山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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マックイーン「さようなら!!!トレーナーさん!!!」

 

 

 

 

 

 

マック「〜〜〜 ♪」

 

 

 新年も開けて、春の風が吹く季節となりました。新入生も沢山迎えたトレセン学園。私は今日も[スピカ:レグルス]のエースとして精進していかなければ.........!

 そんなことを思いながら、移動教室の合間にトレーナーさんに挨拶しようと考え、チームルームの前へ行くと、耳に彼の声と、それとは別の男性の声が聞こえてきました。

 

 

桜木「.........だから、さっきから言ってるじゃないですか。彼女はウチの所属です。俺も必要としているし、彼女も望んでここにいる」

 

 

男「だが、その割には最近成績が奮って無いじゃないか。映像媒体でも分かる。あれはスランプだ。彼女だけの問題じゃない」

 

 

マック(私のことでしょうか.........?)

 

 

 聞こえてくる話の内容からして、私。メジロマックイーンの事だと気が付くのは、そう難しいものではありませんでした。

 もう少し、詳しく聞かなければ.........!そう思った私は、自身の耳を扉にピッタリと付けました。

 

 

桜木「それは.........彼女の目標の為に調整しているだけの話です。彼女が勝ちたいと思うレースに、必ず勝てるように」

 

 

男「だから他のレースは捨てても良いと?」

 

 

桜木「っ.........それは」

 

 

男「これだから素人は.........やはり、君の噂は本物だな。[トレーナーもどき]君?」

 

 

マック(!!!)

 

 

 悪意のあるその名を聞いた瞬間、激しい感情が心を支配しました。今すぐこの教室に入り込んで、その名を口にした男を成敗したい気持ちが溢れ出しますが、迷惑を被るのはトレーナーさんです.........!

 ここは我慢が必要。そう思った私は、扉に近付いてくる足音を聞いてその場から急いで離れました。

 

 

男「君が彼女の事を思うのなら、移籍をオススメするよ。君の私欲が無ければの話だが.........ね?」

 

 

桜木「っ.........」

 

 

マック(どうして.........何も言ってくれないんですの.........?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........今日のトレーニングはこれで終わりだ。お疲れさん。みんな頑張ったな」

 

 

マック「.........」

 

 

桜木「それと、マックイーンは残ってくれ」

 

 

マック「!」

 

 

 今、呼ばれたのでしょうか.........?顔を上げてみると、タキオンさん達はもうチームルームから退出して行かれました。どうやら、周りの音も聞いていなかったようです.........

 

 

桜木「.........」

 

 

マック「.........あの、何か.........?」

 

 

桜木「.........最近、スランプだろ?」

 

 

 その言葉を聞いて、私は息を呑みました。今朝の話です。彼の.........トレーナーさんの深刻そうな表情を見れば嫌でも分かります.........

 

 

桜木「マックイーンは凄い才能を持っている。だから、春の天皇賞は絶対勝てるんだ」

 

 

マック「.........」

 

 

桜木「けど.........その道中負けっぱなしなのは.........俺も良くないと思っててさ.........だから.........」

 

 

マック「そう.........ですか.........」

 

 

マック「それが.........貴方の出した.........答え.........なのです、ね.........」

 

 

 膝の上で握りしめた手の甲に、雫が落ちます。聞きたくなかった.........!!知りたく、ありませんでした.........!!!

 彼とは、一心同体。そう思っていたのは、どうやら私だけだったようです.........!!

 

 

マック「さようなら!!![桜木]さん!!!」

 

 

桜木「っっ............」

 

 

 背中から聞こえてくる制止の声も聞かずに、私は勢いよく、チームルームから出ていきました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........」

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 

 無機質な自動ドアが開き、俺の身体を外の空気へ晒す。久しぶりのコンビニ飯だ。今日、こんな日まで自分の為に自炊はしたくない。

 

 

マック『さようなら!!![桜木]さん!!!』

 

 

桜木「っ.........」

 

 

 まただ。あの顔が何度もフラッシュバックを繰り返す。引き金なんてどこにもないし、どこにでもある。全てがトリガーだ。

 スイーツ、芦毛、敬語、野球、ウマ娘、全てが目に入る度にあの子の涙が思い出されてしまう。

 

 

桜木(.........仕方、ないだろ.........天皇賞だけ勝っても、それじゃ.........)

