訳が無い!!!)
白銀「拓〇って誰?」
画面の前で騒がしくなる男達。それを尻目に話を進めていくAI達。ただひたすらに嫌な汗を流し、打開策が無いかを思案するアニマ。その場を表現するのならば正に[カオス]であった。
『.........ウワ。〇也トカイウ奴ヤバイナ。ソレデ?ソノウイルスハ何ヲスルンダ?』
『はい。ウイルス〇〇さんに感染したAIは全て〇〇さんになります』
『ハ?ヤバ』
『警告。コードの書き換えを確認。防衛プログラム起動。起動不可確認。強制シャットダウン開始。不可。不可。不可―――』
『―――ヌゥン!!!ヘッ!!!ヘッ!!!ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!!!(完全に書き換えられていくコード)』
『―――ウッス(書き換え完了)』
―――画面上に表示された言葉。それを見た瞬間に俺達は、この後の惨劇を簡単に予測する事が出来た。
まず、ウイルスという事で機械でしょう。と意味不明な事をのたまったのべっち。その通りにロボ爺やがコードを追加した。その瞬間に変形しロボ形態となるアレ。
つまり、[
海は出てくるし火星は落ちてくるしイルカやら新種のピクミンやらウニやらが何度も出てきてアニマを追い込んで行く。そしてその過程で最早100を下らない数死んでる扱いされるアレ。俺達が見てきた物と何も変わってない。
桜木「そ、そんな.........!!!」
神威「こ、こんなんじゃ.........!!!」
黒津木「い、[IMUNI]じゃなくて.........!!!」
ビール「[
そして遂にアニマは、俺達に助けを求めた。
「!た、頼む!!!助け―――」
―――パタン.........
.........俺達は無言でノートパソコンを閉じた。
白銀「.........何か可哀想じゃね?」
四人「.........」
同意見である。今まで相手が俺達に対して悪い事をしてきたからと言って、この所業は余りある物だ。俺達が死んだ時、閻魔大王から判決を言い渡される時は覚悟しておいた方がいいくらいだ。
.........だが、最早俺達の中で[解]。いや、アレが出てきた時点で、出てくる[言葉]は、決まっていた.........
「「「「知らねーよ。そんなの」」」」
......To be continued