山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
静かな部屋の中、俺達はモニターをただ見守っていた。
分割は二つ。探索を続ける三人とロボット。もう一つは.........こちらへと向かってきている一人だ。
アニマ「.........ふむ。やはり[彼]か」
レックス「.........玲皇くん」
アニマ「そうだ。彼との決戦前に一つ、僕と契約しよう」
能面「.........なに?」
突然、そう思い立ったかの様に言葉を発したアニマ。その表情からして、今しがた思いついた物だろう。
俺はそこから何が出てくるのか分からない怖さを感じつつも、まず話を聞いてみることにした。
アニマ「彼と僕との決着に[手を出さない]」
能面「.........ほう?その意図と、[対価]は?」
アニマ「君はこの世界の、時間の存在じゃない。だから君が出来るのは口出しだけだ。それでこの世界が救われても、フェアじゃない」
アニマ「対価は、この決着の勝敗関係なく、君の[時間軸]からは手を引くよ」
能面「.........!!!」
あっけらかんと、まるで要らなくなったおもちゃを他人に譲る様にコイツは言った。一つの世界の行く末を、放棄したのだ。
それほどのスケールの世界観を持つ存在。それを再認識した俺は唾を飲み込みながらもそれを承諾した。
世界を取った。という訳では無い。交渉が決裂した場合の奴が取る行動を予測出来なかったのだ。最悪、消される事になる。そうなってしまえば今俺の為、俺に騙されてくれているアイツらに説明する者が居なくなる。
それだけは避けなければならない。責任の取り方というのはそう数は無いのだから。
能面(.........[桜木 玲皇])
1歩ずつ。また1歩ずつと階段を着実に登っていく青年。その姿に俺はまた、[奇跡]を超える事を[賭ける]羽目になってしまったのだった.........
強大な存在を前に、俺はまた何も出来ずにお膳立てだ。歳をとるというのは望むか望むまいかは関係無くこういう役回りをさせられる。歯痒い事この上ない。
.........だが、[彼]ならば―――
「―――バンディットリボルバーッッッ!!!!!」
叫び声と共に扉が飛び蹴りで蹴破られる。宙を舞うその扉に浮いたままの状態で彼は身体を捩り回し蹴りを当て、それが奴へと向かっていく。
それに驚きを見せつつも、手を前にそっと差し出すだけで奴は扉を粉々に粉砕した。
アニマ「中々凝った登場だけど、セットを壊すのは頂けないな」
桜木「悪いな。役者はとっくのとうに引退済みなんでね。リハーサルも無い上ブランクもある」
この状況に対しても、彼は落ち着きを払い奴と対峙している。ゆっくりと立ち上がりながらズボンを手で払い、その視線を真っ直ぐと敵に向けている。
「よう。夢の世界で会った人だろ?」
アニマ「そう、僕が世界を[創造]した存在.........アニ「美術館で会った人だろ!!?」.........彼は何を言っているんだい?」
能面「.........」
俺は堪らず顔を両手で覆った。このバカは今、どんな状況か分かっていないのか.........?
桜木「.........ん?あ!!?おいジジイッッ!!!宗也から聞いたぞ!!!テメェ俺の愛車両方改造して、しかも運転してぶっ壊したってなァ!!!」
桜木「これが終わったらテメェテイルズオブジアビスるからなマジで」
能面「ええいうるさい!!!良いから真面目にやれ!!!大体やった事あるのなりきりダンジョン2だけだろ!!!」
お互い睨み合いながら軽く舌戦。こんな状況だと言うのにコイツのこの余裕というか、いつも通りさは一体どうして発揮されるのか........
そう思っていると、彼の首から下げている首飾りが仄かな光を放ち始める。それに困惑していたが、そこから[彼女]が現れる事で、これまでの諸々の疑問がすぅっと解決して行った。
能面(っ、なるほど.........これまでの[奇跡]としか言えない物は全て、彼女の[願い]だったか.........)
『頑張ってください!トレーナーさん!』
『無茶だけは、しないように.........』
桜木「.........」グッ
そう語りかける彼女。メジロマックイーンに対して、彼は小さく、しかし力強くサムズアップで返事を返す。
いよいよ。これから最終決戦が始まる.........
