山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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少女達の青春と世界の命運

 

 

 

 

 

 秋の冷たい風が吹くターフの上。ひんやりとした風が優しく体全体を通り抜け、寒気を引き起こす。

 北海道生まれ北海道育ち。そんな俺だからこそ、新調した革ジャンに身を包んで彼女達の練習に立ち会っていた。

 

 

桜木「よーしいい感じだ。イメージは掴めたな?」

 

 

スズカ「ええ、まぁ.........」

 

 

スペ「で、でもまだ作戦通りに走ってる訳じゃ.........」

 

 

桜木「駄目だ。いつ誰が見てるかも分からない。相手はあのハナさんだ。薮から飛び出た蛇を手で掴んで火炙りにするくらいの事はしてくる」

 

 

 相手にとって不足なし。出来うる限りの事をする。それ即ち、[敢えてやらないという選択肢]すらも発生してくるという事。ブラフを敷いて惑わす事も必要だ。

 先日、俺はタキオンに言った。ウマ娘の事を考えるのなら[勝利を目指す]。自分の保身を目指すのなら[負けを遠ざける]。今俺がやっているのは明らかに後者だ。

 

 

 理由は単純明快。これが、この[アオハル杯]が下らない[大人]の私利私欲に塗れた出来損ないのイベントに成り下がっている。

 表向きこそウマ娘の青春を謳っているが、裏を見りゃこの先のトレセンのあり方とかいう、テメェらで決めるべき事を子供達を使って代理戦争しちまってるって訳だ。参加していて気持ちのいいもんじゃない。

 

 

 そして、ここにいる奴らの大半は[大人]を知らない。社会不勉強の集まりだ。生徒であるウマ娘は兎も角、それを導くトレーナーがそれなら、痛い目を見るのは決まって巣立った後のウマ娘達だ。

 世界ってのはイカれてる。[勝負事]に身を置く事で生を実感出来る。しかしそのせいで、生を[台無し]にする事にもなる。ままならない話だ。

 それを知らない奴は損をするし、知ってて身を置く奴はコロッセオにぶち込まれた感覚になり、知ってて遠ざかった奴はコロッセオの中を見て優越に浸り、ある者はそこに[光]を見出す。

 その在り方を、今根本から変えていかなけりゃならない.........

 

 

桜木(.........ったく。[願望器]だか何だか知らねぇけど、こっちはこっちで手一杯なんだよ)

 

 

「わ!ちょ、ちょ!!!落ち着いて下さい!!!」

 

 

「嫌よッッ!!!もう一本よ!!!スズカ先輩!!!スペ先輩!!!もう一回やりましょう!!!」

 

 

 突然、そんな声がスタートラインから聞こえて来る。振り返って見ると、そこには先程の練習で惜しくも三着になってしまったダイワスカーレットとそれをなだめ切れずに彼女にしがみつく形で引き摺られている[花道 泰雅]が居た。

 

 

桜木「.........はぁ〜。おい[花道]。ちょっとこっち来い」

 

 

花道「は、はいっ!!」

 

 

桜木「あ〜。もっとこう、さ?丁寧にっつうか。落ち着いて語り掛けてみたらどうだ?」

 

 

花道「や、やってはみたんですが、上手く行かなくて.........」

 

 

桜木(.........だろうなぁ)

 

 

 もうこの際スカーレットは放って置くとして、俺のチームに復帰した花道へのアドバイに専念する事にした。相変わらず周りの視線は少し痛いが、初日程じゃ無いから気にしない。

 まぁそもそもが優男だからなぁ.........舐められるのも仕方無い。実績も無い中、GIウマ娘の尻に敷かれると言うのもよく分かる。

 

 

 .........と、なると。だ。

 

 

桜木「.........あんま使いたくない方法だが、仕方無ぇな。花道」

 

 

桜木「今お前の中に[イマジナリーIMUNI]を作り出せ」

 

 

花道「.........はい!!?」

 

 

桜木「エミュしろって事だよ。んで、そいつに一旦身を預けてみろ。以上」

 

 

花道「そ、そんな無茶な!!?」

 

 

「トレーナーさ〜ん♪」

 

 

桜木「!おはっ♪マックちゃ.........マックイ〜ン♪んじゃ俺マックイーンの所に行くから!マイルチームは任せた!!!」

 

 

花道「へぇ!!?ちょっと!!?先輩!!?嘘でしょ.........!!?」

 

 

 

 

 

 ―――先輩はそう言葉を投げ捨てて、僕達に背を向けてマックイーンさんの方へと全速力で走って行った。なんて速さだ.........流石半年近くウマ娘として走ってきただけの事はある.........

