山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
桐生院「こ、ここがカラオケ.........」
白銀「アイツ一人で大部屋貸切ってたのかよ.........」
以前、というより、既にもう十年以上前に一度来た以来です。あの時はもう少し落ち着いた感じの内装でしたが、今はこんな風になっているのですね。
桜木「誰から歌う?」
神威「ああ?言い出しっぺはお前だろ?お前が歌えよ」
桜木「え?白銀じゃね?」
白銀「残念でした〜。俺のカラオケ案は一度却下されてるのでこれはれおきゅんの提案でしゅ〜!バキャが!!」
変な声の調子で言う白銀さん。普段は優しい人なのですが.........どうやら、桜木さんが関わるとこうなってしまうらしいです。
そうこうしているうちに、可愛らしいメロディが流れ始めてきました。すごいです、最近のカラオケは操作しなくても自動で曲を入れられるのですね!桜木さん!
ウララ「あ!!!ウララ入れちゃった!!!ごめんねトレーナー.........」
桜木「いいのいいの!俺も何歌おうか迷ってたし!時間がかかるよりウララが入れてくれて良かったよ!!」
あれ、どうやら違ったみたいです。よく見ると、ウララちゃんの手元には液晶パネルがありました。危ない危ない。変なところで恥をかいてしまうところでした。
神威「桐生院さん、曲の入れ方わかる?」
桐生院「えっと、実は.........カラオケに来たのはもう随分と前の話で.........」
ライス「そうなの?じゃあライスが入れてあげるね!」
優しい人達です。きっと、桜木さんが優しい人だから、こういう人達が周りに出来るのでしょうね.........
白銀「すいませーん、ウイスキー一本」ガチャリ
桜木「バッ!!!ウソです!!!ピッチャーに水ください!!!」ガチャン!
黒津木「あ、唐揚げ下さい」ガチャリ
桜木「いやそれは頼んでも良い!!」
ライス「桐生院さんは気にしなくていいよ?いつもの事だから.........」
目の前の光景に目もくれず、ライスさんはタッチパネルを操作しています。ウララちゃんの可愛らしい歌声をBGMにして。
桐生院「その、歌える曲も一つくらいしか.........」
ライス「大丈夫だよ?お兄さま達が歌ってくれるもんね?」
神威「歌います」
マック「お上手ですわ!ウララさん!」
ウララ「えへへ!ありがとうマックイーンちゃん!!」
桜木「おう、アニメで聞いてるのと遜色ないぞ」
ほぼ全員「え」
桜木「やっべ」
ウララ「?」
桐生院「?」
なにか行けなかったのでしょうか?桜木さんはダラダラと汗を垂れ流しています。ライスさんとマックイーンさんは意外そうな表情でしたが、桜木さんのご友人達はそれぞれ違う表情を見せていました。
神威「お前、この曲たまにCMで聞くけど、女児アニメだぞ」ドンビキ
黒津木「オタクはオタクのまま。ハッキリ分かんだね」ウンウン
白銀「きっっっしょッッッ!!!!!」ゲラゲラ
桜木「うるせェ!!言い訳させて貰うがなァ!!姉貴の子供が大好きだから話合わせる為に見てんだよ!!姉貴もその旦那もアニメ見ねぇからなァ!!」
マック「私もこのシリーズは以前、何度かテレビで見た事ありますわ。女の子達が活躍するお話なんて新鮮で、とても面白かった記憶があります」
ライス「そ、そうだよ!面白いものに男の子も女の子も関係ないよ?」
ウララ「トレーナーもプリキュアみてるの!!?」
桐生院「懐かしい.........今もやっているのですね!」
久しく聞いていなかった単語です。初めて見たのは二人組の女の子が変身しているものです。今ではこんなに人数が居るのですね.........
ーーー
桜木「悪い。ちょっとトイレ行ってくる」
白銀「どっちだ?」
桜木「帰ってくる時間で察してくれ」
歌い終わった桜木さんは、そう言いながら部屋から一度退出されました。それにしても.........
