山あり谷ありウマ娘 〜気付いたら脱サラしてトレーナーになった話〜   作:ギノっち@カマタラル

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貴顕の使命を果たす時

 

 

 

 

実況「今スタートしましたッ!!」

 

 

桜木「っ!位置は良いぞ.........!!」

 

 

沖野「ああ......!!これなら何とか.........!」

 

 

 バイオリンの重々しい旋律の中、それをものともしないように4番手を走りゆくマックイーン。身体の動きも今まで以上に軽やかで、自然体で走っていることを見て感じる。ここに来て、彼女はひとつの壁を超えたということだ。

 

 

ゴルシ「先頭はパーマーか.........!!」

 

 

トマト「おー。やっぱ逃げてる奴がいると走りがいあるよなー」

 

 

 先頭を走るのはマックイーンと同じメジロ家の一人、メジロパーマーだ。常に頭を上げた状態で走る走法は、まるで人間が長距離走っているようにも見えてくる。だが、彼女ももちろんウマ娘。普通のそれとは訳が違う。

 

 

タキオン「.........ライアンくんは、どうやら少し後ろに着いてるらしい」

 

 

ブルボン「ですが、油断は出来ません。あそこから巻き返せる手筈はまだ残されています」

 

 

桜木(いくらマックイーンが好調でも、外的要因が侮れないか.........っ!)

 

 

 ポケットから取り出したシガレットを噛む。ターフを走るウマ娘の群勢。その三分間の内容で、彼女のこれまでが肯定されるのか、否定されるのか、それが酷く、心の負担になっていた。

 

 

ウララ「.........?トレーナー!!」

 

 

桜木「!?な、なんだ!!?」

 

 

ウララ「それタバコじゃないよ!!!」

 

 

桜木「.........げっ」

 

 

 そうウララに指を指され、その方向を見てみると、俺はどうやらココアシガレットにライターで火をつけようとしていた。

 焦りすぎだ。隣に居る沖野さんも苦笑いを浮かべてるじゃないか。

 

 

ダイヤ「マックイーンさん.........」

 

 

桜木「っ、大丈夫。マックイーンはこの程度じゃない.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『メジロマックイーン』は、伊達じゃない.........ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック(なんでしょう、この感触.........)

 

 

 レースを走っている最中。私は今まで感じたことの無い何かが、身体の中で生きている事を感じました。

 そして、それが身体の歯車を調整し、完璧な自然体走法を作り出していることも、何となく、理解することが出来ました。

 

 

マック(身体が軽い、それに.........その先も.........)

 

 

 まるで、ようやく身体が目覚めたような感触です。今日この日を持って、メジロマックイーンが生まれ落ちたのだと、 そう言われても過言ではありません。

 まるで翼が生えてきたような軽さで、地面を蹴ります。そして、まだまだ身体は余力を残しています。こんなこと、初めてです.........!!

 

 

マック(まるで、どこまでも飛んでいけそうな.........!!!)

 

 

 今まで感じてこなかった自信。そしてそれは、確かな翼へとなる。そう確信した私は、最終コーナーで貴顕の使命を果たすべく、この翼を最大限まで開こうと決意しました。

 最初の一周目。トレーナーさん達がいてくださっている客席の近くまで来ました。

 

 

マック「っ!ふふ.........!」

 

 

ウマ娘(えぇぇ!!?この子笑ってるーー!!???)

 

 

 もう!!なにしてるんですのあの人は!!?ココアシガレットに火をつけようとするなんて、焦りすぎですわ!!

 そんな心配はないと、すぐにでも伝えに行きたい。必ず勝ってくると言ったのだから、それを信じて欲しいです。

 .........そもそも私は行く前に言ったはずですよね?必ず勝つと、何故それを信じないんですの?普段はあんなに私達を信じきってると言っていいほど断言してますのに、レースになった途端これですか?

 

 

マック(少しムカッとしてきましたわ.........!)

 

 

 決めました。いえ、もともとそうするつもりではありましたが、ここで勝利をもぎとって、彼を問いただしましょう。

 そのためにも.........この四番手で内側というポジションをなんとしてでも死守しなくては.........!!