 じゃなくて!!!何なんですかエミュって!!!そんな事出来るわけ無いじゃ無いですか!!!

 

 

ダスカ「ねぇ!!!何やってるのよ!!!早くそこに立ってスタートの合図出しなさいよ!!!今度こそ一番になるんだから.........!!!」

 

 

スペ「.........チラ」

 

 

スズカ「チラ.........チラチラ.........」

 

 

 ああ、なんて事だ。もうこの短時間で三回も走ってるのに、スカーレットさんはまだまだ元気そうだ.........それに引替え他の二人は流石にオーラがシワシワに見えるくらいに疲れ切ってる.........

 や、やらなければ.........僕が、やらなければ.........

 

 

花道「.........スカーレットさん」

 

 

ダスカ「何よ?」

 

 

花道「.........スゥー。はっきり言いましょう。今の貴女ではお二人から完全な[1着]をもぎ取る事は出来ません」

 

 

ダスカ「!!?はぁ!!?何言ってるの!!?頭へっぽこなのかしら!!!いくら先輩達が強いからって私が完全に劣ってる訳じゃ―――「劣ってます」.........」

 

 

 う、し、視線が怖い.........お、落ち着け。IMUNIはこういう時なんて言う?彼女を思うのならば、なんて声を掛ける.........?

 

 

花道「良いですか?貴女にはまず、落ち着きが足りません。1着になる為の思考は他に類を見ない程優秀ですがそれ以外の部分。局所的窮地を凌ぐ為の思考力が弱いです」

 

 

花道「例えば自分の前にウマ娘が走っていて、それを抜かそうとした時に他のウマ娘に後方から差し切られる。という経験は「無いわ」.........無いかもしれません。ですがスペシャルウィークさんはその場面の対処は非常に上手です」

 

 

スペ「え、えへへ.........」

 

 

スズカ「良かったわね。スペちゃん」

 

 

ダスカ「で、でも確かにそうかも。さっきの三回とも、スズカ先輩を抜かそうとしてスペ先輩に抜かされたし.........」

 

 

花道(.........ほっ。どうやら分かってくれたみたいだ)

 

 

ダスカ「じゃあどうしたらいいの?」

 

 

花道「.........え」

 

 

 先程までのつっけんどんな対応は無かったかのように、彼女は純粋な目でそう問いかけてくる。僕の応えを待っている。スペさんもスズカさんも、たじろぐ僕を見て心配そうな表情をしている.........

 .........IMUNIならなんて言うか?違う。今はそれを求められていない。だったら、[先輩]は何を思って彼女を、激戦必至の[マイルチーム]に入れたか。それを僕の憶測で説明する。それだけしかない。

 

 

花道「.........貴女の負けん気は凄まじいです。それはこの二人には無い[とてつもない武器]。そしてそれは.........[相手も持ち合わせて居ない]」

 

 

花道「先輩はそこに目を付けて、貴女を今回のマイルチームに選出した。歴戦の強者でありながら、まるでデビューを夢見るウマ娘の様な勝利の渇望を持つ貴女に対して、相手は必ず日和ると」

 

 

ダスカ「.........相手はマルゼン先輩。タイキ先輩なのよ?そう簡単に行くのかしら」

 

 

花道「簡単じゃないでしょうね。でも、それは相手も同じです。スズカさんが居ますから」

 

 

 先輩の作戦は荒唐無稽。そして机上の空論に近い。[絶対]なんて無い。それはあの人も分かっているはずだ。

 絶対に勝つことも、絶対に負けない事も無い。でもあの人はそれを知っていても止まることはしない。

 

 

 だってあの人は.........そうやって[上り詰めた]んだから.........

 

 

ゴルシ「ひゃっほーーーい!!!ゴールドシップ様の凱旋じゃーーーい!!!道あけねーとオメーらも巻貝の中に海老を突っ込む職人に転職だぞー!!!」

 

 

フェスタ「チッ!!!賭けの勝ちがハズレ弾のパック一つかよ!!!おいオル!!!お前もっかいギャラリー呼んでこいっ!!!」

 

 

オル「無理無理無理ィ!!!ていうかこんな状況でよくまたやる発想になれるよね!!?」

 

 

花道「.........なんですか、アレ」

 

 

 颯爽と走り去っていく三人のウマ娘。その後ろ姿を見送っていると、背後から不穏な気配が立ち込めてくる。

 ゆっくりと振り返ると、そこには怒り心頭の先輩が立っていた.........

