山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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トレーナー「花火と決意とこれからと」

 

 

 

 

 

 

 夏合宿三日目。朝のミーティングが始まる十分前。数人集まったミーティング室の中で、私は一人課題に手をつけていました。

 そんな中、何時もなら顔を出しても「寿司握る為に握力鍛えてくる」だとか、「エビのタイちゃんをタイのエビちゃんに食わせねぇと!!」とか、意味不明な事を言い続けて顔を見せなかったゴールドシップさんが、私の前にしょんぼりと現れました。

 

 

ゴルシ「ごめんなぁマックイーン.........」

 

 

マック「き、急になんですの.........?」

 

 

ゴルシ「昨日の配信母ちゃんが見ててさ.........マックイーンをいじめるなって.........」

 

 

マック「ああ.........大丈夫ですわゴールドシップさん。気にしてませんから」

 

 

ゴルシ「本当か!!?いーやービビったぜー。なんせあの様子じゃ二週間は口聞いてくれないなんて言われっからさぁ!!」

 

 

 う、なぜそうしようとした事がバレたのでしょう。侮れませんわね、ゴールドシップさんのお母様.........

 ですが、それくらいの事をしても宜しいのではなくて?聞けばあの一連の動き、初心者どころか、経験者ですら打開不可能なほどに強いらしいのです。絶対確信犯ですわ。

 

 

マック(.........でもまぁ、珍しい事もあるものですね)

 

 

 あのゴールドシップさんが謝るなんて、思っても見ませんでした。「あ、沸騰させたお湯キンキンに冷えたか見てこなくちゃ行けねぇ!!」なんて言って何処かへと消えていきましたが、今日は見逃してさしあげます。

 そう思っていると、肩に何やら二回ほど何かが当たりました。誰でしょうと思い、振り返ってみると、そこには何やら勝ち誇った顔で片手にペンを持ったテイオーが居ました。

 

 

テイオー「ねぇマックイーン!!知ってる!?」

 

 

マック「いいえ、まず何を知ってるかという主語を話してくださいます?私、エスパーではございませんのよ?」

 

 

テイオー「へー、ボクにそんな態度とっちゃうの〜?せっかくマックイーンに教えてあげようと思ったのになぁ〜?」

 

 

マック「ウララさん、知っていますか?」

 

 

テイオー「あ!!ちょっと!!」

 

 

ウララ「言っていいの!!?」

 

 

 先程から私とテイオーの会話をうずうずと聞いていたウララさん。テイオーの反応からして、わざわざ口止めをしていたのでしょう。

 

 

ウララ「えっとねえっとね!!さっき海でかき氷屋さんが来てたの!!そしたらね!!」

 

 

 『お嬢ちゃんたち、今日の夏祭りは来るのかい?すごいぞ〜、中央に負けないくらいデカイ花火が打ち上がるんだ!!』

 

 

ウララ「.........って!!」

 

 

マック「夏祭り.........」

 

 

 楽しそうに話し始めた二人から視線を外し、その言葉を一人復唱しました。

 そうですか.........もう、あの夏祭りから一年経ってしまうのですね。本当に、時の流れというのは早い物ですわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『綺麗だな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........?、!?」カァァァ

 

 

 何故かこのタイミングで、昨年の記憶が鮮やかに蘇ります。情景も、横顔も、あの日抱いた居心地の悪い心地良さも、全部がごちゃ混ぜになってまた生まれます。

 顔は伏せたので誰にも見られる事はありませんでしたが、胸を打つ鼓動の強さは、ウマ娘の耳をもってすれば気が付かれてしまう程に早くなってしまいました。

 

 

マック(な、なんで今このタイミングなんですの.........!?)

 

 

 熱くなった顔を、夏の暑さのせいにしてハタハタと手で扇ぎます。ほんと、こういうところですわ!

