山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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トレーナー「メジロ家従者はコント集団だ!!!無礼るなよッッ!!!」

 

 

 

 

 

桜木「デケェ.........」

 

 

 少年は皆、大きいものが好きと言われる。それは多分、五人一組の男女混合の特殊部隊の最終兵器が全長50メートル位のビルと同じ高さのロボットの影響も多大にあるだろう。

 現に、俺はこうしてあまりにデカすぎるマックイーンの実家に恐怖を覚えている。

 

 

マック「トレーナーさん?早く参りましょう?」

 

 

 そんな俺とは対照的に、マックイーンは何も気にせず玄関への階段を上がる。このお嬢様め、ここがお前のハウスか!!

 

 

桜木「.........よし」

 

 

 こんな所で食事をして、果たして俺は味を感じる事が出来るのだろうか?だが、女の子からのお誘いを蹴るのは愚か者のする事だ。

 覚悟を決めろ。ここがお前の正念場だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック婆「初めまして桜木トレーナー。マックイーンの祖母です」

 

 

桜木「は、ははは、はじはじま初めました」

 

 

マック「緊張しすぎですわ.........」

 

 

 隣で苦笑いを浮べる彼女に最初に案内されたのは、彼女のおばあちゃんの書斎だった。威厳のある風格でオーラも凄いが、どこか可愛らしいおばあちゃんだ。

 玄関に入ってから感じていたが、やはり別世界だ。ドアを開けたら異世界。うーん、ラノベじゃ在り来りだけど、現実からしたら異質な話だ。

 

 

マック婆「あの古賀トレーナーのお弟子さんだとお伺いしましたが、あの言葉も彼の仕込みですか?」

 

 

桜木「?」

 

 

マック(メイクデビューのあの時の言葉ですわ)

 

 

 なんの事かさっぱりだったが、マックイーンが耳打ちしてくれたお陰で理解ができた。まぁでも、完全におばあちゃんにはバレてるよ。俺は屈んでたしマックイーンは若干背伸びしてたし、それなら普通に教えてくれても良かったんじゃないかな?

 

 

桜木「いえ、あれは俺の本心ですよ。でなきゃぶっつけ本番であんなこと言えないじゃないですか.........」

 

 

マック「あの後心底後悔してましたわ!」

 

 

桜木「言わないで!!」

 

 

 恥ずかしい。自分で言ったことだろと言われるかもしれないが、じゃあ君達は自分の寝言に責任を持てるのか?いや関係ないか、俺はその時起きてたんだから。

 そんな俺とマックイーンのやり取りを見て、おばあちゃんはやはり、上品に笑う。マックイーンが普段から尊敬するおばあちゃんの笑い方は、マックイーンに少し似ていた。

 

 

マック婆「やはり、彼にそっくりですね.........マックイーンのこと、くれぐれもよろしくお願いします」

 

 

桜木「!も、もちろんです!プロですから!」

 

 

マック「おばあ様!今日の食事はお祖母様も来られますか?」

 

 

マック婆「いいえマックイーン。実はこれから〇〇商事の会長と会食をしなければいけないのです。久々にゆっくりと話したかったのですが、ごめんなさいね」

 

 

 そう言いながら優しく微笑むおばあちゃん。なるほど、お偉いさんになると自分の家で食事をするのも一苦労なのか、大変だな.........そう思っていると、机の下からデカいトランクをドンッ!と持ち上げた。

 

 

マック婆「では行って参ります」

 

 

二人「今(ですの)!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「なぁマックイーン?」

 

 

マック「.........なんでしょうか?」

 

 

桜木「メジロ家って凄く格式の高いお家だと思ったんだけどさ.........」

 

 

マック「止めて下さい。それ以上言わないでください」

 

 

桜木「メジロ家ってコント集団だったんだな.........」

 

 

マック「トレーナーさんっっ!!!」

 

 

 隣で食事をとるマックイーンに話しかける。あれから色々挨拶をしていたがそう言われてもおかしくないくらいにはおかしかった。

 まず爺やさんだ。マックイーンが呼んだら屋根裏からロープで降りてきた。ヤバすぎだろ。前世は忍者。

 そしてシェフ。俺たちが話しかけてても料理を止めない。たぶん俺があった中で一番のサイコパスだ。料理の為なら人も殺せる。

 他にも色々やばかったがそれでも群を抜いてやばかったのが主治医だ。右手に注射器を持っていたが、理由を聞いてもマックイーンの主治医だからとしか言わなかった。

 

