山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
「―――[アグリモケット]」
―――と、さっきは意味ありげに名前を言ってた理事長だったけど、今はどうだろう?
「みんな〜〜〜!!!来てくれてありがと〜〜〜!!!」
「うおおおおおおお!!!」
やよい「うおおおおおお!!!」
デジ「うおおおおおお!!!」
アグリ「うおおおおおお!!!」
凄い熱狂してる。俺をおいてけぼりにして。本当に酷い。俺は誘われた身なのに。何一つ配慮してくれない。本当に悲しい。
観客全員が参加しているが俺だけがこんな感じだ。もう居ないと言っても差し支えない。俺だけが居ないライブ。圧倒的疎外感。
デジ「ちょちょちょ!!何ぼーっとしてるんです!!?ハイセイコーさんのライブですよ!!?人生で一度あるかないかの生ライブですよ!!?」
桜木「騒がしいのは苦手なの」
デジ「はァ!!?どの口がァ!!?あんなチーム作っといて!!?あんな交友関係で!!?」
罵られた。しょんぼり。
だが事実、俺はこういう流れに身を任せて騒いだりはしゃいだりが出来ない。どうしても自分を俯瞰して見てしまうのだ。
そして俺が乗ってる時は大体他の人とタイミングが合わない。例えば。
桜木「っ!おお.........!!!」
デジ「!ふふ、ようやく伝わりましたかっ!伝説のアイドルの姿が.........!!!」
桜木「ああ、あんな凄い動きをしたのに、伝わってくるのは感情表現だけだ。演技力が半端ない上に、自然体で居る.........!!!」
「.........」シーン…
桜木「.........え?」
そう。こうなる。だってそうだろう?彼女のアイドルとしてのスキルは兎も角、[アスリート]としてのスキルは凄まじい物を感じる。
普通、アクロバットを目の前でされれば人は圧巻される。あんな動きは出来ない、と。そこには驚愕こそ生まれど、共感性を産まない。つまり、演技力など必要の無い部分。
そこに何か一つでも、誰かが感情を想起させる事が出来たのなら、それは正しく[自然体]。素晴らしい[強者]にしか出来ない動きなのだ。
それに感嘆しただけでデジタルは(始まったよ.........)と、呆れた視線を向けた。心の中ではまた空気の読めない俺。というコイツの記憶の俺が幾度もフラッシュバックしているのだろう。やるせない。
アグリ「.........ふふふ」
桜木「?」
アグリ「ごめんなさい。視点がトレーナー的過ぎたので.........」
クスクスと笑いを堪えるアグリモケットさん。どうやら相当ツボに入ったようで、暫くの間は俺の顔を見ては苦しそうにと笑いを堪えていた。
そして、ハイセイコーのライブは午前10時から午後の6時まで、休憩を挟みつつもかなりの長い時間続いたのであった.........
ーーー
まばらに散っていくライブ参加者達。俺達もその例に漏れず、帰路へ立とうとしていた。
立とうとして居たのだが、理事長がハイセイコーに挨拶をしに行くと言って一人控え室へ行ってしまったのだ。
デジタルは先程までのライブで汗はダラダラ涎はてろてろ。それはもうすごい有様だった。
デジ「まさかハイセイコー様のライブを見られるだなんて.........!!!生きてて良かった〜〜〜!!!」
大袈裟に泣きながらデジタルははしゃいでぴょんぴょんしていた。こういう姿を見ると、やはり年相応の子だと思える。
そう思えてしまうばかりに、彼女に抱えさせた悩みの原因である自分に不甲斐なさを感じてしまう。
売店でハイセイコーグッズを漁りに行くと飛び出して行った彼女を、俺達は見送った。
アグリ「ふふ、デジタルさん。本当に楽しんでましたね」
桜木「え、えぇ.........最近はこんな顔、見せてくれなかったんで、安心してます」
アグリ「.........[アオハル杯]。ですもんね」
桜木「.........?」
彼女は、アグリモケットさんは独り言のようにそう呟いた。その時、良くは見えなかったが自分の脚を撫でたように見えた。
何があったのか。聞く訳には行かない。デリケートな話だ。踏み込みたくはない。そう思い、思考を巡らせている内に彼女と目が合ってしまった。
アグリ「あ.........やだ、私ったら.........」
桜木「あ、いえ!こちらこそすいません。その.........[アオハル杯]の事、知ってるんですか.........?」
気まずくなって、捻りに捻り出した言葉がそれだった。話題を変える事も出来たんだろう。でも、どうしても頭に残ってしまったそれをつい、口に出してしまった。
アグリ「.........知っていますよ。良く」
俺の心境など気にしない様に、彼女は懐かしむような目で、今度は確かに自らの脚を見た。そしてその目線を上に向け、静かに目を閉じる。
アグリ「桜木さんは驚くかもしれませんけど、私。樫本トレーナーの担当だったんですよ?」
桜木「.........ヱッ!!?」
アグリ「ふふふ♪」
彼女はまるで悪戯に成功した子供の表情で笑って見せた。口元に手を添えてクスクスと笑う彼女は少し、若々しかった。
アグリ「樫本トレーナーだけじゃありません。沖野さんも、東条さんも、黒沼さんも、東さんも.........皆、樫本トレーナーが率いるチームのサブトレーナーでした」
桜木「嘘でしょ.........?」
俺は流石に片目をヒクつかせた。世間が狭すぎるからだ。人生ってのはオープンワールドゲームなのかと思っていたが、実態はびっくり箱だったらしい。
俺の驚いた顔にクスクスと笑いを零しながら、彼女は静かに語り始めた.........