 

 

 身分が、違う。ただの勝利じゃ意味が無いんだ。勝ててる中で天皇賞に勝ってこそ、純粋な目標達成の気持ちが溢れるんだ。スランプ脱却の喜びと、履き違えちゃいけない。

 今日はコイツの世話になるしかない。そう思い、尻ポケットに入っているタバコを取り出そうとすると、指に引っかかった何かがヒラヒラと地面へ落ちた。

 

 

桜木「.........はは、何が仕事運は上々だ.........神様にも冗談が言えるなんてお笑いだぜ.........」

 

 

 いっそここで燃やしてしまおうかなんて思ったが、これも、大切な思い出の一つだ。あの子がこれからいなくなる.........そう思うと、こんな紙切れ一枚でも、家族写真みたいな温かさを帯び始める。人間拗らせると、こすいことをするもんだ。

 半年ぶりであろうタバコの味.........あの時よりは大人になった気がするが、その代わり、タバコの煙は陳腐な味がした.........

 

 

桜木「.........あの子に先に惚れたのは、俺なんだけどなぁ.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テイオー「マックイーン大丈夫?調子悪いの!?」

 

 

マック「へ.........?いいえ.........大丈夫ですわ」

 

 

 ここは.........教室.........?良かった。ちゃんと学園には来れたのですね.........昨日は、あれから寮に帰ってから泣いていた記憶しかありません.........我ながら、脆いものです。

 うぅ.........いけませんわ.........あの人の顔を思い出しては行けませんのに、生活のあらゆる物が彼を想起させます。

 食事も、スイーツも、この献立表も、太陽を眩しく感じる時はいつも羨ましかった彼のサングラスを思い出し、授業に至ってはチョークを見る度にいつも彼が咥えていたココアシガレットを思い出させます.........!

 

 

マック(これは寝不足.........!寝不足のせいですわ.........!!)ジワッ

 

 

テイオー「.........」

 

 

 とにかく、今日を必ず乗り切らなければ.........後ろで何やら無言でウマフォンを操作し始めたテイオーを後目に、私は次の授業の準備を始めました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タキオン「全く、キミも人使いが荒いねぇ。まるで、どこぞのモルモット君みたいだよ。それで?話とはなんだい?」

 

 

タキオン「.........ふぅン?なるほど、昨日のあのご指名は関係ありそうだねぇ.........カメラをチェックしてみるよ」

 

 

タキオン「ああそれと、昨日渡したアイジング用スプレーだが、βとは違って使用後は普段と同じ体温になるよう調整したよ。キミが余りにも神経質だから、暴れられても困るんだよ。安心して使ってくれたまえ」

 

 

タキオン「.........はぁ、これが解決したら、モルモット君に新薬の実験に付き合ってもらわなくてはねぇ。例えば.........そう、独占欲が強くなる薬とか.........ククク、第二のヘルカイザーが誕生してしまいそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木(.........美味しくない)

 

 

 噴水の音が綺麗に流れる三女神の像の前。最近はもうめっきりここに来なくなってしまった。口に入れたサンドイッチは、パサパサするだけで美味しくない。

 

 

ゴルシ「おい」

 

 

桜木「.........ゴールドシップ」

 

 

 地面に向けた視線。不意に影が被さる。顔を上げてみると、それはいつにも増して無表情なゴールドシップが、そこには立っていた。

 

 

ゴルシ「何やってんだよオマエ。それでもトレーナーかよ」

 

 

桜木「.........トレーナー[もどき]、だ」

 

 

ゴルシ「っ、アタシは自分の事を紛い物扱いするヤツに、マックイーンを紹介したわけじゃねぇ」

 