 

 

桜木「なァ〜花道〜?ゴールドシップ達。どこ行ったか知らな〜い.........?」

 

 

ダスカ「な、何があったのよ.........」

 

 

桜木「なぁ〜に.........俺とマックイーンを二人きりにさせた瞬間を激写してキスしてるかどうか第三者に見せて、その結果を予想する賭けをしてやがったのさ.........」

 

 

スペ「ききき、キスぅ!!?」

 

 

スズカ「嘘でしょ.........?」

 

 

 

 

 

 一方その頃、中距離チーム。

 

 

愚地独歩キオン「コラだろ?.........」

 

 

デジタル「本物です」

 

 

シリウス「おいおいおいおいっ!!!完全に押し倒してんじゃねぇか!!!」

 

 

シャカ「いや良く見ろ。背中にシワが付いてやがる。ハメられたンじゃねェか?」

 

 

 

 

 

桜木「ククク.........アイツらの事だ。さっきの盛り上がりを見てアレで終わる訳が無ェ.........今の内に釘ィ刺しとかねェともっかいやるに決まって「号外号外!!!号外だよー!!!」.........」

 

 

ゴルシ「トレセン学園ゴシップニュースだよー!!!撮れたてほやほやの既成事実ー!!!な〜んとあのレグルスのトレーナーとM家のご令嬢の激写が乗ってるよー!!!」

 

 

花道「.........まさか」

 

 

 声のする方向に目を向けると、そこにはいつの間にか、どうやったのかも分からないが大量に刷られた新聞を抱え込んだゴールドシップさん達が居た。

 

 

オル「ちょ!!!流石にダメ!!!ダメだって!!!」

 

 

フェスタ「何言ってんだオル!!!これで向こう50年は戦えるカードが入ったパック買わなきゃこっち来た意味ねぇだろ!!!」

 

 

オル「フェスタちゃん何しに来たの!!?」

 

 

ゴルシ「そうだぜ姉ちゃん!!!こんな楽しい事やんないでどうすんだ!!!母ちゃんだったらもっと派手にやってた.........ぞ?」

 

 

桜木「.........見ぃつけた〜」

 

 

 ゆらり。と身体を揺らす先輩。けれどバランス感覚が無い訳じゃない。寧ろ洗練されたそれは、[牽制]と言っても過言じゃない程の圧を出している。流石の彼女達も冷や汗を吹き出させている。

 

 

ゴルシ「へ、へへ.........流石にライン超えしちゃった感じか?これ」

 

 

フェスタ「チッ。おいオル。だからあれほどバレねぇようにやれっつったろ」

 

 

オル「流石に背中突き飛ばしはバレるよ!!?」

 

 

桜木「お前ら良い事教えてやるよ.........結構ウマ娘で居た期間が長くてよ〜。筋力だけまだ戻ってね〜んだわ.........」

 

 

桜木「.........逃げ切れると思うなよ?なぁ?」

 

 

三人「ひっ」

 

 

 

 

 

 ―――その頃、ダンスレッスン室

 

 

サニー「.........っと、指がキツイな」

 

 

ウオッカ「だよなぁ。俺も最初は慣れなくて大変だったぜ?」

 

 

ポッケ「まァやってく内に上手くなるって!!こういうのはレースと同じでとにかく慣れ「みぎゃあああああ!!!??」.........」

 

 

サニー「.........えーっと?C#がこれで、Bmがこれ.........」

 

 

ウオッカ「飲み込み早ぇな!!?このまま行けば来週の「うごぁぁあああああ!!!??」ライブには間に合いそうだな!!!」

 

 

ポッケ「バッチシ決めようぜ!!!「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」なっ!!!」

 

 

ウマ娘(嘘.........なんでそんな気にせずに練習出来るの.........?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木(.........なんだろうな。精一杯トレーニングした二週間だったけど、それ以上に今までお預けしてたトラブルというか、乱癡気騒ぎが舞い込んできてたな.........)