 

 

マック(皆さんに知らしめて差し上げます.........!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(この『メジロマックイーン』の名が、伊達ではないことを.........ッッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜木「っ.........!」

 

 

ライス「.........?お兄さま?」

 

 

 伝わってくる。ここに居ても、マックイーンの調子の良さがビンビンに肌に触れるように伝わってくる。目の前を走り去る彼女を見て、安心感を覚えるなんて、よっぽどだ。

 それを悟られないよう、組んだ腕の二の腕を握りしめたが、ライスを心配させてしまった。

 

 

桜木「.........大丈夫だ。ただ、楽しみが確かになっただけだ」

 

 

 春の天皇賞。春一番も吹き終えて、暖かな空気が眠気を誘う時期。そんなことなど露も気にさせないように、目の前のレースは身体の内側を一層熱くさせる。

 彼女は言った。必ず勝ってくると。それならばそれは絶対なのだ。有り得ない。一体俺は、彼女の何を信じて地下バ道から彼女を見送ったんだ。

 

 

テイオー「すごい.........!!ずっとあの位置キープしてるよ!!」

 

 

キタ「これなら!!きっと勝てますよね!!?」

 

 

 二人の熱視線がこちらを貫く。そう言ってやりたい。だが、いかんせんレースと言うのは何が起こるか分からない。嘘は吐きたくない性分だ。

 どう答えれば良いかと思い、沖野さんを見ると、呆れたように鼻で笑い、肩をすくめられた。答えなんて、とっくのとうに分かりきっているだろ、と言うように。

 

 

桜木「.........勝てるさ」

 

 

全員「!!」

 

 

 これで勝てなかったら、いつ勝てるんだ?目の前の彼女を信じず、俺は何を信じる?神に祈るのはお門違いだ。勝利をもたらすのはいつも、日々のトレーニングと彼女の足だけ。

 そのトレーニングと足を、ずっと見てきたのは俺自身だ。俺がその日々を信じないでどうする?疑ってどうする?

 

 

桜木(一心同体、だよな。マックイーン)

 

 

 首に掛けた王冠に手を伸ばす。何かに祈るでもなく、何かにすがるでも無く、その手の内に煌めく王冠を握る。この煌めきは確かに、今まで俺達を導いてきてくれた。

 それに頼るでもなく、願うのでもなく、俺はただそれに誓いを立てる。今日の日の為、今日という舞台の為に、この子達と.........マックイーンと1歩ずつ進んできた。

 彼女は必ず、一着を獲る。そしてこの胸がつかえるなにかの正体も、顕にしてくれる。その時、俺は絶対、逃げ出したりしない。

 

 

桜木(.........遅くなっちまったな)

 

 

 本来であれば、彼女が出走する前にするべきだった覚悟、その誓いだ。多分、終わったら怒られるだろうなと心で思いながら、俺はその行先をただ見守っていた。

 

 

実況「おーーーっと!!!ここでメジロライアンッッ!!!ペースを上げてきたァァァ!!!前を行くマックイーンとの差が徐々に縮まって来ていますっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マック(っ、やはり来ましたね.........!!ライアンッッ!!!)

 

 

ライアン(マックイーン!!菊花賞では負けたけど、天皇賞は譲らないよ!!!)

 

 

 見なくても分かります。ライアンの重苦しい圧が、私の背中にのしかかっているのを感じますから。彼女も、負けられないレースだと言うことです。

 

 

マック(ですがそれは.........!!私も同じことッッ!!!)

 

 

 何を背負っているのか、何を背負わされているのか、メジロとしての使命か、私自身の願いか、それは分かりません。ですが、この願いを叶えることで、喜ぶ人がいるのなら、私は走ります。

 コーナーは既に最終に差し掛かっています。思い描いたとおり、この四番手という位置、内側というポジションを奪われず死守できたのは、私の今のコンディションを見ても最高だと言っても過言ではありません。貴顕の使命を果たすべく、私は全力を尽くしますッッ!!!

 

 

マック(参ります.........ッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(お覚悟ッッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖野「コーナーに差し掛かるぞ!!!」

 

 

ダスカ「頑張れー!!!」

 

 

ウオッカ「負けんじゃねー!!!」

 

 

 向こう正面の直線から最終コーナーに行くまでの間に、歓声は三倍ほど大きくなる。そんな中でも声を出さず.........いや、俺は声を出せず、ただマックイーンの姿を見ていた。

 

 

 とても綺麗だった。その走る姿は、俺の心を掴んで、離そうとはしてくれない。トレーニングで見ているはずなのに、今日はなぜか、いつもと違った。

 

 

桜木「っっ.........!!!??」

 

 

 コーナーに差し掛かった。菊花賞と同じように、時が止まったように感じた。けれど、あの時とは全く違う。あの時より、時が止まって、彼女の髪の毛一本まで、毛先まで見えてしまうほどに長い。

 

 

 ここまで、とても長かった。けれど、思い出すのは一瞬だ。思い出巡りは綺麗で楽しいが、今のこの一瞬には到底適わない。目の前で走っている彼女に、全てを持ってかれている。

 

 

スズカ「すごい.........あそこから加速してる.........!」

 

 

スペ「ライアンさんとの距離!!開いてないですか!!?」

 

 

 ああ、綺麗だ。とても綺麗で、素敵で、清々しくて.........

