山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
肌寒い空気が日常になりつつある今日この頃。俺はまるで風邪を引いたかの様な熱の上がり具合に辟易としていた。
しかし、本当に引いた訳ではない。身体は健康状態そのもの。気分の悪さも無い。
.........強いて言うのならば。
マック「.........///」
桜木「.........///」
.........彼女に対する[耐性]が、完全に無くなってしまっている。
そしてそんな俺を黙って見つめるチームメンバー達。何から聞くべきなのかを精査しているが、こちらとしてはもうその順序は決まっている。
桜木「.........紹介しよう。ウエスタンビール。その一介の人格を担っていたサニー改め、[サンちゃん]だ」
サニー「クチャクチャクチャクチャ.........ん」
全員「.........」
桜木「はいはい。ティッシュね」
サニー「ん。ガムはやっぱ無ェな。キャンディくれ。スースーする奴」
桜木「あいよ」
デスクの上に置いてあるお菓子箱の中からミントキャンディを取り出してサンちゃんに手渡す。俺は飴好きじゃないし、他の娘もミントキャンディは食べないから沢山余っている。
その様子を皆が見ているが、様子は三者三様。突然の展開に頭を抱えていたり、思考回路が爆発して呆然としていたり、現実逃避をしたり、彼女に話しかけたくてウズウズしていたりと、本当に皆違う。
カレン「はーい♪質問良いですか?」
桜木「はいどうぞ」
カレン「ビールちゃんの復活は?」
桜木「.........私のログには何も残ってませんね」
カレン「えー!!?折角カワイイマスターの称号をあげたのにーっ!!」
桜木「ええいっ!!!ンなもん男のワイには要らんわいッ!!!」
バク「えと、では桜木トレーナーは桜木トレーナーで、ビールさんはビールさん。サニーさんはサニーさんだったと言う事でよろしいでしょうか?」
桜木「.........うんそうそう!!そういう事!!!よく分かったねバクシンオー!!!流石委員長!!!」
バク「ほっ.........なんですか皆さん!!!簡単な事だったじゃありませんか!!!やはり人間がウマ娘になるなど有り得る訳無いんですよ!!!ハッハッハッ!!!」
全員「.........そう、だね」
全然話に着いていけて無かったバクシンオー。その疑問に対して改めて説明をすると時間も掛かるし、何より彼女のモヤモヤ感を払拭する自信が無かった為、嘘を吐いた。
結果、元通りの自信満々さを取り戻してくれたが、その口から出てきた言葉には罪悪感を感じた。
そこまでする男なんだ。俺は。
桐生院「で、ではマックイーンさんも戻った事ですし、改めて次回のレースの作戦をまとめていきたい―――」
桜木「あ〜.........それなんだけどさ」
桐生院「.........?」
桜木「その、非常に申し上げ難いんだけど、もう俺的には[アオハル杯]に参加する意義が無いと言いますか.........」
全員「.........はァァァ!!!??」
ガタッ!!!と音が重なる。椅子が倒れる音が幾つも鳴り響いた。それと同時に全員が凄い剣幕で俺の事を見てきた。流石の俺も縮こまる。
桜木「だ、だってだって!!!花道と俺個人は和解したしっ!!!マックイーンは帰ってきたしそれでいいじょのいこ!!!」
デジ「良い訳ないでしょ!!?なんでえなりか○きみたいな語尾になってるんです!!?」
マック「ってしれっと言ってますけどいつの間に和解したんですの!!?」
桜木「そりゃ今日だよ今日っ!!!連れ帰って夜通し語り合ったの!!!」
シリウス「じゃあなんでこの場に居ないんだよッッ!!!」ブワァ!
桜木「怖いからだよ!!!君達怖いもん!!!シンちゃんヘル化するんだもん!!!」
どんどんと迫り来るウマ娘達。にじりにじりと距離を詰め、遂に俺は壁の隅へと追い込まれてしまった。
さしずめ、[画面端ィ!!!]。バーストも使えないしファジー対応は明らかに悪手。ここは漢のガンガードor切り返しブッパしか無い.........!!!