アニマ「.........ふむ?変だね」
桜木「.........何が」
アニマ「君から[敵意]を感じない。こうして仇敵と相対しているというのに。なぜだい?」
桜木「さぁ?少なくとも俺は長期間人を憎める程熱を保つ性格じゃないんでね。愛しのマックイーンが帰ってきたから殆どお前の事は許してるよ」
アニマ「.........じゃあなんで[構える]んだい?」
桜木「少しは自分で考えろよ。[神様]?」
―――支離滅裂だ。彼は僕を許したと宣いながらも、明らかな戦闘態勢へと移行している。しかし、それでも[敵意]を感じられない。僕に対する滅する思いが、何一つ無い。
これまでの彼の傾向から考えられるとするなら.........
『.........ぇ』
アニマ「.........」
桜木「っ」
彼の首飾りから現れた少女に目を向ける。[メジロマックイーン]。見た所自らの力でこうなっている訳ではない。女神か、或いは別の存在の力で体外に精神を分離させているのか.........
そこまで考えていると、不意に拳が目の前まで飛んでくる。それを僕は片手で受け止める事にした。
アニマ「っ、へぇ.........?随分強いね.........」
桜木「筋力ウマ娘化薬の影響でな.........女の身体になってると結構長く残るらしいぜ?」
アニマ「ふふ.........スーパーヒーローは[エンターテインメント]に留めて置くべきだ。行き過ぎた個人の力は大衆を堕落へ導き、[発展]が損なわれるからね」
アニマ「.........いや、そうか」
桜木「あ.........?」
―――奴は俺の拳を片手で受け止めながら、もう片方の手を顎に当て考えを巡らせ始めた。
規格外だ。今の俺の手を簡単に受け止め、そして微動だにしない。筋力はウマ娘化していた時よりもある。
当たり前だ。普通の女子高生程度にしか見えないのに、その出力はアスリート以上。その比率のまま成人男性の、しかもタキオン特性トレーニングを受けている俺の腕力は並じゃない。
それを、だ。まるで猫とのじゃれあいを手で受け止める飼い主の様にコイツは容易くあしらってきている。
アニマ「君は[願望器]だ」
桜木「.........またそれか?ボキャブラリー無いんだな」
アニマ「つまらないかい?大丈夫。僕は全部[つまらない]」
アニマ「君もいずれそうなる」
桜木「.........何が言いたい?」
アニマ「君は[人の願い]を既に[叶えている最中]なんだよ」
アニマ「[こうありたい]。[こうであって欲しい]という願いの集積が、今の君なんだ」
.........また[願望器]か。スケールが違いすぎて理解が追いついてくれないが、幸い俺は飲み込みが早い方だ。素直にその言葉を受け入れることにする。
要するに、だ。今の俺は誰かが望んだ[偶像]に過ぎない。という事だ。けれど別にそれは今に始まった事じゃない。
七並べの[ジョーカー]が俺だったってだけの話だ。体の良い役割って訳さ。
アニマ「君のその行動。そして言動全てが[憧れ]となっている。[フィクションの模倣者]でしかない君は、結局の所[他力本願者]だ」
桜木「随分と喋りたがりだな。物語の作者が裏設定をベラベラ話すのは行儀が悪い」
アニマ「僕が作ったんじゃない。君は皆で作ったフィクションだ。僕はそれを見て楽しんでるだけさ」
桜木「そりゃ良い。だがファン層にも新陳代謝は必要なんでね。頭の硬い懐古厨は退場願おうか」
[←↙↓↘→+HS]
前に一歩踏み込みながら大剣を持った拳を突き出す。体勢を崩させ、その顔面にこの剣の重さと[勢殺]によって推進力を全てこの拳に乗せる。
これなら少しは泡を吹かせられるだろう。
桜木「ファフニールッッッ!!!!!」
叫び声と共に衝撃が手に走り、やがて前へと抜けて行く。完全に俺の拳が奴の顔面を捉え切った。
.........だが、奴はそれでも平然としていた。あの時の、アイツを初めてぶん殴った時とは全く違う光景が目に映る。
仁王立ちのまま、奴は俺の攻撃を受け切ったのだ。
そういう事はよくある。俺が何度ゲームでそう言った体験をしてると思ってるんだ。そんな程度ではもう動揺する事なんてありはしない。
[→↓↘+HS]
桜木「ヴォルカニック―――」
「なるほど。[こう]か」
桜木「―――な、ぁ」
俺の攻撃に耐えた。それを加味し、ならば今度は思い切りぶっ飛ばしてやろうと考えた。
それもさっきとは違う、上方向に。多分考え自体は悪くはなかったはずだ。
だが奴は俺の予想を上回ってきやがった。深く屈み、地面を鞘に見立てた居合切りの跳躍切り。通称[ヴォルカニックヴァイパー]。
奴は飛び上がるまでの間に俺の持つ剣に触れ、その運動方向とは逆の方向にエネルギーの流れを変えた。間違いなく、今奴は俺と同じ事。[勢殺]を使った。
手元は上へ。切っ先は下へ。一切の擦り合わせの無いエネルギー運動は何を引き起こすか?簡単だ。
[壊れる]。細部の部品が不可に耐えられずに俺が飛び上がる前に瓦解する。
桜木(まずいまずいまずいまずい.........!!!)
