山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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お気楽な優等生

 

 

 

 

 

 ―――[彼]に初めて会ったのは、[彼女]と出会って丁度三年目の夜の事だった。

 

 

 今でも覚えている。彼女と同様、夜空に浮かぶ星々の隙間から生まれ落ちたかのようにゆっくりと舞い降りて来た。

 けれど、その時と違う点は二つ。彼は彼女とは違い、確かに意識を持っており、そして明確な[野心]を秘めていた事。

 そしてもう一つは.........あの時感じた[幸福の予感]が、[最悪の予感]だった事だ.........

 

 

 

 

 

レックス「.........貴方は言った。そういう[契約]だったと」

 

 

アニマ「.........そうだね。その通り」

 

 

 ―――玉座に座る男はつまらなさそうに頬杖を着き、眠そうな目で僕を見る。今にもあくびをしてしまうのではないかと思ってしまうくらい眠たげな目でこちらを見ている。

 

 

アニマ「本来ここは[無かった筈の世界]だ」

 

 

アニマ「ありもしない理想郷を作り出す。[人間]ですら不可能なそれを[彼女]は大真面目になってやった。僕の手を借りてね?」

 

 

アニマ「僕は[人の起源]だ。それと同時に、あらゆる存在の[声]を承る。僕にとっては太陽系の一つの星を作るだけなら.........なんとでもなる」

 

 

レックス「.........随分簡単に言う「簡単だよ」―――」

 

 

アニマ「だって、全部[教えてくれる]んだもん。君もそうでしょ?[王子様]」

 

 

 鼻につくような人を小バカにする声で彼は言った。座ったままの状態で大きな身振りと手振りで説明をし続ける様は正に、[舞台]に立つ[演者]に等しい。

 どこまでも見透かすような目で、僕を見つめている。

 

 

 視線を動かし、腰に携えた剣に目を向ける。[奴を斬れ]。ただそう言って冷たい殺気を出す。それに充てられそうになるが、柄を撫でて気持ちを沈めさせる。

 

 

アニマ「[獅子王心]。これはそうだな〜。この世界より7個前に[創った世界]で言われたんだよ」

 

 

アニマ「全ての声を聞くというのは正に[王]。そしてその世界では[獅子]が権威の象徴だったんだ」

 

 

アニマ「.........ま、結局僕の手を離れて今はどうなっているかは分からないけどね。でも大きく[発展]を遂げていたよ」

 

 

 .........何を聞いても眉唾物。真実か虚実か、それを確かめる術すら無い。目の前に居る存在はあまりにも規格外すぎる。

 

 

レックス「.........何が目的なんだ?」

 

 

アニマ「言ったでしょ?[人類繁栄]。僕まどろっこしいの嫌いだから、長い付き合いになりそうな人にはそう言うんだけど?」

 

 

アニマ「一番簡単かつ長続きする[繁栄]はね?[争い]だよ.........[競走]が、今日を生きる為に他者を堕とすという行為そのものが人に生を実感させ、それを失う恐怖を助長させる」

 

 

アニマ「.........この前[彼]に会って、改めて実感した」

 

 

 どこか恍惚とした表情で彼は言った。自分は間違っていなかったと言わんばかりにその目で僕に訴えかけてくる。

 良い気分はしない。彼の言っている事は殆ど正論であり、そして僕達が行ってきた行為そのものだ。

 そこに例え、大切な物を守るという大義があったとしても、その手段が[奪う事]であった。それは否定出来る物じゃない。

 

 

 彼はそう結論を出した僕の表情を見て卑しく笑った。

 

 

アニマ「勿体ないよ本当。この[世界]は[競走]で溢れている。[願望器]の反応が凄いんだ。皆夢中になるほどに」

 

 

アニマ「その代わり、自分が[空っぽ]だって気付く人間が少ないのは欠点だけど.........でも、[ウマ娘]を消せばその心配も無い」

 

 

レックス「.........そう上手くはいかないと思うけど」

 

 

アニマ「いいや行くさ。君にも見せて上げるよ。この[世界]の[人間らしさ]をね―――」

 

 