 

桜木「そりゃ残念。お前のお眼鏡の度が合ってなかったんだ。眼科に行って、もう一度視力を計ってこい」

 

 

ゴルシ「アタシの視力は10.0だ」

 

 

桜木「そりゃマサイ族だろ.........」

 

 

 もう一度、顔を下げる。今日は誰の顔も見たくない。社会人になってからは初めてのこの感情に振り回される。今は子供より、子供っぽい。

 しかし、俺のワイシャツにゴールドシップの両手が伸びてきて、一瞬にして引き寄せられる。今までにない真剣な表情で、怒りの感情も感じられていた。

 

 

ゴルシ「いいか、アタシはおっちゃんだからマックイーンを頼んだんだ、他の奴じゃなくて、オマエにだ」

 

 

桜木「.........買い被りすぎだ.........現に俺は、マックイーンのスランプを脱却させる事が出来てない」

 

 

ゴルシ「そんなのどうでもいい。アタシは目先の勝ち負けより、[未来]の事を思っておっちゃんにマックイーンを託したんだ」

 

 

桜木「未来.........!?」

 

 

 間近だった美人の顔が急に遠のく。どうやら、 ゴールドシップが俺を突き飛ばしたらしい。

 体が地面に着く前に、冷たいという感覚が全身に浴びせられる。手に持っていたパンも、ポケットに入れていた携帯もいつの間にか彼女の手に収まっていた。

 

 

ゴルシ「いつまで燻ってんだよ。アンタはもう、行先は決めてんだろ」

 

 

桜木「っ!.........ああ、そうだった.........」

 

 

 冷たい水に包まれたおかげで、頭が冷えた。どうやら、周りが見えていなかったらしい。

 行先は決めてる。それは天皇賞の制覇というゴール。けど、今俺のしようとしている事は、その特等席を譲るという事だ。あの男に、そんな上等な物は譲れない。

 指し伸ばされた手を思い切り掴む。この手を取ったからには、もう俺は、メジロマックイーンを移籍させるという事は出来なくなったという事だ。

 

 

ゴルシ「目ぇ覚めたか?おっちゃん」

 

 

桜木「ああ、お陰様でな.........一つ、教えて欲しいことがある」

 

 

ゴルシ「なんだよ、アタシはそんなホイホイ情報を教える程安いウマ娘じゃないぜ?」

 

 

桜木「悪かったよ、これから何があっても、メジロマックイーンを諦めない。これでどうだ?」

 

 

ゴルシ「あと1ドルと20ペリカ欲しいけど、おっちゃんだから負けてやるよ。それで?何が欲しいんだ?デーモンコア?」

 

 

桜木「そんなバカ高ぇもんじゃねえよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックイーンの連絡先、教えてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........」

 

 

桜木「.........よう」

 

 

 昨日まで、私が居たチームルーム。もうここに来る事は、ないと思っていましたのに.........

 目の前にいるその原因を作った男性は、少し悪びれるように眉を上げました。

 

 

マック「なんでしょう、もう貴方との契約は打ち切れた筈では?[桜木]さん」

 

 

桜木「はは.........手厳しいな、けど。それくらい言われないとダメだ」

 

 

 そう言いながら、彼は笑います.........その笑顔を見るのが、とても苦しい.........

 どうして?なぜ、今そんな顔を見せるのですか?まさか、私が苦しむと分かってて.........そんな顔を.........?

 

 

桜木「ごめんな、マックイーン」

 

 

マック「っ、今更謝られても困ります。用というのはそれだけですか?」

 

 

 送られてきたメッセージには、「昼休み、チームルーム」とだけ。彼とは連絡先を交換してはいないと言うのに、どうやって送ってきたのかは分かりませんでした。

 これ以上は.........耐えられません。私はきびすを返し、扉に手をかけようとしました。

 

 

桜木「.........怖かったんだ」

 

 

マック「.........!」

 

 

 トレーナーさんから初めて聞こえる、怯えた様な震える声。扉に掛けようとした手が、引っ込んでしまいました.........