 と、今は居ないトレーナーさんをいつも通り心の中で叱りつけます。だって、こうでもしなければ私はこの感情に殺されてしまいます。仕方ありません。ええ、仕方ないことなんです。

 ですが.........

 

 

マック(.........誘ったら、来てくれるでしょうか.........)

 

 

 そんな理想にも近い願望を胸に落としました。去年の景色を思い出し、赤く染めてしまった顔もそのままに、私は夏の暑さで誤魔化しきれなくなった緊張を、見て見ぬふりをしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ごめん、今年は無理だ」

 

 

マック「え.........?」

 

 

 しかし、突きつけられたのは酷い現実でした。お昼の休憩にデータをまとめようとしたトレーナーさんを何とか捕まえ、勇気を出して夏祭りに誘ったのに.........

 ですが、理由は聞かなければ行けませんわ。下らない理由で断られたとしたら、レディに対する扱いがなっていない証拠。メジロ家秘伝の護身術で今すぐに.........

 

 

桜木「みんな行くんだろ?明日の午後にはもうここから出発しないと行けないからさ、あと片付けしないと」

 

 

マック「そ、それなら全員でやれば.........」

 

 

桜木「ダメだ。そんな事したら、 花火は見れてもお祭りは楽しめないだろ。今は羽目を外すべきだ。特にマックイーンはな」

 

 

 そう言いながら、彼は私の頭を軽く撫で、ミーティングルームへと入って行ってしまいました。最近なんだか、子供扱いをされているみたいです.........

 トレーナーさんの言いたい事も分かります。この合宿を終えれば神戸新聞杯。そして、比較的天皇賞・春に近い条件の菊花賞があります。彼の言う事も、分かっているつもりです.........

 

 

マック(.........トレーナーさんのバカ)

 

 

 こんなに自分のメンタルが弱いとは思いませんでした。彼は優しく断って下さったはずのに.........その優しさが、今は少し辛い。

 優しく針で貫かれた心がチクチクと痛み出すように、胸に何かを詰まらせながら、私はその場を後にしました.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「沖野さーん!!コイツはこっちでいいっすかー!!」

 

 

沖野「ああ!!頼んだ!!」

 

 

 使った食器とフライパンを消毒に浸し、学園の貸し出し物であるドライヤーや配信機材を諸々片付けている。これが意外と強敵で、なかなか手間と時間を取られてしまう。

 

 

白銀「.........本当に良かったのか?お前だけでも行きゃ良かったのに」

 

 

桜木「バカ、ここいらで大人しとかないと、流石に信頼失っちまうぜ?それだけは勘弁だ」

 

 

白銀「バカ」

 

 

桜木「は?」

 

 

 何故か罵倒されたので振り返って見ると、スリッパで頭を思いっきり引っぱたかれた。俺は何かしただろうか?この雰囲気のコイツはただ暴力を振るってる訳では無い筈だ。

 

 

桜木(なんだったんだアイツ.........)

 

 

 そんな思索も、直ぐに目の前から姿を消したアイツのお陰で無駄になる。こっちは頑張って分かろうとしてんだぞ。

 ため息を吐きながら、叩かれた頭を右手でさする。うーん、やっぱりマックイーンとは.........

 

 

桜木「.........懲りないなぁ、本当」

 

 

 いつの間にスキンシップ多めな男になったんだ。手のひらを見ながら戒める。だが、やはりあの髪のサラサラ感は.........

