山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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マックイーン「一着で待っててくださいね、トレーナーさん!」

 

 

 

 

 

桜木「.........おかしいな。誰も来ない」

 

 

 時計を見やる。既に本来のパーティ集合時間から30分は経過しているというのに、俺の親友やアグネスタキオンはおろか、マックイーンですら姿を見せはしない。

 一体どうする?まさか、この綺麗に飾った飾り付けと作ったご飯を床にぶちまけた方が良いか?巨人の星、した方が良いのか?

 先に空けたアルコール類をチビらと飲んでそう思っていた矢先に、ガラガラっと音を立てて扉が開かれた。

 

 

マック「あら、トレーナーさん?」

 

 

桜木「マックイーン!良かった.........誰も来ないかと思った.........」

 

 

マック「もう、まだ集合時間の30分前ですのに.........」

 

 

桜木「え?」

 

 

 困ったように笑うマックイーンを見て、まさかと思って携帯の方の時間を見ると、集合時間より30分前だった。

 誰だ。うちのチームルームの時計に細工した奴は.........容疑者は多いが、今日来るメンバーの中に六人いる。後で問い詰めよう。

 

 

マック「似合ってますわ。トレーナーさん。新しい服ですか?」

 

 

桜木「え?ああ、服なんか中々買わないけど、メディア露出を考えたら、少しはオシャレしないとと思ってな」

 

 

 自分のセンスを褒められて悪い気はしない。それが女の子で、しかもマックイーンからなら思わず照れてしまう。

 オレンジと白袖のラグランの上に、黒のノースリーブコートという格好。学生時代一番カッコイイと考えていた物だ。よくこの格好をしたヒーローが、カッコよくヒロインを助ける姿を妄想していた。

 

 

桜木「.........君に一番に見せたかった」

 

 

 想定外の寂しさに耐えられず飲んでしまった酒のせいだろう。普段は言わないような恥ずかしい事を口走ってしまった。

 

 

マック「まぁ.........ふふっ、そんなふうに言ってくださるのは光栄ですわ。ありがとうございます。トレーナーさん」

 

 

桜木「礼を言うのはこっちの方さ。デビュー戦一着。本当におめでとう」

 

 

マック「もう何度も聞きましたが.........トレーナーさんから言われるといつも嬉しいです」

 

 

 二人っきりのチームルーム。そういえば最近ではあまりそんな事は無かった。昼休みもトレーニングも、いつも他のメンバーがいてくれてる。

 前までは日課だった放課後の帰り道も、俺が図書室に籠るせいで、最近は一緒に帰って居ない。

 だから、目の前で俺に向けてくれる笑顔への耐性は、尽く下がっていた。

 

 

桜木「て、テレビでも付けようか!」

 

 

「先日行われたビクトリーズ対.........」

 

 

マック「まぁ!ビクトリーズ.........はっ!」

 

 

 テレビに映っていたのは野球の試合だ。それに嬉しそうに反応したマックイーン。もしかして、野球が好きなのだろうか。

 

 

桜木「野球好きなのか?」

 

 

マック「え、ええ.........観戦に行く程度には.........」

 

 

 それは結構好きに入る部類だな.........

 

 

マック「ト、トレーナーさんはどうですか.........?野球.........」

 

 

桜木「さっぱりだ。野球選手の名前を言われてもよく分からん」

 

 

マック「そ、そうなのですか.........」

 

 

桜木「けど、ビクトリーズに居るだろ?結構四球投げちゃう投手」

 

 

マック「ええ。確かにいますわね.........」

 

 

桜木「昔の動画で見た時に投球のキレが半端なくってさ。その人の事は応援しちゃうんだよな」

 

 

マック「本当ですか!?」

 

 

 溢れる興奮を抑えられず、立ち上がるマックイーン。耳はピンと上を向き、しっぽはちぎれんばかりに振られる。

 けれど、その気持ちはよく分かる。好きな物を他の人に好きと言われる気持ちは、凄くわかる。

 

 

桜木「この前球速160km以上出してたし、あとはコントロールだけだよなー.........」

 

 

マック「ええ!ええ!!本当にその通りですわ!!彼のコントロールさえ取り戻せば!!ビクトリーズは常勝間違いなしです!!向かう所敵無しですわ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かんぱーーーい!!!」