マック「す、すごい迫力でしたわね.........」
神威「.........まぁ、俳優志望ではあったけど、演技出来るならなんでもやりたいって言ってたし、ミュージカルの仕事の為に毎日特訓してたからな、アイツ」
桐生院「は、俳優さん.........」
確かに、先程の歌はとても迫力があり、歌っている人の気持ちが伝わる程に強さを感じました。ですが、神威さん達は何故かしんみりしてしまっています。
黒津木「.........なぁ、アイツ。お前らの前じゃどんな感じなんだ?」
ウララ「トレーナー?とっても楽しそうだよ!!!いつもね?ニコニコなの!!!ねー!ライスちゃん!!」
ライス「う、うん。トレーナーさん、トレーニングの時はね?いつもしっかり見てくれるよ?」
マック「ええ、皆さんの言う通り。変ではありますが、とても誠実な方だと思います.........少し、真っ直ぐすぎるところが気恥ずかしくもありますが」
そう、なのですか.........どうやら、彼は私達と接するように、担当のウマ娘達に接している様です。ニコニコしている姿も、しっかり見てくれる所も、誠実で真っ直ぐすぎる所も、よく分かります。
白銀「何言ってんだよお前ら。もうそんな心配する必要ねえのは、アイツの目を見りゃ分かんだろ」
神威「いや.........少なくとも心配くらいさせてくれ。俺達はこれから先も、そうする事しか出来ねえんだから」
なんだか、空気が悲しくなっている気がします。いつもふざけている白銀さんも、どこか悲しげです。一体、何があったんでしょう.........
マック「.........心配するな、とは言いません。けれど、安心してください。彼はしっかりと、新しい夢を叶えようとしています。それが何なのかは聞けませんでしたが、ハッキリとトレーナーさん自身の口から言っていましたわ」
黒津木「.........そか、良かった」
一言だけ。黒津木さんから出たその一言だけで、場の雰囲気は悲しい物から、良い物へと変わりました。
夢、話を聞く限りでは、元々桜木さんはトレーナーになりたかった訳では無かったようです。
実際、トレーナーになってからもすぐには行動に移さず、三週間も担当が居なかったのは、単に目標が無かったからとも言えるかもしれません。
桐生院「.........私から見た桜木さんは、トレーナーとしての技術を持ちながら、トレーナーに向いていないと思いました」
全員「え?」
桐生院「ウマ娘の勝利は、トレーナーの勝利でもあります。強い者を強く育てる。それが大切で一番であると、私も多くの人からそう言われ続けました」
桐生院「けれど、彼は言ったんです。目の前で走ってるのに、走れないなんて事は有り得ない。と」
桐生院「詭弁だと分かっています。長い年月をかけて形成されてしまったジンクスというのは、そう簡単に覆せるものでは無い。けれど、それに縛られてしまえば、見えるはずのものも見えなくなってしまう.........」
桐生院「だから、決めたんです。私はジンクスなんてものともしないぞ、強いミークを育てるぞ、と」
私は言い切りました。場の静かな空気が肌に触れ、何だか恥ずかしくなりましたが、隣に座る神威さんが優しく微笑むのと同時に、黒津木さんも白銀さんも、笑い始めました。
神威「いやーアイツらしい。昔っからそういう猪突猛進さというか、無謀さというか.........ある意味、話を聞かない奴だったよな」
黒津木「そうそう、アイツ自分がまともだと思ってるけど、俺達の中でも一番の変わり者だよ.........けど、アイツの言うことは大抵、カッコいいんだ」
白銀「そうそう、『今の俺は、奇跡だって超えてるんだぜ』とかだろ?俺もカッコいいと思った」
ウララ「なにそれなにそれ!!?」
神威「まぁ、アイツが昔考えたヒーローの決めゼリフだそうだ。どんなピンチの時でも余裕そうにニヤッと笑って、このセリフを言うらしい」
