山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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解散するメジロ家。帰還せし第三勢力の旗頭

 

 

 

 

 

「は〜い君達ストップ〜」

 

 

 人の気配も無くなった夜遅い時間。市街なら兎も角、学校に居るには不気味な物を感じさせる時間帯だ。

 それを見計らってトレーニングをしていた。理由は勿論、誰にも邪魔をされない為。

 

 

 それを二度も止められた。前回は引き上げ直前。今回はそれよりも30分程早い時間だ。

 

 

ココン「その声、昨日の―――ん?」

 

 

「そう。昨日声を掛けた「レグルスのトレーナー!!?」え!!?良く見えるねこんな暗い中で!!!」

 

 

グラッセ「いやそのサングラス」

 

 

「.........まぁいいや。俺[桜木 玲皇]。よろしく」

 

 

ウマ娘「?ど、どうも.........?」

 

 

 木陰から現れた男。昨日も謎の存在だったが、今日の事もあり、そのサングラスは決定的だった。

 [レグルス]のトレーナー。奇行を働き、アタシらを混乱に陥れた張本人だ。

 

 

 何をされるか予想できない。自分の身を守る為、奴から一歩後ずさった。

 

 

桜木「そう警戒しないでよ〜。別に自主練止めろ〜なんて堅苦しい事言わんさ〜」

 

 

グラッセ「!へぇ、ここの人達は堅苦しいのばっかだと思ってたけど、アンタみたいに良い人も居るんだね」

 

 

桜木「別に他のチームが怪我してどうなろうが知ったこっちゃないしね〜」

 

 

グラッセ「前言撤回。性格悪いねアンタ」

 

 

 欠伸をかきながら身も蓋もない事を言い切る男。ビターグラッセの言葉には頭を掻きながらどうも、と心の籠ってない返事を返す。

 掴みどころが無い。端的に言えばそれが当てはまる。心配してるのかそうじゃないのか、全く分からない。

 

 

ココン「じゃあ何しに来たわけ?まさか、ウマ娘が怪我する所見たいとか言うヤバい奴?」

 

 

桜木「気になっただけだよ〜ん。君ら普通にハードな練習してんじゃん?それなのに解散した後もこっそりこんな夜に集まっちゃってさ〜」

 

 

桜木「もしかして.........ドM?」

 

 

全員「.........」ピキピキ

 

 

 おちょくる様に手を口に添えてニヤケ面を見せてくる。本当に腹が立つ。こんな奴今まで見た事無い。

 無視しよう。こんなの相手にしても意味が無い。そう思って背を向けてトレーニングに戻った時、背後から「煽り耐性は無し、と」と何かを書く音と共に聞こえて来た。

 

 

ココン「だからッッ!!!さっきから何ッッッ!!!??」

 

 

桜木「?だから、気になるんだってば。教えてくれなさそうだから観察して答えを探ってんでしょ?」

 

 

「焼きそば屋〜〜〜。焼きそば屋だよ〜〜〜。新メニューのトマト入ってないパスタオススメだよ〜〜〜」

 

 

桜木「丁度いいや。んじゃ頑張ってね〜」

 

 

 

 

 

 ―――俺は手を振って彼女達から背を向けた。屋台の椅子にドカッと座り、今日のオススメを注文する。

 彼女達はこの状況に混乱しながらも、どうやらトレーニングを続ける選択肢を取ったようだ。

 

 

白銀「.........怒んなくて良いのか?」

 

 

桜木「良いの良いの。管轄外だから」

 

 

白銀「そういうもんか?はいお待ち」

 

 

桜木「うわ〜マジでトマト入ってないパスタじゃん。焼きそば売れよ」

 

 

白銀「世界情勢的に厳しいんだよ」

 

 

桜木「何が.........?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ただいま〜」

 

 

 自宅の扉を開けて靴を脱ぐ。今日はそれほど疲弊していない。やはり薬の効果は出ているのだろう。睨んだ通りだ。

 玄関でコートを脱いでいると、リビングの方から歩いてくる存在が居た。

 