 

 

 複数のグラスがぶつかり合い、甲高い音をチームルーム内に響き渡らせる。

 メンバーはチーム[スピカ:レグルス]の全員。俺の親友達。そして[スピカ]のくじ引きで見事勝利をもぎとり、代表として参加しているゴールドシップだ。

 

 

ゴルシ「遂にマックイーンもデビューかー!!!うぅ、こんなに大きくなっちまって.........!!!」

 

 

マック「あなたは私の母親ですか.........」

 

 

黒津木「んなことより早く!!録画!!録画を見せてくれ!!俺まだ見てないから!!」

 

 

 食い物にも飲み物にも見向きもせず、黒津木は番組の録画放送を催促してきた。偉いな、今日の為にまだ一度も見てないのか。

 

 

桜木「んじゃあ早速流すか!!」

 

 

ウララ「あ!!ウララがつけてあげるね!!」

 

 

 そう言いながらテレビのリモコンを操作し、一番上にある録画再生の一番上を再生させた。

 

 

「メイクデビュー!!華々しい初戦の勝利を勝ち取るウマ娘は、一体誰なのか!!」

 

 

タキオン「いやー、この目でしかと見ていたけど、マックイーン君の走りはやっぱり.........」

 

 

黒津木「やめて!!ネタバレ禁止ッッ!!!」

 

 

ブルボン「マスター。彼から不可解な視線を感じます」

 

 

ゴルシ「何ィ!?」

 

 

白銀「だってπが.........」

 

 

 ガララッ!

 

 

たづな(ニッコリ)

 

 

桜木「いいっすよ」

 

 

白銀「あがァァァァッッ!!!??ダブルアームロックゥゥゥッッ!!!??」

 

 

 ゴールドシップとたづなさんの協力技。ダブルアームロックが炸裂している。これは両腕逝きましたね(確信)

 なぜわざわざたづなさんが駆けつけてくれたかと言うと、それは前もって俺がお願いしたからだ。休みという訳で酒を飲みたいという白銀に飲ませた交換条件。それがこれだ。

 ちなみに、コイツに乱暴していい理由はゴールドシップがいる部屋は必然的に無法治国家ゴルシランドトレセン学園になるため、暴力は許されるらしい。一体どこの北斗の拳なんだ.........

 

 

神威「ほら、お弁当付いてるぞ、ウララ」

 

 

ウララ「んん!ありがとう!!」

 

 

ライス「ウララちゃん、いっぱいあるから。焦らないで?」

 

 

「それでは次に、会見インタビューが行われます!」

 

 

桜木「お、ついに来たな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「メジロマックイーンです。よろしくお願い致しますわ!」

 

 

 マイクを持ち、堂々と自分の名前を言い切るマックイーン。こういう場でも、彼女のその凛としたというか、落ち着いてる態度がとても頼もしい。下手な事は言わなくて済むかもしれない。

 目の前にはテレビの人以外にも、多くの雑誌や新聞記者さん達がメモとボイスレコーダーをその手に持っている。まさか、今更メディア露出をする仕事が出来るとは考えていなかった。

 

 

「メジロマックイーンさんはかの名門。メジロ家のご出身でいらっしゃいます!今後のご活躍も期待してよろしいでしょうか!」

 

 

マック「ええ、勿論です。今回は目標に向けて初めてのレース.........手を抜いたりは致しません。私の走り、ぜひその目に焼き付けてくださいませ」

 

 

「おーーー!!!」

 

 

 多くのカメラのフラッシュが焚かさる。サングラスを付けてきてよかった。

 .........それにしても、長いようで短い時間だったな、デビューまで.........当初の予定より大分時間を巻いてしまったが、マックイーンなら問題なくレースを勝てるだろう。今後の彼女の活躍について目を瞑って妄想していると、脇腹にちょっと強めの衝撃が走った。

 何かと思い、隣を見てみると、マックイーンがこちらを睨んでいる。可愛い.........じゃなくて、一体どうしたんだ?

 

 

「あの、トレーナーさんの方も、何か一言.........」

 

 

桜木「え!?あ、えーっと.........」

 

 

 まずい、俺も何か言わなきゃなのか!?そんなの1ミリも考えてなかった.........どうしょう。

 ええい!こうなりゃヤケだ!!