奇跡だって.........。やっぱり、あの人は面白い人です。奇跡を起こすのも大変なはずなのに、それを越えようと思う人は、そうそう居ません。
マック「.........ふふっ」
ライス「どうしたの?マックイーンさん?」
マック「いえ、彼が居なくなった途端。皆が皆、一斉に彼の話を始めたので思わず.........」
そういえば、彼がお手洗いにいってから今の今までずっと桜木さんの話しかしていません。うぅ、思えば私も結構話し込んでしまいました。
神威「そういやアイツ、迷惑かけてないか?結構声とか大きいだろ?」
ウララ「そう???ウララは気にならないよ!!」
ライス「う、うん。静かに話してくれるよ?ね?マックイーンさん.........?」
マック「.........」
全員「.........?」
マック「.........実は、以前タマモクロスさんが、チームルームにいらっしゃった時.........」
ーーー
桜木「ずァァァァァ!!!!??????」
マック「ひっ!?」
タマ「おっちゃん!!ゲオ行こうやゲオ!!才能ないで!!売りに行こか!!!」
桜木「ザッケンナッッ!!!ウルIVやってんだぞ!!!なんでわざわざスパIVセス使ってんだよッッ!!!」
「ソニックブーン!」「ドリャ!」
タマ「プロゲーマーが言っとったんや!!コイツはクソ!!!!!」
他にもありましたわ。
桜木「シャァァアアアアッッ!!!どうしたァタマモォッッ!!!ピザでも食ってろピザでもォッッ!!!」
タマ「あァァァァ!!!おっちゃんウソつきやん!!!あんだけ嫌いな技は98の京の鬼焼き言うてたやん!!!」
桜木「ガーポ付いてるからな。因みに一番好きな技も98の京の鬼焼きだ」
タマ「なんでやねん!!!」
桜木「ガーポ付いてるからな」
マック(よく分かりませんわ.........)
タマ「まずなんで小足から五割持ってかれんねん!!!理不尽やKOF98!!!」
桜木「そりゃお前。KOFは展開力が物を言うスピード重視のゲームだからな」(?)
他にも
タマ「おっちゃん、ウチに少しでもスキ見せたら死ぬで???」
桜木「いや、バチャ2なんて初めてやるし.........」
レディー ゴー!
オリャー!ドゴン!!!ペチペチペチペチペチハッ!ドゴン!!!
桜木「?????」
タマ「言うたろ???」
桜木「いやいやいやいやwwwそういうゲームじゃねえからこれェ!!!!」
ジュウネンハヤインダヨッッ!!!
他にも.........
タマ「おっちゃん!!覚醒!!!覚醒溜まっとるって!!!」
桜木「あっべ!!!」
タマ「何落ちとんねん!!!3000コスト乗るのやめーや!!!」
桜木「前ブして前ブ!!」
タマ「おっちゃん!!!全覚!!!はよ使えや!!!」
桜木「クソ!!!当てらんねぇ!!!」
タマ「何しとんねやアホ!!!着地に合わせろや!!!そんなんやから主人公辞めさせられんねん!!!」
桜木「シンの悪口はやめろォ!!!」
最後には.........
タマ「おっちゃん!!モザンあるで!!!」
モザンビークヒア
桜木「使うかァ!!!ウイングマンよこせぇ!!!」
タマ「ウイングマン誰も持っとらんねん!!!多分アプデで削除されたんや!!!一時期センチネルもなかったしな!!!」
桜木「お前の手に持ってるそれはなんだそれはァ!!!」
タマ「玩具や!!!実銃やないでホラ!!!」
ポヒュン!テキガダウンシタ
桜木「最近の玩具はすげぇや!!!人も〇せる!!!」
タマ「マジ???怖なってきたから谷底に捨てるわ.........」
ポイ
桜木「はァァァァァァ!!!??????待ってくれ俺のウイングマン!!!」
ヒューン.........
タマ「ハッハァ!!!おっちゃんも落ちたし本気で行くでぇ!!!」
桜木「レッツゴージャスティーン!!!」
タマ「バッ!!!それ死亡フラグや!!!」
マック(む、無茶苦茶ですわ.........)