 

 

実況「メジロマックイーンリードを1バ身!!2バ身と広げて行きます!!!」

 

 

ゴルシ「行っけェェェェッッ!!!マックイィィィィーンッッ!!!!!」

 

 

トマト「.........!」

 

 

 誰よりも早く走り抜け、誰よりも強い君の走りを見て、羨ましく思った。おこがましいだろ?俺はただの人間だ。それなのに、羨ましいと思ったんだ。

 こうして、夢の舞台に立って、夢の為に全力を尽くせるマックイーンを見て、心底羨ましいと思った。

 

 

 けど、それは俺も同じだった。

 

 

桜木「ッッ.........!!!!!」

 

 

実況「一着はメジロマックイーンッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、透明だった。だから今まで分からなかった。こうしてようやく目の当たりにして、その透明に色があることを知り、そしてそれは、透明よりも綺麗な輝きだった。

 見様見真似で塗りたくった色が、ようやく輝きを取り戻した。いや、前までとは比べ物にならないほど、全てが輝きを放っている。

 羨ましいなんて、すぐに霧散した。あそこは彼女が居るべき場所だ。そして、俺の居場所はここだ。わかった気がしていただけで、今ようやく、理解した。ここが俺の.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特等席だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖野「.........ほら、泣いてないで、手でも振り返してやれよ」

 

 

桜木「え.........?あ...」

 

 

 そう言われて、ようやく頬を伝う熱さに気が付いた。こんな泣き方したの、生まれて初めてだ。

 

 

ウララ「トレーナー!!!どこか痛いの!!?」

 

 

桜木「い、いやこれは.........」

 

 

タキオン「.........ウララくん、そっとしておこう。一番戸惑っているのは、彼自身だからね」

 

 

 ずいっと身体をこっちに寄せてくるウララ。タキオンはその肩を引き、優しい目でそう言った。今はその、なんでも分かりきったような口調がありがたかった。

 

 

ゴルシ「.........どうだ。ここが、アンタの特等席だ」

 

 

桜木「っ!ああ.........!!!!!最っっっ高の............!!!!!今まで見てきた中で一番の眺めだよ.........!!!!!」

 

 

 蛇口を閉め忘れた様な勢いだった涙が、そのゴールドシップの言葉のせいで、勢いをました濁流になる。

 手を振る彼女にも分かるよう、大きく手を挙げて振り返す。彼女は俺の様子を見て、呆れたように優しく微笑みながらも、その手を、少し大きく振り返してくれた。

 

 

桜木「なぁ.........!ゴールドシップ.........!!」

 

 

ゴルシ「.........?」

 

 

桜木「未来の話は.........!!面白かったか.........?」

 

 

ゴルシ「.........!!」

 

 

ゴルシ『だから未来の話はせめて面白くしてくれよ?アタシを楽しませるようにな!!!』

 

 

 彼女がそう言いながら、ニカッとした笑顔を見せて振り返ったあの日。約束した訳では無いが、ずっと心に残っていた。俺は果たして、こいつを楽しませられているのだろうか.........?

 

 

ゴルシ「.........足りねぇ、まだまだ足んねぇぞおっちゃん!!!マックイーンがこのレース三連覇するレベルじゃねーとなァッッ!!!」

 

 

桜木「ハハハッ!そいつぁ良いやッッ!!!」

 

 

トマト「おま!勝手なこと言うな!!!」

 

 

 どこまでも行ける。実際は限度があって出来ないかもしれないけど、俺がそう思える。それだけで十分だった。

 なぜか始まったトマトとゴールドシップの取っ組み合いを見ながら、俺は.........俺はこの特等席を、今後、誰にも渡さない事を一人、静かに決意した.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガヤガヤガヤガヤ.........」

 

 

マック「もう、ここまで聞こえてくるなんて、ご近所迷惑にも程がありますわ.........」

 

 

 外の風に当たりながら、私はそう呟きました。天皇賞という、私にとって人生の大きな節目を迎えた今日。皆さんはいつものチームルームでどんちゃん騒ぎをしていました。

 まるで、今日私が成し遂げた事を自分の事のように.........

