山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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第一部 夢追い人篇
気付いたら流れで脱サラしてトレーナーになった話


「あんた見る目あるなぁ。トレーナーにならないかい?」

 

 

 その一言が全ての始まりだった。俺、桜木玲皇は当時、20歳のフリーターだった。高校卒業と共に、なまじ勉強した人体学を多少は活かせる職に就職した。

 もちろん、自分が興味ある分野で勉強の部分は大きく捗ったが、それはそれ、これはこれだ。職場環境は酷いものだった。

 三年で辞めた後は簡単だ。フラフラしていた中で、特に興味もなかったウマ娘のレース場に足を運んで、パッと見の感想を呟いたら冒頭のおっさんに聞かれてたって訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ムググ.........コンビニサンドイッチとストレートティーの組み合わせは大人臭過ぎやしねえか.........」

 

 

 誰に言うでもない独り言を呟く。トレーナー試験に合格してトレセン学園のトレーナーとしてほっぽり出されたは良いものの、こっちは残念ながら女性が苦手だ。話すのが気恥しい俺にとっては地獄なのでは無いだろうか?

 食事に際して発生したゴミをレジ袋に突っ込み、欠伸をしながら駄菓子をズボンのポケットから取り出す。ココアシガレットは感性をガキの頃に戻してくれる素敵アイテムだった。

 

 

「桜木さーん!」

 

 

桜木「ん?ああ、桐生院さん。どうも」

 

 

 小走りでこちらに走ってくる一人の女性。名前は桐生院葵。同期で俺と一緒にトレーナーになった代々トレーナーの超名門エリートだ。

 試験の日に余りに緊張していたので、駄菓子を分けたら懐かれてしまった。流石に今の子でもそこまでチョロくは無い。

 

 

桐生院「聞いてください!私、晴れてトレーナーとしての第一歩を踏み出す事が出来ました!」

 

 

桜木「え!?じゃあもう担当ウマ娘が!?」

 

 

 嘘だろ?入職して三週間目。未だに暇なのはもう俺だけか!?そう思いながら話を聞いてみると、どうやら彼女はハッピーミークと言う白い髪のウマ娘をスカウトしたらしい。話を聞いているだけでその行動力の高さが伺える。

 

 

桜木「はぁ、凄いなぁ桐生院さん。俺なんかどう行動に移せば良いのか.........」

 

 

桐生院「では、今度行われる選抜レースの結果を見て判断するべきです!桜木さんの洞察力があれば、きっと良い子が見つかる筈です!」

 

 

 そう息巻いて断言する彼女を見て、若干気圧されながらも、その提案に乗る事にした。選抜レースは二日後だ。しっかり見極めるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「す、凄い.........」

 

 

 選抜レース。公式のレースでは無いのに、その賑わいはソレとは何ら変わらない程の賑わいを見せていた。

 

 

「焼きそばー要らんかね〜?」

 

 

桜木(あの子もウマ娘.........だよな、なんで焼きそば売ってんだ?)

 

 

 しかし、既に小腹が空くにはいい時間。自分の身体に気を回して見落としがないよう、その焼きそばを一つ注文した。一口食べて見て分かったのは、恐らく自家製だ。久しく食べてなかった手作りの焼きそばに胸を打たれながらも、レースの行方を何本も見ていた。

 

 

桜木(うーん.........みんな良い子達ばかりなんだけど、俺じゃなくてもなぁ)

 

 

 焼きそばを食べ終え、暖かいお茶をずずずとすすりながら状況を確認する。みんなトレーナーが着けばそれなりに良い成績を残すであろうと子達ばかりだ。それぞれ上半身の動き、地面に対する足裏の接地面とのアプローチ。詰んでるエンジンやスタミナといった特徴的な武器が見て取れる。しかし、それを見ても未だに俺が誰かの練習を預かると言った予想は出来なかった。

 

 

「なぁあんた。新人トレーナーだろ?」

 

 

桜木「ん?ああ、さっきの焼きそばの.........そうだよ。桜木玲皇、まだ新人で分からない事ばかりだけど、今日は一丁前に担当を探しに来たんだ。君は?」

 

 

「私の名前はゴールドシップ!!気軽にゴルシちゃんとかゴルシ様とか呼んでもいいぜ!!」

 

 

 そう言いながら焼きそば売りのウマ娘はキャピキャピとポーズを決めながら自己紹介した。なんだろう。このうるささ、俺の親友と合致するな。まぁいい、アイツと会うことなんざもう数回くらいだろう

 

 

ゴルシ「んで?誘いたいウマ娘は見つけたのか?!ゴルシちゃんはダメだぜ?あたしはもうスピカっつうチームに永久リーダーに就任してるからなぁ!!」

 

 

桜木「あ、そう。力強いロングスパートが出来そうだと思ったから残念。誘いたい子も居ないし、今日はもう帰るかな」

 

 

ゴルシ「あーー!!ちょっと奥さんさあ!!次のレースで良い子が出てくんだよー。三百円で買った消しゴムの消しカス集めて作った鼻くそフィギュアあげっからさー!!」

 

 

 なんだそりゃ、しかも地味に高級だなおい。しかし、体格の良い彼女の言う良い子とはどうなのだろう。一般的な感覚で言えば、自分のワンランク下〜上の子を良い子とさすが、改めて見ると目の前の相手は明らかに規格外じみている。人間力なら兎も角、ウマ娘のパワー比で独自に編み出した計算式を用いると、ゴールドシップはそんじょそこらの天才が泣くレベルのパワーを持っている。言わば、才能だけでは辿り着けない場所に居るのだ。

 

 

桜木(そんなウマ娘のお墨付き、一体.........)「どんな子なんだ?」

 

