山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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お友達「気付いたら[身体]を手に入れてウマ娘になった話」

 

 

 

 

 

 

 ―――ゆっくりと視界が安定して行く。歪んでいた世界がまるで、[本物の目]を持っているかのように澄んで行く。見えては行けない者。見たくは無い物。それらが全てシャットアウトされる。借り物の[目]ではどうにも手に負えなかった[それ]が.........消え去っている。

 

 

「.........」

 

 

シロ「どう?[自分の身体]は?」

 

 

「.........悪くはねぇ」

 

 

 華奢な身体だ。アレより背が高いとは言え、薄さは良い勝負。これじゃあ誰かを引っ掛ける事も出来やしねぇ。[世紀の大種牡馬]も捨てたもんだ。

 

 

「これが[用意]出来たって事は、上手く行ったんだな?」

 

 

シロ「ええ。どんな方法を使ったのかは分からない。そうなった時にも聞いたけど、考えたくも無さそうだった」

 

 

シロ「けれど、アニマに[地球意思の願望器]を使わせた。[IMUNI]という器から追い出してね」

 

 

 .........馬には難しい話だ。カフェの奴と過ごさなけりゃ、この短い間に頭を草原に突っ伏させて貪り食ってただろう。

 簡単な話はこうだ。[願望器]は存在を認知され、使われなければその存在は確立されない。それを使えるのは本来、本人とそれを宿らせた物体のみ。

 

 

 例外は二つ。他人の為にそれを[空]にさせた者。全ての意志を汲み取る者。万物の王。[獅子王心(ライオンハート)を持つ者]。

 そして、その[原初の存在]である[神]。[人の子 アニマ]。

 

 

 奴がそれに触れた。何から逃れたかったのかは知らないが、奴は肉体という[現物]を得たかった。そしてそれに便乗し、そこの[メス神様]が願った。

 

 

 .........わざわざ、[オレの身体]を。

 

 

「―――分からねぇな。何でオレだ?」

 

 

シロ「別に貴方を選んだ訳じゃ「そうじゃねェ」.........?」

 

 

「[最初から]だ。テメェはオレに面倒臭ェ縛りを付けてまで、オレを留まらせた。それはどういう了見だったのかって話だ」

 

 

 最初に相対した時。コイツはオレの言葉を聞いた。[断り]だ。どんなに[やり残し]があろうが、オレは自分の生をやり直せる程根性がある訳じゃねェ。

 周りが諦めたのならそれに従う。オレが最後に納得した結末だ。それを変える程無粋にゃなれねェ。

 

 

 それを聞いたのか、東から吹いた風を耳から耳に流したのかは知らねェが、コイツはオレに[現世]に行けと言った。肉体を持たせずに。だ。

 

 

シロ「.........貴方。この世界はどう思う?」

 

 

「.........おやつは何時に食べる?」

 

 

シロ「?そうね。大体15時かしら」

 

 

「じゃあ[15時]だ。オレにとっては、この世界はガキにとっての理想郷。大人にとってはいつか過ぎた過去」

 

 

「.........[永遠のおやつタイム]だ」

 

 

 戻る事は出来ない。だが確かにあった時間。同じ事をする事も出来る。だがそれは何処か虚しくて、あの頃と同じように過ごす事が出来ない時間。

 だがこの世界は、そんな事すら感じさせない。間髪入れずに次々と企業努力の賜物が出てきやがる。結果。人は肥えて、ブクブクになり、健康診断を恐れる。

 

 

 だがコイツはオレの言葉を聞いて笑った。鼻でじゃない。声を出して笑いやがった。こんな緊急事態に、だ。

 気でもおかしくなったかと思って覗き込めば、奴はまだ正気な目をしていて、目尻に溜まった涙を人差し指で拭いた。

 

 

シロ「ふふ.........そうね。それが私の[作りたかった世界]」

 

 

シロ「そして.........[貴方に見せたかった世界]」

 

 

「.........どういう事だ?」

 

 

シロ「貴方には、[貴方じゃない者]が取り付いていた。一人じゃない。1、2、3.........数えるのも億劫なくらい」

 

 

シロ「名前を聞いても分からない。言葉すら通じない。それくらい、[幼い者達]。覚えは?」

 