桜木「だ、大体だねェ君達!!![アオハル杯]はリスクなのだよ!!!こんな大規模なレースイベントやりながらGI級も参加するってなったらそりゃ大事だよ!!?片腹痛いタキねェ!!!」
ポッケ「.........言ってる事はまともだけどめっちゃムカつく」
カフェ「本当ですね」
タキオン「え待ってくれ彼の口調にはノータッチかい?私は非常に遺憾なのだが?」
フジ「確かにまだシニア現役の子達も居るから、その点で考えればリスクだね。けど私の様にもう卒業を待つだけのウマ娘も居るから、その辺は編成を考えれば良いんじゃないかな?」
うぉぉぉぉこの寮長ウマ娘、冷静に理論武装してぶん殴ってきやがった.........!!!
確かに、シニアも走りきった感じの出ているウマ娘を中心に出走メンバーを固めればある程度行けるだろう。実際、来てくれているスピカメンバーとカノープスメンバーだけでだいぶ賄える部分はある。
.........だが問題はそこじゃない。
桜木「.........その、一度始めた勝負を投げ出すのは不本意だけど、結局この[アオハル杯]になんでそんな躍起になってる訳?」
ブルボン「え、マスターは知らないのですか?」
桜木「.........なんだァその目はァ!!?」
この場に居る殆どのメンバーが俺を蔑んだ目で見つめている。ウララやターボ以外全員だ。ライスですら内心(うわぁ...)という声が聞こえて来る表情を見せてきている。
桜木「.........仕方ないだろ俺にとっちゃマックイーンは命なんだから」グギギ
マック「!と、トレーナーさん.........///」
全員(.........いや重)
皆俺の言動にげんなりとした表情を見せているが、残念ながらそれが事実。もしマックイーンが移籍してなければここまで躍起になってアオハル杯には参加していなかった。
俺自身へのヘイト問題も解決したし、花道とのいざこざも解決。ここに来て俺は当初の目的が全て解決してしまっているんだ。
それを理解してくれたのか、桐生院さんは事の発端に着いて詳しく語り始めた.........
―――現在、トレセン学園は大きな[岐路]に立たされています。
それは[伝統遵守]か、それとも[革新是正]か。分かりやすく前者を旧派。後者を新派と言いましょう。
桜木さんが階段から落ちた時の怪我でトレセン学園に居れなかった頃、理事長の代理となった[樫本 理子]さんが宣言したのです。
これからは全ての適正を検査され、それぞれにあった教育方針でリスクなく強くなっていく、と。これは明らかに新派の考え方であり、その根幹です。
それに疑問を呈したのが、旧派である[東トレーナー]が異議を唱えた結果。アオハル杯がスタートしたんです。
無理なく適性を伸ばす事で怪我のリスクを抑える。反面、自身の持つ[夢]への道を最初から絶たれる可能性のある[新派]。
そして、走る根源となる[夢]へ突き進む事が出来る傍ら、その影に潜む[怪我]という最大のリスクが付きまとう[旧派]。
今水面下では、このふたつの派閥が対立しているのです。そしてそれは、この[アオハル杯]の勝敗でどちらが主導権を握るのかが決められる。
それが、今行われている[アオハル杯]という催しの思惑なのです.........