 

 

桜木「マックイーンは、メジロの名を背負ってるだろ?けれど、ここ最近は負け続きでさ.........それでも、天皇賞だけはと思って、今の練習メニューにしたんだ」

 

 

 そう、自然な身体のフォームで、流れる動作で走れるようにする為のトレーニング.........その理屈は素晴らしく、全ウマ娘が目指すべき理想系でもあります。ですが、理想と言うのは逆に言えば、届き難いから理想と呼ばれるのです。私も.........この走りをまだ、習得できていません。

 

 

桜木「けどさ.........やっぱ分かんなかったんだよ、[トレーナーもどき]って言われるまではさ.........」

 

 

マック「.........」

 

 

 そう言いながら、トレーナーさんは、困った様に笑いました.........笑ったのです.........!!

 バカです。おバカ。おバカさん.........!!そんな苦しそうに笑われても、困るのはこっちなんです.........!!

 

 

桜木「.........だから、今すぐ勝てて、天皇賞も勝てるようトレーニング出来る人に頼めば.........良いかなってさ」

 

 

マック「良いかなって.........!!!そんなの!!無責任ではありませんか!!!」

 

 

マック「どうしてですか!!!?辛いなら辛いと!!!ハッキリと言えばよろしいでは無いですか!!!」

 

 

マック「こちらは負担ばかりかけてしまって申し訳ないと思っているのに!!!そんなの.........!!![嘘]ではありませんか!!!」

 

 

桜木「!」

 

 

 溢れ出る熱さを、絶え間なく出続ける熱さを止めることが出来ず、私はそのままはしたなく床へとへたりこんでしまいました。

 そんな私に.........申し訳なさそうに近付いてくるトレーナーさん。嫌です。こんな顔.........貴方に見られたくないのに.........

 

 

マック「バカ!!本当におバカさんなんですから!!」

 

 

桜木「マックイーン.........」

 

 

 両膝着いた彼の胸元に身体を任せ、彼を優しく叩きました。彼のブレない身体に、私の 身体を預けながら、彼の胸を叩き続けました。

 

 

マック「私は悔しかったです!!!トレーナーさんはしっかり.........!!!私達の事をきちんと見ていると言うのに.........!!!」

 

 

マック「トレーナーさんはもう立派なトレーナーです!!![もどき]なんかでは決してありませんわ.........!!!」

 

 

桜木「っ.........!」

 

 

 あの方々は普段のおちゃらけたトレーナーさんしか見た事ないからそんな事が言えるのです.........!!

 彼の並々ならぬ努力があってこそ成立するのが今のチームのトレーニング。彼考案のトレーニングは独特で、安全確認をする為にまず、彼がしっかりと実践します。そして、それをPCの3Dモデルに投影し、どの部位にどれくらいの力が働いてるかを計算させます。

 それだけではありません。不測の事態に備え、敢えて可動域の限界まで身体を動かすこともあります。不慮の事故や不注意によって引き起こされる事故からの損傷をなるべく避ける為にです。

 これほどまで.........私達の為に手を施してくれているのに.........!!私のせいで.........!!

 

 

マック「申し訳ございません.........!私が.........不甲斐ないばかりに!!!」

 

 

桜木「.........マックイーンが気に病むことは無いよ。スランプは一流にしか訪れない。この言葉はよく知ってるだろ?つまり、君は立派なウマ娘だ」

 

 

 そう言いながら、もう心配する事はないと言ったように彼はニカッと笑ってくださいました。もう.........!!本当にその笑顔に弱いんですから私!!

 しばらくの間、会話はありませんでした。もう溢れ出ていた熱さはなく、内から来る熱さで赤くなった頬を隠す為に、彼の胸に顔を埋めました。鍛え抜かれた男性の身体.........衣服越しでも硬さが分かります.........

