山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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トレーナー「寝不足だ......」

 

桜木「おめぇ米は?」

白銀「おう、ちゃんと炊いたぞ」

桜木「あれ、お前ボウガン使うっけ?」

白銀「は?俺はなんでも使うが?」

桜木「いやいや、防具ないじゃん。作って来いよ」

白銀「やだっ!俺のセクシーさでモンスターを悩殺ゥッ!」

桜木「〇ぬのはてめぇだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ふわぁ〜.........」

 

 

桐生院「寝不足ですか?」

 

 

 時間と言うのは楽しい中で生きていると早い物で、急な来客でありながらも、奴とのモンハンはとても面白いものだった。

 しかし、就寝時間午前四時。起きれるかどうか不安だったが、徹夜するよりかはマシだと思い、気合いで起きようと覚悟を決め、意識を沈めた。

 お陰で、こうして桐生院さんに心配される羽目になってしまったが、それもこれも全て、白銀翔也って奴の仕業なんだ。

 

 

桜木「まぁ、午後になれば目も覚めますよ。それまでの辛抱です.........」

 

 

桐生院「辛かったら言ってください!桜木さんの業務肩代わりしますから!」

 

 

 それはどうなのだ。目の前の女性は目をキラキラさせながらそう宣言した。とても嬉しい申し出だったが、彼女も俺と同じまだ新人。業務を押し付けて自分が寝れる訳が無い。

 どうすれば楽になるか?簡単な話である。担当がまだ居ない今だからこそ出来る仕事の少なさを利用して、早めに昼休みに入るのだ。

 俺はそうして気合いを入れ直し、若干ぼやけてきた視界のピントをもう一度力を入れて調節した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「はい.........なんでしょうか.........」

 

 

 そんな甘い話無かった。昼休みに入ったのも束の間で、生徒会長に放送で、名指しで、直々に、生徒会室に呼び出しを食らった。もう頭がクラクラだ。

 目の前で立っている女性の名はシンボリルドルフ。知る人ぞ知る無敗の三冠ウマ娘だ。とは言っても、仕事に明け暮れていた社畜マンBLACKの頃の俺は1ミリも知らなかった。少し申し訳なさを感じる。

 

 

ルドルフ「ああ、よく来てくれた桜木トレーナー。実は君に折り入って頼みがある」

 

 

ルドルフ「次回行われる中等部の講話で是非、登壇して欲しい」

 

 

 はい?中等部の講話?不味い。頭が真っ白だ。あのバ鹿のせいでマトモな思考が出来ない。落ち着こう。そしてまず、概要を聞こう

 

 

桜木「中等部の講話とは、具体的に何を?」

 

 

ルドルフ「そうだね。先ずはそこから説明していこうか」

 

 

ルドルフ「本来ならば、学園外部のウマ娘やその指導者が登壇し、自らの成績と担当してきたウマ娘の話をしてもらい、中等部の子達に良い刺激を与えるのが目的だ」

 

 

桜木「?でも今回は俺なんですよね?」

 

 

 何故今回に限って。そこまで口に出そうになったが、明らかにシンボリルドルフ会長の様子がおかしい。まるでその事に関して後ろめたいと言う様に視線を少し俺から外した。

 ほー、なるほどなー。読めてきたぞ.........これは恐らく、理事長の策略だ。可愛い子には旅をさせよとはよく言ったもので、恐らく俺は古賀トレーナーに見つけられた期待の新人。そんな新人の手助けもとい、その考えや技術力を知ってもらい、ウマ娘からの信頼を勝ち取らせようとしているのだろう

 

 

桜木「理事長ですね?」

 

 

ルドルフ「.........その通りだ。毎年講話に招待する講師には理事長と私の手紙を送っているのだが、今回はその指定が無かった。理事長は宛はあると言ったが、二日前である今日まで何も仰ってはくれなかったのだ」

 

 

 お互い困ったものだなと苦笑いを浮かべる会長。それに釣られる様に、俺も苦笑いを浮かべた。

 寝不足と言うのは酷いもので、物事が一つ解決すると回転が緩まる。お陰で、会長が最後に言った発言に気付いたのは数秒だった後だった。

 

 

桜木「.........待って下さい?今日が二日前っておっしゃいました?」

 

 