ーーー
あれは、十数年も前の事でした。
当時、学園の一大イベントとして名を馳せていたのはトゥインクルシリーズではなく、[アオハル杯]でした。
チーム[ピスケス].........それが当時のチームの名前でした。
『樫本先輩っ!![アオハル杯]に出れるって本当ですか!!?』
『はい。チームも大きくなりましたし、申請も通りました』
当時、まだ若手だった沖野さん達は手を叩いて喜んでいました。それほど、[アオハル杯]は大きな催しだったんです。
ここで活躍すれば、早く一人前になれる。トレーナーとしてはきっと、凄く大事なイベントだったと思います。
そしてそれは、私達にとっても.........
『トレーナー!!今日の練習を見て思ったんですが、短距離チームの安定感がまだ足りてないと思います』
『そうですか.........私にはそう思えませんでしたが、実際に走るウマ娘から見たらそうなのでしょう。分かりました。夜間練習を施します』
『あ、いえ!大丈夫ですっ!私に任せて下さい!!トレーナーはレースの調整もあるんですから!!』
『!.........分かりました。では、お言葉に甘えましょう』
あの日。チームの皆は仲間でした。対等で、気を使わずに思った事を。できる事。やりたい事を伝える事が出来ました。
分からない事をサブトレーナー達に聞いて、それを短距離や他の距離の子達に伝える.........チームは順調にアオハル杯を勝ち上がって行きました。
でも.........
『―――ぁ』
『っっ!!?アグリモケットッッッ!!!!!』
ここで勝てば、決勝に上がれる。そんなレースの最中、私は倒れてしまったんです。第3コーナー。そこを曲がりきれずに.........
幸い、一命は取り留めましたが、私は走る所か、歩く事すら難しくなってしまった。
『.........ごめんなさい』
『あ、頭を上げてください!トレーナーのせいじゃ無いですよ!』
『いいえ.........これは.........私が招いてしまった事.........私の、落ち度です.........!!!』
お見舞いに一度来て、それ以来あの人は.........トレーナーさんは私に姿を見せませんでした。
沖野さんはトレーナーを一度辞めて、私の為に色々頑張ってくれたんです。走れるまで行かなくても、この足で歩ける様にって.........
ーーー
アグリ「.........あ、ご、ごめんなさい。私ったらこんな.........」
気まずい事を話してしまった。彼女はそう思ったのだろう。眉を下げて困った表情で謝った。
その顔が何だか.........あの子に、マックイーンに見えて俺は、とことんバカな奴なんだなと自分を嘲た。
桜木「良い話が聞けましたよ。俺自身、この[アオハル杯]に個人的な目標なんてありませんでしたけど」
「やる気、出てきました」
アグリ「え.........?」
―――そう言って彼は、デジタルさんを迎えにこの場を離れた。そう言い切った時の目は、ライブの時の生気の籠っていない物じゃない。
もっとこう、[熱い何か]を迸らせていた.........
ーーー
沖野(はぁ.........ようやく解読出来た.........)