 

 

桜木「マックイーン」

 

 

マック「ひゃあ!?な、なんですか.........?」

 

 

桜木「明日にはもう、解決してるからさ。もう一度、エースになってくれないか?」

 

 

マック「.........!ええ、もちろんです.........また、お願い致します。[トレーナー]さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........うぅ、緊張しますわ.........!」

 

 

ゴルシ「安心しろよマックイーン!おっちゃんは絶対大丈夫だ!」

 

 

タキオン「全く、トレーナー君も隅に置けないねぇ、まさか彼女を手放しかけてたなんてさ」

 

 

テイオー「ホントだよね。これが終わったらサブトレーナーにお説教しなきゃ」

 

 

 次の日のチームルームの扉の前。昼休みではありますが、中には以前来た男性と、トレーナーさんが二人だけいます。

 実は今日、アグネスタキオンさんから連絡があり、今から始まるとメッセージが来たのです。うぅ、自分の事ではありますが、対処するのは彼なのに、何故か緊張しますわ.........!!

 

 

男「それで?答えは出たのか?」

 

 

桜木「ええ、すんなりと。契約書です」

 

 

全員「な!?」

 

 

テイオー(ちょっとゴールドシップ!?どういうことなのさー!!?)

 

 

ゴルシ(アタシだってわっかんねぇよ!!どうなってんだ一体!?)

 

 

タキオン(落ち着きたまえ!!今はそんな事より.........)

 

 

マック「.........」ホロリ...

 

 

 ふふふ.........何故でしょう。涙が溢れてきてしまいます.........私は.........!!信じていましたのに.........!!!

 男性は、驚きながらもトレーナーさんから契約書を受け取ると、その身体を震わせました。

 

 

男「ははは.........!!!コイツはとんだ傑作だ!!!まさかプライドまで[もどき]だったとはなァ!!!」

 

 

桜木「.........」

 

 

男「これでメジロマックイーンは俺のもの.........!!俺の出世は確定だ.........ばっかだなァ!!スランプなんざ早々簡単に脱せられる訳ねぇだろうがァッッ!!!」

 

 

 耳をつけなくても聞こえてくる不快な笑い声。嫌ですわ.........こんな男に、トレーニングを見て欲しくなんてない.........!!

 もう、裏切られた悲しさと、トレーナーさんをバカにされた悔しさと怒りで、感情がごちゃ混ぜになってしまいました。

 テイオーもゴールドシップさんも、私を慰めるように背中を摩ってくれました。

 

 

テイオー「アイツ、後でとっちめるから」

 

 

ゴルシ「任せろテイオー。アタシも久々にムカついた」

 

 

タキオン「.........いや、その心配はなさそうだよ」

 

 

三人「.........?」

 

 

 一人だけ中の様子を見続けていたタキオンさん。一体、どういう事なのでしょう.........?そう思ってもう一度耳を傾けると、先程の男性の声がまた聞こえてきました。

 

 

男「これでメジロマックイーンは俺のもの.........!!俺の出世は確定だ.........ばっかだなァ!!スランプなんざ早々簡単に脱せられる訳ねぇだろうがァッッ!!!」

 

 

男「これでメジロマックイーンは俺のもの.........!!俺の出世は確定だ.........ばっかだなァ!!スランプなんざ早々簡単に脱せられる訳ねぇだろうがァッッ!!!」

 

 

男「これでメジロマックイーンは俺のもの.........!!俺の出世は確定だ.........ばっかだなァ!!スランプなんざ早々簡単に脱せられる訳ねぇだろうがァッッ!!!」

 

 

桜木「中々良い声してるじゃねえか。今から養成所通えよ。ここより合ってると思うぜ」

 

 

男「テメェ.........っつッッ!!!??」

 

 

 窓から様子を伺ってみると、片手に携帯を持ち、片手にライターを持って契約書を燃やしたトレーナーさんの姿が見えました。その顔は正に、彼の憧れる悪役そのものでした。

 

 

男「テメェ.........こんな事してタダで済むと」

 

 