 

 

桜木「ジャックポットは狙うべきものじゃない。それだけです」

 

 

「.........」

 

 

マック(それでは分かりにくいですわ.........!!)

 

 

桜木(悪い!!まさか何か言うとは思わなくって.........!!)

 

 

 会場はシーンと静まり返った。先程までまるでお祭り騒ぎのような賑わいだったのに、

 

 

 .........す

 

 

 どうしよう。汗が止まらない。泣きたくなってきた。ごめんよマックイーン.........大事な初のインタビューなのに、台無しにしてしまった.........

 

 

 す.........す.........!!

 

 

 滑り出しが肝心だ。それはレースじゃなくてファンに対する心象でもそう。いくら勝ちを続けて行ったって、印象が悪ければ意味が無い。本当にごめ.........

 

 

 素晴らしいですッッ!!!

 

 

全員「!!???」

 

 

「ジャックポットは狙うべきものじゃない!!それはつまり!大当たり、一着を予想するべきじゃないという事!!!」

 

 

「全ての走るウマ娘を平等に愛でてこそ真のファン!!!私、感っっっ服致しました!!!!!!!!!!」

 

 

 最前列に居た記者の一人。ネームには乙名史と書かれた女性が恍惚とした表情でその瞳をキラキラと輝かせていた。

 いや、そんな事はどうでもいい。俺は初めて人に、俺の例えを理解された。いや、口ぶりからしてマックイーンも理解してくれてはいたんだろうが、こんなに全肯定してくれる存在は初めてだ。いけない、これ以上ここに居るとまた変な事を言ってしまいそうだ。

 

 

桜木「自分からは以上です」

 

 

「あ、ありがとうございましたー.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルシ「わけわっかんねぇ」

 

 

 お前だけには言われたくない言葉第一位だそれは。ゴールドシップは美人の顔を台無しにするようにベロンと舌を出しながらそう言った。

 他の連中はそれほどまででは無いが、やはり俺の発言がよく分からなかったようで、首を傾げたり苦笑いを浮かべていた。

 

 

ブルボン「提案なのですが、マスターの難解な比喩表現の説明を行った方が、より多数の支持を得られると思います」

 

 

桜木「いやいや、俺が勝手にそう思ってるだけなんだよ。別に他の人に理解されたくて言ってる訳じゃないんだ」

 

 

 わざわざ手を挙げて発言してくれたブルボンには申し訳ないが、理解されたくて発言している訳じゃないんだ。

 これは俺が勝手にそう信じているだけのこと。ブルボンの『彗星』の事もそうだ。俺がそうなると信じ込んでいるだけであって、それを押し付けようとしてるわけじゃない。

 

 

神威「まぁ、玲皇の語学センスに理解を示す人なんて初めて見たけど、見るからに変人だよな」

 

 

黒津木「お似合いってやつだ」

 

 

マック「な!?わ、私ももちろん!!理解していましたわ!!!」

 

 

 ウララとライスの世話をしながらそういう神威。ビールをカラカラさせている黒津木。机を叩き勢いよく立ち上がるマックイーン。場は混沌としてきている。

 

 

桜木「ま、会見インタビューはもれなく大成功だったって訳だ!」

 

 

マック「.........ふふっ」

 

 

桜木「ちょっと」

 

 

全員「?」

 

 

 マックイーンが隠すように笑いを堪えたが、それが思わず漏れだしてしまった。笑った理由はもちろん分かる。だけどそれは言わないで欲しい。

 

 

マック「実は.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ごめんよぉぉぉマックイーン!!!!」

 

 

 控え室に戻った後、トレーナーさんは私に向かって頭を下げました。

 いえ、これは正しい表現ではありません。土下座です。それは見事で完璧な土下座でした。思わず拍手を送ってしまいたい程に美しい土下座。

 

 

マック「トレーナーさん!!頭を上げてください!!」

 

 

桜木「俺はもう少しで君の晴れの舞台をぶち壊す所だった.........!!」

 

 

 情けない。情けないですわ、トレーナーさん。普段のあなたならあんな事を言っても、堂々としているはずですのに.........