ーーー
マック「あの時は大変でしたわ.........」
黒津木「アイツ自分のコンボミスったら自分の名前呼ぶからな」
桐生院「そ、そうなんですか.........」
桜木「なんだ?俺の話でもしてんのか?」
ドアの方向へ一斉に視線を送ると、お手洗いから帰ってきた桜木さんがそこには立っていました。何故かびちゃびちゃに濡れて.........
白銀「大きい方だったな」
桜木「察しろっつったよな?」
マック「トレーナーさん!?風邪をひいてしまいますわ!!」
桜木「北国育ちはこんなんじゃ風邪引かないよ。というよりお前ら気を付けろよ。今日は飛び火する日だ」
白銀「マジか」
黒津木「おk、気を付けるわ」
神威「うわ悪ぃ」
三人「気にすんなって」
びちゃびちゃに身体の前面を濡らしてしまった桜木さんは、ソファには座らず、濡れていない背面を壁に着けて、曲の選択をしておりました。
ウララ「どうしたのトレーナー!!!」
桜木「ん?ああ、トイレの洗面所の蛇口が壊れたんだよ。店員さんには一応報告しといたけど、お前らも一応気をつけろよ」
神威「大丈夫だ。経験上お前らにしか不幸は飛び火しないから」
飛び火するんですね、不幸って.........
マック「もう、いくら風邪を引かないとは言っても、少しくらい拭いてください!」
そう言いながら、マックイーンさんは備え付きの拭き取り紙で桜木さんの服をごしごしと拭き始めました。流石の桜木さんも、これは恥ずかしそうにしています。
桜木「マックイーン!いいよ!!自分で拭けるから!!みんなも見てるし!!」
マック「いいえ!良くありませんわ!!私のトレーナーともあろう者が、こんな濡れた状態なんて示しがつきませんもの!!」
そんなマックイーンさんの強い押しに負けてしまったのか、桜木さんは諦めたように苦笑いを浮かべ、お願いします。と言いました。
騒がしい.........ですが、今までで一番楽しい時間。こんな事なら、ミークも連れてくれば良かったな.........
そんなこんなで楽しい時間を過ごしていると、残り一曲で退出時間になっていました。
白銀「ハイ!!!桜木玲皇!!!うまぴょい伝説歌います!!!」
桜木「は?」
黒津木「あ、思い出した。古賀さんに一発芸として仕込まれてっつってたよな?確か」
うまぴょい伝説。それはトレセン学園の.........アレは、うん。なんなのでしょう。代々受け継がれている歌ではあるのですが、校歌では無いです。無いはずです。
一説には、先代の理事長と親しかった古賀トレーナーが若い頃の酒の席でふざけて作ったと噂されております。確証は得られませんが.........
桜木「あのな.........アレは、みーんな酒に酔って、何が何だか分からない状態で聞くのが一番面白いんだ。シラフで聞いたって、なんも面白くないだろ?おい、そこ。ルームサービスでアルコールを頼むな」
白銀「チッ」
神威「だったらお前、教え子と歌えばいいじゃねえか。マイク二つしかねえから必然的に一人選ばなきゃならねえけど」
桜木「え」
黒津木「アイドルの生歌!!???」
これは.........とても逃げられそうにはありません。桜木さんはもう誰かに助けを求めたくてこちらにも目線を送りますが、私にはどうにも出来ません。だって私、童謡しか歌えませんし.........