このまま行けば俺は止まりきれずに飛び上がる。そして確実にその隙を突いて攻撃される。奴の力量がどの程度か把握も出来ていない。
もしこれがワンパン即死級の火力だったとしたら.........ありえない話じゃない。そんなラスボスを俺は何度も見てきたからだ。
だから、身体に行くなと[願った]。
その結果、俺はそこから飛び上がること無く、そしてその反動で硬直することもなく、飛び上がる勢いのまま後方にステップを踏む事が出来た。
桜木(っ、なんだこれ.........?)
先程までの身体の流れが一気に後ろ方向へと戻り、自然とバックステップの要領で後退した。
誰かが助けてくれた?いや、そんな感覚は無かった。マックイーンもあのジジイの所にいる。手を貸してくれた訳では無い。
だとしたらこれは―――
「―――[勢殺 零式]。再び現世へ発生したか」
―――水晶に映ったその一瞬。妾は見逃さなかった。[武術]とは即ち[生きる術]。死にに行く為の物でもなく、死に急ぐ者の為でも無い。
困難と苦境を乗り越え、新しい時代に行く為に四苦八苦しながらも生み出された物。
姿を変え、理念を変え、現存している武は今や相手の命を狩り、もしくはわざわざ死地にて目立つ物ばかり残ってしまったが.........今の小童によって今ここに[産み直された]。
ムサシ(.........しかし、これはまだ基礎の基礎。貴様なら分かるはず.........妾の頭に届いたその思考の奥底に眠る[動き]。その[連係]に必要な最後の一欠片.........)
手に持っていた長物は使えなくなってしまったが、それも僥倖なりえる収穫。扱い慣れぬ武器など枷にしかならぬ。
妾は小僧がその奥義を物にする瞬間を今か今かと待ち侘びている。それも、この水晶が吐息で曇る程に。
.........しかし、ただ純粋にそれを待つという事も出来ないのも事実。[名も無き女神]は未だ空に浮かぶ[願望器]を苛立ちを隠さないまま見つめておる。
明瞭な言葉で表現するのであれば、[空気が悪い]。その一言に尽きる。
シロ「.........チッ」
見ていても埒が明かないと悟ったのだろう。舌打ちを響かせながら不機嫌な様子で妾の方まで歩いてきおった。くわばらくわばら.........