休みのトレセン学園。夜遅くまで残ってまで何をしていたのかと言うと、俺は桜木が作ったトレーニングの内容を事細かく分析していた。
何故これなのか。何故このタイミングで。何故このウマ娘に。その全てを探れば探るほど必ず理由が隠れている。それを全て把握するのに時間が掛かってしまった。
チームルームの鍵を閉め、外靴に履き替えて学園を出ると、そこにポケットに手を突っ込んだアイツが何の気なしに立っていやがった。
桜木「あ、沖野さん。ども」
沖野「おま、桜木.........何やってんだ?」
桜木「沖野さんこそ、こんな夜遅くに、しかも休みの日に。そこら辺のリーマンより社畜してますね」
沖野「言ってろ.........」
コイツはケロリとした顔で嫌味を言ってきやがった。前々から思っていたが、サブトレーナーだった頃から俺への敬意が薄い気がするのは気の所為か?
自分の現状を客観的に指摘されてげんなりしていると、アイツはポケットから手を出して親指である場所を指し示した。
桜木「久々に話しません?何出されるか分かりませんけど」
沖野「おいおい.........」
指し示した場所は最近出没している謎の屋台。[焼きそば専門店:星の白銀]と銘打たれた看板を掲げているそれだ。
俺は正気を疑った。なんせ出してくる料理が毎度分からないからだ。聞いた話じゃ白湯だけ出されたなんて事もある。ギャンブルだ。引き受けて良い案件じゃない。
沖野「わ、悪いな。実は昨日の作り置きがまだ.........」
桜木「.........ふ〜ん?作り置き。作り置きねぇ?」
沖野「な、なんだよ.........?」
桜木「昨日学園にいた時間は16時間。朝6時から夜の10時まで学園に居て作り置きねぇ?」
腕を柔らかい所作で組みながら顎に手を当てて分かりきったような目で探ってくる桜木。トレーナーは担当に似るという事もあるが、まるでタキオンを相手にしてるみたいだ。
結局、コイツはニヤニヤとした笑顔を浮かべながら俺の回答を聞くまでもなく、屋台の方へ向かって行く。
沖野「.........だぁぁぁ!!!クソっ!!!」
ここで帰っちまえば後味が悪い。仕方無く。本当に仕方無く俺はコイツに着いて行くことにした。
屋台の方へ近づいて行くと、優しい匂いが鼻をくすぐった。湯気が立ち上るそこに腹立たしい事に期待してしまう。
俺は息をのみ、暖簾を潜って中の様子を伺った。
沖野「おぉぉ.........!!!」
白銀「らっしゃい」
立ち上る湯気の正体。それはおでんだった。屋台の真ん中でグツグツと煮え滾るそれを見て俺は酷く安心し、席に着いた。
白銀「焼きそば専門店星の白銀。今日はおでんだ」
桜木「へぇ。星の白銀ってそのまま読むんだ。スタープラチナかと思った」
白銀「はぁ?お前勘違いやば。病院行きな?」
桜木「大将。適当に乗せて。あと熱燗。二人分ね」
沖野「お、おい。酒は流石にダメだろ?」
白銀「許可取ってるから。舐めないで」
沖野(取れたのかよ.........)
奥で沸騰している鍋の中から熱燗を取り出し、俺達の前へ置く。白銀からおちょこを貰うと、桜木が俺のに注いだ。
沖野「っとと、悪いな.........ずず」
桜木「じゃあ俺も、ずず.........」
.........静かな時間だった。いつになく静かで平和な時間が、熱燗が喉を通り抜けるまで続いた。
穏やかな空気を味わっていると、不意に桜木が話を切り出した。
桜木「今日、理事長に連れられてハイセイコーのライブに行きました」
沖野「おお、すごいじゃねぇか!中々取れねぇんだぞチケット!」
桜木「そこで会ったんです。[アグリモケット]さんに」
沖野「.........!!?[グリ]に会ったのか!!?」
桜木「?[グリ]〜?ふぅ〜ん?」
沖野「やべ.........」
出てくるはずの無い名前に動揺してつい口走ってしまった。コイツはまた気持ちの悪いニヤつき顔で俺の方を覗き込んできやがる。
自分の失態に頭を抑えながら弁解をした。
[アグリモケット]は.........俺が初めてスカウトし、担当になったウマ娘だった。
それと同時に、樫本理事長代理。あの人がチーム[ピスケス]を立ち上げた。そのチームのサブトレーナーに誘われ、俺とアグリモケットはチームの初期メンバーだった。
当時はアオハル杯全盛。チームの設立も今以上に厳しい条件で、GIを三勝。それもそれぞれ別のウマ娘で勝たせなければならない。という過酷な条件だった。
