山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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貴顕の使命を果たす為に

 

 

 

 

 

 春の風が駆ける季節。新学期を迎え、誰しもが駆け抜ける風と共に、自らの歩を進めていく。

 現在、京都競バ場の選手控え室。勝負服に着替え終えたマックイーンは、静かにその呼吸を整えていた。

 

 

桜木「.........ハハ」

 

 

全員「.........?」

 

 

 そんな静かな空間で、つい笑い声を上げてしまった。興奮を抑えきれない自分がいる。なぜ笑ってしまったのかは分からないが、そうなってしまった。

 

 

桜木「.........すまん、なんか抑えきれなくて.........」

 

 

沖野「.........まぁ、気にするな。笑えるのはレースが始まる前までだからな」

 

 

 観客席のざわめきが、こんなところにまで聞こえてくる。その全てではないにしろ、マックイーンのことも話題に上がっているはずだ。

 そのざわめきを糧に、心を落ち着かせていると、先程まで座って足をブラブラさせていたトウカイテイオーが隣に来ていた。

 

 

テイオー(大丈夫かな?マックイーン)

 

 

桜木(心配するな。お前だって乗り越えたんだ。マックイーンができないわけが無い)

 

 

テイオー(むっ、それってボクよりマックイーンの方が強いみたいじゃん!!)

 

 

桜木(そうだが???)

 

 

テイオー「フン!!!」ドスッ!!

 

 

桜木「カタパルトタートルッッ!!!」ドンガラガッシャーン!!!

 

 

タキオン「.........君は静かに出来ない病気なのかい?」

 

 

 そんな病気あってたまるか.........と言いたいところだが、実際のところ、静かにしろと言われて静かにできた試しがない。おかしいな、学校の授業は大人しく聞けてたのに.........

 と言うより俺は悪くないだろ。今の。テイオーの肘打ち(斬影拳スタイル)がウィークポイントにクリーンヒットしたんだ。仕方あるまい。

 

 

ウララ「シー!トレーナーうるさいよ!」

 

 

桜木「うっ、面目ない.........」

 

 

 ウララに怒られると泣きそうになる。普段より幾分か声のボリュームを下げ、人差し指を立てていた。

 よりにもよってこんな時に.........そう思い、はぁぁっと大きめなため息を漏らし、手でズボンの汚れをはらいながら立ち上がった。

 

 

ライス「だ、大丈夫?お兄さま.........」

 

 

ブルボン「外的損傷軽微。マスターの内部的損傷に関する申告を待機します」

 

 

桜木「大丈夫だ。強いて言うなら心が痛い.........」

 

 

テイオー「悪いのはサブトレーナーだからね!!!」フン!!

 

 

 頬を膨らませてそっぽを向くテイオー。仕方ないだろう。俺は本気で思ってるんだ。

 春の皐月賞。最も早いウマ娘が勝つと言われているレースで、テイオーは余裕綽々で一着をもぎ取り、その一本指を天高く掲げた。その姿は、その帝王の名に相応しいかった。この目にその姿は焼き付いている。

 スペやスズカと話している沖野さんの目は、あの時。探し求めていた何かを見つけたようにキラキラと輝いていた。多分、俺はあんな目、したことないと思う。

 

 

桜木「.........なぁマックイーン。終わったら何かしたい事とかあるか?」

 

 

マック「スケート」

 

 

桜木「出来ればそれ以外でお願いします.........」

 

 

マック「ふふ.........冗談です。今度また、みなさんでカラオケにでも行きませんか?」

 

 

 的確に弱点を突いてくるマックイーン。スケートの言葉を聞いてゴールドシップも少し嫌そうな顔を見せた。滑れたとしてもまだ苦手意識はあるらしい。裏切り者め。

 それにしても、カラオケと言えばあの桐生院さんとの付き合い以来だ。もう2年も前の話になるのか.........

 

 

桜木「.........そうだな。今度は、スピカ全員で行くのはどうだ?」

 

 

全員「行きたーい!!」

 

 

沖野「はは、騒がしくなるぞぉ。言ったからにはお前がまとめろよ?桜木」

 

 

桜木「うっ......急に胃が痛くなってきたぞ.........」

 

 

 背中を叩かれてまとめ役を促されるも、想像するだけで体調を崩しそうだ。そうだ、アイツらも呼ぼう。こうなったらできるだけ巻き込んで自爆してやる.........