ルドルフ「.........君には申し訳ないと思っている。どうにかここは穏便に済ませて頂けないだろうか?」

 

 

 穏便に?どうして?俺が?ますます不味い。寝不足のせいで心のキャパシティがかなり余裕が無くなっている。こうなればヤケだ。やりたい事全部やってやる。

 

 

桜木「分かりました。ですが内容は俺が独断で全部決めます。ゲストも呼びます。口出しはさせません。会長には一応報告しますが、理事長には秘密にして下さい」

 

 

ルドルフ「.........幸か不幸か、今この場には君と私しか居ない。普段ならばそんな事は言語道断。だが、君からはあの人と同じ視線を感じるよ」

 

 

 そう言いながら、会長はその表情を軽く緩ませた。今度こそ問題は無くなった。そう思った俺はシンボリルドルフ会長に一礼し、生徒会室を後にした。あのロリっ子理事長め、覚悟の準備をしておくんだな。俺は強いぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「なにこれ、豚の餌か?アイツマジで何してんの?」

 

 

 いつも昼食を食べる三女神の噴水広場で弁当箱を開けた。中身は豚の餌と見紛う程の造形的印象は形容しがたい何かだ。分かるのは炊くのに失敗したお粥にも似た何か。

 取り敢えず一口食べて見るが、口に広がるのは懐かしい味。記憶の底に眠っていた離乳食の味、ある意味料理の天才だ。泣いて喜んでいただろう。俺が赤ん坊だったならば。

 

 

桜木「アイツマジで〇す」

 

 

 学園内で言っちゃ行けないような事を思わず口走る。行けない行けない。俺は一人の人間である前に、トレセン学園の職員であり、ウマ娘達の規範であるべき大人なのだ。心を落ち着かせよう。心の中でグラビモスを狩ろう。リオレウスを食べよう。ジンオウガをモフろう。

 待て、本当に不味くないか?この離乳食薬物でも入ってるんじゃないか?有り得そうだ。アイツの立場的にそういう事も有り得てしまう。

 

 

ゴルシ「んお?おっちゃんまたここに居た。いつもここで飯食ってんのか?」

 

 

桜木「やあゴルシ.........そうだ。ちょっとお願いがあってさ.........」

 

 

 意識が残っている内にお願いしてしまおう。何を口走るかわかったものじゃない。表側が正常な内にぱっぱか用事を済ませなければ.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たづな「理事長っ!?講和の件!正気ですか!?」

 

 

理事長「無論ッ!!彼の力量を証明し!我が学園のウマ娘と彼の接触頻度を増やすのだ!!」

 

 

 そう言いながら理事長がバッと広げた扇子が大きい影を作る。理事長室には黒い影の線が一本入った。その顔は計画通りにイタズラが成功した様な顔をしている年相応の笑顔だった。

 一方、たづなはと言えば、いつも通りの、いや、他人を巻き込んでいる分いつもより質の悪い理事長の暴走を目の前にして、頭をクラクラさせていた。

 

 

たづな「理事長.........勿論、桜木トレーナーには伝えたんですよね.........?」

 

 

理事長「当然ッ!!シンボリルドルフ生徒会長に願い!彼女の口から伝えるよう言った!!」

 

 

たづな「ほっ」

 

 

理事長「今日ッ!!!」

 

 

たづな「」

 

 

 その発言が衝撃すぎたせいか、それとも直前の安心との振れ幅が大きすぎたせいか、たづなはその場に倒れる様に気を失い、理事長のご機嫌な笑い声だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖野「おら、起きろ」

 

 

桜木「んぶ!」

 

 

 口の中に何か突っ込まれるの同時に目が開いた。何が起こったのだと思い、隣を見ると、その様子をゲラゲラ笑いながら腹を抱えるゴールドシップが居た。

 

 

沖野「分かったか?こいつは口に何か入れてる時は寝ないんだよ」

 

 

ゴルシ「なるほどなー、おいおっちゃん!このゴルシ様に感謝しろよ?」

 

 

 そう言いながらゴールドシップの手が伸びている俺の首元を見てみると、ネクタイの根元が掴まれていた。状況から察するに、あまりの寝不足さに意識が飛んで寝ていたらしい。それを噴水に落ちないようネクタイを持っていたのはゴールドシップだ。

 

 