桜木「くっ.........仕方ない、ウララ.........」
ウララ「いいよ!!」
桜木「っしゃあ!」
ウララ「けどトレーナー。うまぴょい伝説ってなに???」
桜木「.........」
あっ、視線を逸らしました。どうやら歌詞を知らない子と歌うのは嫌みたいですね。
桜木「ライス.........?」
ライス「え、あ、あの.........ちょ、ちょっと恥ずかしい.........かな?」
神威「何ライス困らせてんだお前。正中線四連突きするぞ」
桜木「ひぇ.........空手の黒帯怖い.........」
突然放たれた圧に桜木さんが怯えます。神威さんから燃え盛るような炎が幻視出来てしまうほど、その身体から怒りの感情を感じ取れます。
桜木「マックイーン.........お願いします.........」
マック「.........はぁ、なぜ最初から私に頼らないんですの?」
桜木「いや、恥ずかしいと思って.........」
マック「全く.........確かに私一人なら断っていたかもしれませんが、貴方と一緒なら大丈夫です。貴方は一番に私を見つけたのですから、一番に頼ってください」
桜木「め、面目ない.........」
申し訳なさそうに謝る桜木さん。ですが、マックイーンさんの耳やしっぽを見るに、そこまで怒っている訳ではなさそうです.........
二人で歌っていたライスさんとウララさんの方からもう一本のマイクを受け取ると、マックイーンさんは桜木さんの隣に立ちました。
マック「ちなみに、ダンスの方は?」
桜木「完璧だ。いつでもステージで踊れるよう手ほどき受けたからな。古賀さんに」
マック「そうですか、まさか.........初めてのお披露目の場がカラオケボックスで、トレーナーさんと一緒に歌うなんて、思いもしませんでしたわ」
桜木「ああ、俺ももうちょい騒がしい宴会の席だと思ってたよ。こりゃ一生アイツらに笑われるな」
マック「あら、良いではありませんか.........一生笑われるということは、その分縁が繋がり続けるということですわ」
桜木「.........そうだな」
.........あれ、なんだかすごい穏やかな顔をしています。桜木さんもマックイーンさんも.........
どちらも、目を瞑りながら、どこか嬉しそうに微笑みながら歌い出しを待っています。とてもこれからうまぴょい伝説を歌う様子とは思えませんでした。
アナ「位置について よーい ドン!」
二人「うーーーー」 (うまだっち!)
二人「うーーーー」 (うまぴょい!うまぴょい!)
二人「うーー」 (すきだっち)
二人「うーー」 (うまぽい)
二人「うまうまうみゃうにゃ 3 2 1 fight!!」
か、完璧です.........マックイーンさんの動きに完全について行っています。その顔に恥ずかしさはありません。ですが、隣で踊っているマックイーンさんは流石に完璧すぎて動揺しています。
そんな完璧なライブの中、サビに入る途中で事件は起こりました。
二人「風を切って 大地けって」
二人「きみのなかに 光ともす」
二人「どーきどきどきどきどきどきどきどき」
「「きみ(俺)の愛バが!」」
三人「は!!!?????」
桜木「」ダラダラ
その歌詞が変わった部分に、桜木さんの友人さん達は食い付きました。
一方、桜木さんは表情は変わらず清々しいまでの笑顔ですが、どっと汗が溢れ出して来ました。どうやら悪い予感がしているようです。
その後は、特に問題などはなく、完璧にダンスと歌をお二人はやり遂げました。
桜木「ふぅ、終わった終わった。さあもう時間だし、ここから.........」
マック「誰ですの?」
四人「え?」
桐生院「あれ?」
この場面、今までの展開であるならば、質問をするのは決まって桜木さんの友人さん達です。ですが、マックイーンさんは桜木さんの袖をガッツリ掴んで離そうとはしていません。正直怖いです。
桐生院「ま、まぁまぁ、歌詞間違えですよ.........ですよね?桜木さん」
桜木「あ、ああ!そうだ!」
マック「有り得ませんわ」
二人「ヒエッ」
マック「あの古賀トレーナーが歌詞間違えさせるなんて言う初歩的な練習不足に陥りさせる訳がありません。アレは貴方の中では正当な歌詞.........そうでしょう?トレーナーさん?」
桜木「はい」
桐生院(桜木さん!?)