 そんなことを思っていると、レース開始まで残り30分の放送が流れ、出場選手はターフへの移動を放送で言い渡される。

 

 

マック「.........ふぅ」

 

 

ゴルシ「お、もうそんな時間経ってたのか.........」

 

 

桜木「.........さぁ、行こう、マックイーン」

 

 

マック「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほのかな薄暗さが、嵐の前の静けさのように感じてしまう地下バ道。出口からは外の光が栄光のようにその存在を知らしめています。

 春の天皇賞.........この日のため、この日の為だけに、私は今まで走ってきたのです。その前のレースは言わば、全て通過点.........だと言うのに、その通ってきた道が、今や自信となって、私の背中を押してくれます。

 

 

マック「.........」

 

 

沖野(ヒソヒソ)

 

 

桜木(イヤイヤ)

 

 

 バシンッ!

 

 

桜木「アダッ!!?」

 

 

マック「ひゃ.........!?」

 

 

 何かを叩いたような音と、トレーナーさんの叫びを聞いて振り返ってみると、彼が体勢を崩してこちらへ数歩近寄ってきました。

 背中を擦りながら、彼はスピカのトレーナーである沖野さんに目を向けました。

 

 

マック「と、トレーナーさん.........?」

 

 

桜木「その、人に言われて言うんじゃ格好もつかないし、気持ちも伝わらないと思うんだけど.........」

 

 

マック「.........ふふ、格好をつける必要なんてありません。それに、私達は覚悟を決めたではありませんか、月明かりの下で.........」

 

 

 そう、月明かりの差し込む、青白い空間の保健室。あの日に決めた覚悟は『一心同体』になること.........伝わりきらない事など、あるはずがありません。

 そう思っていると、肩に手を.........彼の手が、肩に置かれました。予想もしていませんでしたので、小さく驚いてしまいました。

 

 

マック「え.........!?」

 

 

桜木「.........ごめん、俺が落ち着かないんだ」

 

 

マック「.........もう、大丈夫ですわ.........」

 

 

 両肩に置かれた彼の片方の手に触れ、ゆっくりと胸の前へ持ってきます。綺麗な見た目とは裏腹に、ちゃんと男性と言えるような硬さを持っている、彼の手.........

 人差し指、中指、薬指、小指、最後に親指をゆっくりと曲げ、彼の拳を包むように、私は両手を添えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ってきます。トレーナーさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一着で.........待っててください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも、レースの前に言ってくださる彼の言葉を、そのまま返します。彼の目を見ていると、次第にいつもの仮面が剥がれるのが、手に取るように分かります。

 照れくさそうに、私の掴んでない腕で顔を隠そうとする仕草は、少し可愛く見えてしまいました。

 

 

桜木「.........ありがとう、落ち着いた」

 

 

マック「これくらい、お易い御用です。良ければ次もして差し上げますが?」

 

 

桜木「次は無い。多分.........」

 

 

マック「あら、では次を期待しながら待ってますね♪」

 

 

桜木「うぐっ.........」

 

 

 あの様子では、またいつかありそうな気がしてなりません。私的には、可愛いトレーナーさんが見れて嬉しいので別に構いませんが.........

 

 

マック「では.........行って参ります。トレーナーさん」

 

 

桜木「ああ、一着で待ってる」

 

 

 仮面を外したトレーナーさんの優しい顔。前まではわからなかったのに、今ではこの顔が、彼の素顔だと分かります。以前、白銀さんがおっしゃっていた素のトレーナーさんだと、ようやく分かりました。

 勝ってみせます。メジロ家の貴顕の為にも、おばあ様の思い出の為にも、そして.........ここまでそばで支えてくださった、トレーナーさん達の為にも.........!!