 彼はそう言って玉座の肘掛けに備え付けられている仕掛けを起動させる。先程まで薄暗かった部屋に僅かにだか光が灯り、壁から何やら生成されていく。

 

 

レックス「あ、アレは.........」

 

 

アニマ「モニターだよ。[彼ら]の様子を見るには打ってつけだろう?」

 

 

レックス「も、モニター.........?」

 

 

アニマ「.........テレビって言えば伝わるかい?」

 

 

レックス「あ、ああ!テレビ!なるほど!」

 

 

 まさか彼に助け舟を出されるとは.........シロが見ていなくて良かった。恥ずかしくて死ぬところだったよ。

 いや、まぁ僕自身も[彼]と共に居た期間もあったが、全ての知識を共有してる訳では無いからね.........

 

 

 そして、その黒い画面に映し出される映像は僕達に驚きを与えた。

 

 

レックス「.........え!!?」

 

 

アニマ「な、何.........!!?」

 

 

 そこに映っていたのは、死屍累々の中に佇む四人。アレは恐らく彼らを妨害する為にアニマが生み出した存在なのだろう。所々に機械的な物が見え隠れしている。明らかに生物では無い。

 

 

 でも僕達が驚いたのは[そこじゃない]。僕達が思った事は同じ、たった一つの[疑問]だった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「なんで[単独行動]してるの.........?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――時は数十分程まで遡る。

 

 

神威「おーすげぇ。レグルスマイル戦勝ちやがった」

 

 

桜木「歩きスマホ止めろバカ。つかそれ宗也のだろ。ギガ食ってるぞ」

 

 

白銀「なぁやっぱ一旦戻らね?コンビニ行きてぇ」

 

 

桜木「出来るわけ無いだろバカ。俺方向音痴だから帰り道分からんぞ」

 

 

黒津木「ふふ。イキスギィ!!!」

 

 

桜木「止めろバカ!!!敵地の真ん中で淫○ごっこ始めるな!!!恥ずかしい!!!」

 

 

黒津木「はお前やりませんねスギィ!!!カムはんコイツ殺しましょうよ!!!」

 

 

神威「あやっべ、今日デイリーやってないわ。やっぱ戻らね?」

 

 

白銀「あーあ。IMUNIとかっつうAIだったらなぁ。こんな行き当たりばったりな計画じゃ無かったのになぁー」

 

 

 ―――プチッ

 

 

桜木「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!そうか全部俺が悪いんだ!!!こんな上手くいくかも分からない計画立てて!!!俺なんか未来に帰って孫達に囲まれて老衰で死ねば良いんだ!!!そう言いたいんだ!!!」

 

 

桜木「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙[敵]ッッ!!!敵敵敵ッッ!!!お前ら[敵]ィィィィィッッッ!!!!!」ダダダダダッ!

 

 

黒津木「おいおい死んだわアイツ」

 

 

神威「こういう探索系で単独行動は死亡フラグなんだよなぁ。TRPG初心者なら良いよ?」

 

 

白銀「俺うんこしたくなったからちょっと離れるわ」

 

 

黒津木「ふふwうんちぷりぷりプリズナーじゃんw」

 

 

神威「きも…このスマホなんか汚く見えてきたから返すわ。離れろ」

 

 

黒津木「あぁン?ホイホイチャーハン!!!」ナカユビピン

 

 

 ―――意外ッ!探索者ッ!現地解散ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レックス「.........これが貴方の見せたかったものかい?」

 

 

アニマ「違う.........断じて違う.........!!!」

 

 

 ―――彼は歯を軋ませながら、玉座で頭を抱え始めたのであった.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「あそこからああ捲るとは.........スカーレットさんも一皮剥けましたわね」

 

 

サニー「ああ。まさかスズカに[着いていく]とはな。スタミナ量と最高速度が尋常じゃねェ」

 

 

花道「.........ほっ」

 

 

桐生院「あ、あのチームリギルが.........こんなにレースを[崩される]なんて.........」

 

 