 

「客ガ来テイルゾ。モテナセ」

 

 

桜木「.........客ぅ〜?」

 

 

 ロボ爺やだ。この前の騒動のMVPという事で身体を作り直して貰ったらしい。迷惑この上無い上、[思想回路]が白銀ベースという事で不満しか無いのだが.........活躍を考えれば仕方が無い。

 しかし、[客]という単語を聞き違和感を覚える。玄関には花道。そして能面の靴しか無かったからだ。故に客人が来ているとは到底思えない。

 

 

 大方、猫でも拾ってきたのだろう。そう思いため息を吐きながらリビングへ行くと、そこには驚きの存在が居た。

 

 

「.........良い物語だった。是非感想を語り合いたい所なのだが、どうだい?」

 

 

花道「ご、ごめんなさい.........僕はその作品読んでなくて.........」

 

 

能面「漫画はドラゴンボール以外全てメジロ家に嫁いだ際に処分してから触れていなくてな。まともな語り合いにはならん.........ん?おお、丁度話が分かる家主が来たぞ」

 

 

桜木「な、ぁ...ガ.........」

 

 

 リビングに行き、目にしたのはテーブルの上に俺の漫画(ハガレン)全てを置き、恍惚な表情を浮かべる[上裸の男]。

 

 

 そう―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――[アニマ]だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「お、まえ.........何しに来た.........!!!」

 

 

アニマ「生かしたのは君だろう?こうなる事は予測したんじゃないかい?」

 

 

 憎らしさを感じさせる笑みを浮かべてそう問いかける。間違いない。コイツはアニマだ。そのものだ。

 

 

 ウマ娘を創りし[名も無き女神]。それと対を成すと言っても良い人類を創りし[アニマ]。

 

 

 コイツは[女神]との取引によって人類を創造した。その契約に則り、[人類繁栄]を目的として[願望器].........あ?あれ、ん?

 

 

アニマ「.........頭こんがらがってる?説明しようか?」

 

 

桜木「いや良いっ!待て、今まとめっから.........」

 

 

 そうだ。[願望器]を使って、[ウマ娘]を人間として再構成しようとした、[繁栄]の為の[闘争心]を、[レース]が満たしてしまってるとか何とか.........

 まぁ個人的にはそこら辺どうでも良くて、俺はサンちゃんを助ける成り行きでぶっ倒しただけなんだけど.........

 

 

 って!!!

 

 

桜木「だからなんでここに居んだよ!!!」

 

 

アニマ「?別に良いでしょ?僕のしがらみは君が[壊した]んだから。問題ある?」

 

 

桜木「.........ねぇけど、こんな夜に来んな」

 

 

アニマ「ククク.........君らしい抗議だ。今後は明るい時間にお邪魔させてもらうよ」

 

 

 どっと溢れ出た疲れのまま、アニマの向かい側にドカッと座った。そんな俺の視界の横から震える手でお茶を差し出してくる花道。相当怖いに違いない。

 それに引替え能面の奴はまぁマイペースだ。アニマが読み終えた漫画を一巻から読み始めていた。

 

 

桜木「.........んで、質問に答えて貰ってないんですけど?なんでここに居るの?」

 

 

アニマ「一から説明が必要かい?」

 

 

桜木「出来れば」

 

 

アニマ「.........簡単な話さ。僕は元々[IMUNI]を依代としていた。君達に汚染されて[願望器]で身体を作ったけど、それを壊されたから元の方法に切り替えた」

 

 

アニマ「だから関係のある君達にしか[見えない]のさ。今の僕には紙の束を持ち上げて捲る程度の[霊障]しか行えない」

 

 

 何故か得意げになりながらそう説明をするアニマ。しかし、だからと言って安心して良いのだろうか?また何かしでかそうと企んでいる可能性も無くは無い。

 そう訝しんで居ると、奴はくつくつと笑いを零した。

 

