山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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何があろうと男は結局この方法に帰結する 前編

 

 

 

 

 不気味に静まり返った街。静かに灯り始める街灯。それを無視し、風を切りエンジンを猛らせる者が一人。

 ヘルメットを被り、もう一つの愛車ゴールドウィング。[紅き死神(クリムゾン・イデア)]をただひたすらに走らせる。

 

 

 何故、今俺がこうなっているのか。話は数十分前まで遡る.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........もしもし?」

 

 

 非通知からの電話を恐る恐る取る。向こう側は誰なのかハッキリ分からない。普段なら取らないその選択に、俺は心臓の鼓動を早くしていた。

 そこからは何も聞こえない。ただ、その静かなスマホの奥から何やら[電子的]な音が聞こえている。

 

 

 イタズラ電話だったか.........?そう思って溜息を吐く所だった。

 

 

『オオ。繋ガッタゾ』

 

 

桜木「.........は?お前ロボ爺やかお前!!?」

 

 

マック「な、ん、ぇ.........?」

 

 

 不味い。マックイーンに関してはさっきの願望器の下りで最早着いて来れそうにも無い。

 とにかく彼女は放っておこう。ごめんマックイーン。絶対帰ってくるから。

 

 

『オイダメゴ主人。サッサト準備シテバイクニ乗レ』

 

 

桜木「そりゃ良いけど案内は!!?」

 

 

『心配スルナ。遠隔デロボ爺ヤガ今サッキアップデートシテヤッテル』

 

 

桜木「.........テメェ人の愛車を」

 

 

 今に始まった事じゃない奇行.........だが、これは渡りに船。これ以外に方法は無いんだ。

 俺は直ぐに駐車場へと向かおうとした。

 

 

マック「トレーナーさん!!」

 

 

桜木「っ、マックイーン.........」

 

 

マック「.........ごめん。こっちは任せた」

 

 

マック「―――ぁ」

 

 

 

 

 

 ―――彼はそう言って、私が背後から掴んだ袖を優しく振り払って笑顔を見せてくださいました。

 最早、見せる事は無いと考えていたあの[仮面]を付けて.........

 

 

 以前でしたら、きっとそれに対し怒っていたでしょう。仲間なのなら、全てを話すべきだと。

 ですが、今はそれを聞かせる時間も無いかもしれません。

 

 

マック(私は.........また、待つだけなのでしょうか.........)

 

 

 ポケットに閉まっていた革製の指ぬきグローブを急いで着けながら走り去っていく彼の後ろ姿を見て、私は思わず涙を滲ませてしまっていました。

 

 

『.........はぁ〜。仕方無いわね』

 

 

マック「?貴女何を.........あら!!?』

 

 

 呆れた様な物言いで彼女は溜息を吐きました。そして気付けば、私の意識は外へと弾き出されてしまいます。

 先程まで立っていた場所には私が、今の自分の状態を見ると、また白いワンピースに身を包み、宙に浮く幽霊の様な状態に戻っていました。

 

 

マック「私から皆に説明しておくから行ってきなさい?ライブも何とかしてみせるわ」

 

 

『な、何とかって.........行けません!!それはレースを走った者の務めであり!!!ましてや私はメジロの―――』

 

 

マック「あら〜?私、貴女が彼に着いて行けなかった事を後悔しているの、知ってるのよ〜?」

 

 

『な、ぁ.........ぐ』

 

 

 彼女は私の痛い所を突きながらニヤニヤとした笑みを浮かべていました。それに対して私は閉口し、悔しい声を滲み出す事しか出来ません。

 .........確かに、彼がテイオーの為に居なくなった時も、私の為に居なくなった時も、何も手伝う事の出来ない歯痒さを感じていました。

 でもそれはトレーナーである彼も同じです。レースの場に立てない彼はきっと、その時の私と同じ様な気持ちを何度も.........

 

 

マック「.........彼はもう参加したじゃない」

 

 

『.........あ』

 

 

「行くなら早くすると良い。そろそろ追えなくなってしまうよ?」

 

 

『っ!.........〜〜〜!!!ちゃんと頼みますわよ!!!』

 

 

マック「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木(.........てな感じで流れるままにマックちゃん連れてきちまったけど.........怒られるよなぁ)

 

 

『むっ、心配ありませんっ!アリバイはあの人が作っていますから!!!』

 

 

桜木(そりゃそうだけど、罪悪感は拭えないのよ?)