沖野「ったく、うちのチームメンバーに迷惑かけんじゃねえよ」

 

 

桜木「へ.........?という事は、スピカのチームトレーナーって、沖野さん?」

 

 

沖野「あ、言ってなかったか?」

 

 

 うーん。説明不足と言うか、秘密主義というか、この人はあまり自分の事を語りたくない主義だと言うのはトレーナー勉強時代に死ぬ程実感した。自己紹介も何も無くマンツーマン講義を始めた時には度肝を抜かれた。

 それは兎も角、俺はいつまで寝ていたのだろう?そう思い、腕に着けている時計を見てみる。そこにはきっかり3時半を指していた。

 

 

桜木「あっべ.........!」

 

 

ゴルシ「おわっ!気を付けろよ危ねぇなー!!」

 

 

 気が動転して思わず立ち上がってしまった。沖野さんとゴールドシップに一言礼を言っていつものトレーニングコースへ向かって行こうと思ったが、やはり一言だけでは自分の心が許さない。

 今は持ち合わせが無く、仕方ないとスルーしようとしたが、ふとズボンのポケットの中身を思い出し、中に入っているココアシガレットをゴールドシップへと投げて渡した。

 

 

桜木「ちゃんとした借りは今度返すから、今はそれで勘弁してくれーーー!!」

 

 

沖野「.........忙しそうだなぁ、あいつ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走り慣れたトレーニングコースの芝の上で、両手を膝に着く。以前の様に走れないとしても、そのままでは行けない。そう思いながらも、私は肩を揺らして息を切らしていました。

 

 

マック「はぁっ......はぁっ......!もう少し.........あら......?」

 

 

 誰かが走ってくる音が耳に入り、その方向を見てみると、先日トレーニングを見てくれた桜木トレーナーが息を切らしながら走ってきました。

 私よりも疲れた様子で息を切らしながらも、挨拶するようにその掌を私に見せてくださいました。

 単純なのかも知れませんが、こうして息を切らして私に会いに来てくれたと思えば、嬉しく思ってしまいます。息を整えている彼に対して、私は小さく手を振る行為で挨拶を返しました。

 そして、それと同時に、彼から期待されているのだと感じ、もう一度走り出そうと決意を固めました。

 

 

マック(メジロのウマ娘として.........これ以上の失態は許されませんわ.........!)

 

 

マック(脚に力が入らないだなんて、言っていられません.........!!)

 

 

 息を整え直し、彼の方を見ると、私の方を見て、何も言わずに頷きました。まだ契約も結んでいないのに、何もかも分かったような顔をして.........

 何故かズルいと思いながらも、不思議と悪い気はありませんでした。

 しかし、そんな中で踏み出した次の一歩も、地面を蹴るというには余りにも軽いものでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........?力が戻ってきたのか.........?」

 

 

 運動不足のせいでバクバクと未だに大きく脈打つ心臓を労りながら、もう一度走り始めたメジロマックイーンの姿を見る。昨日見た時よりも幾分か力は入っている様だが、彼女の顔は未だに納得が行っていない様だった。

 

 

桜木(やはりトレーニングではどうにも出来ない.........となれば私生活に何か問題が?)

 

 

 生活習慣。個人差は大差あるものの、ひとたび乱れれば大病を患う可能性がある。毎日の暮らしの中で、徐々に彼女のパワーを奪っている可能性は否定出来ない。

 しかし、彼女の綺麗な脚を見てみても、パワーならば平均値よりも大きい値を出せる。そして彼女の様子から、最初から力の出し方が分からないという事は無い。

 何らかの理由で力が出せないのでは無いだろうか?それがトレーニングやストレッチ。休む事で改善されない物だったら?

