山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜 作:ギノっち@カマタラル
秋の季節も中頃に、北風がとうとう人々の格好をモコモコに暖かくさせ始めた時期のこと。
平和な日々を過ごしている俺、桜木玲皇は、今日も今日とて平和な日々を賛歌しようとしていた.........
タキオン「済まないトレーナー君ッッ!!!助けてくれ!!!」
桜木「!?」
ここはいつものチームルーム。今日はどういうトレーニングをしようかと考えていると、慌ただしく入ってきたのはアグネスタキオン。おかしい。この子はそんなこと言う子じゃないはずだ。一体どうしたと言うのだ。
桜木「一体何が.........」
タキオン「見れば分かる!!!とにかく来てくれ!!!」
桜木「わちょちょ!!???」
ーーー
生徒会室
テイオー「わわわ!!どどど、どうしよ〜!!???」
タキオン「テイオー君!大丈夫かい!?」
テイオー「あ!!タキオン!!」
タキオンに強引に連れ飲まれ、勢いよく生徒会室の中へ入ってみると、机に突っ伏しているシンボリルドルフが居る。そんな彼女を心配そうに見ていたテイオーがとてとてとやってくる。
桜木「一体何が.........?」
テイオー「うぅ.........実はね?ボク、タキオンに薬を作ってもらったんだ」
桜木「薬を.........?」
タキオン「ああ、過去の悔しかった出来事を増幅させ、思い出させる薬さ。以前会長からもテイオー君のその事で相談を受けてね。テイオー君はどうやら、強すぎるが故に、負けへの悔しさが分からないんだ」
なるほど.........確かに、今まで負けて来なかった人間が、負けることの悔しさをバネにする事は不可能だろう。それについてはまだ分かる.........だが、それが一体どうしてこうなってるんだ?
テイオー「それでね?ボク思ったんだ。会長も殆ど無敗だから、あんまり分からないんじゃないかなーって!それで一緒に飲んで欲しいってお願いしたんだ!!」
タキオン「彼女は了承したよ。テイオー君と一緒に、私の実験室まで来たんだ」
お前のじゃなくて、普通の理科実験室だからな。まあこの際どうでも良い。今大事なのは、机の上で未だに寝息もたてずに静かにしているシンボリルドルフだ。
そう思っていると、先程まで突っ伏していた会長が気だるげな面持ちでゆらりと身体を起こしはじめた。
テイオー「あ!!カイチョー!!」
ルドルフ「やだ.........」
全員「え?」
確かにそう聞こえた。聞き間違いでは無い。彼女の顔は前髪で目元が良く見えない。
しかし、次の瞬間には勢いよく顔を上げ、その執念めいた眼光を顕にした。
ルドルフ「いやだぁ.........」
ルドルフ「私は.........!!!」
ルドルフ「負けたくないィィィィッッッ!!!!!」
全員「何ィィィィィッッ!!!??」
青い線を残すほどの眼光で力強くそう宣言する生徒会長。シンボリルドルフ。
いやいや、俺はどこかで見た事あるぞ、このキャラクター.........
ルドルフ「私は飢えている.........乾いている.........!!」
桜木「何が起きてやがる!!!??」
タキオン「あわわわわ!!お、恐らく推測だが、あの昏睡中に過去の敗北を思い出したんだ!!!あの時は理路整然とした台詞を言って相手を称えていたんだが.........」
テイオー「.........カッコイイ」
二人「へ?」
背後でメラメラと青い炎を燃え滾らせ始めたシンボリルドルフを見て、トウカイテイオーはうっとりとした声を漏らした。本気で言ってるな、これは。
どうしたものかと考えあぐねていると、ヘル化したシンボリルドルフは机の上の書類にその目で嫌悪感を示した。
ルドルフ「考えてみれば、ウマ娘とはレースを走る為に存在する者だ。こんな事せずとも、レースで決着をつければ良い。強い物は勝ち、弱い者は負ける。正に弱肉強食の世界だ」
ルドルフ「故にッッ!!!こんなお願い事を聞くなど不要ッッ!!!」バサァ!