 私達は控え室のモニターで第一Rのレースを出走メンバーと拝見させて頂きました。盤面は正に彼の[予想通り].........マルゼンスキーさんが逃げを打つ形でレースを形成し、それをタイキシャトルさんが大きく壊して行く。それが彼が立てたリギルの架空の作戦。そしてそれは大きく外れては居ませんでした。

 東条トレーナーが率いる方のリギルでは、お二人はローテーションを組んで出走をしていました。同時出走はしておらず、同走時のデータは何一つ無い。

 しかし彼はここで出してくる。そう東条トレーナーの出方を読み、見事に的中させたのです。

 

 

 そして.........その[対策]もまた型破りの物。

 

 

 なんせ、相手がレースを形成しようとするのならばそれ以上に覆しようの無いレース形成を。相手がレースを壊そうとするならば、それ以上の破壊をもたらさなければ行けない。正に作戦同士の真っ向勝負が繰り広げられたのです。

 

 

 マルゼンスキーさんよりも早くスズカさんを走らせ、そしてタイキシャトルさんよりも強い力でスカーレットさんが最終コーナーよりももっと前でレースを崩す。

 その補助役としてスペシャルウィークさんを出したのです。マイル戦にはあまり出場せず、どんな出方をしてくるか分からない彼女を.........

 

 

オペ「ま、まさか.........マルゼンさんとタイキさんが、マイルで負けるだなんて.........!!!」

 

 

サニー「テメェどっちの味方だァ?嬉しくねェのかァ?」

 

 

オペ「そ、それは嬉しいに決まっている!!!けれど今ボク達は歴史の転換点に居るに等しいんだ!!!そう!!!正に[革命]だよッッ!!!」

 

 

テイオー「え〜?ボクからしたらカイチョー達がゴルシ達に負けた事の方がビックリしたよ?」

 

 

ポッケ「まぁまぁ良いじゃんか!!良く分からねぇけど、つまりは俺達が過去を[超えた]って事だろ?」

 

 

フジ「フフ、そうだねポッケ。いつまでも強さで名前が残っていたら、やりたい事もままならないからね」

 

 

マック「.........次は、ダートですわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖野「お、おいおいマジかよ.........あのマルゼンスキーが.........」

 

 

東条「―――っ」

 

 

 ―――あまりの出来事に、私は下唇を噛み締めた。やられた。完全に相手を見誤っていた。

 これはチーム戦。個人レース以上に相手の出走メンバーに気を使わなければいけない競技。[アオハル杯]を経験しているという驕りが今、私の足を掬った.........

 

 

東条「.........[謀ったわね]」

 

 

桜木「.........お生憎様、チーム戦の[相性差]は痛い程理解してるんで♪」

 

 

ブルボン「保管メモリー参照。マスターの経験は恐らく、KOFシリーズというゲーム由来の可能性が高いです」

 

 

カフェ「ゲームですか(笑)」

 

 

桜木「そこォ!!!いちいちチクチク言葉止めなさいよ!!!お母さんに言い付けるぞ!!!」

 

 

 自陣のウマ娘達に対してわざとらしく怒りを顕にする彼。でも今となってはそれすら[パフォーマンス]の様に感じてしまう。

 彼女は[徹底]していた。マイルでの距離感覚を磨き、GIを好走出来るほどの練度を練習では見せていた。けれど彼女。[スペシャルウィーク]はその程度の存在では無い。必ず、必ず何か、彼らしい[奇策]を引っ提げて走るのだろうと考えていた.........

 .........蓋を開けてみれば、そこに[奇策]など無かった。ただ一つ。彼女はひたすらに彼女らしいレースをした。

 圧を掛け、ギアを意識させ、先団を震え上がらせ周りの神経をすり減らす。中距離以降の差し戦法。彼女の技術と経験が.........このマイル戦をより[異質]にさせた.........!!!