 

「.........生憎、推理担当は請け負った事がなくてな。オレの担当はミステリーを演出する側だ」

 

 

 考えてみりゃ分かる事だ。だが、今は考えない事にした。分かってやったところでもうどうしてやる事も出来ない。

 そして、この女神の言っている口ぶりからして、[もう居ない]のだろう。

 

 

シロ「私は[始まりの存在]。義務も責任も無いけれど、使命感はある。貴方達の幸せを追求する使命感」

 

 

シロ「.........あの子達は[還っていった]わ。貴方の姿に魅了されて」

 

 

「オレの?」

 

 

シロ「ええ。貴方の[走り]に感化されて」

 

 

シロ「ああ、後なんか[ごめんなさい]って。貴方に勝ってほしい余り、発破を掛けすぎちゃったみたい」

 

 

「―――ハっ、もう怒る事も出来なければ許す事も出来ねェよ」

 

 

 合点がいった。マックイーンとのレース.........あの時出てきた連中がそれって訳か。皮肉か何なのか、オレの[夢]と一緒に[空に帰って行った]って訳だ。

 .........勝手な奴らだ。どいつもこいつも。

 

 

「.........それで?この先は?」

 

 

シロ「作戦は無いわ」

 

 

「.........は?」

 

 

シロ「頑張って」

 

 

「え、あっおい馬鹿待―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビール「Zzz.........ん〜.........マックイーン.........前ステ奈落なんて何処で覚えてきたの.........Zzz.........」

 

 

 ―――ドサァッッッ!!!!!

 

 

ビール「ぐぇ.........ッッ!!!??」

 

 

「ク、ソが.........!!!あンのメスがァ.........!!!」

 

 

 ―――唐突に打ち込まれた衝撃。まるで弾丸だった。ただの自由落下でこんな衝撃は起きない。シスコン持ちとサディスト気質の姉を持つ真ん中を舐めるな。これは明らかに射出された勢いだ。

 何?カタパルトタートル?いや確かに昨日あった事を忘れたいが為に酒をしこたま飲んで遊戯王やってたけどさ?カタパルトパペットとかいう頭の悪そうなデッキで白銀が無双してたけどさ?違うじゃん。俺はいつ闇のゲームに巻き込まれたわけ?

 

 

 意識の定まりがまだ覚束無い中、何とか状況を認識して頭の整理を始めてみる。目の前に落ちて来たのは.........カフェ?いや、もっと雰囲気が荒々しい。

 

 

 .........って事は。

 

 

ビール「.........サンちゃん?」

 

 

サンデー「っ、よう。昨日ぶりだな.........」

 

 

 罰が悪そうな顔をしながら頭を搔く少女。身長は今の俺よりも高い。体格は.........今の俺と同じくらいか。

 聞きたい事は山ほどある。が.........

 

 

ビール「.........飯にするか」

 

 

サンデー「あ?話聞かねェのか?」

 

 

ビール「バカ。頭の良い奴程睡眠を重視すんだよ。頭の悪い俺がそれを怠ったら余計ポンコツになるっての」

 

 

ビール「見ろ。朝の4時だ。完全に目が覚めちまった。準備すっから、そこの棚から自分に合う制服見つけとけ」

 

 

 ここは神威の家。俺がこの身体になったのもここ。色んな物を用意したのは黒津木の奴だが、置く場所はここが最適解。金持ちになったと自称しているが、もしそれが本当なら生粋のミニマリストは今頃全員税金に苦しむ生活を送ってる筈だ。

 

 

 今は全員寝ている状態だ。昨日のあのバカ騒ぎ。ちょっとやそっとじゃ起きる訳が無い。

 

 

 そう踏んで俺はひとまず、部屋を後にした.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ぅ、あ.........?」

 

 

桜木「.........よう。[寝坊助]」

 

 

「.........先、輩.........」

 

 

 ぼやけた視界に微かに思い出せる人。その人を呼んでいた呼び方。何だか久しぶりな気がする。

 .........僕は一体、今まで何を.........

 

 

 そんなことを考え出した時、先輩は首を横に振って横に指を指した。

 

 

「むぐむぐっ!!!ガツガツムシャムシャ!!!」

 

 

「.........えぇ!!!??」

 

 

 そこに座っていたのは先輩の友達三人。見慣れないウマ娘一人。そして[先輩そのもの]だった。

 ど、どうなってるんだ!!?せ、先輩が二人.........!!?