 

 

 バイクで疾走しながら心の中で会話をする。彼女自身は後ろで二人乗りの要領で俺に捕まっている。普通にやったら捕まるであろう。

 .........いやそもそも乗せるならサイドカー付けるし。それ前提だから後ろの方に何もしてないし。

 

 

『.........♪』

 

 

桜木(.........はぁ。その気楽さに救われるね。さてと、道はぁ?)

 

 

 暫く見ない内にまたもや改造を加えられた愛機の液晶メーターに目をやる。以前は何の変哲もない部分だったが、そこも諸々改造されてしまっている。

 目的地まで.........あと十分か。意外と近いな.........

 

 

 普段の日常のツーリングなら彼女と他愛も無い話をして道程も思い出の一部にしてしまうが、状況が状況。何が起こってるかも分からない場所に向かうのにそんな浮かれた事は―――

 

 

『あ、そういえば聞きそびれていましたが[ロボ爺や]とは何ですの?』

 

 

桜木「―――え、あ.........うん」

 

 

『何 で す の ?』

 

 

 .........背中に凄い圧を掛けてくる。こうなった時のマックイーン程怖い者はいない。はぐらかそうとしたのがバレたのだろう。逃げ癖根性はいつまで経っても治ってくれない。

 俺は言葉を頭の中で選びながら慎重に口を開いた。

 

 

桜木「その、未来の方じゃ爺やさんが居ないからさ?それに変わる存在をロボットとして作ったんだよね。能面が」

 

 

『まぁ!流石ですわ!!未来の世界のロボット.........きっと高性能なのでしょうね.........!!!』

 

 

「ソウダ。貴様ガ作リ上ゲタ高性能モデル。[第六世代AI]ノα型ナノダ」

 

 

桜木「バッッッカお前喋―――」

 

 

「ビジュアルモデルハ爺ヤデ思考モデルハ白銀翔也ダ」

 

 

『.........帰ったら謝ってください。爺やに』

 

 

桜木「ハァ!!?なんで俺なの!!?意味分かんない!!!」

 

 

『未来の貴方が作ったのでしょう!!?だったら貴方の責任でしょう!!?』

 

 

桜木「違うもーん!!!じゃあアレか???マックちゃんはピーターパーカーがマルチバースで一人悪者になったら全てのピーターパーカーは責任取って自首すれって言うんですか!!?」

 

 

『ピーターパーカーはスパイダーマンで普通の人とは違うでしょう!!?』

 

 

桜木「バカ野郎ッッ!!!確かにスパイディは一般人とは違うし持て囃すのも分かる!!!だがその一般人とは違う持て囃しが深層意識の差別思想へと繋がりいずれスパイディを殺すッッ!!!」

 

 

『マーベルだからそう簡単に死にません!!!』

 

 

「何ヲ一人デ喋ッテイルンダ?」

 

 

桜木「もう良い!!!この直線でクリムゾンイデアをフルスロットルさせる!!!」

 

 

『というかトレーナーさんさっきから喋り方が何か変〜〜〜―――っっっ!!!??』

 

 

「ダメダ。コイツハ少シ錯乱シテイル」

 

 

桜木「ヒャハハハハッッ!!!バイクェ!!!お前は俺にとっての、新たな光―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――はしゃぎながらも俺達は目的地へと近づいて来ていた。十分という到達予想時間を最後の直線で大幅にカットし、いよいよ敵陣に突入。

 

 

 .........するはずだった。

 

 

 俺の視界の端に、何かが映った。生い茂る木々に身を寄せる様にその身体を預けている物体に、俺は思わず車体に急ブレーキを掛けてまで停めた。

 

 

『きゃっ!!?な、なんですの!!?』

 

 

桜木「.........おい、なんで.........」

 

 

桜木「俺の.........[ブルーエンペラー]のタイヤがここにある.........?」

 

 