 

桜木「.........」

 

 

「おや、食事が進んでないようだね。遠慮せずに食べたまえ、桜木くん」

 

 

桜木「たはは.........柄にもなく緊張しておりますゆえ、それにしても、こんな形で会えるとは思いませんでしたよ。財前さん」

 

 

マック「まさか本当にお知り合いとは思いませんでしたわ!お父様、テレビを見ていた時は何も言ってくださいませんでしたもの」

 

 

 少し怒った雰囲気を出しながら、名前も分からない料理を口に入れるマックイーン。やっぱり、親子なんだな.........

 

 

財前「それにしても、会社をやめてトレーナーを始めただけでなく、家の娘の担当になるなんて.........やはり君には何か縁を感じるよ」

 

 

桜木「そう言えば、財前さんの会社に営業しに行った時もそう言われましたね.........」

 

 

 その時は何かのお世辞かと思ったが、こうなってくるとそういう話では無くなってくる。

 社会人時代。財前さんの会社に営業として訪問した時、受け答えしてくれたのが財前さんだ。ハッキリとした求める理想像と、こちらが提示できる限界を見極めて話を進めてくれる彼に憧れたものだ。

 

 

財前「君のような人材が沢山いると思い、君の会社を買収してみたが、やはり君が居ないと思うと寂しくてね」

 

 

桜木「いやいや、俺なんかあそこにいても何も出来ませんよ」

 

 

財前「いいや、君は誠実だ。出来ないことを出来ると言わない。私が求めた理想の為に、他社の製品を勧めただろう?あれこそ、人の目指すべき理想像だ」

 

 

桜木「ですが、会社が求める理想像ではありません。利益を産まない存在は必要ありませんからね」

 

 

 気が付けば、いつの間にか会社の事について話してしまっていた。先程から会話に入ってこないマックイーンはさぞつまらないのではと思い、ちらりと横を見るが、その予想と反して目を輝かせていた。

 

 

マック「お父様、トレーナーさんはどのような人でしたか?」

 

 

財前「どのような.........と言われると難しいね.........少なくとも、ジャックポットを狙わないなんて事を言う人間ではなかったかな」

 

 

桜木「あ、アハハ.........」

 

 

財前「とにかく、彼はリアリストだったよ。上に登るためにはダメージを最小限にしなきゃ行けない。足を引っ張るものは全て切り捨て、前進を助けるものだけを背後に置く。そんな感じかな?」

 

 

桜木「[俺はお人好しだからそんな事は出来ない]と言う発言が抜けてますよ」

 

 

財前「ハハハ、そう言えばそうだったね」

 

 

 別に、出世したいとか言う欲があった訳では無い。ただこの知識を深めて行ければ良いと思っていた。まぁそれも、嫌な上司のせいで思えなくなったのだが.........

 

 

桜木「.........大きい幸せを持っている人がよく、小さい幸せに気が付かないと言う話がありますが、あれは嘘ですよ」

 

 

桜木「大きい幸せという比較対象が自分の元にあるからこそ、小さい幸せに気が付ける。逆に、幸せが無い人間は、大きい幸せを追いかけて、小さい幸せを見逃すんです」

 

 

桜木「俺は後者の人間です。幸せとは程遠い暮らしをしてきました。人はコップとは違います」

 

 

桜木「コップだったら、さっきと違う飲み物を飲みたければゆすげば良い。けれど、人は中身を無くすことは出来ても、ゆすぐ事は出来ないんです」

 

 

二人「.........」

 

 

桜木「.........あ」

 

 

 先程まで楽しかった食事のはずが、俺のせいで静かになってしまった。どうしよう、申し訳ない事をしてしまった。

 うぅ、居心地が変に良すぎるのが行けないんだ。自分の声に出してこういう哲学にも満たない想像をするのが好きなのだ。

 そんな事を思っていると、急にシンとした静寂が、財前さんの笑い声で掻き乱された。

 