 これでは埒が明きません。そう思った私は未だに顔を地面につけているトレーナーさんの身体を無理やり立たせました。

 

 

桜木「マ、マック.........!?」

 

 

マック「いいですか!!!あの程度で私の評価が正当にならなくなるほど、私は弱くはありません!!!」

 

 

マック「堂々としてください!!!私のトレーナーともあろう方がそんなにオロオロとしていては、逆に迷惑です!!!」

 

 

 私は自身の両手でトレーナーさんの顔を、自分の顔に引き寄せました。最初は酷く泣きそうだった目も、叱っている内に段々といつものトレーナーさんに戻ってきました。

 

 

桜木「.........ごめん。マックイーン」

 

 

マック「謝罪はもう結構です。ピシッとしてくださいまし」

 

 

 もう心配はないと思い、彼から手を離しますと、いつものように優しい笑顔で謝ってこられました。もう、本当にそういう所です。私は逃げる様に彼のネクタイを結び直しました。

 

 

マック「あ、あら?上手く行きませんわね.........」

 

 

桜木「大丈夫?」

 

 

マック「こ、これくらいどうってことありません!メジロのウマ娘として、人のネクタイを結ぶことなんて造作も.........」

 

 

 以前、実家で教えを受けた時は造作も無かったのに、何故だか彼の前だと上手く出来ませんでした。

 そんなこんなで苦戦を強いられていると、彼は片方の手でネクタイを入れる穴を指し、もう片方の手で入れるべき先端を触りました。

 

 

マック(.........本当に、不器用な人ですわ.........)

 

 

 結局、彼は私の不格好なネクタイ結びに付き合ってくださいました。自分でやると言ってしまえば、そんな時間はかからずに済んだのに.........彼は、私のしたいことを尊重してくれたのです。

 

 

桜木「上手だなーマックイーン。ありがとう」

 

 

マック「もう、そんなこと言わないでください.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀「ハッハァ!!教え子に叱られてやんの!!」

 

 

桜木「ぐぅ.........!何も言い返せん.........!」

 

 

 高笑いを教室中に響き渡らせる白銀さんに対して、トレーナーさんは目を背け、持っているグラスを悔しそうに強く握り締めました。

 

 

黒津木「コイツ、外面良くしようとすっからなぁ。遠慮なく堂々としてりゃいいのに」

 

 

マック「本当です。私のトレーナーさんなんですから、しゃんとしてください」

 

 

桜木「面目ない.........」

 

 

 申し訳なさそうにトレーナーさんは頭を下げました。いつも堂々としていれば、カッコいい人なのに.........

 

 

タキオン「それで?どんな感じで怒ったんだい?」

 

 

二人「へ?」

 

 

 思わず拍子抜けした声が漏れてしまいました。トレーナーさんも同じように。タキオンさんの方を見て目を見開いています。

 どんな風にと言われましても、こう.........待ってください。これ、実は結構恥ずかしい事をしてしまったのでは.........?

 

 

マック「こ、こんな感じですわ.........」

 

 

桜木「.........」

 

 

 改めて考えると、殿方の両頬を引っ張って持ってくるなんて、これではまるで.........キ、いえ、考えません。確かこの距離です。私は間違っていません。

 

 

桜木「.........その、非常に言い難いんだが.........」

 

 

マック「な、なんでしょうか?」

 

 

桜木「.........もっと近かったぞ」

 

 

マック「へぇ!?」

 

 

 そ、そんなはずはありません!!現にこれが限界です!!これ以上近付けたら.........

 しかし、記憶を辿ってみると、確かにこれ以上の近さだったかも知れません。お互いの目の虹彩が分かるほどの距離だった気が.........

 ひたり、はて?なんの音でしょう.........?

 

 

桜木「.........おでこまでつけてたぞ、あの時」

 

 

マック「はわ、わわわ.........私.........なんてはしたないことを............!!???」

 

 

 ガララッ!

 

 

桜木「ん?」

 

 

たづな(ニッコリ)

 

 

桜木「うげェェェェッッ!!!??アームロックゥゥゥッッ!!!??」

 

 

タキオン「アッハッハッハ!君達を見ているとこう、何か気持ちを満たされる成分が分泌されるねぇ!」

 

 

 うぅ、メジロのウマ娘ともあろうものが、トレーナーさんと.........と、殿方とそんなに密着してしまったとは.........!