その空気を纏ったまま女神は隣に立ち、静かに水晶を見つめる。睨み合いが続くその様子を見ながら口を開いた。
シロ「.........[世界が書き換わる]」
ムサシ「.........はぁ?」
シロ「既に[地球意思の願望器]は完成してしまった。[サンデーサイレンス]を取り込んだ事によって」
ムサシ「.........書き換わると、どうなる?」
シロ「.........[変わらない]。何も、[彼]の望む方向性を考えるのなら、[今生きている存在]はそのまま[存続]するでしょうね」
シロ「けれど、[人の子]は手を出せなくなる。強固になった世界観が奴を跳ね除け、そして介入した[事実]すら失う」
―――彼があの[願望器]の一部となったことで、世界はより強度を持つ事になる。
そして[願望器]が叶える願いは、[現実改変]。その内容は、この世界の成り立ちに[奴]が関わらなかったという物。
そうなれば世界は巻き戻され、明確に手を出した部分が改変される。
日本で行われた[アオハル杯]。それがもっと健全な話で始まって行く。
それは.........[サンデーサイレンス]を[人柱]として捧げる事によって初めて成り立つ物語。
シロ(.........貴方は、いつも得てきた)
シロ(レースのやり方。運命の抗い方。種の残し方。何一つとっても一級品)
シロ(でも結局。最後に一つ、[足りなかった])
杖を握り締めた私は、ボロボロになりながらも立ち上がる[彼]を見た。
[桜木 玲皇]。息も絶え絶えで、顔からも滲んだ血が出てしまっている。それでも、立ち上がる。
シロ(教えてあげなさい。「奇跡の超え方」は―――)
「―――[諦めるのを諦める事]よ」
―――膝に力を入れて何とか立ち上がる。視界の片側が赤く染められているのに気付き、気が引けながらもジャケットの袖でそれを拭った。
桜木「クソ.........テメェこれマックイーンのプレゼントだぞ.........汚させやがって」
アニマ「ククク、良いね。素晴らしい表情だ。でもポージングはガタガタだね?そろそろ崩れちゃいそうだ」
桜木「そうだよ。だから早くやられてくれねぇか?ゲームクリア目前なんだよ」
そう。これは[ゲーム]だ。奴にとっては今起きている全てが[シミュレーションゲーム]。[人類発展]に重きを置いた大規模な超大作。奴の口振りからしてシリーズ物らしい。
だったら俺もそれに乗っかるだけだ。舐めるなよクソガキ。こちとら大人になってもゲーム命の男だぞ。
アニマ「.........諦める気は無さそうだね?」
桜木「ったりめぇだ.........こちとらようやく、[役]を掴んだ所なんだ.........体調不良で降板なんざ死んでもごめんだね」
アニマ「.........」
「じゃあ[死ぬ]?」
桜木「―――あ」
遠く離れていた筈の奴が瞬きした間に目前まで来ていた。空気の流れは無い。本当に瞬間移動をした様に感じた。俺はそれに反応する事すら出来なかった。
そんな俺に奴はゆっくりと手を伸ばす。拒む事も出来たはずなのに出来ない。身体が動かない。一瞬か、それとも永遠か。それすらも判別が効かない程に思考回路が麻痺を起こしていた。
『トレーナーさんッッ!!!』
桜木「あ、が.........ぁ.........!!!」
―――トレーナーさんがあの男性に首元を掴まれ容易く持ち上げられました。足をばたつかせてもそこからは逃れる事が出来ず、苦しそうに顔を歪めていました。
助けなければ.........そう瞬時に判断した私は彼に近付こうとした瞬間、身体が強く後ろに引き寄せられる感覚がしました。
その方向を見ると未来のトレーナーさん。能面がその手から[鎖]の様な物をだし、私を縛り付けて表情を変えず首を横に振りました。
視線を元に戻すと、男性の表情が張り付いた様な笑みから段々と鋭い刃物を感じさせる冷めた物に変わって行きます。
そしてその身体からは.........[蒼白いオーラ]が仄かに吹き出て居ました.........
アニマ「汝よ。その源に至るは根源なり」
アニマ「幾億千の縛りの元、大義を孕み朽ちていく身に慈悲を与えそして眠りを誘う」
アニマ「汝は空となりその身を器として目覚めさせよ」
まるで呪文の詠唱とも取れる言葉を言い切ると、トレーナーさんの身体が[蒼白い炎]を噴出させて行きます。
そんな姿を見ていられない私はついに.........その目を覆ってしまいました。
能面「.........白バの王子よ。アレはなんだ?」
レックス「あの詠唱は[願望器]を人の身に発現させる為の呪文だよ」
レックス「人の器とその中身の因果律を[逆転]させ、究極の存在として昇華させる」
レックス「.........一度そうなれば、もう二度と生きたまま自我を元に戻す事なんて出来ない。[願いという檻]に閉じ込められ、ただそれを淡々と叶えるだけの存在となってしまう」
―――ゆっくりと。だが確実にこの世界の[結末]が定められて行っている。目の前で起きているのはただの現実ではない。これから先が確定するであろう分岐点が今、目の前で起こっているのだ。
彼は苦しみながらも必死に耐えているが、あの蒼い炎に[紫炎]が混ざり始める。人の[悪感情]が渦巻いている様に感じる。人としての弱い部分。隠したい部分。醜い部分。それが如実に現れ始めている。
桜木「ぁ、が.........ァァァアアアアアアッッッ!!!!!」
痛ましさを感じさせる程の絶叫と共に[紫炎]が膨れ上がり、爆発する。
余りの爆風に何とか吹き飛ばされないようにするのがやっとだったが、俺は確かに見た。その爆発と共に天へと伸びる無数の[鎖]が発生したのを.........
