山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
[ゲームセンター]。それは、淀んだ空間を形成する施設。
初めてここに来た時、私は驚きました。こんなにもうるさく、そしてけたたましい程の光の中で、平気な顔をした人が液晶に、或いは特殊な遊具に目を光らせている事に。
今でこそ慣れ、時折併設されているカラオケの為に来る事はありましたが.........
桜木「そうだァ殺せッッ!!!画面の奥に居るであろう人間の顔を思い浮かべる必要など無いッッ!!!」
桜木「斬って殺せ射って殺せ火で殺せ水で殺せ圧して殺せ.........!!!」
桜木「殺しちまえッッ!!!そうすれば後で殺される口実になるッッ!!!仇敵になるッッ!!!」
桜木「気持ちいいぞぉ〜?殺した相手に殺し返されるのはぁ〜.........!!!」
マック(.........ネジ外しすぎよ)
初めてゲームに触れる男性。アニマさんに物凄い笑顔でレクチャーをするトレーナーさんですが、その教え方が野蛮極まりません。心做しかアニマさんも少し引いている気がします。
流石にこれは.........そう思い、私はそのレクチャー方法を変える様に彼に言いました。
マック「トレーナーさん?少々野蛮過ぎませんか?」
桜木「ダメダメっ!ゲームってのはこういう気持ちでやんないと!」
マック「は?」
桜木「昨今はeスポーツだので持て囃されがちだけど、本質はこれ。最近の若いのはこれが足りない。だからリスペクトが無いんだなぁ」
マック(今のどこにリスペクトの要素が.........?)
桜木「強さ以外の肩書きを持って何になる?勝てば得て負ければ失う。その本質だけ知ってりゃ、相手が今日まで自分と同じ目線まで上り詰めた存在。或いはその格上だと知る」
桜木「その勝負に誤算はあれど、侮りは存在しない」
マック(.........ホント、悪い顔してる)
久々に見たと感じられる程に生気を持ったその表情。くつくつと笑いを零しながらその顔に影を落とし、そこから瞳孔が光を放っているかの様な異質感。
それが表に出ている事に気付いたのでしょう。慌てて申し訳なさそうな顔で私の方へ向きました。
桜木「ご、ごめんマックイーン。久々のゲーセンだったもんでつい.........」
マック「.........ふふ♪構いませんわ。そういう身も蓋もない獰猛さも、貴方の一面ですもの」
アニマ「.........あ、勝った。ふむ.........中々面白いね」
桜木「お、初勝利おめでとう。コーチング甲斐があったな」
アニマ「でもさっきの君は怖かったよ?HELLSINGみたいな顔してたからね」
桜木「そ、そんな顔してた?」
二人「うんうん」
誠に不本意ながら、同時に頷きました。著名な作品であり、海外人気も高いとの事でしたので、彼の所有している物を読ませて頂いた事もありました。
この人の言う通り、狂気じみた表情の方が沢山出てくる読み物でしたが、不思議とそこに心を惹かれてしまう自分も居ました。
桜木「.........兎も角、だ。[勝負]となるならばいずれにせよ相手を[殺し切る]必要がある」
桜木「で、あるならば。例えどんな手を使い、汚名を被ろうと立っていた者が勝者として扱われる。所詮はただの[一戦]。尾を引く方がバカバカしい」
アニマ「ふ〜ん。まぁ、楽しかったけどね。でも僕としては、やっぱこっちの方が楽しめたかな?」
また悪い顔で言葉を吐き捨てる彼に対し、この人は先程触っていた物から離れ、その前に遊んでいたゲームの方へ移動しました。
武将を指揮して戦うゲーム.........としか分かりませんが、この人は非常に上手な進行でクリアをされていました。
桜木「あ〜、生憎苦手なんだよなぁそれ。将棋とかチェスみたいなやつ」
マック「最近は頑張ってるみたいですけど、やっぱりダメですか?」
アニマ「良いよ。戦略ならここに入ってる。[子供達]が考えた物だからね」