 確かな光が差し込むその栄光、その出口に向かい、私はその歩を進めていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「はぁ.........」

 

 

沖野「どうした桜木?元気出せよ」

 

 

 観客席について、肺に溜まっていた嫌な空気を吐き出した。諸悪の根源はなんの悪びれも見せず、不思議そうな顔で見てきやがる。アンタのせいだぞ、アンタの。

 けれど、ため息を吐いた理由はまだある。

 

 

トマト「おー。もう天皇賞の季節かー。はえーなマジで。蹴っていいか?」

 

 

桜木「やめて下さい死んでしまいます」

 

 

ゴルシ「なんで居るんだよ母ちゃん」

 

 

トマト「いやなー。誰だっけ?めじょまっきーん?「メジロマックイーンです」そうそう、んでそのめじょがな.........」

 

 

 あ、この人覚える気ないな.........そう思いながら何故か居るゴールドシップの母親。トマトハイッテナイパスタ(偽名)さんを見た。相変わらずルックスは良い。ルックスは。

 

 

トマト「この前のレースですっかりファンになっちまってよ」

 

 

全員(だったら名前くらい覚えようよ.........)

 

 

 本人は楽しそうにしっぽを振ってレースが始まるのを待っている。こちらとしても、名前は覚えてもらって欲しいものだ。

 そんなことを思いながら、あと少しで始まるレースに思いを馳せていると、不意にズボンがした方向に引っ張られる感触を感じた。

 

 

桜木「ん.........?」

 

 

 その方向を見ると、小さい女の子が俺を見上げていて、その子と目が合った。その顔を見て、俺は心底驚いた。まさかこんなところで会うとは思ってもみなかったからだ。

 

 

キタ「あ.........!」

 

 

桜木「キタちゃん!!?」

 

 

テイオー「えぇぇ!!?」

 

 

 人の間をすり抜けるようにテイオーがここまでやってくる。俺の足元にいるのは確かに、二年前の夏祭りで迷子になっていたキタサンブラックだった。

 

 

キタ「お、お久しぶりです!!」

 

 

桜木「ハハハ!!大きくなったなぁ!!今日はちゃんとお父さん達と来たのか!?」

 

 

キタ「はい!!あと、ダイヤちゃんも来てます!!」

 

 

 ダイヤちゃん。たしか、マックイーンのファンだとキタちゃんが言っていた子だ。こうしてファンが居るということを知ると、マックイーンも人気になったんだなと嬉しく思う。

 そして、なぜだか分からないが、それと同時に、少し寂しく思った。

 

 

タキオン「もしもしポリスメン?」ピピピ

 

 

桜木「待て、断じて事案ではないぞ」

 

 

 スマホを耳に当て話し始めたアグネスタキオン。よく見るとスピカのほかのメンバーの顔も凄いことになってる。特にスカーレットなんてゴミムシを見るような目だ。

 何とか知り合いであることを弁解してみると、その場は収めることは出来た。まだまだスカーレットとウオッカの顔は疑い深かったが、ゴールドシップの耳打ちのお陰でホッと一安心していた。一体何を言ったんだ?

 

 

「キタちゃん!!先に行っちゃ.........あ!桜木さん!!」

 

 

桜木「あ!お久しぶりです!キタちゃんのお父さん!」

 

 

キタ父「この前の特番見ましたよ!!桜木さん居ませんでしたけど!!」

 

 

桜木「あ、アハハ.........あの時はちょうどエデンを探してたんですよね.........」

 

 

 そうだった。去年の年末の特番。ゴールドシップに騙されてマグロ漁船に乗せられたんだ。漁船の人に聞いたら頭おかしいのかって言われて笑った。俺もそう思うよ急にそんな事言われたら。

 そんな事を思い出していると、ふと下の方から視線が俺に集中しているのに気が付いた。

 

 

「あ.........えと」

 

 

 キタちゃんのお父さんの足元に居たのは鹿毛の、キタちゃんと同じくらいの背丈のウマ娘だった。

 もしかして、この子がキタちゃんの言っている、マックイーンのファンの子だろうか?

 

 

桜木「初めまして、おじちゃんはマックイーンのトレーナーをしてる桜木玲皇って.........」

 

 

「.........」ブワッ...

 

 

桜木「」

 

 

タキオン「...」ピピピピピピ!!!