彼女は大きく手を振りあげると、机の上に重ねられた書類を全て薙ぎ払った。うーん、この子本当にヘル化してしまったなぁ.........
ルドルフ「願望というのは勝者のみに叶えることが出来る特権だ。弱者が弱者のままで望みを叶えるなど、虫唾が走る」
ルドルフ「願いを叶えたくばッッ!!!この皇帝.........いや、カイザーを倒して見せろッッ!!!」
ルドルフ「うん?そうなると、ここで呑気に紙遊びをしている暇は無い。私はトレーニングに行く。君達、あとは頼んだぞ」
ーーー
桜木「どうすんだよお前.........」
タキオン「どうしよう.........」
トレーニングが始まる時間。二人でターフの上に座り込み、ヘル会長について話し合う。隣に居るタキオンはいつもとは打って変わり、相当落ち込んでいる。まぁ、あんだけ自分を気にかけてくれたルドルフが豹変したらそうなるだろう。
タキオン「.........認めよう。私は会長に憧れを抱いていた」
タキオン「どんなレースも凛として譲らず、当然のように勝ち、それでもなお相手をリスペクトし続ける彼女が.........私の憧れだ」
桜木「タキオン.........」
こんなに落ち込んでいるタキオンを見るのは初めてだ。いつもの理屈めいた話をしてくれないので、ちょっと調子が狂う。
さて、どうしたものかと頭を抱えていると、目の前の影が暗くなっているのに気がつく。
グルーヴ「おい、貴様が会長に何をしたかはわかってるぞ」
桜木「ごめんなさい」
グルーヴ「え?いや、鎌掛けのつもりだったんだが.........まぁ良い。一体会長に何をした?」
タキオン「何かあったのかい?」
グルーヴ「.........実はな」
ーーー
ルドルフ「思えば、この生徒会長という役職も、言わば自らを律し、全ての規範としてという下らない理想の為に取った肩書きだ。今の私には不要だろう」
グルーヴ「は.........?お、お言葉ですが会長。私には何を仰ってるのかが.........」
ルドルフ「分からないかエアグルーヴ?生徒会長など他人の目を気にした弱き者がなる存在だ。今の私はもう、そんなものなど気にはしない」
目の前でそう言い放った会長からは、今まで感じた事の無い強いエネルギーを感じたが、言っている事がおかしい。何かあったのだろうか?兎に角私はそう思い、会長を問いただしてみた。
グルーヴ「貴方の目指すべき目標は決して下らなくはありません!!お考え直しください!!」
ルドルフ「断る。他人の意見や立場をリスペクトするなど不要!!言うなれば私は、勝利をリスペクトするッッ!!!」
そう言いきった会長は、その言葉を聞いて放心してしまった私と、ブライアンを置いて高らかな笑い声を上げながら、生徒会室を出て行ってしまわれたのだ.........
ーーー
桜木「やべぇよ.........完全にヘルカイザールドルフになっちゃってんじゃん.........!」
どっかで見たことあるなぁと思ったらヘルカイザー亮じゃねえか.........今思い出したわそんなキャラクター.........
まずくないか?あのキャラ確か最後までブレずにあのままだったはずだけど.........