 

 

 アナウンスの声が響き渡る地下バ道。俺達を先導する様にサンちゃんが歩き、俺とマックイーンがその後ろに続く。

 道すがら今日までの事を思い返してみたが、やった事も多かった期間であったが、それ以上に起こった事が多かった。主にトラブル関連。

 

 

 この先半年分のツケを払わされるのかと思うとゲンナリとしてくる。特にゴールドシップ達には.........今更手を焼く羽目になるとは思ってもみなかった。

 

 

マック(トレーナーさん)

 

 

桜木「?どしたの?」

 

 

マック(これ、忘れてましたわよ?)

 

 

桜木(.........んげ、いや。それは忘れたと言うか、わざと付けなかったと言うか.........)

 

 

 隣を歩く彼女がポケットから一枚の真っ白い布を取り出した。それは彼女が俺にくれた[誕生日プレゼント]の一つ。今まさに着ているライダースジャケットのコーデの一つだ。

 .........でもほら、俺もう30近いじゃん?ライダースはまだ良いけど、スカーフって.........ねぇ?お洒落してこなかった俺からしたら難易度が高い訳でして.........

 

 

マック(.........もうっ)キュッキュッ

 

 

桜木「うぇ!?ちょ、マックちゃん.........!」

 

 

マック(これならアクセントになるでしょう?)

 

 

 彼女は少し怒りながらそのスカーフを俺の左腕に結んだ。確かにこれなら首に巻くよりかは良い.........のか?分からない。オシャレ初心者は全く分からない。

 彼女曰く、映画のアクションスターを目指してコーディネートしてくれた様なのだが.........聞く映画全てが2000年代よりも前だから、もしかしたら彼女もズレているのかもしれない。

 

 

 .........だとしたら、そういう所も可愛い。

 

 

 そんなこんなで控え室の前まで着き、サンちゃんがドアノブを捻って中の様子が丸見えになる。

 それぞれが思い思いに過ごしている中、やはりと言うか.........俺達の方に視線が集まってくる。

 

 

タキオン「やぁやぁトレーナーくん?レース前に密会とは君も大きく出たねぇ?」

 

 

桜木「いや、ちょっと久々で落ち着きたかったんだよな〜的な?つーかマックイーン以外寄越しなよ。レース出るのよ?デジタルはそこの所どう思う?」

 

 

デジ「トレーナーさんが悪いと思います。はい」

 

 

桜木「うっは〜.........相変わらず辛辣。でも普段通りそうね。これならダートは大丈夫かな」

 

 

 水筒の麦茶をカップに注ぎながらからかってくるタキオン。こういう時にちゃんと成分作用を気にする所は意識が高いなと思う。

 デジタルに関してはいつも通りだ。当たりが強いかもしれないが、チームのリーダーとして頑張ってくれている。まぁ、俺の不手際のせいでそうなってるんだけどね?

 

 

桜木「うーっし。そろそろレースが始まるぞ〜?準備は良いか〜?」

 

 

全員「はいっ!!」

 

 

桜木「返事よーし!!!今日の為に必死にやって来たこと!!!ハナさんに見せつけてやろうぜ!!!」

 

 

 マイルレース開始準備のアナウンスが耳に入ってくる。やっとこさレースが始まるっつうわけだ。

 何度経験しても、この時間だけは本当に歯痒い。出来る事なんてもう俺に何一つも無いって思い知らされるのは本当に辛い。

 

 

 .........けれどそう思えるだけ、心の張りは少し緩める事が出来るくらいには俺も[強くなっている]。

 

 

 

 

 

サニー「.........」

 

 

『元気が無いわね。坊や』

 

 

サンデー(っ!マックイーン.........)

 

 

 ―――壁にもたれ掛かりながら部屋から出ていくアイツらの姿を見送る。マイル戦が始まる。その為の準備の為だ。

 そんなオレの様子をからかうように、メジロマックイーンの[ウマソウル]。オレの良く知っている方のマックイーンが現れてそう言った。

 

 

 .........否定はしない。オレがここに立つのは、今日が[最期]になる。

 

 

サンデー(.........なぁマックイーン。オレは、オレの[残した物]を守りたい)

 

 

サンデー(それが例え、どんな[方法]であったとしても.........お前は、分かってくれるよな?)