 

 

マック(.........こうして、喜んでくださる方が居るなんて、あの時は想像も付きませんでした.........)

 

 

 あの時、選抜レースで走っていた時は、そんな人が居るなんて.........爺やと家の者はきっと喜んでくれると思っていましたが、あんなに大勢の人が、喜んでくれていたと思うと、嬉しくて仕方がありません。

 

 

マック(.........ここで、トレーナーさんと出会ったのですね)

 

 

 三年前。ええ、ちょうど。四月も三週ほど過ぎた時です。選抜レースで7着という、とても褒められるような着位でなかったにも関わらず、声をかけてくださった方が居ました。それがトレーナーさんです。

 

 

マック(.........トレーナーさん)

 

 

 頭の中で、こちらに振り返りながら笑う彼の姿を思い浮かべます。そんなことをしてしまえば、自分の胸は苦しくなる一方だと分かりきっているのに、それでも、どうしても考えてしまうのです。

 

 

「よう」

 

 

マック「ひゃあ!!?」

 

 

桜木「うお!?びっくりした.........」

 

 

マック「び、びびびっくりしたのはこちらの方ですわ!!」

 

 

 いきなり後ろから声をかけられたら誰でもびっくりするに決まってるではありませんか!!ま、ましてや貴方の事を考えていたのに.........!!

 そんなふうに悶々としていると、彼は隣に居てもいいかと私に聞きました。仕方ありません。ズルい人ではありますが、彼のおかげで今日の天皇賞を制覇したと言っても、過言ではありませんから。

 私がどうぞと言うと、彼はターフの上に腰を下ろしました。

 

 

マック「.........お疲れ様です。トレーナーさん」

 

 

桜木「え?俺よりマックイーンの方が疲れただろ」

 

 

マック「あら、あんなに沢山泣いたのにまだ元気なのですか?」

 

 

桜木「それは言わないお約束」

 

 

 恥ずかしそうに笑いながらも、その人差し指を口に当てる彼を見て、心臓が跳ね上がります。最初の印象からは分からないほど、彼はお茶目な方です。

 .........隣に、彼の隣にゆっくりと腰を下ろします。彼の体がピクリと反応を見せましたが、それ以上は何も言っては来ませんでした。

 

 

桜木「.........悪いな、静かに出来なくて」

 

 

マック「今更です。気にしないでください.........ですがまさか、ライアンやパーマーも呼んでパーティなんて、思っても見ませんでしたわ」

 

 

 ライブが終わったあと、トレーナーさんはお二人を私の友人だからという理由でお誘いしました。先程レースで敵だと言うことを認識していたのに、そう言われたら誰だって戸惑うに決まっています。

 ですが、トレーナーさんの人柄を知っているのか、ライアンは諦めた様子で、パーマーは面白そうだと言いながら快く参加を決めて下さいました。

 

 

マック「それと、一人見なれないウマ娘の方が.........」

 

 

桜木「ああ、ありゃゴールドシップの母さんだな。トマトハイッテナイパスタ」

 

 

マック「あっ、あの方が.........」

 

 

 以前名前だけ聞いて誰かと思いましたが、彼女の母親だと知ってなぜか納得してしまいました。いえ、失礼ではあるのですが.........

 ガヤガヤとした喧騒が響くチームルームですが、それは決して不愉快なものではなく、逆に、私の心を穏やかにしてくれます。こうして離れていても聞こえてくるそれに、身を預けます。

 

 

マック「.........白銀さん、お酒飲んでましたね」

 

 

桜木「まぁアイツはなんでも自分の事のように喜ぶからな。毎回祝い甲斐がある」

 

 

マック「黒津木先生も、普段より笑っていました」

 

 

桜木「あれはタキオンの笑い薬のせいじゃないか?」

 

 

マック「司書さん、うるさいのは嫌いかと思いましたが、嬉しそうでしたわ」

 

 

桜木「ああ見えて賑やかなのは大好きだからな。じゃなきゃ俺達と親友できないだろ?」

 

 

 確かに、トレーナーさん方とお友達でいるならば、そうでなければ厳しいかもしれません。テンションが高い彼らを見ていると、アレに付き合うのは相当至難の技です。

 

 

桜木「それにしても、今日は星が綺麗だな.........」

 

 

マック「ええ.........トレーナーさん?」

 

 