桜木「.........」
―――彼は私の話を遮る事なく、ただ耳を傾けていました。事の顛末からこのアオハル杯開催までの経緯を簡単にですが、彼は今全て知ったのです。
彼は私の話を聞いて視線を一瞬下に向けた後、ゆっくりとこちらを見て、口を開きました。
「ば〜〜〜〜〜っかじゃねぇの!!?」
桐生院「え」
酷く不服そうな表情で彼はそう声を上げました。そのこめかみには青筋を浮かべ、行き場のない苛立ちを抑える様に彼は頭を激しく掻きました。
桜木「あ〜呆れた。分かった分かった。方針決定〜」
桐生院「あ、あの!!これは本当に重要な事でして、トレセン学園のみならず、今後のURA運営との関係性やレースへの影響もある業界全体を左右する大事な―――」
「チーム[レグルス]は[アオハル杯]で今後も変わらず[全距離全勝]をして〜」
「―――くっっっだらない[大人]の思惑、ぜ〜〜〜んぶぶっ潰しま〜〜〜す」
桐生院「.........え?」
私の予測が外れ、桜木さんは怒りを顕にしながらも自ら立てた作戦を説明する為にホワイトボードの前に立ちました。
桜木「正直考えてる間に必要無いかなって思ったんだけど、そんな事が裏であったんなら話は別。やり切ります」
「やり切って俺がトレセンの[魔王]になりますッッッ!!!!!」
ーーー
ゴルシ「は〜〜〜あぁ〜。まさかこのゴールドシップ様がお使い係に選ばれちまうなんて、天もババを引いちまうんだな〜」
サニー「あァはいはい。面倒な事はさっさと終わらせたんだし文句言うなよ。オレ様ちゃんにも我慢の限界があるからな」
ゴルシ「え、まだ一回目なんですけど.........」
休日の昼に差し掛かる前の午前。いつもよりかは楽そうな格好をした人間共をチラホラと見かける。セカセカした黒一色の奴らが今日は殆ど見えない。
オレとゴールドシップは今、あの小屋に備蓄する飯だの何だのを買い足しに駆り出されている。傍から見た人選は変な風に見えるが、なんて事はねェ。シャカールの作ったあみだくじシステム?ってので自動的に決まっちまったんだ。
ゴルシ「それにしてもおめーホントに変な感じするよな!!前世でサイバーゴルシチームのメンバーだったりしたのか!!?」
サニー「.........何が言いてェ?」
ゴルシ「全部。言っていいか?」
サニー「いやダメだ。何も言うな。面倒そうだ」
ゴルシ「な、何よ!!!貴方っていつもそうっ!!!私の話は聞かないで自分の事ばかり話して!!!もう嫌なのよ!!!うんざり!!!」
サニー(いや俺の話は何もしてな―――)
ゴルシ「さよならっ!!!」バッ!!!
サニー「あァ!!?おいッ!!!」
バカみたいに大泣きしながらアイツはオレが持ってた分の荷物を持って走って行きやがった。突然の事でオレは声を掛けるだけで動く事が出来なかった。
暫くの静止の後、流石にこのまま奴を放置したらどうなるか分からない。何より、買い出しを頼んだアイツらに何を言われるか分かったもんじゃ無い。
オレはアイツの走って行った後を追う為に体勢を整えた。
「あ、あの.........!!!」
サニー「.........?」
「さ、サニーさんですよね.........?」
スタートダッシュを決める瞬間。正に脚に力を入れて走り出す間際だった。オレの背後から呼び止める声が聞こえて来る。
振り返ってみると、そこには想像以上の人間達がオレに.........キラキラとした目を向けているのが見えた。
「や、やっぱり!」
サニー「い、いやオレは―――」
「本物だー!!!」
サニー「え、は、ぇ.........?」
逡巡する間もなく、オレの周りを囲んで来る有象無象。悪い視線は無い。寧ろ、友好的な雰囲気が一人一人に感じられた。経験が無い訳じゃ無いが、この人数は流石に初めてだった。
「こ、この前のレース凄かったですッ!!!」
「まさかあのメジロマックイーンに勝てるだなんて!!!」
「次も絶対見に行くよ!!!」
サニー「あ、はは.........」
.........分からない。こんなの、無駄じゃねぇか。負ければ終わりで、勝ったら続くだけの世界。ただそれだけだってのに、なんでコイツらはそんな程度の事で、ここまで夢中になれるんだ.........?
.........なんで、オレは.........こんなありふれた言葉で.........
『―――ごめん、な.........!!!』
サニー「―――.........」
[あの時]だってそうだ。そんな言葉で、オレが受けてきた仕打ちを許す訳が無い。忘れる訳が無い。コイツらに良い様に扱われて、散々こき使われたんだ。そんな一言で許せる訳が無い。
.........無い、はずなのに.........オレは.........なんで.........