―――渋い顔を見せてる彼に向けて、僕は自分の頭を人差し指で叩いた。感心した顔と嫌味な顔。その両方を浮かべた彼を見て苦笑する。君が言ってた事だって同じ事だろうに。と。
彼と僕。[局所的]か[大局的]かの違いでしかない。個人が団体か。その程度の違い。集合体になった所で人は人。考え方が変わる訳じゃない。
それを分かりやすくしたのが[武]。[武]とは[暴力]。[武術]とは[制圧術]。抽象化し、曖昧にした所でその本質は変わる事は無い。
寧ろ、そうする事によって個人の中で正当化され、それを振るう罪悪感を打ち消し、好奇心へと変わってしまう。
最初に考えたのは誰だったか。もう[何世代]も前の存在だ。覚えていないのは惜しい。
アニマ(.........でも)
アニマ(君は本当に、[面白い])
決して本質に目を逸らさない。そして嫌悪も示さない。それが本能だと悟りながらも、その矛先を逸らす事が出来ている。その上、そこに対しての卑屈さも感じさせない。
[壊れている]からなのか、剥き出しになっているせいなのかは分からないが、それでも観察しがいのある存在である事には違いない。
以前、彼に手解きをした[名も無き女神]の所に居た[女城之武蔵]というウマ娘と話をしたが、彼女もまた同じ。
『小僧は正しく[天然物]よ。環境がそうさせたか、若しくは時代か。どちらにせよ、[多様な選択肢]の中でこねくり回された人類』
『我等にそれは無い。すべき事が明確であり、背けば死。人に強いられるのではなく、状況に強いられてきた』
『故にじゃろう。小僧と妾には中身は違えども常識という[前提]が備わっちょる。唯一の違いは、それを[捨てられる]かどうか』
『それを捨て、どう転ぶのか。己の芯を手放さなければどうとでもなると、心で知り、その行く末を楽しもうとする』
『[怪物]じゃ。奴は。時代が産んだ。[人として]を守るならば[許される]。その[時代]がな』
キセルを吹かしながら彼女は言っていた。彼の言葉を聞いた今、真に理解する事が出来た。
出来るなら彼女ともっと話してみたかったけど、女神に見つかって叩き出されてしまったからね。また機会を伺うしかない。
桜木「まぁでも、最近は格ゲーの筐体も減ってきててなー。昔の奴もやりたいんだけどもね〜」
―――戦略ゲームから視界を外し、頭を搔く。言った通り最近の格ゲーアーケードは有名タイトルしか置かれていない。
悲しい事だよ本当。見てみてくれよあの音ゲーコーナーを。ビートマニアとか、寺IIとか、なんならダンレボだって―――
桜木「.........ん?」
視界を順繰り音ゲーの方へと向けている最中、本来ならそこに居ない筈の人が見えて思わず首を傾げる。
いや、そんな筈が無い。あの人がこんな場所で、あんな事をしている筈が―――
樫本「はっ、はっ......」
桜木(が、ガッツリ居るゥゥゥ―――!!!??)
見間違えじゃなかった。代理だ。樫本理事長代理が確かに居る。しかもダンレボをしている上にコンボが何一つ成立してない.........!!!
なんで!!?なんでここに居るの!!?いや良かった〜マジで!!!マックちゃんがウィッグ持ってきてて!!!最悪あの子が見つからなきゃ何とかなる!!!
アニマ「あのゲームも面白そうだね?僕もやりに行こっかぬぁ!!?」グイッ!!!
桜木「テメェ空気読めねェんか!!?」
マック「み、見つからないように立ち去りましょうか........」ソロリソロリ
彼女の言う通りだ。見つかったら何を言われるか、たまったもんじゃない。次の曲が始まるのを見計らって俺達は外に出る。
哀しいかな。普通の公共施設ならいざ知らず、ゲームセンターという衰退しかけている文化圏のお陰で怪しまれず、というか怪しむ人すら居ない。皮肉だね。本当に哀しい。
桜木(けっ、こんな所に居るってバレたら何言われるか分かんねェからな。マックイーンと一緒ってのも知られたらもっとヤバそうだし)
桜木(早う退散退散っと)
「.........これでは、[トレーナー失格]ですね」
桜木「―――.........」
マック(.........と、トレーナーさん?)