桜木「うん?」

 

 

マック「貴方はどれがレグルスか、分かりますか?」

 

 

桜木「え!!?」

 

 

 驚いた顔を見せたトレーナーさんは、指を星空の天井に向けて、あっちを見たり、こっちを見たりしました。大人としての尊厳を勝手にかけてるのでしょう。そんな彼が、可愛く見えてしまいます。

 そしてそれを、なんの知識も根拠もない中でさんざん悩んだ挙句、自信がなさそうに選び抜きました。

 

 

桜木「あ、あれ?」

 

 

マック「.........ふふ、あれはスピカです!」

 

 

桜木「何い!?く、くっそ〜.........」グヌヌ

 

 

マック「レグルスはあそこですわ。獅子座のちょうど胸の位置です」

 

 

 私が指を指してみせると、おーっと声を上げましたが、すぐに顔をしかめ、首を曲げました。どうやらどれにどう線を引けばいいのか、分からないのかも知れません。

 

 

マック「.........小さき王の意味を持つレグルス。トレーナーさんはなぜ。そんな名をチーム名に付けたのですか?」

 

 

桜木「え?俺の好きな漫画と被ったから?」

 

 

マック「な!!?そんな理由で付けたんですの!!???」

 

 

 思わず立ち上がってしまいます。その様子を見てトレーナーさんは笑いましたが、笑い事ではありません!!そんな理由で大切なチームの名前を付けるなんて言語道断です!!

 そう思い、いつも通り彼を叱り付けようとしました。しかし、それは彼の問いかけによって遮られます。

 

 

桜木「なぁマックイーン」

 

 

マック「.........なんですか?」

 

 

桜木「意味なんて、先に考えたら意味無いんだよ」

 

 

マック「.........?」

 

 

桜木「だって、中身なんて作るものじゃなくて、できるものなんだから。先に作ってたらそれは意味じゃなくて、単なる型なんだよ」

 

 

 最初は、また変な事を言っていると思いました。ですが、彼の言うことに理解を示してしまう自分も居ます。

 意味は作るものではなく、できるもの。それは最初からそうあるべきと決められてる訳ではなく。そうあると、ある時点で決めた時に意味になる。

 きっと、彼はそう言いたいのだと思います。本当、難しい言い回しが好きな人ですわ。

 そう思いながら、私はもう一度彼の隣に座りました。

 

 

マック「.........〜〜〜♪」

 

 

桜木「.........ご機嫌だな」

 

 

マック「ええ、メジロ家に私の盾が飾られるのです。トレーナーさんは機嫌はよくありませんの?」

 

 

桜木「もちろん良いに決まってるだろ?」

 

 

マック「ではなにか一曲歌ってください♪」

 

 

桜木「君、最近押しが強いね.........」

 

 

マック「でしたら、トレーナーさんの影響ですわね♪」

 

 

 今日はそういう気分なのです。私だって、 たまには誰かの歌をご褒美に聞きたい時もあります。それがたまたまトレーナーさんだっただけです。

 渋々と言った様子のトレーナーさんでしたが、声の調整をしているうちに、そんな雰囲気は無くなり、ゆっくりと歌いだしました。

 

 

桜木「.........自分勝手に、思い込んでー、裏目に出るーことー♪」

 

 

マック「まぁ.........!」

 

 

 以前、彼が好きだと言っていた曲を歌い始めました。あの日以来、私もこの曲をたまに聞いて、彼の事を思い出します。

 彼の優しい歌声を聴きながら、この三年間を振り返りました。

 

 

 私は一人で何でも出来る。そんな独りよがりな考えで節制し、体調を崩した時期もありました。

 

 

 けれど、トレーナーさんが現れてそれが間違っていた事に気付かされ、考えを改めました。あの日から、彼と共に歩んで行きたいと思ったことも、鮮明に覚えています。

 

 

 最初にあった時こそ、素敵な人だと思いました。けれど、蓋を開けてみれば、彼は普通とは違います。その癖、かっこいい時はかっこいいのです.........そんなの、ズルいではありませんか?けれど、彼に普通を求めることはしませんでした。

 

 

 もちろん、彼も人間で、間違いをすることもあります。彼の言葉に傷つけられ、涙を流したことも.........