 

財前「はっはっはっはっ!!中々面白い考え方をするな桜木くん。だが、それはあながち間違いでもないし、絶対でも無い」

 

 

財前「人は変わる。私が妻に出会ったように、雷に打たれたように一瞬で変わる事もあれば、変わった事に時間をかけて気が付くこともある」

 

 

財前「それはきっと、コップがゆすがれたんじゃなく、元々何が入っていたかも気にせずに自分の飲みたい物を入れて飲んでくれる人が居たからだ」

 

 

桜木「何が入っていたのかも.........気にせずに.........」

 

 

 目の前で微笑みながらそう説いてくれた財前さん。やはり、憧れはまだ遠い存在だ。それに、俺はまだそんな人を気にすることは出来ない。

 

 

財前「桜木くん、君が何を迷っているのか、私には分からない」

 

 

桜木「.........」

 

 

 違う。これはきっと、俺がマックイーンに大して抱いている気持ちの分かりきった対処法についてでは無い。財前さんは心の底から、俺が何に迷っているのかが分からないんだ。

 

 

財前「こんな食事の時にあんな事を言うんだ。何かを迷っているんだろう、だがこれだけは言っておく。君は一人じゃない」

 

 

マック「そうですわトレーナーさん!私も、チームの皆さんも着いています!!」

 

 

桜木「.........はは、そりゃ心強い。確かに一人で悩む内容としては、経験不足が祟っています」

 

 

 少し、肩の荷が降りた気がする。自問自答を続けるのと、他人と討論することではやはり、議論の進み方が違ってくる。

 とは言っても難しい問題だ。相談するとしても、生徒には言えないし、教職員はもっての外だ。ここは一つ、外で味方を作るしかないか.........

 そう思っていると、メイドさんが財前さんに静かに近付き、そっと耳打ちした。

 

 

財前「.........む、もうそんな時間か。分かった。食事を終えたら直ぐに行くと伝えてくれ」

 

 

マック「お仕事ですの?」

 

 

財前「ああ、明日福岡で国際会議があってね。ゲストとして呼ばれているんだ。今日は桜木くんが来ると聞いてここに残っていたんだが、良い話を聞けて良かったよ」

 

 

桜木「俺も財前さんとまた会えて良かったです。出来ればまたお話したい」

 

 

財前「いつでも連絡するといいじゃないか!マックちゃんの事も聞きたいしな!」

 

 

マック「!?お、お父様!!その呼び名は止めて下さい!!」

 

 

 マックちゃんと呼ばれ、恥ずかしそうに慌てふためくマックイーン。家ではそんなふうに呼ばれてるのか。

 そんなマックイーンを尻目に、財前さんは最後の一口を食べ終えると、ご馳走様と食事を終え、急いでスーツの上着を羽織って部屋を出て行った。

 

 

桜木「.........かっこいいよなー」

 

 

マック「!と、当然です!!私のお父様なのですから!!」

 

 

 自分の父親を褒められて嬉しそうに尻尾を振るマックイーン。彼女にとってもやはり、自慢の父親のようだ。

 .........俺も、自分の子供が誰かに自慢出来るような存在で居たいものだ。そう思い、進んでいなかった食事を食べ進める。先程は感じなかった上品な味わいが口の中に広がって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「「「あーーーー............」」」カポン.........

 

 

 声が反響する。日本人というのは身体をお湯に付けると声を発する生物だ。どういう原理かは未だに謎だとアメリカではそう発表されてるとかされてないとか.........

 まて、なんで俺は風呂に入ってる?そこを整理しろ、えーっと確か.........?

 

 

爺や『大変です。ゲリラ豪雨でメジロ家の庭と駐車場が水没しました。今日は帰れません』

 

 

桜木『は?』

 

 

桜木「よし、思い出したな」

 

 

 いやいやいやいや、明らかな嘘だけどね?その後従者の人、急いでカーテン閉めてたけど、星空満点だったの、俺見えてたから。

 まぁ従者の圧がすごいんで、とりあえず今日は泊まっていくことにしよう。なーに、泊まる事くらいこの桜木、どうって事ないで.........