 

 

桜木「レース!!レースが始まるから.........!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........」

 

 

桜木「緊張してるのか?」

 

 

マック「ええ、ですが.........良い緊張ですわ」

 

 

 ほの暗い地下バ道。自分の背丈よりも小さい彼女をみると、緊張のせいか、額に汗が滲んでいる。やはり、彼女はアスリートだ。そんな姿も様になっている。

 着ている体操着は見慣れない。普段はジャージで練習しているせいだろう。なんだか慣れないから、じっと見つめてしまう。

 

 

マック「.........心配、ですか?」

 

 

 まさか、そんなわけないじゃないか。目の前の彼女は困ったように眉を八の字にし、笑っていた。

 ジャックポットは、狙うべきものじゃない。そう宣(のたま)った俺が、一番に信じているのはマックイーンだ。発言に責任が持てないとか、そんなレベルじゃない。

 

 

桜木「ははは.........今の君を心配するなら、俺はこれから何を信じればいいんだろうな」

 

 

マック「もう、そういう時は素直に、信じていると一言くださってもよろしいのでは?」

 

 

 こちらを見ながら頬を膨らませるマックイーン。最初に会った時は、もう少しクールなお嬢様かと思ったけど、表情豊かなのも可愛らしい。

 .........そうだな。今日くらい、素直で居よう。神様だって、それくらい許してくれるはずさ。

 

 

桜木「マックイーン。ここから先は、君の戦いだ。俺には君を、応援する事しか出来ない」

 

 

マック「トレーナーさん.........?」

 

 

 隣で歩くマックイーンの両肩を優しく掴んだ。少し驚いた様子で俺の顔を見上げるマックイーン。

 少しだけ、屈んでみる。一度は体験している159cmの目線の世界のマックイーンはやはり、159cmだった俺より遥かに大人びている.........

 けれど、同じ子供だ。子供が掛けられて一番喜ぶ言葉は、きっと通じる筈だ。夢を背負って羽ばたく君には、きっと理解出来るはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ってこい、マックイーン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一着で待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........ふふっ」

 

 

 少しの間、見つめ合っていた視線をマックイーンは下に外し、その口元に手を添え、上品に笑った。

 

 

マック「.........ええ、必ず迎えに行きますわ。トレーナーさん.........だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一着で待っててくださいね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今スタートしました!!」

 

 

ウララ「すごーい!!マックイーンちゃん先頭だー!!」

 

 

ブルボン「分析の結果。コースのバ場状態、天候の状態共に良好。出場者の能力値を参照するとマックイーンさんの勝率はむぐ.........?」

 

 

ライス「ダメだよブルボンさん!保健室の先生がネタバレは良くないって.........!」

 

 

 頬杖を付きながらマックイーンのメイクデビューのレースをもう一度見る。ああ、恥ずかしい事を言ってしまったものだ。けれどここでまた恥ずかしがれば、また怒られる。堂々としていよう。

 マックイーンのレースの展開は先行で行った。これから彼女の王道を切り開いて行く走り方だ。それでも、彼女は先頭集団からひとつ飛び抜けて走っている。逃げてる訳では無いのに逃げてるようだ。

 

 

黒津木「身体の動きが他の子より柔らかい。無理せず動かせてるから、スタミナ消費量は必然的に抑えられてんのか.........」

 

 

タキオン「それだけじゃないよ。それをしながらスピードを出すなんて言うのは並大抵の事じゃできない。ぜひご教授願いたいものだねぇ」

 

 

マック「これも日々の鍛錬の賜物.........トレーナーさんのおかげですわ!」

 

 

桜木「そんなに俺の事よいしょしなくていいよ.........」

 

 

 はははと乾いた笑いをしながら、テレビで走るマックイーンの姿を見る。やっぱり、テレビで見るより実物を見た方が何倍も良く見えるというのは本当らしい。

 

 

マック「.........?なんでしょう、なにか付いてますか?」

 

 

桜木「.........いや、テレビの映りの進化もまだまだだと思ってな」

 

 

マック「?」

 

 

 むぅ、俺はもっとこう、人に気付かれずに見ることが出来ないのだろうか。どうしても人に視線を気付かれてしまう。

 画面の中で走るマックイーンの姿は、やはり記憶の中ともまた少し違う姿をしている。

 

 

桜木(やばい、また泣きそう.........)