 

 

東条「.........どうやら、[URAファイナルズ]で天狗になってた訳じゃ無いようね」

 

 

沖野「ハナさん。コイツ他の奴らと違うんでその物差し捨てた方がいいっすよ.........あれ?アイツらどこ行った?」

 

 

タキオン「ほらッ!怪物マイルチームを倒した我らがマイル代表を労いに行くのだから!!君がボケっとしてどうする!!」

 

 

桜木「あだだだだ!!?わ、分かったタキオン!!!分かったから耳を引っ張るな!!!ちぎれるって!!!」

 

 

ライス「次はウララちゃんが走るから、その応援もしないとね!お兄さまっ!」

 

 

シリウス「はぁ〜.........じゃあなトレーナー。ダートが始まる頃には戻る」

 

 

二人(.........あのチームじゃ無理ね(だな))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、俺達は勝ちを重ねて来た。ダート、短距離、長距離と。

 最後はグラスワンダーとエルコンドルパサーが出てきて流石に冷や汗をかいた。しかし、そこはやはり我がチームのエース。張り付かれた時の対策は既に完璧。春の天皇賞での負けをただの出来事にはしない彼女の強さを感じた。

 

 

桜木「いよいよ大詰めですね〜?ハナさん?」

 

 

東条「.........はぁ。本当、良い性格してるわね。誰がこう育てたのかしら」

 

 

桜木「そこのお隣の人と、ウマ狂いの爺さんトレーナーですかね」

 

 

沖野「お前は元からだろ」

 

 

 手痛い指摘が飛んでくるが、気にしない。こっちはあと1勝。それだけで大きなアドバンテージを取れる.........

 決勝戦で出てくる相手チームに、リギルを[全距離全敗]させたトンデモチームが出てくるという[圧]を掛けられる.........!!!

 

 

東条「.........ふふ」

 

 

桜木「?」

 

 

東条「その表情。もう目先の事は頭に無いのかしら?」

 

 

桜木「.........!な、ぇ.........?」

 

 

東条「分かりやすいのよ。トレーナーなら全てのレースに真摯に向き合いなさい。それが貴方に今最も足りない物よ」

 

 

 キッとした目で俺を睨み、厳しい言葉を告げられる。その言葉からトレーナーになってから今までを振り返り、俺はハッとした。

 そうだ。俺は今[トレーナー]なんだ。彼女達と今は同じ目線で立つべきなんだ.........それを放棄してどうするって言うんだ。

 

 

 しかし、落ち込んでいる暇は無い。そうする時間を与えないように彼女は口を開いた。

 

 

東条「貴方が[奇策]ならこっちは[秘策]。今日まで[隠し球]を用意していたのよ」

 

 

桜木「隠し、球.........?」

 

 

東条「ええ。あっちは[ダートが主流]だから時間は掛かったけど、何とか間に合ったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[アメリカ]からの[留学生]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――地下バ道を歩き、外から差し込んでくる光に思わず目を庇う。少し時間が経ったからか、陽の光が大分傾いて来ていたのが分かった。

 地面に視線を落としてゆっくりと目を開ける。するとそこに一つの[影]が伸びている事に気が付いた。

 

 

 [誰かが居る]。誰だ。誰が居やがる?

 

 

 一体誰が、オレのこの[心臓]を掴んでいやがる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Hey.nerd girl?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声に、目を見開いた。その匂いに、鳥肌を立たせた。その存在感に、覚えがあった。

 

 

 ゆっくりと。ゆっくりと視線を上げる。まるで覚束無い。筋力を失ったかのようにぐらつく眼球。揺れて乱れるそれを必死にコントロールしながら、逆光のシルエットとして立ちはだかる存在。それに、ピントを合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[登録が無い].........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――彼女からそれを聞いて俺は疑った。そんな事があって、そしてそれが罷り通るのかと。

 ハナさんはその言葉に縦に首を振る。彼女の話を聞けば、その[ウマ娘]は[国際登録]どころか、[本国登録]もされて居ない。正に[生きたブラックボックス]。情報も何も無い。正真正銘の[存在X]だ。

 本来ならば出場所か、トレセン学園に出入りすら出来ない。身分の証明も出来ないウマ娘を走らせる事など出来やしない。

 

 

 .........[本来]ならば。の話だ。

 

 

 現実、白銀が開催したトレセン外ウマ娘の出場権獲得を皮切りに、既に今回のアオハル杯というのは魔窟と化していた。

 有象無象でしか無いと踏んだトレーナー達は皆、その無名の荒削りや秀でた一芸に泡を吹かされる。そんな事もあったらしい。

 