「お姉ちゃんっ!!!」
サニー「―――っ、?」
声が聞こえた。目の前には変わらない人間達。でもその視線はオレから外れて下に移っていた。
その方向を見ると、誰よりも小さい。けれど、この場に居る誰とも違う。頭から[耳]を生やした存在。そう、[ウマ娘]の子供が小さな花を持ってオレの前に来ていた。
「これあげるっ!!!」
サニー「あ、ああ.........」
「あのねあのねっ!!!お姉ちゃんカッコよかった!!!わたしもカッコよくなりたい!!!」
サニー(!.........あぁ。そっか)
サニー(そういう.........事か)
キラリと光る瞳に視線が吸い込まれる。純粋な無色透明さ。何者にもまだ染っていない、まだ何者でもない存在。これから先なんて、まだ語れるほど道の先が見えない程の、未熟者。
でも明らかに、オレは見た。[夢]を。この一瞬で、この子供の瞳の先に広がる[景色]を想像して、一人で納得した。
[夢]だったんだ。[全部]。
オレが、[貰っていた]のは.........
[
サニー「.........なれるさ。オレなんかよりも、ずっと強くて、速くて、皆が注目するウマ娘にな」
「ほんと!!?」
サニー「ああ、約束する」
脇の下に両手を入れて持ち上げてみる。身体はズッシリとしていて、重みを感じる。[鹿毛色]の髪の毛が太陽に照らされて、光を見せる。
無邪気に笑う子供。手に伝わる温度。その全部が愛おしくて、これがオレの[全て]だと感じた.........
ーーー
ゴルシ「あい〜〜〜ゴルシちゃん印のペプシコーラだぞ〜〜〜。中身はドクターペッパー。コカコーラが認可してサントリーから卸したレア物だぞ〜〜〜」
サニー「おい」
ゴルシ「んお?おーサンちゃーん!!!もう戻ってきたのかー!!!ぐぇ!!?」
公園で出店を開いていた(?)ゴールドシップ。あの人混みからようやく抜けてオレは追いつく事が出来た。
面倒臭ぇ事させられた腹いせに一発ゲンコツをくれてやった。これでチャラにしてやる。
重いゲンコツに涙を目に浮かべながらワナワナと立ち上がる。その目からは抗議の意思を感じた。
ゴルシ「なんだよー!!!ゴルシちゃんだって怒るぞー!!!オメーがファンサービスしねーから気ー効かせてやったのによーもー!!!」
サニー「やっぱ分かっててやったのか!!!その遠回しな気の遣い方は似てるなァえェ!!?」
ゴルシ「アタシが誰に似てるってー!!?んな事よりサンちゃんも客捌くの手伝えよー!!!今絶賛ハートフルセール勃発の真っ只中でタイもヒラメも伸び伸びの麺を欲しがってんだよ!!!」
サニー「チッ、おい。持ってった荷物は?」
ゴルシ「ふふ。買った奴らは全員そこでおねんねしてるぜ?赤ちゃん遊ばれ検定一級のこのゴールドシップ様にかかればどんなバブバブもスヤスヤよ.........」
サニー「あっそ。じゃあ帰る」
訳の分からない事を宣うゴールドシップの事は放っておくに限る。オレは指をさされた小型冷蔵庫の中から荷物を取り出して帰る事にした。
ゴルシ「おいおい。ど〜こ行くんだよ〜」
サニー「トレセンに決まってんだろ。頼まれてんだから」
ゴルシ「でもさっき[解散]って連絡来たぞ?」
サニー「.........はぇ?」
ゴルシ「と言う訳だから〜♪ギター。弾いてくれよ」
え、何?この、何!!?え!!?お、オレはどこにいるんだ!!?この展開のどこにオレは居る!!?か、解散って、今日はもう集まらなくて良いのか!!?分からない.........!!!何も.........!!!