ただベテランになるだけでは、チームは設立出来ない。それほど、チームというのは当時のトレーナー。そしてウマ娘にとっては.........輝かしい物だったんだ。
桜木「.........だから、トレーナーを一度辞めたんですか?」
沖野「そんな事まで聞いたのか?相変わらず、お喋りが大好きだなぁ、アイツ」
沖野「.........そうだよ。初めての担当。GI何て掲示板にも入れなかったけど、重賞を何度か勝ってくれたんだ」
沖野「.........今にして思えば、恩返しだったんだな。きっと」
桜木「恩返し.........」
懐かしい思い出を振り返りながら、グズグズになった大根に箸を入れて口に入れた。出汁の効いた汁が染み込んでいて、それを熱燗で流した。
そうだな.........今思い返せば.........皆若かった。
沖野「それからだった。アイツが怪我をしてから、俺達はバラバラになっちまった」
沖野「ハナさんはデータを信じて、黒沼は自分の心を鍛え直す為に海外に。東は、二の鉄は踏まない様なチームを目指す為に独立した」
沖野「それで樫本理事長.........[先輩]は、[URA委員会]に移籍し、[アオハル杯]をとり潰した」
桜木「.........」
あの時の通達に、反論できる者は居なかった。[アグリモケット]の惨状を振り返れば、口を閉ざざるを得なかった。
[アオハル杯]が無くなった事でチームの存在意義がほとんど意味を失った。その結果、チーム結成の縛りが緩くなったお陰でチームが乱立。
アグリモケットの身体の調子が戻っていくのと同時に、俺もトレーナー復帰を目指し、最初は古賀さんの所で講師として務めていた。コイツとの出会いは、そん時だった。
沖野「.........お前の事だ。その話聞いて、何もしないって選択肢。無いんだろ?」
桜木「.........」
沖野「夢を追うウマ娘を助ける為にトレーナーになった。だから、夢を追うトレーナーを助けたって良い。そう言う奴さ。お前は」
桜木「はぁ、なんもかんも、お見通しっすね」
照れくさそうに笑いを浮かべておちょこに入った酒を一気に煽る。酔いが回ってきたのか、お互いに赤い顔をしながらおでんを頬張る。
沖野「.........俺ぁこうして、誰かと呑気に飯を食える時間が好きなんだ」
沖野「お前さんはやりたいようにやれ。俺が支えてやる」
桜木「沖野さん.........」
桜木「じゃあ一個頼みたい事あるんですけどいいです?」
沖野「.........お前な」
ーーー
マック「は、ハイセイコーさんのライブに行ったのですか!!?」
能面「らしいな」
花道「そんなに凄いんですか?ハイセイコーさんって」
休日、彼の家でお茶菓子と紅茶を楽しんでいるととんでもない情報が叩き落とされました。
[ハイセイコー]さん。[怪物級アイドル]の肩書きのその通り、長年その業界を牽引する大きな存在。
ライブチケットは毎回開始数分で完売。現地グッズもライブが始まる頃には在庫切れと、ありえない程の人気を放つ存在。
私自身、まだライブには行ったことがありません。
マック「な、なんで言ってくれませんでしたの!!?」
桜木「いや、理事長に誰にも言うなって言われて呼び出されて.........」
マック「そ、それはそうですけど.........」
こういう、彼の律儀な所を見せられると弱いです。本当に困った人です!そんな申し訳なさそうな顔をしても許してあげませんっ!
マック「.........それで?リフレッシュにはなりましたか?」
桜木「う〜ん.........なんとも言えないかなぁ」
マック(.........でしょうね)
紅茶を一口含めながら、私は彼の姿をじっと見ました。こうして会話をしていながらもどこか落ち着かない。そんな様子を見せる彼に、私自身焦りを感じています。
もう、それほど時間は残されていないのではないか。何の確証も無い不安が先行し、焦りを誘発させる。悪循環が発生してしまっている。
強いて良かった事をあげるとするならば、アグネスデジタルさんが前向きになってくれた事でしょう。
少し前まで、トレーナーさんの状態を知ったあの時はご自身の好きな物にすら反応を示さなかった彼女でしたが、今では以前と同様。今日は趣味にひたむきに向き合う休日を過ごしています。
マック(そして何より.........)