―――ピタリ。と先頭を行く彼の動きが止まりました。聞こえて来た樫本理事長の言葉と同時に。
ゆっくりと立ち上がる彼の姿を見て、ため息を吐きました。えぇ。そうでした。こういう人でした。
昔の事だからすっかり忘れていましたけど.........私達を担当にした時も、そういった衝動的な救済欲でした。
結局、彼は去ることはせず、そのまま理事長代理の隣へ立ちました。
樫本「.........!!?」
桜木「.........」チャリン
樫本「.........まずは話を「いらない」―――?」
相手からの話を遮り、彼は代理と同じ種類の筐体に硬貨を投入しました。無言のまま曲を選択し、ゲームが始まります。
樫本「―――な」
アニマ「―――ん?」
マック「―――ゑ゛!!?」
桜木「ふっ!ふっ!ん?ふっ!ん?ふっ!ふっ!んっ!ふ?」
それは、あまりにも[下手くそ]でした。[練習不足]とか[運動音痴]とかではなく、天から才をもがれているとしか思えない程の動き。私ではとてもその動きを形容する事は―――
「あれ!?sisiさんじゃん!!?なんでダンレボやってんの!!?」
「うわ下手!!?首動いてないよ!!!」
「操られてるの!!?マリオネット!!?鏡の中のマリオネットsisi!!!」
「かず○この再来じゃん!!!」
「進歩が見られない!!!面白いだけで時間の無駄!!!sisiさんじゃ!!!」
.........彼のお友達なのでしょう。彼らは笑い声を上げながら先程まで私達が居た格闘ゲームのコーナーへ向かって行きました。
まぁ、そういう事です。正直擁護が出来ないほど酷いダンスを繰り広げています。
やがて曲が終わり、スコアが表示されます。最高コンボ数は[3]。驚異的です。酷い意味で。
しかし、彼はそれを恥じる事はなく、寧ろ堂々としていました。
そしてそのまま代理の方へと顔を向け.........
桜木「.........ニヤ(カズヤスマイル)」
マック「は?」
樫本「.........」シュン
事もあろうに、あのスコアで、勝ち誇ったかのような表情をしたのです。有り得ません。彼は真面目にやっていたのかもしれませんが、私としては彼に料金を請求したいくらいです。
も、最早我慢できません。いくら好きだとは言っても見過ごせない事もあります。
マック「樫本理事長。落ち込む必要はありません」
樫本「!.........?申し訳ありませんが、どちら様でしょうか?」
マック「!すみません。外していませんでしたわね。改めまして」
樫本「!め、メジロマックイーンさん.........?な、何故ウィッグを?」
マック「そんな事どうでも良いのです!!私はあの人の態度が気に入りません!!理事長はどうなのです!!」
樫本「え、その、彼は貴女のトレーナーでは.........?」
マック「それが何か!!?」
樫本「い、いえ.........?」
ーーー
樫本「.........」
あれから一時間は経ったでしょうか。彼女。メジロマックイーンの助力もあり、私は一曲分のダンスを完全に理解し、息を乱れさせる事無く踊り切る事が出来ました。
マック「流石です!!こんなにも早くマスターするなんて!!」
樫本「い、いえ。私は貴女が教えてくれた通りに.........」
マック「教えた通りが出来ない人も居ます。見てください」
桜木「ふっ!ふっ!ん?ふっ!ん?ふっ!ふっ!んっ!ふ?」
樫本「.........」
全く進歩していません。なんなんですかあれは。普通に踊る事は出来るはずなのに何故か出来ていません。本当になんなんですか。あの筐体に呪われているとしか言えない程の腕前です。
桜木「っしゃあ!!!コンボ更新!!!」
アニマ「すごーい。4コンボだー。一時間でそれは本当にすごい。尊敬するよー」
桜木「だるるぉ!!?」
何故か自慢げに連れの男性に自慢する始末。その男性もまた、まるで子供をあやす様な言い方で彼をおだてている。
メジロマックイーンはそんな様子に嘆く事もなく、見なかった事にするように私の方へと視線を向けました。
マック「それにしても意外です。理事長がこんな所にいらっしゃるだなんて」
樫本「.........」
それは至極真っ当な感想。私自身、以前までだったら気にもとめなかったでしょう。担当のライブダンスの訓練の事など、ただ手本通りにやればいいと言っていた筈。
それが何故か、こんな場所にまで来て、痴態を晒しながら一人でやる事など無かった筈。以前までならば.........