もう少し粘るかと思いきや、桜木さんは大人しく観念してしまいました。しかし、その顔には覚悟が宿っていました。
マック「もう一度聞きますわ。一体、貴方の愛バとは誰のことですの?」
桜木「メジロマックイーン」
マック「.........」
桜木「.........アグネスタキオン、ハルウララ、ライスシャワー、レオディセンバー、メジロムーンライト」
白銀「オイオイオイ」
神威「死んだわアイツ」
指を折りながら名前を言う桜木さん。中には聞いたこともないウマ娘の名前も入っています。
顔を伏せたマックイーンさんからは怒りの感情が溢れ出しています。
ウララ「わわわ.........!」
ライス「マ、マックイーンさん.........?」
マック「.........ハァ、仕方ありません。許して差し上げますわ」
桜木「ほっ」
力強く掴んでいた袖を離され、桜木さんはほっと一息着きました。それと同時に、ルームサービスの受話器が音を鳴らします。
桜木「.........さっ、もう時間だ。明日は平日だし、今日はもう帰ろう」
そう言いながら、カラオケの出口の扉を抑える桜木さん。気付きにくいですが、こういう優しさというのが人を楽しませる秘訣なのかもしれません。
少し騒ぎすぎて散乱していた部屋の中も、黒津木さんと神威さんが手際よく片付け、白銀さんはカラオケマイクをカゴに入れ、それを持ちました。
桜木「ささ、お嬢様方。お足元にお気を付け下さいませ」
ウララ「わーい!!お嬢様だって!!」
マック「ふふっ、中々様になっていますわよ。トレーナーさん」
ライス「あ、ありがとう。トレーナーさん」
神威「ほら、桐生院さんも行った行った」
桐生院「は、はい。ではお言葉に甘えて.........」
片付けを手伝おうとした所をまたもや促されてしまいました。うぅ、私も一応保護者なのに.........
ーーー
ウララ「楽しかったねートレーナー!!!」
桜木「ああ!こんな大人数で過ごした休日は久々だ」
最後にこんな団体で遊んだのは、高校時代だったな。懐かしい。アニソンばかりしか歌えない俺でも、今日はみんな楽しんでくれたみたいだ。来てよかった。
桜木「どうだった?桐生院さん。参考になれた?」
助手席に座った桐生院さんに話を振る。今回、桐生院さんの悩みが発端で始まったお出かけだ。 それが解決できたかどうか、聞くくらいしなければ。
そう思い、問いかけてみると、少し寂しそうな顔でこちらを向いた。
桐生院「とても楽しかったです.........けれど、わがままかもしれませんが、もう少し遊んでいたいなと.........思いまして.........」
桜木「ハハハ!その気持ちが分かれば十分だよ!いつまでも遊んでいたい。寝る間も惜しんで遊びたいと思えるのが友達だからね」
その気持ちが分かれば、ハッピーミークとの関係は良くなっていくだろう。交差点の上で赤から青に変わる信号を確認し、アクセルを踏んだ。
その先に見えてくるのは、普段から見ている代わり映えしないいつものアパートだった。
桜木「.........おっし、お前らは先降りて、飯の支度しててくれ。俺は桐生院さん達を送っていくから」
三人「ラジャ」
迅速に降りて階段を上がっていくアイツら。飯のことになるとこうなるからな。
ミラーでマックイーンの様子を見てみると、あまりのボロボロさに、ここが人の住むところですの.........?とでも言いたげな表情を俺に向けてきた。そうです。家賃が安いんです。許してください。
桜木「その寂しさも、次遊ぶ為の原動力だから、忘れないでくれよな」
桐生院「っ!はい、分かりました!」
ウマ娘に対する知識や技術では敵わない。桐生院さんは努力の人だ。ここまで素直に人の言う事に耳を傾けられる人なんてそうそう居ない。
懐かしいな、一緒に演劇してたアイツら、元気してんのかな.........そう思いながら、夕焼けの中、学園へと向かっていた。
桐生院「あ!ここでいいですよ、私この近くなので.........」
桜木「オッケー分かった」
ふむふむ、ここのコンビニの近くか、今度待ち合せる時はここを使った方がいいかもな。あまり遠出させるのも気を使うし.........