 

 

桜木?「.........あ〜。おい。二日酔いで頭痛いからお前説明しろ」

 

 

桜木?「んお?ふぇふへいっはっへはいいえあいいんあお?あいあいへええあうういおーあうっうっあおあえんいんあお?」

 

 

桜木?「.........チッ、コロスゾ.........」

 

 

桜木?「!!!うくんっ、あー!!!殺すっつったー!!!玲皇ちゃんの怒りカウンター三つ溜まりましたー!!!全部取り除いて除外しマース!!!」

 

 

桜木?「それ殺すと同義だべや!!!」

 

 

桜木?「ちがいます〜!!![除外]です〜[墓地]には行きませ〜ん!!!」

 

 

桜木?「ぐぎぎ.........この[超融合野郎].........!!!」

 

 

 ぼ、僕は一体何を見せられているんだ.........!!?ひ、ひとまずここはこの喧嘩を止めないと.........

 って、な、なんか両手縛られてるし!!?なんで!!?

 

 

桜木?「お、相変わらず視野狭いねぇ花道。もう少し気楽に行こうぜ?肩の力抜いて〜」

 

 

黒津木「ぷっ。倒れ掛けるまで縛られてるの気付かない奴に言われてるw」

 

 

神威「玲皇もその気あるよな〜」

 

 

白銀「ゲームしてると喋らねぇからつまんね〜」

 

 

桜木?「集中してんだよ!!!」

 

 

 い、一体何がどうなって〜〜〜.........

 

 

桜木?「.........はぁぁぁ。おい。そろそろ説明してやれ。[花道くん]が混乱している」

 

 

花道「は、ぇ.........?」

 

 

 

 

 

 ―――説明中.........。

 

 

 

 

 

花道「.........そう、ですか。[IMUNI]が暴走して.........」

 

 

 ある程度の事を説明してくれた先輩。そして、僕と同じ[未来から来た]、[桜木会長]。道理で瓜二つな訳だ。

 先輩は僕からの疑問を受けながらも分かりやすく説明してくれた。伏せたい部分があるって前もって言われたから、話せない事に対しても信用性があった。素直で嘘を吐きたくない人というのは、第一印象から変わってない。

 

 

桜木「そゆこと。見た感じIMUNIはもう機能して無いみたいだな」

 

 

花道「お陰様で.........何してるんです!!?」

 

 

桜木「え?いやもう必要ないでしょ。お前も身体動かしたいだろ」

 

 

 何とも無い風に彼は僕を縛っていた物を解き始めた。それを見て僕はギョッとする。先程の話を聞けば誰でも分かる。今の僕は、僕の振りをしたIMUNIかもしれない。

 だと言うのに、彼は一切の疑問も疑念も持たずに解放してくれようとしている。

 

 

花道「と、得策じゃないです!!!第一僕の目的すら分かっていない!!!」

 

 

桜木「分かるよ。お前の目的ぐらい」

 

 

花道「は?え!!?なん、で.........!!?」

 

 

桜木「[お母さん]。だろ?」

 

 

花道「.........っ、どう、して」

 

 

桜木「同じ様な理由でテメェの孫娘を送り込んできた奴を知ってる」

 

 

 呆れた表情で先輩は後ろに親指を向ける。その方向には僕と同じく未来から来た桜木会長が不服そうな顔で鼻を鳴らしていた。

 

 

花道「その、会長.........」

 

 

会長?「よせ。君と同じ事故にあった時に世俗には関わらないようにしている。今の俺は.........[能面]だ」

 

 

桜木「だからその変な厨二病止めろジジイッッッ!!!!!」

 

 

能面「黙れ。趣味の邪魔をするな。そして死ね」

 

 

桜木「テメェ八神庵かァ!!?良い度胸だ俺は草薙京使いだぞッッッ!!!!!」

 

 

 ま、また取っ組み合いの喧嘩が目の前で.........どうにかして止めないと.........