 

桜木「何がおかしい?」

 

 

アニマ「いや何、その君の疑問。僕がこうして目の前に現れた事が何よりの[答え]だと思うけどね」

 

 

アニマ「[意味が無い]。もし本当に何かを企んで居るとするなら、水面下で身を潜め、じっと好機を待つはずさ。少なくとも、君はそうするだろう?」

 

 

桜木「.........」

 

 

アニマ「僕はただ、[しがらみ]から解放されて漂っているだけだよ。最も、[名も無き女神]の所で静かに見守る事も視野に入れていたが.........」

 

 

アニマ「.........追い出されてしまってね」

 

 

 可哀想に。とは言っても、しでかした事の大きさを考えると当然ではある。無頓着な俺がおかしいのだろう。

 とにかく、今のコイツに危険は無い。それが分かっただけでも十分だ。

 

 

桜木「.........寝る。おやすみ」

 

 

アニマ「.........ふむ」

 

 

 

 

 

 ―――気怠そうに席から立ち、僕達に目も向けずに寝室へと向かっていく彼の姿を見て、僕は結論を出した。

 まだ、[夢]は潰えていない。と。

 

 

 陰と陽。世の全ては相反するそれが内包されて作られている。人間もまた例外では無い。

 

 

 しかし、そのバランスが崩れる事もある。内因、外因に限らずにそれは訪れる。

 

 

 [願望器]。それの発現には[バランス崩壊]が必要不可欠。自分が[空]である。そういう自覚が[他者]への献身となり、[願い]を叶える行動を起こす。

 以前はそうだった。彼の[陽]が完全に崩れ去り、形を保てなくなった。[他者]からの観測だけが、彼を唯一彼たらしめる物だった。

 

 

 だが、今回は[違う]。構成される[陽]。それは完全に無くなってはいるが.........[外殻]は崩れていない。中身が無いだけで、形は保っている。

 

 

アニマ(.........彼を観察するのも、面白いね)

 

 

 全く、面白い事になってきた。何かが出来る訳では無いが、ただ見ているだけでも、彼の助けになる事ができるかもしれない。

 [神様]というのは、気まぐれで行動を起こす。ならば僕も、それに倣うとしようじゃないか.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサマ「.........お説教はこのくらいで良いでしょう」

 

 

マック「申し訳ありませんでした.........」

 

 

 休日の朝。いつも通りでしたら寮を出てトレーナーさんとデー.........お出かけする予定でしたが、前日に呼び出されメジロ家で過ごしていました。

 先程お祖母様に呼び出され、先日のトレーナーさんとデジタルさん。お二人と一緒に縛られた奇行を報告され、それについての説明を求められた結果のお説教でした。

 

 

 何分、初めてお祖母様に怒られてしまい、どういう反応をすれば分からない所存ですが、そのお説教も怒りは無く、常識を持ちなさいという至極真っ当なお叱りでした。

 それが終わり、部屋を出ようとした時。お祖母様から呼び止められました。

 

 

アサマ「マックイーン。今日はそれ以外に話があるのです」

 

 

マック「?話、ですか.........?」

 

 

アサマ「ええ。もうそろそろで揃うと思うのですが.........来ましたね」

 

 

ティタ「おはようございます〜.........」

 

 

 申し訳なさそうに入ってきたのはお母様でした。私の姿を見ると嬉しそうに小さく手を振り、そのままソファーに腰を下ろします。

 お祖母様も厳かな机の前から移動し、お母様と対面になるようにソファーに座ってお茶を入れ始めました。

 

 

アサマ「貴女も座りなさい」

 

 

マック「は、はい。あの、何故お母様も.........?」

 

 

ティタ「大事な話なの。ほらマックちゃん。隣にいらっしゃい♪」

 

 

マック「.........」

 

 