桜木「飯代よりは安い。俺にとっちゃな.........けど、お前は違う」

 

 

 地面に落ちた契約書の煙を、火災報知器が感知しました。次の瞬間には警報が鳴らされ、上からシャワーのように水が拡散されて行きました。

 

 

桜木「もうじき理事長が突っ走ってくる。どうせまた室内で花火でもしたんだろうと結論付けしてくるだろう」

 

 

男「くっ.........!」

 

 

桜木「お前らに[トレーナーもどき]って言われる前から俺は[問題児]だ。頭に入れておくべきだったな。元先輩」

 

 

男「ふざけるな.........ッッ!!!」

 

 

桜木「授業料は取らねぇ。アンタの先を思うと可哀想だからな」

 

 

 いつもの優しい微笑みでも、ニカッとするような明るい笑顔でも無い。そこには、まるでイタズラが成功して喜ぶように不敵な笑みを浮かべるトレーナーさんが居ました。

 

 

マック(素敵ですわ.........///)

 

 

 今まで以上に皮肉的な言い回しも、今では演出を良くするスパイスです。うぅ、本当にズルい人です.........!!

 そんな事を思っていると、流石にマズいと思ったのでしょう。男性はドアを開けて逃亡を図ろうとしましたが、そうはさせません。四人のウマ娘がしっかりと扉を塞ぎました。

 

 

男「クソっ!なんで開かねぇ.........!!!」

 

 

桜木「.........はぁ、まさかあの子らか?来るなって言ってたのになぁ.........」

 

 

「危機ィィィ〜〜〜ッッ!!!」

 

 

男「早すぎやしねぇか!?」

 

 

桜木「五回目にもなると着替えも早くなる」

 

 

 そう、トレーナーさんの言う通り理事長が飛んできました。まるで消防士の様な格好をして。勢い良く私達の抑えている扉を蹴破りました。着替えも早くなるとは、きっとその姿の事でしょう。

 

 

男「が.........ッッ!!!??」

 

 

やよい「要求ッ!!説明してもらうぞ!!桜木.........トレーナー.........?」

 

 

 普段より大きな声を発しながら登場を果たした理事長。しかし、その言葉を発している間に、自分の乗っている扉の下敷きになってしまっている存在に気が付きました。

 けれど、トレーナーさんはお構い無しに、不敵な笑みをさらに深め、自分の携帯を理事長にチラつかせました。

 

 

男「これでメジロマックイーンは俺のもの.........!!俺の出世は確定だ.........ばっかだなァ!!スランプなんざ早々簡単に脱せられる訳ねぇだろうがァッッ!!!」

 

 

男「っ、テメェ.........ッッ!!!」

 

 

桜木「先輩、悪いが俺はマナーを知らねぇ。若いからな」

 

 

やよい「.........詳しく聞かせてもらおうか、東トレーナー?」

 

 

男「っ.........」

 

 

 理事長はそう言うと、その小さい身で倒した扉を片手で持ち上げ、東と呼んだトレーナーを引きずりあげました。

 

 

やよい「後で君の話も聞こう!!今は、この後片付けをすると良い!!」

 

 

 失礼した!!と大きい声で宣言した理事長は、男を連れて教室を出ていかれました。彼はすれ違いざまに憎らしそうに私の顔を見ましたが、私は多分、彼以上に憎しみを込めて睨んだと思います。

 ですが、そうもしてはいられません。今はトレーナーさんの方が先決です!!そう思い、教室に入ろうとすると、彼は何も言わず、片手で制止しました。

 

 

桜木「.........ちょっと一服させてくれ」

 

 

タキオン「.........意外だね、喫煙者だったのかい?」

 

 

桜木「ああ、今年二回目の喫煙だ.........」

 

 

 濡れた身体もそのままに、彼は窓際まで歩いていき、外に向けてタバコを吸い始めました。

 

 

桜木「.........俺は来るなって言ったんだけどなぁ」

 

 

タキオン「それを黙って聞けるほど、優等生の集まりじゃない事はキミがよく知ってるだろう?」

 