 

 

桜木(おいおい、流石にそこまでは聞け無いだろ)

 

 

 年頃の女の子の私生活を聞き出すというのは、流石に今の関係性では度が過ぎている。自分はまだ、彼女を気にしているだけのトレーナーであり、彼女もまた。まだ一人でトレーニングしているだけのウマ娘なのだ。

 しかし、ようやく自身の脈打つ鼓動が徐々に意識から外れて行き始めたその時。彼女の様子が一変し始めた。

 

 

桜木「.........?マックイーン?」

 

 

 明らかに変わった。彼女の雰囲気も意識も、朦朧とし始めている。

 不味いのでは?そう思いながらゆっくりと近付きながら、彼女の安否を確認しようとする。もしかしたらトレーニングで疲れただけかもしれない。それはそうだ。自分が来た時からもう疲れ始めていたんだ。何らおかしい事は.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マックイーンッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バカが。最初からおかしかっただろ。昨日はまだこの時点でこんなに疲れてなかったじゃないか。慌てて彼女に駆け寄ろうとすると、フラっと力なく彼女の身体が揺れ始める。

 気付けなかった自分が許せない。しかし、今はそんな事より、彼女が大切だ。やっと落ち着いた心臓は、先程よりも激しく動き、恐ろしい程の鼓動を俺の身体の中で響き渡らせていた。

 

 

桜木「しっかり!マックイーン!!」

 

 

マック「.........」

 

 

 すんでのところで彼女を支える事に成功する。息はしている。血色は良好では無いし、意識も失っているが、それだけ分かれば安心出来た。

 眠っているだけ、眠っているだけだと心の中で自分を落ち着かせる。今しては行けないのは、ここでパニックを起こしたり、下手な行動をしないという事だ。

 

 

桜木(保健室に行くしかないが.........いや、言ってられないか)

 

 

 意識のない彼女に申し訳なさを感じつつも、今のこの体制ではおんぶは出来ないので、お姫様抱っこという形でメジロマックイーンを抱える。一刻を争うかもしれないと言うのに、一瞬躊躇した俺をぶん殴ってやりたい。

 噂になったらごめん、と心の中で謝りながら、彼女の身体を揺らさないよう、学園内の保健室を目指して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『軽い貧血ですね。原因としては、栄養失調でしょう』

 

 

 お大事に。保健医の先生はそう言いながら保健室を後にして行った。まさか、本当に生活習慣が原因とは恐れ入った。物事を見抜く才能があるんじゃないか?

 

 

桜木「.........そうじゃないだろ」

 

 

 目の前の現実を良く見てみろ。それを本当に見抜けていたなら、今頃彼女はこんな保健室のベッド上じゃなく、まだトレーニングコースのターフの上で気持ちの良い汗をかいていた筈だ。やっていないなら、出来ないと同じ事だ。

 口の中に広がる甘い感触。沖野さんから貰ったキャンディに意識を集中し、落ち着かせる。どうするべきかと思いながら目を閉じていると、慌ただしい足音が近付いて来るのに気付いた。

 

 

「マックイーン!倒れたって聞いたけど、だい.........」

 

 

桜木「しーっ.........」

 

 

 入ってきたのは一人のウマ娘。高い身長と短髪が特徴的な子だ。よく見ると、選抜レースが終わった後に、マックイーンと話していた子であると気が付く。

 

 

「あ、す、すみません......」

 

 

「えっと.........こんにちは、あたしメジロライアンといいます」

 

 

 そう言いながら、彼女は礼儀正しくお辞儀をする。まだ若い学生なのに、きちんと教育が行き届いているのがひと目でわかる。

 

 

桜木「桜木玲皇。まだ新人だけど、トレーナーだ。よろしく」

 

 

ライアン「貴方は、マックイーンのトレーナーさんですか?」

 

 

 うぐ、今一番聞かれたくない事を聞かれてしまった。どうした物かと一瞬考えたが、寝不足の頭で言い訳なんか思い付く訳ない。ここは素直に答えよう。

 

 

桜木「いや、実はまだ正式には担当じゃないんだ」

 

 

ライアン「そっか.........でも、マックイーンを気にかけてくださっているんですよね。ありがとうございます」

 

 

桜木(.........ちゃんと気にかけてたんなら、こんな事にはならなかったと思うけどな)

 

 

 他人事の様に、自分の行いを振り返る。一度目は止めれたのに、何故二度目は止めなかったのだろうか。自分は、本当にマックイーンを見ていたのだろうか?誰にもまだ気付かれて居ない才能だけを見つけて、周りを見ずに手放しで喜んでいただけでは?