サニー「.........っおいおい!!?テメェなんだこの重いの!!?」
ゴルシ「何って、ギターだけど?知らねーのアコギ」
サニー「知るか!!!こうなった以上オレァ帰るからなッッ!!!帰っておやつ食って寝る!!!」
ゴルシ「.........あっそ」
「さーさー皆さんお待ちかねー!!!ウエスタンビールの本性ちゃんの初ライブがおっぱじまるぞ〜〜〜♪♪♪☆☆☆!!!」
サニー「は!!?馬鹿お前―――」
「―――ッッッ!!!!!」
ゴールドシップの言葉に呼応し、さっきとは違う奴らがごった返すようにして集まってきやがった。おかげで退路は完全に無くなり、オレはここから離れる事が出来ない状態に陥った。
思わず怒りを溢れさせて奴の方を見たが、オレの圧に気圧される事なく、舌をペロリと出して可愛子ぶりして話を進めやがった。
ゴルシ「コイツサンちゃん!!!中距離担当の奴な!!!」
「おお!!!この前メジロマックイーンと戦ったあの!!!」
「まさかこんな所でライブしてくれるだなんて!!!」
「ウマドルみたいー!!!」
サニー「バ.........おま、だから出来ねぇって」
ゴルシ「歌うの初めてらしいから、オメーら貴重な体験だぞー?聞きてー奴はコーラ一本買ってけ!!!Dr.メガニ=ゴッテルの調合コーラだぞー!!!」
サニー「オメェさっきと売り文句が違―――」
.........結局、オレの帰りはライブ練習公演で夕方近くまで引き伸ばされた.........
ーーー
桜木「はァ.........はァ.........ハァァァ〜〜〜」
強い疲労感と心地良い疲れが身体を襲う。身体を仰向けにして畳の上に寝っ転がると、大量の汗が頬を伝って行った。
ここは[メジロ家]の[修練場]。日々[護身術]を磨く為に門下生が足繁く通う場所らしいが、今日は貸切らしい。
マック「お疲れ様です。トレーナーさん」
桜木「ありがとうマックちゃ.........マックイーン」
マック「!ふ、ふふ」
思わず身体が無かった時の呼び方で呼びかけてしまい焦る。彼女も身体の影響でかなり大きい衝撃を受けたがここ2、3日で大分慣れてきた。
.........どうせならあの時くらいには耐性というか、心が酷く動揺しない状態までには戻して行きたいな.........
「はいそこ〜イチャイチャタイムじゃ無いわよ〜」
二人「!は、はい!!!」
手を叩いて空気を引き締める女性。しかしその行動とは裏腹に言葉は緩みを帯びている。こういうのを人は[ミステリアス]。というのだろう。薄く見える瞳からは悪い意識は感じられない。
俺達は二人揃って正座をして彼女に対して身体を向ける。[メジロ護身術総師範]である[メジロティターン]さん。マックイーンのお母さんがクスクスと笑っている。
ティタ「驚いたわ〜桜木くん。短期間でここまで基礎を身に付けてるだなんて〜」
桜木「い、いや。それはマックイーンの教え方が上手だったからで」
ティタ「でも、基礎訓練に着いていけるだなんて凄いわ〜♪並のウマ娘でもへばっちゃうのよ〜?」
桜木(え、あのマックイーンさん?人用のプログラムって最初に聞いたんですが.........?)
マック(わ、私も言おうと思ったのですが、お母様が.........)
ティタ「はい♪私語厳禁〜♪」
二人「!は、はひ!!!」
ポン。と肩を叩いて顔を覗き込んでくるティターンさん。怖い。ただひたすらに怖い。他所のお母さんってこんなに怖いっけ.........?
あまりの恐怖に俺もマックイーンも強ばった返事をしてしまう。もうこの人の前でいらん事喋るのはやめよう。殺される。
ティタ「さてと、桜木くんの段位の話なんだけど〜」
桜木「!.........ゴクリ」
そう。今日ここに来たのは俺の用事だ。
マックイーンから[護身術]を学び、幾らかは扱えるようになった。だがそれだけでは問題が生じる。俺がここの人間じゃないからだ。技を勝手に使う事は出来ない。
もし使った事がバレた時は俺だけじゃない。マックイーンもかなり怒られるだろう。それだけは避けたかった。故の今日の行動。後悔は無い。
.........え?なんでわざわざ今日かって?