 

 

 ですが、言葉にしなければ伝わりません。言葉にするのをおざなりにすれば、孤独をさまよう事になります。

 

 

「「.........ひとりじゃない〜♪」」

 

 

 それでも、私と彼は覚悟をしたのです。決して、二人で一人とは言えないレベルで彼と同じところはほとんどありませんが、だからこそ、隣に歩く彼の事を強く認識できます。

 .........そんな彼だからこそ、天皇賞が終わってしまった今では、貴方の事で頭がいっぱいになってしまいます。夢を無事、叶えることができた安心感のせいなのか、その場所を完全に彼に取られた気がしてしまいます。

 

 

 彼とならば、どんな困難も.........それこそ、道の途中で転んでしまったとしても、気兼ねなく手を伸ばせてしまいます。その時、きっと彼は泣きそうな顔をすると思いますので、すぐに立ち上がって強がりましょう。私は貴方の笑顔が好きですから。

 

 

 本当に、あの日の私に教えたらどう驚くでしょう?こうして彼と『一心同体』となり、天皇賞を制覇する事が出来るなんて.........きっと、空いた口も塞がらないと思います。

 

 

 不安も、焦りもありません。彼の隣にいるだけで、それらは全て霧散してしまいます。あの天皇賞の盾は、メジロの栄光を示すのと同時に、彼との勇気の証なのです。あの盾がある限り、これからも私の心に勇気を灯してくれる.........そう思いました。

 

 

マック「.........トレーナーさん」

 

 

桜木「ん?」

 

 

マック「あの、こ、これからも.........よろしくお願い致しますわ.........」

 

 

 改めて思っていた事を口に出そうとすると、凄く恥ずかしくなってしまいました。そんな私に、彼は優しく微笑みを返してくださるので、余計に頬の熱が高まります。

 

 

桜木「.........ああ、よろしく頼む」

 

 

マック「.........!!」

 

 

 彼はそう言いながら、ニカッとした笑顔を見せてくださいました。普段のあれとは違う、仮面を外した状態で.........

 月も満月のターフの上。私達はふたりぼっちのまま、夜の風に頬を撫でられながら、今はただこれからを考えず、今この時に思いを馳せました.........

 

 

マック(.........傍にいてくださいね。トレーナーさん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山あり谷ありウマ娘

 

 

第一部 夢追い人編 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5月26日

 

 

沖野「ここで勝てば.........テイオーも無敗の2冠目か.........!!」

 

 

スペ「もう!!はしゃぎすぎですよトレーナーさん!!」ガツガツムシャムシャ!!!

 

 

スズカ「スペちゃん。あなたは食べ過ぎよ.........」

 

 

マック「.........」

 

 

 東京優駿。日本ダービーとも呼ばれる。日本で一番大きいレースと言っても過言ではありません。ウマ娘にとって、一生に一度しか参加出来ないレース。私の夢であった天皇賞と違い、二度目はありません。

 

 

タキオン「元気がないね、何か心配事かい?」

 

 

マック「へ?い、いいえ.........ただ」

 

 

 私が、『その方』に視線を向けると、タキオンさんは納得したように頷きました。そんな私に、他の[スピカ:レグルス]のメンバーも集まってきます。

 

 

ブルボン「マックイーンさん。今は応援に集中しましょう」

 

 

ライス「そ、そうだよマックイーンさん!今は、テイオーさんを応援しなきゃ.........!!」

 

 

ウララ「あ!!!始まるみたいだよ!!!」

 

 

マック「.........!」

 

 

 それぞれ、一生に一度の晴れ舞台。その姿が見れるのは一度きり。全ての観客がその姿をその目に焼き付けようとして、必死に応援の声を上げます。

 まだスタートを切ってはいないと言うのに、歓声は既に、雌雄を決し、勝者を称えるほどの大きさになっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だと言うのに.........!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガコンッ!!!

 

 

実況「各バ一斉にスタートしました!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(貴方はどこに居ると言うんですの.........!!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男「.........」

 

 

ダスカ「ちょっと!!アンタも応援しなさいよ!!」

 

 

ウオッカ「そうだそうだ!!」

 

 

ゴルシ「.........」

 

 

 本来、彼が居るはずの場所を見て、どうしようもない憤りをぶつけました。その場所に立つ『あの男』は、物静かに、ただただ腕を組んで居るだけでした.........

 

 

 

 

 

  ......To be continued





これにて某所に投稿している分は終わりました!これからは同時並行して投稿していきます!!2足のわらじってやつですね!!!

あとついでに図々しいのですが、Twitterでゴールドシップに次回予告をさせております。次回がいつ来るのか気になる人はぜひ見に来てください!!

https://twitter.com/VpgEcYR2RfOxh2w?s=09
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