 

 

黒津木「んで花道くん?なんで態々玲皇ん所に来たのよ?」

 

 

花道「へ?いや、僕はその、会長の話を母から聞いていまして、かなり優秀な人だと.........」

 

 

神威「さっき話に出てた?コイツと関係する仕事でもしてたの?」

 

 

花道「ええまぁ.........[STシリーズ]という介護用ロボットの研究主任が会長でして、生態的感知システムのプログラム担当が母でした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――当時、母は一人でSTシリーズの初期構想を構築していた段階でした。無論、誰の助けも借りない状態。計画は数年。下手をすれば数十年と掛かってもおかしくない状態でした。

 それに、仮に運良く完成出来たとしても、何の後ろ盾も無い母です。作り出した物が悪用される危険性も充分にある。当時はそれすらも考えられない程に没頭していたと、後から聞きました。

 

 

 そんな研究に気付いたのが、会長でした。

 

 

 当時、[AI開発]の最先端を走っていた大企業と提携を組む事で特許関連の問題を解消、そしてその技術の使用によって、悪用される危険性を大幅に激減させる事に成功させました。

 勿論、難航していた研究も多くの研究者の参加によって大きく進展していきました。

 

 

 そんな母の研究を、会長は見つけて下さったんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花道「以前に一度、会社の説明会に新卒で来ていた事を覚えていたり、母にフリーという道を教えてくれたとも仰ってました」

 

 

桜木「.........」

 

 

 全ては母から聞いた話。美化されている部分も勿論あると思います。

 しかし、それを加味しても尚、会長は視野が広く、そして人に道を示せる方だと思えたんです。

 

 

 だから僕は、過去でも会長に.........[先輩]に会えればきっと、今はまだ何とも無い母を.........!!!

 真顔でひたすらにこっちを見る会長。やっぱり、変わってない。バスで初めてお会いして、お話をした時からちっとも.........

 

 

 そんな僕の視線を無理やり奪うように、先輩は両手で僕の頭を掴み、叱るような表情で見つめてきました。

 

 

桜木「騙されるなよ花道。コイツの[真顔]に」

 

 

花道「な、何ですか.........?騙される.........!!?」

 

 

桜木「テメェがお涙頂戴物語にそう易々と関わる訳ねェよなァ能面ッッ!!![悪役]が好きなんだろォ!!?あァ!!?」

 

 

能面「.........その通りだ。ただで彼女を支援した訳じゃない」

 

 

花道「そ、そんな.........!!?」

 

 

 う、嘘だ.........母さんは言っていたんだ。本当に良い人だって。嘘を吐くような人じゃない。嘘を吐けない人なんだ.........

 先輩はそら見た事かって言いたげな表情で僕を見てくる.........でも、本当に信じられない.........

 

 

花道「じ、じゃあなんで母さんを支援したんですか.........!!?」

 

 

能面「.........君の母の姿を良く思い出すんだ」

 

 

花道「!か、母さんの姿.........?」

 

 

能面「そうだ」

 

 

 .........母さんは、小柄な人だ。身体が弱いのに無茶して、学生時代に走れなくなってしまったから、筋肉量も他のウマ娘に比べて遥かに少ない。華奢で薄くて、僕が抱き締めるだけでも苦しそうにしている程にか弱い人だった.........その癖して、毎日夜更かししてまで仕事を頑張れる人だった。

 髪色は珍しい薄緑色で、目の下には隅が出来ていて、それで.........

 

 

能面「.........分かったか?」

 

 

花道「っ、まさか、貴方は.........!!!貴方という人は.........ッッ!!!」

 

 

能面「.........フッ、その通りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――髪型がちょっと妻に似ていた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀「.........」

 

 

神威「.........」

 

 

黒津木「.........」

 

 

桜木「.........」

 

 

ウマ娘「.........」

 

 

花道「.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........ゑぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、今日の講義は終わりとする。ああタキオン。話があるからこっちに来てくれ」

 

 

タキオン「?はぁ」

 

 

 いつも通りの学生生活。いつも通りの授業進行。何も変わらない日々なのは、レースに関わりのない学園生活そのものだった。

 講義を受けていた私は教授から名指しで呼び出される。一体何の案件だろうか?最近は教室でボヤ騒ぎを起こす事もして居ないし、その類の話では無い事は確かなのだが.........