爆風はやがて収まる。そしてそれと同時に地響きがこの一帯を襲う。辺りを見渡す事はしなかった。何故ならその原因は[空]だと思ったからだ。
振動が大きくなっていく。それが最高潮に達した時、天井を突き破る巨大な物体が姿を顕にする。
[砂時計]だ。無数の[鎖]に縛られ見え難いが、隙間から確かにその造形を伺える。
アニマ「さぁ。愚かな[他力本願者]よ。その肩書きの通り、他者の[願い]を供物とし、世界を[創り換えよ]」
能面「くっ.........!!!」
『いや.........いや.........!!!』
.........最早打つ手はない。絶望的なこの状況に打開策は無い。甘かったのだ。余りにも、[人の願い]という物が、性善説によってだけ生じる物だと。
だが違う。現実は.........[願い]は、善や悪などという概念は無い。ただ、そう在るだけ。
それを真に理解出来ずに立ち向かった俺は浅はかさだったという事だ.........!!!
―――桜木は苦しみ、叫び声を上げ続けていた。威勢のあった逆立った髪も垂れ、完全に活力を失っていた。
彼の背中に願望器が触れる。主従が逆転し、人の[原動力]となる願いが[器]となり、人格そのものが[原動力]へと置き換わる。
それが擦り切れる時まで.........人の願いを叶え続ける存在へと、生まれ変わる.........
.........筈だった。
―――ガシッッッ!!!!!
アニマ「.........?」
桜木「―――」
首を掴まれていた彼がまるで意趣返しをするかのように、アニマの首を掴む。
先程までの力関係を覆すように、その腕力によって自力で地面へ脚を付け、逆にアニマを宙に持ち上げた。
アニマ「.........へぇ。凄いね」
アニマ「君。そこに居たんだ?」
睨み付ける桜木の瞳を見てアニマは一人察する。[金色]に輝くそれを見て、彼の背後にある[願望器]に潜んでいた存在へ賞賛を贈る。
桜木から出ていた鎖はその身体を離れ、今度はアニマへと絡み付く。それによって願望器は進路を変えざるを得ない状態となった。
桜木の身体に取り込まれてしまった分。そして今取り込まれようとしていた分が全て、アニマへと移されて行く.........
『トレーナーさん!!!』
桜木「―――ぅ、あ.........マック、イーン?」
―――突然あの男性を持ち上げ、背中から吸収していた大きな砂時計を全てあの人に注ぎ込んだ後、トレーナーさんはゆっくりと後退し背中から倒れ込みました。
私は駆け寄って彼に呼び掛けると、酷く疲れた様子な上、生気も大分失われている様でした。
ですが、そこに居たのは紛れもなく私達のトレーナーさんであることには間違い無かったのです。
私は思わず、彼の胸に顔を埋めてしまいました。
『良かった.........!!!もうあんな無茶は止めて下さいまし!!!』
桜木「は、はは.........そりゃ、俺だってしたか無いさ.........けど―――」
「―――ようやく[見つけた]」
―――涙を流す彼女の頬に指を添え、それを拭う。気怠さと痛みを感じながらもゆっくりと起き上がって見ると、どうやらあちらさんはもう決着が着いた様な表情で清々しい顔で俺の方を見ている。
アニマ「.........やられたよ。僕の負けだ」
アニマ「ふんふん.........なるほど。君は[この子]を探しに来たんだね?じゃあ痛み分けって所かな?」
アニマ「彼は素晴らしいよ!まさか自分の[魂]と僕の身体を使って[願望器]を使おうとしている!こんな事は初めてだ!!」
アニマ「うんうん。これも一つの[発展]だね!」
さっきまでの胡散臭く張り付いた物じゃない。本物の笑顔と喜びを感じられる表情だ。
奴は光に包まれ、さっきまでの俺と同じく気が狂いそうな程のエネルギーを溢れ出させているのに、全く狂う様子は無い。