桜木「.........?」
彼自身、[アオハル杯]に対して何かしらのモチベーションを得た事です。現状の状態は変わらないまでも、彼の姿勢に微々たる変化が起きた事は分かりました。
しかし、肝心の彼のやろうとしている事。それを把握する事が出来ていません。
一体、彼は何をやろうとしているのでしょうか.........
能面「.........ククク」
桜木「?何だよ」
能面「いや何。俺と違って随分バイタリティに溢れていると思ってな」
桜木「.........そうか?」
能面「向こう2、3年は満足に働けなくなった物だ」
彼も紅茶を窘めながら、懐かしむ様にそう呟きました。
未来のトレーナーさんである彼が、[違う]と言ったのです。それに安心を感じながらも、拭いきれない不安が生まれたのも事実.........
果たして、この先どうなって行くのか.........それは、誰にも分かりませんでした.........
ーーー
桜木「ようし。全員集まったな」
ファースト「.........はい」
冷たい夜風が身体を冷やす。アタシ達は既に目の前に立つ男に対しての非日常感を持ち合わせる事なく向き合える程に、この奇妙な夜間トレーニングを続けている。
本当に不思議な奴。敵であるはずのチームなのに、率先してトレーニングを見てくれる。最初こそアタシ以外にも疑ってる子達も居たけど、今じゃ大人しくしている。
それほどまでに、コイツは.........人の心の中に入り込むのが上手い。
ココン(.........それに)
時折見せる真剣な目。それがアタシ達のトレーナー.........樫本トレーナーと重なって見える。
身体に負荷が強く掛かっていたり、怪我しそうになるとその目が現れる。この自主トレをトレーナーに見られたみたいで、正直心臓に悪い。
だからだと思う。他の子の警戒が解けてしまうのは.........
ココン「それで?今日は誰が手伝ってくれるの?」
グラッセ「私としちゃアグネスタキオンともう一回やりたいな!あの速さ、傍でもう一度見てみたいっ!」
桜木「盛り上がってる所悪いが、今日はトレーニングの前に皆に紹介したい人が居るんだ」
ココン「はぁ.........?」
突然、コイツはそう言い出した。今まで散々自分のチームのウマ娘に紙袋被せて、並走とか色々やらせてたのに、いきなり紹介とか言い出してきた。
流石にアタシらも身構えるけど、そんな事を気にも留めずに、コイツは声を背後に掛けた。
「っ、おいおい。本当に良いのか?たづなさんにバレたらヤべぇぞ?」
ウマ娘1「?この声.........」
ウマ娘2「す、スピカのトレーナーだよね.........?」
ヒソヒソと聞こえてくる声。木の影に隠れた人はどうやらチーム[スピカ]のトレーナーらしい。
でも、自分が隠れている感じはしない。言うなら、自分以外を木の影に隠している感じがする.........
桜木「やべぇも何も、夜に屋台来るのを許可してるんですから大丈夫ですよ。今更部外者の一人や二人くらい」
沖野「.........はぁ、相変わらず滅茶苦茶な奴」
アイツの言動に呆れた様子を見せながら木の影に隠れるスピカのトレーナー。
何をしているのか。そう思ったのも束の間、キコキコと変な音が聞こえて来る。
ようやく姿を表したかと思えば、スピカのトレーナーは車椅子にウマ娘を乗せ、まさかの登場をした。
ファースト「―――ぇ」
沖野「よう。俺は沖野。知ってるとは思うが、チーム[スピカ]のトレーナーをやってる。コイツはサブトレーナーだ」
「え?桜木トレーナーさんって、チーム[レグルス]のトレーナーじゃ無いんですか?」
桜木「兼任してるんです」
沖野「頭おかしいだろ?コイツ」
「.........ぷ、くふふ。やっぱり変な人ですね」
目の前で異様な光景が繰り広げられる。スピカのトレーナーが押してきた車椅子に乗るウマ娘と軽快な会話を繰り広げるアイツ。アタシらは完全に置いてけぼりになってしまっている。
そんなアタシらを見て、車椅子に乗っている人は申し訳なさそうに笑いながら頭を下げた。
「ごめんなさいね。急にこんなおばさんが来ても意味が分からないでしょう?」
ココン「え?いえ、その.........」
グラッセ「え、と。どなたですか.........?」
「初めまして。元チーム[ピスケス]。あ、今は[ファースト]でしたっけ?」
「エースを担当していました―――」
「―――[アグリモケット]と申します。よろしくお願いします♪」
......To be continued