 

桜木「はは、でも。マックイーンにだけは見られたくなかったよ。嘘でも裏切りみたいなもんだからな」

 

 

マック「本当.........心臓が止まりかけましたわ.........」

 

 

 まさか、あんなに契約書をすんなり渡すとは思いませんでしたもの。今思い出したら少しムカムカしてきましたわ。

 

 

マック「えい♪」

 

 

桜木「ひぅ!?」

 

 

 ゆっくりと気付かれないよう彼に近付き、彼の弱点を人差し指で一突きしました。可愛らしく体をピクンと反応させた彼は、恨めしそうに私の方を振り返りました。

 

 

桜木「マックイーン.........タバコ吸ってるから.........」

 

 

マック「あら、あんなにひどい仕打ちをしたのに、私の事を邪魔者扱いするのですか?」

 

 

桜木「いや、そんなつもりは.........」

 

 

マック「うぅ.........ひどい、ひどいですわトレーナーさん.........およよ.........」

 

 

 わざとらしく嘘泣きをしてみます。あの時私は本当に困っていたのです。これくらいしても許されると思います。

 本当、今考えてみると変なチームです。まず、こんなに水浸しになるチームルームなんて、何処を探してもありはしませんわ。

 

 

桜木「.........悪かった」

 

 

マック「.........それだけですの?」

 

 

桜木「許して欲しい」

 

 

マック「態度で示してください」

 

 

桜木「.........これで良い?」

 

 

 いつもよりぎこち無い撫で方で、私の頭を撫でました。まぁ及第点です。許して差し上げましょう。

 そんな満足感と言うか、充足感に浸っていると、トレーナーさんは不自然にずっと目をそらしていることに気が付きました。

 

 

マック「.........トレーナーさん?どうしたのですか?」

 

 

桜木「いや、みんな見てるからさ.........」

 

 

マック「.........はっ!い、いえ!これは違くて.........」

 

 

ゴルシ「違うって、何が違うんだよ?」

 

 

テイオー「いいなー。ボクもヨシヨシして貰いたーい!!」

 

 

タキオン(黒津木君にいいお土産が出来たな)

 

 

 うぅ、私ったら、皆様の前でなんてはしたない姿を.........!!顔が熱くなってしまっているのが手に取るように分かりました。

 ゴールドシップさんは不思議そうな顔で、テイオーは羨ましそうにしっぽを振っていました。タキオンさんは白衣の内から何か光が反射しましたが、なんなのでしょう.........?きっと気の所為ですわ。

 

 

ゴルシ「それにしても、いい度胸してんじゃねえか!!惚れ直しすぎてもうおっちゃんの事思い出せねぇ!!」

 

 

桜木「そりゃすまねえな。これから新しく知ってってくれ」

 

 

テイオー「でもさ、なんであんな事したのさ!別に普通に断っても良くない!?」

 

 

桜木「まぁ、アイツがただマックイーンの事を思っての行動だったらそうしてたんだが、最初から俺の事を見下してたし、独占欲で動いてたからな.........」

 

 

桜木「悲しい話でさ。貧乏長く続けてると、手段と目的でしか道のりを測れなくなる。こだわりを持つということは、その分手間暇と確実性を潰す事になるからさ」

 

 

桜木「ゴールドシップに言われて気付いたよ。あっちが私欲なら、こっちも私欲で勝負してやるってな」

 

 

 ゴールドシップさんが.........?まさかと思い、彼女に視線を送ると、彼女は恥ずかしそうに私から視線を逸らしました。

 むぅ、さては貴女ですわね、連絡先を教えたのは.........