 

 

 それでも、想起させられるのはいつだって綺麗な思い出だ。最終コーナーを曲がっても未だに他の子を寄せ付けない。しっぽすら掴ませないその姿は正に、優雅としか言い様がなかった。

 

 

「さぁ直線に入った!!先頭は依然!!メジロマックイーン!!」

 

 

「残り200!!」

 

 

「メジロマックイーン!!脚色は衰えない!!」

 

 

「お見事!!メジロマックイーン!!着差以上の強さを見せた見事な勝利です!!」

 

 

「メイクデビューを制しました!!メジロマックイーンの完勝でした!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

マック「あの、トレーナーさん?」

 

 

桜木「ああ、マックイーン.........おかえり。お疲れ様」

 

 

 どうしたのでしょう。普段の彼であれば、もう少し嬉しそうにしてくれるのに.........

 そう思いながら、彼の顔を見てみると、その物静かさの理由が分かりました。

 

 

マック「.........えい!」

 

 

桜木「あ!!」

 

 

 背伸びをして、彼のサングラスに指をかけました。外されたサングラスの向こう側にあったトレーナーさんの目は、涙で濡れていました。

 まるで、そのひた隠しにしようとする姿が子供に見えて、思わず笑ってしまいました。いつもはどこか頼りなくて.........けれど、すごく頼りになるトレーナーさん。自分をダメなように演じているの。本当はバレてるのですよ?本当に、可愛い人です。

 笑ってしまった私に釣られて、彼も恥ずかしそうに笑いました。ふたりぼっちの地下バ道。今度はちゃんと、お互いの瞳で見合いました。

 

 

桜木「一着おめでとう。マックイーン」

 

 

マック「ありがとうございます。トレーナーさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メジロマックイーンさん!!初レース初勝利!!おめでとうございます!!」

 

 

「ええ、祝福の喝采。感謝致しますわ」

 

 

 カメラ写りは良好。バッチリです。これならお祖母様に見せても、何の問題もありませんわね!

 私は手元にある紅茶の入ったティーカップを持ち、一口飲みました。

 

 

ウララ「マックイーンちゃんカッコイイ!!」

 

 

マック「ふふっ、ありがとうございます。ウララさん」

 

 

「コメントありがとうございます!!ええと.........泣いているところ失礼します。トレーナーさん!」

 

 

「泣いてないでず.........」

 

 

 そういえば、会見の時も泣いていましたわね.........ふふっ、本当に困った人です。

 

 

白銀「泣wいwてwんwじゃwねwえwかw」

 

 

桜木「.........グズ」

 

 

白銀「.........え」

 

 

全員「え?」

 

 

 最前列でテレビを見ている彼の後ろ姿から、鼻をすする声が聞こえます。ウララさんが不思議そうな顔でトレーナーさんの方によると、一瞬だけ耳としっぽをピンとはり、彼の頭を撫でて席に戻りました。

 

 

マック(泣いてますわね.........)

 

 

 トレーナーさんのご友人三人は笑いそうになるのを必死にこらえています。いつも思いますが、失礼ではないですか?いくらご友人とはいえ、礼節を持って接するべきです。

 

 

ブルボン「マスター。目から出る水分量により、身体の水分不足が予想されます。早めの水分補給を」

 

 

桜木「うん.........ありがとねブルボン.........」

 

 

ブルボン「いえ」

 

 

 水を汲んだコップを手に持ち、ブルボンさんはトレーナーさんに差し出しました。表情からは読み取れませんが、ブルボンさんはお礼を言われて嬉しそうにしていました。

 

 

桜木「宗也」

 

 

黒津木「あ?」

 

 

桜木「泣くぞ?すぐ泣くぞ?絶対泣くぞ?ほら泣くぞ?」

 

 

黒津木「泣くわけな.........」

 

 

「響けファンファーレ〜♪」

 

 

黒津木「あ」ブワッ

 

 

タキオン「えぇ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ふわぁ〜.........」

 

 

マック「あら、大きいあくびですこと」

 

 

桜木「ああ悪い。なんか疲れちゃって.........走って踊ったのはマックイーンなんだけどな.........」

 

 

 彼の運転する助手席で、ミラー越しに彼を見ました。

 彼はそうは言いましたが、ここのところ何故だか働き詰めだったので、仕方ないと思います。最近では図書室に篭もりきりでしたし.........