.........いや、だって明日はデートだし。来週は[IЯIA]の限定スキンイベントあるからゲーセン行かなきゃだし。その次の週はアオハル杯だし。その後の週はマックイーンが見たいって言ってた映画始まるし。その後の後は野球の公式戦があるしその後の後の後は.........
ティタ「ん〜分かんないから一回[模擬戦]しましょうか♪」
桜木「!はいっ!!.........はい!!?」
マック「お母様!!?」
何の気なしに出された言葉。返事をしてからその意味に気付く。そして気付いた時にはもう遅い。彼女は鼻歌を歌いながら部屋の中央へと立ち、俺を手招きして待ち始めた。
マックイーンに助け舟を乞うが、彼女は悲しそうに首を振る。どうやら俺の予想通り、彼女はかなり強引な人らしい。
諦めて俺は立ち上がり、彼女の前へと出る。
桜木「.........ルールは?」
ティタ「ん〜♪一分間にしましょう?もし一度でも私が手を出したら、[師範]にしてあげる♪」
桜木「ど、ぇえ!!?[師範]ッッッ!!!??」
ティタ「そうよ〜♪特別サービス♪丁度跡継ぎが欲しかったのよ〜♪」
のらりくらりと身体を優雅に動かしながらそう言った。彼女のその言葉からは嘘などは無いと感じる。おべっかという可能性も無さそうだ。
良いのか?本当に?そう思いマックイーンの方を見ると、もう考えたくないと言わんばかりに眉間に指を立てて顔を伏せている。あの子も結構苦労している様だ.........
マック「.........では」
「―――始めッッ!!!」
桜木(.........?構え、取らないんだ)
両手を平にし、[手刀]の形を取って構える。これが[メジロ護身術]の基本。教わった通りに身体を動かす。
しかし目の前には自然体のリラックスした彼女が居る。だがどうにも近付けない。雰囲気。気配。だが敵意は無い。よって、仕掛ける気力も湧かない。
そういえば.........あの[婆さん]もこんな感じで突っ立ってやがったな.........
桜木(.........ああそう。だったら―――)
マック「.........!」
―――彼はお母様の対応を見て、ニヤリを笑いました。そしてそれは直ぐに変化へと移ります。
身体の構え。[手刀]から拳に変わり、身体の向きは完全に半身へと変わりました。
私が一歩も近付けずに終わったあの牙城.........彼は一体どうやって―――
―――ッッッ!!!!!
二人「―――ッッッ!!!??」
畳が弾む音。強い力で蹴り抜かれた地面。彼は既に、お母様の目の前まで迫っていました。
彼の言葉を借りるのなら、[ガンダッシュ]。恐怖や疑念に惑わされる事無く、彼は前へ行くことを選択したのです。
これには流石のお母様も驚いた様子で、一瞬で飛びのきました。先程までお母様が居た場所にトレーナーさん。そして先程よりも遠い間合いをキープする母が薄く笑っています。
ティタ「なるほどなるほど。そういうタイプなのね〜?嫌いじゃないわ〜♪」
桜木「.........!そりゃどうも。んじゃあ」
マック(.........!何を.........!!?)
ニヒルな笑みを浮かべた彼は構えを解かずに前へと、母へとただひたすらに向かって行きます。
しかし、先程の詰め方とは違い、ゆっくりとした足取りで歩いて行く.........それは、私にも出来なかった事でした。
―――ただひたすらに前へと詰める桜木。その思惑は誰にも分からなかった。多くの経験を積み、並大抵の予測なら立てられるティターンでさえも同様。浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す予測に不気味さすら覚えてくる状態。
そして、桜木にとってはそれこそが[真意]であった。[前へ進む]。一歩でも良い。それをするだけで相手の予測から外れる事が出来る。後退や停滞は相手の範疇。それは好期になり得ない。
ただ護身術をかじっただけの、言わば素人。セオリーなど分からない。そんな人間がルールを盾に前へと迫ってくる。[ゲーム]を攻略をするかのように、淡々とそれを[検証]する。
そして果てには、彼女は気付かないまま壁に背を付けて居た。
ティタ「っ!.........へぇ?」
マック(う、動きが自然過ぎる.........!お母様の眼を逆手に取って.........)