 ダメだ。すんでのところで手をバシンと叩き、あの感触を痺れで上書きする。反省も何もまるでしていないじゃないか。

 

 

桜木「はぁ.........流石に嫌われるぞー.........」

 

 

 誰にでもなく、自分の無意識に対してそう忠告する。こうでもしないと、コイツはまたやるからだ。だからと言って、じゃあ言ったからやらなくなるのか?という話になるが、そういう訳でもない。いわゆる、体裁を保つと言うやつだ。

 

 

桜木「.........俺より絶対、同世代で楽しんだ方が思い出にもなるって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テイオー「元気だしなよーマックイーン!」

 

 

マック「何を言ってるんですの?私はいつも通りですわ」

 

 

 揺れ動く電車の中。チームメンバー達は夏祭りを楽しむべく、その開催地へと向かっておりました。

 車内では、楽しみに心を躍らせながらも、周りに気を使い、声を小さくしたひそひそ話が盛り上がっていました。

 その中でもテイオーは気にせず割と大きな声で話してきます。目立ってしまうのでやめて欲しいものです。

 

 

テイオー「そんなにサブトレーナーとデート出来ないのが悲しいの〜?」

 

 

マック「.........テイオー?次何か余計な事を言えば、口を縫いますわよ」

 

 

テイオー「ごめんなさい」ピェッ

 

 

 隣に座るテイオーは、謝りながら縮こまるように体を小さくしました。謝るなら最初から言わない方がいいに決まってますのに.........

 

 

マック(.........ですが、あながち間違いでも無いかもしれません)

 

 

 デート.........ではありません。結局彼にとっては、私の予行演習に付き合ってる感覚なのでしょう。あのデートの日から日にちを置いて、私はそう感じました。

 今度こそ、彼に意識される為にと思い、勇気を出しましたのに.........彼の優しさが私と彼の楽しい時間を奪ったのです。

 

 

マック(.........せめて花火だけでも一緒に見れたらと思いましたのに)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ふぅ.........これで全部か.........」

 

 

 あらかた片し終えた合宿道具。持ってくる時に苦労して詰めたんだ。そりゃ持って帰る時に詰めるのも苦労する。外を見てみると、もう海に夕陽がゆっくりと沈んでいく姿が見えた。

 

 

桜木「今頃、楽しんでるだろうな」

 

 

 お祭りは楽しい。家族で行こうと一人で行こうと。だが、やはり親しい友人と行くのが一番だ。気兼ねない、なんでも言い合える友人と。

 俺自身、長ければ十数年の付き合いになるアイツらと行ったお祭りの回数は、一回くらいだ。けど、その一回はどんなお祭りよりも楽しい一番の思い出だった。

 

 

桜木(.........だったんだけどな)

 

 

 夏祭りになると、去年を思い出す。度々現れるこの苦しい気持ちを真正面から迎え撃てるほど、俺は強くは無い。

 砕ける事に脅え、見つかる事に恐怖を感じる臆病者の恋心。とても男らしいとは言えない。

 そんな心と夕日に気を取られていたから、背後の気配に気が付かなかった。

 

 

沖野「よう」

 

 

桜木「うわっ!?」

 

 

沖野「おいおい、流石に傷つくぞその反応は.........」

 

 

 少しだけ落ち込む様子を見せた沖野さん。悪い事をしてしまった。とりあえず、申し訳ないと謝っておこう。

 しかし、どうしたんだ?沖野さんわざわざここまで来るということは、何か用があるはずだ。それを聞くと、沖野さんは親指で部屋の出口を指さした。

 

 

沖野「ああ、花火でもしようと思ってな」

 

 

桜木「!」

 

 

 そう言いながら笑う沖野さんは、いつも見せる年長者の顔ではなく、俺達が何時もするようなガキの様な笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏祭り・現地

 

 

ウララ「見て見てー!!人参焼きだってー!!おいしそー!!」

 

 

ブルボン「ウララさん、これで既に28食目です。合宿後の減量トレーニングの事を考えるとここでやめて置いた方が.........」

 

 

ウララ「そっか.........」シュン

 

 

ブルボン「食べましょう」

 

 

ライス「ブルボンさん!?」

 

 

 ウララさんのしょんぼりとした顔を見て、ブルボンさんは我先にと人参焼きの屋台の行列に並びました。先程からそれで5食ほど買ってしまったことに、果たして彼女は気づいているのでしょうか.........?