 じっと止まってその物体を目視する。間違いない。[タイヤ]だ。俺のもう一つの愛車.........カーリースで家に来たハスラーにつけていた物だ。

 .........普通の人間なら偶然。という言葉で片付けるだろう。だが先程から嫌な程に鼻へ訴えてくる焦げた臭いがそう思う事を許さない。

 

 

 嫌な予感がした俺はその臭いを辿り、奇しくも目的地の方へと向かって行った。

 

 

『な、何がどうなって.........ぁ』

 

 

桜木「あ、う...ぁ.........」

 

 

 ―――それは鉄の塊だった。歪み、曲がり、ひしゃげ、そして鎮火している。もはやぷすぷすという音すらない。コイツは燃えてから時間が経ってしまっている。

 最早こうなってしまえば元に戻す事など出来ない.........

 

 

 俺は、大切な[相棒]を失ってしまった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ぁぁああぁぁあああぁあああああッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるなッッ!!!ふざけるなッッ!!!バカ野郎ォォォォ―――ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時。俺は誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイツらを殺す。と.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラストダンジョン。最深部。

 

 

アニマ「.........おやおや。まさか散開してここに辿り着くなんて、やるね」

 

 

能面「ああ。奴らには[IMUNI]の捜索をやって貰わなければならんからな」

 

 

 玉座に座る奴を見る。そこにふんぞり返っている男が一人。そしてどこかで見た事のある青年が立っていた。

 

 

能面「お初にお目に掛かる。まさか人の短い一生で二人も[神]と出会うとはな」

 

 

アニマ「ふふふ、君は礼儀正しいね。でも嘘は良くないな」

 

 

能面「.........[嘘]?」

 

 

 頬杖をつき下卑た笑みを浮かべる男。しかしその目は表情とは裏腹にこちらの[奥底]を完全に見透かしているような澄んだ物であった。

 

 

アニマ「[IMUNI]はここに無い。そんなの、分かってるんだろう?」

 

 

アニマ「.........君はここに来る前に[あの子]の住まいに行き、[マザーコンピューター]を既に押収しているはずだ」

 

 

能面「.........っ」

 

 

アニマ「君は用意周到な男だ。そうしないはずがない」

 

 

 的確な分析力だ。奴が無知なのはレースに関する事だけ.........と考えるのが良いだろう。

 しかし、奴は次に口を開いた時に放った言葉は俺を褒める物だった。

 

 

アニマ「素晴らしいよ。君は[願望器]の性質を相手取り、そして完璧な対策を彼らに施したんだ」

 

 

アニマ「[僕]を[意識させない]。その外に追いやる事で完全に僕の複製体は彼等にとって[雑魚敵]になってしまったのだから」

 

 

能面「.........褒めているのか?」

 

 

アニマ「さっきまではそう。でも今からこの言葉は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――君を貶す[皮肉]になる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歪んだ笑顔で奴は言った。その言葉に嘘は無い。その様子がただただ不気味だった。

 奴は空いている手を天に掲げて指先を弾いた。その音に連動し、天井からモニターが現れる。

 

 

能面「.........随分ハイテクだな」

 

 

アニマ「僕だって何度も人類史を体験している。[子供]が作った物だからね。多少の構造が分かれば[願望器]が再現してくれる」

 

 

能面「.........!」

 

 

 モニターに映像が表示され、俺は動揺した。画面は四分割されており、それぞれ動いている人間を中心にして撮られている。

 俺と共に来た三人が圧倒されている。多勢に無勢とも言うが、俺に捌ける程度の敵。奴らならば何とも無いと思っていた。

 

 

 .........だが、真に驚いたのはそこでは無い。

 

 

能面(何故今ここに居る.........!!!)

 

 

 そこの一角に映る男。長い通路を走り抜ける[桜木 玲皇]の姿だ。それを見て俺は動揺したのだ。

 

 

 確かに、奴はここに来るべき人間だ。だがそれは今ではない。この男を何とかした後、[IMUNI]の行方の[辻褄合わせ]としての役割でしか無い。

 

 

アニマ「そう。困る。困るよね?君達の探している[IMUNI]は.........彼が[乗ってきた]物だ」

 

 

能面「.........」

 

 

アニマ「大方、僕を何とかした後に一人抜けてアレを取り出して事を収めるつもりだったんだろうけど」

 

 

アニマ「人生にイレギュラーは付き物だよ?計画はもっと気楽に破綻させなきゃ」

 

 

 奴は全てを見透かしている。そう言わなければ辻褄が合わない。アイツをここに来させるのも、アイツのバイクに[IMUNI]を積んだのも全て俺の独断。誰にも話をしてはいない。

 冷や汗が頬を伝う。背筋を伸ばし肺に溜まった嫌な空気を吐き出していく。今必要なのは冷静さだ。それ以外は必要無い.........