 

 

「済まないな。態々呼び出してしまって」

 

 

タキオン「いえ。それよりも何の用でしょうか教授?私はこれからトレーニングの為にチームの方へ行かなければいけないのですが」

 

 

「すぐ終わる話だよ。君は[プロレーサー]を目指しているのかい?」

 

 

タキオン「.........ああ、なるほど」

 

 

 目の前の教授に問われた質問。ウマ娘、尚且つトレセン学園生徒ならば誰しもが受ける質問。[プロ]になるかどうか。

 個人差はある。野球部に入っている人間が全てプロ野球選手を目指している。という訳では無いだろう。それが好きだから。スポーツに触れたいから。得意だから。勧められたから。何となく。そんな感情でやっている存在も居る。私達も例には漏れない。

 

 

 では私自身はどうか?答えは単純明白。

 

 

タキオン「.........興味はありませんね」

 

 

 一時期はその道もあるだろうと考えたが、自分の道を進めば進む程にそこに繋がっては居ない事を悟って行く。無論、走るのは好きだ。だが、それで生活をしていきたいかと問われれば答えはNO。だ。

 理由としてはこの脚。いくら克服したとは言え、プロのスケジュールを考えると薬品の改良や新薬の開発も手に付かない。データを他人に渡せばそれも解消されるが、どうにもそれは私の性分に合わない選択肢らしい。考えるだけで虫唾が走る。

 

 

タキオン(.........案外、私も頑固みたいだね)

 

 

 からかわれる様に[彼]に言われた言葉を思い出す。お前は頑固だと。君にだけは言われたくないと言っていたが、こうしてやっと認められる様になった。

 私は[頑固者]だ。特に、こと[走る]事に関しては。

 

 

 そしてそれ以上に、私は私の導き出す[可能性]に興味がある。自分がどこに辿り着くのか、それは誰にも分からない。

 

 

『その[脚]を克服したら、どれほど速くなるのかしら?』

 

 

タキオン(.........ククク、[追求]を止める事はしない)

 

 

タキオン(ただ.........ほんの少し、いや。出来る限り[寄り道]をして行くのが、チーム[レグルス]のやり方なんでね)

 

 

「そうか。もし良かったら卒業後、ウチの研究チームに入らないか?人手もあるし、環境は他より整っている」

 

 

タキオン「ありがとうございます。でも今は.........」

 

 

「!ああ、すまないね。折角の[青春]だ。心置き無く過ごしてくれて構わない。悪いね気が早くて」

 

 

タキオン「いえ。有難い限りです」

 

 

 気怠げそうな目付きで自嘲気味にそう言う彼女。少し暗くて、湿った様な雰囲気を感じる。典型的な科学者タイプ。

 だがどこか波長が合う。私としても、彼女の元で研究が出来るのならば願ったり叶ったりだ。

 

 

 .........だが今は、[今]はただ、目の前の事に集中したい。

 

 

タキオン(.........入学当初は、こんな展開が起こるとは予想していなかったね)

 

 

 トレセン学園の大学部設立。それに伴い優秀な成績を修めている高等部の移動。そのどれもが当時からは予想のできないスピードで行われた。言わば、[レースバブル]と言うべき物の産物。

 勿論、何も将来を考えずにただ生きてきた訳ではない。幾つものプランがあり、その条件に当てはまればその道に行く。そのつもりで行動をしてきたつもりだ。

 .........だがやはり、なんの因果かは知らないが、[彼]と共に居るとどうにも思い通りにいかない事の方が多い。

 

 

 しかし、それが面白い。

 

 

 そんな事を思いながら放課後、私は一人チーム小屋の方へと向かっていた。高等部までのプログラム制とは違い、大学部はその名の通り、カリキュラム制で単位を取得する。

 今日の私は3限までの授業。他のチームメンバーより早めの集合となる。

 

 

 大抵の場合はトレーナーくん.........基、ビールくんが居るから鍵を貰わずに直行する事になる。

 私はその足でチーム小屋へと向かい、その扉を開けた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――んお?よう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「―――な、ァ...ガ.........」

 

 

「ムシャムシャムシャムシャ.........んァ?」

 

 