タキオン「一応、解毒薬はあるにはあるんだが.........」
グルーヴ「本当か!?」
タキオン「飲んで欲しいと頼んだらレースで勝てばいいと言われた.........流石にあそこまで勝ちにこだわる会長に勝てる気はしないよ」
いつもはうるさいくらいの笑い声も、今は相当覇気がない。そんなタキオンに怒れるはずもなく、エアグルーヴはもう一度唸り声を上げた。
そこでふと、トレーニングコースの方で騒ぎが聞こえてくる。なんだろう.........行ってみた方が良さそうだな。
ーーー
ルドルフ「敗者は去るといい。次、ゲートに入れ」
「は、ハイ!!!」
ぎこちない動きでゲートインして行くウマ娘。あの子は結構GIでも活躍しているウマ娘の筈だ。ヘルカイザーの気迫に押されているのだろう。
何が起きてるのだ?俺はそばに居たトレーナーに話を聞いてみた。
桜木「あの、一体何が.........」
「えっと.........それが.........」
ルドルフ『ほう、設備の改築か.........良いだろう。おい、この中で一番それを望んでいるのは誰だ?』
『ハイ!!!私です!!!』
ルドルフ『私とレースで勝負しろ。勝負服も準備するといい。勝てば明日にでも施設を新しくグレードアップさせてやる』
『えぇ!?あ、あの資金面とか、非常に苦しいのでは.........?』
ルドルフ『.........?そんなものは知らん。私の管轄外だ』
「と言った成り行きで.........」
うわぁ.........その感じじゃ完全に片っ端から勝負しかけてんのか.........?ウララじゃないんだからさ。もっとこう、なんかならない?
しかもなに?走り方おかしくない?なんで逃げてんの?アレか?アレが裏サイバー流ならぬ、裏シンボリ流の走りデッキってこと?ヤバくね?あんな叩き潰すような走りでさっきからポキポキ人の心を折ってるの?
「因みに、他の子達は外出届けを出しただけでレースをやる羽目に.........」
グルーヴ「そんな.........」
タキオン「うわぁ.........」
桜木「まぁじかよ.........」
反応は三者三様だが、頭を抱えたというのは同じ事実だ。学園の外に出る度にあのヘルカイザーに挑むとなれば相当骨が折れる。というより折られる。心がポッキリと。
一体どうするんだ?マックイーンの月の楽しみである美味しいスイーツ店を探す御褒美が、まず生徒会長に勝負を挑むことから始まるという超高難易度。予想して欲しい。そして出走レースが北海道にでもなってみろ。レースの前にレースをする羽目になるぞ。なんならそのレースの前のレースの方が本番より力を入れなければ行けないかもしれない。本末転倒も甚だしい。
桜木「バグってんだろ.........」
タキオン「やはり、ここは私が勝負を挑むしか.........」
グルーヴ「待てアグネスタキオン。貴様が一人で勝負を挑んだ所で、あの会長に適う訳が無いのは知れてるだろう」
桜木「.........俺にいい考えがある」
二人「.........?」
ーーー
桜木「いやー快進撃ですねー生徒会長!」
ルドルフ「む?桜木か。御託はいい。君も何か願い事があるのだろう?」
桜木「ええ勿論。貴方にこれを飲んで欲しくてね」
目の前で線を残す様な眼光をチラつかせる会長に、ポケットから出した薬品を見せる。闘争本能を常時刺激する成分を分解し、元の状態に戻す解毒薬だ。
ルドルフ「タキオンにも言ったが、それはレースで.........」
桜木「レースで!?あのルドルフ会長が俺に!?」
わざとらしく騒ぎ立ててみせる。すると、シンボリルドルフは耳をピクリとさせた後に、不機嫌そうに伏せていた目を開けた。
ルドルフ「なんだ?貴様がやるのか?」
桜木「ええ、当たり前じゃないですか。これは俺の要望なんでね、他人を巻き込むのも気が引けると思ったんですよ」
ルドルフ「では聞こう。レースで無ければ何で勝負するのだ?」
桜木「もちろん、レースと同レベルで得意だと貴方が自負していた。洒落対決ですよ」
そう言ってみせると、ヘルカイザーシンボリルドルフはそのギラついた目で俺を睨みつけた。正直死ぬほど怖い。
だが、ここで物怖じしては行けない。以前の会長をリスペクトしていたタキオンのためにも、理不尽に勝負を挑まれる生徒たちの為にもだ。
ルドルフ「.........ふふふ、良いだろう。わざわざ私の土俵で決闘(デュエル)しようとするとは、愚かな者も居たものだ」
桜木(ぃよし!乗ってくれた!!)