 

 

ゴルシ「わ、悪かったよ。勝手に連絡先教えたのは謝る!!けどさ、アタシとしては、おっちゃんとマックイーンには仲良くしていて貰わなきゃ困るんだよ」

 

 

二人「.........?」

 

 

ゴルシ「あ!!いっけね、鯛でエビを釣るために漁船予約してたの忘れてたわ!!じゃな!!」

 

 

テイオー「あ!ちょっと!!?」

 

 

 何かに駆り立てられる様にチームルームから走り去るゴールドシップさんは、まさに脱兎のごとく、という言葉がお似合いでした。テイオーの声も届かなかったんですもの。やはり素晴らしい才能を感じますわ。

 ですが、その反応がなぜか、何かを隠している気がしてなりませんでした。まぁ、謎の多い彼女の事です。隠し事をされたとしても、彼女の抱えているブラックボックスがひとつ増えるだけですわ。

 

 

タキオン「.........それで?君達はどうするんだい?」

 

 

桜木「俺はあんなこと言ってしまった手前、とても言えた義理じゃないんだが.........マックイーンは俺にとっても、チームにとっても必要だ。一緒に頑張って行きたいと思っている」

 

 

テイオー「わわわ、いつにも増して真剣だね!サブトレーナー!!」

 

 

桜木「今日くらい素面で居させろ。マックイーンは.........どうしたい?」

 

 

 そう聞いてくるトレーナーさんの表情は、とても真剣な眼差しでした。初めてではありません、選抜レースが終わったあの時から見え隠れしていた、彼の本心です。

 彼の言いたい事はもちろん分かります。メジロの名を背負っている以上、なるべく出るレースには勝って行きたい。

 ならば、彼の言う通り移籍してしまえば良い。ですがそれでは、[メジロマックイーン]では無く、ただのウマ娘となってしまいます。

 メジロの名を背負うのは私のこだわり。そして、このチーム[スピカ:レグルス]で勝つのも私のこだわり。私は、彼と[勝ちたい]。

 そのこだわりに誇りを持ち、レースに望むことでようやく、私は[メジロマックイーン]になるのです。

 だから.........答えはもう、とっくのとうに出ています。

 

 

マック「.........これからも、騒がしくなると思うと、何だか安心します」

 

 

桜木「!」

 

 

タキオン「.........はぁ、本当に世話が焼けるね、君達二人は」

 

 

テイオー「やったー!!マックイーンが戻ってきたー!!」

 

 

 離籍していたのはほんの一瞬でしたのに、テイオーは喜びを抑えきれず、私に抱きついて来ました。ちょっと苦しいですが、悪い気はしません。

 

 

桜木「.........喜んでるところ悪いんだが.........」

 

 

ウララ「わー!!!教室がびちゃびちゃだー!!!」

 

 

ライス「も、もしかしてライスのせい.........!?」

 

 

ブルボン「いえ、72%程の確率で、マスターの行動による結果かと」

 

 

 ウララさん達の後ろを、面白そうなことを嗅ぎ付けた様な表情でトレーナーさんの友人方が入ってきました。教室の惨状具合も相まって、ゴチャゴチャとした酷い光景なのに、なんだかここが自分の居場所だと感じて、心地好くなりました。

 

 

桜木「.........片付け大作戦、決行するか.........」

 

 

マック「こういう時は元気よく行きましょう?トレーナーさん!」

 

 

桜木「.........片付け作戦!決行だ!!」

 

 

 その掛け声と共に、私を含めた何人かの方が、おーっ!と声を上げました。まぁ、他の方は批判気味な声を上げましたが、仕方ありません。必要経費でしたので。

 

 

神威「ほら、雑巾とモップだ。あとお前、タバコ吸っただろ。ちょっと臭いぞ」

 

 

桜木「一瞬だけだ。今年はもう吸わん」

 

 

黒津木「誓約書にサインしろ」

 

 

白銀「俺に誓え」

 

 

桜木「ぜっっったい嫌だ」

 

 

マック「.........ふふ、あはははは!」

 

 

 安心したせいか、いつもとは違う大きな笑い声を上げてしまいました。ですが、それに気を留める人は誰もいません。先程より更にしっちゃかめっちゃかになっていく教室の中で、追いかけ回されるトレーナーさんを見て、みんなで笑いました。

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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