 

 

主治医「主治医です」

 

 

桜木「待て、ツッコミが追いつかん.........なんでここに?」

 

 

主治医「それはお嬢様の主治医だからです」

 

 

桜木「ワケガワカンナイヨー!!」

 

 

 身の危険を感じ、思わず立ち上がってしまった。誰だって某グラップラー漫画に出てきそうな人相の人物が隣に来たら驚くだろう?

 

 

桜木「まず!!なんでアンタはまだ注射器を持ってんだ!!ここ風呂だぞ!!後もうマックイーンの主治医だは禁止だからな!!」

 

 

主治医「では趣味です」

 

 

桜木「ライダー助けて!!!」

 

 

 ガララッ!

 

 

シェフ「シェフです」

 

 

桜木「ファ!?」

 

 

 次にやってきたのはシェフ。手には特製ダレに漬け込んだ鶏肉の入ったジップロック。意外と家庭的。

 いやいやいやいや!!待ってくれ!!この様子だと.........

 

 

療法士「医学療法士です」

 

 

パティシエ「パティシエです」

 

 

桜木「あわわわわわ............」

 

 

 ゾロゾロと勢揃いをし始めるメジロのコント集団。不味い.........そう思っていると、背後に気配を感じ始めた。そうだ。まだ真打が残っていた.........

 

 

爺や「爺やです 」

 

 

桜木「」

 

 

 気を失いそうだ。頭がくらっときたがまだ何とかなっている.........上がろう、もう十分風呂は堪能した.........今は一分一秒でも、この場を離れたい.........

 そう思っていると、爺やさんから何かを手渡された。うーん、形状からしてこれは.........

 

 

桜木「マイク.........ですかね」

 

 

爺や「今のお気持ちを歌でどうぞ」

 

 

桜木「.........」

 

 

桜木「気ーがー狂ーいーそう!!!!」

 

 

全員「なななななー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「トレーナーさん、電気を消してもよろしいですか?」

 

 

桜木「ああ.........もう煮るなり焼くなり.........」

 

 

 そう言いながらトレーナーさんは布団の中へと潜り込みました。それも仕方ありません、ここに来て苦労の連続だったのですから。

 お風呂からのぼせた様子で上がってきたトレーナーさんに、爺やが突き付けたのはとんでもない事実でした。

 

 

爺や『お嬢様の部屋以外の鍵をなくしてしまいました』

 

 

桜木『外で寝ます』

 

 

爺や『ゲリラ豪雨なので玄関は塞ぎました』

 

 

桜木『』

 

 

 無表情で涙を流し始めたトレーナーさんを見た時は可哀想だと思いましたが、私としては結果オーライですわ。

 何故かいつも寝ているベットは撤去されており、代わりに布団が用意されていました。これで彼の隣で寝ることが出来ます。

 

 

桜木「.........近くないか?」

 

 

マック「あら、分かるのですか?」

 

 

桜木「気配でな」

 

 

マック「では気の所為ですわ。トレーナーさんは鈍いので」

 

 

桜木「そう.........」

 

 

 枕の方へ顔を出すと、やはり近いというふうに顔を顰めましたが、私がキッと睨むと何も言わなくなりました。一々細かいんです。もっと違う所に意識を割いてください。

 私も掛け布団を身体にかけ、目を瞑りました。

 

 

マック(.........寝れませんわね)

 

 

桜木「.........」

 

 

マック「あの、トレーナーさん.........起きていらっしゃいますか?」

 

 

桜木「起きてるよ」

 

 

 その声に少し喜んでしまう自分が居ます。思えば、今この状況、私が考えている以上に凄いことなのでは.........?

 いけません、そんなことを考えればますます寝れなくなってしまいますわ!!