 

 

『.........っ!サンデー、貴方―――』

 

 

「あーっ!!サンちゃん居たー!!」

 

 

サニー「っ!おま、何しに戻って来た!!?」

 

 

 会話が断ち切られる。その原因はこの部屋に戻って来た存在が居たからだ。

 [ハルウララ]。それが何の悪気も無さそうな顔でオレに近付いてきて、そして何も気にせず、オレの手を握り締めて来た。

 

 

ウララ「サンちゃん居ないな〜って思ったの!!ほら行こ!!スペちゃん達も待ってるよー!!」

 

 

サニー(.........やれやれ)

 

 

 どうやらオレには、ゆっくりと[旧友]と話す暇すら与えられないらしい。時間を作る技術なんて端から無かった生き物だ。場当たり的に生きて、そして潰えるだけの存在。

 それが皮肉にも、[人]の手を借りて、連綿と時間を[駆けてきた]。理由は単純。重い荷物を乗せる様に、アイツらはオレ達に[夢]を預けて共に歩いてきたからだ。

 

 

サニー(.........今でも、傍迷惑な話だと思ってるよ)

 

 

サニー(でも今は.........少しだけ、ほんのちょっとだけ―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――悪くねぇって、思えるよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [夢繋ぎ人]になった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ遂にやって参りました!![アオハル杯予選決勝]!!」

 

 

「出走チームは皆さんご存知!!全距離全勝を掲げるチーム[レグルス]ッッ!!!前人未到を突き進む異端のチームッッ!!!」

 

 

「対するは手堅いレース盤面を形成しつつも勝利を確実に拾っていくチーム[リギル]ッッ!!!二戦連続の対決です!!!」

 

 

「前回のリギル戦は三冠バ達が在籍しており、桜木トレーナーは現在のレグルスの長所であるチーム数の多さで上手く対策を立てましたね」

 

 

「しかし今回の鬼門は特にマイル。マルゼンスキーやタイキシャトルと言った型破りの選手がおります。ここで上手く勢いに乗れるかが両者の全体の勝敗を分けるでしょうね」

 

 

 実況が観客を煽り盛り上げていく空気感を作っていくのと同時に、解説が今回のレースの重要点を洗い出す。

 通常レースと流れが違うとはいえ流石はプロ。前後の勝敗が全体の流れに響く事を良く把握している。

 

 

 .........やはり、この緊張は慣れない。そう思いながらため息を吐こうとした所に突然、背中をポンと叩かれた。

 

 

「.........だ、そうよ?桜木君?」

 

 

桜木「うぎっ!!?と、東条さん.........と」

 

 

「よう桜木。うちのじゃじゃウマを全面に押し出すなんて、お前らしいやり方だな!」

 

 

 背中を叩いてきたのは敵チームのトレーナー。[東条ハナ]さんだった。そしてその後ろから意地の悪い笑みを浮かべてひょっこりと顔を出している[沖野]さん(現在溜まりに溜まった有給を消化中)が俺を見つめている。

 

 

桜木「.........ハナさんは兎も角、なんで沖野さんまで居るんすか?」

 

 

沖野「そりゃお前。トレーナーだからだろ」

 

 

桜木「いや俺が言いたいのは.........えそういう事!!?」クチフサギポーズ

 

 

タキオン「君とマックイーンくんじゃないんだから違うだろ」

 

 

カフェ「女子中学生ですか?」

 

 

桜木(え何この子、こんな的確に刺してくる子なの?)

 

 

 レースに参加しないチームメンバー達が俺の方をじーっと睨み付けてくる。もちろん味方は居ない。マックイーンもウララもレースの控え室だ。

 .........嫌だってしょうがないじゃん?大人の男女。一人は休日。わざわざ一緒に居るなんて、ねぇ?

 

 

東条「.........こんなのと一緒になる気は無いわよ」

 

 

沖野「え〜。その言い方は無いっすよ〜」

 

 

桜木「ふふ、一生振られてるw」

 

 

全員(コイツいっぺんどついたろか?)

 

 

 俺のからかいに対して面倒くさそうな顔で受け流す沖野さん。まぁこの様子だと本当に双方にその気はないようだ。つまらない。

 まぁでも、こうして沖野さんと話すのも久しぶりな気がする。トレーナーとして話するのはマジで半年ぶりくらい?

 

 

 .........俺ってば本当向こう見ずよなぁ。

 

 

 

 

 

カフェ(.........)