そこまで思い、私は筐体から離れた桜木トレーナーに視線を向けた。
樫本「桜木トレーナー。貴方は知っていますね?私のチームの数名が、夜に無断で自主トレーニングをしている事を」
桜木「.........あー。やっぱ無断?」
やはり。報告にあったのは私のチームメンバーだった。それを今ここで確信する事が出来た。何故なのか。何故そんな事をしているのか。そして、何故自分はそれを薄々知りながらも放って置いてしまったのか。全てが理解出来なかった。
彼は自販機で購入したアイスの包装を取り、口に頬張りながら答えた。
桜木「まぁよくありますよ。ウチのチームもそうだったし。ねぇ?」
マック「.........な、なんですかその目は。い、今はしていませんけど!!?」
桜木「不安からしちゃうんですよ。特に思春期なんかは不安定だし、余計制御が効きません」
樫本「.........では貴方はそれを、どう解決したのです?」
桜木「泣いて止めてって頼んだだけですよ?」
樫本「え」
マック「な、ちょっと.........///」
なんの気無しにそう言い切った桜木トレーナー。私は困惑するしか無かった。そんな人を、トレーナーを見た事が無かったから。
勿論、トレセン学園には多くのトレーナーが居る。探せばそういう方も見つかるでしょう。
しかし彼はトレーニング時間外の練習はしないという事でも有名。私がURA委員会から学園へ派遣される前から噂がされていました。
目の前でメジロマックイーンに問い詰められている彼が、どうやってそれを成し遂げたのか.........そして、どういう心持ちでそれが出来たのか.........
マック「何故そんな自分の情けなさをわざわざ表に出そうとするんですか!!!」
桜木「いぃ!!?ひ、秘密主義は良くないって君が言ったんじゃ」
マック「言わなければいけない事と言わなくても良い事は違いますわ!!!」
樫本「.........」
アニマ「ちょっといいかな?君がそう思うようになったのは具体的にいつ?」
樫本「え.........[アオハル杯]の[予選決勝]の直前。でしょうか.........」
連れの方が突然問い掛け、問い詰め問い詰められている二人を横目にし連れの男性が話しかけてきた。
不思議な雰囲気に気圧され、つい本当の事を喋ってしまいましたが、それを聞いた彼は桜木トレーナーを連れて済の方まで行ってしまいました。
桜木「な、なんだよお前急に。こっちはマックちゃんと楽しくしてたのに」
アニマ「真面目な話だよ。ちょっと聞いて」
―――突然肩を掴まれ、強引に連れて行かれる。何かしただろうか?いや、特にはコイツに対しては何もしていないはず。
肩に腕を伸ばされて若干縮こまされた。奴はその状態で話をし始める。
アニマ「彼女。あの状態になったのは[君のせい]だよ」
桜木「.........はぁ?お前何言っちゃってんの?」
アニマ「疑うかい?証拠は無いけど、僕の中では結論が出ているよ」
自信満々。と言うほどでは無いが、揺るがない芯をその声から感じた。一体これから何を説明されるのか、俺は心して耳を傾けた。
「―――[願望器]だよ。それしか考えられない」
桜木「―――.........」
[願望器]。もう関わる事は無い。そう思っていた。それがまたこうして、切っても切れない[鎖]の様な因果でまとわりついてくる。
あの時、俺は自分の.........[王冠のアクセサリー]に宿っていたそれで、[人類意志の願望器]をトレードオフで破壊した。
それを及ぼす影響は後から能面の奴から聞いただけだが、俺には関係無いと思って話半分程度にしか聞いていなかった。
アニマ「彼女があの状態に陥った時期。君が僕の所に乗り込んだ[翌日]だ」
アニマ「関係無い訳が無い。[人類の願い]。それは[時間の概念]だ。[前]も[今]も[次]も、究極言えば[時]だ。それ以外の何物でもない」