 

 

アニマ「ククク.........ここからでも分かるよ。彼は怒りを抱いている。理由は分からないが君達に」

 

 

アニマ「その憎悪が伝播して、ここはようやく[ラストダンジョン]の名に恥じない難易度になったんだ」

 

 

アニマ「どうかな?さっき贈った言葉。まだ賛辞に思えるかい?」

 

 

 奴の言う通り、俺を賞賛する言葉は皮肉へと変わった。伝達をしない事で奴を欺けると弄した策が今、回り回って俺達の首を絞めている。

 何故アイツがここに来た?それも恐らく、何かしらの[願い]によって動いてしまった因果なのだろう。

 

 

 奴は俺に視線を送り、モニターを見ていろと言わんばかりに顎で誘導する。心は完全に読まれている。今何か手を出した所で事態が好転するわけもない。寧ろ、奴にこの身を利用されかねない。

 俺は溜息を吐きながら、[傍観者]となる事を今、受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロ「何よこれ.........!!!どうなっているのよ.........!!!」

 

 

ムサシ「.........」

 

 

 水晶に映る戦いを他所に、女神は何やら他の事に執心しておった。何ともまぁ身勝手な物よ。神とは言え見始めた物を放棄するとは、不快とは思わんのだろうか?

 

 

 まぁ良い。妾はこの目で坊主の戦いを見させて貰うとしよう。

 

 

ムサシ「.........おお。遂に鉢合わせたな。待たせおって」

 

 

 

 

 

 

 ―――通路を抜けて広い場所に出てきた。これは明らかに何かしらの[イベント]が発生する場所.........気を抜いちゃ行けない。

 何かがあるのかと思い、俺は辺りを見渡す。右へ、左へ。そうして視界に違和感を覚え、中央に視線を戻す。

 ゆらり、と立ち上がる人影.........間違い無い。[アニマ]だ。

 

 

桜木(けっ。おいでなすったぜ親玉が.........)

 

 

『トレーナーさんっ、稽古の通りやれば勝てますわ.........!!!』

 

 

桜木(っ!マックちゃん.........!!!)

 

 

桜木「.........ん〜〜〜チュっ♡♡♡」

 

 

『っっ///.........えぇ!!?トレーナーさん!!!前を!!!前を見て下さいまし!!!』

 

 

 彼女に良い格好を見せたい。その一心で俺はマックイーンに投げキッスを贈った。最初こそ射抜かれてくれたが、奴が余計な事をして彼女の注目を俺から外した。

 結果。俺の怒りが有頂天に達し、奴は廃人ルート確定となったので責めてもの慈悲として最後の姿を見てやろうと視線を戻してやった。

 

 

 .........そしたら、何か増えてた。

 

 

 それも、一人や二人じゃない。十人以上になっていたのだ。

 

 

『大丈夫です!!![メジロ護身術]は時間を稼ぎながらの多人数戦を凌ぐ為の物!!!免許皆伝を果たしたトレーナーさんなら「マックイーン」.........はい?』

 

 

桜木「俺.........多人数戦(それ)やってない.........」

 

 

『..................あっ』

 

 

 

 

 

ムサシ「.........何をやっておる」

 

 

 ―――妾は思わず頭を押さえた。こやつ。[女城武術]における最も要な部分を教えていないとは.........今度母親の枕元に立って叱ってやるとでもしようか。

 そんな事にすら目もくれず、女神は未だに空に杖を翳し文句を垂れておった。

 

 

シロ「ふざけないで!!!貴方にそんな責任は無いわ!!!意地を張ってないでさっさと戻りなさい!!!」

 

 

ムサシ「.........はぁぁ。頼る訳にもいかんか。仕方あるまい」

 

 

 

 

 

桜木「クソッ、気味の悪い奴らだぜ!!!」

 

 

『右に二人!!左に三人!!!回転練武で薙ぎ払って距離を取ってください!!!』

 

 

 ―――マックイーンからの指示の通り、右から来た二人の攻撃をいなし、その内の一人の手を掴んでそのまま振るい投げる。

 しかし、奥からはキリの無い攻撃を仕掛けて来るのを見て流石に肝が冷えていくのを感じた。

 

 

 一体どうすれば.........