俺はコイツの言動に呆れながら目の前に立ってやると、今度はすっとぼけた顔で俺の方を見てきやがった。
アニマ「.........何してるの?」
桜木「決まってんだろ。その[魂]に用があるんだよ」
アニマ「何言ってるんだい?彼は[人柱]として世界を救おうとしてるんだよ?」
桜木「[自己犠牲]って奴?そりゃ泣けるね」
アニマ「[発展]に[犠牲]は付き物だよ?それを否定するって言うなら、何かの犠牲によって成り立つ君の存在も否定する事になる」
桜木「自己犠牲ってのは究極的な自己満足だろ?やりたきゃやりゃ良い。その代わり、俺も同じレベルで我を通させてもらう」
アニマ「.........」
押し問答は平行線。分かり切っていた事だ。俺は宙に浮き始めた奴の目の前に立って、その胸に掌を押し当てる。
桜木「.........なんだよ?」
そんな俺の背中を、同じ様な形で触れる奴が居た。[白バの王子様]だ。振り返ってみるとソイツがこれまた爽やかな顔で俺の方を見つめてきてやがった。
レックス「何。ただ君があの[鎖]の使い方を忘れていると思ってね。[前任者]として先輩風吹かせようかな、と」
桜木「前任者って.........前々から思ってたけどなァ!!!テメェもあの[女神様]も言葉が足りなくて考察まともに出来ねェんだよ!!!良い加減に(ジャララッ!!!).........だァかァらァ!!!」
結局こいつらは何も説明せずに話を展開させていく存在なのだと改めて知った。俺の掌から[鎖]が放たれる。
それらがアニマの身体を貫き、俺と奴との[繋がり]となって、その中にある[願望器]に触れる事になる―――
―――[強制共鳴]が発動している.........
ーーー
「―――っっっ!!!??なん.........!!?」
混沌渦巻く願いの濁流の中、オレはひたすらに[世界の在り方]について願っていた。誰にも邪魔されず、そして誰の指図も受けない。アイツらが自由に生き、自由に過ごせる。そんな世界だ。
それを、たった一つの[手]が邪魔をしに来た。突然現れて、俺の胸倉を掴んだそれは最初こそ[糸]の様な形状だったが、それがやがて、[アイツ]を思わせる物へと変わって行った。
「チャイムだ。良い子はお家でディナーの時間だぞ?バカガキ」
「っ、テメェ.........何しに来やがったッッ!!!」
「家出をした奴を追っかけるのは[大人]の責務だ」
それだけ言ってコイツは俺の胸倉を掴む力を 強める。それがオレの神経を逆撫でする。
怒りを滲ませ、歯を食いしばりながらオレはその手首を思い切り掴んだ。
「良いかッッ!!!コイツはオレが決めた事だッッ!!!それを邪魔される筋合いは無ェッッ!!!」
「元々オレァ居ないはずの存在だッッ!!!それを使って世界が良くなれば良いコストだろッッ!!!」
そうだ。これはオレが決めた事だ。自分で決めて、自分で行動した。[サンデーサイレンス]という存在が、誰にも縛られずに動く。初めての行いだ。
呼吸を乱すくらいの怒号を放って、オレはそう言った。だがそれでも、コイツは引かない。それどころか、その手の力を更に込めていく感じすらした。
「.........さっきから聞いてりゃあ、世界だのなんだの、スケールがデカすぎんだよ」
「.........あ?」
「人類。星。世界。そんなもんは全部、人一人が語れる程ちっぽけじゃねぇ。それを口にする奴は大体、自分の行いに酔いしれてるだけか、ただの詐欺師だ」
「なに―――っ!!!」
反論しようとした所で身体が引き寄せられる。混沌の外側。[人の願い]よりも外の方へと引っ張られた。それは間違いなく、この手によっての物だ。
そして微かに、[アイツ]の顔がボヤけて見え始めて来やがった.........