 

沖野「ちょ、ちょっと待てよっ!ハナさんはあん時外部のウマ娘を参加させるのは渋ってたじゃねぇか!!」

 

 

東条「当時の話よ。私と彼女の出会いは[偶然]だった」

 

 

東条「偶然だった.........はずよ」

 

 

 

 

 

 ―――あの日、私は用事があった。それを手早く済ませ、直ぐにトレセン学園へ戻るつもりだったわ。

 

 

 でも.........彼女に声を掛けられた。最初は観光客かと思ったけれど、道を尋ねるには必要の無い[熱量]があった。

 話を聞けば、[アオハル杯]に出たい。との事だった。勿論、普段の私なら門前払いをしていたでしょうね。

 

 

 .........けれど、[予感]がしたわ。これは、彼女の参加するレースは、[何かが起こる]。と.........

 

 

 

 

 

東条「.........文句は言わせないわよ?貴方もやってるじゃない。[ウエスタンビール]という[謎のウマ娘]を引き入れて、ね?」

 

 

桜木(.........何だ、この胸騒ぎ)

 

 

 ―――胸に脈打つ心臓が肺を圧迫する。何か.........何か、本来起こる筈の事じゃない。[有り得ない]事が巻き起こっている。でもそれは.........これじゃ、まるで.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[奴]は静かに、壁に背中を持たれさせていた。オレは動けなかった。夢。或いは幻だろう。そう言い聞かせていた。あったとしても、コイツはオレの知らない奴だ。そう思った。

 

 

「.........釣れないね。まぁ君は昔からそういう奴だったよ」

 

 

サニー「.........何の話だ。勘違いしてるなら悪いが人違「違わない」.........あ?」

 

 

「ククク.........随分ヒリついてるね。そんなに肩肘張らないでさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[気楽に(Take it   )行こうよ]。ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サニー「―――っ、テメェ.........」

 

 

「ククク。そう、その[顔]だ。やはり君は[追われる者]として生きている方が似合っている」

 

 

「どんな気分なんだい?[運命]に追いつかれた気分は?」

 

 

 ブロンドに近い[栗毛]の髪。まるで貴族のような格好。そして立ち振る舞い。初めて聞く奴からの言葉.........その全てがやはり、気に食わない。

 オレが何も言わないのを良い事に、奴は勝手に話を切り上げるかのように背中を向けて手を振り去っていく。オレ達より先に、あの[光]の先へ歩いていく.........

 

 

 まるで、[あの時]の様に.........

 

 

ポッケ「何だよアイツッ!!フジさんには何も無しかよッッ!!!」

 

 

フジ「い、いや。彼女はどうやらサニーの知り合いの様だし、私には何も無いんじゃないかな.........?」

 

 

サニー「いいやソイツの言う通りだ。フジキセキが目に入ってないなんてセンスが無ェ」

 

 

ポッケ「お前もそう思うか!!やっぱ俺達気が合うな!!!」

 

 

サニー(ホント、これでオレのガキだったらなぁ。手放しで関わってやれるんだが.........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ザワザワザワ.........」

 

 

 ―――会場がザワついている。先程まであれ程熱狂していた観客達が、だ。何かが起こっているのは間違いない。

 

 

「さっきからアナウンスが流れているが日本語で分からん」

 

 

「聞いてみるか?すまない!!誰か英語に翻訳出来ないか!!アナウンサーが何を言ってるのかが分からない!!」

 

 

観客「あー。えっと、チームリギルの方で[チェンジ]が発生した。宣告していた中距離チームの出走者を一人を変えると」

 

 

「.........何?」

 

 

 心優しい日本人の助けで、今アナウンスされた内容がようやく伝わった。

 しかし、そのざわめきが止むことは無く、むしろ悪化する。周りを見れば皆ターフに目を向けていた。俺達もそれに釣られる形でその方向を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その姿を見て、身の毛もよだつような感覚に襲われた。全身から血の気が引いて、まるで真夏にインフルエンザに掛かったかの様な感覚がもたらされた。