桜木「.........俺が、そうさせちまったのか」
あの人のさっきの顔。酷く思い悩んでいた。今まで完璧にこなしていたんだろう。その方法で。それの支柱を破壊したのは紛れもない。この俺だ。
だけどそうでもしなきゃ、壊されていたのは[ウマ娘の願望器]だ。後悔はしていない。
だからと言って、それをしてしまった責任は.........取らなきゃいけない。
アニマ「.........本当、お人好しだね。君は」
桜木「言ってろ。そういう性分なんだよ俺は」
アニマ「ククク、だから面白いのさ」
肩から腕が離され、ようやく一息つける。どうしたものかと困った顔を見せる樫本理事長と、さっきまでの話を聞いていた様に目を瞑り、腕を組むマックイーンの元へと戻る。
樫本「彼とはどんな話を.........?」
桜木「別になんて事ないですよ。それよりさっきの話の続きなんですけど、夜練してる子達―――」
「―――ちょっと俺に任せて貰えませんか?」
ーーー
ココン「.........全員集まった?」
グラッセ「ああ。準備万端。いつでも良いぜ?」
完全オフを樫本理事長に言い渡された私達。最初こそ今日くらいは。なんて気で居た。だけど、日が落ちるにつれてこれで良いのか。そんな思いが強さを増して結局、今日も変わらないメンバーで夜間の自主練を始めてしまうまでに至った。
メンバーを先導し、トレーニングのいつもの場所まで歩いて行く。
正直言うと、焦っている。次の相手。チーム[レグルス]は規格外が過ぎる。チームのメンバーを見ても、そしてレースのやり方を見ても。明らかに[手札]が多すぎる。
それに勝つ為には、樫本トレーナーを、勝たせる為には.........
「待っていたぞォォォ!!!チーム[ファースト]ォォォ!!!」
全員「―――は?」
そこに居たのは、仁王立ちをして立っていたあの[レグルス]のトレーナー。桜木だった。
いや、確かにいつも居たけど、こんなんじゃなくてもっとさり気ない感じでアタシらを見ていた筈。それがなんで急にこんな.........
桜木「あっ!おい創ェッッ!!!テメェ何寝てんだ!!!」
神威「あァ!!?こっちはお前のトレーニング内容詰め込んだ後で眠いんだよ!!!別に良いだろうたた寝くらい!!!」
黒津木「黙れー」
二人「テメェが黙れッッッ!!!!!」
グラッセ「.........どうする?」
ココン「.........やるよ」
目の前で取っ組み合いの喧嘩が始まったけど、それを無視して練習に入る。別に今までだって邪魔は入らなかったんだ。今更こんな所で引ける訳無い。
グラッセ「じゃあ今日のメニューだけど、ココンは筋力トレーニング。アタシは走力トレーニングで、他のメンバーは」
「根性トレーニング二人。後は座学かな?」
全員「―――は?」
聞き覚えのない声がビターグラッセの方から聞こえてくる。その方向を向くと、グラッセが開くトレーニングノートを横から覗き見る紙袋を被ったウマ娘がそこに立っていた。
「.........?ああ、気にしなくていいよ。私はアレに頼まれただけだからね」
そう指を指した方向には切り株の穴の中に突き落とされそうになっているあの二人の男に桜木トレーナー。そしてそれを引っ張りあげようと頑張っている数人の紙袋を被ったウマ娘が居た。
唐突な展開に混乱があったけど、アタシは頭を振ってなんとか冷静になった。信用出来ない。その一言に尽きる。
ココン「何?何が目的なわけ?仲良しこよしするつもりは一切無いけど?」
「私も無いさ。ただ彼に言われてね」
ココン「それをバカ正直に受け入れたの?」
「ああ。[面白そう]だからねぇ」
全員「.........」
ゆらゆらと腕を振る特徴的な動きをしながらそう語る不審ウマ娘。訳が分からない。何故?え、何?何がしたいわけ?