 

ゴルシ「見れば分かる。分からなくても、分かるはずさ」

 

 

 んじゃそれ、思わずずるっとづっこける。流石に怒ろうかと思いゴールドシップのいた方向を見ると、彼女はその目を真剣にターフへと向けていた。

 

 

 それにつられて、その方向を見るとゲート準備している場面を見えた。この中に居るのだろうか.........?いや、分かる。

 

 

ゴルシ「お!分かったか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、俺の好みだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度はゴールドシップが派手にずっこけた。良かったな、焼きそば売り切ってて。そうこうしているうちに体制を整え、ゴールドシップは俺の襟を両手で掴んだ。

 

 

ゴルシ「お前さん何しに来たんだよ!!」

 

 

桜木「わ、悪かったよ!でもあの子だろ!?あの芦毛で長髪で背が低い上品そうな子!!」

 

 

ゴルシ「お前マックイーンをなんて目で見てんだーーー!!!」

 

 

桜木「ウマ娘はビジュアルも大事だろ!?そういう記録媒体の写りが良いって意味で好みっつったんだよ!!苦しーーー!!!?!?」

 

 

 流石に近場で座っていた人達も怯え始めた為、ゴールドシップに弁解する。案外楽しかったけどな、地獄のメリーゴーランド。

 ようやく落ち着いたのか、ゴールドシップは丁寧に俺を椅子に座らせた。まだ胸がドキドキする。年甲斐もない、ガキに戻った様な、実家に帰ってきたような感じ.........

 

 

桜木「これが恋.........?」

 

 

ゴルシ「はっ倒すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いよいよ各ウマ娘の準備運動が終わり、次々にゲート入りをしている中で、マックイーン。彼女が他のトレーナー達から口々に評価されていた。なんでも、ウマ娘界では名門であるメジロ家の出身であり、トレセン学園入学前から、そのステイヤー気質の足を大きく評価されていたらしい。

 

 

 もちろん、普通ならば彼女も俺じゃなくても良い。だが、そう言われる中でも、彼女の目はその才能や素質に見向きもしていない様だった。

 

 

ゴルシ「どうだ?」

 

 

桜木「ああ、話に聞く限りじゃすげえ才能や素質を持ってるけど、本人はそれをちゃんと武器にしている。才能が中心になってない。改めて、凄い子だ」

 

 

 しっかりと芯を持った立ち方をしている。凄い子だ。そう思いながら彼女のゲートインを見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも、レースと言うのは分からない。彼女はその走りの真価を見せ付けること無く、最終コーナーに差し掛かっていても後方に居た。

 

 

ゴルシ「マックイーン.........!」

 

 

桜木「足に力が入ってない。スタミナ切れにしては早すぎる.........一体どうしたんだ.........?」

 

 

 そう判断を下した俺は周りを見てみる。どうやら、 先程彼女を評価していたトレーナー達も俺と同じ意見の様だ。その目は既に、先頭で先陣を切って逃げているアイネスフウジンに移っていた。

 それが普通だ。弱肉強食に近いこの世界で、強い者を強く育てるのが勝つためのセオリー。先頭を走る者に目を向けるのは当たり前だ。だと言うのに、ゴールドシップのせいか、俺の気質のせいなのか、どうしても、後方で奮闘しているマックイーンから目を離す事が出来ずに居た。

 

 

桜木「頑張れ.........!」

 

 

ゴルシ「!」

 

 

 思わず口に出してしまうほど、彼女に視線を送っていたが、結果は虚しく、七着。入着すらできずに、この選抜レースを終わらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕日はいつだって綺麗だ。それはガキの頃も大人になった今も変わりはしない。あの後、ゴールドシップがマックイーンはあんなものじゃない。とは言ったが、七着の事実は変えられない為、その後は酷くしょんぼりとしていた。俺の親友の一人はそんな顔しない為、何故か初めて会った彼女にらしくないと思ってしまった。

 学園に戻って、書類を片付けて、後は普通に帰るだけ。それでも、この綺麗な夕日を見るために学園の裏側のトレーニングコースへ行くと、一人で黙々と特訓する。メジロマックイーンの姿がそこにはあった。

 

 

マック「まだ、まだ足りませんわ.........!」

 

 

 選抜レースとは違い、多少は近くなった為、彼女の声が耳へ届いてくる。歯を食いしばりながら足りないと、レースをこなした後の身体で走っていた。

 

 

「あら.........?そちらにいらっしゃるのは、期待の新人トレーナーさんじゃないですか!」

 

 

 俺の背中から声が聞こえる。振り返ってみると、緑の制服が特徴的な駿川たづなさんが立っていた。彼女はここ、トレセン学園の理事長の秘書さんだ。

 

 

桜木「こんにちわ、たづなさん」

 

 

たづな「こんにちは。そういえば、古賀トレーナーさんが歓迎会を開くそうですよ?」

 

 

 うへぇ、あの人飲兵衛だから、めちゃくちゃ面倒臭いんだよな。

 古賀聡さんは、俺にトレーナーとしての道を示してくれた御歳65歳の大ベテランだ。未だに新しい手法を取り入れ、ウマ娘を重賞の勝利へと導くすんげぇ人だ。

 

 

桜木「予定は今埋まりましたよ。残念ですけど」

 

 

たづな「ふふふっ.........桜木さん。選抜レース、誰か気になる子は居ましたか?」

 

 

 それを聞かれ、そう言えばと思い、マックイーンの居る背後のコースを見る。そこには先程までいなかったボーイッシュなウマ娘が来ており、マックイーンのその瞳は、夕日よりも力強い光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「.........メジロマックイーンです」

 

 

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ……To be continued

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