 視界の中にあるのは、椅子に座って足を組み、駄菓子を口に咥えて居る[トレーナーくん]の姿と、ソファーを独り占めするかのように寝転びながらポテトチップスを貪り食い、漫画を読む[ウエスタンビール]の姿だった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「.........で、彼女が現れたから、君は元に戻ったと?」

 

 

桜木「そゆこと♪同じ姿をして娘が出てきても場を混乱させるだけだし、それは勝負としてもフェアじゃないだろ?」

 

 

タキオン(よく言う)

 

 

桜木「.........あ、最初の頃の2レース出走は俺の身体だったからやったのよ?体力消耗してたし」

 

 

 扉を開けて目の前の光景を見た私は卒倒しかけたが、それを察した彼が今の現状を話してくれた。

 どうやら何らかの力によってカフェのお友達が肉体を得たらしい.........いや、分からない。分からないが納得せざるを得ない.........彼もそれ以上は知らないと言っていたからね............

 

 

サニー「ムチャムチャムチャムチャ.........」

 

 

 そして肝心の彼女と言えば、今度はカントリーマアムをその小さい手で持てるだけ持って口の中に突っ込んでいる。余程お気に召したらしい。絶え間なく食べ続けている。最早漫画がオマケ扱いされている様子だ。

 

 

サニー「.........?読むかァ?面白ェぞこれ」

 

 

タキオン「.........いや」

 

 

サニー「遠慮すンなほらっ!タキオンほらっ!読めほらっ!面白いってっ!!!」

 

 

タキオン「わ、分かったああもう分かったから!!!手を拭いてくれたまえ!!!ベタベタするッ!!!」

 

 

サニー「?.........ペロペロ」

 

 

タキオン「拭・き・た・ま・えッッッ!!!!!」

 

 

サニー「!な、なんだお前!!!オレ様に向かって!!!態度がデカイぞ!!!誰だと思ってんだ!!!」

 

 

タキオン(いや誰.........)

 

 

 お、おかしい.........以前トレーナーくんの身体に宿っていた時はもっと理知的だったはず.........姿は若干大人びているものの、これではまるで退行してしまっているに等しい状態だ.........

 

 

サニー「なんだよォ.........拭くって何を〜?オレの国じゃこうやってベタベタ取ってたんだぞォ」

 

 

タキオン「.........アメリカ生まれなのかい?」

 

 

桜木「俺サンちゃんの事あんま知らないけど、そうっぽいよ?」

 

 

 ティッシュを手渡しながら彼はかなり投げやりな口調で私に回答した。彼女は手の汚れを拭き取った後、彼にそのゴミを手渡して居た。

 .........何かこちらを涙目で見てきているが、気にしないようにしよう。距離感が全く掴めない.........

 

 

タキオン「.........それで?[決勝]の作戦は考えているのかい?」

 

 

桜木「ん?ああ。もうバッチリよ」

 

 

タキオン「ほう。それは良かっ―――」

 

 

 彼はそう言いながら、背後にあったホワイトボードをくるりと回転させた。そこに記されていたのは膨大な情報量.........そして、各距離に対する対策とそのプランが緻密かつ、簡潔に書き連ねられていた。

 

 

桜木「いやぁ本当はもっとあるんだけど、あんま詰め過ぎるのも大変かなって。傍で見てきたからこれくらいは出来ると思うんだけど、どう?」

 

 

タキオン「―――ど、どうって.........」

 

 

 .........正直に言おう。私は今、圧倒されている。彼が今まで、作戦らしい作戦を立てた事は無い。常に私達に全力でやるように。やりたい事をやるようにと示してきたのが彼のやり方であり、チーム[レグルス]の在り方だった。

 流すように言った言葉にも耳を疑った。彼は[傍で見てきた]と言ったが、それは彼も同じように練習していた状態だ。そんな中で[トレーナー]としての実力を発揮するのはかなり難しい。私にだって出来ないであろう。チームメイトとは言っても自分を極限にまで追い込みながら、他人を見る事など.........

 

 

 極め付けは、相手の[手の内]だ。ほぼ決め打ちと言っても過言では無い。断定的な選定。選手の出方もその作戦取りも、確定的な証拠が無い。それ以外もある筈だ。

 

 

 それをどうやってここまで絞って.........