 

 

マック「.........今日は本当にありがとうございました。トレーナーさん」

 

 

桜木「こんな俺の話に付き合ってくれたんだ。こっちこそありがとう。マックイーン」

 

 

 彼は布団の中に潜り込ませていた両手を、頭の下に置きました。しばらく、時計の針が響く音を中心に世界が回ります。

 

 

桜木「.........そう言えば、なんか不公平だな」

 

 

マック「.........?何がですの?」

 

 

 そんな静寂の中で、ふとトレーナーさんはそう言いました。表情も目線も変えずに、天井を見上げたまま、彼は続けました。

 

 

桜木「いや、俺ばっかりさらけ出してる感じがしてさ。一個くらい、マックイーンのこと聞いても良くない?」

 

 

マック「あら、レディの過去を知りたいなら、もう一つくらい話して頂かないと釣り合いませんわ」

 

 

桜木「えぇ〜?俺結構話したんだけどなぁ〜」

 

 

マック「ふふ、もう一つですわよ。トレーナーさん♪」

 

 

 私がそう言うと、トレーナーさんは表情を変え、うーんと唸りを上げ始めました。ふふ、これでもう少しお話出来そうですわね.........

 そう思っていると、唸りを上げていた彼は閃いたように声を上げ、私の顔を見ました。

 

 

桜木「そういえば、どうだった?今日のデートは」

 

 

マック「そうですわね.........68点、といった所でしょうか」

 

 

桜木「ありゃりゃ、ちょっと低いなー.........」

 

 

マック「高い方ですわ!あんなにトラブルばっかり起こして!!」

 

 

 うぅ、今思い出してもムカムカしてしまいますわ.........!私が目の前に居たのに、なぜ挨拶なんて.........!あの方もプライベートで来ていたのですし!別に良くありませんこと!?

 そう布団を被って悶々としていましたが、そう言えばとふと思い、トレーナーさんに質問しました。

 

 

マック「.........あの、一つよろしいですか?」

 

 

桜木「?」

 

 

マック「トレーナーさんは、今日のデート。初めてでしたか?なんだか妙に慣れてる感じが.........」

 

 

桜木「あーーー.........うん、初めてじゃないかな。久しぶりだけど」

 

 

マック「!!」

 

 

 その一言だけで、私は酷くショックを受けます。勝手に初めてだと決めつけていた私の方が、彼に失礼だと言いますのに.........

 では、彼は恋人とどこまでしたのでしょう.........?そんな、はしたない想像をするのに、そう時間は掛かりませんでした。

 

 

桜木「.........キスもなく、別れちまったけどなー」

 

 

マック「!そう、なのですね.........」

 

 

 その言葉を聞いて、内心ホッとする私。嫌な女ですわ.........こんなの、彼を好きになる資格なんてありません.........

 しばらく、自分の悪い所に嫌悪を抱きながら、静寂な空間の中で反省を繰り返しました。そんな静かな時間を変えたのは、やはり彼でした。

 

 

桜木「.........えっと、話してもいいかな。彼女の事」

 

 

マック「!!え、ええ.........」

 

 

 咄嗟に肯定の返事をしてしまいましたが、直ぐに後悔が押し寄せました。聞きたくない、彼が.........他の女性と仲良くしてる話なんて.........そう思いながら、自身の身体に視線を向けました。

 

 

桜木「.........まぁ、よくある話でさ。学祭の打ち上げで、幼馴染に告白したんだ」

 

 

桜木「好きでも何でもなかったのに、周りに流されてさ.........お互い知った口だし、軽く別れればいいやと思った」

 

 

桜木「デートは何回かした。その頃にはお互い本気で好きになったんだけど、俺が事故っちゃってさ」

 

 

マック「あ.........」

 

 

 事故.........トレーナーさんの、彼の夢を奪った元凶.........ここでも、その影を見せるのですね。どこまでも、トレーナーさんに取り付いている気さえしてきます。

 ですが、彼はもう気にした様子は見せません。吹っ切れているのでしょうか.........?その目は、何ともないように天井を見上げていました。

 

 

桜木「本来、コイツは私生活を送るのに限界を感じるレベルでズタボロだった。これから先一緒に生きてくには、ハンデがありすぎたんだ」

 

 

桜木「記憶には無いが、どうやら俺から振ったらしい。泣きながら病室を出てったってアイツらから聞いたよ」

 

 

マック「トレーナーさん.........」

 

 

 悪いことしたなーと、彼は心底申し訳なさそうに呟きました。なんだか、ここに来てから少しくらいお話ばっかりです.........