もうこの際言動は気にしない用にしよう。勝利に取りつかれ過ぎてる会長を何とかすればいいだけの話だからな.........!!
そう思いながら早速取り掛かろうとすると、彼女は片手でそれを制止させた。
ルドルフ「待て。今の私はレースモードだ。その対決は後日にしようじゃないか」
桜木「え、いやあの、今して欲しいんですけど.........」
ルドルフ「なんだ?普段の貴様の行いを認め、貴様の提案を飲もうと思ったが、レースで決着をつけても良いんだぞ?」
桜木「イエ、ナンデモアリマセン」
怖い。俺は縮こまりながら会長にそう進言すると、満足したように鼻で笑い、彼女はこの場を後にした。
いや、本当に困った。本当なら今この場で決着をつけて何とかしたかったんだけど、あの眼光には本当に前に出れない。これでチームリギルに完全にルドルフの不具合がバレてしまうという訳だ.........
ーーー
やよい「既知ッ!!知ってた!!」
桜木「ですよね」
後日、対決の場を設けるべく理事長に進言すると、高らかに笑いながら扇子を広げた。どうやらアグネスタキオンの行動によるものだと言うのも把握していたらしい。
「はぁ.........また、チーム[スピカ]なのね」
桜木「む、失敬な。[スピカ]じゃなくて、[スピカ:レグルス]ですよ。東条さん」
二 度 と 間 違 え る な ク ソ が 。なんて言わない。言ったらあとが怖いからだ。
先程落胆した声の主は今俺の隣に居るチームリギルのトレーナー。東条ハナさんから漏れ出た声だ。
東条「同じよ同じ。スピカの名を冠するチームのメンバーは、トレーナーしかり、ウマ娘しかり、なんで問題児しか居ないのよ」
桜木「あ!!!ちょっと聞き捨てなりませんよ!!!」
東条「無断で足を触る変態トレーナー(沖野)と桜木玲皇(桜木玲皇)」
東条「食堂の食料の半分を食い尽くす(スペ)。校庭にミステリーサークルを作る(スズカ)。授業のレースでも激しいバトルを繰り広げる(ダスカ&ウオッカ)。ゴールドシップ(ゴールドシップ)。朝方の校門前にはちみつジュースのキッチンカー常駐未遂(テイオー)」
桜木「.........」
東条「学食のモンブランを必ず落とす(マック)。アグネスタキオン(アグネスタキオン)。道場破り(ウララ)。男性職員を数名兄にし始める(ライス)。パソコン授業で進行に支障をきたさせる(ブルボン)」
桜木「何も言えねぇ.........」
北島〇介みたいな言葉が出てしまったが、感情はまるっきり反対だ。何人かの名前が既に問題児の代名詞として使われたが、本当に何も言えない。
弁解も出来ねぇ。ごめんなライス。多分アイツらが俺はお兄さまだぞとか言いながら親衛隊してるからこうなったんだ。悪い兄ちゃんを許してくれ。
桜木「とにかく、起きてしまったものはしょうがないんです。テンサイタキオンにも非はありますが、会長が飲むと言ったんです。ならここは痛み分けとして、何も言わない事にしませんか?」
東条「そう言われると.........弱いのよねぇ.........」
やよい「面白くないな.........」ボソ
不穏な言葉が聞こえてきたがこの際無視しよう。大人の世界でそれは最も重要な選択だ。
桜木「とにかく、決戦は今日です。絶対に逃がさないよう、策も考えています」
東条「貴方の策って、どこか頼りないのよね.........」
ーーー
バクシン「さぁやって参りました!!!洒落王決定戦!!!司会は私!!全てにおいて優等生な学級委員長ッッ!!!サクラバクシンオーが務めさせて頂きます!!!」
舞台は整った。放課後のカフェテラスの使用許可を頂き、頑張って特設ステージを作ったのだ。司会はもちろん学級委員長のサクラバクシンオー。
バクシン「そこのトレーナーさんが10個の桜餅をPONとくれました!!!気前がいいですねー!!!」
バクシン「ではでは登場していただきましょう!!!選手の入場です!!!」
ルドルフ「ふん、我が名はヘルカイザールドルフ。私はレースでも洒落でも求めるものは一つ。ただ勝利だけだ」
黒い衣装に身を包んだヘルカイザールドルフ。自分でヘルカイザー名乗るの苦しくない?そして洒落の勝利の基準とは?