―――壁に追いやられた母は冷や汗を流し、トレーナーさんを見つめました。そこに先程までの余裕は無く、好敵手を見る様な目で彼をじっと見つめています。
そこに至るまで、彼はずっと[自然体]を保ち続けていました。[構え]のそれは、全ての攻撃に対して即座に行動に移せる物。それを意識させつつも前へ歩いて行く.........[圧]の掛け方のお手本を見せられていた様でした。
桜木「.........さっ、どうします?こっから反撃しなければ袋叩きっスよ?」
ティタ「別に構わないわよ?私、捌くのには自信があるの。それは攻撃には入らない」
桜木「.........そうですか。じゃあ今から目測ですがティターンさんの体重。体脂肪率。BMI。スリーサイズを順に言っていきますね」
二人「え」
彼は仕方ない。と言った表情でため息を吐いてそう言いました。その言葉に思わず声を漏らす母と私。
.........いえいえ。そんなまさか、奥手なトレーナーさんの事ですからきっとハッタリです。それに本当にそんな事が出来るのなら.........ええ。有り得ません。絶対に有り得ませんわ.........!!!
桜木「まず体重は.........49kgですかね。痩せ気味っすね」
ティタ「ぴっ!!?」
マック「ほ、本当ですの!!?本当に言ってますの!!?」
桜木「体脂肪率は腕の感じからして8%前後。現役レベルっすねもっと食べた方が良いっすよ。健康的にも」
ティタ「ぴぁ!!?」
桜木「そこから考えるにBMIは18後半。ギリ普通の範疇っすね」
二人「.........」
桜木「.........んでスリーサイズは「ぴっ」.........ぴ?」
「ぴゃあああああっっっ!!!!!」パシーン!!!
顔を赤らめながら母はかなり強めにトレーナーさんをビンタでぶっ飛ばしました。顔を床に擦り付けながら滑って行き、最終的に壁へと激突して行きました。
母は稽古着の胸元をキュッと握り締め、今まで見た事も無い様な表情でそのトレーナーさんを見つめています。
ティタ「お、恐れ入ったわ桜木くん.........こんな所でまだまだ私に未熟さを教えてくれるだなんて.........流石は敏腕トレーナーね.........!!!」
マック(す、凄い.........言っている事は余裕があるのに表情は完全に辱めを受けているそれだわ.........!!!)
桜木「ぐ.........ぐぐ.........これでも譲歩したと言いますか.........もっと早めに叩いてくれると思ったんですがね.........」
桜木「.........あとマックイーン、レース終わった後のご飯何食べたの?チーム室来た時に明らか無理な減量の傾向があったけど?」
マック「なっ、ぅ.........ぅぐう」
痛みを感じている声で最初こそ母の言葉に対して応えていましたが、私への追求に関してはうつ伏せの状態のまま首を回し、虚ろな目で淡々と問いかけてきました。
わ、分かります.........もう何年も一緒に居るんですから.........彼は私が暴飲暴食をした事を問い詰めているのではありません。その後にした無理な隠蔽工作についての追求してきているのです.........
マック「だ、だってだって!!!出来るわけありませんわ!!!す、好きな人に太ってしまった等という報告!!!」
桜木「でも言ったよね?君どうせまた倒れるまでやるんだから言ってね?って。怒らないし絶対痩せるまで付き合うって」
ティタ「マックちゃ〜ん?倒れるまでって何〜?前もそんな事、あったの〜?」
マック「あ、あわ、あわわわわ.........!!!」
.........今日は彼の[メジロ護身術]を見てもらい、正式に門下生として受け入れて貰う予定のはずだったのですが、それは完全に有耶無耶となってしまい、それどころか私が二人からお説教されてしまう。という事態に陥ってしまうのでした.........
......To be continued