 

 

マック「.........最近、忙しいのですか?」

 

 

桜木「.........うん。ちょっと調べ物をね」

 

 

 彼の視線と、ミラー越しに交差します。表情は変わりませんが、何かを焦っている。そんなふうに感じ取れました。

 

 

マック「.........トレーナーさんは一人で抱え過ぎです。タキオンさんとの喧嘩も、私達に話してくだされば、もっと穏便に済みましたのに.........」

 

 

桜木「ははは.........相談無くデビューを決めたのが行けなかったんだよ。タキオンには本当、申し訳ない事したなぁ.........」

 

 

 むぅ、トレーナーさんはたまに、自分の事を他人の様に扱います。無責任と言うか、とにかく私はそれが嫌です。

 高速道路を走る車の中は、静かなものです。ですが、不思議と悪い気はしません。なんだか、彼に包まれてるみたいで.........

 

 

マック(って、私は何を考えてるんですの!?)

 

 

桜木「マックイーン」

 

 

マック「ひゃい!?」

 

 

桜木「眠気がすごいから、音楽かけても良い?」

 

 

マック「ど、どうぞ.........」

 

 

桜木「ありがとう」

 

 

 そうお礼を言った後、驚かせてごめんねと彼は謝りました。一々気にせずとも良いのですのに.........

 ですが、なんだか嬉しい気持ちになりました。建前かも知れませんが、眠気を覚ますために音楽を掛けると言われ、決してこの静かな空間が嫌なわけじゃないのかもしれないと思いました。

 流された曲は聞き慣れているのでしょうか、彼は既にイントロの部分で鼻歌を歌い始めていました。

 

 

マック「.........いい曲ですわね」

 

 

桜木「だろ?俺も初めて聞いた時から好きなんだ」

 

 

 自分勝手に思い込んで、裏目に出ること。

 それを繰り返しながらも、今日より明日へ進んでいきたいと歌うこの歌は、歌詞もメロディも、心に優しさを灯してくれます。

 

 

マック「.........」

 

 

桜木「.........」

 

 

 ひとりじゃない。君が夢に変わっていく。

 曲がサビに入っていくと、彼と私の雰囲気も変わりを見せます。

 お互いにもう一度、ミラー越しに視線を交わしました。

 ひとつになろう。ふたり、ここまで来た事が勇気の証だから.........

 ふと、曲を聴いていて気付いてしまったのです.........もしかして、新しい彼の夢というのは.........

 

 

マック「.........ふふっ」

 

 

 嬉しい反応を頂きました。ミラー越しでも十分伝わりました。本当に嘘が苦手なトレーナーさんは、恥ずかしそうに鏡から逃げました。

 態度でそう素直にされると、なんだかむず痒い気分になります。けれど、先程の静けさのように、嫌だと感じることはありません。

 

 

マック(.........言葉にしなくても、こんなに伝わるものなのですね。トレーナーさん)

 

 

桜木「.........レースとライブ。どっちも素晴らしかったよ。本当におめでとう、マックイーン」

 

 

マック「ありがとうございます。トレーナーさん」

 

 

 トレーナーさんはまだ恥ずかしいのか、こちらに目を向けずにそう言いました。もう、何回もそれは聞きましたのに、身体は嬉しさを込み上げさせます。

 

 

マック「ふふっ、本当にありがとうございます」

 

 

桜木「な、なんだよ。礼ならさっき言ったじゃないか.........」

 

 

マック「私も言い足りませんもの、トレーナーさんがおめでとうと言う度に、私もありがとうと言わせていただきますわ!」

 

 

 貴方もそうなのでしょう?トレーナーさん。この歌のように、二人でひとつの思いを胸に秘めているのです。私が言い足りない分、トレーナーさんも言い足りないのでしょう?

 

 

マック「.........あら.........?」

 

桜木「.........眠かったら、寝てもいいんだぞ?着いたら起こすから」

 

 

 眠くなんかありませんわ、まだまだ起きていられます.........そうは思っても、まぶたは急に重くなってきました.........