というよりおかしい。昨日まで着ていたあの緑の軍服みたいな勝負服はどうしたんだ?
バクシン「おー!!!素敵な勝負服ですね!!!以前の物は一体どうしたのですか!!?」
ルドルフ「あれか、あんなもの、規律を重んじる軍を模した物。言わば、雑兵をまとめあげ、強き隊にする司令を模したものだ。それで得られる勝利など、まやかしに過ぎん」
ルドルフ「故に捨てた。今朝ゴミ箱に」
バクシン「ゴミ箱に!!?それはまた.........おや?カンペが.........」
マルゼン[しっかりとスタッフが回収して洗濯しました]
そのカンペを見て会場に居る全員がホッと一息つく。心無しかマルゼンさんが怖い。笑ってるのに。
バクシン「ではどんどん入場してもらいましょう!!!」
桜木「ども、桜木です。今回はうちのカワイイタキオンがご迷惑をおかけしました」
バクシン「本当です!!!ですが桜餅をくれたので私は許します!!!」
「おいやめろ!!!私は出ないと何度言えば」
バクシン「さぁさぁ!後がつかえてますよタキオンさん!!!早く出てきてください!!!」
タキオン「な、ちが!!!トレーナー君が勝手に!!!」
マック「あの、本当に私達も参加するんですの?」
ウララ「だってなんか楽しそうだよ!!!皆でやった方が絶対楽しいもん!!!」
ライス「え、えっと.........ライス、頑張るからね!お兄さま!!」
これで参加者は全員だ。うちのチームしか参加して居ないが、仕方ないだろ。参加者が集まらなかったんだ。こうする他ない。
タキオン「恨むぞトレーナー君.........」
桜木「今回ばかりはそうしてくれ。そのほうが気も楽になるだろ」
審査員席をチラリと見る。そこには三人のウマ娘が座っており、 ナリタブライアン。ゴールドシップ。ミホノブルボンが席に着いてる。公平なジャッジを見せてくれるはずだ。
ルドルフ「ふふふ.........よく来たな、桜木トレーナー。さぁ見せてみろ。君達の実力を.........!!!」
ーーー
マック「め、[メジロ]の商品[目白]押し.........ですわ!」
ルドルフ「くっ.........!」
ウララ「[ウララ]が歌ってるよー!!![うっらら]ー♪」
ルドルフ「ぬっ.........!」
桜木(よし、効いてるぞ.........!)
相手に見えない位置でガッツポーズをとる。どういう基準か分からないが、どうやら俺達の洒落が効いてるらしい。
ライス「ら、[ライス]のご飯!あ、も、も[らいっす].........!」
ルドルフ「ぐふっ.........!」
タキオン「.........アル[ミ缶]の上にある[ミカン]」
ルドルフ「かはっ.........!」
一体彼女の体で何が起きてるんだ?俺達はただ洒落を言っているだけなのに、その場にゆっくりと膝を立てた。この子だけデスゲームでもやってるの?ライフチュッチュギガント要る?
そんなデュエリスト思考を巡らせていると、彼女は自らの震えを抑えるように、自分の体をギュッと縮こまらせた。
ルドルフ「嫌だ.........」
ウララ「え?カイチョーやなの?」
桜木(げっ.........)