 大事な話。という割にはどこか呑気な雰囲気でお茶を楽しんでいる母。しかし、そんな雰囲気に流されずにお祖母様は私が座ったのを確認してすぐ、本題へ入りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メジロ家は[レース業界]から[手を引きます]」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「な、ぇ.........?」

 

 

ティタ「あら〜♪」

 

 

 お祖母様から突き付けられた唐突な宣告。思考を止めてしまうほどの大きな決断が告げられました。

 

 

 [メジロ家]はこれまで、数々の名ウマ娘を輩出した名門。それはこれからも変わらず、ずっと続いていくのだろうと、何の根拠もありませんが、漠然と思う事すら無かったのです。

 それが[常識]であり、決定事項なのだと.........

 

 

 そんな酷く困惑した私を見て、お祖母様はその心配は杞憂だと言うように笑顔を見せながら語り始めました。

 

 

アサマ「元々決めていたのです。時機を見定め、そうしよう。と」

 

 

アサマ「私やティターンの生きてきた時代では、[走らないウマ娘]に対する扱いは酷い物でした。それは、結果を出せない者も同様」

 

 

アサマ「だからこそ強くあろうとした。そうしなければ、人並みの幸せを享受出来ない世界でした」

 

 

アサマ「ですがそれではいずれ、[崩壊してしまう]。強さを求める事に固執し、己を犠牲にしてしまう程に執着してしまう。私達が求めていた事とは真逆の本末転倒な事が起きてしまう」

 

 

マック「.........」

 

 

 お祖母様の発した言葉が鋭いナイフの様に突き刺さります。その言葉通りの事が正に、私に起こってしまっていたから.........

 今から二年前。私は[繋靭帯炎]を患いました。圧倒的な強さを求めた代償。そう捉える事も出来る程に、才能、素質共に持ち合わせていない自分が振るうには強い[力]。それを求めてトレーニングをしてきた事.........

 

 

アサマ「.........結果は、貴女が体験した通りです」

 

 

マック「!お待ちくださいっ!確かに私は一度この身を壊してしまいましたわッ!ですがそれも過去の事ですッ!今では何とも「マックイーン」っ!」

 

 

ティタ「何とも無くなれば、[繰り返して良い]と考えているのですか?」

 

 

マック「それ、は.........」

 

 

ティタ「.........意地悪だったわね♪でも、そういう事なのよ」

 

 

アサマ「ティターンの言う通りです。このまま体制を変えずに居れば、第二第三の[メジロマックイーン]を産む事になります」

 

 

アサマ「そして.........その都度、[彼]の様なトレーナーが着いてくださる。その様な[奇跡]に縋れる程、私は楽観的にはなれません」

 

 

 そう、です.........私が今もレースに参加し、チーム[レグルス]のエースとして居られるのはトレーナーさん。彼の尽力があってこその物。

 あんな事が出来る存在が都合良く生まれ、メジロのウマ娘の担当となる。正に[奇跡]に等しい確率。そんなものに縋るのは有り得ません。

 

 

アサマ「時代は変わりました。今の時代は[学生レース]だけでは無く、[プロリーグ]も存在します。ラモーヌがその土台を作り上げ、今後も後続を率いてくれるでしょう」

 

 

アサマ「その上、ウマ娘の[選択肢]も広がりました。[レース]以外にも、生きる道が出来て来たのです」

 

 

アサマ「今後の[メジロ家]としてする事。それは[メジロのウマ娘]を強くする事ではなく、[全てのウマ娘]を支える事だと。私は考えています」

 

 

マック「.........」

 

 

アサマ「[アオハル杯]の終幕。それを節目として.........[レース至上主義]であった[メジロ家]を―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――[解散]と致します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「解.........散.........?」

 

 

ティタ「.........そんなに深刻にならなくても良いのよ?外側からの見方が変わるだけで、内側は何も変わらないから.........マックちゃん?」

 

 

マック「.........[アオハル杯]の決勝は3月です。そして、私の卒業も目処が立っております」

 

 

アサマ「.........何が言いたいのですか?」

 

 

マック「お祖母様のお陰で、私は[夢]を叶えられます」

 

 

二人「え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「卒業しましたらッッ!!!トレーナーさんの[お嫁]になりますわッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人「ゑ!!?」

 

 

マック「もう決めました!!!止めても無駄です!!!それでは私デートがありますので!!!」ダダダダダ!