 

 

『小僧よ。苦戦しておるなぁ?』

 

 

桜木「っ、その声は.........!!!」

 

 

『っ!!?ムサシ様!!!』

 

 

 聞こえて来た声の方を見ると、マックイーンの後ろで腕を組んで浮かんでいるムサシの婆さんが居た。

 占めた。これでこの状況を打開出来る.........!!!

 

 

『一つ我からあどばいすを送ろう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『[好きなようにやると良い]。以上』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それだけ言って婆さんは帰って行った。俺達は思わず口を開けたまま固まってしまった。

 だが時間は非情な物で、それでも進み続けている。先に意識を戻したのは彼女で、その焦った表情から俺に危機が迫っているのは分かってしまった。

 

 

 前に視線を戻す。有象無象の一人が飛びかかって来ている。どうする?この一人をどうにかする事は出来ても、その後ろは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――スッ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木(―――ッッッ!!!!!)

 

 

 それを考える前に、身体は既に踏み込んでいた。前傾姿勢で酷く前のめり。自然に足が前に出てしまう程の傾倒姿勢。

 だがもう.........俺のやる事は決まっていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ドリャッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足が地面へ着く前に姿勢を伸ばし、その勢いで拳を突き上げる。飛び込んだ奴の顎に当たる瞬間に脚が地面を叩き、その運動の力を持ってして相手の顎をかち上げた。

 

 

桜木「でぃぃぃやッッッ!!!!!」

 

 

 そのまま動きを緩めず、残心構えから前へと飛び上がり背中を蹴りつける。後ろの有象無象諸共吹き飛ばしてやる。

 

 

『トレーナーさん.........!!!』

 

 

桜木「.........マックイーン。ティターンさんには、内緒な?」

 

 

 指ぬきグローブをはめ直しながら彼女に言う。こんな事を知られでもしたら絶対また試合形式でやらされる。そんな予感がする。

 だが今は目の前の事だ。有象無象はさっきので倒れたままピクリとも動かないが、一人は起き上がってくる。

 

 

 .........そうじゃなきゃ[つまらない]。

 

 

桜木「―――ッッッ!!!!!」

 

 

「―――ッッッ!!!!!」

 

 

 何の合図も無しに同時にお互い駆け出す。これは言わば[チキンレース]だ。どちらかが怯えれば負け、そして見誤っても負ける。

 奴との距離は目前にまで迫ってきていた。奴は右の拳を握りしめ、振るおうとしている。このまま行けば勿論、直撃コースだ。

 

 

『トレーナーさん!!!』

 

 

 彼女の声が響き渡る。という事は、この[タイミング]だ。

 

 

 俺は身体に掛かる運動エネルギーを[勢殺]によって相殺し、前方向から後ろ方向に向ける事によってバックステップの要領で奴の攻撃をスカした。

 がら空きの隙。つまり.........[スカ確]。

 

 

 [→☆↓(↘+RP)]

 

 

桜木「デァッッ!!!」

 

 

 先程顎をカチ上げた時と同じ要領の動きで前に出る。違う点で言えば垂直方向のアッパーカットから身体の捻りを活かせる[右回し突き]に変えた事だろう。

 本来ならば顎を思い切りぶっ叩かれて再起不能レベルの昏倒を引き起こすが、俺は思い付いた。この衝撃を全て[ぶっ飛ばす]方向に変えたら.........ゲームの再現が出来るんじゃないか?

 思い立ったが吉。俺はすぐさま[勢殺]を用い、生まれる運動エネルギーを相手に流す事にした。

 

 

 するとどうだろう?相手は縦回転を描きながら浮かんだ。その好機を逃すことなく、俺は二発目の右回し突きを放った。

 きりもみの回転をしながら相手は空中に居る.........まだだ。まだ行ける.........!!!