「良いか?[平和]ってのはな。この世に生きる存在全員に与えられる[夏休みの宿題]なんだよ」
「毎年必ず出す事を義務付けられる物だ。俺達はそれを解いて出す。生きている内に出来る事はそれだけだ」
「そして俺達が死んだ後、見つけた[課題]を次の世代に課す。そうやって生物は進んで来たんだよ」
ゆっくりと。ゆっくりと引っ張られて行く。言っている事は最もだ。言われて初めてそうかもしれないと思ったのも事実だ。
だがそれ以上に、オレは分からなかった。
オレは本来居ないはずの存在だ。この世界にとって、見えなくても良い存在だ。それが消えた所で何の影響も無いはずだ。
それなのにコイツの手は、それすらも否定する程の力でオレを引っ張り上げようとしてくる。それが不可解だった。
「.........だから、その世界をオレが創ってやるっつってんだよ」
「なんでそこまでして.........オレにこだわるんだよ.........!!!」
昂る感情のまま叩き付けるように叫んだ。それと同時にオレを引く力が弱まるのを感じた。
少しの静けさが広がって行く。混沌とした願いも、オレの希望に繋がる思いも無い。ただお互いの思惑を掴み取るだけの時間が流れて行った。
そして、オレの胸倉を掴んでいた手がするりと離れて行った。それを見たオレはようやく、諦めたのだと思った。
だがその手は.........今度はオレの[手]を掴んで来やがった。
「.........ある[ウマ娘]が言った」
「[一心同体]ってのは、二つの心を一つにするのではなく、自分の心の隣に誰かの心を置く事だと」
「近しい近しくないはあるが、俺の心の傍には沢山の人が居る。そこには[お前]も居る」
「っ.........!!!」
「[一人じゃねぇ]っつってんだ。さっさと帰るぞ」
.........その言葉を聞いて、オレの視界は揺らいだ。それなのに、不鮮明だったアイツの顔がよりハッキリと見え始めた。
オレの心はもう、どうするべきかを決めちまってる。けれど、それでもオレにとっちゃこの世界は大切な物だ。それを、ただの一存在のわがままで揺らがしていい物じゃない。
ゆっくりと手を引かれて行く間に、オレは静かに問い掛けた。
「.........なぁ、ここから。どうすんだよ.........?」
「オレを引き抜いたとして.........そしたら、この[願望器]を使ってコイツは、それこそこの世界を根本から変えちまうんだぞ.........?」
この世界は言っちまえば[競走馬]の理想郷だ。潰えた夢を追い駆け、叶えた宿願を再びその手に掴み、歩けなかった道の先を願った者達の世界。
[人の手]によって作り出された血の螺旋は、それこそ数え切れない。そんな奴らの[揺り籠]が、この世界だ。
それをこの[神様]は、[発展性が無い]ってだけで潰そうとしている。あるべき姿に、作り直そうとしている.........
そんなオレの胸の内を見透かした様にコイツは.........この[桜木 玲皇]は、怖い程に真剣な表情を崩して、オレに笑みを向けて言った。
「[奇跡]と[運命]って、なんか似てるよな」
「.........は?」
突然、コイツは頓珍漢な事を言い出した。この場において必要の無い、自分の[哲学]を話出そうとしている。
いつもだったらまた訳の分からない事をっつって蹴る事も出来た。でもそれをする前に、コイツは口を動かし続ける。
「起きるはずも無い。願っても居ない[偶然]が起こる。どっちも同じさ」
「結局人はそれを、主観で見るか傍から見るかで呼び方を変えちまう」
「ある日花束が空から降ってきた。それを受け取ってどう感じるかは、ソイツ次第だ」
「俺は楽観的なネガティブ思考の人間だ。けれど俺はそれを[奇跡]って呼びたい」
「その為には、その[花束]を[用意した奴]と友達になる必要がある」
「[奇跡を超える]ってのはまぁ.........気の遠くなる話だ」
.........本当にコイツは、面白い奴だ。真っ直ぐに見えるのに捻くれていて、皮肉が好きで頭が良い癖して単細胞だ。
たったこれだけの言葉でそれがヒシヒシと伝わってくる。
.........だから、コイツが何を狙ってんのか、知りたくなった。
「.........じゃあ、テメェは今それをするつもりなのかよ」
「いや?」
「これからするのは面白味も無い、単なる[奇跡]だよ」
瞬間。オレの手を強く引き寄せてここから引きずり出そうとされる。抵抗なんて無い。もう[無駄]だと思った。
でも[絶望]じゃない。オレは確かに、コイツに[光]を感じた。聖人君子には出せない、生物を暖めるのに心地良い[光]を―――
―――ズバッッッ!!!!!