 

 

桜木「.........ああ、これね。まぁウチのチーム強いからさ。いくらリギルのハナさんつっても全対応は無理よ。そこは分かるっしょ?」

 

 

タキオン「あ、ああ」

 

 

桜木「じゃあ逆に聞くけど、一番[勝ち筋の高い選択肢]を取るか、一番[負け筋の低い選択肢]を取るか。ハナさんはどっち取ると思う?」

 

 

タキオン「.........彼女のトレーニング方法から考えるならば、後者だろうか?」

 

 

桜木「[そこ]。そこが[ギャップ]」

 

 

 ホワイトボードのペン置き場に置いてある伸縮教鞭を伸ばしながら彼は言った。その視線はリギルのトレーナー。[東条ハナトレーナー]だ。

 

 

桜木「トレーナーっつうのは難儀なもんで、キャリアを積むと負けたく無くなる。どうしてか分かる?」

 

 

タキオン「それは、ウマ娘の勝利が自分の勝利に直結するからだろう?」

 

 

桜木「そう。つまり、ウマ娘ってのは大抵のベテラントレーナーから見りゃ、[飯の種]って訳だ」

 

 

桜木「そうは思ってなくとも人は無意識に食いっぱぐれを起こさない様にする。その為に[強者]を囲い、自分の物にし、[負けない為のレース]をする」

 

 

桜木「挙句の果てには、彼女達の為、その将来の為と謳って置きながらそこには明日の自分の食べるご飯の勘定も入っている。大は小を兼ねると言うが、[青春]と[一人生きる為の生活費]は天秤に掛けられる程同一視出来るもんじゃぁない」

 

 

タキオン「.........」

 

 

 そう語る彼の目は悟りを開いている様でいて、どこか憂いている様でもあった。そんな純真無垢な目が似合う年齢では無い。その言葉に濁りがないからこそ、どこか[狂気]染みた物を感じさせて来る。

 

 

桜木「.........でもあの人はそうじゃない」

 

 

タキオン「何故そう言い切れるんだい?」

 

 

桜木「[ウマ娘]の事しか考えてないから」

 

 

桜木「だから.........[勝ちに来る]。わざわざそれを捨てて[負け筋]に意識を向けるような事はしない。以上っ」

 

 

 そう言い切って彼は教鞭を縮めて元の場所に置いた。

 

 

 .........確かに、そう考えると腑に落ちる。データの収集とは言わば[守りの姿勢]。失敗や事故のリスクを軽減する為の行動だ。無論、その分時間が掛かる。

 そして、その[守りの姿勢]によって生まれる物は[均等性]だ。データにそぐわない動きは排除され、特異性を除いた全ての物が等しい動きとなる。レース方法もその走法も、本来なら同じ物になる。

 

 

 彼女のチームも大きい。学園一の巨大なチームだ。それだと言うのに、誰一人として似たような走りはしない。それはつまり、トレーナーとして同じ走りを強要していないという事になる。

 

 

 彼は先程戻した筈の教鞭を気になる様子で見ていたサニーくんに渡し、その様を見ていた。

 

 

タキオン「.........これで、チーム[レグルス]は晴れて完全復活。という訳だね」

 

 

桜木「だね」

 

 

サニー「.........?誰か来るな」

 

 

 教鞭のしなやかさに見とれていた彼女が不意に耳をピクリとさせてそう呟く。それに釣られて耳を澄ますと、確かに微かに話し声がゆっくりと近付いてきていた。

 

 

「エー!!!ソンナフウニコクハクサレタノー!!?」

 

 

「ナンテロマンチックナンデショウ!!!ゼヒサンコウマデニケイイヲキカセテクダサイ!!!」

 

 

「ハ、ハズカシイデスワネ...カレハオクテデシタカラ、コウ、ニンタイヅヨクトイイマスカ.........」

 

 

桜木「.........チームメンバー?」

 

 

二人「.........」

 

 

 私と彼女は顔を見合せた。その声の主は[カレンくん]。[ファインくん]。そして[マックイーンくん]だった。

 面倒な事になる。私はそう直感した。そしてそれは彼女も同じだった様で、同時に互いの目を見て頷いた。

 

 

二人「トレーナーくん。隠れようか(面倒臭そうだから帰るわ)」

 

 

二人「.........?」

 

 

二人「トレーナーくん!!!隠れたまえ!!!(絶対面倒な事になる!!!オレは関わりたくないッッ!!!)」

 

 

桜木「.........はァ?何言っちゃってんの君ら?」

 

 

 .........私達はお互いの顔を見合わせた。そして互いに(何言っているんだ彼女は?)と内心を顕にした表情で見ている。

 そして彼を見るとまた同じように(何言ってんだコイツら)と呆けた顔で私と彼女の顔を交互に見合わせている.........