 

 

マック「ええっと、見やすい位置は聞いた所によると.........」

 

 

ゴルシ「ああ、それならあそこの橋の向こう側だ!!けど人もいっぱい居るから、気を付けた方がいいかもな」

 

 

スペ「見てくださいスズカさん!!また当たりました!!引き換えに行きましょう!!」

 

 

スズカ「待ってスペちゃん!!流石に食べ過ぎよ??あとの減量が辛く.........ああ、どうしたら私の話を聞いてくれるのかしら.........」

 

 

ウオッカ「くっそ!!あのぬいぐるみ硬ぇぞ!!」

 

 

ダスカ「ふふん!!グラッとした時は肝が冷えたけど、次はアタシの.........あれ、弾がもうない.........」

 

 

 スペシャルウィークさんは当たり付きのお菓子を食べ、ウオッカさんとスカーレットさんは二人で射的に興じていました。

 そんな中で、私達はテイオーに勧められたハチミーを飲みながら地図を広げていました。

 

 

テイオー「それにしても、残念だなぁ。トレーナー達も来れば良かったのに」

 

 

マック「テイオー」

 

 

テイオー「な、なんだよう!本当の事言っただけじゃん!!これはボクの本心で、マックイーンをからかいたいわけじゃないよぅ!」

 

 

 そう慌てふたむくテイオー。その様子からして、いつものからかいではなく、彼女の言うとおり本心から出た言葉だと理解しました。

 慌てた様子が段々と怒る様子に変わってくる頃には、私も罪悪感を感じ始めました。申し訳ないと彼女に謝ると、渋々と言った様子で許してくださいました。

 

 

タキオン「だが、この人数でやれば終わりそうなものだと思うが.........」

 

 

ゴルシ「どーせ、ひと夏の思い出に友達と遊んでこいとか言う大人臭いこと思ったんじゃね?」

 

 

テイオー「えー!?トレーナーはともかく、あんなにはしゃいでたサブトレーナー達がそんなこと言うのー!?」

 

 

ゴルシ「言うな」

 

 

マック「言いますわ」

 

 

タキオン「言うだろうねぇ」

 

 

 全く.........どうしてあの人達は自分だけでやりたがるのでしょう?少しは頼ってくださっても、罰は当たらないと思います。

 楽しんでこい、と優しく笑いかけるトレーナーさん。今はその顔が、少し嫌いです。

 目の前の道を行き交う人々を見ながら、去年のあの夏祭りを思い出しながら、私は一人、そう思っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の海

 

 

桜木「まさか、この年でお前らと花火するとは思わなかったわ」

 

 

神威「何気に初めてじゃね?このメンバーでやんの」

 

 

白銀「沖野っティーは生まれて初めて?」

 

 

沖野「俺をなんだと思ってるんだ?花火くらいしたことはある!」

 

 

黒津木「ウマ娘一辺倒だから言われても仕方なく無い?」

 

 

 こんな楽しげに会話をしているが、沖野さん以外は皆目が死んでる。なんでこんな男と手持ち花火を囲わなきゃ行けないんだ?

 夕日も沈み、あっちではもう花火が始まっている時間。あちらは打ち上げこちらは手持ち。貧富の差を嘆いていた幼き頃を思い出す。

 

 

白銀「ずァァァァシャラくせェェェッッ!!!」ポイッ!