ルドルフ「やだぁ、私はァ!負けたくないィィィィッッ!!!」
己が体を奮い立たせるように立ち上がるヘルカイザールドルフ。その背後には青い炎が燃え上がるような幻覚も見えてくる。風圧も感じる。
ルドルフ「どんな形でも良い.........私は勝ちたい.........」
ルドルフ「今やっと分かったぞ.........私は今まで、あの海外遠征の日から誤魔化し続けてきた.........」
ルドルフ「相手をリスペクトする私のレース、それさえ出来れば勝ち負けはどうでもいいと.........」
ルドルフ「だが違う.........私は飢えている.........乾いている.........!勝利にッ!」
タキオン「!」
あの会長から発せられる圧に気圧されるアグネスタキオン、その足を一歩後退る。どうやら、あの言葉に思い当たる節があるようだ。
ルドルフ「どんなものであろうと勝利は勝利.........勝利の為なら私は.........ッッ!!!」
なんて気迫なんだ。今回は絶対に面白おかしくなるはずの展開だったのに、どうしてこんなにガチなんだ!?そんなに欲しいのか!?勝利が.........!!
ルドルフ「次は私のターンだ.........!!このターンで全てのケリをつける!私はァッッ!!!勝ァつッッッ!!!!!」
その言葉と同時に、勝負直前までの気迫が完全に戻り、ギャラリーが大いに沸き始める。おいテイオー。元はと言えばお前のせいだぞ、そのうちわをしまえ。
ルドルフ「ふふふっ.........君達には散々手こずらせて貰ったが、お陰で5人分倒せる洒落を思い付いたぞ!!!」
マック「何ですって!?」
ルドルフ「そう、名付けるならば.........!!!」
「洒落バネティック・レザルト・バーストッッッ!!!!!」
ルドルフ「グォレンダァッッッ!!!!!」
ーーー
ルドルフ「ほう、中々しぶといな。桜木トレーナー.........流石は、以前の私が認めただけの実力はある」
桜木「くっ.........!」
何とかして立ってはいられるが、冗談ではなくダメージはこれで限界.........これ以上のシャレを浴びれば「ヤバい」って.........体全体で悲鳴をあげているのがわかるぜ.........!
テイオー「カッイッザーッ!カッイッザーッ!」
クソァ!お前後で覚えてろよクソガキィッ!
周りはもう既にカイザーコールで満杯だ。俺への応援が入る余地は万に一つもありゃしない。終わるのか.........?こんなところで.........
撃沈している他の仲間を見る。皆、先程の洒落バネティック・レザルト・バーストの五連撃に撃沈して行った。立っているのはもう.........俺しかいない.........!
ルドルフ「トドメだッッ!!!」
桜木「ぐっ.........!」
ルドルフ「[日本]海に[ジャパーン]と飛び込むッッ!!!」
桜木「づッッッ!!!??グゥゥアアアアアッッッ!!!?????」
体の全身を電撃が弾けるような感触でダメージが駆け抜ける。これが今までルドルフ受けていた痛みだと言うのか.........!!
いや.........こんなものじゃない。笑われる為に日々努力してきた報われない洒落の実力.........そんなルドルフが受けてきた居心地の悪い視線はきっと、これ以上に痛かったはずだ.........!!
だが、今までのルドルフの洒落とは練度が違う。他人の目を気にしなくなったルドルフにとっては、洒落はもはや趣味の境地。つまり.........その先端を尖らせるように特化させたのだ。
もう.........ダメだ。どういう原理か分からないが、もう身体に立つ気力はない。俺も周りで力尽きてるメンバーと同じように、地べたに這いつくばる運命にあるらしい.........
「諦めるなッッ!!!たわけッッ!!!」
前に倒れそうな寸での所で、両手を前に突き出し、何とかこらえることが出来た。
声をした方を見てみると、なんとエアグルーヴがこちらに激を飛ばしている。なにも防具をつけていない状況で.........
桜木「グルーヴ!!防具は!?」
グルーヴ「貴様らが身体を張っているというのに!調子が悪くなるという理由だけで付けられるか!!!」
前もって渡していた耳栓と、読唇しない用に渡したぼやけるメガネを外して、グルーヴはステージの側まで駆け寄ってきている。お前、俺と会長が意見交換していた時には、吐き気すら催してたじゃないか.........!!!