 そう思って彼の顔を見ていると、ふと視線が合いました。

 

 

桜木「ほら、マックイーンの番」

 

 

マック「あ、そう言えばそういう事でしたわね.........」

 

 

 えーっと、何を話せば良いのでしょう。いざ話そうとしてみると、思い浮かばないものなのですね.........うーん、うーーーん.........

 

 

マック「.........私がここに来た時の話.........などはいかがでしょう.........?」

 

 

桜木「俺に聞かなくていいよ。マックイーンの話したい事を話してくれ」

 

 

 うぅ、ここで優しい微笑みは反則ですわ.........!私は身を捩らせ、掛け布団をはしたなく巻き込みながら、布団の上に座りました。こうした方が、しっかり話せると思ったからです。

 

 

マック「実は、このメジロのお屋敷に来たのは、私が3歳位の頃なんです.........お父様の仕事の都合、住居を転々としていた為、今回もそうなんだと、子供心ながらに悟りましたわ」

 

 

マック「ですが、いつもならマンションの一室に引越しをするのですが、その日は違いました。荷物を運搬するトラックが無く、お父様がいつも運転していた車ではなく、リムジン車だったのです」

 

 

マック「あの、面白いですか?」

 

 

桜木「面白いよ。物語みたいだ」

 

 

 そう言ってくださるトレーナーさんは、私と同じように、布団の上で座って居ました。暗い部屋の中で電気も付けずに、彼とお話する。今までに無いシチュエーションです。少し胸がドキドキしてきました。

 

 

マック「えっと、その頃の私は.........その、お恥ずかしいのですが、幼かったこともあり、口調も今とは違い、普通の女の子でした」

 

 

桜木「へー!ちょっと聞いてみたいかも」

 

 

マック「い、今は無理です!!その当時だけですわ!!」

 

 

 私のその声に反応するように笑い声をあげるトレーナーさん。もう、人の気も知らないで.........酷い人です。

 

 

マック「コホン、続けますわよ?」

 

 

桜木「どうぞ」

 

 

マック「.........最初は馴染めませんでしたわ。こんな大勢に囲まれて生活するなんて、今までありませんでしたから.........」

 

 

マック「ですが、それを見兼ねた爺や達が遊んでくれたのです.........その当時は、その。嬉しかったのですが.........あのノリが今でも続いてると思うと.........」

 

 

桜木「あれマックイーンのせいだったのか!?」

 

 

マック「違います!!いえ、違くは無いのですが.........と、とにかく!私のせいではありませんわ!!」

 

 

 彼がメジロ家の従者はコント集団だと言いましたが、あながち間違いではありません。現にあの頃の私は、どこで爺やを呼んでも現れる姿に笑い、どこでも料理をするシェフを笑い、いつも注射器を持っている主治医を笑っていました。

 うぅ、今思うと、なぜ笑っていたのでしょう.........不思議でなりませんわ.........

 

 

マック「.........ですが、やはりおばあ様はあの時の私にとって、怖い存在でした」

 

 

桜木「まぁ、ちょっと目付き怖い所もあるけど、優しそうだったぞ?」

 

 

マック「ええ、今ならよく分かりますわ.........」

 

 

 風邪で寝込んだ時に、よくおばあ様は白いお汁粉を作って下さいました。とても優しい味で、心細くなった時も安心して寝ることが出来ました。

 

 

マック「.........私がこの言葉遣いになったのも、天皇賞の制覇を目指すのも、そして.........おばあ様を好きになったのも、おばあ様のレースをビデオで見てからです」

 

 

 今でも忘れもしません。天皇賞・春。おばあ様が勝ち取った栄光.........インタビューで受け答える姿と言葉遣い。そして、おじい様との信頼関係。その全てに、憧れを抱きました。

 それで.........私は............

 

 

マック「あら.........?」

 

 

桜木「.........続きはまた今度な」

 

 

 話を続けようとすると、トレーナーさんは私のまとった掛け布団を体から離し、私を布団へと寝かして下さいました。

 まだお話していたいのに.........まだ、貴方に聞いて欲しいのに.........ですが、続きはまた今度と言われ、嬉しくなったのも事実です.........また、聞いてくれるのですね.........