何も分からない。何も.........
白銀「焼きそば屋〜。焼きそば屋だよ〜。今日は従業員居るからラーメンだよ〜」
ゴルシ「おう!今日のメニューはゴルゴル星人御用達の濃厚味噌醤油塩豚骨豚牛鳥魚野菜タンポポラーメンだ!!」
あまりの酷さに頭の痛さが加速した。なんなのこの空間?アタシらは一体どこで間違えたっていうの.........?
そんなアタシらを尻目に、紙袋を被ったウマ娘達がもう二人やってくる。
「あ?何やってんだゴルシ。お前も付けろよこれ」
ゴルシ「暑いんだよ姉ちゃん!!アタシは今猛烈なラーメンを作ってそれを映画のフィルムにするところなんだ!!」
「あ、そ。じゃあアタシもやる。面白そうだし」カポッ
ココン「っ、な、ナカヤマフェスタ.........!」
グラッセ「あれがチーム[リギル]の三冠バチームを打ち倒したっていう.........」
「おじじ〜!!!来たよ〜!!!ん?どうしたの?」
桜木「ソイツらに突き落とされかけたんだよ.........!!!クソッ、どうせ暇なんだろテメェら!!?」
神威「はァ!!?ど・こ・がァ〜!!?忙しまくりなんですけどぉ〜!!?」
黒津木「アイツ死にたいらしいっすよ?」
ウマ娘「.........」
状況が全く掴めない。追加で来た内の一人はラーメンを作る手伝いを初め出したし、もう一人はあの桜木を助けようとしてるし。そんでその桜木はまた叩き落とされそうになってるし。
たづな「ど、どうしましょう理事長.........?」
やよい「う、うむ.........」
―――以前から独自に練習を重ねている[ファースト]のメンバーが居ると聞いて、私達は隠れて様子を伺っていました。
そこへ最初に現れたのは何故か桜木トレーナーで、続々と紙袋を被った彼のチームメンバー。そして、いつものご友人達が集まって来て、後乗りする形でチーム[ファースト]のメンバーが来たのです。
彼女達も困惑しているでしょう。現に私達がこうして困惑してるんです。無理もありません。
やはり、ここは止めるべきでしょう。そう思い身体を立たせようとすると、理事長が私の袖を引っ張って止めました。
たづな「り、理事長.........?」
やよい「たづなよ。これは[賭け]だ」
やよい「[新たな風]。そして[古き良き空気]。そのどちらをも掛け合わせる事の出来る、唯一の方法」
やよい「.........彼に、[壊してもらう]ほか無い」
「この、[固定概念]に縛られてしまった[トレセン学園]を.........」
たづな「.........理事長」
―――彼女は不安そうな顔で私を見つめる。分かっている。そう上手く行く事など世の中には無いと。
だが私は知っている。私は学んだのだ。たった一年の[アメリカ研修]。風土を変えるのは[重鎮]でも、[新人]でも無い。[外部の人間]なのだと。
根本的に、彼は[外の人間]だ。このURAとの確執も、この学園の伝統も、レースにおけるジンクスすらも知らない。
例え知ったとしても、懐疑的。それこそが重要なのだ。それは本当に存在するのか?そういう視点が.........
私にはそれが出来ない。この学園の理事長になろうとしてなってしまった私には、どんなに破天荒を気取ろうにも、その基準は常識。固定概念に過ぎない。
やよい(.........君には、多く背負わせてしまっているが)
桜木「っ、あァ!!?パスタの次はラーメンか!!!焼きそば専門店辞めちまえッッ!!!」
白銀「はァ?アイツ勘違いしてね?」
ゴルシ「調子乗ってねじゃね?今使う言葉は」
やよい(君が背負い切れない分は、必ず私達が背負って見せるからな)
未だ争い続ける彼等。どうしようもないくらいにふざけた空間の中に居ながらも、彼の目は今日一番の気力が籠っていた。
私は彼のその目に恥じないよう誓いを立てながら、彼等が解散するまでの間を見守るのだった.........
......To be continued