 少しの間。静かな時間が流れ始める。居心地は、決して良くは無い。

 

 

ライアン「.........あの、因みに倒れた原因って.........」

 

 

桜木「.........栄養失調による貧血だって言われたよ」

 

 

ライアン「そうですか.........選抜レースが近いからって、無理な制限してるなぁって思ってたんですが.........もっと早く声をかけてあげれば良かった.........」

 

 

ライアン「これでお互い様ですね」

 

 

桜木「!」

 

 

 困った様に笑うライアン。どうやら、気を使わせてしまったらしい。大人として、年下の女の子に気を使われているようじゃまだまだド三流だ。沖野さんにも古賀さんにも反論なんて出来やしない。

 気を張りつめすぎて居るのかもしれない。自分を責めすぎるのは悪い癖だと、親にも親友達にも言われていた。肺に溜まった息を、マックイーンを起こさない様にふーっと吐き出す。

 

 

桜木「悪いな、俺の心配も掛けさせちゃって」

 

 

ライアン「いえ!全然大丈夫です!」

 

 

ライアン「あたしも一応、メジロのウマ娘なんです。マックイーンとは姉妹では無いんですけどね」

 

 

ライアン「.........マックイーンは小さい頃から、責任感が強すぎるっていうか、自分で自分を追い込みすぎちゃうんですよね」

 

 

 そう言いながら、ライアンはその視線を、ベッドの上で静かに寝ているマックイーンへと移す。スヤスヤと寝ているマックイーンをライアンの目は優しく、マックイーンを見つめていた。

 俺もそれに釣られて、マックイーンの姿を見る。確かに、ライアンの言う通りだ。こんなに倒れるまで頑張り過ぎてしまう。小さな身体で頑張る彼女に目を惹かれる。きっと、あの選抜レースでも、彼女のその頑張り続ける姿に、目を惹かれたんだ。

 

 

ライアン「マックイーンは、充分立派にやっているのに.........」

 

 

桜木「.........そうだな」

 

 

 少しは、気が楽になった気がする。これからどうするべきか、それは、マックイーンが起きてから考えよう。そう思っていると、聞き慣れない電子音が、保健室に響き出した。

 

 

ライアン「っと、いけない!もう行かなきゃ.........!」

 

 

ライアン「ごめんなさいトレーナーさん!失礼します!」

 

 

 慌てて出口のドアへと駆け込んでいくライアン。保健室から出て行ったのを確認して、慌ただしい子だったなと思っていた。

 しかし、次の瞬間にはまた、ドアが開く音が聞こえて来る。何事かと思い見てみると、先程出て行った筈のライアンがそこに居た。

 

 

桜木「どうし「あの!」.........?」

 

 

ライアン「マックイーンの事、お願いしますっ!」

 

 

 思いがけない言葉に、思わず面食らって居ると、彼女はそれだけ言ってもう一度保健室から出て行った。

 

 

桜木「.........まいったなぁ、あの目で言われちゃ断れない」

 

 

 真剣な表情だった。もしかして、マックイーンの事を言えないレベルで責任感が強いんじゃないんだろうか。それでも、あんな顔で、あんな真剣な目でそう言われてしまえば、それを断るのは、人として失格だと感じた。

 静かになった保健室の中で、腕を組み、目を閉じる。口に感じる甘さはまだまだ残っている。ゆっくりとした時間の流れの中で、先程の静寂とは違う心地良さを感じていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........んん......?」

 

 

 ここは、何処でしょうか.........?そう思いながら辺りを見回そうにも、身体が言うことを聞いてくれません。取り敢えず、何があったかを思い出そうとしました。

 トレーニングの最後に、立ち止まった事は覚えています。今まで感じた事の無い脱力と、お腹が空いている時とはまた違う空腹感が同時に襲ってきて、気付いたら.........

 ここまで来て、私はようやく気付きました。私はあのトレーニングコースで倒れたのだと。今まで朧気だった視界が、急にはっきりしだし、身体にも起き上がる活力が蘇りました。

 

 

マック「っ、トレーナーさん.........?」

 

 

 しかし、私のそれを止めたのは、隣で静かに寝ている彼の姿でした。こくり、こくりと船を漕ぐ彼の姿は、いつもの少年の様な顔とは違う、年相応の、疲れを知っている顔で寝ていました。

 

 

マック(きっと、トレーナーさんがここまで運んでくれたのですね.........)