 

 

 ―――先程までのふざけた空気は身を潜め、トレーナーさん達はレースについて話を進めて行きます。

 今回の作戦やチームの編成など、本来ならば話さない事を。

 

 

 表向きは[チーム間の交流]に重きを置いたイベント。それぞれの特色を遺憾無く発揮し、それを世間に披露し、各々が自チームの参考にする。

 彼はそれを今、実践している。そしてそれに乗っかる様に、沖野トレーナーと東条トレーナーは指摘やアドバイスを送ったりしている。

 

 

カフェ(.........本来であれば、これが普通なんだ)

 

 

 もし。過去と同様に開催していれば.........私はきっと司書さんの元でトレーニングをして、まだシニア級に挑戦していた。

 そして.........[あの子]にも、きっと出会わなかった。そのどちらが良かったのか。今になっても答えは出てこない。

 

 

 そう考えながら足元に視線を落としていると、ふと大きな影が地面に覆い尽くそうとしていた。まるで、全てを[侵略]するかの様な速度で。

 天気予報では今日は晴れ。雨雲?ゲリラ的な豪雨が来るのかと思い、私は何の気無しに空を見上げた。

 

 

カフェ「―――ッッ!!!??」

 

 

タキオン「?どうかしたのかい?」

 

 

カフェ「あ、あれ.........」

 

 

タキオン「.........?ああ、キミの得意分野だろう?私は触れないよ」

 

 

 私は空に指を指した。けれどタキオンさんは少し目を凝らした後、そっけなくそう言ってターフの方へと視線を戻して行った。

 有り得ない。彼女の性格からしてあんなものを見たら驚くか、知的好奇心から突飛な行動に向かって行くはず。まさか.........[見えていない].........?

 

 

 私は藁にもすがる思いで、桜木トレーナーの裾を掴んだ。私のその行動に多くの人が驚きを見せる。それは勿論、彼も例外じゃなかった。

 けれど、私の表情が酷かったのだろう。有無を言う事なく、彼はその視線を空へと向かわせた。

 

 

桜木「―――あー」

 

 

沖野「.........?なんだよ?」

 

 

東条「何かあったの?」

 

 

桜木「.........メロンパンみたいな雲だなーって。カフェ、お腹空いてる?」

 

 

カフェ「!貴方は―――」

 

 

 彼はふざけたような表情で私をからかってきた。そんな状況じゃない。何が起きているかは分からないけれど、時は一刻も争う事態に発展している。

 そう伝えようとした矢先、彼は私の肩を誰にも気付かれない様に押さえ、そして黙って首を横に振った。それはつまり、彼には[見えている]と言った情報に他ならなかった。

 

 

カフェ(.........なんなんでしょうか。[アレ]は)

 

 

桜木(さぁね。でも今はレースに集中だ。俺達にゃどうしようもない)

 

 

 

 

 

 ―――空を覆い尽くそうとしている物体。それは今もまさに、[大きくなっていく]。留まることを知らない膨張。そしてそれは、誰にも見えていない。

 耳に入ってくるのは人々の声。この場にいる者達の、レースに対する期待の籠った声援が聞こえてくる。それに鼓動するかのように、それはもっと大きく。そして、[強大]になっていくのを感じる.........

 

 

桜木(.........なるほどね。[これ]を狙ってたんだとしたら奴は相当性格悪いし、これを推測する奴もかなりの性悪だな)

 

 

 冷や汗を垂らしながらそれを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、[巨大な砂時計]だった。

 

 

 [時間]という、人間にとっては喉から手が出る程に欲する[概念]。正に、全人類にとっての[願い]だ。

 

 

 [あの時]。[あの頃]。[この先]。[今]。主語にはせずとも、人間の枕詞には必ず無意識にその単語が付けられる。

 どんなに意識をしていなくとも、人はそれに[縛られ]、そしてそれからの[解放]を心から[願っている]。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木([地球規模]ってのはそういう事ね。納得.........)

 

 

桜木(あーあ、面倒くさ.........)

 

 

 ―――こちとらレースに集中しなきゃだってのに、こんなどデカい規模のトラブル引き起こしやがって。これならまだダイナブレイドが襲来してきたり巨大UFOが出てきてくれた方が盛り上がってくれる。

 .........でもまぁ、あっちは[アイツら]が何とかしてくれるだろう。そう気持ちを切り替え、俺はもう一度この声援渦巻く勝負の世界に意識を切り替えて行くのだった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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