 

 

桜木「いやその行動は至極真っ当!!!」

 

 

 しゃがみこみ、目線合わせて自己紹介をしていると、目の前の子は突然泣き出してしまった。スカーレットは養豚所の豚を見る目でこっちを見てくるし、タキオンはウマフォンで急いで通報しようとしてる。

 そんな中でもなんでゴールドシップとトマトさんは悠長にターフに目を向けてられるんだ???とにかくここは謝らなければ。

 

 

桜木「ごめん!!顔が怖かったか!?声が大きい!!?ハイエースで子供誘拐してそうな 雰囲気滲み出てた!!???」

 

 

トマト「いつも出てんだろ」ボソッ

 

 

桜木「あ?」

 

 

トマト「桜木くんは裏表のない素敵な人です」

 

 

 なんの悪びれる様子もなく、取り繕うようにそう言うトマトさん。いや、トマト。お前はトマトだ。これからそう呼ぶ。この人は俺の何を知ってるというのだ?今日会ったのも二回目だぞ?

 俺は無礼なトマトを睨みつけていると、またズボンの裾を下に引っ張られてしまう。その方を見ると、泣いている子の手を引っ張っているキタちゃんがいた。

 

 

キタ「ほら!ちゃんと言わないと!!」

 

 

「さ、サトノダイヤモンドです.........!」

 

 

ダイヤ「わ、わたし!マックイーンさんのファンで.........デビューから応援してて.........!」

 

 

ダイヤ「ご、ごめんなさい.........!!わたし、感動しちゃって.........!!」

 

 

 え?じゃあこの子、この年で感動して泣いちゃってるの?あ、やばい俺も泣きそう.........

 けれど、それでは大人として示しがつかない。非常に面倒なものだが、恥も外聞もなく泣けるのは、子供の特権なのだ。俺はもう一度、鹿毛のウマ娘。サトノダイヤモンドと目を合わせるためにしゃがんだ。

 

 

桜木「ありがとうな、ウチのマックイーンを応援してくれて。今日はあの子にとってめっっっちゃ大事なレースなんだ.........だから、かっこいい姿が見れるぞ!!」

 

 

ダイヤ「!!」

 

 

 今日のレース。彼女にとってはどんなレースよりも負ける訳には行かない。ならば必然的に、今までのどのレースよりも本気のマックイーンが見れるという事だ。それをいつも通り、ニカッと笑いながら言うと、ようやく目の前のダイヤちゃんは目を輝かせてくれた。

 その様子に、タキオンは呆れたように息を吐いたのが聞こえてくる。すごい目で見てきた他の子達も安心したようにその目をターフに向けだした。どうやらちゃんと誤解は解けたようだ。

 

 

テイオー「いいなーマックイーン!!ボクもこんな熱心なファンが居てくれたらなー.........」

 

 

キタ「あの!!」

 

 

テイオー「え?なにキタちゃん!」

 

 

キタ「この前の皐月賞!!私見ました!!」

 

 

テイオー「えええ!!!??ホントー!!???」

 

 

 少し離れたところでは、テイオーとキタちゃんがすごいヒートアップを見せ始めていた。どうやらキタちゃんもデビューからテイオーを追っていたらしい。

 キタちゃんがその熱を全てテイオー本人に伝えると、テイオーはその目に涙を貯め始めていた。

 

 

テイオー「うぅぅ、人に応援されるのってこんなに嬉しいんだね.........」ズビィ

 

 

桜木「だな.........」グスン

 

 

沖野「まだレース始まってねえぞお前ら.........」

 

 

 沖野さんに指摘されてようやく気づく。そうだった、まだマックイーンはゲートインすら済ましていないんだった。

 慌てて手すりの方まで出ると、まだまだ時間はあるそうで、俺はホッと一息ついた。

 

 

スズカ「それにしても.........3200メートル.........」

 

 

ウオッカ「めちゃくちゃ長いっすよね.........」

 

 

ダスカ「本当、マイルを走る私達にとっては未知の距離よね.........」

 

 