 

 

桜木「んぁ.........?あぁ、マックイーン.........起きたのか.........おはよう.........」

 

 

 そう言うと彼は、寝ぼけ眼を擦り終えると、身体を逸らして大きな欠伸をしました。何故かその姿に、私は平常心を取り戻す事が出来ました。

 

 

マック「おはようございます、トレーナーさん。あの.........大変なご迷惑をおかけしてしまい.........」

 

 

桜木「いや、いいんだ。昨日会ったばっかしなんだから、なんでも言える訳ないでしょ」

 

 

 そう、彼は優しく微笑みながら言ってくださいました。ですが、それではダメなのです。

 彼は初めて会ったその時から、私の事を全面的に信用している様に感じました。そうでなければ、その、私をあんなに褒められる訳ないのです。

 そんな私の心情を察したのか、彼はまた、優しく微笑みました。

 

 

桜木「俺は、君の走りを見てる。近くでも遠くでも、けれど、君はまだ俺を知らない。実績も経験も無い俺に、何かを話せる程の信頼性なんて、はなから無いんだ」

 

 

マック「そんな事は.........」

 

 

 その言葉を聞いて、私は胸を締め付けられました。目の前のこの人は、さも当たり前だと言うように、悲しい顔も見せてはくれません。私を信じているのに、私はこの人を信じられて居ない。自ら信頼を謳っておきながら、私はトレーナーさんを信じられていませんでした。

 .........今回の原因を言いましょう。遅いのかもしれませんが、それが彼に対する誠意だと思いました。けれど、私がそれを言い出す前に、彼は口を開きました

 

 

桜木「だから、ちょっと話そうか。お互いの事」

 

 

マック「え.........?」

 

 

桜木「お互い、知らない事が多いんだ。だからちょっと話そう。好きな食べ物とか、趣味とか、大切に思っている事」

 

 

 少年の様に笑う彼に釣られる様に、私もつい、微笑みが零れてしまう。まだ会って二日目なのに.........そう思いながら、普段からテイオーにチョロいとからかわれる理由も、分かってきました。

マック(確かに、会って二日目の男の人にここまで心を開いてしまっては.........そう言われても仕方ありませんわね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「マックイーンから良いよ。質問どうぞ」

マック「え?あ、はい.........あの、最初に会った時から気になっていたのですが、トレーナーさんの髪の毛はどうセットなされてるのですか?」

桜木「あーこれね。実は何もしてないのよ」

マック「え!?でしたら、どうやって毛先が上に向くのですか?」

桜木「うーん。くせ毛だからとしか言いようが無いからねぇ。昔はサラサラだったんだけど.........触ってみる?」

マック「っ!で、では.........失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「マックイーンの好きな食べ物はなんですか?」

マック「そうですわね.........紅茶と、クッキーでしょうか.........」

桜木「ほんとかな〜〜?」

マック「.........ほ、本当ですわ。因みにトレーナーさんは何がお好きなのですか?」

桜木「俺?まぁ大抵の人間は身体に悪い物が好きだからね。俺もその類に漏れずだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「そう言えばトレーナーさん、今日は眠そうですが、大丈夫ですか?」

桜木「ああ、友人にゲームでずっと火山地帯を延々と走らされてね」

マック「?そうなんですか.........?」

桜木「そうだよ。帰ったらまず今日残した離乳食を顔面に叩きつけてやるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「特に仲良い子とか居る?」

マック「えぇと、トウカイテイオーさんですかね。クラスで良くちょっかいをかけられるので」

桜木「へー、トウカイテイオー.........かっちょいい名前してんな」

マック「気になりますか?」

桜木「ああ、正直名前がカッコいい奴は注目するな」

マック「そうなのですね.........」

桜木(マックイーンも十分カッケー名前だと思うけどな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........ありゃ、もうこんな時間か。人と話してて時間忘れるのなんて久しぶりだな」

 

 

 気付けば時計の短い針は真下を指し、窓から差し込む外の光は茜色へと変わって居ました。

 

 

マック「ええ、私も楽しませて頂きました。ありがとうございます。トレーナーさん」

 

 

 本当に楽しい時間でした。それももう、終わりを告げようとしています。陽が完全に落ちてしまえば彼は家に、私は寮に帰らなければなりません。

 

 

マック「.........あの、今回の事なのですが」

 

 

桜木「?」

 

 

マック「.........恐らく、私の食事制限が原因だと思うのです」

 

 

マック「えっと、あの.........私の体質なのですが.........少々、太りやすくて......」

 

 

 言っている内に、顔が熱くなっていくのが分かりました。うぅ、人に秘密を打ち明けるのがこんなにも恥ずかしい物だったなんて.........