 

 

二人「.........」

 

 

 ―――扉を開けて駆け出していくマックイーンに唖然とし、私達は顔を見合せました。少し時間を掛けてあの子の内心を察し、お互いに笑みを浮かべます。

 

 

ティタ「ふふふ.........そんなに怒って無かったですね。お母様」

 

 

アサマ「.........怖かったわ。他の子は受け入れてくれると考えて居たけれども、あの子は[メジロ家]への拘りが強いから.........」

 

 

ティタ「もう♪あの子も大人になったんですから♪大丈夫ですよ♪それに、今後は家の事でお堅い事を気にせずに出来ますし〜♪」

 

 

アサマ「.........貴女に関してはもう少しメジロ護身術の[師範代]として振舞って欲しいのですけど」

 

 

アサマ「あ、はは〜♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」ムグムグ

 

 

 アニマが現れてから休日を挟んだ月曜。

 

 

 少し騒がしさを感じる学園のカフェテラス。昼食の為に久方振りに利用してはみたものの、以前より人を気にしてしまう気がある。

 普段であるならばチーム小屋なり三女神の噴水なりで飯を取っていたが、最近は朝も辛く、コンビニ等に寄る暇も無い為にこうして来てみたのだが.........どうやら間違いだったらしい。

 

 

 黙って咀嚼し、流し込む。味を感じない訳では無い。楽しもうと思えば楽しめる。だけどそんな気が起きない。精神的な病というのは本当に面倒この上ない物だと改めて思う。

 

 

「すいません。隣、良いですか?」

 

 

桜木「!構いませんよ!.........大変そうですね.........」

 

 

 声を掛けられてその方を見ると、たづなさんが食事を乗せたトレーを手に持って立ち往生していた。

 俺の受け答えに喜んでくれて席に座ったのは良いが、その食器に干渉しない様に敷かれた書類を見て二人揃って苦笑する。

 

 

たづな「属人解消の為にマニュアルを作成しているんです。簡単だと思っていたんですけどね.........これが中々終わらないんです」

 

 

桜木「はぁぁぁ.........ご苦労様です。ホント」

 

 

たづな「.........理事長から聞きましたよ。体調、大丈夫ですか?」

 

 

 器用に食事とマニュアル作成を同時進行しながら問いを投げ掛けるたづなさん。状況を見れば少々投げやりな態度に見えるかもしれないが、親身になられるとそれはそれで辛い。それを察してわざわざこういう形で気にかけてくれるというのだから、普段の仕事ぶりの優秀さも頷ける。

 

 

桜木「.........そうですね。大丈夫って言えるウチに何とかしておくべきでした。気付いた時にはもう」

 

 

たづな「.........桜木トレーナーさんは、少し自分に無頓着過ぎましたね」

 

 

桜木「たはは、おっしゃる通りです。でもそれはたづなさんにも言える事じゃないですか?」

 

 

 ピクリ、と反応を示しペンを止める。俺は周りの様子を伺ってから独り言を呟く様な静かな声で質問した。

 

 

桜木「今、この学園を取り巻いている状態。たづなさんはどう思っているんですか?」

 

 

たづな「.........」

 

 

桜木「学生を使って、学園の在り方を左右するのは間違ってる。でも起こしてしまったのなら終わらせなければいけない」

 

 

桜木「たづなさんは、どっちに着くんですか?」

 

 

 少しの騒がしさの中にペンを走らせる音が聞こえて来る。返答が貰えるのかそうでないのか、或いは見誤った質問をしたのか。それすら定かじゃない。

 そんな中、資料作成に目を伏せていた彼女は目線だけをこちらに上げて口を開いた。

 