 

 

「.........嘘だ」

 

 

 口を開いてただ黙っていた。言葉を出したのはチーム全体のトレーニングを担当する奴だった。無口な奴だが、こんな顔も、声も、今まで一度たりとも聞いた事は無い。

 絞り出すような声だった。[何故?]でも[どうして?]でも無い。今目の前で起こっている現実を全て否定したい。そんな声だった。

 

 

 それが誰かだって?そんなもの、俺達も[知らない]。

 

 

 だが奴はまるで、それをするのが当たり前だと言わんばかりに、観客達にファンサービスの手を振っている。

 

 

 簡単に、だ。[    (気楽な奴)]だ。自分がそうであると、言わんばかりに.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――こうして見ると、[昔]を思い出すね」

 

 

 ―――僕はスターティングゲートを前にして言った。一人言じゃない。後ろに[彼]が居る。手に取る様に分かるその[存在感]に対して言った。

 

 

「君と僕のこの関係は言わば[作り物]だ。他者と他者が[争う]為の[道具]。もっと簡単に言うなら、[代理戦争]だ」

 

 

「.........」

 

 

「僕達の[これまで]は所詮、誰かが手軽に、そして他の誰かが必死に書いたノートの切れ端の乱雑な殴り書きに過ぎない」

 

 

「.........[娯楽]って言うのは、そういう物だと僕は思うんだ」

 

 

 僕達の[祖先]は、人間達の暮らしにとって必要不可欠な存在だったらしい。しかし時が経つにつれ、僕達は手頃な移動手段から、いつしか時代遅れの穀潰しに近い存在になった。

 その存在を肯定する為に、レースという物が本格的に普及し始めた。強ければ生き残り、弱ければ死ぬ。擬似的な弱肉強食の世界が誕生した。

 結局、僕達の存在はいくら名を残そうと、その歴史を辿ってきたただ[一匹の馬]でしかない。聡明だろうと愚鈍だろうと、一部始終を見たのならばそう結論付けられる。

 

 

「.........確かに僕達の関係は[作られた物]で、その[対決]も意図された物でしかない」

 

 

「けれど僕にとって、レースは数少ない。[自分を肯定する物]だった」

 

 

「君が居たからこそ僕は―――」

 

 

 顔を上げて空を睨んだ。光が網膜を焼き、言葉が途切れる。その瞬間に大勢の声が聞こえて来た。

 ここに来てようやく、周りが見えていない事が分かった。大半のウマ娘達は既にゲートに入り終えている.........

 

 

「―――クハハ、僕は、何を言っているんだ.........?」

 

 

 正気に戻った僕はこの空気にいたたまれずにゲートに向かって歩き出す。世迷言は終わり。僕と彼の間に[ライバル関係]以外の物は必要無い。同感も共感も、同情すら介す余地は無い。

 .........だが彼は確かに、僕の背中に手を伸ばし、[勝負服]と呼ばれる物を強く掴んだ。

 

 

「.........テメェが何をどう思っていたかは知らねぇ。オレとのレースに、どう向き合ってきたのかも、分かりたくはねぇ」

 

 

「.........それで良い「けれど」―――?」

 

 

「そりゃ[アッチ]での話だ。こっちじゃ訳が違う」

 

 

「こっちの人間ってのはレースの[勝ち負け]で判断しねぇ。[レースそのもの]に賞賛を贈る.........らしい」

 

 

「レースの勝者は[勝ち組]だが、レースの敗者が[負け組]に成り下がるって事は、無いらしい」

 

 

「それって―――」

 

 

 その言葉に僕は振り返った。彼の真意が掴めなかったからだ。僕の知ってる彼はもっと粗野で荒削りで、無骨な鉄塊の様な存在だ。それなのにそれで叩いてしまえば壊れてしまう繊細さすら感じた。それほどに[歪]な存在。とてつもない[バランス感覚で成り立っている存在(個性)]だった。

 彼の顔を見ようとした瞬間。握り締められた拳が勢い良く眼前に突き出された。何も言えない僕に、彼はニヒルな笑みを浮かべ、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「肩の力抜けよ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[お気楽な優等生(Easy Goer)]?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........ククク、クハハハハッ!それもそうだね。うん。そうさせてもらうよ」