 

 

神威「あっぶな!!?」

 

 

白銀「こんなちゃちぃ花火楽しかねぇだろうがァッッ!!!」

 

 

黒津木「だってお前高校の頃花火には順番があるって力説.........」

 

 

白銀「そりゃヤリてぇ女がいる時の雰囲気作りする時だけだッッ!!!」

 

 

「「「最低だコイツッッ!!???」」」

 

 

沖野「はははっ!!お前ら本当に面白いわ!」

 

 

 手持ち花火を神威に投げつけられた。一人笑う沖野さんを尻目に、俺達三人は白銀を止めようと引っ付いてみせる。

 しかし、腐っても世界を経験している男。そんなものは物ともせず、奴が合宿に持ってきたバッグを漁り始めた。

 

 

白銀「俺様もなんでテメェらに定価3万もした花火を使わなきゃなんねえのかと思ったが、これの為だと思えば納得だァ!!」

 

 

「「「で、デケェ.........!!!」」」

 

 

白銀「見ろ。白銀花火。別名をジョンだ」

 

 

 直径幅約20cmの円筒。長さは白銀の腕ほどに長い。それを股間の位置まで持っていき腰を振る姿を見て、沖野さんは更に笑い声を張り上げた。

 笑い転げる沖野さんを尻目に、白銀はそうそうに花火に着火した。

 

 

桜木「おい、このレベルの花火使うの、資格必要なんじゃないか?」

 

 

白銀「こまけぇこたぁいいんだよ!!」

 

 

黒津木「いや良くはねぇだろ!!!」

 

 

白銀「爆発するぞォォォーーーッッ!!!」

 

 

神威「無茶苦茶すぎんだろォォォッッ!!!」

 

 

 羽交い締めをしていた俺達三人と白銀はその場に伏せる。しかし、いつまで経っても衝撃も音も聞こえなかった.........まさか

 

 

桜木「ジョンってED!?」

 

 

白銀「立てぇぇぇッッ!!!立つんだジョンッッ!!!」

 

 

黒津木「ワロタ」

 

 

白銀「笑い事じゃねぇ悪魔共がッッ!!!」

 

 

白銀「ジョン.........お前は女をヒィヒィ泣かせる為に生まれてきたのに.........こんな事になっちまって.........」

 

 

神威「いや、その大きさならどっちみち使い物になんねぇだろ.........」

 

 

白銀「しゃぶれば治るかな.........?」

 

 

「「「地獄でやってろ」」」

 

 

白銀「あァ!!俺の花火が!!???」

 

 

 流石に勢い付いてやりかねなかったのでジョンを蹴飛ばした。アイツは本当にしゃぶろうとするからな、ノリで。頭が吹っ飛んでもこっちが困る。

 沖野さんの所に戻ると、息も絶え絶えだった。先程のやり取りを見て息もできない程笑ったんだろう。案外下ネタ好きな事が分かった。

 

 

沖野「はぁー、死ぬかと思った。お前ら毎日こんな感じなのか?」

 

 

桜木「慣れたら鬱陶しいだけですよ」

 

 

神威「まあな、ほら、お前も飲めよ」

 

 

 そう言われて、手渡された缶の酒を特に躊躇もなく開ける。沖野さんからパシられたのだろう。神威のパシリは様になっていて少し面白く感じた。

 

 

沖野「それと、ほら。コイツも」

 

 

桜木「.........禁煙してたんじゃないんすか?」

 

 

沖野「別にいいだろ。アイツらも居ないしな」

 

 

 一本の紫煙が天へと登っていく。潮の匂いに焼けた葉の臭いが鼻を突く。何も上がりはしない夜の空を、俺達はただただ見上げていた。

 

 

桜木「.........っふー、吸うやつ居るか?」

 

 

黒津木「じゃあ貰うわ」

 

 

神威「俺も吸おうかな」

 

 

白銀「ジョンの線香代わりだ.........」

 

 

 一本から二本、二本から三本と、天に昇る紫煙は数を増やす。志を共に持つように、一緒に天へと登っていく。

 静かな海の波の声が反響する。とても静かで、心地良い海の音が、世界の雰囲気を形成する。アルコールもタバコも、今日は酷く美味しく感じた。

 

 

沖野「.........まぁ、今日誘ったのは、俺の気晴らしだ。最近頑張り詰めでな。アイツらに怒られちまったんだ」

 

 

黒津木「見れば分かりますよ。責めて睡眠くらいしっかりとってください」

 