そんなことを考えていると、桐生院さんはシートベルトを外しながら、恥ずかしそうにこちらを見てきた。
桐生院「あ、あの.........もし宜しければ、また次も.........」
桜木「ああ、いいよ。俺達はもう桐生院さんと友達だから!」
桐生院「!!.........ありがとうございますっ!!」
律儀だなー。そんな頭を下げなくてもいいのに.........けれど、それもこの子のいい所なんだ。同期ではあるけど、まるで後輩を見ているようで嬉しい気分になる。
扉を開け、ひょいっと降りる桐生院さん。こちらに手を降って別れを告げる。中が見えないよう加工されているが、俺達も桐生院さんに手を振り返し、また学園へと向けて車を出した.........
ーーー
桜木「よーっし、着いたぞー」
ライス「ありがとうトレーナーさん!楽しかったね?ウララちゃん!」
ウララ「うん!!ウララ!またトレーナー達と遊びたーい!!!」
そう言いながら車の扉を開け、寮の方向へと向かっていくウララとライス。それに続くように、マックイーンも外へと出ていった。
桜木「.........さて、俺も帰ろうか.........?」
大きく伸びをしながら、ハンドルを握ると、窓ガラスをコンコンと叩かれる。見ると、そこにはマックイーンが立っていた。
なんだろうと思い、スイッチを押して窓ガラスを開いて行く。
桜木「どうした?なにか忘れ物?」
マック「いえ、そうではありません」
マック「本日はありがとうございました。トレーナーさん」
そう言いながらぺこりとお辞儀をして見せる。この子も律儀だと思ったが、その姿にどうも、いや、やはり俺は桐生院さんと同じ感情を感じてくれない。
桜木「いいのいいの!それより迷惑じゃなかったか?結構長い時間拘束しちゃったけど」
マック「もう、拘束だなんて.........そんな事言わないでください。ちゃんと楽しめましたわ」
桜木「そか、そりゃよかった」
少し、安心した。もしかして気を使って付き合ってくれてたんじゃないかと思ってたから.........
夕焼けも色落ちしてきた。少し青が濃くなり始めた空を見て、夜の予感が胸をざわつかせる。
マック「それと.........」
桜木「?」
マック「あの時、実は嬉しかったんですの。私の名を、一番にあげてくださって.........」
.........あーーー、どうしよう。顔が熱い。夕焼けもないから誤魔化しも効かない。俺は今、普段通りの顔色をしてるか?
無理もない。目の前に居る少女は、その笑みを、上品で柔らかい笑みを、俺に向けてくれている。これ以上に嬉しいことは無い。
マック「.........言いたかったことはそれだけです。それでは」
桜木「.........またな、マックイーン」
マック「ええ!また明日!」
少し離れたマックイーンは、その手を俺に振ってくれた。俺も、窓ガラスを締めながら、俺とマックイーンの間を完全に車という空間が遮断するまで、手を振り続けた。
誤魔化しなんて無駄だ。所詮、浅知恵。策を弄すれば弄するほど、その無駄に終わった策を飲み込んで、塊は更に大きさをましていく。
桜木「.........やっぱこれは、恋.........だよな」
認めるしか無い。認めざるを得ない。この気持ちを認め、これから先下手な行動を起こさないよう自制するのが最善だ。俺とあの子では、身分が違う。
桜木「.........帰ろう。今はそれが、一番するべきことだ」
ハンドルをもう一度握りしめ、ブレーキから足を離し、アクセルをゆっくりと踏んだ。
よし、もういつもの俺だ。あとはもう、帰るだけだ.........
そう思ってたのに.........
桜木「おい.........なんで、」
桜木「アパートが.........燃えてる.........?」
明らかに神威の不幸が起こしたであろう目の前の大事件のおかげで、メジロマックイーンに対する恋心をぶっ飛ばしてしまったのであった.........
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ......To be continued