 

 

 そうしている間にドアノブが回される音が聞こえて来る。唾を飲み込む音。私の頬を伝った汗跡に触れる冷えた空気。これから起きる喧騒に覚悟を決めながら、その時を待っていた.........

 

 

マック「良いですか?恋愛と言うのはまず己のいきり立つ心を制して―――」

 

 

桜木「?あぁ、マック.........イーン.........」

 

 

マック「―――はぇ.........?」

 

 

タキオン(.........おや?)

 

 

 覚悟を決めた。そう、この空間が砂糖まみれの世界よりも甘ったるくなる。それに耐える覚悟を私はした。

 だが現実はそうでは無い。片や小屋の入口。片や部屋の端に位置する彼と彼女は硬直し、一切動く事は無い。

 

 

 やがて、その後方に居たカレンくんとファインくんが様子を見る為に顔を出した。彼女達もトレーナーくんの姿を見て驚きの顔を見せているものの、それ以上にマックイーンくんの様子が気になるようであった。

 

 

マック「あ、ぇ、玲皇さ、ん.........?」

 

 

桜木「ぅ、あ、え.........?ん.........?」

 

 

マック「は、ぅ.........///」

 

 

タキオン(何がどうなっているんだ?何が起こっている!!?まるで意味が分からないぞ!!?)

 

 

 互いに顔を見て、ただそこに居るだけ。だがその二人からはありえない程の熱が放出されているのだけは見て取れた。

 隣に居るサニーくんの方を見ると、どこか理解した表情を見せていた。

 

 

サニー「なるほどなァ」

 

 

タキオン「!何か分かったのかい?」

 

 

サニー「あァ。簡単に言うなら[身体]の影響だろうなァ」

 

 

タキオン「か、[身体].........?」

 

 

サニー「意識はあっても、身体が無けりゃ心臓の鼓動も感じねェし、危機感も無くなる」

 

 

サニー「そして今、自分の身体に戻ってかなり鈍ってた[感覚]が蘇った。当然、[耐性]は無くなってる」

 

 

サニー「[食欲]だとか[睡眠欲]だとか[危機感]だとか、[コイツ]はそこら辺鈍かったからなァ」

 

 

タキオン「な、なるほど.........」

 

 

 つまり、本来ある筈の感覚が無い状態で過ごしすぎた弊害。という事だろう。彼女はどうだと言わんばかりにふんぞり返って私を見てきているが、強ち否定する事も出来ない。

 実際問題、[身体]というのは解明されていない謎が多い物でもある。その上、本来ならば有り得ないであろう精神の離脱。科学的にそれを検証するのは不可能に近い。

 

 

 ここは彼女の推論を認めるしか無いだろう。

 

 

 .........問題は。

 

 

カレン「マックイーンさんっ!!早く行ってあげて!!」

 

 

マック「え、え?」

 

 

ファイン「感動の再会っ!!ですよ!!ほらっ!!」トンッ

 

 

マック「ま、待って―――ぁ」

 

 

桜木「っ!ぅ.........」

 

 

二人(ち、近―――)

 

 

 .........バタン。と、まるで限界まで張り詰めた糸を切ったような勢いで倒れる二人。身体が追いつかなかったのだろう。二人とも目を回して倒れてしまった。

 突然の事態に心配を隠せない二人に対し、私は事情を説明し、一旦二人をソファーに寝かせる事にした。

 

 

タキオン(.........やれやれ。こうなるとはね)

 

 

タキオン(本当、[退屈しない]よ。君達は.........)

 

 

 好転した事態。打開された状況。まだ何一つ終わりを迎えていないと言うのに、私は戻ってきた二人を見て、無意識に頬の緩みを感じ取るのであった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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