 

 

『や、やりすぎ!!!やりすぎです!!!』

 

 

桜木「えぇ?.........あぁ」

 

 

「」

 

 

 俺の前へと立って静止するマックイーン。見れば奴は動かずに地面に伏していた。どうやら完全に倒してしまったらしい。

 .........仕方無い。これじゃあ死体蹴りになってしまう。令和格ゲー勢としてはここはお利口さんに徹するに限る。

 

 

 俺は周りの奴らが起きない事を確認し、また長い通路の中を走り抜けて行った.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムサシ「.........やはり気付きおったか」

 

 

 水晶に映る小僧の戦いを妾は見ていた。そこには様々な攻撃に[勢殺]を加え、戦況を有利にする姿が映し出されていた。

 この調子ならば、[あの使い方]もいずれ思い付くだろう。

 

 

ムサシ(.........それにしても)

 

 

『龍尾脚ッッ!!!迅雷ッッ!!!フンッッ!!!』

 

 

ムサシ(何ともまぁ精細さに欠けた動き.........粗雑すぎるのぉ)

 

 

 相手に飛び掛かりながらの蹴りをガードさせ、その上から更に回し蹴り。衝撃で動けなくなった相手の足元を蹴り付け更に攻めを加速させて行く。

 [勢殺]は己の身体だけでなく、相手にも施す事が出来る。[メジロ武術]に精通すれば身体の動きはそれを自然と[忌避]してしまうが、奴にはそれが無い。

 

 

 ククク.........妾は[怪物]を作り出してしまったかもしれんのう。

 

 

ムサシ「.........所で女神よ。対話は終えたのか?」

 

 

 フラフラとした足取りで戻ってくる名も無き女神。その表情からして結果は思わしくない物ではあると察したが、聞かない訳にもいくまい。

 想像通り、女神はその名称とは裏腹に怒りを燃やしながら舌打ちをし、妾の顔を睨みつけて来おった。

 

 

シロ「終えたも何も、一方的に絶たれたのよ。[繋がり]を」

 

 

ムサシ「.........ほう?」

 

 

シロ「今の彼女は[願望器そのもの]。完全に一体化してしまっている」

 

 

シロ「願いを叶えていない理由は分からない.........けれど、必ずどこかのタイミングで実行に移すはず」

 

 

シロ「.........頼りになるのは、たった一人の[馬鹿]だけよ」

 

 

 

 

 

 ―――水晶の中で我関せずと言った様子でただただ暴れ回る人間。[桜木 玲皇]。そしてその隣に居る[メジロマックイーン]。

 彼等だけが今、[彼]を動かす材料。それ以外ではきっとどうにもならない.........

 

 

シロ(.........もう。貴方に頼るしかないの)

 

 

シロ(もし、貴方に[最良の結末(ハッピーエンド)]を迎えるつもりがあるのなら―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――[奇跡]を、[超えなさい].........)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――誰一人として、その目的を解する事無く事態の終息を求めている。

 

 

 ある男はこの世界を[繁栄]させる為に。

 その為であるならばどんな犠牲も厭わないと。

 

 

 ある男はその[野望]を阻止する為に。

 その為であるならばどんな危険も顧みないと。

 

 

 女神はこの[世界]を存続する為に。

 その為であるならば一人の人間の背に重荷を背負わせる事も覚悟の上だと。

 

 

 ある者は[繋がる者達]に祝福を贈る為に。

 その為であるならば自らのその身。その魂。その存在が全て無くなっても承知だと。

 

 

 誰一人として、交わる事の無い結末を求めている。

 

 

 だがただ一人。一人はそれに疑問を抱いていた。

 どんな思惑を働かせたとしても、結局それは何かの[犠牲]の上で成り立っており、そしてそれは[彼]の思惑通りでしかない。

 

 

 誰も、己の手札に気を向けている為に、その男が抱き始めた[願い]に気付けないで居た。

 

 

 そしてそれが.........この争いに決着をつける事になるとは―――

 

 

桜木(.........なるほど。今日は冴えてるぜ。ストンと納得した)

 

 

桜木(これで気持ちよく戦える)

 

 

 ―――まだ、誰も知らない.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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