 

 

 突き出された拳に、僕も拳を合わせて応える。

 

 

 確かに、僕達は今まで誰かが作り上げた舞台で、それぞれの役割を演じていたに過ぎないのかもしれない。

 けれど、それでも、走る時はいつだって.........[僕の意志]で走ってきた。

 

 

 .........行けないな。人間っていうのは頭が良過ぎる。早く終わらせないと、色々と込み上げて来そうだ。

 

 

 .........ああ、でも.........これが開いたら.........

 

 

 もう、終わりまで.........止まらないんだな.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が吹く草原。私はそこで流れを見ている。全体の流れ。この[計画]に事欠かせないそれを全て、水晶に映し出して見ている。

 それを横から盗み見て欠伸をする存在が一人。芦毛と見紛う程に白くなった髪が鬱陶しいから、私は彼女を押しのけた。

 

 

ムサシ「むっ、なんじゃ女神よ。妾の暇潰しを邪魔するか?」

 

 

シロ「こっちは暇潰しじゃないの。計画が上手くいくかいかないかの瀬戸際なのよ」

 

 

シロ(.........全く。日本は兎も角、他の国のレースは下火傾向。そんな中彼を[呼び出す]のは苦労したんだから)

 

 

 水晶に映る一辺では囲いの中に入るウマ娘達の姿が映し出されている。その中の[彼]。[イージーゴア]の表情に投影が寄る。

 

 

 この[計画]は知られる訳には行かなかった。私達は肉体を持たず、世界の[裏側]の様な場所に居る。そのお陰で[願望器]の[観測下]には置かれずに済む。

 けれど一度それが外部。つまり現界の、肉体を持つ者達に知られればそれを観測され、手を打たれる可能性がある.........

 

 

 [奴]の性格上。それが人では無く私が企てた物だと知られてしまえば直ぐに潰しに来る.........

 

 

 そんな中、彼女達は頑張ってくれた。[三女神]の名に恥じない活躍をしてくれたわ。

 そしてそれは.........[今後]も.........

 

 

ムサシ「.........むっ、この技は、いや違う.........」

 

 

シロ「?なに?」

 

 

ムサシ「何。あの童の技よ」

 

 

 彼女が水晶の一辺を指差す。そこには多くのアニマの姿を象った存在相手にいなし続ける[桜木]の存在があった。

 

 

シロ「貴女の流派でしょ?」

 

 

ムサシ「そう。[女城]に伝わっておるのは妾が[改悪]してしまった[技術]じゃ」

 

 

シロ「は?改悪?なんで?」

 

 

ムサシ「.........[アレ]が世に広まり、ウマ娘が扱える様になると完全に天下は我らの物になってしまう」

 

 

ムサシ「[戦]は面白いが、平和では無いのでな。そうならぬよう[細工]した」

 

 

 

 

 

 ―――妾は目を細め、奴の動作を見た。やはりどこか、[幻想を追っている]様に見える。まるで思い描いている動きと実際の身体の動きが違う。その葛藤がある様に見えるのだ。

 .........その幻想にある動きがどうも、どうもきな臭い。

 

 

ムサシ([老い]は哀しいなぁ?[老兵])

 

 

ムサシ(いくら身体は若くとも、打ち込んだ動きを無意識にしてしまうか?)

 

 

ムサシ(.........あの[小童]なら、どうするのだろうな?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――女城之武蔵の頭の中で思い浮かぶのは、かつて[女城家]に来た一人の酔狂な男。

 相手の力を利用し戦う。柔術を主体とした喧嘩屋。

 

 

 しかし、それとは別の技。根本は同じでありながら、派生とも型違でも無い。

 正確に言うならば、その[技]が原型となり、今があると言えるだろう。

 

 

 それこそが、彼女が後世に伝える事をしなかった。言わば[禁じ手]―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[勢殺 零式]。その動きが今、彼女と今死地を踏んでいる男の頭の中にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースと戦い。そのどちらも今、熾烈を極めているのであった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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