『!サニーさんッッッ!!!??』
―――彼があの光り輝く男性の胸元に添えていた手を勢い良く引いたと思えば、そこからサニーさんが現れました。
彼女は疲れ切った様子でトレーナーさんに抱き抱えられていましたが、その瞳は呆れながらも、どこか嬉しそうな物を感じさせられました。
サニー「.........帰っ、たら.........ミントキャンディでパーティ.........だな.........」
桜木「他のも買っとけ。苦手な子も居るぞ?ウララとか」
優しい表情をサニーさんに向けるトレーナーさん。それに安心したのか、彼女はそのまま瞼を閉じました。
心配して近付いてみると寝息を立てており、私はホッと胸を撫で下ろしました。
そんな彼女を未来のトレーナーさんに預け、彼はまたあの人の前に立ちはだかりました.........
アニマ「.........何だ?君は」
アニマ「.........何なんだッッ!!![お前]はッッッ!!!!!」
声を荒らげ、表情を強ばらせるアニマ。そこに先程まで感じていた[神らしさ]はどこにも無い。
自分の思い通りにならない。計画通りに事が進まない事に癇癪を起こす[子供]の様なアニマの姿がそこにはあった。
アニマ「こうなってはもう全てが終わるッッ!!!お前のした事で今までの[人間]の努力が全て水の泡だッッッ!!!!!」
アニマ「お前は消さなければならない.........!!!未来永劫、お前が[誕生しない世界]を創りあげてやるッッッ!!!!!」
奴はそう言って空に浮かび、自らから放たれる光を増大させていく。今正に、奴の身体と融合を果たした[願望器]を使おうとしているのだろう。
.........だが、奴は直ぐに異変に気付いた。
アニマ「っ、何故だ.........!!!何故僕の願いを叶えない.........!!!」
桜木「そりゃ簡単だ。俺が[その反対]を願ってんだから」
アニマ「っ!これは.........」
目の前の奴に見せびらかすように右手を翳す。そこから微かにだが、しかし確かに伸びる一本の[糸]。それがアニマの胸に繋がっている。
つまりは、だ。
俺も今、[願望器]と[繋がっている]って事だ。
その事実を知り、怒りに身を震わせる神様。憎しみの表情を浮かべたまま奴は地に降り立ち俺を睨み付けて来る。
アニマ「.........お前は一体、何を目的としてる.........!!!」
怒りに染まったその瞳で、嫌悪感を隠しもせずに俺に指を指して問い掛ける。
.........確かに今までだったら、俺はコイツを許さないと思っていただろう。でも、ずっと考えて分かったんだ。
コイツは、[報われない悪役]なんだと。
そう思うと俺は、どうしても倒したいと思えなくなっちまう。人に願われ、それを叶え続ける。
コイツはそれをし続けただけなんだ。
だから.........
桜木「.........俺はもう、アンタを[倒したい]なんて思わない」
桜木「俺はもう、アンタに[消えて欲しい]なんて願わない」
真っ直ぐ奴を見据え、指を指す。奴と同じ構図で、同じ姿勢で.........奴の全てに[宣戦布告]をする。
桜木「今からアンタが[背負わされてる願い]、[しがらみ]。全部ブッ飛ばして―――」
「―――[俺]が[助ける]」
アニマ「―――は?」
桜木「.........つうわけだ。こっちもまだ[マイフェイバリット]使ってねぇんだ。付き合ってくれよ?」
―――奴はそう言って、左腕に巻いた白いスカーフを解いて額に巻き始める。それを巻き終えた直後。その足元から[日色の炎]が燃え上がり、垂れた前髪を元通り、逆立った物に戻して行く.........
アニマ(あの炎.........!人の本質と近しい物を感じる。だけど、真逆な物.........!!!)
アニマ(これも、[願望器]が.........!!!)
桜木「っし、準備万端だッッ!!!」
「炎がッ!お前を呼んでるぜェッッ!!!」
「っ、なら燃え尽きろッ!潔くッッ!!!」
―――両者共に、相手に向かって駆けて行く。お互いの思惑、信念、理想.........それらをかなぐり捨て、相手を[消す]為[紫炎]を滾らせ、片や相手を[助ける]為[日色]に輝きながら向かって行く。
今、全ての[超展開]に、[決着]が着く。
その勝負の火蓋が、切られたのであった.........
......To be continued