グルーヴ「立て桜木ッッ!!!会長が認めていた貴様はッ!その程度では無いはずだッッッ!!!!!」
桜木「.........!!!!!」
そうだ、俺は、桜木玲皇だ。俺は認められていたじゃないか.........以前のルドルフに.........共に洒落について切磋琢磨しようと、手を握り会って、友情を育んできたじゃないか.........!!!
身体に力が戻る。立つ力だけでも戻れば良い。立てればあとはこっちの物だ。なんせ、口を動かすのは一丁前に得意なんだからなこっちは.........!!!
桜木「.........マックイーン.........タキオン.........ウララ.........ライス.........!」
桜木「悪いなぁ.........不甲斐ない俺のせいで.........こんな目に合わせちまって.........」
マック(本当ですわ)
タキオン(本当だよ)
ウララ(Zzz.........)
ライス(スヤスヤ.........)
桜木「本当は俺もそっちに行きてぇけど.........お前らをこんな目に合わせたコイツをォ.........!!!!!」
桜木「生かしておくかァ.........ッッッ!!!!!」
ルドルフ「ッッッ!!!??」
気力は戻った。あとは目の前にいるヘルカイザールドルフを打ち倒すだけのパワーを持つワードを召喚するだけだ。
体はガタガタ。心もボロボロだ。だが、会場の空気は確実に少し味方につけた.........けれど、それではダメだ。それだけじゃ勝てない.........!
フォーカスの種類が似ているんだ。同じ種類のキャラが居るなら、より魅力的な方に視線が行くに決まっている。味方を付けるには.........ギャラリーを世界に引き込むには、俺の好きな悪役を降りなければならない。
桜木「.........ハハハ......」
ルドルフ「.........なんだ、その目は.........!一体何を企んでいるッッ!!!」
桜木「何も企んじゃいねえよ。次で決まるんだ。気楽に行かせてくれよ」
桜木「.........ただ一つ、忠告しておくぜ、会長.........!」
桜木「俺は.........今の俺は.........ッ!」
「奇跡だって超えてるんだぜェッッッ!!!!!」
俺はそう、力強く宣言する。今この場においては、悪役を張ろうとする気持ちを持つのは止めよう。悔しいが、今ヒールなのは確実にヘルカイザールドルフだ。羨ましい。
だが、これである程度のフォーカスを集める事が出来た。さすが俺、まだまだ錆びてしまった才能を扱えるだけの技量は残っているか.........!
辺りの空気は既に熱を留めるだけではなく、まるで自ら熱を放ち始めたかと思える程に熱狂している。血液が沸騰する程の暑さだ。汗が吹き出す。
桜木「行くぞ............!!!!!」
ルドルフ「くっ.........!!!」
「[布団]が[吹っ飛ん]だァァァァッッッ!!!!!」
辺りは静けさが支配し始める。どうやら、俺がこのワードを選ぶことを予想だにしていなかったらしい。そして、目の前のシンボリルドルフは、ワナワナと身体を震わせながら、言葉を聞いて伏せた顔を上げた。
ルドルフ「ククク.........何を言うかと思えば.........[布団]が[吹っ飛ん]だ、だと?何を今更そんな初歩的な洒落を.........!?」ガクン!