 

 

桜木「そっか、確かに気になっちゃうもんだし、なかなか難しいよな。体力付けながら太らない食事って.........その、もし良かったら、献立とか見せてもらう事出来る?」

 

 

 彼は私の顔色を伺うようにそう言いました。私がそれを了承すると、メモとボールペンを渡してくださいました。

 普段から調子を安定させるために、特段変わったものを食べる事はしないようにしています。調子の波を作らないよう、食事も常に同じものを、一定の量で摂取していますので、それを事細かく書き記しました。

 

 

マック「.........どうでしょうか?身体を動かす為の栄養量は確保しているのですが.........」

 

 

桜木「......うん。確かに身体を動かすだけならいいんだけどね.........」

 

 

桜木「けど、それはやっぱり成人しきった競技者のデータだから、発育途中の場合は制限かけるのは本当は悪手なんだけど.........」

 

 

マック「うぅ.........」

 

 

桜木「.........まぁ、これから考えて行くしかないね。取り敢えず明日対策立てようか」

 

 

 そう言いながら、彼は椅子から立ち上がりました。時計を見ると、長い針も真下を指し、既に門限まで残りわずかとなってしまっていました。

 

 

マック「.........ありがとうございます。トレーナーさん」

 

 

桜木「いいのいいの、したくてしてるんだから。ほら、もう帰ろう」

 

 

マック「!ええ、そうですわね」

 

 

 使っていたベッドを整え直し、トレーナーさんが待っているドアまで急ぎました。頬にはやはり、若干の暖かさが帯びていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 

桜木「うっし、これでもうあの離乳食は捨てられるな」

 

 

 コンビニの自動ドアが俺の為に開いてくれる。なんて、昔流行った曲の歌詞と同じような事を思う。

 レジ袋に入っているのはレンチンのご飯。炊飯器に入っている離乳食の事を考えると頭が痛くなる。勿体ないが、これが先進国に生きる者の選択だ。

 

 

マック『ありがとうございます。トレーナーさん』

 

 

桜木「.........」

 

 

 コンビニの駐車場から一歩でた瞬間。マックイーンの顔を思い出す。もし、初めてトレーニングをした時に指摘出来れば、倒れる事なんて無かったのに.........

 俺は踵を返し、もう一度コンビニへと向かう。自動ドアの前を横切り、ゴミ箱を横切り、尻ポケットに入った物を取り出した。

 包装紙から一本、口に咥え、ライターで先端に火を付けた。久々に吸い込む煙の味は、決して美味しいものではなかった。

 社会人時代。好きでもない上司に勧められて始めた。両親が昔から吸ってたし、肺の方の心配もするだけ無駄だと思い、誘いに乗った。

 気付けば毎日の様に吸っていた。理由は簡単。気持ちの整理をするのに、調度良い時間なのだ。

 だから、別に肺に入れようが入れまいが、ニコチンが入っていようが入っていまいが関係無い。ただ火を付けて始まる事と、火を消して終わる事で、気持ちの整理を無理にでも付けさせる事が必要だった、そうでもしなければ、3年も働けなかった。

 

 

桜木「.........っすー......」

 

 

 口から煙が横に広がる。ニコチンのお陰か、心は大分軽くなった。これから、コイツに頼る回数が減る事を祈りながら、もう一度煙を吸ってから、まだ残っているタバコを灰皿ですり潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「ただいまー」

白銀「おう、お前あれ食ったか?」

桜木「食えるかバカが」

白銀「だよな」

桜木「あれ?炊飯器カラじゃん。残りはどうしたんだよ。お前が食ったのか?」

白銀「は?お前の弁当の分と捨てる分と分けてお前が起きる前に捨てたよ」

桜木「へ?じゃあお前わざわざ俺に離乳食を作ってたの黙ってたの?残り捨てたのに?」

白銀「だって勿体ないじゃん」

桜木「よーしもう怒った。明日学園に来い。お前にも参加してもらうからな」

白銀「え?」

 

 

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ……To be continued

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