 そう言う三人の顔には、汗が滲んでいる。この中ではスカーレットが一番走れる方だが、やはり得意な距離では無い。

 栄光を掴むまでの距離は、途方もないほど遠く、菊花の栄光までの道のりより遥かに長い。だが、マックイーンは.........彼女は今日この日のために、努力を続けてきたんだ。

 

 

スペ「大丈夫です!!マックイーンさんはサブトレーナーさんのトレーニング!ずっと頑張ってきたんですから!!」

 

 

ウララ「そうだよ!!マックイーンちゃんもトレーナーもうがーってなって練習してたの!!ウララ知ってるもん!!!」

 

 

 そんな三人の心配を振り払うように、二人が自信満々にそう答えてくれた。他人がそう評価してくれると嬉しく感じる。

 そうだ。マックイーンがスランプに陥っても、この日の為にトレーニングのメニューを変えてこなかったんだ。彼女ならやれる。彼女なら.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の中で確かに存在する夢を、見せてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック「.........」

 

 

 ゲートインの最中でも、ウマ娘が入場を果たした時点で歓声が大きく盛り上がりを見せています。いえ、もしかするといつも通りかもしれません.........私の、この天皇賞に対する思いが、いささか体に強く現れている可能性があります。

 

 

 走るウマ娘の中には同じメジロのウマ娘。ライアンとパーマーがいらっしゃいます。ですが、勝ちを譲る訳には行きません。これは、私に託された使命なのです。天皇賞を取ってこいと仰せつかった私の.........!!

 

 

 閉ざされたゲートの中で、ゆっくりと息を吸い、重りを外すように全てを吐き出します。緊張が空回ることのないよう、しっかりと意識を持ちます。

 

 

マック(トレーナーさん............)

 

 

 何かに祈るでもなく、何かにすがるでも無く、その両手を合わせます。金色煌めく王冠は、菊花賞でもその輝きを確かにしました。

 それに頼るでもなく、願うのでもなく、私はただただそれに誓いを立てます。今日の日の為に、今日という運命の為に、彼と.........彼ら彼女らと切磋琢磨をしてきたのです。

 私はただ、走るだけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、貴顕の使命を果たす為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「.........っ」

 

 

 ファンファーレが止んだ。歓声も止んだ。聞こえてくるのは実況者と解説の声だけだ。心は静かな高鳴りを見せ、肌には汗がひたりと溢れてくる。あそこに立っている彼女は、この空気の中、どう過ごしているのだろう。

 

 

桜木(.........?何かに、祈っている.........?)

 

 

 いや、彼女の性格的に有り得ない。神に祈るより、神に誓うのが彼女だ。となれば、あれは何かに誓いを立てているのかもしれない。

 

 

桜木(.........そういうの、好きだよな)

 

 

 覚悟だの、誓いだの、生きるのに必死になってきた俺にとっては無縁のもので、触れたり関わったりした事など一度もなかった。強いて言うなら、アニメや漫画で好きになるキャラクターが、だいたいそんな事をのたうち回っていた気がする。

 けれど、今は違う。彼女と出会って、『一心同体』の覚悟をし、そして今、何かに誓う彼女を見て、俺は首にかけた王冠を握りしめている。

 彼女に釣られて、俺もいつの間にか好きになっていたのかもしれないな.........

 

 

桜木(俺も、全力を持って君を応援する.........!!)

 

 

 そう思いながら、王冠を握りしめると、その手の中にやはり、その煌めきを強く感じた。

 そしてそれと同時に、意識がようやく現実世界へと戻ってくる。数多の歓声が耳に入ってくるのに応じて、ようやくレースが始まるのだと理解した。

 

 

 ガコンッ!!

 

 

実況「今スタートしましたッ!!」

 

 

 飛び出していく無数のウマ娘。その中にいる黒い勝負服に袖を通したマックイーンを探す。

 四番手の位置で先行する彼女。その姿を、この目で認識した瞬間.........

 

 

桜木「ッッッ.........!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数多の歓声がフェードアウトしていき、実況と解説の声が頭に響いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それと同時に、重々しいくらいに響き渡るバイオリンの旋律が、おおよそ二年ぶりに、この耳に帰ってきた。

 

 

 

 

 

  ......To be continued

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