 

白銀「そうだそうだー」

 

 

神威「ケホッ!ケホッ!よく吸えんなお前ら.........」

 

 

 確かに、沖野さんの顔は最近疲れ気味だった。日々の無理が祟ったのだろう。それでも、その顔はまだ懲りてはいないようだった。

 

 

沖野「.........俺は必ず、テイオーを[無敗の三冠バ]にして見せる。アイツの夢、目標を叶えて見せる。そう今一度、お前らに宣言したいと思ってな.........お前らはなんか無いのか?」

 

 

 そう言いながら、置かれた灰皿にタバコを擦り消す沖野さん。火で灯された光が一つ暗闇から消えた。

 宣言したいこと.........なんだろうか、今この場で言っておかなければならない事.........

 

 

桜木(.........いや、流石に言えないな)

 

 

 胸に秘めた思いを吐露するには、関係が有りすぎる。もう少し見知らぬ人に相談したいものだ。そう思い、俺は無言でパスを回した。

 

 

神威「えっと.........取り敢えず、俺はあの子達が目標を達成できるまでここに居たいと思ってます」

 

 

黒津木「俺はタキオンがスピードの果てを見つけるのを手伝いたいかな?推しだし」

 

 

桜木「お前は?」

 

 

白銀「.........これって別に、今年の目標とかじゃなくて、いつか達成したい事でもいいんだろ?」

 

 

沖野「ああ、好きにしてくれ」

 

 

白銀「じゃあ」

 

 

 ああ、どうせまた下らない事言って、ゲラゲラ俺達を笑かせてくれるんだろうなぁ、と密かに期待していた。

 どうせコイツの事だから、[宇宙にテニスを普及して玲皇を生贄にクトゥルフを召喚する]とか[テニス引退した後にバドミントン協会の会長暗殺して成り代わる]とか、そこら辺だと思ってた。

 けれど、星を見上げるアイツの目は酷く真剣で、冷たくて、欲しい獲物を取ろうとするオオカミみたいで、滅茶苦茶男らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ゴルシに告白する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........は?」

 

 

白銀「ゴールドシップに好きだって想いを伝え.........」

 

 

桜木「いや!!聞こえなかったって意味のは?じゃなくて!!俺達はお前の正気を疑ったんだが!!???」

 

 

「うんうん」

 

 

 あまりに唐突な爆弾発言。酒を飲んでいる事も忘れて男達は激しく首を縦に振った。

 たまには真剣にテニスに向き合うのかと思えば結局女絡みか。昔からコイツの女好き。女体好きとも言うべきだろう。それで起こしたトラブルは数知れない。

 

 

桜木「お前、いつからだよ.........」

 

 

白銀「おっぱいに一目惚れした」

 

 

沖野「お前.........流石にそれは.........」

 

 

白銀「だけど、一目惚れしたのはおっぱいだけだ。あとから全部惚れた。身長高ぇスタイル良いケツも申し分ない性格面白い顔も良い。惚れねぇ奴の方がおかしいだろ」

 

 

白銀「つか気付けバカ。俺は好きでもねぇ女に暴力振るわれ続けるほど穏やかじゃねえだろ」

 

 

 頭を抱えた。コイツ、本気だ.........今までコイツから感じた事の無いほど本気。セクハラしようと袖口の広い服に手を潜り込ませ、制裁されたあの頃と何にも変わっては居ないだろうが、下心は一切感じられない。

 人って面白いもんだなぁと、白銀の言葉を聞いて深く感じる。性欲お化けのコイツが[性格面白い]と、見た目以外の部分を褒めたのは意外だったからだ。

 

 

白銀「お前らもバカ女に感謝しろよ?」

 

 

三人「は?」

 

 

白銀「アイツが居なけりゃ、俺は玲皇ん家に二日くらい泊まって、お前ら拉致して飯食った後、現役引退するまでこの国とはおさらばする予定だったんだ」

 