桜木「.........」
ルドルフ「な、なぜだ.........!?なぜ私は膝を着いている.........!!???」
桜木「シンボリルドルフ.........いや、ヘルカイザールドルフ。負けたのはお前じゃない。お前自身に眠る、元のシンボリルドルフが、負けを認めたんだ」
ルドルフ「なんだとっ!?バカなッ!私は私だ!!!何をおかしなことを言っている!!!」
片膝を地面につきながらも、その威勢の良さは衰えて居ない。勝利の為の執念も、その策も、まだ彼女は残しているのだろう。
桜木「お前の敗因は、洒落を楽しむ心を失った事だ」
ルドルフ「洒落を楽しむ.........心.........?」
桜木「そうだ。洒落とは本来、相手を、そして自分を楽しませる為に存在する物だ。楽しみたい、楽しませたいという純粋な気持ちが、洒落を生む」
ルドルフ「.........そうか.........私は、間違っていたのだな.........すまなかった.........私の.........負けだ.........」ガクッ
前のめりに倒れ込んだルドルフの身体を肩を持って支える。大きな犠牲は払ったが、これで文句無しに解毒薬を飲ませられるだろう。
バクシン「それでは審査員さん!!!判定をお願いします!!!」
桜木「あっべ」
そういえばそんなルールだったな、すっかり忘れてた。闇のデュエル化してたからリアルライフポイント制と錯覚してたぞ。
ゴルシ「Zzz」
ブルボン「スー.........スー.........」
ナリブ「シンボリルドルフ」
バクシン「という訳で勝者はシンボリルドルフ生徒会長さんです!!!!!」
桜木「うぉぉおおおいいいいいッッッ!!!!!」
前にもあったであろう審査員制度での敗北。ナリタブライアンは俺の視線に気付くと、自身の名前の書かれた立て札を反転させ、前田慶次の名前を見せた。お前、どんだけ引き摺ってんだよ.........
まぁ、審査員のことは知った事じゃない。あちらさんが負けを認めたんだし、都合よく気絶もしているんだ。だったら俺も都合よく薬を飲ませても誰にも怒られないだろう。
ーーー
翌日
ルドルフ「済まなかった!!!本当にどうかしてた!!!許してくれ!!!エアグルーヴ!!!ナリタブライアン!!!マルゼンスキー!!!」
アレから大丈夫だろうかと思い、生徒会室に顔を出してみると、頭を地面に擦り付けてるレベルの土下座を披露している会長が目に飛び込んできた。みんなそれを止める様に言っているが、会長は聞く耳を持とうとしていない。
桜木「あの、また後で来ますね.........」
ルドルフ「いや!待ってくれ桜木君!君にも迷惑を掛けた。是非謝らせて欲しい」
桜木「いやいや!!会長は悪くありませんって!!」
そう、あんなことになるなんて誰が予想できたであろうか?誰にも出来なかったんだから、誰も悪くは無い。あれを止められる人物は唯一も無かったのだ。気に病む時点でお門違いだろう。
ルドルフ「うぅ、だが.........」
桜木「そんなに言うんでしたら、今日テイオーと併走してやって下さい。最近、会長と絡んでなくて調子だだ下がりらしいので」
ルドルフ「.........わかった。それくらいの事なら聞こう。今回の件、本当に済まなかった」
しょんぼりとした表情で謝る生徒会長。その姿は正に、ションボリルドルフだ。
いけない、昨日のアレのせいで頭が若干親父臭くなったか?暫くは脳が勝手に親父ギャグを作り出しそうだ。
それにしても、この事を伝えたらテイオーは泣いて喜ぶだろうなー。久々の会長と併走できるなんてそうそう無いだろうに.........俺はそう思いながら、生徒会室を後にした。
......To be continued
オマケ
その後、テイオーと併走中のシンボリルドルフ。
ルドルフ(流石テイオー。すごい成長速度だ.........このままうかうかしていたら、私も抜かされるな.........ん?)
ルドルフ(抜かされる.........?つまり、私が負ける.........?)
ルドルフ「やだぁ.........!」
テイオー「え?」
ルドルフ「私はァ!!負けたくないィィィィッッッ!!!!!」
テイオー「キャーーーー♡♡ヘルカイザールドルフだーーーーー♡♡♡」
薬を飲んだ後遺症として、負けそうになると度々ヘルカイザーになってしまうという、思ったよりも重い制約を受けてしまったシンボリルドルフだったが、その後、ヘルカイザールドルフファンクラブなるものが立ち上げられ、シンボリルドルフファンクラブと大きな対立抗争が起きたり、両会員ナンバー001がトウカイテイオーとバレたりと色々な事件が起こるが、それはまた別の話.........