 

 

マック「トレーナーさんも.........寝てくださいね.........?」

 

 

桜木「はは、善処するよ」

 

 

マック「ふふ、おやすみなさい.........トレーナーさん.........」

 

 

桜木「ああ、おやすみ。マックイーン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「あの、本当に朝食はよろしいのですか?」

 

 

桜木「ああ、遠慮しとくよ」

 

 

マック「ですが.........」

 

 

 朝日が昇り、キラキラと照りつける太陽。路面はゲリラ豪雨など端からなかったように干からびていました。

 車の扉まで歩くトレーナーさんの後ろを着いて行きます。迷惑かもしれません、そう考えると、これ以上何も言えませんでした.........

 彼が車のドアを開けた時、目が一瞬合います。どうやら、私はあまりいい顔をしていなかったようで、彼は困ったように後頭部をかきました。

 

 

桜木「.........マックイーン」チョイチョイ

 

 

マック「?はい.........!?」

 

 

 彼に手招きされたので、近付いていくと、彼の体が接近してきました。すごく、近いです。彼の首元と私の鼻はもう、5cmもありません。刺激が強すぎます。

 

 

桜木(マックイーン)

 

 

マック(ひゃ、ひゃい!)

 

 

桜木(コイツはマジのトップシークレットなんだけど.........)

 

 

マック(.........?)

 

 

桜木(俺、朝飯食うとお腹壊しちゃうんだ)

 

 

マック(!)

 

 

桜木「だから、マックイーンの申し出は滅茶苦茶嬉しいんだけど、今日はここで帰らせてもらうよ。次こうなる時までには克服しとく!!」

 

 

 私の耳から遠ざかった彼の顔は、いつもの様な少年の笑顔で、そう言い切りました。そうですか.........次、ですか.........

 

 

マック「.........ふふ、あんなに苦労したのに、もう次を考えていらっしゃるのですか?」

 

 

桜木「ああ、また聞かせてくれ。マックイーンの事」

 

 

マック「そうですわね.........またトレーナーさんの事を沢山聞かせていただければ、一つくらい教えて差し上げますわ」

 

 

桜木「それ等価交換か〜?」

 

 

マック「乙女の過去は高くつきましてよ?」

 

 

桜木「.........ははっ」

 

 

マック「.........ふふっ」

 

 

 こうして彼と笑い会う回数も、なんだか日に日に増えて行っている気がしますが、それにいつも慣れません。笑った後は、心臓が高鳴ってしまいます。彼と通じあっている。嬉しさとは違う何かが、込み上げてきてしまうのです。

 

 

桜木「それじゃあ、またな。マックイーン」

 

 

マック「.........ええ、また明日。トレーナーさん」

 

 

 別れたくありません。ですが、それは私のわがままです。それを押し通せるほど、私は強い力を持ってはいません。

 また明日。明日会えると思っても、今日のような非日常はありません.........またいつも通りの、騒がしい素敵な日常が、彼との非日常を上書きしてしまうと思うと、なんだか悲しくなります。

 発進した車に、小さく手を振りました。彼はそれに気付いて、窓を開けて手を出し、振り返します。本当、そういうところです。

 

 

爺や「.........行ってしまわれましたな」

 

 

マック「ええ、ですが。今日はお互いの事を知れましたわ。生きた年数がない分、彼に沢山話してもらいましたが、これを続けていけば或いは.........?」

 

 

 懐から取り出した恋愛指南書。以前は気が付きませんでしたが、今パッと見た時に、作者の所に目が行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作者 爺や&おばあ様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........あの、爺や?これは正規の本ではありませんの.........?」

 

 

爺や「おや、それはおばあ様がおじい様を無理矢理落としたメジロの兵法ですぞ」

 

 

マック「メジロの兵法っ!?」

 

 

爺や「いやはや、バレてしまっては仕方ありませんな」パンパン

 

 

主治医「主治医です」

 

 

マック「.........あの、何故今注射器を.........?因みに、私の主治医だとか趣味だとかのたまったら、蹴りますわよ」

 

 

主治医「では生まれつきです」

 

 

マック「.........わ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワケガワカリマセンワーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、特に理由も無い注射針が、メジロマックイーンのお腹を襲ったと言う。余談ではあるが、その後、若干太り気味だったお腹周りが痩せたとか痩せていないとか.........

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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