 

三人「.........」

 

 

 海に足を入れるように前へと進む白銀。背中を見るに、嘘は吐いていない。ゴールドシップが居なければ、今頃コイツと喋る事すら無かったと思うと酷くゾッとする。

 静かな空気に促されたように、俺は手に持った酒を煽った。今日は中々、美味しく感じる。

 しかし、おもむろに振り返ってきた白銀の真剣な表情に、またもや嫌な予感がしてしまう。

 

 

白銀「お前はマックちゃんどうすんだよ」

 

 

桜木「ブーーーッ!!!」

 

 

神威「あっぶな!!?」

 

 

 突然の爆弾発言パート2。飲んでいた酒を吹き出してしまう。酒の匂いでダウンする神威にかけそうになるが、何とか回避出来たようだ。運がいいなお前。

 いや、今はそんな事どうでもいい!!俺が聞きたいのは.........!!

 

 

桜木「い、いつからだ.........?」

 

 

白銀「お前が献立表作る時にはもう察した」

 

 

 嘘だろ.........?コイツ、俺が自分の気持ちに気付く前にはもう俺の気持ちに気付いてたのか.........?

 恐る恐る後ろへ振り返る。事実を聞かれ動揺している様を見せたのだ。他の三人がどのような反応を見せているかが気になった。

 

 

三人「.........」ニヤニヤ

 

 

桜木「」

 

 

 頭を抱えた。一番知られては行けないであろうめんどくさい職場の人間に聞かれたのだ。これから先どうなるかなんて考えも付かなかった.........そう、次の発言ですらも

 

 

二人「知ってた」

 

 

桜木「はァ!?」

 

 

沖野「おいおい、俺だけ仲間外れかよ」

 

 

黒津木「俺はお前があの子と噴水で昼飯食ってるのを見た時からそうかなって感じた」

 

 

神威「俺はここに入職した時からお前が好きそうだと一目見て思った」

 

 

桜木「」

 

 

 コイツら揃いも揃って俺より俺の事を理解してやがる.........

 そんなニヨニヨと気持ちの悪い笑顔を見せる奴らにゲンナリとしていると、不意に沖野さんから肩をポンと叩かれた。

 

 

沖野「まぁなんだ。ある意味職場結婚の激しい職業だから、あまり気にするな。ただ節度は守れよ」

 

 

桜木「い、いや!!第一生徒と結婚なんて出来るわきゃないじゃないですか!!古賀さんとの約束三ヶ条だって.........」

 

 

沖野「古賀さんは初担当の子とちゃっかり結婚してるし、あの三ヶ条はその時やられた外堀の埋め方を理解して同じような事にならないようにしたもんだ。つまり暗黙の了解ってこった」

 

 

桜木「.........っ」ゴクリ

 

 

 .........アレ?不味くないですか?それは、暗に僕の逃げ道が仕方ないで塞がれてしまうという結末を予想出来るものなんですが.........?

 いや、良くない。相手は名家の生まれのご令嬢。俺みたいなぽっと出一般市民トレーナーが隣を務まるわけが無い、ふさわしい訳が無い。そうやって慣れた惨めさがにじみ出てきたのを感じながら諦めようとしたんだ。

 

 

桜木「いや!!でも相手はあのメジロマックイーン「あら?」.........」

 

 

マック「私がどうしましたの?」

 

 

桜木「.........」

 

 

 聞こえる筈の無い声が聞こえてきた。幻聴だ。そうに決まっている。それ以外ある筈が無い。そう思ってもそう結論付けれる証拠など無い。なら見てしまえばいい。ハッキリと彼女が居ない空間を見て、何も無いとしてしまえばこれが幻聴だと確定させる事ができるのだ。

 .........そう思い、振り返ってみると、居ないであろうと思っていたマックイーンが、キョトンとした顔で、その場に立っていた。

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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