 

たづな「申し訳ございません。立場上、私は中立で無ければ行けませんので.........」

 

 

桜木「あ、そう。ですよね!ごめんなさい不躾な事聞いちゃって!!」

 

 

たづな「そういうのは話せませんけど.........最近、気になっているウマ娘の事なら話せますよ♪」

 

 

桜木「!そうなんですね!それって一体―――」

 

 

 ただの好奇心だった。実際、たづなさんの目利きは良いという話はあったし、退職後の楽しみとして注目選手の事を聞くのも良いと考えての発言だった。

 それを思い違いだと察したのは、彼女が手に持ったペンを書類の上に[トントン]、と音を立たせていた事。その行為からして、これから何かを「伝える」という事他ならない。

 

 

「来年入学予定の方なんですけどね?[アイビーベルン]さんって方なんですけど―――」

 

 

「―――彼女のライバルの[キタガワセンチネル]さんは終盤の末脚が―――」

 

 

「―――個人的には[カイビャクカチキリ]さんも長距離適正が凄くて―――」

 

 

「―――注目株としては[ワイルドビーツ]さんも評価が高く―――」

 

 

「―――地方からも転校生として[イズジス]さんが船橋トレセン学園から―――」

 

 

「―――一般公募でも[バックトゥヤング]さんがウマスタ人気が高くて―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メジロ家にて

 

 

アサマ「お久しぶりですね。こうしてプライベートでお話するのは」

 

 

???「本日は急な申し出を受けて貰い、大変有り難い事と存じます」

 

 

アサマ「良いのですよ。こちらこそ、孫達が世話になっていますから.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――たづなさんからのメッセージを受け取り、トイレの個室で紙へ箇条書きしていく。

 何の変哲もない名前が、一つの[答え]へと変わっていくのを実感していた。

 

 

桜木「―――っ、そういう事。ね.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――イグザクトリーっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「―――はっ!しまった!つい[アメリカ]での癖が〜〜〜!!!」

 

 

アサマ「ふふふ、よろしいではありませんか。世の中はグローバルになって行きますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [ア]イビーベルン

 [キ]タガワセンチネル

 [カ]イビャクカチキリ

 [ワ]イルドビーツ

 [イズ]ジス

 [バック]トゥヤング

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木([アキカワイズバック].........!!!)

 

 

 ―――ここに来て、更に[役者]が揃いつつある。[秩序]を是とする[樫本理事長代理派閥]。[伝統]を是とする[東派閥]。

 そのどちらでも無い[第三勢力]。旗頭を名乗り出るつもりはなかったが、こうなれば話は別。担げる神輿があちらさんから戻ってくるって訳だ。

 

 

 箇条書きしたメモを散り散りに破き、トイレに流す。ここに来てようやく、どこへ目指すべきなのか.........明確になった気がする。

 

 

桜木(.........それにしても、結構色々と大変な目にあってたってのに、あの人も秋川理事長に入れ込んでるよなぁ)

 

 

桜木(.........人の事、言えねぇか)

 

 

 かく言う俺も、あのちびっ子理事長に振り回されるのは悪くないと思っている。期待を掛けてプレッシャーを与えているのかもしれないが、それでもあの人は大きな事をやってのける人だ。

 

 

 そんな事を考えつつ手を洗い、トイレの外へと出た。

 

 

 ―――レッツゴーフライ♪カケヌケテ-♪

 

 

桜木「ん?なんだ?」

 

 

 スマホの着信音が鳴り響く。普段そんなもの掛かって来ない為驚いたが、特に気にせず電話に電話に出た。

 

 

桜木「もしもし〜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グダフタヌーンっっ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「いっっ!!!??」

 

 

 鼓膜を突き抜ける程の大声。それに脳が揺すぶられるのと同時に、俺の中で燻っていた[何か]も、揺さぶられたのであった.........

 

 

 

 

 

......To be continued

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