 今は.........今は、二人きりなのです。最近はめっきりと減ってしまった。特別な時間.........それを無駄にしたくはありません.........

 

 

マック(だと言うのに.........貴方の隣は、少し安心感が強すぎますわ.........)

 

 

 片手で音楽の音量を調整しながら運転するトレーナーさん。なんだか、不公平に感じてしまいます。私ばかり、こんな思いをしている気がしてなりません.........

 

 

桜木「.........おやすみ、マックイーン」

 

 

マック「.........ええ.........おやすみなさい.........トレーナーさん.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、車の中ではあんなに静かで可愛い姿で寝ていたんだけどなー.........

 

 

マック「かっとばせー!!!ユ・タ・カッッ!!!」

 

 

白銀「クソッッ!!!負けちまえビクトリーズなんてぇ!!!」

 

 

 戦争が勃発しそうな勢いでお互いの球団を応援し始めた。白銀は最近体育会系バラエティで共演し、物凄く仲良くなった野球選手の球団を、マックイーンはパーティが始まる以前話してくれていたビクトリーズの応援をしていた。

 

 

黒津木「大っ嫌いだ.........!」

 

 

神威「お前まだ泣いてんのかよ.........」

 

 

タキオン「黒津木君。ウマ娘のメイクデビューで一々泣いてたら死んでしまうよ?ほら、深呼吸してー.........」

 

 

黒津木「ハァハァハァハァ!」

 

 

 それでいいのかそれで、仮にも医者なんだから真面目に深呼吸はしてくれ。というより、ゴールドシップがやけに静かだな.........?

 

 

ゴルシ「.........」

 

 

桜木「ゴールドシップ.........?」

 

 

ゴルシ「Zzz.........」

 

 

桜木「.........解散!!!」

 

 

 その身体にピクリとマックイーンが反応する。ごめんよ。けどたづなさんとの契約なんだ。一人でも落ちたら即解散するという制約.........

 まぁ、よく見たらゴールドシップの傍でライスとウララとブルボンが毛布掛けられて寝てたんだけどね。要するにタイムオーバーって訳だ。

 

 

 ガララッ!

 

 

桜木「は!?」

 

 

たづな「制約違反です♪」(ニッコリ)

 

 

桜木「三十六計逃げるに如かずッッ!!!」

 

 

 流石にあのアームロックはもうまずい。本当に腕が死んじゃう。ダブルで受けた白銀が無事な理由は本当にバグだろ?多分ギャグ補正かかってると思う。

 ふふ、だがなたづなさんよ、あんたの時代は終わりだ。タキオンが提示したハードトレーニングの影響で俺の身体能力はアスリート並みだ。一般事務員兼理事長秘書のあんたじゃ俺のセクシー拳法の動きすら捉えられ.........

 

 

たづな「ダメです♪」

 

 

桜木「ナニィィィィ!?」

 

 

白銀「あぁ!?俺様直伝セクシー拳法セクシーポワールが破られたァ!?」

 

 

 川の流れの様な動きに対し、すくい上げるような見事な動作で自然とアームロックに移行するたづなさん。この動き.........トキ!?

 

 

桜木「俺には三人の兄が居た.........」

 

 

神威「トキ」

 

 

黒津木「ジャッカルッ!」

 

 

桜木「そして.........」

 

 

白銀「バイクのエンジン音.........」

 

 

 あーもう僕、満足!酒で酔ってもう頭が働かない!というかもう水のテーマしか流れてない!!

 しかし、いつまでたっても痛みが走らないことに気がつく。何事かと思い、覚悟して閉じていた目を開けると、マックイーンが懇願する様にこちらを見ていた。

 

 

マック「お願いですトレーナーさん!!試合が!!試合が終わるまでどうか!!」

 

 

たづな「.........」ジーッ...

 

 

 なるほど、好きな球団の中継がそんなに見たいのか.........けど、録画したしなー.........終わる時間、門限までギリギリだし、言うべきことはひとつだな。

 

 

桜木「だめです」

 

 

マック「やってくださいまし」

 

 

たづな「えい♪」

 

 

 もはや毎回恒例になっているであろう成人男性の悲痛な叫びが、休日のとある教室の一角で響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ......To be continued

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